中学生のための放射線副読本
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9)によって東京電力株式会社福島第一原子力発電所で事故が起こり、放射性物質(ヨウ素、セシウムなど)が大気中や海中に放出されました。
この発電所の周辺地域では、放射線を受ける量が一定の水準を超える恐れがある方々が避難することとなり、東日本の一部の地域では、水道水の摂取や一部の食品の摂取・出荷が制限されました。
このようなことから、教育現場においても放射線への関心や放射線による人体への影響などについての不安を抱く方がおられると考え、放射線についての生徒向けの副読本を作成するとともに、この副読本の解説や関連情報を加えた解説編を作成いたしました。
この解説編では、放射線の基礎知識や放射線による人体への影響、目的に合わせた測定器の利用方法、事故が起きた時の心構え、さらには、色々な分野で利用されている放射線の一面などについての解説や関連情報を掲載しています。
◆不思議な放射線の世界
◆太古の昔から自然界に存在する放射線
◆放射線とは
◆放射線の基礎知識
◆色々な放射線測定器
◆コラム 放射線・放射能の歴史
◆放射線による影響
◆暮らしや産業での放射線利用
◆放射線の管理・防護
◆放射線についての参考Webサイト
◎植物などから出る放射線が身の回りに存在することを学ぶ。
◎色々な分野で放射線が利用されていることを学ぶ。
◎植物などから出る放射線が身の回りに存在することを理解できるようにする。
◎色々な分野で放射線が利用されていることを理解できるようにする。
植物などの自然放射線の画像は、植物から出ている放射線を特殊な板(イメージングプレート(生徒用P.3))を使って撮ったものである。植物から出る放射線は少ないため、周辺からやって来る放射線を鉄や鉛などで遮へいして、長時間(数日から2か月程度)置くことによって像が得られる。植物などは、長時間にわたって置いておくため、防腐剤などを使って腐敗しないように処置する。
植物などから出る放射線は、カリウムに0.012%含まれるカリウム40という放射性物質が出すベータ(β)線やガンマ(γ)線である。画像の色の明るい部分が放射線が当たった部分であり、カリウムが多く含まれていることが分かる。
中性子線は、電荷をもたないので物質中での透過性が高いが、陽子(水素の原子核)との衝突によりエネルギーを失うことが多く、水も効果的に中性子を止める性質がある。このことにより植物に中性子線を当てると、水が多い部分ほど中性子線が通り抜けにくくなり、白く写真フィルムに写る。植物の研究に中性子ラジオグラフィを利用し、さらにその方法を発展させて、CT(コンピュータ断層撮影)によって立体的な画像を得ることができる。
放射線は、放射性物質から出る以外に装置を使って人工的に発生させることができる。その主なものを挙げる。
放射線は、原子核から生まれるアルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線の他、陽子線やニュートリノなど、色々なものがある。これらを使った最先端の研究が世界で行われている。
「すざく」は、エックス(X)線を観測する天文衛星である。色々な波長のエックス線を観測することが可能であることから、宇宙の構造や進化、ブラックホールの研究などに利用されている。
また、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCでは、J-PARCからニュートリノを放出し、約295km離れた岐阜県のスーパーカミオカンデという装置を使って観測する研究も行われている。この他、宇宙からやって来る微弱な放射線を観測して、それまで望遠鏡では捉えることのできなかった宇宙の姿を見ることができるようになってきている。
◎放射線は、宇宙や地球が誕生した時から存在し、地球上にも放射性物質が岩石などに含まれていることを学ぶ。
◎自然放射線の量は、地域や場所によって違いがあることを学ぶ。
◎放射性物質は、空気や食べ物などにも含まれていることを学ぶ。
◎地球が誕生した46億年ほど前から宇宙線が地球に降り注いでいることを理解できるようにする。
◎放射性物質は、地球が誕生した時から存在し、大地にはウラン、トリウム、空気にはラドン、食べ物にはカリウムなどが含まれていることを理解できるようにする。
私たちは、宇宙や大地、空気、そして食べ物から放射線を受けており、世界平均で年間約2.4ミリシーベルト、日本平均で年間約1.5ミリシーベルトの自然放射線を受けている。(P.22参照)
地球には、銀河系と太陽から来る放射線が降り注いでいる。これらの放射線は、高エネルギーの荷電粒子であり、地球の大気にある原子と衝突し、原子を壊してこれらがさらに大気中の原子に次々に衝突し、色々な放射線が生まれてシャワーのように降り注ぐ。
◎放射線には、原子核から放出されるものがあることを学ぶ。
◎放射線は、「粒子線」と「電磁波」に分けられることを学ぶ。
◎放射線を放出する原子の種類を学ぶ。
◎放射線には、粒子線(α線やβ線)と電磁波(γ線)があり、どちらも原子核から放出されることを理解できるようにする。
◎放射性物質の種類や特徴を理解できるようにする。
全ての物質は、小さな原子がたくさん集まってできている。原子の大きさは、種類によって違うが、大体0.1ナノメートルの大きさである。例えば、1立方センチメートルの金の塊(質量19.3グラム)は、6×1022(600億の1兆倍の個数)の金の原子が集まったものである。金の原子の直径は約0.32ナノメートル(1ナノメートル=10-9メートル)である。原子1個の大きさはいかに小さいか分かる。
原子は、さらに小さい「原子核」と「電子」により構成されている。原子核の大きさは原子のおよそ1万分の1であり、プラスの電荷をもっている。電子は、マイナスの電荷をもち、質量が9.1×10-28グラムと軽い粒子である。
原子核の電荷の数と等しい数の電子が原子核の周りを動き全体を囲んでいる。
原子核は、プラスの電荷をもち、質量が電子のおよそ1840倍の陽子と陽子とほとんど同じ質量の電荷をもたない中性子からできている。
