高校生のための放射線副読本
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9)によって東京電力株式会社福島第一原子力発電所で事故が起こり、放射性物質(ヨウ素、セシウムなど)が大気中や海中に放出されました。
この発電所の周辺地域では、放射線を受ける量が一定の水準を超える恐れがある方々が避難することとなり、東日本の一部の地域では、水道水の摂取や一部の食品の摂取・出荷が制限されました。
このようなことから、皆さんの中にも、放射線への関心や放射線による人体への影響などについての不安を抱いている人が多いと考え、放射線について解説・説明した副読本を作成しました。
この副読本では、放射線の基礎知識から放射線による人体への影響、目的に合わせた測定器の利用方法、事故が起きた時の心構え、さらには、色々な分野で利用されている放射線の一面などについて解説・説明をしています。
◆放射線の世界
◆原子と原子核
◆放射線の基礎知識
◆放射線による影響
◆放射線の利用
◆放射線の管理・防護
◆身の回りの放射線の測定
◆放射線についての参考Webサイト
右の画像は、スイセンから出ている自然放射線を写したものです。
色の明るい部分は、スイセンの中に含まれるカリウム40※によるものです。色の明るい部分ほど放射線が多く出ています。
画像は、放射線を受けると蛍光を発する物質を塗った特殊な板にスイセンを挟むなどして、外部からの自然放射線を遮る厚い鉛の箱の中に数日から2か月程度入れておくと、スイセンのカリウム40からの放射線が板に写し出されます。
なお、カリウムは、生物が生きていくために重要な元素で植物や動物に含まれています。
※カリウムの中には、放射線を出すカリウム40と呼ばれる物質が微量に含まれています。
CT(コンピュータ断層撮影)では、放射線を利用して体の断層撮影を行います。
これまでは、体を断面画像(輪切りなど)として見るだけでしたが、最近は、画像処理技術の向上によって立体的で鮮明な画像を得ることができます。
右の写真の青い部分は、人工血管を表しています。立体的な画像を見ることにより、人工血管の様子を確認することができます。
世の中には、およそ110種類ほどの元素※があります。
水素(原子番号1)からウラン(原子番号92)までの92種類は、ほとんどが自然界で発見されましたが、ネプツニウム(原子番号93)以降は人工的に作り出された元素です。
原子の構造は、中心にある原子核とその周囲に存在する電子からなります。
原子核は、正の電荷をもつ陽子と電荷をもたない中性子から成り立っています。
原子番号は陽子の数を表し、陽子の数と中性子の数を合わせたものが質量数となります。
陽子の質量は、電子の質量のおよそ1840倍です。
※元素は、原子の種類。原子核中の陽子の数(原子番号)で決まります。
同じ原子番号の元素でも質量数が異なる(中性子の数が異なる)ものを同位体または同位元素(アイソトープ)といいます。
例えば、水素は、大半が陽子1個だけからできていますが、陽子・中性子ともに1個からできた重水素や陽子1個と中性子2個からできた三重水素と呼ばれるものもあります。
同位体の中でも放射線を出さないもの(例えば水素、重水素)を安定同位体、放射線を出すもの(例えば三重水素)を放射性同位体(ラジオアイソトープ)といいます。
放射線は、大きく二つの種類に分けられます。「高速の粒子」と「波長が短い電磁波」です。
放射線を出す物質を「放射性物質」、放射線を出す能力を「放射能」といい、電球に例えると、放射性物質が電球、放射能が光を出す能力、放射線が光といえます。
「電磁波」とは、電界(電場)と磁界(磁場)が相互に作用しながら空間を伝播する波のことです。
電流が時間的に変化したり、電界や磁界が空間的に変化したりすると電磁波が発生します。
電磁波は、光と同じ速度(約3×105km/s)で進みます。また、隣合う波の山と山の間または隣合う谷と谷の間の長さのことを「波長」といいます。
1秒間に一周期の波が伝播する回数を「周波数(単位:Hz)」といいます。
電磁波の性質は、波長または周波数によって大きく異なります。
太陽光線の紫外線や赤外線も電磁波の一種です。
波長が短くなる(周波数が高くなる)ほど電磁波のエネルギーは高くなります。
波長が短いものから順に
(1)電離放射線(ガンマ(γ)線やエックス(X)線)
(2)紫外線
(3)可視光線(人間の目に見える光)
