
お話を伺った先生

- 舟山 知美(ふなやま ともみ)
教頭。教員歴31年目。2024年度に同校着任。2023年に出席した、アジアの学生が集まる国際学生会議をきっかけに、インドの学生訪問団の小国町滞在・交流実現に奔走した。

- 長岡 郁子(ながおか いくこ)
保健体育科教諭。教員歴24年目。2015年度に同校着任。白い森未来探究学の草創期を知る一人。ワークショップ形式の教員研修を積極的に推進し「伴走型支援」を校内に広めている。

- 佐藤 喜紀(さとう よしのり)
数学科教諭。教員歴23年目。2021年度に同校着任。AI教材の導入や教科横断型授業の推進で力を発揮。生徒が自学自習する「マイプラン学習」の実践では先進校を視察し改善を重ねている。
生徒のグローカルな視点を伸ばす「白い森未来探究学」
本校は地域との協働を重視した「『地域学習』を推進し、生徒一人ひとりの挑戦を支援します。連携型中高一貫教育校の特色を生かしながら、郷土に愛着や誇りをもち、将来、グローカルな視点で地域創生に主体的に貢献する人材を育成します。」というスクール・ミッションを掲げています。
本校の大きな特色は、小国町と連携した特色ある学校づくりを行っている点です。2017年度には学校運営協議会制度を導入し、小国町や小国町教育委員会、小中学校、地域との連携を強化しています。
総合的な探究の時間「白い森未来探究学」は、2019年度から2021年度までの3年間、文部科学省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(地域魅力化型)」の指定を受けてスタートし、現在に引き継がれています。
グラデュエーション・ポリシーは、「郷土に誇りと愛着を持ち、学び続けながらより良い地域づくりに主体的に関わる生徒、健康で豊かな人間性を持ち、新たな価値創造に挑む生徒、多様性や個性を認め、他者を尊重しながら協働できる生徒」を育成することです。
地域に浸る体験から、興味・関心を広げ地域課題との接点を探る
3年間の概要は次のとおりです。まず、1年では「地域文化学」と題して地域に浸り、ありたい未来やロールモデルを見出します。また、コミュニケーションやプレゼンテーションなど探究の基礎となるスキルを学びます。2024年度は舟山教頭の人脈でインドの高校生との交流が実現しました。これは学年行事である国際理解研修と関連付けたもので、異文化をもつ人々と学校生活を送ることによって、視野を広げ、グローカルな視点で行動する力の向上につながったと思います。

ブナの森で知られる小国町の自然をガイドとともに体感。「白い森未来探究学」で「地域に浸る」第一歩になる。(提供:山形県立小国高等学校(小国町温平・森林セラピー))
2年では「地域実践学」において1人1テーマの「マイプロジェクト」を立ち上げます。定期的に他地域の小規模校とオンラインでつながり、探究のテーマについて交流する活動にも参加しています。4~6月は課題を整理し、7~12月は調査・研究と振り返りを循環させながらテーマを深めていきます。小国町の大人たちに、自分のプロジェクトの構想を話し、フィードバックをもらい改善していく「トーク・フォークダンス」を毎年開催しています。
自分の興味・関心を追究したいと考える生徒が多いので、それらとの接点を、地域でのフィールドワークから見出だせればよいと考えています。「この人のために何かしたい」「この前聞いた話なら自分もチャレンジできるかも」というきっかけをつかめるような地域活動をイメージしています。
3年の「地域構想学」は探究活動の集大成です。2年次と同じく個人プロジェクトですが、これまでの実践から得た成果を小国町に提案することをゴールとしています。これは3年間、「白い森未来探究学」でお世話になった小国町の皆さんへのお礼でもあります。