原子核を構成する陽子と中性子を核子と呼んでいる。
原子核の中の陽子の個数は、原子番号に相当し、原子核の陽子と中性子の総数を質量数と呼ぶ。質量数で原子核を区別する時は核種と呼ばれる。
放射線は、粒子としての「粒子線」と電波や光などと同じ「電磁波」と呼ばれるものとに分けることができる。
粒子線は、電荷をもった粒子線と電荷をもたない中性子線とに分けられ、電荷をもった粒子には、アルファ(α)線、ベータ(β)線の他、がんの治療に利用されているプラスの電荷をもった炭素、陽子の他、ミュー粒子(ミューオン)などの素粒子までを含む。
電磁波には、中波(ラジオ波)、マイクロ波、可視光線、エックス(X)線、ガンマ(γ)線などがある。
放射性物質を構成する原子核が壊変(崩壊)して出て来る主な放射線は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線である。アルファ線は、ヘリウムの原子核(陽子2個と中性子2個)の流れ、ベータ線は、電子の流れである。
電子の位置と速度を正確に知ることはできない。電子がある位置に存在している確率を示したものが電子雲である。色の濃いところが電子の存在する確率が高いところである。
一周期の波長λメートル(m)は、電磁波の伝播する速度を毎秒約30万キロメートル(km/s)(=約300メガm/s)、周波数をfメガヘルツ(MHz)とすると次の関係で表される。
λ(m)=300(Mm/s)/f(MHz)
図の波長と周波数は、これで計算される。
※メガ(M)は106
◎「放射性物質」、「放射能」、「放射線」について学ぶ。
◎放射線には、物質を透過する性質があるが、放射線の種類によって遮へいの方法に違いがあることを学ぶ。
◎放射線には、三つの単位があることを学ぶ。
◎放射性物質は、時間がたつにつれて減り、その減り方は放射性物質の種類によって違うことを学ぶ。
◎「放射性物質」、「放射能」、「放射線」の違いを理解できるようにする。
◎放射線の透過力は、種類によって違い、材料や物質を選べば放射線を遮ることができることを理解できるようにする。
◎「ベクレル」、「シーベルト」、「グレイ」の違いを理解できるようにする。
◎放射性物質は、時間がたつにつれて減り、その減り方は放射性物質の種類によって違うことを理解できるようにする。
放射線を出す物質を「放射性物質」、物質が放射線を出す能力を「放射能」という。自然の放射性物質には、ウランやトリウム、カリウム、炭素などがある。また、放射線発生装置(加速器など)や核分裂後にできた核分裂生成物からも放射線が発生し、人工の放射性物質には、コバルト、ヨウ素、セシウム、テクネチウムなどがある。
放射線の透過力は、その種類によって違い、アルファ(α)線は、ヘリウムの原子核からなり、空気中でも数センチメートルしか飛ばず、紙一枚でも止まる。飛ぶ間に空気中の物質に当たって徐々にエネルギーを失って止まり、ヘリウムの原子となる。
アルファ線を出す放射性同位元素が体の外にある場合は、皮膚表面で止まり、体への影響はほとんど無い。しかし、体内に入った場合には、細胞にダメージを及ぼす場合がある。
ベータ(β)線は、アルミニウムなど薄い金属板などによって止まる。
ガンマ(γ)線は、紙やアルミニウム板を通り抜け、鉛や厚い鉄の板で止まる。中性子線は、水やコンクリートで止まる。
このように、放射線の種類に応じて遮へい材を選ぶことによって、放射線の量を減らしたり止めたりすることができる。
放射能の強さや放射線の量を表す単位には、ベクレル(Bq)やシーベルト(Sv)、グレイ(Gy)などがある。
グレイとは、単位質量当たりのエネルギー吸収量で定義される「物理量」である。シーベルト★1(ここでは「実効線量」の単位として用いられている)は、被ばくによる将来の発がんリスクを簡略的に数値化した放射線防護のための「指標★2」である。この指標は、放射線に対して感受性の高い乳幼児なども含めて評価されている。実効線量は、がん、白血病、遺伝性影響などの確率的な影響★3のみに使用し、リンパ球減少、おう吐、脱毛、眼の白内障などの確定的な影響★4の線量指標には使用できない。確定的な影響が生じそうな被ばくの線量を表す単位には、グレイを使用するのが適切である。
★1「シーベルト」という単位は、実効線量(注1)のみならず、等価線量(注1)や1センチメートル線量当量(注2)(「はかるくん」などによる測定表示のための量)など、異なる定義の数量にも使用されるので注意が必要である。
★2人体が受けた放射線の種類や受けた人体の部位(臓器・組織の別)の放射線に対する感受性で重み付けをしてグレイを基に計算される。
★3確率的な影響:線量の増加とともに現れる確率が増加すると見なされる影響。
★4確定的な影響:あるレベルの線量を超えると必ず現れる影響。重篤度は、線量とともに増加する。
(注1)人体への影響を表す方法として、実効線量と等価線量がある。単位は、同じシーベルトである。等価線量は、人体のある臓器・組織が放射線を受けた時の影響に放射線の種類による影響の大きさを加味した線量を表す。実効線量は、それぞれの臓器・組織が受けた等価線量に臓器・組織(臓器・組織1からNまで)の影響について重み付けをして足し合わせたものである。
等価線量=吸収線量×放射線の加重係数
実効線量=(臓器・組織1の等価線量×臓器・組織1の加重係数)+…+(臓器・組織Nの等価線量×臓器・組織Nの加重係数)
(注2)1センチメートル線量当量は、実効線量が測定器を用いて測定できない線量であるため、測定可能な実用的な線量として導入された。これは、どのような放射線がどのように人体に入射した場合でも、必ず実効線量を安全側に評価できる量になっている。日本の法令では、1センチメートル線量当量を実効線量とみなすように決めている。
放射性物質は、決まったエネルギーの放射線を放出する。
放射性物質が放射線を出すことによって、その量が半分になる時間を物理学的半減期という。例えば、セシウム137の物理学的半減期は30年であり、30年たてば元の量の半分になる。セシウム137の壊変(崩壊)は0.514メガエレクトロンボルト(MeV※)のエネルギーをもったベータ(β)線と0.66MeVのガンマ(γ)線を出し、セシウムはバリウム(Ba)になる。
