Contents 川本ひなた役 : 花澤香菜

TVアニメ「3月のライオン」の第1シリーズを終えて、どのような反響がありましたか?

「3月のライオン」という作品自体が、すごく幅広い世代の方々から支持を得ている作品なので、アニメでひなたちゃんを演じさせていただいてから様々な方々から、「いつも見ています」、「応援しています」といったお手紙を頂きました。

また、私の祖父はよく私が出演している作品を見てくれているのですが、いつも「どれが香菜の声か分からん」と言っているんです(笑)。でも、今回の作品はすごく見やすいみたいで、私がどの役を演じているか、ちゃんと理解して作品を見てくれているので、とてもうれしかったです。

そのような大きな反響の中で、今日もこれからアフレコということですが、どのシーンを収録なさるのでしょうか?

原作の中でひなたちゃんの担任の先生が倒れてしまう、というシーンがあるんですけど、今回はそこです。このシーンの中で、ひなたちゃん自身はすごく強い決心をしていて、いじめをしている子たちに少しも悪びれる様子がなく、生きて卒業しさえすればこっちの勝ちだ、という考えに至るんです。第2シリーズのアフレコに入るときにも、スタッフさん達から「今回はひなたちゃんがすごく大変だから頑張ってね」という声をたくさんかけていただきました。

そのような大変なシーンの多い第2シリーズについて、どのような思いで収録を迎えられたのでしょうか?

原作を読み込んで、ひなたちゃんの気持ちの、本当に近くまで行って演じなければ、という気持ちはいつもあります。第1シリーズでは、川本家はいつもほんわかして温かいというイメージなので、そのような気持ちで臨んでいました。でも、今回はひなたちゃんに幸せとはいえない出来事が襲ってくるので、実際にアフレコ現場に行く前は、例えば、幸せな気分になってしまうのでおいしいスイーツは食べないようにしたりとか、感情に訴えかけるような音楽を聴いたりしていました。

なるほど、自分の感情の状態が声に出てしまうんですね。そういうときは、おいしいパンも封印ですか?(笑)

そうですね(笑)。収録が終わった後はスタッフさんとおいしいご飯が食べられるので、それまでお預け、という感じです。

アニメキャプチャ

役を演じるためにものすごく準備をされているんですね。
ひなたちゃんを演じるにあたって、特に心がけていることはありますか?

ひなたちゃんは、すごく周りをしっかり見て、気遣える女の子なので、セリフを言ってないところでも、「あ、ひなたちゃん、ここではこの人のこと気にしてるんだろうな」と思うところは、なるべく自分も周りを見回して、気にしています。あとは、本当にかっこいい心の持ち主なので、心からひなたちゃんになりきってセリフを言わないと、ご覧いただく方にばれてしまうというのは意識しています。

花澤さんの視点で、ひなたちゃんはどのようなキャラクターですか。
特に第1シリーズのときに思っていたことや、第2シリーズに入って変化した点はありますか?

第1シリーズのときから、彼女は基本的には前向きで、明るくて、優しい女の子だと思っていました。でも、第1シリーズの中で、亡くなったお母さんを思って一人、川沿いで泣くシーンがあって、そのときに、ひなたちゃんは感情を少し抱え込んでしまう子なのかな、とも感じました。第2シリーズになって、彼女一人ではとても立ち向かえない出来事が起こるので、第1シリーズでの印象が大きく変わるというよりも、より内面が見えてきているのかな、と思っています。

いじめに立ち向かう中学生を演じられていますが、花澤さん御自身はどのような中学生でしたか?

