資料1 国内外のIHP関係活動に関する報告

1.第38回ユネスコ総会

   2年に1度開催されるユネスコの最高意思決定機関であるユネスコ総会が、2017年10月30日~11月14日にかけてパリのユネスコ本部で開催された。IHPに関係するトピックとしては以下の通り。

(1)39C/5における水科学に独立した主要項目(MLA)の追加について

 現在の事業予算案(39C/5)において、IHPに代表される水科学分野の事業が主要項目(Main Line of Action: MLA)ではなく、より下位の達成目標(Expected Results: ER)となっていることを受け、水の安全保障についてMLAに追加する内容の修正案を認める決議案が採択された。
(2)IHP政府間理事国選挙
我が国のIHP理事国としての任期が本総会で切れることから、立候補の意思を表明していたところ、当選が実現した。我が国が所属するGroup4(アジア・太平洋地域)からは他に、イラン、韓国、スリランカが選出された。任期は第40回総会(2021年)まで。

2.IHP関連国際会議

(1)第25回IHP東南アジア太平洋地域運営委員会(RSC)
ユネスコジャカルタ事務所に日本が拠出している信託基金により、我が国はIHP-RSC-SEAP(Regional Steering Committee for IHP in Southeast Asia and the Pacific※)の開催を支援し、同地域のIHPネットワークの強化に貢献している。平成29年11月13日~16日、フィリピンのマニラで第25回IHP東南アジア太平洋地域運営委員会(RSC)が開催された。本委員会は、立川 康人 日本ユネスコ国内委員会委員・IHP分科会主査が事務局長を務めている。
本委員会には東南アジア各国のIHP代表、ユネスコジャカルタ事務所、ユネスコカテゴリーIIセンター(ICHARM(日本)、HTC(マレーシア)、APCE(インドネシア)、i-WSSM(韓国))の出席があり、オブザーバーとしてインド、パキスタン、Global Runoff Data Centre(ドイツ)の参加があった。各国のIHP活動の取組状況が報告されるとともに、ユネスコセンターの活動報告、Catalogue of Hydrological Analysis作成のための具体的なテーマ設定などの議論が活発に行われた。特に、RSCの対象領域を東南アジア・太平洋域からアジア・太平洋域に拡大することが提案され、全員一致で採択された。これに合わせて、会の名称も「アジア・太平洋地域運営委員会」となった。
※Regional Steering Committee for Asia and the Pacific(アジア太平洋地域・運営委員会):
地域レベルでのIHP事業の協力の推進と調整を目的として、1993年から地域運営委員会の会合を
毎年開催している。年次会合において、IHP活動に関する様々な報告、評価、見直しなどが行われるほか、新しい事業の企画も行われる。主要な活動としては、APFRIENDプロジェクト(アジア太平洋地域の洪水関係のネットワークデータ構築)、河川カタログ(Catalogue of Hydrologic Analysis」作成などのプロジェクトなどがある。
○Catalogue of Hydrologic Analysisについて
リバーカタログの後継プログラムとして、地域の防災・減災、水環境の保全に有用なデータ解析ツールや地域の経験を集積し、カタログ形式で誰もが参照できるように収録する国際共同プログラムを、アジア・太平洋域のIHP-RSC参加国で実施する。具体的には水災害(予警報、ハザードマップ)、水資源(渇水対策、地下水利用)、エコ水文学(水質、水環境保全)をテーマとし、各国で得意はテーマを選択して、あるフォーマットに従ってドキュメントを作成してもらう。スケジュールは以下を予定しており、11月3日のCHAタスクフォースで詳細を決定して11月4日にRSCで最終決定したい。
・2018年11月RSC テーマごとに担当国を決定
・2019年11月RSC 原稿提出。タスクフォースで設定する編集委員会を組織して編集を開始し、次のRSCまでにRSCホームページおよびIHP-WINSにアップロードする。
このローテーションを毎年繰り返し、10年間実施して、アジア・太平洋域の知見を取りまとめSDGsへの貢献とする。
 (2)第26回IHPアジア太平洋地域運営委員会及び第8回 Global FRIEND-Water Conference
次回のIHP-RSCは平成30年11月3日~5日にわたって中国の上海で開催される予定。また、直後の11月6日~9日にかけて、第8回 Global FRIEND-Water Conferenceが中国の北京で開催される予定。なお、8月29日30日に南京の河海大学でRSC実施およびCHA打ち合わせを目的とする事前会合を予定している。参加者は中国IHP副議長 河海大学YU教授、RSC議長Ignasius Sutapa氏、立川、ユネスコジャカルタ事務所の予定。
(3)第56回IHPビューロー会合
平成30年2月20~22日、ユネスコ本部にて、第56回IHPビューロー会合が開催された。我が国からは、立川 康人IHP分科会主査(IHP政府間理事会副議長(リージョン4))が出席した。
会議では、IHP政府間理事会規定及び手続き規則の改訂、IHP第8期計画(IHP-VIII)の事業の評価、IHP第9期計画(IHP-IX)に向けた取組、水関係カテゴリー2センターの活動状況、SDG6の実施とモニタリング等について議論が交わされた。