これに対して、体内に取り込まれた放射性物質が代謝・排泄によって体外に排出され、取り込んだ量が半分になるまでの時間を表すには、生物学的半減期が用いられる。
物理学的半減期(Tp)と生物学的半減期(Tb)の両方が関与し、体内の実際の放射性物質の量が半分になるまでに要する時間を実効半減期(Te)といい、以下の関係式から求めることができる。
体内に放射性物質が取り込まれた場合、例えば、ヨウ素131は、物理学的半減期は8日であり体内に入ったうちの70%はすぐに尿から排出されるが、残りの30%は甲状腺に取り込まれ、その生物学的半減期は80日となるため、実効半減期は約7日程度となる。また、セシウム137は、物理学的半減期は30年であり、生物学的半減期は、約100日(全身の筋肉に分布)、実効半減期も同様に約100日である。一方、ストロンチウムは、人体内で複雑な分布をして約70%は全身に広がり、100日ほどたてばほとんどが排泄されるが、約30%は骨に移行して生物学的半減期は非常に長くなる(ICRP
Publication 67,1993)。
これらの生物学的半減期は、成人の値であり、乳児や子どもは、代謝が早いので成人の値より短くなる。
なお、自然放射線であっても人工放射線であっても、受ける放射線量が同じであれば人体への影響の度合いは同じである。
※MeV
M:106
eV:1個の電子が1Vの電位差の間で加速される時に得るエネルギーを表す。
放射線には、色々な作用がある。物質に対する相互作用を利用して医療や工業、農業などに利用されている。
半減期の特徴を利用し、歴史を紐解く研究が進められている。古い土器の年代は、土器に付着した植物の「こげ」や「すす」に含まれる炭素を測定して推定することができる。
炭素14という放射性物質は、半減期が5730年で宇宙線によって大気中の窒素原子からできる。ほとんどの二酸化炭素は、放射線を出さない炭素(炭素12)原子1個と酸素原子2個とでできているが、中には炭素(炭素12)原子ではなく炭素14でできた二酸化炭素もある。
植物は、光合成で大気から二酸化炭素を取り込む時に、炭素14も同時に取り込んでいる。また、動物はその植物を食べ、炭素14を取り入れる。植物や動物が死ぬと、炭素14を新たに取り込まなくなるため、遺跡や遺物など試料の炭素14の量を調べることにより試料の年代が何千年前のものか知ることができる。
原子核の中から陽子2個、中性子2個が一団となって飛び出して来るものをアルファ粒子という。これは、ヘリウム(He)原子核と同じ構造をもつプラスの粒子である。放射線の中では重い粒子のため、短い距離で、空気中の物質の電子を電離・励起してエネルギーを失って止まる。アルファ線を出す壊変をアルファ壊変という。アルファ線は、ウラン、ラジウムなど大きい原子核から出る。
原子核の中の1個の中性子が陽子に変わる時に、原子核の中から出て来る高速の電子である。この電子をベータ線といい、ベータ線を出す壊変をベータ壊変という。ベータ壊変では、マイナスの電子が原子核から飛び出す。ベータ線もアルファ線と同様に、物質に当たり電離や励起をしながらエネルギーを失って止まる。
アルファ線やベータ線を出した原子核の多くは、不安定な状態(励起状態)になる。その励起状態の原子核は、安定な状態になる時にエネルギーを外へ放出する。その放出されたエネルギーがガンマ線である。ガンマ線を放出しても原子核の種類は変わらない。
◎放射線の測定器には色々な種類があり、目に見えない放射線も、その量を測ることができることを学ぶ。
◎「はかるくん」や「霧箱」を用いて、身の回りに放射線があることを学ぶ。
◎放射線測定器は、目的に合わせて使用することを理解できるようにする。
◎「はかるくん」や「霧箱」の実験を通して、身近な放射線や放射能の存在を理解できるようにする。
◎多くの科学者が研究を積み重ね放射線の種類や性質などが解明され、測定器や利用に応用されていることを理解できるようにする。
放射線を測る測定器は、大きく三つに分類される。
1.のガイガー・ミュラーカウンタ(GM計数管)は、放射線の電離作用を利用したもので管に高電圧を掛けて放射線の数を測る装置である。
2.のシンチレーション式の測定器は、放射線の蛍光作用を利用したものでガンマ(γ)線のエネルギーや線量を測定するNaI(ヨウ化ナトリウム)やCsI(ヨウ化セシウム)の結晶を用いた測定器などがある。
3.の個人線量計は、体に着用する小型の測定器で体の外から受けた放射線量を測定する。光刺激ルミネセンス線量計(OSL)、シリコン半導体線量計、蛍光ガラス線量計、熱ルミネセンス線量計(TLD)などが用いられている。
放射線の測定には、放射線の種類によって測定するものが違うため、その目的に合った測定器を使用することが重要である。
放射線は、測定器を用いて測ることができ、放射線の種類によって使用する測定器も違ってくる。
測定器が放射性物質に近付けば近付くほど測定値は高くなり、一般的な測定では、空間線量を測る時は近くに建物などが無い場所で地上から1メートルまたは、50センチメートル離して測る。
放射性物質の汚染を探す時には、測定器を汚染させないために少し距離を離すか、測定器にカバーをして測る。
個人(放射線業務従事者)が受けた放射線の線量を測るには、胸や腹部(妊娠可能な女性の場合)などに装着して測る。
測定器により測定できる放射線の種類、エネルギーの範囲やその精度が違うため、測定する際には注意書きなどを読むことが必要である。
小学生、中学生、高校生や学校などに限定して、簡易放射線測定器「はかるくん」が貸し出されている(P.16参照)。
これを使って、目には見えない放射線を測定し、放射線の存在を確認することができる。
[身近な放射性物質の例]
[測定場所の例]
屋内:木造やコンクリート建築の他に石造建築、煉瓦建築など
屋外:自宅の庭、道路、田畑、神社、寺院、公園など
その他:石材店、トンネル、洞窟、池、湖、海、山など高い所、雨や雪の降り始めの大地など
[注意事項]
測定の際、測定場所の様子(屋内なら壁材や床材など、屋外なら地面や周囲の特徴など)を記録させる。
