有識者インタビュー

GIGAスクール構想×特別支援教育
(東京大学先端科学技術研究センター 教授 近藤 武夫 氏)


 GIGAスクール構想の実現に向けて、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を図ることが求められています。このことを実現する上で1人1台端末は重要なツールであり、例えば文字の読み書きに苦労する子供たちが端末の機能を活用することで、一人一人の本来の力を発揮できるようなよりよい学び方で学ぶことができるようになります。今回は、東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫教授に、1人1台端末が整備された環境下における特別支援教育について伺いました。(令和6年6月11日掲載)

 
○ GIGAスクール構想により特別支援教育にもたらされた変化
○ 一人一人のニーズに合わせた活用を進めていく上での課題とその解決策
○ 保障するべきことは「学びの本質」

 

GIGAスクール構想により特別支援教育にもたらされた変化

―GIGAスクール構想下において1人1台の端末が整備され、特別支援教育は以前と比べてどのような変化がありましたか。
 以前は「テクノロジーがない、タブレットがない、だから支援をすることができない」というロジックにより、一人一人の子供たちに合った学び方を提供することができないという状況がありました。GIGAスクール構想により、1人1台の端末が整備された今、この状況が大きく変わり、どの学校、どのクラスでも一人一人の子供に合った学び方を提供することができる可能性が生まれました。
 一方で、1人1台端末を教室で使うだけで、魔法のようなことが起こり、子供たちに合った学び方を提供することができるようになるかというと、そのようなことは決してありません。学びへのアクセシビリティの保障の観点から、子供たち一人一人のニーズを把握し、そこに、「個別最適な学び」としての学び方を提案したり、子供と一緒に試行錯誤をしたりすることを通して、その子に合った学び方を提供することが必要です。
 そして、いずれは子供自身が、こんな学び方だったら学びやすいということを自分で理解し、自分に合った学び方を選択していくことができるようになることを目指して、試行錯誤していく必要があると思います。
  

―1人1台端末を活用することで、児童生徒の様々な困難さを軽減したような事例を教えてください。
  1人1台端末はもちろん、多くのコンピューターには、音声読み上げ機能等のアクセシビリティ機能が標準で備わっており、様々な理由で字を読んで理解することに困難さのある子供が、耳で聞いて理解したり、視認性を高めるために画面のハイライトや色の変更等をしたりすることができるようになっています。例えば、学習障害(LD)のある子供の中には、紙の教科書を読むことがすごく大変な子もいます。そこで、音声読み上げ機能を活用することで、自分に合った形で教材の内容を読み、理解することができるようになります。紙の教材しかない場合でも、学習者用デジタル教科書が備えている本文の読み上げ機能や、「音声教材」と呼ばれる、内容の音声読み上げなどができるよう教科書の内容を作り替えた教材など、教科書をデジタル化したものが手に入るような仕組みがあり、それを入手することによって音声読み上げ機能等を活用することができるようになっています。また、書字障害がある子供が、キーボードあるいは視線入力等による文字入力や描画の機能等を活用して学ぶことで、自分本来の力を発揮できるようになり、その後の進路に大きな影響を与えたという事例もあります。数式であっても、文書作成ソフトの数式入力機能等を使って入力することができますし、入力された数式を読み上げることができるソフトもあります。また、グラフを方眼紙等に手書きすることが難しい場合にも、様々なテクノロジーを活用することはとても有効です。
 音声読み上げ機能等のテクノロジーは、総称して「アシスティブ・テクノロジー(支援技術)」と呼ばれています。そのような機能を、自分自身で使えるように、使い方を教えていくことも大切です。

 

一人一人のニーズに合わせた活用を進めていく上での課題とその解決策

 ―一人一人のニーズに合わせた1人1台端末の活用の重要性が共有される中、このような活用をさらに進めていくためにどのようなことが課題となっているでしょうか。
  GIGAスクール構想で1人1台端末が整備されたからといって、先ほど紹介したような事例が、ほとんどの学校で行われているかというとそういうことはありません。ただ、基礎的なインフラとしてハードウェアが整ったことによって、子供の学び方に対する考え方が変化することには期待しています。
 1人1台端末導入前の特別支援教育では、例えば、手本と同じように上手に鉛筆で書くことができるということを目的として、動画を流し、それに合わせて文字を書かせるというようにテクノロジーが使われていました。もちろん、そのような使い方も必要だと思いますが、その前に、テクノロジーを使う考え方を「みんなと同じようにできるように」という考え方ではなく、「個別最適な学び」という視点で「他の子と違う方法を認め、その子なりの独特のやり方で参加できるように」という考え方を認めていくことが必要です。例えば、グラフを方眼紙に書くのは、そのプロセスの中で傾きや切片という考え方を理解したり、試行錯誤の中で数学的な見方・考え方を学んだりするという本質があると思います。その「試行錯誤して、数式やグラフを書き、論理的に理解していく」というプロセスを、方眼紙が障壁となり実現できない子供の状況があったとき、もしそれを改善・克服できる別のツールを使えれば、学ぶことができるようになります
 アシスティブ・テクノロジーやアクセシビリティ機能のあるツールの使用を認めることで、本質的な学びを実現できるにも関わらず、「他の子供と違う学び方を認めることはできない」となると、1人1台端末があったとしても、その端末は意味がないものになってしまいます。紙と鉛筆で学ぶことが難しい子供にとっては、端末は学習の必須ツールです。それを先生から「今はしまいなさい」と言われると、その子供にとってはノートがとれない状態と一緒です。
 せっかく基礎的なインフラとしての1人1台端末の環境ができたにも関わらず「みんなと同じ使い方でないと使えない」、「個別対応に使うことはできない」という考え方の学校があるとも聞いており、ニーズのある子供たちにとって、結局以前と何も変わっていないという状況が生じていることは課題だと感じています。

