参考8 情報提供資料 「読書のカタチを選べる」の、次のカタチへ --手話で読む本の国際標準化と日本-- 2026年9月 日本DAISYコンソーシアム運営委員会委員長 河村 宏(hkawa@atdo.jp) 読書バリアフリー法のもとで「読書のカタチを選べる」環境づくりが進んでいます。その次のカタチとして、手話でも読める本テキスト・音声・手話映像が一つの電子出版物として同期し、図書館が目録に載せ、貸し出し、保存できる形式--の国際標準化が始まりました。仕様は電子書籍の国際標準EPUBの拡張としてW3C(Web技術の国際標準化団体)で開発され、その国際共同提案(EU Horizon Europe、2026年9月23日提出)を日本の特定非営利活動法人支援技術開発機構(ATDO)がコーディネートしています。 ■ 国際動向(2026年9月現在) ・2026年6月、W3Cに専門のコミュニティグループが設立(議長:DAISYコンソーシアム)。EUへの国際共同提案には、既にスウェーデン・アクセシブルメディア庁(MTM)、ウィーンVRVis、チェコ・マサリク大学、フランスEDRLab(オープンソース読書システムThorium Readerの本拠)等が参加・協力を表明。 ・IFLA(国際図書館連盟)「プリントディスアビリティのある人々にサービスする図書館」セクションが、セクション名義の署名入り支持書簡を発行(2026年9月1日)。米国議会図書館NLS・ノルウェー国立図書館・韓国国立障害者図書館等の証言も提案の基盤。 ・全米盲人連合(NFB・会員3万人超)は会長署名の書簡で「ツールが容易かつ安価になれば、残存視力のある盲ろう会員のために手話コンテンツの制作を検討しうる」と読者側の需要を明言。 ■ 日本の制度は、すでに整っている 図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項ガイドライン(2010年策定)は、受益者に聴覚障害者・盲ろう者を明記しています。読書バリアフリー法の対象である「視覚障害者等」には、手話を第一言語として生きてきて後に視力を失っていく盲ろうの読者が確実に含まれます。そして手話施策推進法(令和7年法律第78号)は「手話文化の保存、継承、発展」を基本理念に掲げ、災害時の手話による情報提供、デジタル技術の活用に関する調査研究を施策の柱としました。制度は揃っています。整いつつあるのは、手話による出版物を制作・保存・貸出・交換できる技術形式??その国際標準です。 ■ 東京で予告された宿題に、東京から回答する 2010年2月19日、東京で開かれた国際シンポジウム『デイジーの活用による情報アクセスの保障と促進』で、当時のDAISYコンソーシアム技術開発部長(スウェーデンTPB=現MTM所属)マーカス・ギリングは、次世代規格の計画として「DAISYブックの中に、ビデオを完全に同期化したマルチメディアの方法で提供いたします。……手話とテキストがお互いにシンクロナイズされています」と明言しました(発表記録は日本障害者リハビリテーション協会DINFに保存)。テキストと音声の同期はその後EPUBでも実現し、手話の同期だけが宿題として残りました。本提案はこの宿題への回答です。1998年から2000年にかけて世界初のDAISY録音図書を全国に導入したのは日本です。現在、世界のDAISY図書は、WIPOのABCグローバルブックサービスに集積された70万タイトル超(重複を除く)に、ABCに参加しない英米の主要製作機関(Bookshare、Learning Ally、RNIB等)の蔵書を加えて100万タイトルを超え、国境を越えて利用されています。これに加えて、アクセシブルなEPUB図書が急速に増えようとしています。手話施策推進法が掲げる「災害時の手話による情報提供」に、人間の手話話者による事前に検証された手話が同期した防災情報文書という、持続的な出版のかたちを与えることができます。 ■ 次世代のアクセシブルな出版物の応用例(ご参考) ・教育・学校図書館:手話の習得機会の確保(手話施策推進法)を支える教材と図書の形式。マルチメディアデイジー教科書の次世代化。 ・福祉・情報アクセス:聴覚障害者情報提供施設の全国ネットワークが、点字図書館ネットワークがDAISYで果たした役割と同様の制作・提供の担い手になり得ます。 ・防災・緊急情報:拡大、音声読み上げ、点字などで読める防災マニュアル等に、手話でも読めるアクセシビリティを加えることができるようになります。 ・産業・国際標準:ADAおよび欧州アクセシビリティ法(EAA)適合は欧米市場へのコンテンツ輸出要件。W3C等での標準化を日本のコーディネートで進める機会です。 本資料は情報提供であり、ご要望をお願いするものではありません。提案概要(日本語・2頁)および正式文書(英語)は、お求めがあればお送りします。ご説明にはいつでも伺います(オンライン可)。 ATDOは、日本DAISYコンソーシアムの事務局を担当するNPO法人で、DAISYおよびアクセシブルなEPUBを中心に情報アクセシビリティ分野で活動し、米Forbes誌「Accessibility 200」(2026年版)に、アクセシビリティ分野で国際的に指導的な役割を果たす200団体の一つとして選出されています。