有識者インタビュー

GIGAスクール構想×働き方改革
(姶良市立帖佐中学校 校長 辻慎一郎 氏)


 GIGAスクール構想の実現に向けて、1人1台端末の活用を学校全体で推進していくためには、児童生徒の個別最適な学び、協働的な学びの一体的な充実に向けた授業改善はもちろん、その環境を最大限に活用し教職員の業務改善を進めることも重要です。今回は、鹿児島県姶良市立帖佐中学校の辻慎一郎校長にGIGAスクール構想の環境下における働き方改革について伺いました。(令和6年1月26日掲載)

 
○ ICTを活用した働き方改革への取組とその成果
○ 保護者や地域との連携をどのように進めてきたのか
○ 働き方改革を進めることで、生徒の姿にも変化が見られた
○ 新しい取組を進める上で校長として大切にしていること

 

ICTを活用した働き方改革への取組とその成果

―これまで学校で取り組んできたことと、その成果を教えてください。
 本校は、生徒数812名、学級数27学級、教職員数73名(令和6年1月9日現在)という規模の学校です。本校で特に働き方改革の視点として取り組んでいるのは、欠席や遅刻等の連絡のオンライン化と定期テストのCBT(Computer Based Testing)化、校務分掌の見直しです。
 
  
 
 これまでの取組を通して6割以上の教職員が、働き方改革が進んでいると実感するとともに、そのような取組を8割の保護者が理解してくださっているという状況です。
 特に効果が大きいと感じた取組は、保護者から学校への欠席や遅刻等の連絡をオンラインに変更したことです。これまで本校では、欠席や遅刻等の電話連絡が、朝だけで約80件ありました。これらの多くは教頭や事務室で対応していましたが、オンラインでの対応としたことで、現在電話は10件もないほどまでに減少しています。
 また、本校では定期テストのCBT化を進めています。まずは教師も生徒も使い慣れているツールから始めるという視点で、すでに活用が進んでいた標準的なアンケートフォーム(以下、フォーム)を定期テストで活用することにしました。これまでのテストの内容を見直し、フォームを活用して実施できる内容と、これまでどおり紙で実施する内容を分けながら、中には同じ試験時間の中で両方活用する教科もあるなど、全てをCBT化するのではなくハイブリッド形式で進めています。
 
  

 CBT化することで、特に採点業務の時間は大きく減少しており、以前に比べ80%減少したという教科もあるほどです。また、採点業務だけではなく、問題の作成業務の負担も減少しています。初めてフォームでのテスト問題を作る際には、これまでよりも時間がかかったこともあったようですが、一度作成するとフォームは複製できますし、問題数や出題形式を固定するなど、作問やフォームの複製を効率化することで、より大きな負担軽減につながっているようです。また、テストが終わると、すぐに生徒にフィードバックができるというのもCBT化した大きなメリットだと感じています。生徒はテストの結果をすぐに確認し、次の学びへとつなげることができますし、教師も次の授業ですぐにフォローをすることができますので、生徒に対して効果的な教育活動を行うという点で大きな意義があるのではないでしょうか。さらに、令和5年の4月から10月の紙の使用量が約22%減少したという効果もありました。


―校内で働き方改革を進めるにあたり、どのような工夫をしてきたのか教えてください。
 1人1台端末とクラウドを活用し、授業改善や働き方改革を進めるにあたり、まずは校務分掌の見直しを行いました。学校のICT環境が大きく変わる中で、新しい取組をスムーズに進めるためには、これまで以上に教師同士が連携していく必要性を感じていました。職員と話し合う中で、情報教育や教科指導におけるICT活用、校務の情報化等について担当する係を再編成し、教育DX係を設置しました。
 また、職員研修の在り方についても検討していたところ、研修主任から「校長先生、もう少し自分たちが学びたいことを選んで研修できる時間を設定したいです」という提案がありました。これまでの校内研修は、基本的に全員が同じ内容の研修を一緒に受けるのが当たり前でした。私はその提案があった際に「それはいいですね。ぜひやってください。」とお願いしました。令和5年度は、月に1回45分間、職員が9チームに分かれて研修をする時間が設定されています。自分と同じ課題を抱えている職員同士で集まって、例えば「今さら聞けない授業支援アプリ」などの研修があるのですが、ICT活用が苦手と感じている先生方同士で本当に前向きに研修をしており、新しいことにもチャレンジしやすい雰囲気ができています。
 

