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兵庫県立佐用高等学校

食、高齢者支援、防災の3つを軸に地域と連携する兵庫県立佐用高等学校。地元に貢献し地元に支えられる「深い結びつきの協働」とは

  • 取材・文:笹原風花
  • 写真:前田立
  • 編集:藤﨑竜介(CINRA)
  • 素材提供:兵庫県立佐用高等学校

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兵庫県立佐用高等学校の家政科は、文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」の研究指定校に選ばれ、2020年度から3年間、「食」などをテーマに地域との連携を進めました。生徒が特産品を使いオリジナル商品を開発するなど、具体的な成果が生まれています。 特筆すべきは、指定終了後も活発な取組が続いていること。2023年度から佐用町が予算の一部を充てるなど、資金面を含め地域から積極的な支援を受けていることが、継続の一因だといいます。 家政科長の岩﨑由香子先生と校長の大塚幹典先生に、地元に貢献しつつ地元に支えられる「深い結びつきの協働」について聞きました。

お話を伺った先生

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岩﨑 由香子(いわさき ゆかこ)

家政科長。この記事で取り上げる地域協働プロジェクトの責任者。

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大塚 幹典(おおつか みきのり)

校長。2023年4月に佐用高等学校校長に就任。

高齢化や防災など地域課題の解決につながる人材育成に挑戦

──はじめに、取組の主旨と経緯を聞かせてください。

岩﨑 由香子先生(以下、岩﨑):地域との協働に向けて、まずは地域の課題や求める人材像を把握するために、佐用町長にヒアリングさせてもらいました。その内容を基に、「佐用の特産品を活用する」「佐用で暮らす人を守る」「佐用の水害から学ぶ」を3本柱として、地域を支える人材の育成に向けたカリキュラムを作成することになりました。

「佐用の特産品を活用する」では、地元の食材を使ったオリジナル商品の開発や販売活動、「佐用で暮らす人を守る」では生徒による高齢者の訪問や食生活改善レシピの考案、「佐用の水害から学ぶ」では非常食の開発や防災訓練などを進めました。

──佐用町は、2009年に深刻な水害を被ったそうですね。

岩﨑:はい。防災をリードできる若い人材は、この地域で強く求められています。それから、佐用町は高齢化率が4割強。深刻さが増す高齢化の問題も、取組に反映されています。

岩﨑 由香子先生

岩﨑 由香子先生

こうした課題を踏まえて、活動を通して生徒に身につけてほしい力や考え方を明確化していきました。具体的には、課題発見・解決力、調査・分析力、情報発信力、プレゼンテーション力、コミュニケーション力、企画力、表現力、調理技術、ふるさと意識、ボランティア精神などです。

──カリキュラムに落とし込む際には、どのような工夫をしましたか。

岩﨑:島根大学や兵庫教育大学の教授から助言を得つつ、カリキュラムや授業内容を構築していきました。家政科の教育について専門的な知見をもつ先生もいて、とても心強いものでした。取組開始時に地域との協働に向けたコンソーシアムを立ち上げたのですが、いま述べた大学や佐用町、佐用町教育委員会、食品加工事業者などさまざまな組織が快く参画してくれて、協力体制をつくれたのが良かったのだと思います。

地域住民の喜びに直に触れることで生まれる、やりがいと自己肯定感

──実際、授業はどのようなものになったのでしょうか。

岩﨑:例えばオリジナル商品の開発では、食材の生産者や加工事業者、管理栄養士などを迎えて、プロジェクトに参加してもらいました。佐用町の特産品や商品企画に関する知識をインプットしたうえで開発に取り組むのですが、プランニングの部分はそうした外部参加者と生徒に任せて、わたしたち教員は見守りに徹しています。

最初は受け身だった生徒も、だんだん主体的に考えて意見を出したり行動したりするようになり、見ていて驚かされることが多々ありました。「夢茜トマト」「佐用もち大豆」といった地域の特産品を使ったジャム、ミートソース、スープ、大豆バーなどを開発し、実際に販売するところまで生徒主体で行ないました。

夢茜トマトと佐用もち大豆を使ったミートソース(提供:兵庫県立佐用高等学校)

夢茜トマトと佐用もち大豆を使ったミートソース(素材提供:兵庫県立佐用高等学校)

開発したオリジナル商品を生徒自ら販売(提供:兵庫県立佐用高等学校)

開発したオリジナル商品を生徒自ら販売(素材提供:兵庫県立佐用高等学校)