(4)赤外線
(5)電波(携帯電話などから発生している電磁波)
となります。
放射線には、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線、エックス(X)線、中性子線などの種類があり、どれも物質を透過する能力をもっていますが、その能力は放射線の種類によって違います。
アルファ(α)線は紙1枚、ベータ(β)線はアルミニウム板など、材料や厚さを選ぶことにより遮ることができます。
放射線を遮ることを遮へいといいます。
原子核には、不安定で自然に放射線を放出して別の原子核に変わっていくものがあります。原子核が壊れるこの現象を壊変(崩壊)といい、放射線は、その時に放出される高速の粒子と高いエネルギーをもった電磁波のことです。
放射線は空間を高速で伝わるエネルギーの流れのことですが、この意味では電波や可視光線、赤外線、紫外線も全て含まれてしまうため、通常は、物質を電離(イオン化)させるエネルギーをもつ電離放射線のことを単に放射線といいます。
放射線は、大きく粒子と電磁波に分けられ、粒子の放射線は電荷の有無などでさらに細かく分類できます。
放射線が物質を通過する時、もっているエネルギーを原子や分子に与え、電子をはじき出す働きを電離といいます。
パンクしにくい自動車のタイヤの素材や煙を探知すると警報が鳴る煙探知器は、電離作用を利用して開発したものです。
◆電離作用を利用した測定器:GM計数管や半導体検出器、電離箱など
蛍光作用とは、紫外線や放射線などが特別な物質に当たった時、その物質から特殊な光を出させる働きのことです。
この光を蛍光といい、蛍光を出す物質を蛍光物質といいます。
エックス(X)線の発見は、この蛍光作用によるものです。
◆蛍光作用を利用した測定器:シンチレーション式サーベイメータ、蛍光ガラス線量計、熱蛍光線量計など
放射線には、物質を通り抜ける作用があります。
病院のエックス(X)線撮影は、この透過作用を利用したものです。また、物質を通った後に放射線の量が減っていることを利用して、水位や鉄板、紙などの厚さを測ることができます。
放射線は、ある特定の原子核が別の原子核に変化(壊変または崩壊)する際に放出されます。
「ベクレル(Bq)」は、1秒間に壊変(崩壊)する原子核の数のことで、放射性物質が放射線を出す能力を表す単位をいいます。
数値が大きいほど放射線を放出して壊変する原子核の数が多いことになります。
人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位を「シーベルト(Sv)」といい、放射線のエネルギーが物質や人体の組織に吸収された量を表す単位を「グレイ(Gy)」といいます。
このため、放射線が人体に与える影響は、放射性物質の放射能の強さ(ベクレル)の大小を比較するのではなく、放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受けた身体の部位なども考慮した数値(シーベルト)で比較する必要があります。
放射性物質の種類によって放出される放射線の種類やエネルギーが異なるので、同じ1000ベクレルの放射能であっても放射性物質が違えば、人体に与える影響の度合い(シーベルト)の大きさは異なります。
放射性物質は、壊変(崩壊)を繰り返し、最終的に安定した物質へ変化すると放射線を放出しなくなります。
原子核の壊変には、規則性があり、放射能の量はある一定の時間が経過すると半分になり、さらにその同じ一定の時間が経過するとまたその半分になります。
壊変によって始めの原子核の数が半分になるまでの時間を半減期といいます。
半減期は、放射性物質によって違い、数秒のものから100億年を超えるものまであります。
厳密には、これを「物理学的半減期」といい、これに対して体内に取り込まれた放射性物質の量が代謝や排泄により体の外へ排出されて半分になるまでの時間を「生物学的半減期」といいます。また、物理学的・生物学的半減期の両方を考慮したものを「実効半減期」といい、例えば、ヨウ素131は約7.3日、セシウム137は約99日となります。
半減期の特徴を利用し、歴史を紐解く研究が進められています。
炭素14という放射性元素は、半減期が5730年です。宇宙線によって大気中の窒素原子からできるもので、植物は光合成で大気から二酸化炭素を取り込む時に、炭素14も同時に取り込んでいます。また、動物はその植物を食べ、炭素14を取り入れます。植物や動物が死ぬと、炭素14を新たに取り込まなくなるため、炭素14は徐々に減っていきます。
