令和の日本型学校体育構築支援事業 事例集第3章 学校における水難事故防止対策の強化

研究テーマ

授業情報|高松市立弦打小学校(香川県)第5学年、第6学年

自分の身体で水に浮く
ライフジャケットで水に浮く

~「安全確保につながる運動」を柱に、水泳学習を考える~

実践研究のねらいaim

 本校区は香東川や本津川、瀬戸内海に囲まれ、ため池も多く残っており、子供を取り巻く環境そのものが水難事故と隣り合わせである。また、ここ数年プール施設の不具合(水質悪化)により、水泳学習を十分に行えていない状況である。この機会に、専門的な水中での自己保全の方法を子供と教員も一緒に学ぶとともに、背浮きで長く浮くこと等ができるようにしたいと考えた。

指導の工夫devise

■ 指導計画(第5学年)

1 2~6 7 8~10

  1. 身近な水辺の危険を考える
    • ため池
    • 防波堤
    1. 個人で
    2. グループで
    3. 全体で
  2. 水辺の事故から
    命を守る方法を考える
  3. 水と身体の関係を知る
  4. 学習のまとめ
  1. 安全確保につながる運動
    • バブリングによる呼吸とボビング
    • だるま浮きでの浮き沈み
    • 背浮き

    ゆったり長くクロールで泳ごう

  2. 本時の課題の確認
    • 1ストロークで進む(ばた足なし)
      距離を伸ばすための課題を知る
  3. 試しの計測(バディ)
    • 10ストロークで進む距離の測定
    • 自己の課題を明確にする話合い活動
    • 課題解決のための練習
  4. 本時の計測
  5. 本時のまとめ
  6. 振り返り
  1. 呼吸を繰り返して、さまざまな
    姿勢で 浮いたり沈んだりする
    • 大の字浮き
    • だるま浮き
    • 背浮き
  2. 背浮き
    • 腕の位置を変える
    • 脚を曲げる
    • 長く浮く
  3. ライフジャケットを着用して泳ぐ
    • 背浮き
    • クロール
    • 背浮きで移動
    • 着水からの背浮き
  4. 学習のまとめ
  1. 安全確保につながる運動
    (第7時の学習を生かした活動
    • バブリングによる呼吸とボビング
    • だるま浮きでの浮き沈み
    • 背浮き(より長く浮く)

    ゆったり長くクロールで泳ごう

  2. 本時の課題の確認
    • 1ストロークで進む(ばた足なし)
      距離を伸ばすための課題に取り組む
  3. 課題別練習(バディ)
    • 解決方法を共有する話合い活動
    • 課題解決のための練習
  4. 本時の計測
  5. 本時のまとめ
  6. 振り返り

■ 指導の流れ

① 事前指導
  1. 水難事故防止対策に関する講話
    単元の1時間目に、「ため池」「防波堤」を取り上げ、グループワークを通して起こりそうな水辺の事故について話し合い、未然に防止できることや、もしものときにとるべき行動について学習した。また、「水と身体との関係」についても、「浮く」「沈む」「ゆっくり長く泳ぐ」というキーワードを織り交ぜ、学習指導要領に示されている第5学年及び第6学年の水泳運動の内容を踏まえた話も講師からいただいた。
  2. 「安全確保につながる運動」の指導計画への位置付け
    水泳学習の始めの準備運動として、ボビングやバブリング、背浮き等の基本的な技能を繰り返し、安定した呼吸の獲得ができるように指導計画を立てた。
② 中心的な活動
時間 主な活動 工夫点
0

15

30

45
  1. 自分の身体で浮く
    1. 浮く(背浮き)
    2. 沈む
  2. ライフジャケットで浮く
    1. 浮く
    2. 進む
    3. 飛び込む
  3. まとめ
  • 浮力によって、水泳キャップ程度の体積が浮くことを知り、水と身体の関係を体感する。
    他の部位を水面より出すことで、更に沈むこともバディで確かめ合う。
  • より長く水面に浮いておくため、脚を曲げたり腕の位置を変えたりしながら背浮きの体型を変化させ、
    よりよく浮く方法を探す。
  • ライフジャケットを着用し、その有無の違いを体感するとともに、より楽に浮くことが重要であることを知る。
  • 実際に、海難事故に遭遇したと仮定し、プールサイドから低い姿勢での飛び込み、背浮きの状態で浮くという
    動きを体験することで、有事の際の知識、技能を身に付ける。さらには、リラックスした状態で手腕を動かし、
    水面を進む技能を身に付ける。
  • 「自分の身体で浮く」ことと、「ライフジャケットで浮く」ことの両方が水難事故防止に必要だと価値付けを行う。
③ 事後指導

夏休みに向け、水辺での事故から身を守るために本事業で学んだことを家族と話し合うことを家庭学習の一つにした。また、残りの水泳学習においても、安全確保につながる運動を必須の活動として取り組んだ。

成果と課題results & tasks

■ 成果

  • 事前と事後の子供のアンケート調査結果を比較すると、「海や川に行くときに、ライフジャケットは必要だと思いますか」という質問に「不必要(7%)」「わからない(11%)」と回答していた子供が、学習後にはそれぞれが2%と減少し、ライフジャケット着用の重要性を学んだようである。
  • 感想にも、「釣りに出かけるときは、ライフジャケットを着たい」「ボートや船に乗るときには、大事だと思う」「ライフジャケットを着て、楽しく安全に水辺で遊びたい」「命を守るのに、とても大切なものだと知った」など、体験したからこその学びが見られた。
  • 参加した教職員も、授業の中に「安全確保につながる運動」を取り入れることで、リラックスしながらのクロールや平泳ぎ(第6学年時)の泳法指導に生かせたようであった。
  • 苦手な子供のほとんどが全身の筋肉を緊張させて泳ぎ、水と身体の抵抗を最大にしてしまう。その真逆の思考で、教師が授業を組み立て、水の中をゆっくり長く泳ぐ学習の重要性に気付き、授業改善ができたようである。
  • 水への恐怖心があった子供が、ライフジャケットを着用して浮く体験を初めて味わい、自分から進んで浮いたりもぐったりすることができるようになった。
  • 人間の体が水に浮く原理、沈む原理を専門家からわかりやすく教わったことから、その後の「浮く動き」「もぐる動き」ができるようになった子供が増えた。

■ 課題

  • 本校では数年間、プールの水質の悪化やコロナ禍等で「水泳学習」の実施が思うようにできない期間が続いた。その結果、水に親しむ学習や泳ぐ技能の獲得といった子供が学ぶべき、身に付けるべき資質・能力が育成できていなかった。水泳学習が嫌い、苦手と考えている子供も多く、今後の水泳学習のあり方を検討していかなければならない。
  • 本研究の取り組みを教職員研修にも活用し、伝達したいと考える。水と親しむ活動や泳ぐ活動だけではなく、「浮く」「沈む」といった「水と身体の関係」を発達段階に応じて学習計画を立てていきたい。
  • バブリングやボビングなどの「呼吸」に重点を置き、低学年から系統的に学べるようにもしたい。
  • 子供の指導だけで終わらせることのないよう、保護者への水難事故防止対策の啓発を適宜行っていく必要がある。保護者がその重要性を知り、実践することこそが子供の安全を保障する重要な手段となる。学校からの様々な広報手段を生かして、継続的な啓発をしていきたい。

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