 
―その課題に対する解決策についても教えてください。
 学校で1人1台端末とアクセシビリティ機能を使って一人一人のニーズに合った学び方を提供することを実現するためには、担任の教師一人に全てを任せてしまうのではなく、担任の教師と特別支援教育コーディネーター、通級指導教室の教師、そして管理職等が連携して、学校の中でサポートできる体制を作っていくことがとても大事です。1人1台端末があったとしても、例えば、発達障害の中の読み書きの困難さがある子に対して、その端末のどんな機能を使えば、その子なりの学び方をサポートできるのかなど、全ての教師がそれに詳しいわけではありません。音声読み上げ機能は、1人1台端末には標準の機能として備わっているので、やろうと思えばその機能を使って読むということは誰でも実現できます。しかし、その機能を実際に使用するための設定がどこにあるのかというのは、普段はなかなか目にすることもないですし、そもそもそういった機能があることを、知らない人も当然多くいると思います。そのため、担任の教師を孤立させないように、学校全体でバックアップできるようにしていくことがとても重要になります。
 例えば、教科書を読むことができない子供がいた場合を考えてみましょう。読めない教科書を読めるようにしていくには、いくつかのアプローチがありますが、今後期待される方法の一つは、学習者用デジタル教科書の中にある、音声読み上げ機能等を活用するということです。現状、全ての教科書が学習者用デジタル教科書として揃っている状況ではないので、その子のニーズに合わせた教材を用意するためには、音声教材を入手することが必要となる場合もあります。しかし、これを学校で入手しようと思うと、この子には特別支援ニーズがありそうだということを管理職や保護者に説明し、理解してもらったり、申請のために簡単な書類を書いたりする必要があります。同じように1人1台端末を活用し、他の子と違う学びの方法やそのコンテンツ、他の端末と違うアプリ等を入手するといった場合にも、その手続き等が担任の教師にとって大きな壁になる場合もあります。そこで、このような手続き等を特別支援教育コーディネーターや管理職が支えていくことができる体制が重要になってきます。また、それを学校全体でサポートしていくことが期待されています。とはいえ、学校として初めての事例となると、どこから手をつけていいのか分からないという場合もあります。そのため、このような学校を支えるためのサポート体制を地域で作っていくということも大事になってきます。例えば、定期テストや単元テスト等をする際に、キーボード入力や音声読み上げ等を認めていいのか悩んでいるうちに時が経ってしまい、子供に学習の遅れが生じてしまったという話を聞くことがあります。その際に、他の自治体や学校の情報を提供してくれる、公的な支えが必要になります。
 私が関わっている地域では、教育センターや特別支援学校等のセンター的機能を持っている学校などと連携をして、その地域全体で各市町村の事例を学校に提供したり、助言や指導、コンサルテーションをしたりすることができる体制を作っています。一人一人の教師が、必ずしもテクノロジーの事を分からなくても、地域の中にサポートする方がいて、その教師とつながりながら支援できることが望ましいと考えています。教師や管理職だけに任せて、うまくいかないとなったらその人たちの力が足りないのだ、というロジックにしてしまうと物事が進みません。特にテクノロジーを活用した支援は、他の子供とは違う学び方が必要になってきますので、それが有効に機能する地域の仕組みづくりはとても重要だと思っています。

 

保障するべきことは「学びの本質」

―特別支援ニーズの有無にかかわらず、すべての児童生徒が1人1台端末を活用してよりよい学びを進めるために、全国の先生方に期待することを教えてください。
 やはり学びの本質、自分が今指導していることの本質の部分はどこにあるのかということを考える視点を、先生方には常に持っていただきたいと思います。そうすることで、テクノロジーを使って、これまでと違う他の学び方を教室に入れていこうとするときに、テクノロジーと個別最適な学び方との親和性をより高めることができます。
 特別支援教育というと、障害のある子供たちのために特別なことをする、というイメージがありますが、本当に私たちが保障すべきことは「学びの本質」です。その学びで本質的に向かい合うべきところはどこなのか、この子供には何が必要なのかということを考える必要があります。例えば「書く」ということの典型的なやり方は、鉛筆で筆記することですが、キーボード入力で書くということは間違いなのでしょうか。その本質は「自分で考えをまとめて文字の形で出力する」ということであり、必ずしも「鉛筆で筆記する」ということではないかもしれません。同じように「読む」ことの典型は、印刷された文字を声に出して読んだり黙読したりすることですが、その本質は何らかの形で情報を得ていく、つまり「インプットする」ということです。そうすると、必ずしも印刷物ではなく、音声での読み上げからだとしても構わないわけですし、適切に情報を得るということができれば、目的は達成できるわけです。
 学びの本質を考えるということは、アクセシビリティ保障の一番重要なポイントになります。インクルーシブ教育の中で、通常の学級や学校で目指していくべきところ、つまり、各教科等で自分が日々指導していることの本質を見るということが大切です。そうすることで、様々な困難さがある子供が、テクノロジーを使って他の子供と違う学び方をしていたとしても、その目的を達成することができていたらいいのではないかという判断ができるようになります。このことを、それぞれの地域と学校、そこにおられる一人一人が心に置いていただきたいと思います。