「はかるくん」を電子機器などに近付けた場合、電気ノイズの影響で異常に高い値を示すことがあるので、電子機器の近くで測る場合は注意が必要である。
霧箱を使うと、放射線の飛跡を見ることができる。
ここで紹介するのは、アルファ(α)線の飛跡を見ることができる霧箱の作り方である。
※ドライアイスは、直接手で触らないこと。
※エタノールは、火の近くで使わないこと。
霧箱で見る放射線の飛跡は飛行機が通った跡にできる飛行機雲と似ている。
飛行機が飛ぶ高度1万メートルの気温は、地上から100メートル高くなるごとに0.6℃ずつ下がっていくので、マイナス40℃位である。
水蒸気がマイナス40℃に冷やされ過飽和となっているところに飛行機が通り、その飛行機の排ガスから出るちりなどが中心となることで水滴または氷の粒(氷晶)ができ、飛行機雲が発生する。
霧は、空気中の水蒸気が寄り集まって小さな水滴になったものである。この時、空気中のちりなどが寄り集まって中心となる。空気中の水蒸気が急に冷やされ、限界(飽和水蒸気圧)以上に水蒸気を含んでいる不安定な状態(過飽和)であると霧はできやすくなる。
霧箱の中では、過飽和な状態を作りやすくするために、水蒸気の代わりにアルコール(エタノール)の蒸気を利用する。室温とドライアイスとの温度差から、容器の中に過飽和状態を作る。
容器の中の線源から出るアルファ線の飛んだ道に沿ってイオンができ、それが中心となってアルコール蒸気が凝集して飛行機雲のような水滴または氷の粒(氷晶)ができ、それが筋となって見える。これを「放射線の飛跡」と呼んでいる。
ドイツのレントゲン博士は、蛍光管のように電極の付いたガラス管で実験をしていた。1895年に博士は、ガラス管を黒い紙で覆っているにも関わらず、蛍光板が蛍光を発しているのに気付いた。ガラス管から未知の光が出ているということから、これをエックス(X)線と名付けた。その後の実験により、このエックス線によって写真乾板を感光させ、骨の形などを見ることができることが分かった。
エックス線が発見された翌年の1896年、フランスのベクレル博士は、ウランを含んだ物質を重しとして写真乾板にのせて机の引き出しにしまい、ある時、この写真乾板を現像したところ、重しの下に置いていたものが写っていた。ウランを含んだ物質から出ていた写真乾板を感光させたものは、エックス線に似た性質をもっていることを発見した。
キュリー夫妻は、エックス線に似た光線を出す物質を取り出そうと試み、1898年にウラン鉱石から、それまでよりもはるかに感光作用の強いポロニウムやラジウムという物質を取り出すことに成功した。キュリー夫人は、感光作用などを示す能力を放射能と名付けた。
イギリスのラザフォード博士は、磁石によってラジウムから出る放射線が二つの方向に曲がることを発見し、これらをアルファ(α)線、ベータ(β)線と名付けた。その後、ある放射線が磁石を使っても曲がらないことが分かり、この放射線をガンマ(γ)線と名付けた。
簡易放射線測定器「はかるくん」の貸し出しは、学校教育支援を目的としており、利用者は小学生、中学生、高校生や学校などに限定されている。
■問合せ先
文部科学省
〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2
TEL.03-6734-4131(直通)
専用Webサイト
はかるくんWeb(※公益財団法人日本科学技術振興財団ウェブサイトへリンク)
◎人体には、損傷したDNAを修復する機能が備わっていることを学ぶ。
◎外部被ばくと内部被ばくの違いを学ぶとともに、色々な食べ物の中に放射性物質が含まれていることを学ぶ。
◎放射線から身を守る方法について学ぶ。
◎人体には、DNAの修復機能があるが、色々な要因でDNAが損傷し、がんなどを引き起こす場合があることを理解できるようにする。
◎外部被ばくと内部被ばくの違いを理解できるようにする。
◎放射線から身を守る方法について理解できるようにする。
人体が放射線を受けることを被ばくといい、放射性物質が人体の外部にあり、体外から被ばくすることを外部被ばく、放射性物質が人体の内部に入り、体内から被ばくすることを内部被ばくという。
外部被ばくの例としては、宇宙から飛んで来る放射線(宇宙線)などの自然放射線やエックス(X)線などの人工放射線によるものがある。
また、内部被ばくは、放射性物質を含む空気、水、食べ物などを摂取することにより、放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。
受ける放射線量は、放射性物質からの距離に大きく依存する。放射性物質から離れるほど放射線量も減る。例えば、放射性物質が人体に比べて十分小さく点として存在するような場合は、距離が2倍になれば放射線量は、4分の1になる。ただし、放射性物質が周辺に面として分布しているような場合は、離れれば影響は小さくなるが、距離の2乗に反比例して影響が小さくなる関係は薄れることに注意する必要がある。いずれの場合でも遮へい物を置いたり放射線を受ける時間を減らしたりすることによって、被ばくを減らすことができる。(P.27「外部被ばくの防護の方法」参照)
内部被ばくは、体内に存在する放射性物質の量を測定することにより調べることができる。ホールボディカウンタは、数台の検出器や移動する検出器により身体全体の放射性物質の量を測定する装置である。鉄などの遮へい体で囲むことによって外部からの自然放射線を遮り、体内から放出されるガンマ(γ)線のエネルギースペクトル※を分析して体内の放射性物質の種類ごとの量を測定する。その他、採取した尿や呼気などを検出器によって調べ、体内に取り込まれた放射性物質の量を測定する方法がある。
※エネルギースペクトル:光や音、エックス(X)線などを波長の順に並べた強度
原子力安全委員会は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて、甲状腺で年間50ミリシーベルト、全身で年間5ミリシーベルトを基にして飲食物摂取制限に関する管理基準の指標を策定している。その指標値を基に、厚生労働省は「食品中の放射性物質に関する暫定規制値」を定めている。