また、健康寿命の延伸をテーマに行なった、生徒が地域の高齢者世帯を訪問して交流する「高校生訪問サービス」も、意義深い取組になりました。年3回(2023年度実績)、生徒がペアになり高齢者の家を訪れます。自己紹介から始まり、高齢者が求めていることを聞き取り、学校に持ち帰って、次の訪問までに自分たちで何をするかを考えて準備します。

生徒がペアで地域の高齢者と交流(画像提供:兵庫県立佐用高等学校)

生徒がペアで地域の高齢者と交流(素材提供:兵庫県立佐用高等学校)

何も知識がない状態では、生徒も何をすればいいかがわからないので、特に1、2年生の授業ではインプットの機会を多く設けています。町の健康福祉課や社会福祉協議会の方に授業に入ってもらい、高齢者と接するうえで必要な知識や注意点を学びます。インプットしたうえで実践するのが効果的だというのは、試行錯誤するなかで気づいたことです。

わたしたち教員にとっても学びの多い3年間でした。

ちなみに、この高校生訪問サービスは高齢者の間でとても好評で、「楽しかった」「次はいつ来るの?」と喜んでもらえることで、生徒もやりがいを感じ、自己肯定感の向上につながっています。

──防災についても聞かせてください。

岩﨑:教員が主体になっていた防災の取組を、生徒主体かつ地域と連携したものに変えました。その1つが「KIZUNA大作戦」と名づけたプロジェクトです。まず地域の災害対応力を底上げするためにすべきことを、生徒に考えてもらいました。

そして非常食をつくるワークショップ、カードゲームで防災知識を学ぶ体験型の講習、ドローンを使った避難訓練、被災時の心身衰弱を想定した高齢者向けフレイル予防体操などを、生徒が地域の関係者らと連携して企画・実施しました。

防災の取組を生徒主体に転換(提供:兵庫県立佐用高等学校)

防災の取組を生徒主体に転換(素材提供:兵庫県立佐用高等学校)

「物怖じせず門戸を叩く」ことから始まる地域連携

──研究指定は2022年度に終わりましたが、取組の継続にあたってどのような課題がありましたか。

岩﨑:3年間を通して改善を重ね、ようやく体制を構築できたところだったので、ぜひ継続させたいと考えていました。最大の課題が、資金面です。ほかの助成金に申し込むか、規模を縮小するか……と試行錯誤していたところ、「地域連携の良い取組なのでぜひ支援したい」と、佐用町が申し出てくれて。普通科、農業科学科も含めた佐用高校全体と佐用町の協働事業というかたちで、町の予算の一部を充ててもらえることになったんです。

──佐用町独自の事業として予算に組み込まれたのは、大きな進展ですね。

大塚 幹典先生(以下、大塚):コンソーシアムの会議で岩﨑先生のプレゼンや生徒による活動報告を町長らが直接聞いて、意義を実感してもらえたことが大きいと思います。それから少子化により生徒数が減少するなか、佐用郡内唯一の高校として存続を願う思いが地域側にも強く、期待を込めての支援なのだと理解しています。

大塚 幹典校長先生

大塚 幹典校長先生

──2023年度はどのように取組を継続・発展させたのでしょうか。

岩﨑:地域や外部の方々に引き続き協力をしてもらえて、2022年度までの取組はほぼそのまま継続できました。加えて、町からの新たな要請を受けて、JR姫新線の利用促進プロジェクトも始動しました。

──ローカル路線の利用者減は存続問題につながりますし、重い地域課題ですね。

岩﨑:その通りです。部活動としてボランティア活動などを行なうJRC部が中心になって、家政科だけでなく普通科の生徒も多く参加しています。旅行者向けの記念品を作成したり、佐用駅前のカフェで「高校生カフェ」を開いて家政科の生徒がつくったシフォンケーキを販売したり、生徒起点のPR活動を展開しています。

それ以外でも、地元の日本語学校で学ぶ海外出身者の方々との交流が始まるなど、活動の幅が広がりつつあります。

日本語学校に通う海外出身者らとともに、日本食の調理法を学習(提供:兵庫県立佐用高等学校)

日本語学校に通う海外出身者らとともに、日本食の調理法を学習(素材提供:兵庫県立佐用高等学校)