書道で交流する小国高校の生徒とインドの生徒(提供:山形県立小国高等学校)
「保小中高一貫教育」を掲げる小国町と県立高校が協働し探究をバックアップ
「白い森未来探究学」は地域との協働体制のもと発展してきました。本校のある小国町は、保育園や本校も加えた「保小中高一貫教育」をうたっています。町の総合計画には高校の魅力化や協働事業推進が盛り込まれており、町教育委員会には高校魅力化推進室が設置されています。こうした経緯もあり、文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」は、小国町が管理機関として受託することができました。町教育委員会が生徒と地域および地域の方々をきめ細かく結びつけてくださっています。
人口減少に危機感をもつ本町では「卒業しても町と関わり続ける卒業生、関係人口の増加」という願いがあります。また、本校は、生徒たちが地域課題にふれ、多様な大人たちからフィードバックをもらうことで、自分の学校や地域への誇りと自信をもってほしいという思いがあります。それらが合致し、高校と町とでともに実践をつくっていこうという協働感覚が生まれました。
3年間で行動力、発信力が向上。「動いて何かを変える」生徒が躍動
「白い森未来探究学」の成果として探究活動がカリキュラムの軸になることが、生徒にも教員にも認識されるようになりました。新カリキュラムの実施を機に、現在は総合的な探究の時間を全学年2単位で3年間実施しています。
本校は探究活動以外にも、さまざまな取組をしています。都道府県の枠を越えた国内留学生および県外からの志願者受け入れ、台湾への海外研修旅行、進学希望の生徒も含めたインターンシップ、全国の小規模高校の生徒による交流イベント「全国高等学校小規模校サミット」の運営・開催などです。

2024年7月に小国高校で開催された「第7回全国高等学校小規模校サミット」でのワークショップの様子(提供:山形県立小国高等学校)
こうした取組の結果、生徒たちは堂々と自分の考えを述べるようになり、「自分にも何かできるかもしれない」、「やってみたい」と自分の力を生かしたいと思う気持ちが育ち、行動力も高まっています。2024年度の探究では「自分が育った地域の名物である横浜の家系ラーメンを再現してみんなに食べてもらいたい」と、素材からスープや麺づくりに挑戦する県外出身の生徒、「地域のお年寄りたちの運動不足を解消したい」と、コミュニティセンターに出かけて地域の方と一緒にエクササイズをする生徒などがいます。
今後はさらに「自分が行動すれば何かが変わる」と生徒が実感できるようなカリキュラムにしていきたいです。そのためには、これまで積み上げてきた教育活動を精査することも求められます。2024年度、外部の有識者の方にご指導いただき、これまでの施策を「ロジックモデル」にして構造化してみました。最終アウトカムから逆算して、中間アウトカム、アウトプットや活動などを整理し、それぞれの関連性などを確認しています。
積み上げた実践をスクール・ミッション、スクール・ポリシーに照らして精選するフェーズへ
探究をはじめとするどの教育活動も、意義があって始まったことです。しかし、ビルド&ビルドだけでは高校教育としての持続可能性は保てません。スクール・ミッションとスクール・ポリシーに照らし合わせて、類似した教育活動であれば、重ねて実施するなど、カリキュラムを整理する必要もあります。
また、活動内容だけではなく、生徒の探究をどのように教員が支えていくかにもチャレンジしています。教員研修「白い森人研修」では、教員・高校魅力化コーディネーター・町教育委員会のスタッフらでチームビルディングや伴走型支援の研修を実施してきました。現在の個人探究はゼミ形式で、教員の問いかけや「伴走」の仕方はそれぞれ異なります。生徒一人ひとりに合った支援をするためにも、教員の指導力の向上を図り続けていきたいです。
探究で得た力を進路選択・進路実現につなげる教科指導をスタート
2022年度からは、ICTを活用した教科指導に力を入れています。白い森未来探究学や小規模校サミットなどの取組を通して、生徒たちには自己肯定感の高まりが見られ、主体的に考え、行動する課題解決能力が徐々に身についてきました。
次の課題は、生徒たちのこの強みを教科学習に反映させ、進路選択や進路実現につなげていくことです。本校の生徒の進路は、山形県内や近隣県への進学や就職など多様です。しかし、進路希望に応える個別性のある多様な対応を展開するには、人的リソースが不足しています。また、小規模校であることから、生徒同士の切磋琢磨の雰囲気も不足しがちです。
そこで、文部科学省の「新時代に対応した高等学校改革推進事業(創造的教育方法実践プログラム)」に応募し、遠隔やオンライン教育を活用した教科等横断的な学びを実践しています。「AI教材・学習システムの導入」「教科学習における個別最適な学び」「教科横断型授業」などを通して、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図りつつ、小規模校が共通に抱える課題解決をめざしています。
中学内容の学び直しにAI教材を導入、自学自習に活用する
AI教材・学習システムについては、生徒の1人1台端末に導入し、朝学習や授業への導入、自分で学習内容を計画する自学自習「マイプラン学習」で活用しています。1年では中学までの学習内容の学び直しを図る目的で、また2年では高校の内容の定着を目的として始めました。現在は進学を希望する3年生にも導入しています。
マイプラン学習は数学科で取り組み始めたのですが、初年度は生徒により進度の差が開いてしまったのが反省点でした。そこで、「自学自習で進める」「友達と相談しながら進める」「先生の説明を聞きながら進める」の3種の学習方法を示し、生徒が学び方を選ぶようにしたところ、一斉授業のときよりも落ち着いて学べる生徒が増えました。
AI教材は生徒が学びたいところを選べ、つまずきがあれば、さかのぼって学び直せる問題が出題されます。その点で生徒は積極的に問題を解く、授業以外の時間にも自主学習をするといった、学ぶ意欲の向上が見られました。
教員の発想を生かした教科横断型授業が、多面的に見る目を育てる
AI教材の導入とともに「教科横断型授業」もスタートしました。一つの教科で学んだことを別の教科の学びに活かし、さまざまな角度からものごとを考える力を伸ばすためです。2022年度は、可能な教科でチーム・ティーチングの特別授業を行い、その後、各教科で振り返りをしました。保健体育科と国語科の教員が担当した「がんを身近に感じる~経験者とのトークセッション」では、がん経験者をゲストティーチャーとして招き、生徒がインタビューする対話形式で進めました。話す・聞く力の育成とともに、健康や命について考える機会となりました。
2023年度は全教員が教科横断型授業に挑戦しました。複数の教科で共通する学習課題を設定し、教員は自分の担当教科の観点から授業をしました。また、「知識構成型ジグソー法」で学習を進めました。ジグソー法で実施した一例として、国語と理科の教科横断型授業があります。共通課題として「『健康に生きる』とはどういうことか」を設定し、国語科で「健康とは何か」、理科で「予防接種の仕組みと効果」というサブテーマを設定。それぞれの授業でエキスパート活動・ジグソー活動・クロストークを行い、最後に自分の考えをまとめました。
2024年度は教員でチームを組み、自由に教科横断型授業を構想してもらいました。教員から「どうしたら教科横断型授業を継続的に実践できるか」という課題があがっていたからです。それまでの方法に加えてより柔軟なスタイルも生まれました。例えば、生徒に複数の教科の観点から学んでほしい内容があれば、チーム内の教員がその時だけ授業に加わり、別の教科の観点から詳しく話をする、などです。英語科では英字新聞を用いて「英語×時事問題」の授業を行うなどオリジナルな授業も生まれています。
教科横断型授業に取り組んで、教員は他教科との関連を意識しながら、自分の授業を構想できるようになりました。ゲストティーチャーなど外部人材を招くことの心理的なハードルも下がったと思います。教員だけではなく、外部の人材が指導者として入ることは重要だと感じています。