3.国内のIHP関連活動等

(1)第27回IHPトレーニングコース
2017年12月4日から15日の2週間にわたり第27回ユネスコIHPトレーニングコースが京都大学防災研究所で行われた。今回は、気候変動下における統合流域管理(Integrated Basin Management under Changing Climate)というテーマの下、1)気候変動が流域の水資源、水災害、生態系サービスへ与える影響についての知識を身に付けること、2)演習を通じて流域スケール降雨-流出-氾濫解析の具体的な手順を習得すること、3)真に持続可能な社会を築くための統合的流域管理のあり方を考察することを目的とした。参加者はインドネシア、エジプト、オマーン、カンボジア、ソロモン諸島、中国、日本、パキスタン、ブルガリア、ベトナム、ミャンマー、モンゴルの12カ国17名であった。このうち、ソロモン諸島とモンゴルのそれぞれ1名ずつはユネスコジャカルタ事務所予算での派遣であった。
研修プログラムは、2つの基調講演、8項目の講義、5項目の室内演習、2項目の野外実習、現地視察から構成され、水災害リスクマネジメントに関する幅広い分野を網羅するものとなるよう努めた。基調講演では、寳馨教授から「気候変動下において回復力のある社会への発展」と題する講義を、中北英一教授からは「気候変動が災害環境に及ぼす影響評価」と題して講義を行って頂いた。第1週には、流域スケール降雨-流出-氾濫解析および地理・気象情報のデータ処理法の具体的な手順を習得できるよう関連する講義および演習を集中的に実施し、研修終了までに研修生の解析対象流域の初歩的な解析ができるよう配慮した。また、第2週には、貯水池システムの運用と管理を中心に水資源・防災・生態系サービスの持続的利用のための調査研究手法を解説した上で、宇治川と木津川で河床環境の現状評価手法の野外実習と治水ダム操作の室内実験を行った。現地視察では、天ケ瀬ダム、南郷洗堰および琵琶湖博物館を訪問し、琵琶湖・淀川流域の河川環境の現状を見聞するとともに上下流問題などについての知見を深めた。
受講生は、講義・演習においては積極的に質疑を行うなど、終始熱心に取り組んだ。本研修コースは、持続可能な社会を築くための統合的流域管理のために必要な知識や技術の学びの場となると同時に、受講生同士や講師・受講生間の交流を深める貴重な機会にもなった。受講生の作成したレポートからは、本研修コースで得られた知識や経験を各国における実務やこれからのキャリアに活かそうという決意が示されていた。
 (2)京都大学のユネスコチェア登録
水関連の分野において、これまでの専門分野の枠を超えた学際的な知識と俯瞰的な視野を持ち、国際的な枠組みで活躍する人材を育成することが重要との認識の下、京都大学を中心とする研究教育機関で「水・エネルギー・災害研究に関するユネスコチェア KUC-WENDI」を平成29年4月にユネスコ本部に申請し、申請が認められた。
今後、分野の垣根を越えた新たな学際的・系統的な水関連の大学院教育カリキュラムを確立し人材を育成するとともに、社会や地域、行政機関と研究機関との橋渡しや国際的な連携の役割を担うこととなる。平成30年2月13日にユネスコIHP政府間理事会議長のアンドラス・ソロジ-ナギ氏、ユネスコ水科学部長ブランカ・ヒメネス-シネスロス氏を京都大学にお招きし、京大山極総長ご参加のもとで寶教授の進行によりユネスコチェア協定締結式が開催された。7月30日にはキックオフシンポジウムが開催される予定である。

