北九州市立大学

地域社会の持続可能性を創出する日常的な地域実践型大学教育システム

地域創生学群全体

 北九州市立大学地域創生学群の教育の特徴は、地域での実習を通じた実践的な活動がカリキュラムの柱に位置付けられていることである。各学生は入学後に15組ほどに分かれ「実習」を行うためのチームに「配属」される。そのチームで3年間にわたって、地域の方々と共に地域課題の解決に取り組んでいく。1年生から3年生でチームが構成されている為、3年生が指導役やマネジメントを行い、2年生はリーダー、1年生は現場での実践というように、役割分担をしつつ学生たちによる主体的、継続的な活動を担保している。活動は平均で週に30時間にも及び、休日や長期休暇も同様に活動する。

ESDプロモート実習

 地域創生学群の実習チームの一つである「ESDプロモート実習」は、北九州ESD協議会をカウンターパートとした上で、同協議会のサブコーディネーターとして活動する。この活動は、ESDやSDGsの市民への普及啓発が活動目的であり、その主な取組としては、毎月の関連イベントや講座を開催する「ツキイチの会」の企画・運営、環境関連イベントへの出展、同協議会広報誌への原稿執筆など多様である。

地域共生教育センター

 北九州市立大学に設置された地域活動センターである。平成31年3月現在、19のプロジェクトにおいて約400名が常時活動している。単位取得を目的としない多くの学生が活動に興味を示しており、ボランティア等情報への登録者は約2000名と全学生の1/3にものぼる。本活動の特徴は、センターの運営の多くを「学生運営スタッフ」が担っている点である。広報、研修企画実施、来客対応等そのタスクは多岐にわたり、50名程度の学生が常時センターの運営を担っている。

北九州まなびとESDステーション

 北九州市立大学で展開する地域課題解決に資する地域実践活動を他大学学生にまで拡大する目的で、平成24年度の文部科学省大学間共同教育推進事業の採択を受けて、北九州市の中心市街地商店街内にキャンパスを設置した。市内10大学の学生たちが約20チームに分かれた上で、500名程が活動を展開した。その活動目的は様々であるが、いずれも地域課題の解決に学生たちが取り組むものであり、地域の持続可能性を担保することの一翼を担っている。なお、事業期間終了後は北九州市がその運営を継続している。

副専攻環境ESDプログラム

 北九州市立大学の副専攻プログラムとして、平成25年にスタートした。演習などの必修科目に加え「いのちと自然」「きずなと社会」「くらしと環境」といった各領域にわたる科目を履修し、履修修了者には修了証が授与される。科目履修の仕組みが複雑であったことなどから、当初は登録人数が定員に満たなかったが、カリキュラムや履修システムの改善を図ることによって、平成29年度からは定員を満たしている。更なる充実を図るために、平成31年度よりカリキュラムを刷新する予定である。

SDGs社内リーダー育成研修

 平成30年度にスタートした取組であり、SDGsの企業への浸透、特に中小企業への浸透を目的に企画された。北九州市は環境モデル都市として国内、国外から高い評価を受けており、環境関連産業が集積している都市でもある。一方で、旧来型の製鉄産業の下請けから脱皮できない企業も多い。北九州市の多くの中小企業がSDGsを掲げることで、多くのビジネスチャンスを見出すことが可能となるだけでなく、SDGs企業の集積により投資や人材の流入を促進することが可能となると考える。有料研修にもかかわらず18名が受講し、月1回の頻度で8回開催した。前半はSDGsを社内で促進するためのリーダーシップや技術を学ぶ。後半は、大学生と一緒にSDGsに関して何ができるかを考えて実践に向けた計画を立案した。

キャンパスSDGsプロジェクト

 北九州市立大学内でSDGsを浸透させていくために平成30年度に実施した。教職員学生がチームを組み、学内に存在するSDGsに資する取組を取材した上で記事を執筆し、大学WEBサイトに掲載するプロジェクトである。約40名が参加し、SDGsに関するレクチャーやカードゲームを通じてSDGsについて学んだ後、チームに分かれて取材に取り組んだ。平成31年度は30の取組が掲載された。

期待される成果

学生の汎用的能力や各種技術の獲得

 地域の方々と共に日常的に実践活動を展開することで、主体性や積極性、課題解決能力などの汎用的能力が身につく。また、対人支援技術やプロジェクトマネジメント、チームビルディング、企画書作成など、将来仕事を進めていく上で必要となる技術を獲得することができる。各種外部アセスメントの結果からも、明確に学生たちの成長が確認できる結果となっている。なお、地域創生学群は開設以来6期連続で就職決定率100%を誇っている。

「アクティブ・ラーニング」など新しい大学教育への視座獲得

 地域での実践的な教育は、学生の主体性をいかに引き出し継続するかが非常に重要であり、教員の関与は最低限に留めなければならない。そのような場の設定、地域との関係性の構築、様々な「アクティブ・ラーニング」手法の開発など、新たな大学教育の手法への様々な視座を獲得することができる。

地域の正式な担い手としての大学生の発見

 本学の取組は、大学生をお客様扱いせず、地域づくりの正式な「担い手」として明確に位置づけるものである。地域全体で大学生を育てていくことが、地域の持続性を担保することに大きく寄与するということを、地域全体で実感し、共有している。

地域における大学のプレゼンス向上

 これまで、地域の大学はシンクタンクとしての役割を中心的に担っていたものと考えるが、本学は北九州市における「DOタンク」としての役割を果たしている。高所、専門的見地から地域課題を捉えるのではなく、大学生と地域の方々が共に様々な活動を通じて、汗をかきながら地域課題の解決に取り組むことが、地域における持続可能性を高めるだろう。

今後の課題

多様な協働案件をどう捌いていくか

 大学生が地域において正式な担い手として位置づけられてきた為に、多くの地域ステークホルダーの皆様から「大学生と一緒に活動したい」という声が寄せられるようになった。公立大学としてそのような声に耳を傾け、協働の機会を確保することが肝要であると考えるものの、限られた教員、その他限られたリソースを理由に十全な協働機会の確保が難しい状況である。

リスクマネジメントは永遠の課題

 数多くの学生が日常的に地域で活動するため、様々なリスクが内包されていることは言うまでもない。事前対策を図り過ぎると「生の」地域現場ではなくなる可能性もあり、学生の活動も限定的になる。いかに地域の日常を体験する中でリスクを低減させるかは大きな課題である。

アウトカム設定と測定をどうするか

 何が成果なのかを数値で表すことが非常に難しい。地域の方の笑顔が増えたということを代替するアンケート項目で測定することができるだろうか。これら大学が総合的に取り組んでいる活動について、総合的にその成果を確認するのは至難の業である。

企業・市民へのSDGs浸透

 ESDやSDGsは企業や市民に対して浸透させることが非常に難しい。既に企業や市民によるSDGsに資する取組は行っているものの、それが「SDGs」として捉えられているかというと必ずしもそうではないと考える。今後、どのようにして企業・市民に浸透させていくかについては臨機応変に対応したい。

お問合せ先

文部科学省国際統括官付