教科横断型授業の一コマ。教科の枠を越えたテーマについて自分の意見を出し合う。(提供:山形県立小国高等学校)
3年間、試行錯誤した教科横断型授業でしたが、主体的に授業に参加する生徒の姿が見られるようになりました。通常の授業の振り返りでも多面的・多角的な視点から感想を述べる場面も増えています。本校ならではの教科横断型授業の枠組みができたので、今後も特色の一つとして継続できるのではと考えています。
教科横断型授業にしても、白い森未来探究学にしても、教職員は生徒の気づきや興味・関心を大事にし、内発的動機づけを大事にしてあらゆる方面からサポートして育てていこうと一丸となって頑張っています。その一貫したスタンスは本校の伝統です。生徒たちが主体性・挑戦心・協働力を伸ばし、本校で学ぶことに誇りをもてるよう、これからも小規模校の概念を変えられるような学校づくりを推進していきます。
※本記事の情報は取材時点(2024年12月)のものです。
山形県立小国高等学校
1948年に小国町唯一の公立高校として開校し、学科改編などを経て現在は全日制普通科を設置。「自律・忍耐・向上」を校訓とし、「挑め、ともに!」をメインテーマに「白い森未来探究学」、「白い森おぐに保小中高一貫教育」、「全国高等学校小規模校サミット」などに取り組む。2022年度からは、文部科学省「新時代に対応した高等学校改革推進事業(創造的教育方法実践プログラム)」の指定校となり、AI教材の活用や教科横断型授業を展開。小規模校ならではの機動力の高い教育活動が特色。