遺跡や遺物など試料に残った炭素14の量を調べることにより何千年前のものか試料の年代を知ることができます。
私たちは、宇宙から地球に降り注ぐ宇宙線を受けていて、この宇宙線は放射線の一種です。高度の高い位置に行くほど、より多くの宇宙線を受けることになります。
例えば、ジェット機で東京―ニューヨーク間を往復(約20時間)した時の宇宙線から受ける放射線量は、約0.2ミリシーベルトとなります。
また、大地の岩石や土などに放射性物質が含まれているため、大地からも放射線を受けています。
関東地方と関西地方を比べると、関西地方の方が年間で2~3割ほど自然放射線の量が高くなっています。このような地域差があるのは、関西地方は、大地に放射性物質を比較的多く含む花こう岩が多く存在しているからです。
この他、私たちは、食べ物や飲み物、呼吸によって体に取り込んだ放射性物質から放射線を受けています。
例えば、カリウムは自然界に存在するミネラル成分の一元素であり、人間の体内の塩分を低下させ血圧の上昇を制御するなど健康を保つために必要不可欠な元素です。
このカリウムには、カリウム40という放射性物質がごく僅か(0.012%程度)含まれていて、カリウム40は食べ物と一緒に体内に取り込まれます。こうした放射性物質は、時間の経過によって少なくなり、また、新陳代謝されるため、体内でほぼ一定の割合に保たれています。
私たちの生活環境には、自然から受ける放射線と人工的に作られた放射線があります。
人類は、地球の誕生以来、宇宙から地球に降り注いでいる宇宙線や大地、飲食物などからの放射線を受けてきました。
これらを「自然放射線」といい、私たちは、年間一人当たり約1.5ミリシーベルト(日本平均)の自然放射線を受けています。
1895年にレントゲン博士によりエックス(X)線が発見され、今では医療や工業、農業などで色々な用途に利用するため人工的に放射線が作られています。これらを「人工放射線」といい、病気の診断などに用いられるエックス(X)線撮影やCTなどのエックス(X)線、核分裂のエネルギーを取り出す原子力発電所で生まれる放射線などがあります。
放射性物質が体の外部にあり、体外から被ばくする(放射線を受ける)ことを「外部被ばく」といいます。一方、放射性物質が体の内部にあり、体内から被ばくすることを「内部被ばく」といいます。
外部被ばくは、大地からの放射線や宇宙線などの自然放射線とエックス(X)線撮影などの人工放射線を受けたり、着ている服や体の表面(皮膚)に放射性物質が付着(汚染)して放射線を受けたりすることです。
放射線は、体を通り抜けるため、体にとどまることはなく、放射線を受けたことが原因で人やものが放射線を出すようになることはありません。
万一、汚染してしまった場合は、シャワーを浴びたり洗濯をしたりすれば洗い流すことができます。
内部被ばくは、空気を吸ったり、水や食物などを摂取したりすることにより、それに含まれている放射性物質が体内に取り込まれることによって起こります。
内部被ばくを防ぐには、放射性物質を体内に取り込まないようにすることが大切です。
放射線の発見以降、研究や利用による研究者や医師などの過剰な被ばくや広島・長崎の原爆被災者の追跡調査などの積み重ねにより、放射線による人体への影響が明らかになってきています。
放射線が人体へ及ぼす影響の一つは、被ばくをした人の体に現れる身体的影響です。
身体的影響は、急性障害、胎児発生の障害及び晩発性障害※などに分類されます。また、被ばくをした本人には現れず、その子孫に現れる遺伝性影響についても研究されていますが、遺伝性影響が人に現れたとする証拠は、これまでのところ報告されていません。
国際的な機関である国際放射線防護委員会(ICRP)は、一度に100ミリシーベルトまで、あるいは1年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合でも、線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて、達成できる範囲で線量を低く保つように勧告しています。また、色々な研究の成果から、このような低い線量やゆっくりと放射線を受ける場合について、がんになる人の割合が原爆の放射線のように急激に受けた場合と比べて2分の1になるとしています。
