ユネスコスクールの質の向上について

平成25年8月8日
岡山大学大学院教育学研究科教授
 川田 力 

 標記の件について、ASPUnivNet加盟校からの意見をとりまとめ、以下の6点を御提案いたします。

1.ユネスコスクールの到達目標や到達段階の提示

 ユネスコスクールでは、現状で自分たちの実践がどの段階にあるのか、何を目標にすればいいのか分からず、今後の活動に戸惑いを感じていると思います。ドイツの『トランファー21』に見られるように、例えば、(1)児童生徒のESDに関連する資質能力は伸長しているか、(2)新しい教育的アプローチを活用しているか、(3)校庭や校舎などの資源を活用しているか、(4)ESDに関わる教員研修は行われているか、(5)学校と地域との連携が進んでいるか。(6)ESDやユネスコスクールといったことが学校の教育目標にきちんと書かれているか、など学校におけるESDの到達目標を明示し、それらを検証すると良いと思います。。
 ユネスコスクールでないがESDを積極的に行っている学校(ESD校)も含めて、こうした到達目標を提示し、積極的な取組を行っている学校は、顕彰する方法をとれば、学校は何を目標とすればいいか明確化できると思います。

2.教員研修の充実

 ユネスコスクールやESDの理念の普及に当たっては、大学やNPOなど学校を取り巻く関連機関の努力も大きいですが、一方で教員同士の学び合いである研修会や、先駆的な活動をしているユネスコスクールでの勤務を経験することが、ユネスコやESDの価値や理念の普及に大きな役割を果たしていると考えます。
 校内研修、教育委員会による研修、校長会、教頭会、免許状更新講習、10年研修などで、ESDの活動やユネスコスクールの実践を紹介する研修を行われているかどうかを、重視すべきだと思います。現状で行われている研修の実態を調査し、さらにこうした研修が各地域で積極的に行われるように、教育委員会、教育研修センター等に働きかけることが有効であると思います。またユネスコスクールの所在する市長村の教育委員会同市が連携し、ネットワークを作ることも有効であると思います。
 日本のユネスコスクールの中には、他校と連携を取っていない学校、あるいは孤立して、ユネスコスクールの活動をしている学校が見られます。
 海外のユネスコスクールでは、ユネスコスクールが継続的に研修会へ参加することを重要視しています。(ASPUnivNet(2011『ユネスコスクール海外調査報告』のドイツの事例など)。そのために関係機関が積極的に旅費の支出をしています。
 日本でも、最低年に1回は、ユネスコスクール全国大会か、地域で行われるユネスコスクールの研修会に、ユネスコスクールが参加することを義務としてはどうでしょうか。

3.ユネスコスクール全国大会の改善

 現在、ユネスコスクール加盟校が一堂に会する貴重な機会としてユネスコスクール全国大会がありますが、イベント的要素が多く、教員の交流や研修の時間がかなり少なくなっています。イベント的内容は極小化するとともに、他教科の教育研究会の内容等を参考にして、研修部分を充実させ、学校や教員が主体的に企画、運営、研修に関われる大会にしてはどうでしょうか。具体的には、オープンに報告者を募る実践発表会やポスターセッションの実施を提案します。 

4.ユネスコスクール支援大学間ネットワークの強化充実

 飛び地的な存在のユネスコスクールに対しては、適宜情報提供や助言活動を行うシステムが必要であり、これまでユネスコスクール支援大学間ネットワークがその役割を果たしてきていますが、地域単位でその支援大学間ネットワークを拡充していくことが望ましいと思います。

(北陸の事例)
 大学がそのような役割を果たせるよう、ESD推進・ユネスコスクール支援のための北陸地域の大学間ネットワークを構築している。現状では金沢大学のみがユネスコスクール支援大学間ネットワークに加盟しているが、金沢大学が幹事となって北陸3県の10余りの大学(各県それぞれ~5校)でネットワークを形成し、地域の個別の学校が知恵を借りたいときに相談に乗れるようなシステムの構築を目指し、各大学が提供できる資源のデータベース構築作業を進めている。

5.教育センターや図書館の更なる活用

 現場の先生方がアクセスしにくいESDに関する情報・資料を、地域の図書館や教育センターで整備し活用できるようにすると、学校によるカリキュラム改善にも貢献します。岡山をはじめとして、地域の公民館によるESD・ユネスコスクール活動は徐々に全国的な展開を見せ始めています。他方、図書館による支援活動はまだ極めて限定的です。地域の図書館には、環境コーナーなどは特設している例が多くありますが、岡山市立図書館ではESD特設コーナーを設けています。

6.地域のユネスコ協会との連携の促進

 ユネスコ協会と大学、教育委員会との連携が緊密に行われており、大きな効果を上げている地域がありますが、全国的に見れば、ユネスコ協会との連携を図っている地域は限定的な状況にあります。より積極的に、ESD・ユネスコスクール推進に向けた地域のユネスコ協会と大学、教育委員会等の連携の強化を図っていくことが望まれます。

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