初中教育ニュ-ス(初等中等教育局メ-ルマガジン)第455号【臨時号】(令和4年12月23日)

[目次]

【特別コラム】「教員勤務実態調査を踏まえた教師を取り巻く環境の在り方の検討」
〔初等中等教育局財務課長 村尾 崇〕

【特別コラム】「教員勤務実態調査を踏まえた教師を取り巻く環境の在り方の検討」

〔初等中等教育局財務課長 村尾 崇〕

1.はじめに

 今年度、文部科学省において教員勤務実態調査を実施しており、その結果や、学校における働き方改革のこれまでの取組と成果等を踏まえ、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)等の法制的な枠組みを含めた教師の処遇等の在り方を検討することとなっています。
 調査結果は来年春頃に速報値の公表が見込まれており、その後具体的な検討を進めることになりますが、今後の検討を円滑に進めていくため、今月、文部科学省では有識者や関係者で構成する調査研究会を立ち上げ、関連する情報収集や論点整理を進めることとしました。
 学校における働き方改革を含む教師を取り巻く環境の見直しが、近年、教育における大きなテーマの一つであり続けています。
 その本来的な目的は、専門職である教師が子供たちに効果的な教育活動を行うことができる時間を確保し、教育の質を向上させながら、何より、学校の持続可能性を確立することにあります。特に、多様化、想定以上に急激に進む超少子化、教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応など、世の中全体が転換期にある中で、学校や、そこにおける教育も変容が迫られており、その中核を担う教師を取り巻く環境をアップデートし、持続可能な学校の組織・運営体制を確立していくことは喫緊の課題です。
 本稿では、本件に関する経過や最近の状況を振り返りつつ、来年以降に想定される動きについて、整理しておきたいと考えています。

2.これまでの経過

 平成28(2016)年度に実施した教員勤務実態調査の速報値公表等を踏まえ、平成29(2017)年に学校における働き方改革について中央教育審議会で審議を開始して以降、国・教育委員会・学校のそれぞれにおいて、様々な取組が進められてきました(調査等を踏まえた当時の推計では、1か月あたりの時間外勤務は小学校で約59時間、中学校で約81時間。)。
 国においては、令和元(2019)年、①1か月の時間外在校等時間を45時間以内と定めた学校の教師の勤務時間の上限ガイドラインの法に基づく指針への格上げ、②休日の「まとめ取り」のため1年単位の変形労働時間制を地方公共団体の判断により条例で選択的に活用可能にすること等を内容とする給特法改正を行ったところです。なお、その際の国会審議においても、勤務時間の内外を問わず包括的に評価して教職調整額を支給し、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとする仕組みも含めた給特法の基本的な枠組みを前提に、働き方改革の様々な取組を進めた上で、3年後に勤務実態調査を再度実施し、その結果を踏まえて給特法等の法制的な枠組みを含めて検討する旨、政府からは繰り返し説明していました。
 給特法改正と並行して、令和3(2021)年度以降の小学校の学級編制基準を引き下げた35人学級の計画的整備や、令和4(2022)年度以降の小学校高学年における教科担任制の推進のための専科指導教員の配置充実など、教職員定数の改善が図られています。
 このほか、①教員業務支援員をはじめとする支援スタッフの拡充、②部活動の見直し、③教員免許更新制の発展的解消、④校務のデジタル化等の学校DXの推進、⑤「全国の学校における働き方改革事例集」の策定などによる好事例の展開など、ここ数年、働き方改革に関連する様々な取組を総合的かつ集中的に進めてきたところです。
 また、各教育委員会における勤務時間の客観的な把握の徹底や教職員任命権者・学校設置者としての各取組の推進、各学校における学校の伝統として続いているが必ずしも適切といえない業務や本来は家庭や地域社会が担うべき業務の見直し・削減などが実施されてきました。
 こうした取組に関し、学校現場からは、「管理職も勤務時間管理を以前よりかなり意識するようになった」などの肯定的な声や、ICTや教員業務支援員の活用、行事の見直しなどによる業務改善の工夫もみられる一方で、新型コロナウイルス感染症への対応や臨時的任用教員の不足なども相まって「十分な効果が実感できない」といった声が聞かれることがあるのも事実です。そのような現状がある程度透けてみえるのが、本日、文部科学省から公表した令和4年度の「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」結果です。