ICRPでは、仮に蓄積で100ミリシーベルトを1000人が受けたとすると、およそ5人ががんで亡くなる可能性があると計算しています。現在の日本人は、およそ30%の人が生涯でがんにより亡くなっていますから、1000人のうちおよそ300人ですが、100ミリシーベルトを受けると300人がおよそ5人増えて、305人ががんで亡くなると計算されます。
なお、自然放射線であっても人工放射線であっても、受ける放射線量が同じであれば人体への影響の度合いは同じです。
※晩発性障害:長期間の潜伏期を経てがんなどが発生する
外部からの放射線から身を守るには、放射性物質から距離をとる、放射線を受ける時間を短くする、放射線を遮る方法があります。
放射線の量は、放射性物質からの距離によっても大きく異なり、放射性物質から離れれば放射線量も減ります。
例えば、距離が2倍になれば放射線量は、4分の1になります。
その他、被ばくする時間を減らしたり遮へい物を置いたりすることにより放射線量を減らすことができます。
私たちの体を形づくる細胞は、DNA(デオキシリボ核酸)に記録された遺伝情報を使って生きています。
DNAは、物理的な原因や化学的な原因などで傷付けられますが、放射線もDNAを傷付ける原因の一つです。しかし、細胞には傷付いたDNAを修復する能力があるため、細胞の中では、常にDNAの損傷と修復が繰り返されています。
DNAが傷付くと遺伝情報が誤って伝えられることがあり、誤った遺伝情報をきちんと修復できなかった細胞は死んでしまいますが、ごくまれに生き残る変異細胞の中から、さらに変異を繰り返したものががん細胞に変わることがあります。
がんは、色々な原因で起こることが分かっています。喫煙、食事・食習慣、ウイルス、大気汚染などについて注意することが大事ですが、これらと同様に原因の一つと考えられる放射線についても受ける量をできるだけ少なくすることが大切です。
エックス(X)線撮影は、今や病気の診断に欠かせないものとなっています。
その歴史は古く、物理学者のキュリー夫人は、車に積んだエックス(X)線装置で負傷した兵士の骨折などを診断し、人命救助のために働きました。
この他、CT(コンピュータ断層撮影)やPET(陽電子放射断層撮影)など放射線を利用して病気の診断を行う検査方法があります。
CTは、体の外からエックス(X)線を当てて、エックス線の透過度の差を臓器の「形」に画像化する検査です。
PETは、放射性物質を含む薬を投与して、病気の正確な位置やその程度を調べます。
また、放射線は注射器、手術用メスなどの医療品の滅菌やがんの治療にも利用されています。
最新の治療では、がんに集中的に放射線を当てて、周りの正常部位(細胞)のダメージを少なくし、がん細胞を消滅させることが可能になっています。
害虫防除では、不妊虫放飼法が行われています。この方法では、まず放射性物質のコバルト60から出るガンマ(γ)線を当てて不妊化した虫を大量に野外に放します。その後、放した虫と健全な虫が交尾を行ったとしても繁殖することができず、次世代の個体数を減らすことができます。
これを数世代にわたって繰り返すことにより害虫を根絶します。農業への被害を防ぐことができ、また、農薬と違って人体や環境への影響の無い方法です。
この方法は、ウリミバエの他、さつま芋の害虫であるイモゾウムシなどの駆除にも応用されています。
品種改良は、放射線を当てることによって意図的に突然変異を起こさせ、病気に強い新品種や寒冷地に適した品種(変種)を得たりする技術です。
病気を防ぐ農薬の使用回数を減らすことができ、また、色々な色や形のキクやカーネーションなどが作られています。
現代の工業製品には、化学繊維類や合成樹脂などの高分子化合物が天然・人工を問わず多く用いられています。
高分子化合物(ゴムやプラスチックなど)の成型加工において、放射線を当てると分子間の結合がより強固になり、力学的特性や耐熱性を向上させることができます。
例えば、強度を高めた自動車のタイヤなどが開発されています。
病院で使われるエックス(X)線検査と同様の原理で、放射線の透過作用や減衰する性質を利用して、物体の内部の状況を調べています。
例えば、金属の溶接部分に生じる恐れのある空洞などの欠陥の有無を調べる非破壊検査に使われ、また、家庭で使用されるクッキングホイル(アルミはく)の圧延やティッシュペーパーなどの紙のロール圧延作業などでは、対象物に触れずに厚さを測定し、その制御に用いられています。