 

保護者や地域との連携をどのように進めてきたのか

 ―取組を進める際には、保護者の理解が欠かせないと思いますが、多くの保護者の理解を得られているのはなぜでしょうか。
 本校の学校教育目標は「自立した生徒の育成」です。この目標を達成するために、学校として特に育成したい資質・能力として「主体性」「探究心・向上心」「ねばり強さ」「実行力」「レジリエンス」を掲げています。実は、この具体的な資質・能力については教職員、保護者、地域の方々それぞれの思いをフォームで集約して設定しました。
 また、「令和の日本型学校教育」の実現に向け、GIGAスクール環境の積極的な活用や教師の働き方改革の推進等、これから学校としてどのように取り組んでいくのかということを、職員に対しては学校経営説明を行いますが、保護者に対しても、より具体的に説明し理解を得ることがとても大切であると考えています。そこで、保護者に直接説明できる機会として、PTA総会では時間を約30分使い、学校DXについて学校の取組や校長としての思いをお話ししました。また、日ごろから、学校だよりに二次元コードを掲載したり一斉メール等でURLを知らせたりしながら、全校朝会での表彰式や授業の様子など、生徒の日々の姿を動画で配信するようにしています。端末を使った定期テストを始める際にも、実際にテストを受けている子供たちの様子を、動画で見ていただくことで、不安を感じていたという保護者からも、前向きな感想や意見をたくさんいただくことができました。

  
 

働き方改革を進めることで、生徒の姿にも変化が見られた

―様々な取組を進めたことで、学校で起こった変化があれば教えてください。
 1人1台端末とクラウド環境を活用し、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を目指した授業改善や働き方改革などを進める中で、職員はもちろん、生徒の姿にも変化が出てきています。本校では今、生徒会を中心にルールメイキングを行っているのですが、なかなか進まない状況があります。生徒会が報告したその理由の一つが「タブレットをうまく活用できなかったから」でした。実は、本校ではまだ休み時間に自由に1人1台端末を使うことが許可されていない状況があります。1人1台端末やクラウド環境を自由に使うことができれば、フォームを使って生徒全員の意見を集めたり、オンライン上で話し合いができたりするのに、今は自由に使うことができないので、みんなの意見や継続した話し合いができていないというのです。生徒は、1人1台端末とクラウド環境を使うことの便利さを、授業等を通して実感していて、それを授業以外でも使うことで、より便利に活用していきたいという思いを持っています。私たち教師は、端末やクラウド環境を利用することで業務改善につながるなど便利さを日々実感しています。子供たちにも大人と同じ環境を使いながら、より便利に活用していく機会を増やしていけるように計画的に進めているところです。



 

新しい取組を進める上で校長として大切にしていること

―校長として、新しい取組を進める際に心がけてきたことがありましたら教えてください。
 私自身、1人1台端末とクラウド環境の積極的な活用と学校DXはぜひ進めていきたいという強い思いを持っており、そのための様々な取組は、自走させたいと考えていました。学校には素晴らしいアイディアと、チャレンジしたいという意欲を持った先生方がたくさんいます。先生方が安心してそのアイディアを出し合い、新しいことにチャレンジすることができる学校の雰囲気づくりが大切だと考えています。一人一人の意見をしっかり聞き、そこに校長としての思いを重ね、一緒に同じ方向に一歩踏み出していく。これを実現するためには、やはり教頭の存在も大きいと感じています。管理職として思いを共有し、それを教師一人一人に寄り添いながら伝えていくためにも、日々のコミュニケーションを大切にしています。
 今、学校を見てみると、先生方が課題を共有し、助け合い、協働しながら学び続ける姿が日常的に見られるようになってきています。先生方の学びの姿が、生徒に今求めている学びの姿のイメージと重なり、学校が自走しはじめていると感じています。