小学校の頃は、元気な、人とのコミュニケーションを活発に取るような子供でした。

でも、私はずっと子役をやっていたんですが、小学校高学年になった頃に、お仕事に関して友達に尋ねられたことに素直に答えていたことを、「自慢された」と受け取る子たちがいたんです。それをきっかけに、言ったことを自分の思う通りには解釈してもらえないことがあるんだ、ということを実感してしまって、それ以来、自分の思いをすぐにストレートに表現することができなくなってしまいました。

それからは、相手はどう思うかなと反応を考えてから接するようになりました。中学校の頃は、人間関係で一番悩んでいた時期でした。別に、友達がいなかったわけでもないし、居づらかったわけでもないんですけど、何だかモヤモヤしていました。お仕事を続けてはいたんですが、それほど情熱があったわけでもないし、自分は将来何になりたいかもはっきりしていませんでした。だから、ひなたちゃんのような子を演じていると、ヒーローみたいだなぁ、とすごく思います。

いじめられていたな、という経験はありますか?

いじめられていた経験はないです。私のいたクラスでは、小学校・中学校を通じて、いじめは聞いたこともなくて、すごくさわやかな学校生活でした。ただ、孤立しそうな子をどうしたらいいかということを先生から相談されて、一緒に悩んだりはしていました。

アニメキャプチャ

アニメで出てくる先生とは対照的に良い先生に恵まれていた、ということですね。
世の中の9割の学校でいじめがあると言われているので、もしかしたらすごくラッキーだったのかもしれません。
ちなみに、「人の反応をうかがいながら接する」という性格は、今でも変わらないですか?

そうですね。でも、人の反応が気になるということが良い方向に働くこともあります。声優というお仕事は、人が何を求めているかを察して表現する、というお仕事でもあるので。キャラクターが何を考えているのかな、とか、作り手の方はどうしたいと思っているのかな、といったことを常に意識しますし、その意識を絶やさない、という面では役立っているな、と思います。でも、中学時代の「人見知り」という面はどんどん改善されてきました。お仕事を通じて、コミュニケーションで生まれるものもたくさんあるんだなあと感じたことが大きいです。

ひなたちゃんのようにいじめなどの障害に立ち向かうには、大変勇気がいることでないかなと思っているのですが、 花澤さん御自身が困難な場面に直面した際に心がけていることがあれば教えてください。

私、高い山を見ると、ワクワクしてくるんです。登れなさそうだけど、登れば見たことがないものが見えそうだなっていうときにすごく燃えるんですよね。なので、新しいことをするのって、すごく怖いし、たぶんいっぱい恥をかくだろうし、何度も心が折れるだろうしって想像がつくんですが、せっかく一回きりの人生だから、一回やってみた方が、楽しくなりそうって思うんです。なので、障害は楽しむという考え方に持って行ったりします。

ポジティブシンキングが大切ということですね。
ところで、川本家は本当に雰囲気の良い家族ですが、花澤さん御自身はいかがですか。

普段、自分の悩みなどを家族に話すということはあまりなくて、友達に話したりするだけなんです。でも、本当に大事なときや大きな決断をするときは、お母さんに相談していました。

実は、大学に入学が決まった段階で、お仕事を一回辞めて、違う道を探そうとしていた時期がありました。そのときに、声のお仕事もしていたんですが、今のマネージャーが「君の声は唯一無二のものだから辞めないで」って言ってくれたんです。でも、あと一歩が踏み出せなくて、お母さんに相談したら、「今すぐその人に電話しなさい、事務所に入れてもらいなさい」って言われて、それがきっかけで、今の事務所に入ることになりました。大事なときに背中を押してくれるのが家族だなと思っています。

最後に、ひなたちゃんのように、まさに今いじめと戦っている子供たちに、メッセージをお願いします。

私もひなたちゃんを演じながら、本当に胸が張り裂けるような思いでした。いじめられたときの思いは、やはり当事者じゃないと分からないと思うんです。本当は私がその場に行って、いじめっ子をぶっ飛ばしてやりたいけど、でもどうしても一人で立ち向かわなくてはいけないときは、ただ未来を向いて欲しいなと思います。転びそうになったら、そのときはひなたちゃんを心の中に思い出してもらえたら、そして彼女の言葉や姿が、勇気や励みになってくれたら嬉しいなって思います。

アニメキャプチャ

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