全国都道府県教育委員会連合会平成15年度第1回総会 文部科学大臣挨拶 |
全国都道府県教育委員会連合会平成15年度第1回総会 文部科学大臣挨拶 |
期日 | 平成15年7月22日 |
会場 | フロラシオン青山 |
全国都道府県教育委員会連合会の本年度初めての総会にお招きいただきまし たことに感謝申し上げますとともに、折角の機会でございますので、一言御挨 拶を申し上げます。 教育委員長、教育長の皆様方には、平素から地方教育行政の責任者として御 活躍いただいておりますことに、心より敬意を表します。 教育は、何と言っても「国の礎」であり、常に国民各界各層から大きな期待 と注目が寄せられております。文部科学省としても、様々な課題に対応すべく 全力で取り組んでおりますが、本日は特に4点に絞ってお話しさせていただき ます。 まず第一に、最近の少年による凶悪犯罪等についてであります。 最近、沖縄での中学生等による集団暴行死事件、長崎における中学生による 幼児殺害、そして東京で発生した女子小学生監禁事件など、子どもたちの関わ る重大な事件が相次いでおります。 それぞれの事件については、個別の事情や背景も異なり、それぞれ事実の把 握や専門的な分析が必要であり、一概に論ずることは適切でないと思います。 しかし、一般論として言えば、このような子どもたちをめぐる非行等の問題 につきましては、学校はもとより、家庭における保護者の対応が極めて重要で あります。大人自身のモラル、行動の在り方について十分に考え直す必要があ るのではないか。余りにもモラルが低下しているような事象、更に目に余る残 酷な事件が次々と起きております。そのような中で、子どもたちにだけモラル の高さを求めるのはなかなか難しい。大人自らの責任が大きいと思います。し たがいまして、地域社会も含めた社会全体の問題として、現下のこうした問題 に対応していく必要があると考えます。 そうした中で、教育委員会としては、地域の教育に関わる責任機関として、 管下の学校に対して必要な指導、助言、援助をしていただくと同時に、子ども たちを健やかに育成する地域ぐるみの取組の強化、学校・家庭・地域社会をは じめとする関係機関とのネットワークの構築など、大変重い責務を負っている と考えます。 今回の一連の事件を背景に、既に各教育委員会では適切な御指導を管下の学 校に行っているとは思いますが、単に学校に対して指導するだけではなく、地 域社会で学校を守っていくというネットワークの構築、仕組みをしっかり作っ ていくべきではないかと考えています。 また、各学校においては、これらの事件が直接児童生徒に関わるものである こと、また学校が最も重要な教育の専門機関であることから、その役割を十分 に果たしていくことが求められております。そのため、この度の事態を契機に、 全国の学校において、緊急に児童生徒の問題行動等への対応に関する総点検を 行っていただきたいと考えております。各教育委員会におかれても、学校に対 する適切な御指導をお願いいたします。具体的には、学校における管理・指導 体制や教育相談の在り方、家庭・地域・関係機関との連携、基本的な道徳観・ 倫理観の指導の在り方等について、今一度しっかりと見直し、確実な実行に向 けて点検をお願いします。国としては、この点検結果を踏まえ、今後更にとる べき対応について検討することとしております。 さて、これから夏休みに入ります。私は、子どもたちが安全に過ごし、また、 問題行動を起こさせないようにすることは、まずもって親が自らの責任におい てしっかりと対応すべきことであると考えております。しつけのあり方、ある いはいろいろな声が外からかかったときにどのように対応したらいいのか、ど のように身を処したらいいのか。子どもであってもしてはならないことは、し っかりと親が子どもに伝えることが必要です。 しかし、それぞれの家庭の状況、保護者の方の状況によって、必ずしも十分 に対応できないケースもあります。そのような場合、学校の役割が重要となり ます。各学校において、子どもたち一人一人の状況を十分に見ながら、保護者 の指導、しつけ、あるいは保護が十分でないと見られるときは、その子どもの 居場所をしっかりと確保すると同時に、地域社会の様々な機関とも連携をとっ た上で、子どもたちの心の在り様を共に考えていくことが必要となってきます。 これからの学校教育は、単に画一的に一斉に何かを子どもたちに伝えるのみ でなく、一人一人の子どもたちのいろいろな環境、個性、能力、そのような違 いに対してきめ細かく対応していかなければなりません。 