
お話を伺った先生

- 髙橋 宏太(たかはし こうた)
情報科学科長。大学卒業後、2016年度に同校数学科講師として着任。2017年度、情報科常勤講師。2019年度より情報科教員。2024年度より現職。
情報科学科の学びの柱は「プログラミング」「情報セキュリティ」「国家資格」
本校ではサイバー犯罪捜査官や高度なシステムエンジニアになれるような人材育成を目標に、2003年度より、情報科学科を設立しました。学びの柱は「プログラミング」「情報セキュリティ」「国家資格」の3つです。
プログラミングは1年3単位、2年4単位を必履修で設置。1年でC言語、2年でJavaの学習に力を入れて取り組んでいます。3年では選択科目も含めると5単位まで修得可能です。
情報セキュリティについては1年で知識や技術を習得し、2年で周囲へ伝える力を身につけるとともに、社会科と連携して知的財産権などの法律を学んでいます。
国家資格は、本校の学びの成果をわかりやすい形で示すこと、就職や進学で役立てることが目的です。1年では経産省のITパスポート試験を3月に受験。2年では基本情報技術者試験を受験します。さらに上を目指す生徒は応用情報技術者試験も受けています。かなり高度な資格ですが、2023年度は2人合格しました。
4種類のラボから選択 興味・関心に合わせた課題研究
1、2年で情報の基礎を身につけた後、さらに深めたい学びを選択するのが3年必修の課題研究です。課題研究では、4つのラボ「情報科学・ラボ」「情報セキュリティ・ラボ」「コミュニケーション・ラボ」「情報メディア・ラボ」を用意。大学の研究室とも連携して進めています。
情報科学・ラボではVR研究(VRアプリ制作)やシミュレーション研究(Pythonプログラミング)、3D研究(CADでものづくり)、サイエンス研究(情報学、統計学、物理学の融合分野)、Web研究(アプリ開発)、LEGO研究(LEGOのプログラミング制御)を行います。チーム別に、岩手県立大学ソフトウェア情報学部や山形県立酒田光陵高校、大阪工業大学情報科学部や京都コンピュータ学院などと連携しており、特別講義を受け、研究室訪問を行っています。高校から専門的な内容を学ぶなかで卒業後の進路が明確になる生徒もいるようです。

情報科学・ラボのWeb研究チームが連携している専門学校の教員から特別講義を受けている。(提供:京都府立京都すばる高等学校)
情報セキュリティ・ラボでは、2年で履修する情報セキュリティの学習をさらに発展させた内容を行います。生徒は、情報セキュリティの観点で顔認証の仕組みや偽サイトについて研究しています。
コミュニケーション・ラボには啓発活動班とグローバル班があります。啓発活動班では2024年11月、本ラボ所属の13人が京都府警察サイバー対策本部サイバー企画課より「京都府警察CYCOT」登録通知書を交付していただきました。京都府警察CYCOTとは学生によるサイバー防犯ボランティアの総称で、本校では2017年以来、参加しています。グローバル班では、情報を学ぶ海外校や情報教育事情等のフィールドワークや調査が中心です。台湾の台北市立士林高級商業職業学校とオンライン交流をしたり、平安女学院大学の先生に講義をしていただいたりしています。

