研究テーマ
授業情報|江戸川区立松江第六中学校(東京都)第2学年
2022年度の水難事故防止対策の支援事業では、日本ライフセービング協会監修・制作のICT教材である『e-Lifesaving』と、プールでの実技指導を合わせることで、最も教育効果が高いことが証明されている。また、その支援事業の報告会でのアンケート調査では、水難事故防止対策の授業展開の在り方への問いに対し「専門家と連携しながら実施することが望ましい」との回答が88%に及んでいる。
中学2年生の全3クラス(約90名)を指導した。1時間目は1クラス(約30名)、2時間目は2クラス(約60名)で、45分という時間の中で実施した。川に学ぶ体験活動協議会の指導員(2名)と、日本ライフセービング協会の指導員(2名)、合計4名が指導を担当した。また指導補助には、生徒一人一人の特性を日頃より理解している保健体育科教諭の3名が入り、主に安全面でのサポートを行ってもらった。全体指導は生徒への指示が行き届かない場合や、主体性を引き出すことに繋がりにくいため、指導員に対し、生徒を分割して実施した※1。そのようにすることで生徒一人一人への指導、言葉がけがしやすく、短い時間においても、関係性の構築に繋がった。また"水に入らないで安全に助ける方法"のデモンストレーションを"見学者"に協力してもらうことで、見学者の授業への関わりをも深める工夫をした※2。
事業の成果については、指導にあたる専門家が児童生徒の取り組みに対して、初見で行うことは困難であるため、かつ客観性を担保する上でも、児童一人一人による自己評価をしてもらうこととした。※以下の数値は、中学2年生64名の回答の結果。数値の合計が100%に満たないのは「わからない」が数名いたため。
Q1 「参加した感想」
楽しかった群が89.1%。体験活動における基本要素ともいえる「楽しさ」は概ね得られた。
Q2 「学習時間の長さはどうだったか」
長い群が7.8%、丁度良い群が57.8%、短い群が29.7% 約3割の生徒が短いと回答。
Q3 「主体的に取り組めたか」
できた群が87.5%、できなかった群が4.7%。取り組みにおける主体性は概ね引き出せた。
Q4 「ライフジャケットの正しい着方についての理解」
理解できた群が96.9%、理解できなかった群が1.6%。正しく着ることへの理解は得られた。
Q5 「ライフジャケットを着た状態での浮き方、活用方法は身に付いたか」
身についた群が89.1%、理解できなかった群が3.1%。一方、教室授業は「身に付いた群」が76%だったので、やはり実技の効果は大きいことがわかった。
Q6 「ライフジャケットの活用が水の事故防止につながると思うか」
思う群が98.4%。この体験的学びが、事故防止への行動変容につながる基礎といえる。
Q7 「実際の海や川の流れの危険を知り、万が一の対処法を学ぶことができたか」
できた群が96.9%。水難事故防止対策を図る上では、自然領域をより意識した中で、その危険認識と対処行動へとつなげることに意義がある。海や川の専門家による指導は有効といえる。
Q8 「実際に海や川で流れに巻き込まれた場合、落ち着いて行動が取れると思うか」
思う群が48.4%、思わない群が45.3%。プールの体験であるからこそ、海や川に対する生徒一人一人の想像力が、この問いに対する判断の基礎となると受け止めている。この体験がプールだけで完結してはならないことを示していると考察した。
Q9 「今回の学習は、毎年繰り返し体験することが必要だと思うか」
思う群が90.6%、思わない群が7.8%。反復学習や各学齢における段階的学びの発展が求められる。
Q10 「今回の学習は、家族や他の学校の児童・生徒にもすすめたいと思うか」
思う群が89.1%、思わない群が9.4%。この体験学習の効果が実感として存在したことが考察される。
水難事故防止対策に掲げられた「自己保全のための学習」の内容の一つである「ライフジャケットの活用の仕方」については、児童生徒における自己評価からも、十分な成果があげられた。水難事故防止教育を実施する上で、学校が海や川の専門家と連携して体験授業を実施することで、高い教育効果が得られる。
事業全体を通して「ライフジャケットを着た状態での浮き方や活用方法」については、流水域(カヌー・スラロームセンター)での学びが最も高い効果(身に付いた群95.8%)を示し、次いで静水域(自校)プール(身に付いた群89.1%)、最後に教室での座学(身に付いた群76%)という順になった。より実践的な体験から、生徒の実感に結び付くような学びが重要であることが示された。