一人一人の子どもたちは、どのような状況下であっても、家の宝であると同 時 に国の宝でもあります。家庭、学校、地域社会それぞれが最善の努力をして、 一人一人の子どもたちの安全、行動に責任を持って対応していく社会づくりが 大切です。 各教育委員会においては、学校、社会教育等あらゆる場を通じて、保護者に 対し、子どもたちが犯罪の被害に遭わぬよう、また犯罪等に関わることのない よう、自らの子どもは自らの責任で守り、しつけるという姿勢が必要であると のメッセージを強く発していただきたいと思います。同時に、保護者以外の地 域住民に対しても、子どもたちを地域全体で守り育んでいこうという共通認識 と協力体制が重要であることを呼びかけていただきたいと思います。 このような事件が多発していることについては、政府としても憂慮しており、 閣僚懇談会等の場でもしばしば話題となっております。私としても、そのよう な折には、教育委員会や学校でも全力で取り組むが、根本は大人社会の問題で あり、事件の正確な解明はもとより、治安の強化や親の自覚と地域の協力など、 「犯罪を許さない社会の構築」に向けてより総合的な対策が必要であることを 主張しております。 総理も、現在の子どもたちの問題は、突き詰めれば大人の問題であると明確 に認識していただいております。社会全体として、様々な事件について責任あ る解明をし、そこから学び取り得ることを広く皆で認識し活かしていく必要が あります。これは学校だけでは到底十分にはできません。家庭裁判所、少年鑑 別所、あるいは専門家の力も借りながらの分析も必要かと考えます。また、治 安の強化も大事な課題となっています。 親の自覚と地域における協力を通じて、犯罪を許さない社会の構築に向けて しっかりと取り組んでいく必要があります。政府レベルにおいてはそのような 認識の下、しっかりと行ってまいりますが、各教育委員会におかれても、大切 な社会意識の変革を担う機関の一つとして、格別の御尽力をお願いいたします。 第二番目として、「教育の構造改革」についてお話しをさせていただきま す。 21世紀を迎えた今、我が国としては、「新しい世紀を切り拓く心豊かで たくましい日本人の育成」こそが大きな目標となると認識しております。 このため、現在、初等中等教育から大学までを見通した「教育の構造改革」 を強力に進めております。この「教育の構造改革」の方向性を端的に言えば、 「画一と受身から自立と創造へ」ということであります。教育関係者はもと より、広く国民の皆さんにこのような大きな流れを御理解いただき御協力願 い たいとの思いから新たに作ったのが、本日お配りしております「教育の構 造改革」 と題したパンフレットです。 初等中等教育関係者には初等中等教育に関することだけを、大学関係者に は大学教育のことだけをお話しするというのが、これまでの教育政策の在り 方でありました。しかし、小学校から大学に至るまでの筋の通った「教育の 構造改革」を進めていかない限り、日本の未来はないと考えています。 子どもたちに21世紀を担う大事な存在としてしっかりと生きてもらうた めには、「個性」と「能力」を尊重し、「社会性」と「国際性」を持った子 どもたちを育て、学校自体も「多様性」と「選択」ができるようにし、教育 の現場でも「公開」と「評価」を推進していく必要があります。 「画一と受身から自立と創造へ」という方向性のポイントを具体的に述べ たのがこの4つの理念であり、初等中等教育段階、高等教育段階を通してこ れらの理念が達成される必要があります。 まず、その一として、「個性」と「能力」の尊重についてであります。 「確かな学力の向上」、これは「学びのすすめ」でもアピールしたところ であります。新しい学習指導要領が目指している「確かな学力の向上」とい うものは、基礎・基本を身につけた上で、自ら学び、考え、行動し、より良 く問題を解決する資質や能力を身に付けさせることであります。それを可能 にするために、習熟度別指導や発展的・補充的指導の充実、総合的学習の時 間を活用して学習意欲を高める、あるいは学校週5日制を有効に活用しなが ら、学校・地域社会の連携の下に、子どもたちが個性を重んじ、本当の意味 での学力をつけさせることが必要です。教科書もこれからは、補充的に様々 な記述を可能にするようにしています。また、特に大事なのが、教員の資質 の向上のための研修です。 高等教育についても、これまでのように教授が画一的で一斉授業という教 育の在り方から、大きく変わりつつあります。90年代から大学改革が進ん でおり、それぞれの大学が魅力的な教育をどう展開するかということで様々 な工夫がされているところです。 