「京都府警察CYCOT」登録通知書を交付されたコミュニケーション・ラボの生徒たち(提供:京都府立京都すばる高等学校)
情報メディア・ラボでは、情報技術を用いたデザインに関する学習を行います。各自の活動を報告書にまとめ、例年、1月中旬頃に2、3年生を対象に発表します。2年生は先輩の活動報告を聞き、自分の選択科目の参考としています。
スーパー・プロフェッショナル・ハイスクールをきっかけに大学等連携が進む
大学連携が活発になったのは、2016年度からの3年間で取り組んだスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)事業がきっかけです。さまざまな大学などとのつながりができ、それを現在も継続しており、3年課題研究での連携のほか、生徒は各大学のイベントにも積極的に参加しています。
京都府警察サイバー対策本部と立命館大学情報理工学部、京都女子大学現代社会学部が共催する「Anti Cyber-crime Café 2024」には全学年から12人が参加しました。これはサイバー犯罪から人々を守るためのアイデアを競うアイデアソンです。
京都産業大学情報理工学部が主催する「デジタルものづくり体験ワークショップ」には情報科学科1、2年生が参加し、CADソフトの実習をしたり、レーザーカッター等デジタル工作機器の説明を受けたりと普段の授業とは違う学びを体験することができました。
IT専門職育成を加速化する5年間のカリキュラムづくりに協力
情報系人材育成に力を入れる高校として一定の成果を積み上げていると考える一方で、大学や専門学校に進学した生徒からは「大学1年次はすばる高校で学んだ内容と重なる」「すばる高校のプログラミングのレベルの高さを感じる」という声も届いており、IT人材の育成は急務であるにもかかわらず、学びの重複により意欲が下がるという新たな課題を感じていました。
本校のような学びをした生徒にとってどのような進路が最適なのかと考えていたとき、文部科学省事業「専門学校・高等学校連携による中核的IT専門職人材の加速型育成プログラムの開発・実証」(2021~2025年度)を一緒に行わないかとお声がけいただいたのが、京都コンピュータ学院です。目的は専門学校の学びを高校の学びと重複することなくIT専門職育成を加速化する5年間(高校3年+専門学校2年)のカリキュラムづくりです。
京都コンピュータ学院と本校で検討メンバーを選出し、本校の3年間でどのような学びをしているのか、進学時にはどのような学びがいつ重複しているのかを整理。重複した内容の代わりに京都コンピュータ学院の2年次に企業インターンシップを行う、より高度な資格取得を目指すなどを検討しているところです。
課題もあります。高校で履修したとしても理解度のレベルに個人差がある点です。そこで、入学前に面談を行い、必要に応じて入学前学習を行うことを考えています。
専門学校教員が授業づくりに協力、資格取得も支援
本校の生徒のためのカリキュラムを作成しても、京都コンピュータ学院に進学する生徒が少ないと効果の検証が難しくなります。そこで同学院と積極的に授業交流を行っています。同学院の教員が月1~2回程度、本校の授業に参加したり、長期休暇中に特別講義を実施したりしています。また、同学院主催のイベントには、本校から多くの生徒が参加しています。

月に数回程度、京都コンピュータ学院の教員が通常授業に参加している。(提供:京都府立京都すばる高等学校)
夏休みにはWebプログラミングやWebアプリの開発講座、スーパーコンピュータ「富岳」の見学を実施。見学には教員も参加し、大きな刺激を受けました。生徒のなかには、将来はスーパーコンピュータに関わる仕事に就きたいと新たな夢を抱く者もいたようです。冬休みには、生成AIをテーマに、遠隔によるハイフレックス型授業でグループワークを体験しました。いずれも自由参加ですが、年々参加者が増えています。
また、京都コンピュータ学院が作成したITパスポート試験対策の動画教材や試験対策アプリを本校の生徒が利用することにより、合格者が以前よりも増えました。どれも、連携したからこそ実現できた取組です。

京都コンピュータ学院との連携で、スーパーコンピュータ「富岳」を見学した。(提供:京都府立京都すばる高等学校)

生成AIをテーマに京都コンピュータ学院と遠隔でグループワークを行った。(提供:京都府立京都すばる高等学校)
情報科学科で学んだ生徒の進路を拡げる
高度IT人材の加速化に向けて多くの大学で情報に関する学科が設立されています。しかし「IT人材の裾野を拡げる」という目的で設置されている場合、本校での学びをさらに深められるのか、という不安もあります。
本校での学びをさらに深化できるよう、さまざまな大学の研究室と連携した学びをかねてより進めていますが、生徒を安心して送り出すことができる場の一つとして専門学校があることで、進路の選択肢が拡がると考えています。授業交流やイベント参加などにより「大学進学一択」だった生徒や保護者も、そこでどのような学びが可能なのかを考えて進路選択を検討できるようになり、第一志望や第二志望の選択肢として京都コンピュータ学院を考え始めている生徒も増えています。
5年間のカリキュラム連携としては、2024年度の卒業生が京都コンピュータ学院の1期生となりますので、成果はこれからです。この取組がうまくいけばデジタル人材育成の加速に寄与するモデルプランにもなり得るのではないかと考えています。
※本記事の情報は取材時点(2024年11月)のものです。
京都府立京都すばる高等学校
1985年に京都府立商業高等学校として開校し、2003年度より「商業」と「情報」に関する専門高校 京都府立京都すばる高等学校として再編。サイバー犯罪捜査官や高度なシステムエンジニアになれるような人材育成を目標に、情報科学科を設置した。2016年度から文部科学省のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール指定校。DXハイスクール採択校。