暫定規制値は、全ての飲食物を1年間、毎日、摂取し続けても健康に影響がないことを前提として決められた基準であり、相当の安全を見込んで設定されている。
ここでの暫定規制値とは、緊急事態時のものとして設定された値であり、被ばくのリスクと野菜を食べる機会が少なくなることによる健康リスクなどを考慮して、被ばくによる健康への影響をできるだけ低く抑えることが求められていることから、合理的に達成可能な範囲内で適宜、この暫定値は見直される。
私たちは、宇宙や大地、食べ物など、自然界から放射線を受けている。これらの自然界から一人の人間が1年間に受けている量は、世界平均で年間約2.4ミリシーベルト、日本平均で年間約1.5※ミリシーベルトである。(P.6「自然放射線」参照)
一方、人間が人工的に作り出して利用している放射線もある。胸の検査に用いられるエックス(X)線など医療や工業、農業など幅広い分野で用いられている。
※2005年に日本分析センターから2.2ミリシーベルトという数値が公表されている。
◎がんなどの病気は、色々な生活習慣が原因で起こる可能性があることを学ぶ。
◎身の回りの放射線による被ばくの例や放射線によってがんになるリスクなどのデータを基に、放射線を受ける量と健康への影響について学ぶ。
◎防護の観点から被ばくする量を減らすことを学ぶ。
◎100ミリシーベルト以下の低い放射線量と病気との関係については、明確な証拠がないことを理解できるようにする。
◎がんの発生には、色々な原因があることを理解できるようにする。
放射線の研究や利用による科学者や医師などの過剰な被ばくや広島・長崎の原爆被災者の追跡調査などの積み重ねにより、放射線による人体への影響は明らかになってきている。
人体へ及ぼす放射線の影響の一つは、被ばくをした本人に現れる身体的影響である。身体的影響は、急性障害、胎児への障害及び晩発性障害などに分類される。また、被ばくをした本人には現れず、その子孫に現れる遺伝性影響についても研究されているが、遺伝性影響が人に現れたとする証拠は、これまでのところ報告されていない。
放射線が人体に与える影響は、放射線の種類や量によって異なり、多量の放射線を受けると人体に症状が出ることが分かっている。同じ放射線量でも一度に受ける方がある期間の積算として受けるより影響は大きい。これは、人体に回復機能が備わっているからである。
一度に100ミリシーベルト以下の放射線量を受けた場合にがん死亡が増えるという明確な証拠はない。
なお、自然界から受ける放射線でも人工的に作り出した放射線でも、受ける放射線の種類や放射線量が同じであれば発生源に関わらず影響は同じである。
一度に多量の放射線(ガンマ(γ)線やエックス(X)線)を全身に受けた時に現れる影響(急性影響)に関し、どのくらいの量の放射線を受けるとどのような症状が現れるのかは分かってきている。
「しきい値」とは、放射線を受けた時に症状が現れる最小の放射線量のことをいう。例えば、250ミリグレイを超えると人によっては白血球が減少し、それ以下では白血球の減少は見受けられない。しきい値を超えてその影響が確実に現れるような影響が「しきい値のある影響」(確定的影響)である。
一方、放射線によるがんの発生には、しきい値がないと仮定し、受けた放射線量が増えるに従ってがんの発生する確率が高くなると考えるのが「しきい値がないと仮定する影響」(確率的影響)である。
「がん」や「脳卒中」、「心臓病」は、日本人の死因の約6割を占め、特にがんは死亡原因の第1位となっている病気であり、がんによる死亡者数は増え続けている。
正常な細胞ががん細胞になる原因として、発がん性物質の存在が確認されている。
これらの物質をつくり出す原因は、食生活などの生活習慣に深く関係しており、老化や喫煙、大気汚染、そして放射線もその一つに挙げられるなど、色々な要因によってがんが発生すると考えられている。このため、発生したがんが放射線によるものかどうかを特定することは困難である。
放射線を受けると健康に影響を及ぼす可能性があり、長期的な影響として、受けた線量が多いほど数年後から数十年後にがんになる危険性が高まると考えられている。
国際的な機関である国際放射線防護委員会(ICRP)は、一度に100ミリシーベルトまで、あるいは1年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合(低線量率)には、リスクが原爆の放射線のように急激に受けた場合(高線量率)の2分の1になるとしつつも、安全側に立って※、ごく低い放射線量でも線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて防護するように勧告している。
仮に蓄積で100ミリシーベルトを1000人が受けたとすると、およそ5人ががんで亡くなる可能性があると推定している。
日本では、約30%の人ががんで亡くなっているので、この推定を用いると1000人が数年間に100ミリシーベルトを受けたとすると、がんによる死亡がおよそ300人から305人に増える可能性があると推定される。
※受ける放射線の量が低くなると、放射線により人体に影響が出てくるかどうかは分からなくなる。この場合でも、受ける放射線の量と比例して影響が起こると考えて、放射線をできるだけ受けないようにすることが大事であるとされている。
集団実効線量とは、ある集団全体の被ばくの大きさを示す指標であり、集団の一人ひとりの実効線量をその集団について合計したものである。その集団が複数の場合には、全体の集団実効線量は、個々の集団実効線量の合計であり、その単位は人・シーベルトである。放射線防護の最適化が集団全体で進んでいるかどうかの判断に用いることや被ばく事故の規模を示す場合にも用いられる。ただし、ごく小さい線量を極めて多い人数で合計した集団線量で集団のリスクを表すことは適切でない。
ICRPは、集団実効線量について次のように述べている。