放射線治療では、メスを使わず、臓器の機能や身体の形を保ったまま治療を行うことができます。
特に重粒子線治療では、がんの位置や大きさ、形状に合わせ、がん病巣に重粒子線を集中的に当てて、がん細胞を消滅させます。
正常な臓器への影響をより少なくすることができる最先端治療として注目されています。
J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)は、世界最高クラスの大強度陽子ビームを用いて新しい研究手段を提供する最先端の研究施設です。
高いエネルギーまで加速された陽子を原子核に当て、中性子、ミューオン、ニュートリノ、反陽子などの多様な粒子を生成します。これらを利用して、原子核物理、素粒子物理、物質科学、生命科学、原子力工学などの分野における最先端の研究が行われています。
原子力発電所など原子力施設の周辺では、原子力施設から放出された放射性物質による周辺環境への影響を監視するため、敷地周辺にモニタリングポストやモニタリングステーションを設置しています。
これらを用いて環境中の放射線量を監視し、事業者や自治体のホームページなどで情報が公開されています。
また、周辺の海底土、土壌、農産物、水産物などについても、定期的に試料を採取して放射能の測定(モニタリング)を行い、放出された放射性物質が周辺に影響を与えていないかどうかが確認されています。
全国の自治体などでは、放射線や放射能を調査しており、空気中のちりや土壌などを調べ放射性物質の分析やモニタリングを行っています。
原子力発電所や放射性物質を扱う施設などの事故により、放射性物質が風に乗って飛んで来ることもあります。
その際、長袖の服を着たりマスクをしたりすることにより、体に付いたり吸い込んだりすることを防ぐことができます。屋内へ入り、ドアや窓を閉めたりエアコン(外気導入型)や換気扇の使用を控えたりすることも大切です。なお、放射性物質は、顔や手に付いても洗い流すことができます。
その後、時間がたてば放射性物質は地面に落ちるなどして、空気中に含まれる量が少なくなっていきます。そうすれば、マスクをしなくてもよくなります。
放射性物質を扱う施設で事故が起こり、周辺への影響が心配される時には、市役所、町や村の役場、あるいは県や国から避難などの指示が出されます。
周辺のデマなどに惑わされず、混乱しないようにすることが大切です。
家族や先生の話、テレビやラジオなどで正確な情報を得ること、家族や先生などの指示をよく聞き落ち着いて行動することが大切です。
事故後の状況に応じて、指示の内容も変わってくるので注意が必要です。
放射線は、人間の五感で感じることはできませんが、目的に合わせて適切な測定器を利用することによって数値や画像として確かめることができます。
測定の方法は、大きく三つに分類されます。
です。
1.放射性物質の有無を調べる
ガイガー・ミュラー・カウンタ(GM計数管)など
放射線の数を測るもの。物質に放射性物質が付着しているかを調べるのに利用します。
(単位:cpm※など)
※cpm:1分間に計測された放射線の数
1.放射性物質の有無を調べる
イメージングプレート
物質の放射能の2次元分布の状態を測るもの。物質に含まれる放射能の位置的な分布を調べます。
1.放射性物質の有無を調べる
2.空間の放射線量を調べる
半導体検出器
放射線のエネルギー分布を測るもの。放射性物質の種類を調べるのに利用します。(単位:eV)
2.空間の放射線量を調べる
電離箱式サーベイメータ
放射線量を測るもの。放射線によって電離させて放出されるイオンの量から放射線の量を調べます。(単位:μSv/h)
2.空間の放射線量を調べる
シンチレーション式サーベイメータ
空間の放射線量を測るもの。放射線による人体への影響を調べるのに利用します。(単位:μSv/h)
3.個人の被ばく線量を調べる
個人線量計
個人が受ける放射線量を測るもの。放射線量を知りたい時にも使われます。(単位:mSv)
(注)個人被ばく線量計は、携帯電話などからの電気的ノイズにより誤計数する場合があるので、携帯電話などと同じポケットに入れて使用しないこと。
2.空間の放射線量を調べる
簡易放射線測定器「はかるくん」(シンチレーション式サーベイメータ)
空間の放射線量を測るもの。身の回りの放射線(ベータ(β)線、ガンマ(γ)線)を調べることができる学習用の測定器です。(単位:μSv/h)
