【2025年コラム10】人がつなぐ、国際スポーツ大会開催の輪


 2026年の夏、29年ぶりに日本でラクロスの女子世界選手権が開催される。そして来年2027年には男子世界選手権が日本で初開催となる。さらに、2028年のロサンゼルスオリンピックでは、120年ぶりにラクロスが復活することが決定しており、国内外でラクロスは盛り上がりを見せている。半年後に迫った世界選手権に向けて、大会準備はどのように進められているのか。2026 WORLD LACROSSE 女子世界選手権大会・組織委員会共同代表の遠藤氏と古谷氏に大会招致から現在までの大会準備や今後の展望、そして日本ラクロスが大事にしている「ネットワーク」について伺った。

プロフィール写真

2026 WORLD LACROSSE 女子世界選手権大会の決勝が行われる
秩父宮ラグビー場にて 古谷氏(写真左)と遠藤氏(同右)
©日本ラクロス協会/海藤秀満
 

【約30年ぶりの世界選手権招致に向けた動きだし】
 日本ラクロス協会が世界選手権招致に動き始めたのは2023年。3月30日に国際競技連盟(IF)から公募情報が公開され、5月31日締め切りまでの約2か月という短期間で立候補ファイルを準備した。世界選手権はこれまで男女ともにアメリカや欧州で開催されることがほとんどだったことから参考情報が少なく、要件の把握や骨子づくりには大変頭を悩ませた。
 打開の鍵となったのは、これまで培ってきたつながりだった。ラクロス関係者のネットワークを通じ、ラグビーワールドカップ2019組織委員会に所属していたラクロス競技出身者の人材とコンタクトをとることができた。大規模な国際スポーツ大会の運営経験を持つ人材と直接やり取りをすることで、立候補にあたり必要な要件の整理や立候補ファイルに記載すべき内容の把握といった、専門知識のキャッチアップがかなったことは、招致成功の大きな要因の一つとなった。古谷氏は「国際スポーツ大会運営の経験者から日本への国際大会招致のノウハウを共有いただいたことは大変助けになった。」と振り返る。
 有力な経験者の助けもあり、「会場確保」、「宿泊・輸送のロジスティクス周り」、「予算案」の3点に「日本で開催する意義・メリット」を補記する構成で立候補ファイルを作成することができた。実は、この段階では正確な予算の策定や会場確定は難しく、条件の変動を見込んだ段階的アップデートを前提とした内容となっていた。ただ、数々の未確定の条件の中でも、特に会場確保については立候補段階から調整が難航した。というのも、会場予約のスケジュールは、早くても大会開催日の前年度の後半から始まることが多く、2026年度に開催される女子世界選手権の会場は、2026年に入るまで決まらない可能性もあったからだ。しかし、自治体をはじめとした関係各所の協力もあり、通常よりも1年程度はやい、2025年1月には女子世界選手権の会場を決定することができたのだ。
 このように、多岐に渡って多くの方々の協力を得られた結果、日本での29年ぶりの女子世界選手権の東京開催、そして男子世界選手権の日本での初開催が決定したのである。

 
女子世界選手権の様子
1997年に開催された女子世界選手権の様子
©日本ラクロス協会/海藤秀満
 

【日本ラクロス協会の強み】
 「日本ラクロスの最大の資産は、人とのつながり、すなわちネットワークだ。」と遠藤氏は語る。日本ラクロスでは選手の大半が大学から競技を始める。競技を始めた段階で「自分たちのことは自分たちでやる」ことが求められる年齢であることから、選手自身が自発的に学生連盟での活動や大会運営・審判などに関わる文化が古くから日本ラクロスには根づいている。特に学生連盟の運営は、様々な大学から集まった学生たち中心に実施されていることから、チームを超えた横のつながりも強固に形成されることが特徴だ。そうしたネットワークが形成されることで、例えば「英語が話せる人材とコンタクトが取りたい」といった要望に対して、これまでの関係性を辿ることにより、多くの日本ラクロスの関係者に素早く連絡をとることができる「辿れるネットワーク」が育ってきた。
 この「自分たちのことは自分たちでやる」姿勢が、職員が少なくても、社会で活躍するラクロス関係者が各自の専門性を協会に持ち寄って運営する今日の日本ラクロスの文化を作り上げ、結果として組織の厚みと自走力を高めてきた。
この強みはスポンサーシップ活動にも活かされている。日本ラクロス協会は基本的にスポンサー企業に対して直接営業を行っている。スポンサー企業と直接会話することで相手の本音を引き出し、双方にとっての最適解を導くことを大切にしているためである。世界選手権をはじめラクロスの大会に協賛いただいている企業の方にもラクロス競技出身者が在籍していることも多く、人のつながりが成果に直結することの何よりの証拠と思われる。多様なバッググラウンドを持つラクロス関係者からの支援があることで、手探りの状態からでも営業を続け、スポンサー企業との協賛メニューの作成や価格設定の合意に至ることができた。
 一方で、他の国内中央競技連盟(NF)や自治体との横の連携は相対的に薄かった側面があると日本ラクロス協会自ら認識しているが、ロサンゼルス五輪での競技採用を機にJOC加盟をしたことで、他NF等とのネットワークを広げる基盤も徐々に整い始めている。

ボランティアスタッフ ボランティアスタッフ②

社会人・学生が一体となって運営するスタッフ
©日本ラクロス協会 

【世界選手権がもたらす日本ラクロス界への影響】
 実は、日本のラクロス界には約30年前の世界選手権の運営に関わったメンバーが今も多く残っている。知見を外に散らさず内側に蓄え、次世代へつなぐ価値は大きい。「1回の大会の成功だけを求めて外注に頼るのではなく、今回の世界選手権に関わった人がラクロス界の次の30年を牽引していくことができるようにナレッジを蓄積し、創意工夫しながら世界選手権を開催することが重要ではないか」と古谷氏は述べる。
 また遠藤氏は「『勝手に残るもの』こそがレガシーではないか。残そうとしてしまうと取ってつけたものになってしまうのかもしれない」と語る。「実施したこと」を資料に記載することは可能だが、「実施に至るまでの背景」は、関わった人しか知りえない。「人のつながり」を大事にしている日本ラクロスにとって、そうしたナレッジの蓄積・継承を通じて、どれだけ多くの方にラクロス世界選手権のことを知ってもらえるのか、そしてラクロスという競技そのものの価値を高められるかという、競技の裾野と機会を押し広げていく取組みそのものがレガシーとなっていくのだろう。

(聞き手:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社=神野・中山)
 

【遠藤様プロフィール】
遠藤太郎
 2026 WORLD LACROSSE 女子世界選手権大会・組織委員会共同代表
 公益社団法人日本ラクロス協会事務局長補佐
 1977年生まれ。武蔵大学男子ラクロス部出身。
 大学卒業後より日本ラクロス協会常勤職員として従事。約20年間、関東地区の事務局次長を務める。
 現在は、組織運営、大会運営を中心に幅広く携わる。

【古谷様プロフィール】
古谷太一
 2026 WORLD LACROSSE 女子世界選手権大会・組織委員会共同代表
 公益社団法人日本ラクロス協会理事
 1986年生まれ。一橋大学男子ラクロス部出身。
 大学卒業後は、一般企業(金融、IT等)で勤務しながら、ボランティアとして日本ラクロス協会事業にも一部携わる。
 2018年より理事に就任。2021年より日本ラクロス協会常勤職員として従事。
 現在は、公益対応、学生連盟を中心に組織運営に携わる。