「集団実効線量は、放射線の利用技術と防護手段を比較するための最適化の手段である。疫学的研究の手段として集団実効線量を用いることは意図されておらず、リスク予測にこの線量を用いるのは不適切である。その理由は、(例えばLNTモデル(しきい値無しのモデル)を適用した時に)集団実効線量の計算に内在する仮定が大きな生物学的及び統計学的不確実性を秘めているためである。特に大集団に対する微量の被ばくがもたらす集団実効線量に基づくがん死亡数を計算するのは合理的ではなく、避けるべきである。集団実効線量に基づくそのような計算は、意図されたことがなく、生物学的にも統計学的にも非常に不確かであり、推定値が本来の文脈を離れて引用されるという繰り返されるべきでないような多くの警告が予想される。このような計算はこの防護量の誤った使用法である。」(ICRP2007年勧告)
世の中のものには、プラスの面とマイナスの面がある。プラスの面をベネフィット(便益)といい、マイナスの面をリスクという。リスクは、日本語の「危険」とは違い量的な意味で使用され、望ましくない害が起こる可能性の程度(確率)を指す。実際に発生した時の害の大きさが異なる場合には、その大きさと発生する確率との組み合わせで定義されることもある。
ベネフィットは大きければ大きいほど良く、リスクは小さければ小さいほど良い。しかしながら、人がベネフィットを得るために何らかのものを利用しようとする限り、幾らかのリスクは避けられず、それを完全に無くすことは決してできない。さらにいえば、リスクを完全に無くしてベネフィットだけを得ることは不可能である。
放射線利用の場合は、多量の放射線を受ければ、がんなどの症状が将来において現れるかもしれないというリスクはあるが、その一方で、放射線を用いたエックス(X)線撮影、CT(コンピュータ断層撮影)などの利用により体内臓器の検査をしたり、早期にがんを発見したり、放射線を照射してがんを治療したりすることができるというベネフィットがある。
現在、色々な分野で利用されている放射線。しかしながら、放射線にはリスクとベネフィット(便益)の二つがある。
国際的に放射線に関する規制について各国に勧告を行っている国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射線を利用する時に受ける放射線の量を合理的に制限するために、次のような方針を打ち出している。
1928年、放射線障害を防止するための国際的な体制として設置された「国際エックス(X)線およびラジウム防護委員会」を継承し、1950年に放射線防護の国際的基準を勧告することを目的にICRPが設立された。ICRPは、放射線防護に関する基礎的な調査研究から被ばく線量限度の勧告値の設定まで広い分野で活躍しており、世界の大部分の国がICRPの勧告を尊重している。
放射線による人体への影響を「確定的影響」と「確率的影響」とに分けてそれぞれに考え、放射線障害を防止するため線量限度値を勧告している。
人の遺伝子が何らかの原因で傷付き、傷の量が一定レベルを超えると、がん細胞になると考えられている。現在では、色々な化学物質・医薬品やウイルス、放射線、紫外線によって発がんが認められている。また、生活習慣との関連が深い発がん性物質には、たばこの煙に含まれるタールなどがある。その他、自然の食品の中にも多くの発がん性物質がある。
下の表は、国立がん研究センターが発表した調査結果である。がんになるリスクの数値は、喫煙なら、非喫煙者など基準となるグループと比べ、何倍がんになるリスクが高くなるか(相対リスク)を示している。
私たちは、放射線を人工的に作り、医療をはじめとして生活に便利なものに利用している(「暮らしや産業での放射線利用」の項目参照)。利用に当たっては、放射線を受けるリスクはあるが、リスクよりも放射線を使った方がベネフィット(便益)があるということが必要である。
◎放射線は、医療、農業、工業など多くの分野で利用されていることを学ぶ。
◎放射線が医療、農業、工業など多くの分野で利用されていることを放射線の性質(P.11)も含めて理解できるようにする。
注射器や手術で使うメスなどの医療器具は、使用する前に細菌などの微生物を完全に死滅させる必要がある。現在は、ディスポーザブル(使い捨て)の器具が数多く開発されている。滅菌の方法は幾つかあるが、煮沸滅菌では、加熱により材質が劣化する不利益がある。また、薬品による滅菌処理の場合、薬品の微量の残留汚染というリスクがある。そこで、これらの医療器具は放射線照射による放射線滅菌が有力な方法として実施されている。放射線滅菌は、材質の劣化や汚染がほとんど無く、また、包装したまま滅菌できるという利点がある。ディスポーザブル注射針と注射筒、ディスポーザブル採血器具、輸血用器具、医療用接着剤、プラスチック製縫合糸など多くの医療器具の滅菌に放射線が利用されている。
病院では、胸や胃などの内臓などを診断するために、エックス(X)線撮影やCT(コンピュータ断層撮影)が利用されている。また、核医学の検査では、微量の放射線を出す化合物を体内に投与して、体内から出て来る放射線を捉えて診断する方法もある。この場合は、半減期の短い放射性物質を工業的に作って病院に供給している。
放射線によってがん細胞などを手術をせずに破壊し、がんを治療することができる。治療方法としては、外から放射線を照射する方法、患部に放射性物質を埋め込む方法の2種類がある。また、手術のように切り取らずそのままの形として残すことができ、投薬治療のような副作用もほとんど無い。
じゃが芋は、時間が経過すると発芽して食べられなくなってしまうが、じゃが芋の芽に放射性物質のコバルト60から出るガンマ(γ)線を当てることにより発芽を防止することができることから、じゃが芋を長く保存することが可能となる。
日本では食品への放射線照射は、じゃが芋の発芽防止のみが実用化されているが、海外では、色々な食品を対象に行われている。対象食品は、生鮮野菜(じゃが芋、玉ねぎなど)、果実(マンゴ、パパイヤなど)、生鮮肉類、調味料(スパイス、ハーブなど)などであり、目的は、発芽防止、寄生虫や病源微生物の制御、害虫駆除などである。
品種改良は、放射線を当てることによって意図的に突然変異を起こさせ新しい品種を作る技術である。黒班病という病気に強い梨や寒さに強い稲など、数多くの品種が作り出されている。日本では、1950年代に各研究機関にガンマ線照射室が作られ、放射線育種の実験が始まった。そして1960年には、野外照射のできる大型のガンマーフィールドをもつ放射線育種場(独立行政法人農業生物資源研究所)が茨城県常陸大宮市に建設され、放射線による新品種の育成が大きく進展した。