その二は、「社会性」と「国際性」の涵養であります。 「豊かな心の育成」とは、言うまでもなく、子どもたち自身が本当の意 味での倫理観、あるいは公共の精神を持って成長してもらうことでありま す。そのために道徳教育の充実、「心のノート」の活用、また体験活動を 通じていろいろな知識を身に付け、職業というものを実感する。また、自 然体験を通じて自然科学的な知見を豊かにするだけではなく、人間の存在 を超えた崇高なものへの尊敬の心を養うこともできる。更には、日本の伝 統文化に関するしっかりした知識を得ることによって本当の意味での国際 人となる。同時に豊かな体を作ることも大事であり、食を通じての指導や 体力について、もっと意を注いでいかなければならないと考えております。 また最近、フリーターの問題等若者の就職を巡る問題があります。せっ かく就職してもすぐにやめてしまう子どもたちが多くいる中で、学校にお いてもう少ししっかりとした職業観を持たせて欲しいという要望が極めて 強くなっております。キャリア教育の推進や、これからの国際社会を生き 抜くための英語教育の推進についても、特別の政策を進めているわけであ ります。 高等教育においても、教養教育を更に充実させたり、留学生交流を充実 し たりしております。また、これまでのように、大学が社会と隔絶された ものではなくて、大学が教育・研究を通じて世の中の役に立つ、あるいは 産業界の発展のために研究成果を使ってもらうという産学官連携も大変な 勢いで進められております。 その三は、「多様性」と「選択」の重視であります。 これからの時代は、全国画一の教育ではなく、それぞれの地域あるいは 学校の特色に応じて、教師自体が創意工夫を行うことが重要です。いわば 顔の見える学校、個性のある学校が、子どもたちに個性を持たせることに なります。新しいタイプの学校についても政策を展開していますし、特に 地域の判断において学級編制を柔軟に行えるようにしています。また、豊 かな経験を持った社会人がどんどん学校にも入って行き、その人達が持つ 知見、正義感、エネルギーを子どもに語り、聞かせ、あるいは一緒に体験 してもらうことも大変有効であると考えております。 この点では特に、高等教育段階で大きな改革が進んでおります。国立大 学につきましては、先般国会で国立大学法人法が成立いたしました。これ までの国立大学は、会計や組織等の様々な問題で自由闊達な対応ができな かったわけですが、今般、国立大学が平成16年度から新たに国立大学法 人になり、自主性、自律性を存分に発揮できるようになります。教職員の 身分も非公務員型になることによって、兼職・兼業が可能となったり、外 国の一流の研究者に年俸制で働いてもらったり、教員も任期制にできるよ うになります。会計面におきましても、予算単年度主義から多年度にわた って使えるようになるなど、様々な改革が可能になってきます。これらを 通じて大学自体が良くなることが、初等中等教育が改善されることに繋が ると考えております。 その四は、「公開」と「評価」の推進であります。 全ての学校が国民への説明責任を果たし、信頼される存在となるためには、 情報公開を積極的に行うとともに、適切な評価システムを構築し、教育の質 を保証し、不断の検証を図ることが重要です。 「公開」と「評価」については、昨年3月に小学校設置基準等を新たに定 め、自己評価の実施と結果の公表に努めること、学校の情報を積極的に提供 することといたしました。各学校が、学校運営の状況について評価し改善を 図り、その評価結果を含めて様々な情報を保護者や地域住民に発信していく、 いわば、学校と家庭や地域社会が情報や意見のキャッチボールをすることに より、学校教育の質の更なる向上を図るとともに、学校という組織の在り方 について説明責任を果たしていただきますようお願いいたします。 このパンフレットについては、小学校長会、中学校長会、高等学校長会 でもお話しいたしました。更には先般の国立大学長会議におきましても、 これを用いて説明をいたしました。その際には、初等中等教育段階で、個 性と能力を重視した教育が真剣になされ始めており、その子どもたちが遠 からず大学の門戸を叩くことになる。そのときに、しっかりとした大学教 育を行って欲しい、大学入試の在り方をしっかりと考えて欲しいとお話し いたしました。「教育の構造改革」をこの方向性で進めることによって、 21世紀が本当の意味で子どもたち自身にとって自信を持って歩み始める ことができる世紀となるでしょうし、またそのことが日本社会の発展にも 繋がると考えております。