3.令和4年度「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/uneishien/detail/1407520_00010.htm
 この調査は、全国の約1,800教育委員会における学校の働き方改革の取組状況を毎年、把握することで、不定期・抽出で対象校の状況や教師の詳細な勤務内容を把握・分析する勤務実態調査のような精緻さはないものの、おおむねのトレンドを把握して経年比較することで、政策に生かすために実施しているものです。また、市区町村別の公表や取組事例の紹介等についても併せて行っています。
 客観的な方法で勤務実態を把握している教育委員会は全体の9割を超え、様々な取組の前提となる適正な現状把握が全国的に進んでいますし、学校と保護者等間における連絡手段のデジタル化について、都道府県・政令市において90%以上、市区町村は、昨年度から大きく伸び、80%以上で実施されるなど、学校・教師の業務の見直しは全体としては進んでいます。
 時間外勤務に関しては、今回の調査結果からは昨年度と同様に、継続して改善傾向にあることがみてとれます。例えば、「時間外勤務月45時間以下の割合」を令和元(2019)年度と令和4(2022)年度の4月から7月までの平均で比較すると、小学校で51.5%(R1)→63.2%(R4)、中学校で36.1%(R1)→46.3%(R4)と上昇しており、4月から6月までのみを調査対象としていた平成30(2018)年度も含め一貫して改善傾向にあることから、働き方改革の成果は一定程度出ていると考えられますが、一方で依然として長時間勤務の教職員も多い状況です。
 教師が教師でなければできない業務に集中できる環境整備について、国において予算面を含めて取組を加速させていきたいと考えていますし、教育委員会・学校それぞれにおいても更に取組を進めていただきたいと思います。

4.令和5年度予算案

https://www.mext.go.jp/content/20221223-mxt_kouhou02-000024735_1.pdf
 本日、令和5年度予算案が閣議決定されました。
 教職員定数に関しては、①令和7年度まで学年進行に合わせて実施される小学校35人学級の段階的な整備(4年生分)、②令和8年度までかけて実施される障害のある児童生徒への通級指導や外国人児童生徒への日本語教育等の充実、③本年度から4年程度かけて進める小学校高学年の教科担任制を推進するための専科指導教員の計画的な配置の充実などの計4,808人の定数改善が盛り込まれています。
 また、2,300人の拡充を図る教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)をはじめ、スクール・カウンセラーやスクール・ソーシャルワーカー、部活動指導員、医療的ケア看護職員などの教師以外の支援スタッフの充実を図っています。さらに、一人一台端末の本格的な活用に伴う事務負担軽減等のため、今月成立した令和4年度第2次補正予算と合わせて、都道府県中心の広域連携の枠組みを発展させ、GIGAスクール運営支援センターの機能強化を図ることとしています。

5.令和4年度教員勤務実態調査

 前回の平成28(2016)年度調査と比較できる形で本年度に勤務実態調査を実施し、最新の教師の勤務実態や学校における働き方改革の進捗状況をきめ細かく把握することとしており、調査は抽出により、小中学校については計2,400校程度を対象として、8、10、11月にそれぞれ実施されました。現在集計中ですが、今後、既に述べたように速報値が来年春頃を目途に公表される見込みであり、調査結果の精査・分析を経て、令和5(2023)年度中に最終的な報告が取りまとめられる予定です。
 なお、前回の勤務実態調査の速報値公表から約2か月後、中央教育審議会において学校における働き方改革に関する総合的な方策についての議論がなされたように、今回も、給特法等の法制的な枠組みを含めた教師の処遇等の在り方の見直しについての本格的な検討は、来年春頃に見込まれる令和4年度勤務実態調査の速報値公表後、中央教育審議会等の場において開始することを想定しています。 