農業分野では、薬を使わない方法として害虫駆除や品種改良などに利用されている。
放射線照射を利用した害虫防除の技術の一つに不妊虫放飼法がある。これは、放射線を当て不妊化したオスの害虫を野外に放して害虫の数を減らす技術である。不妊処理したオスを野生のオスよりも多く野外に放すと、野生虫同士の受精の機会が減って、次世代の害虫の数が減っていき、やがては絶滅してしまう。
日本では、1972年にゴーヤーやきゅうりなどの野菜類に大きな被害を与えていたウリミバエの駆除を目的として沖縄県農業試験場内(病害虫防除技術センター)などにウリミバエ不妊化施設が建設された。そして、1993年に沖縄県と鹿児島県奄美群島のウリミバエ根絶に成功した。ただ、外からウリミバエは島に入って来るので、この駆除は毎年行われている。
現在では、国際的な協力の下に、この技術によるハエの仲間の害虫根絶作戦が展開されている。ただ、すべての害虫に有効ではない。
自動車のダッシュボードやシート、タイヤ、水泳用のビート板、お風呂場のマットなどは、放射線の電離作用を利用して耐熱性に優れた物質に改質したり、強度を高めたりする技術が使用されている。
また、材料に色々な機能を付け加えることができる。このような材料は、空気清浄機のフィルターやボタン電池などに利用されている。
火力発電所では、酸性雨の原因となるイオウ酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が多く排出されるため、その除去対策が重要な問題となっている。日本原子力研究開発機構では、これら大気汚染物質を除去するために小型の加速器により作り出した電子線を照射し、イオウ酸化物、窒素酸化物を効率よく除去する方法を開発した。
この技術は、火力発電に依存する中国の成都及び杭州、ポーランドのポモジャーニの火力発電所で実用化されている。また、ブルガリアのマリッツァイースト火力発電所でもパイロット施設が稼働している。
物質に放射線を照射した時の透過作用を利用した厚さ計が用いられている。これは、食品包装用のラッピングフィルムや紙、アルミはくなど厚さを均一に保たなければならないような工業製品の工程管理において、厚さを正確に測定するために利用されている。
材料内部の欠陥や表面の微小な傷などを、物品(材料、機器、建造物など)を分解しないで調べる検査方法を非破壊検査という。機器や構造物あるいは金属の溶接部分、また、金銅仏や重要な美術工芸品などの細かい傷やひび割れその他内部の欠陥状況を知るため、エックス(X)線やガンマ(γ)線を使って検査することが広く行われている(病院のエックス線撮影と同じ原理)。
その他、空港の手荷物検査でも使われている。
遺跡などから出土した土器の年代は、土器に付いた「こげ」や「すす」に含まれる炭素を測定して推測される。
放射線を出す炭素14は、大気中でつくられている。宇宙からやって来る放射線(宇宙線)によってつくられた中性子が空気中の窒素に吸収されると、放射線を出す炭素に変化し、その濃度は空気中で一定である。食物が採取されると、炭素の取り込みは無くなり、放射線を出す炭素の量は時間とともに規則的に減っていく。そこで放射線を出す炭素の量と出さない炭素の量の割合から食物の「こげ」の年代を測定でき、土器の使用された年代が特定できる。
兵庫県にある大型放射光施設SPring-8は、「放射光」と呼ばれる強力な電磁波を発生させて利用することにより、物質構造や化学反応の時間的変化などを原子・分子という超微細なレベルで調べることができる研究施設である。放射光に含まれるエックス(X)線や紫外線といった光を利用して色々な実験を行うことができることから、ナノテクノロジーをはじめとした材料科学、さらには生命科学や医学などといった幅広い研究分野に利用されている。小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の解析や自動車排ガス浄化用の高性能な触媒の開発、さらにインフルエンザ治療薬の開発に利用されるなどの成果が生まれている。
茨城県にある大強度陽子加速器施設J‐PARCは、陽子を利用した加速器施設である。加速された陽子を原子核に衝突させて発生した中性子やミュー粒子(ミューオン)、ニュートリノなどの粒子を使って、素粒子物理や物質科学などの最先端の研究を行う施設である。J‐PARCから発生させたニュートリノを約295キロメートル離れた岐阜県にあるスーパーカミオカンデで検出して、ニュートリノが起こす現象の一つの兆候を世界で初めて発見した。
エックス(X)線、CT(コンピュータ断層撮影)、PET(陽電子放射断層撮影)での病気の診断、ガンマ(γ)線、重粒子線などでのがんの治療などを行う。
放射線・加速器などを使っての基礎物理の研究、新しい材料や薬剤などの研究、宇宙から来る放射線を解析しての宇宙の研究などを行う。
大学・病院、研究所、会社などで扱う放射線の管理を行う。
超音波、放射線、磁力など、色々な手段を利用してものを壊さずに検査を行う。エックス線、ガンマ線を利用しての非破壊検査及び診断を行う。
環境中にある放射性物質の検査を行う。
放射線測定器の開発・製作などを行う。
◎平常時においても様々な方法で地域の放射線が測定・管理されていることを学ぶ。
◎事故後しばらくたつと、それまでの対策を取り続けなくてもよくなることを学ぶ。
◎事故後しばらくたつと、放射性物質が地面に落下することから、それまでの対策を取らなくてもよくなることを理解できるようにする。
一定の放射性物質を取り扱う場合には、取り扱う前に許可を受けたり届出をしたりしなければならないことなどが法令で定められている。また、そのような場合には、放射線を取り扱う者以外の立ち入りを制限する「(放射線)管理区域」の設定などが行われている。
