アジア競技大会はアジア・オリンピック評議会(OCA)が主催するアジア最大の総合競技大会で、第20回大会は愛知・名古屋で2026年9月19日~10月4日に開催される予定だ。日本での開催は1958年東京、1994年広島に続き、今回で3度目となる。また、同時に第5回アジアパラ競技大会が2026年10月18日~24日に開催され、日本での開催は今回が初となる。開催都市である愛知県と名古屋市、そして組織委員会が一丸となって着々と準備が進められており、日本では東京2020大会以来の総合競技大会となることからも、多くの人々が大会に期待を寄せている。そこで愛知県アジア・アジアパラ競技大会推進局計画推進課の髙橋直美担当課長(計画・競技)に、開催都市として考える大会の開催意義や地元との一体運営、パラアスリートとの交流事業、大会後のレガシー等について伺った。

【アジア競技大会・アジアパラ競技大会の「開催意義」とは?】
アジア競技大会の原点は、「第二次世界大戦の爪痕が残るアジア諸国との絆を、スポーツを通じて取り戻し、アジアの平和を願う祭典として始まった。」ことにある。この「アジア諸国との絆」を恒久的なものとするには、県内自治体はじめとしたさまざまなステークホルダーとの協業が欠かせない。「愛知県はアジア各国出身の方々が様々な地域に住んでいる。まずは今愛知県で生活している人たちとのつながりを深め、アジア諸国との関係を広げていきたい」と髙橋氏は語る。
また、アジアパラ競技大会は今回が5回目の開催となる比較的新しい大会ではあるが、アジアパラ大会の起源は、第1回大会が別府で開催された日本発祥の「フェスピック大会(かつて存在したアジアおよび太平洋地域の障害者スポーツの総合競技大会)」である。「この日本発祥であるパラ大会への想いを次世代へと受け継いでいきたい。」と髙橋氏は思いを込めている。
愛知県は、大会開催の意義、大会に係る想いを、地域社会の日々の学びや実感につなげていく取り組みを続けてきた。
【地元一体で作り上げるアジア・アジアパラ競技大会】
開催意義を地域の人々に伝えるために、開催都市は組織委員会や地元自治体等と連携し、商工会議所が開催する地域イベントや、自治体や競技団体が開催するスポーツイベント等へ足を運び続けてきた。
教育面においても、両大会や、アジア地域の国際理解促進を題材とする学習教材の制作をおこなったり、「アジア給食デー」等の食と学びを直結させる体験型の仕掛けを学校現場に届けたりと、アジア各国への理解を広げる体験機会を提供している。こうした取り組みはすでに500校以上に広がっており、アジア・アジアパラ競技大会が地元の子どもたちにとってより身近なものになってきている。
また大学生に対しては、愛知学長懇話会と組織委員会の協定をベースに、学生ボランティア募集、医療・スポーツの知見共有、広報アイデアの募集等を進め、学生が幅広いジャンルで活躍できるような取り組みを実施している。一方、学生ボランティアは18歳以上が対象のため、年齢的にボランティア活動が難しい高校生からも大会に関与したいと希望があったことから、高校生には会場最寄り駅における来訪者向けの地元PRやおもてなし活動の機会を提供し、大会を契機とした地域活性に協力してもらう予定である。
さらに地域活性化には市町村主体の地元PRも欠かせない。大会期間中に行われる「文化プログラム」では、競技会場やメインメディアセンター、選手の宿泊施設等に開催都市主催のPRブースを展開する計画である。髙橋氏は「記者や選手はSNSを活用していることも多いと聞く。愛知県の魅力を様々な場面で発信してもらいたい」と語る。来訪者に競技だけでなく、地域の魅力を同時体験してもらうような取組を多数実施予定だ。
【パラアスリートとの交流】
アジア競技大会と同時に開催されるアジアパラ競技大会についても、開催都市として強い想いを抱いている。5年前の東京2020大会の際、パラリンピックはオリンピックと同様の盛り上がりを見せ、人々に多くの感動をもたらしたのは記憶に新しい。しかし、東京2020大会は原則無観客であったことから、直接パラスポーツを観戦する機会はほとんどなかった。そのため、有観客で開催される予定のアジアパラ競技大会では、「選手の熱意を肌で感じ、さらにパラスポーツそのものを楽しんでほしい。純粋にパラスポーツを楽しむことで障害に対しての共感、ひいては共生につながっていくのではないか。まずはたくさんの方にパラスポーツを観戦してもらいたい。」と髙橋氏は呼びかけている。
その言葉通り、愛知県ではパラスポーツに関する取り組みにも力を入れている。愛知県には様々な競技の実業団が拠点を置いており、地域交流に力を入れている団体も多いことから、市町村や地元のスポーツチームが主体となって、アスリートと地元住民とが交流できる機会も多い。一方、パラスポーツに関しては、「パラアスリートの方々とも交流する機会を提供したいが、誰に相談すれば実現できるかわからない」との声が地元自治体から上がっていた。これを受け、愛知県は日本パラリンピック委員会(JPC)や各パラ競技団体と協力して、パラアスリートによる地元小学校への訪問活動を実現し、パラアスリートとの競技体験や、経験を語っていただく出前授業を何度か開催した。「パラアスリートを前にして、子どもたちがどのような反応をするか、不安がなかったわけではない。」と髙橋氏は振り返る。しかしその心配は杞憂に終わり、パラアスリートと共に競技を体験し、話を聞いた子どもたちの目には、パラアスリートの姿がまるでヒーローのように映っていた。「言葉には上手く言い表せなくとも、パラアスリートと触れ合うことで、『パラアスリートのかっこよさ』、『パラスポーツのすばらしさ』を全身で感じ取っていた。」と髙橋氏は語る。パラスポーツを生で観戦してもらうことで、「パラスポーツ」を楽しみ、理解し、ひいては共生につながるきっかけにつながるのではないだろうか。