──地域との協働をうまく進めるためのコツはありますか。

岩﨑:わたしたちも最初はどうしたら地域とつながれるか、模索していました。突破口になったのが、町の役場に相談を持ちかけたこと。こちらから話をすると、町としても高校とのつながりを求めていたとのことで、スムーズに話が進みました。郡内唯一の高校ということもあり、地域を支える人材を育てるうえで連携が不可欠だと考えてくれていたようです。

アプローチしてみないとわからないものですよね。なので、コツというほどではないですが、「物怖じせず門戸を叩く」ことが大事なのだと思います。

現在は、地域と学校を結ぶアドバイザーの方がいて、その方を通じても、地域の方々とつながることができています。

生徒の主体性を育むため、「口出しをしたくてもグッと我慢」する

──取組がスタートして4年目を終え、生徒の変化や成長についてどのように感じていますか。

岩﨑:教員以外の大人との協働や成果発表の場を通して、課題に対して自ら考えて動く主体性や企画力、自分の思いややりたいことを相手に伝える表現力、コミュニケーション力などが格段に高まったと感じます。3年生は就職や進学で自己PRをすることが増えますが、そんな場面で成果が如実に現れるんです。

特に大きいのが、多くの生徒が体験したことを自分の言葉で話せるようになっていること。それができると、話す内容に濃さや説得力が生じますから。

大塚:それから、生徒へのアンケートで、地域の魅力に対する理解度や愛着が高まっていることもわかりました。正直に言ってしまうと、かつては理解度や愛着が高くない生徒が、もっと多かったんです。

地域を知り地域に暮らす人たちと交流したことをきっかけに、受け止め方が大きく変わったようです。

兵庫県立佐用高等学校

──生徒の主体性を育むうえで、先生たちはどのようなことを大事にしていますか。

岩﨑:できるだけ口出しをせず、生徒の自走を促すことです。生徒が自分の考えをうまく言語化ができずにいるときなどは、つい代弁したくなってしまうのですが、そこで教員が何かを言うと、生徒は頼るようになってしまうんですよね。

ですから、口出しをしたくてもグッと我慢して、傍らで見守るようにしています。生徒は時に苦しみますが、この言語化の壁を乗り越えることで、格段にコミュニケーションができるようになります。

教員が変わっても続く取組にするため確立した、佐用高校流PDCAサイクル

──現状の課題とそれを乗り越えるための対策について聞かせてください。

岩﨑:課題は、取組の持続可能性をいかに高めるかです。立ち上げ時はわたしが中心になって動いていましたが、2年目以降は、異動などでわたしがいなくなっても取組が持続するように、ほかの教員たちにも担い手になってもらうことを意識してきました。

どの教員が担当しても円滑に指導できるよう言語化したのが、わたしたちなりのPDCA(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善)サイクルです。Pでは生徒と一緒に考えつつ「待つ」、Dでは「見守る」、Cではともに振り返って「褒める」、Aでは「あらためて期待を伝える」ことを大事にしています。生徒の自走を促すことを強く意図して、設計しました。

この指導法をベースにしつつも、教員それぞれの発想も大事にしています。若い先生たちからアイデアが出てきたときは、「それはできない」「ダメだ」と蓋をするのではなく、どうしたらできるかを一緒に考える。前例踏襲だけでは、発展しませんからね。

そのために、普段から教員同士が密にコミュニケーションをとってサポートし合うことを意識しています。地域と協働していくなかで、若い教員の力も高まってきていると感じます。

──最後に、今後の展望を聞かせてください。

岩﨑:コロナ禍では難しかったことも、2023年度にはかなりできるようになりました。持続可能な取組になるよう努めつつ、これを完成形とは思わず、新しいことにどんどん挑戦していきたいです。

大塚:家政科の取組の成果や指導メソッドを、可能な範囲で普通科や農業科学科にも広げていきたいですね。普通科ではカリキュラム上、時間の制約が多いですが、例えば総合的な探究の時間で地域の課題を掘り下げたり、また生徒会やJRC部と地域の協働活動を促したりして、連携を深めていきたいと思います。
※本記事の情報は取材時点(2024年3月)のものです。

兵庫県立佐用高等学校

1906年に創立した、兵庫県佐用郡において唯一の高等学校。現在は、郡外から通う生徒も多い。普通科、農業科学科、家政科の3科を擁し、地域や国際社会に貢献できる「グローカル人材」の育成を目指している。校訓「自主独立・敬愛協力・創造工夫」に基づき、「明るくいきいき夢を育む佐用高校」をスローガンに掲げる。