6.質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/183/index.html
 冒頭で触れたように、有識者や教育委員会・学校関係者で構成される調査研究会を設置しました。設置の趣旨は、新たな学校教育を担う質の高い教師の確保のため、教職の魅力向上を図る必要がある中、来年春以降の教師の処遇等の在り方の見直しについての本格的な検討の前に、今後の議論がスムーズに進むよう、事前に給特法等の関連諸制度をはじめ、検討すべき事項に関して諸外国の状況を含む情報収集や論点整理をしておこうというものです。したがって、この場で結論を出すものではありません。
 議論すべき論点は、例えば、学校や教師・支援スタッフの役割、教師という職の特性、給料月額の4%が全員に支給される教職調整額やメリハリの在り方、他の職との比較など給与に関すること、公立学校教員は地方公務員であることからくる公務員法制・労働法制との関係、学校における働き方改革の取組状況、学校の組織体制の在り方、マンパワーの在り方等、多岐にわたることが想定されます。20日に開催された第1回会合では、教師を巡る現状についての文部科学省からの説明、教師に係る政策の一体性・複合性や、諸外国における教師の給与と業務等について委員からの発表があり、「給与、勤務、定数など政策・制度だけでなく、学校におけるマネジメントや、教員の業務、気質などマルチレベルで議論が必要」「諸外国でも処遇の在り方は唯一最善のモデルがあるわけではなく、各国の文脈に対応した仕組み」「高度な専門職である教師の職務にふさわしい給与の仕組みを検討すべき」「学校の働き方改革は学校・教育委員会間で取組の格差が生じているが、積極的に進めてきた所にとってはだんだん限界に近づいているのではないか」等の活発な議論が交わされました。今後、月1回程度開催して議論を進め、勤務実態調査の速報値が公表される前に、一定程度、論点を整理しておきたいと考えています。

7.おわりに

 学校教育の成否は教師によるところが大きいことは言うまでもありません。日本の学校教育は、教科教育等に関する蓄積に支えられた高い意欲や能力を持った教師によって支えられ、国際的にも高い評価を得ているところですが、これからも優れた人材を教師に確保し、より一層の教育の質の向上を図っていくためにも、教師を取り巻く環境の在り方については、未来を見据えたものとしていくことが必要です。今秋の臨時国会においては、岸田内閣総理大臣の所信表明演説で「処遇見直しを通じた教職員の質の向上にも取り組みます」との言及もなされました。
 これまでの数年間で、働き方改革の流れを契機として、国において教師を取り巻く環境整備のための様々な取組を進めてきたことは、既に触れたところです。一方で、全国に公立学校だけでも約3万3千校あり、約90万人の教師がいらっしゃる中で、例えば教員業務支援員の配置状況一つとっても地域間・学校間での差はありますし、学校現場における業務改善の取組についても同様です。各学校、各教師の置かれている状況はそれぞれ異なりますので、一向に状況が変わっていないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、何か一つだけをやれば解決するというものではなく、様々な取組を国・教育委員会・学校の各段階において総力で進めていく必要があり、また、学校関係者だけではなく世の中の理解を得ていく必要もある中で、少しずつではあっても全体としては間違いなく前に進んでいると考えています。
 来年は、これまで進めてきた取組を加速しつつ、大きな制度的枠組みに関する議論が本格化する重要な年になると考えております。文部科学省においても、課題を正面から受け止め、我が国の未来のため、教育をより良いものとしていくために、関係者の皆様とも協力しつつ、社会的な理解も得ながら、教師を取り巻く環境の改善に全力を尽くしますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

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(初等中等教育局「初中教育ニュース」編集部)