【アジア・アジアパラ競技大会のナレッジやレガシーの継承】
愛知県は競技によって県内競技団体の国際大会運営経験に大きな差があったことから、大会開催に向け、県の競技団体を対象に大規模大会運営の研修派遣を行った。国際大会や全国大会の運営現場に競技ごとにスタッフを派遣し、運営を直に学んでもらうことで大会の運営に活かすとともに、その経験を糧に競技団体の強化・発展につなげる狙いがあった。また東京2020大会経験者をはじめとしたさまざまな専門家を招いた講演会を実施することで、過去大会のナレッジを共有してもらう機会も提供した。今回のアジア・アジアパラ競技大会においても、組織委員会が研修派遣プログラムとして他自治体や競技団体をはじめとしたスポーツ大会の運営人材を受け入れることとしており、愛知県が先人から受け継いだナレッジを次の大会へ受け渡す役割を担うことができる。
また今回のアジア・アジアパラ競技大会は「既存施設の活用」という大会コンセプトのもと、必要な国際規格への準拠やアクセシビリティの改善はしつつも、大会終了後の施設の使用用途に合わせて必要かつ適切な改修を行っていることも特徴的である。施設整備の選択肢を「建てる」から「活かす」へと軸足を移すことで、大会終了後もできるだけ長く使い続けられるインフラとして残していくことを目指している。
また愛知県としてアジア・アジアパラ競技大会で培ったノウハウを残せるよう、工夫を凝らしている。現在はアジア・アジアパラ競技大会推進局を中心に大会準備を進めているが、推進局は時限的な部署であり、愛知県としてノウハウを残すには別の部署が引き継ぐ必要がある。そのため地域活性化ビジョンや、県内各部署が制定している中長期計画等にアジア・アジアパラ競技大会の運営を経て得た学びを反映し、大会後も愛知県全体でノウハウを引き継げるようにしていく。
いよいよ今年開催されるアジア・アジアパラ競技大会。選手、観客、関係者といった大会に関わる全ての人が一体となって作り上げた二つの大会の成功の先に、平和や共生社会の実現を目指している。
(聞き手:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社=神野・中山)
【インタビュー協力者】

髙橋 直美
愛知県アジア・アジアパラ競技大会推進局計画推進課 担当課長(計画・競技)
1991年愛知県入庁。医療、福祉、環境等様々な分野に従事。
2021年度からアジア・アジアパラ競技大会推進業務に従事し、競技大会を活用した地域活性化やアクセシビリティ・ガイドライン、都市ボランティア、観客の輸送・誘導等に携わる。
2024年度から現職。競技大会を活用した地域活性化や次世代育成、また競技会場のバリアフリー化等会場整備に関する分野などを統括する。