放射線を取り扱う時には、放射線防護の方法がある。時間・遮へい・距離である。「時間」は、放射線業務従事者が放射線を受ける時間を短くすることにより被ばく線量を低減する。「遮へい」は、放射線の種類によって透過力は異なるため適切な遮へい物を設置することにより被ばくを低減する。「距離」は、放射線源との距離を離すことにより、空間線量率を低減する。
同様に原子力災害時などにおいては、一般公衆にも一部適用が考えられる。放射線を受ける時間を短くし、コンクリート造など遮へい効果の高い建屋に入ることにより、被ばくを低減することができる。また、距離については、放射性物質から離れるほど放射線の量が減り、例えば、放射性物質が人体に比べて十分小さく点として存在するような場合は、距離が2倍になれば放射線量は、4分の1となる。ただし、放射性物質が周辺に面として分布しているような場合は、離れれば影響は小さくなるが、距離の2乗に反比例して影響が小さくなる関係は薄れることに注意する必要がある。
外部被ばく(体の外から放射線を受けること)を防ぐには、「退避」や「避難」が有効である。また、内部被ばく(放射性物質を体内に取り込むこと)を防ぐには、屋内へ退避し建物の窓を閉めるなどして、放射性物質を吸い込まないようにするとともに、自治体の指示で飲食を制限されている飲み物や食べ物をとらないことが重要となる。
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故では、事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達する恐れのある区域に住む方々に対し別の場所への計画的避難が指示されている。
※国際放射線防護委員会(ICRP)と国際原子力機関(IAEA)の緊急時被ばく状況における放射線防護の基準値は20~100ミリシーベルト(年間)。
ICRPは、緊急時の被ばく状況において、放射性物質により汚染された食品の摂取の制限などに伴う健康リスクと被ばくによるリスクを考慮して、放射線防護の基準値を年間20~100ミリシーベルトとしている。
東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故では、緊急時としてその基準の中で最も低い値である20ミリシーベルトが採用されている。将来的には、年間1ミリシーベルト以下まで戻すことを目標として様々な方策により「合理的に達成できる限り低い」被ばく線量を目指している。
この基準は、ICRPの勧告を基に原子力安全委員会の助言を得て定められている。
我が国における放射線被ばくの規制は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて制定され、公衆の被ばくは、年間1ミリシーベルトを超えないように原子力発電所、病院、工場などの事業所ごとに事業所の境界での線量限度が決められている。この線量限度は、適切な施設の設計や防護の計画を立て、認可された条件の下での規制値であり、これらの限度を超えれば、健康影響が現れるというような安全と危険の境界を示すものではない。
今回の東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故のように、環境中に放出された放射性物質による被ばくは、計画被ばく状況での規制された線源からの被ばくと違い、計画的な防護ができない状況であるので上述の年間1ミリシーベルトという線量限度は適用されず、緊急事態期や事故収束後の復旧期の参考レベルという制限値を用いて防護する。参考レベルとは、その値を超えるような場合に必ず避難や除染のような線量低減の防護措置を取るように設定する制限値である。しかしICRPは、この防護措置について過大な費用と人員を掛けることなく、経済的、社会的に見て、合理的に達成できる限りにおいて行うべきであると述べている。
放射線等に関する副読本作成委員会
【委員長】
中村 尚司 東北大学名誉教授
【副委員長】
熊野 善介 静岡大学教育学部教授
【委員】
飯本 武志 東京大学環境安全本部准教授
大野 和子 京都医療科学大学医療科学部教授/社団法人日本医学放射線学会
甲斐 倫明 大分県立看護科学大学教授/日本放射線影響学会
高田 太樹 中野区立南中野中学校主任教諭/全国中学校理科教育研究会
永野 祥夫 世田谷区立用賀中学校主幹教諭/全日本中学校技術・家庭科研究会
野村 貴美 東京大学大学院工学系研究科特任准教授/日本放射線安全管理学会
藤本 登 長崎大学教育学部教授
諸岡 浩 西東京市立碧山小学校校長/全国小学校生活科・総合的な学習教育研究協議会
安川 礼子 東京都立小石川中等教育学校主任教諭/日本理化学協会
米原 英典 独立行政法人放射線医学総合研究所
放射線防護研究センター規制科学研究プログラムリーダー
渡邊 美智子 茨城県土浦市立山ノ荘小学校教諭/全国小学校社会科研究協議会
(敬称略・五十音順)
社団法人日本医学放射線学会
日本放射線安全管理学会
日本放射線影響学会
独立行政法人放射線医学総合研究所
(五十音順)
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、株式会社応用技研、財団法人環境科学技術研究所、九州国立博物館、京都大学医学部附属病院、セイコー・イージーアンドジー株式会社、株式会社千代田テクノル、東北放射線科学センター、徳島大学アイソトープ総合センター、中西友子、ナノグレイ株式会社、公益財団法人日本科学技術振興財団、独立行政法人日本原子力研究開発機構、日本核燃料開発株式会社、J-PARCセンター(独立行政法人日本原子力研究開発機構/大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構)、独立行政法人日本原子力研究開発機構、財団法人日本原子力文化振興財団、財団法人日本分析センター、独立行政法人農業生物資源研究所放射線育種場、日立アロカメディカル株式会社、富士電機株式会社、独立行政法人放射線医学総合研究所、財団法人山形県埋蔵文化財センター、独立行政法人理化学研究所
(敬称略・五十音順)
文部科学省
〒100‐8959
東京都千代田区霞が関3‐2‐2
平成23年10月発行
放射線等に関する副読本作成委員会
研究開発局開発企画課
-- 登録:平成24年01月 --