本校では2010年以来、全校体制でESDを中心とした教育を進めてきたが、それはSDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」の取組としても価値ある実践であり、SDGsで示される全ての項目を小学校教育の6年間で無理なく展開できることや、そこに大きな教育的価値のあること等を実践的に証明してきた。また、ユネスコスクール等のネットワークを通じて国内外の関係者に働きかけ、ESDを中心にSDGsを推進してきた。これらに対して、政府のSDGs円卓会議より、第1回ジャパンSDGsアワード特別賞が授与されたのである。
具体的には以下の6点が主な取組である。
SDGsで重視する「だれ一人取り残さない」教育を目指して、校内の指導観に「到達目標型」だけでなく「方向目標型」(図1)を加え、全職員が共有することで、子どもの主体性を重視した教育への基盤を整えている。つまり、画一的な成果を求めるのでなく、単元の目標を実現する方向に児童を向かわせる中で、一人ひとりの問題意識のもち方や解決に向けた取り組み方の工夫、成果のまとめ方や気づきのあり方、協力の進め方など、多様な視点から成長ぶりをとらえ、それを相互に認め合い、学び合う学習スタイルを定着させるのである。そして、このような実践が誰もが安心して学び合う温かな学校づくりにつながり、先行学習経験のある児童が、自分にとって既習の課題に対する取組に苦しむ児童を軽視したり、限られた時間内で達成できない児童が劣等感に苦しんだりする必要もなくなり、互いが信頼し安心できる場の醸成につながるのである。そして職員自身も、互いに良さも欠点もあるのが人間であることを前提として、「考え方が違うのは善いこと」「時間はかかっても人は必ず成長するもの」と捉え、多様な視点から意見を交換し合い、認め合い、方向性を持った努力を尊重し合える職場づくりを心掛けている。このこと抜きにしてESDやSDGsを、あるいは教育を語るべきでないと考える。
持続可能な世界の実現に向けて「環境・人権・文化理解」という3つの視点から「教科等横断的なカリキュラム・マネジメント」を工夫することにより、各学年における「ESDカレンダー」と年間指導計画(図2~3)を作成し、校内研究を通じて8年間にわたり実践的に教育活動の改善・充実を図ってきた。これは、先述した観点から各教科・領域に散在する学習内容を総合的な学習の時間を中心につなぐことで学びを構造化し、体験的な活動、外部人材とのふれあいや対話等を通じて思考力・判断力・表現力・実践力を養い、より深い学びを実現しようとするものである。
「環境・人権・文化理解」に関する単元名をそれぞれ色分けし、関連付けて指導できるもの同士を線で結ぶことで、教科等を越えた横断的な学習の流れのイメージマップができる。「インタビューの仕方」や「グラフによる情報処理のしかた」など、活用できる学習スキルの単元もつないでおく。そのようにしてできた総合的な学習の単元をどのようなねらいで、何時間かけて、どのような学習過程で、どのような地域人材や関係機関と連携しながら指導するかを明らかにしておくと、年度が替わり指導者が変わっても、カリキュラムを発展的に継続させることが可能になるのである。
カリキュラム・マネジメントされた単元の学び方として「主体的・対話的な学習指導」の視点から、「子どもの学びに火をつける」指導法(図4)の開発にも取り組んできた。
それは【学びに火をつける、調べる、まとめる・実行する、伝え合う】という問題解決的な学習過程の工夫である。
社会の加速度的な変化やグローバル化が進む世界では、個々人の問題解決能力なくして、未知の課題に向き合い、よりよい解決に向けて協働しあうことは不可能であり、問題解決能力は問題解決的な学習過程を抜きには育成できないと考えられており、明治以来150年続いた「学力向上」を唱える教え込みの教育からの脱却が求められている。
学校教育においてもそれ以外の主体においても、「学びに火をつける」問題解決な学習過程の工夫と、その基盤となる方向目標型指導観を踏まえた「だれ一人取り残さない」温かで対等な人間関係の構築こそが、「正解のない難問が続出する時代に突破口を見出せる人材」の育成において最も有効な手立てであり、重要な課題だと考える。
本校の教育実践の中から、主な取組の単元名や実施学年を表に位置づけ「八名川小学校・SDGs実践計画表」(図5)がまとめられている。
この実践計画表は、「環境・人権・文化理解」というESDカレンダーづくりの視点から16の課題を3つのグループにまとめ、全体をSDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」(ESD)が包括する構造になっている。
このような取組例を参考にすることにより、6年間の小学校教育全体を通じて、SDGsの内容を意図的・計画的・効果的に学び進めることができるのである。また、同様な視点から中学校や高等学校、あるいは大学等の教育におけるカリキュラム・マネジメントをも進めることができるものと考えられる。
全校の児童は、1~2月に行われる「八名川まつり」に毎年参加することで、自分たちのSDGsに関する取組を振り返り、そこで学んだこと、実践したこと、そこから考え・感じていること等をまとめ、プレゼンテーションを行うことにより、学年の違いを越えて相互に学びあい、高め合っている。また同時に、地域や保護者などの様々な来校者に向けた発信にも取り組んでいる。子どもの活動には、家庭や地域を変えていく力もあるものと考えている。
また、年間行事予定の中にこのような発表の場を設けておくことが学校全体のESDやSDGsを推進するためのヒドゥン・カリキュラムとなっている。児童は先輩学年の発表を見たり聞いたりしながら毎年成長していく。児童も教師も無意識に「前年度の取組をいかに超えていくか」を感じながら学び続けていくのである。
本校では日常的に地域や保護者に開かれた学校であるだけでなく、毎月の校内研究会や児童による「八名川まつり」を広く公開するとともに、日本全国の教員・研究者・教育行政・政治家・NGO等、関係機関の方々が集い、互いに実践や知見を交流しあう学びの場である「ESDパワーアップ交流会」を同日に開催してきた。また、ホームページの充実を図り、2010年以来のESDカレンダーや単元の指導計画・指導案等の研究成果を公開し、ESDやそれを踏まえたSDGsの発展に寄与できるよう心掛けている。
教育実践とその発信や成果を第1回ジャパンSDGsアワードの特別賞として表彰していただいた。その受賞校として、今後のSDGs推進に果たすべき大きな責任を感じている。SDGsの本格的な展開に向けて、行政や企業、関係機関等との連携・協働も重要と考えている。
また、学習指導要領に示された「持続可能な社会の創り手」の育成という、学校教育における大きな課題の解決に向けて、ユネスコスクールやサスティナブル・スクール等の一員として、力を発揮していかなくてはならないとも考える。
更に、持続可能な世界の実現は一校、一国だけで実現できる課題ではない。世界への発信と協力体制づくりにも協力していく覚悟である。
文部科学省国際統括官付