本学は「人間力を有する高度ICT人材の育成」を教育目的として、社会の課題を解決できる探究型ICT人材を輩出しており、特に2013年に開設されたICTイノベータコースはICTD(Information and Communication Technologies for Development/情報通信技術を生かした社会開発)をテーマとし、アフリカをはじめとする開発途上国からの学生が集って、自身の出身国の社会課題の解決をめざして学んでいる。2019年4月時点では、世界24か国51名の学生が在籍する国内でも稀に見る多様化した状況となっている。
本学の教育の核となっている独自の「探究実践」は、1.社会における「課題」を発見する、2.自らの「強み」を発見し、磨き続ける、3.現場で課題解決を「実践」する、の三点を主要な要素として体系的な思考や分析能力、コミュニケーション能力を身につけさせるものであり、学生たちはまず、「探究実践」力を身につけ、多様な学生相互の触発を受けながら、研究活動の中で課題に取り組んでいる。このような課題への取組における本学の大きな特徴は、地元企業を中心としたPBL (Project‐Based Learning)により、実際の社会課題に取り組んでいることにある。2019年4月時点で、企業1社と学生3人が参画している1件と、NPO法人と行政が参画している2件が進行中となっている。
このように、アフリカを中心とする多数の留学生(その大半は文科省やJICAの奨学生)が集う状況は、地域の活性化をめざす地元自治体などからも高い関心を呼んでいる。特に神戸市では、「神戸創生戦略」の施策として‘アフリカなど成長市場との経済交流’を掲げており、具体的には、
「アフリカなど成長著しい地域との経済交流に取り組むことで、神戸経済の新たな成長機会の創出を目指します。特に、IT 分野等でビジネスチャンスが期待できるルワンダ共和国と神戸との経済交流を実施し、両国の企業間での新たなビジネスの創出を図ります。」
と謳っている。こうした取組は本学とも密接に関わっており、神戸市と本学との共同によるJICA草の根技術協力「キガリを中心とした若手ICT人材育成事業」の実施をはじめとしたルワンダとの具体的な有効と連携の成果が認められ、2019年1月にルワンダ政府と日本政府の最高責任者から高い評価と感謝が表明された。また、本学修了生が神戸市職員の「日本‐アフリカ リエゾンオフィサー」として雇用され活躍するなどその協力関係は多方面に及んでいる。
日本において多様で実践的な教育を受けた海外からの留学生は、2015年の第1期生輩出からわずか数年ではあるが、既に母国で幅広く活躍を始めている。特に、「探究実践」を核とした問題解決手法を修了生が核となって自国において広く展開する例は、本学のめざす“オーナーシップに基づいた課題解決”を実現するものとして、今後さらに展開を進めていきたい。
ICTは既存のインフラの有無に左右されず、飛躍的な発展を実現することができる産業基盤であるところ、本学の取組の目標は、イノベーティブな思考とICTの活用力を持つ「探究型ICT人材」を育成する実践的な教育を現地諸機関と協力しながら広く展開することにより、開発途上国におけるICTを中心とした(活用した)産業を育成し、それによる自律的な雇用を増加させることである。さらには、地元自治体はじめ国内の諸機関(JICA、JETRO等)、地元企業などと共同で取り組むことにより、対象国に発生した成長へのエネルギーを日本に還流させ、日本全体と地域(兵庫、神戸)の活性化をめざしている。
現在は、特にアフリカ・ルワンダを対象として実施しているが、ここでロールモデルを完成させた上で、他のアフリカ諸国やアジア諸国などへの展開をめざしており、本取組を通じて、世界に開かれた新しい大学像を確立したいと考えている。
本学の取組は非常にユニークであると考えられるものであり、今後大学の枠を超えた活動が必要となる場合も想定される中、そうした活動を資金や人材面で本学がどう自立的に行えるかが大きな課題となる。これに関しては、幅広い団体・企業の参画により対応するとともに、収益事業化などによる対応も検討している。
また、開発途上国の学生に比較して、国内学生の本取組に対する関心の低さも大きな課題であり、本取組の中心となるICTイノベータ―コースの在籍者における国内学生の比率を高めることにより、日本の将来的な発展に対して寄与する体制を確立したい。
文部科学省国際統括官付