真ん中から何本かの飛行機雲のようなものが見えます。これは、放射線が通った跡です。(放射線の通った跡を見る道具を「霧箱」といいます)
自然放射線や人工放射線を含めた空間の放射線量を測定します。
体外測定法:ホールボディカウンタにより体内から放出される放射線を測定し調べます。また、放射線のエネルギーをスペクトル分析※することにより体内に存在する放射性核種を特定することができます。
自然放射線を遮るために鉛の箱のような所で測定します。
半導体検出器を利用して、自然放射線を遮る容器の中で食物に含まれる放射能を調べます。
これは原子力施設周辺の放射能監視や核実験などの影響調査などに応用されています。
放射線取扱業務に従事する人は、個人の放射線被ばくを確認するため、個人線量計(蛍光ガラス線量計・シリコン半導体線量計など)を身に付けなければなりません。
さらに原子力施設に入った作業員は、ホールボディカウンタなどの計測も行い、個人の被ばく量が登録・管理されています。
※スペクトル分析:光や音、エックス(X)線などを波長の順に並べた強度分布を基に分析すること
世の中のものには、プラスの面とマイナスの面があります。
プラスの面をベネフィット(便益)といい、マイナスの面をリスクといいます。
リスクは、日本語の「危険」とは違い量的な意味で使用され、望ましくない害が起こる可能性の程度(確率)を指します。
実際に発生した時の害の大きさが異なる場合には、その大きさと発生する確率との組み合わせで定義されることもあります。
ベネフィットは大きければ大きいほど良く、リスクは小さければ小さいほど良いのです。しかしながら、人がベネフィットを得るために何らかのものを利用しようとする限り、幾らかのリスクは避けられず、それを完全に無くすことは決してできません。さらにいえば、リスクを完全に無くしてベネフィットだけを得ることは不可能です。
放射線利用の場合は、多量の放射線を受ければ、がんなどの症状が将来において現れるかもしれないというリスクはありますが、その一方で、放射線を用いたエックス(X)線撮影、CT(コンピュータ断層撮影)などの利用により体内臓器の検査をしたり、早期にがんを発見したり、放射線を照射してがんを治療したりすることができるというベネフィットがあります。
放射線等に関する副読本作成委員会
【委員長】
中村 尚司 東北大学名誉教授
【副委員長】
熊野 善介 静岡大学教育学部教授
【委員】
飯本 武志 東京大学環境安全本部准教授
大野 和子 京都医療科学大学医療科学部教授/社団法人日本医学放射線学会
甲斐 倫明 大分県立看護科学大学教授/日本放射線影響学会
高田 太樹 中野区立南中野中学校主任教諭/全国中学校理科教育研究会
永野 祥夫 世田谷区立用賀中学校主幹教諭/全日本中学校技術・家庭科研究会
野村 貴美 東京大学大学院工学系研究科特任准教授/日本放射線安全管理学会
藤本 登 長崎大学教育学部教授
諸岡 浩 西東京市立碧山小学校校長/全国小学校生活科・総合的な学習教育研究協議会
安川 礼子 東京都立小石川中等教育学校主任教諭/日本理化学協会
米原 英典 独立行政法人放射線医学総合研究所
放射線防護研究センター規制科学研究プログラムリーダー
渡邊 美智子 茨城県土浦市立山ノ荘小学校教諭/全国小学校社会科研究協議会
(敬称略・五十音順)
社団法人日本医学放射線学会
日本放射線安全管理学会
日本放射線影響学会
独立行政法人放射線医学総合研究所
(五十音順)
株式会社応用技研、財団法人環境科学技術研究所、京都大学医学部附属病院、セイコー・イージーアンドジー株式会社、株式会社千代田テクノル、東北放射線科学センター、ナノグレイ株式会社、公益財団法人日本科学技術振興財団、J-PARCセンター(独立行政法人日本原子力研究開発機構/大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構)、日本核燃料開発株式会社、財団法人日本原子力文化振興財団、財団法人日本分析センター、独立行政法人農業生物資源研究所放射線育種場、日立アロカメディカル株式会社、富士電機株式会社、独立行政法人放射線医学総合研究所、財団法人山形県埋蔵文化財センター
(敬称略・五十音順)
文部科学省
〒100‐8959
東京都千代田区霞が関3‐2‐2
平成23年10月発行
放射線等に関する副読本作成委員会
研究開発局開発企画課
-- 登録:平成24年01月 --