この方向性を皆様も是非念頭に置いていただき たいと考えております。 大きな柱の第三番目として、義務教育費国庫負担制度についてお話しさせ ていただきます。 義務教育については、憲法の要請に基づいて、国がその水準を確保する ことについて最終的な責任を負っております。 義務教育国庫負担制度は、義務教育水準を全国的に確保するための「国 による最低保障」の制度であります。このことについて、昨年来、地方分 権改革推進会議や経済財政諮問会議などにおいて、いわゆる「三位一体」 の改革の一環として、これを一般財源化せよ等の意見さえあります。 しかし私は、しばしば経済財政諮問会議に出席し、義務教育国庫負担制 度は「国の礎」である、いわば石垣でありそれを削って一国の城というも のが将来成り立っていくのかと、義務教育国庫負担制度の重要性について 主張し続けてきました。その際、私としては、義務教育国庫負担制度のよ うな大変大事な制度を財源論から論ずるのではなく、教育論として論ずべ きと強く主張したわけであります。私としては、義務教育国庫負担制度を しっかりと維持をしてまいりたい。制度上の若干の改善、工夫は加えられ てしかるべきと思いますけれども、制度の根幹はしっかりと守っていきた いと思っております。 それにつきましても、やはり日本の各地における学校教育、特に義務教 育が国民の信頼を十分に得ていれば、その制度を崩そうという流れにはな らないと思います。私としては、学校教育が市民の間において信頼され、 かつ、市民と共に日本社会を形成していく根本であるという認識が行き渡 りますように、是非とも教育委員会の皆様には御尽力をいただきたいと思 います。 最後に、第四番目として、中央教育審議会への諮問について申し上げます。 中央教育審議会では、我が国の教育行政の在り方について、根本的な御 議論をしていただいているところであります。先般3月に「新しい時代に ふさわしい教育基本法と教育振興計画の在り方について」答申をいただい たところです。 また、去る5月15日には、新たに「今後の初等中等教育改革の推進方 策について」諮問し、学校教育の根幹である初等中等教育に関して、教育 内容・方法や制度の在り方などについて御審議をお願いいたしました。こ れは、今申し上げてきた「教育の構造改革」を進めるのと同時に、更に遠 い将来というものを見通した上で改革について考えていく必要もあるとい うことで諮問をさせていただいたところであります。 この諮問の中身といたしましては、学校現場の抱える課題を踏まえつつ、 当面まず、新学習指導要領のねらいの一層の実現を図るため、教育課程及 び指導の充実・改善方策について、また、保護者や国民の信頼に十分に応 えていくため、義務教育などの学校教育に係る諸制度の在り方、この中に 義務教育国庫負担制度も含めて御検討いただくこととしております。 以上、いろいろなことをお話しさせていただきました。 私は、「教育の構造改革」の実現は、今日お集まりの皆様方が最終的な 責任を負っておられると考えております。地方の教育がしっかりといきま せんと、絵に描いた餅になるわけです。皆様方の肩の上には、いろんな課 題もあり、責務もあるということで、大変な日常であるということはお察 し申し上げるわけでありますが、皆様方こそ日本の将来について責任を最 も持っておられる存在であるということで、あえて今後の益々の御活躍を お願いしたいと思うわけであります。その際に、それぞれの地域の実情に 応じた施策を展開していただくことは当然でありますが、同時に、今日お 話したことから考えていただきたいのは、一つは、今大きく、小学校から 大学に至るまで、こうした教育改革が進むという大変大事な時点に立って いるという点であります。そしてもう一つは、世界各国共に教育改革に本 当に熱心に取り組んでいる時期であるという点であります。それぞれの地 方行政を担いながら、しかし常に、視野を全国に、そして世界に、しかも 時系列的に小学校から大学まで、あるいは生涯学習も含めての大きな流れ というものを御認識の上、お仕事を進めていただきたいと思います。 本当に大変な、難しい時期ではありますが、私は日本の教育界にはしっ かりとした潜在能力があると考えております。また、皆様方の御努力がそ のまま将来の日本の活性化に繋がるという強い信念を持っているわけであ りまして、皆様方のこれからの御健勝と益々の御活躍を心から祈念いたし まして、御挨拶とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。 |