市制50周年記念と同時に開催された1972年札幌冬季オリンピックから半世紀以上が経過した。大会を契機にウィンタースポーツを伝統・文化として育ててきた札幌市は、今や世界有数のウィンタースポーツシティとして知られる存在となった。現在は、その強みを活かしながら新たなスポーツ都市づくりにも取り組んでいる。こうした多岐にわたる取り組みは、どのように作り上げられているのか。今回は札幌市スポーツ局スポーツ部スポーツ都市推進課・枝元俊晴課長にお話を伺った。

【地域に根付くオリンピックレガシー】
1972年大会のレガシーは今も札幌の街に息づく。その象徴が、数々の国際大会の舞台となってきた大倉山ジャンプ競技場だ。今なお現役の競技施設として稼働し、オリンピックミュージアムも併設され、当時の熱狂と歴史を伝える観光拠点の一つにもなっている。観光機能と競技機能の両立こそ、札幌がレガシーを「遺産」ではなく「生きた資産」として使い継いできた証左である。
また、市内のスポーツ施設で毎年開催される多数の大会を通じて大会運営のノウハウを積み重ねてきた。このような積み重ねこそが、半世紀にわたりレガシーを“動態的”に受け継いできた札幌市の特徴であると言える。この間、冬季アジア大会を3度開催したほか、ユニバーシアード冬季競技大会などの総合競技大会も開催しており、国際大会を支える都市としての経験も着実に積み上げてきた。大きい総合大会をあえて招致・開催してきた背景には、「多種に渡る競技施設の有効活用に加え、大会の運営ノウハウそのものを札幌の資産として継承し続ける」という狙いがある。経済面の負担が増す現実を踏まえつつも、「オリンピックをきっかけに札幌の街が大きく発展したように、ウィンタースポーツこそが札幌の伝統であって文化であり、大会を継続して運営することでそのレガシーを次世代へつなぐことができる」と枝元課長が語る通り、ウィンタースポーツの振興に向け、オリパラ教育や裾野拡大のためシティプロモーションなどの取組も継続的に実施している。

札幌市は子どもたちへのオリパラ教育にも力を入れている
札幌市提供
【世界屈指のウィンタースポーツ】
札幌の強みは、約190万人の都市機能と世界有数のパウダースノーが同居する点にある。市内には6つのスキー場があり、都市滞在と雪上体験を一体で設計できるという世界でも稀有な条件が備わっている。体験価値の最大化に向け、札幌市は観光とウィンタースポーツのコラボレーションにも積極的だ。
たとえば、すすきの至近の中島公園にはクロスカントリースキー体験エリアを整備しているほか、イルミネーションによる装飾を行う、ナイトクロスカントリー体験イベントを期間限定で実施。スキー場が山岳地帯にあるため、移動も含めて一日がかりになりがちなスキー体験を街なかで手軽に楽しめる場を作り、近隣の飲食・ショッピングと連動させることで、都市滞在と雪上体験の同時提供を可能にしている。スポーツ国際会議への参加や海外の博覧会出展による情報発信も重ね、台湾・シンガポールなど雪への憧れが強い地域へ訴求し、スポーツと観光を結びつけてきた。
【ウィンタースポーツシティを作り上げる札幌市の大会運営力】
半世紀かけて札幌市をウィンタースポーツシティとして成長させてきたのは、各競技団体及び札幌市の持つ大会運営能力に他ならない。毎年開催しているスキージャンプワールドカップや札幌国際スキーマラソン大会といった種目別競技大会、冬季種目の総合競技大会に加え、ラグビーW杯2019日本大会や東京2020大会のマラソン・競歩競技・サッカーといった夏季種目の国際大会についても各競技団体と連携して、積極的に運営ノウハウを蓄積してきた。また、2026年には、スノーボードハーフパイプのワールドカップをさっぽろばんけいスキー場で10年ぶりに開催するなど、新たな取り組みにも積極的に挑戦している。
10年ぶりのスノーボードワールドカップは、札幌市の雪資源や都市機能が再び注目を集めた一方で、「10年のブランクは非常に大きく、主催者である競技団体だけでなく、札幌市も運営面では学ぶことが多かった」と枝元課長は振り返る。観戦体験を重視した「魅せる大会」を目指したが、チケット販売や会場コントロールなどの準備段階では苦労もあった。やはり開催に向けては、当初からの役割分担の明確化が鍵を握る。主催者である競技団体を中心に、行政・民間の間でチケット管理、会場管理、シティドレッシング等の広報、イベント演出など競技運営以外の部分でも機能ごとにリーダーを育成し、属人化や集中を避ける設計が欠かせない。逆に、誰が何を担うかが曖昧なままだと、特定の人に負荷が集中して機能不全に陥りやすい。競技団体・行政・民間事業者の間で業務が浮いてしまうことも起こりがちである。「継続的に大会を開催して、関係各所がノウハウを継承していかなくてはいけない。」と枝元氏は強調した。