4.水分野における国際的な動きについて

(1)ブタペスト水サミット
     世界の水と衛生に関する問題の解決に向けてハンガリー政府が各国・各国際機関の水担当幹部等を招聘し、議論を行う場として2016年11月28~30日に開催された。小池 ICHARM センター長が出席した本会議では政策提言がとりまとめられ、水の国際文書として初めて「気候と災害」の項が設けられた。
(2)第3回水と災害に関する特別会合
 近年の世界的な洪水被害の頻発等による水と災害に関する意識の高まりを背景として、国連等において水と災害をテーマにした会議が開催されている。2017年(平成29年)7月には国連防災と水に関する事務総長特使と水と災害ハイレベル・パネル(HELP)の主催、水に関するハイレベル・パネル(HLPW)の共催により、第3回会合が開催され、各国の元首・閣僚、国連機関の高官、学術関係者等が参加した。水関連災害に関する国際的な意識の高揚、経験や知見の共有、各国の対策を前進させるための国際社会の取組が議論され、日本からは皇太子殿下のビデオ基調講演、二階自民党幹事長の基調講演が実施された。また、森技監のスピーチでは、水防災意識社会を例に挙げた政府による防災対策の必要性、予防防災投資の重要性、国連「水の行動の10年(平成30~40年)」における特別会合の継続開催が提案された。
(3)第3回アジア・太平洋水サミット
「アジア・太平洋水サミット」第3回会合は2017年(平成29年)12月にミャンマーのヤンゴン市で開催された。石井国土交通大臣は、オープニングセレモニーの他、水と災害、水循環、下水道に関する3つのテーマ別セッションでスピーチを行い、我が国の水問題に対処してきた経験を各国に伝え、日本の存在感を示すとともに、インフラシステム海外展開に貢献するため、水問題解決の我が国の技術をアピールした。本会合の成果として、「ヤンゴン宣言」が取りまとめられ、持続可能な開発のための水の安全保障についての道筋が示された。この宣言には、我が国が発信した健全な水循環の重要性等が盛り込まれた。
(4)第8回世界水フォーラム
      2018年3月18~23日に、ブラジル・ブラジリアにおいて、世界水フォーラムが開催された。世界水フォーラムは、3年に一度、世界中の水関係者が一堂に会し、地球上の水問題解決に向けた議論や展示などが行われる世界最大級の国際会議。国交省からは秋本国土交通大臣政務官が参加し、スピーチを行った。水防災意識社会の重要性、水循環の取組等、世界の国々の持続可能な発展に貢献できる日本の取組を発信した。取りまとめられた閣僚宣言文においては、水循環の視点の重要性等が認識され、災害対策に対する十分な財源の確保等が盛り込まれた。また、皇太子殿下が水と災害ハイレベルパネルにおいて、基調講演を行った。
(5)水のハイレベルパネル
2016年、2030アジェンダの水関連の目標を促進するため、国際連合と世界銀行が「水のハイレベルパネル」を設置した。パネルは11の国家元首(モーリシャス、メキシコ、オーストラリア、バングラデシュ、ハンガリー、ヨルダン、オランダ、ペルー、南アフリカ、セネガル、タジキスタン)と水と防災の特別顧問からなり、2018年3月に最終提言を答申した。提言は、洪水や渇水などの水と災害への対策が明確に位置付けられ、予防防災、防災投資原則などの議論を深めることを求めている。
(6)水の国際行動の10年
     2016年12月の国連議決に基づいて、2018年3月から「水の国際行動の10年」が開始された。そのアクションプランは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の水関連目標について国際的な情報交換を強化するとしている。また、最終的な目標達成のために、災害等のリスクを軽減する必要が指摘されている。2018年3月22日にはアクションプランが発表され、10年間の活動が開始された。

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