【特別コラム】「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)(令和6年5月)
〔初等中等教育局財務課長 安井順一郎〕
〔初等中等教育局財務課長 安井順一郎〕
中央教育審議会初等中等教育分科会「質の高い教師の確保特別部会」では、令和5年5月の文部科学大臣からの諮問以降、教職の魅力を向上させ、教師に優れた人材を確保するために教師を取り巻く環境整備について計13回にわたり議論を積み重ね、その成果として、令和6年5月、「審議のまとめ」が取りまとめられました。
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/099/mext_01759.html)
このたび、この「審議のまとめ」の考え方を学校現場の先生方をはじめ、広く社会の方々に理解をしていただけるよう、「審議のまとめ」の考え方を簡単にまとめた資料を作成しました。(https://www.mext.go.jp/content/20240524-mxt_zaimu-000035904_8.pdf)
「審議のまとめ」のポイントは、学校教育の質の向上を通した、全ての子供たちへのより良い教育の実現のため、①学校における働き方改革の更なる加速化、②学校の指導・運営体制の充実、③教師の処遇改善を一体的・総合的に推進するべきとしていることです。
こうした「審議のまとめ」の全体像を分かりやすく示すとともに、よくある以下の質問に対するQ&Aも掲載していますので、是非御覧ください。
Q1 教職調整額を引き上げるだけでは働き方改革は進まないのではないですか。
Q2 給特法を廃止しないと長時間勤務の実態は変わらないのではないですか。
Q3 教師の処遇改善よりも、先生の数を増やすことの方が大事なのではないですか。
本資料も活用しつつ、「審議のまとめ」の内容を広く社会にわかりやすく情報発信するとともに、提言に盛り込まれ具体策の実現へ向けて検討を進めることによって、社会全体で学校や教師を支え、教育という営みそのものに対する敬意が自ずと生まれる社会を目指します。
本コラムでは、以下、「審議のまとめ」の考え方についてもう少し詳しく御紹介します。
日本の学校教育は、知・徳・体にわたる全人的な教育を提供していることが国際的にも高く評価されていますが、これは全国の優れた教師の献身的な努力に支えられた成果でもあります。また、学校が対応する課題が複雑化・困難化する中、保護者や地域からの期待も高いことから結果として学校や教師の負担が増大してきた実態もあります。加えていわゆる「教師不足」の状況も憂慮すべき状況にあり、教師志願者の拡大のためにも教職の魅力を向上していくことが急務です。
その中で、子供の学びを支える教師は公教育の要であり、教師の質や量は子供たちへの教育の質に直結することから、教師を取り巻く環境整備は、我が国の未来を左右する重要な課題となっており、教師を取り巻く環境の抜本的な改革が必要だとしています。
具体的には、以下の3つの柱に基づく施策を一体的・総合的にすることが提言されています。
平成31年の「学校における働き方改革答申」以降、給特法改正による「上限指針」の策定や、教職員定数の改善、支援スタッフの配置拡充、ICTによる業務効率化等を推進してきた結果、教育委員会における取組も着実に進み、教師の時間外在校等時間の減少という成果が上がっています。
一方、依然として時間外在校等時間が長い教師が多いという課題や教育委員会や学校における取組状況の差が見られるという課題もあります。そのため、各学校、各教育委員会において現状を客観的に把握した上で、必要な取組を推進するべき段階であるとして、
①客観的な在校等時間の把握や取組状況の公表などによる「見える化」を通じ、PDCAサイクルを構築すること
②「学校・教師が担う業務に係る3分類」の徹底
③「勤務間インターバル」の推進などによる健康・福祉の確保と柔軟な働き方改革の推進
といった内容が盛り込まれています。
多様化・複雑化する教育課題に対応し、新たな学びを実装していくことで教育の質を向上させていくとともに、教師を取り巻く環境を整備していくためには、持続可能な指導・運営体制の構築が必要です。
そのため、
①学びの質の向上と教師の持ち授業時数軽減につながる小学校中学年の教科担任制の推進
②若手教師が専門職として成長をしていくことができるよう、講師経験のない新卒1年目の教師をはじめとする若手教師への支援充実
③生徒指導担当教師の配置充実
④学校横断的な取組についての連携・調整機能や若手教師への支援を可能とする組織的・機動的なマネジメント体制の構築のための「新たな職」の創設
⑤支援スタッフの配置充実
⑥幅広い人材の参加促進による多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
といった内容が盛り込まれています。
「3.働き方改革の更なる加速化」と「4.学校の指導・運営体制の充実」の取組を通じて、教師の業務負担の軽減と時間外在校等時間の縮減に取り組むこととしています。
教師の処遇については、人材確保法に基づく改善が行われ、昭和55年には一般行政職に比べて教師の処遇は大幅に優遇されていました。しかしその後、相対的に優遇分が減少し、現在ではその優遇分はごくわずかになっています。教師の職務の特殊性や重要性等を踏まえ、教師に優れた人材を確保するためには、人材確保法による処遇改善後の一般行政職に比した優遇分の水準以上を確保する必要があります。そのための具体策として、
①教職調整額の率を少なくとも10%以上にすること
②「新たな職」に対応した新たな級を創設すること
③職務の負担や重要性の大きい学級担任について、手当を加算すること
④学校運営において重要な役割を果たす管理職の手当を改善すること
などが盛り込まれています。
「審議のまとめ」は、教師は学びの高度専門職であるという前提の下、日々変化する目の前の子供たちに臨機応変に対応する必要があるという教師の職務の性質に照らし、教師がその専門性を最大限に発揮して子供たちへの教育を行うことができる環境を整備しようというものです。「3.学校における働き方改革の更なる加速化」「4.学校の指導・運営体制の充実」「5.処遇改善による教職の魅力化」の3つの施策は、相互に密接な関連を有するものであり、一体的・総合的に推進していくことが必要です。
この実現のためには、予算上、法制上の措置が必要となりますので、文部科学省としても努力してまいりますが、教育委員会や学校関係者の皆様におかれましても、教育予算の確保を通じた教師を取り巻く環境整備に向けて、引き続きの御支援と御尽力を何卒、宜しくお願い申し上げます。
03-5253-4111