【新しい扉を積極的に開く姿勢】
札幌市が新領域として挑んだ取り組みの一つに、eスポーツの国際大会がある。開催会場である大和ハウス プレミストドームにとってもeスポーツ国際大会の本格的な受け入れは初の試みで、従来のスポーツ大会で培った運営のノウハウが通用しないゼロからのスタートであった。主催が海外企業であるため準備段階から英語でのコミュニケーションが必須となり、また時差を織り込んだ打合せなど、文化のギャップを越える調整が続き苦労が多かったが、遠方より来場された方に「また来たい!」と思わせるためにはどのような工夫が必要かという観点で、主にファンゾーン(選手との交流やチーム・スポンサーブースなど、様々な体験を楽しめるエリア)部分について主催者と連携して検討するなど、運営知見を一つずつ蓄積していった。
またプロモーションに関しては、特に札幌市内での各種プロモーション活動において、主催者と札幌市が連携した取組が行われた。今回のeスポーツ大会の来場者の動員は基本的にはゲーム・大会に関わるコミュニティが主導するものであり、性質上、SNSやホームページなどオンラインによるプロモーションがメインとなりやすいものと想定される。一方で、オフライン大会の開催にあたっては、開催地における機運醸成も重要と考えられることから、eスポーツにまだなじみがない市民や来札者に対して大会を周知することにも力を入れた。約520mに及ぶ札幌駅前通の地下歩行空間には132本もの柱巻き広告を展開、会場最寄り駅にはジャック広告を打つなど、大会へ参加するための道外からの訪問客へのおもてなしも兼ねたプロモーションを行った。eスポーツということもあり地元の家電量販店の販売ブースでの大会PR活動等、ほかのスポーツ大会とは異なったコラボレーションも行われ、来場したかどうかに関わらず、大会をより身近に感じさせる工夫をしたこともポイントである。
また、特別協力である㈱札幌ドームおよび一般社団法人北海道eスポーツ協会など、官民が連携して支援に取り組んでいることも、札幌市の特徴である。例えば、通常のスポーツ観戦やコンサートであれば観客の会場滞在は2~4時間程度だが、eスポーツは競技時間が10~12時間に及ぶことから観客も長時間滞在する傾向にあり、従来のドーム売店だけでは行列や品切れが生じてしまう可能性があった。そこで会場内にフードコートを新設し、大会とコラボレーションしたメニューを提供するなど、体験価値の向上にも力を入れた。このように、様々な協力体制を通して、一過性で終わらない大会づくりを行っているのが札幌市の特徴である。

大和ハウス プレミストドームで開催されたeスポーツ国際大会の様子
札幌市提供
【今後の札幌市が目指す姿とは】
今後、札幌市が大切にしていくのは、主催者である各競技団体を後押しし、民間も含めた関係各所が一体となって大会運営能力を高められるよう支援していくことだという。国際大会誘致に対する補助金制度などにより、毎年継続して大会を開催できる環境を札幌市が整備することで、会場管理や広報といった実践的なノウハウが関係各所で蓄積され、次を担う人材が途切れることなく育成されるよう全力でサポートしていく考えだ。
同時に、「市民が週末のプライベートの時間に自然とスポーツ観戦を織り込むような文化を、日常的な大会開催によって育てていきたい」と枝元氏は語る。
大会を「開催し続ける」ことこそ最大のレガシー。札幌市は運営力で未来をつくり、そしてスポーツの文化を育てていく。
(聞き手:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社=神野・中山)
【インタビュー協力者】

枝元 俊晴
平成3年7月 札幌市入庁
平成28年4月 手稲区 広聴係長
平成30年4月 都市局 庶務係長
令和3年4月 総務局 課長職(指定都市市長会 事務局次長)
令和5年4月 スポーツ局 招致戦略担当課長
令和6年4月 スポーツ局 スポーツ都市推進課長