小学校教師用解説書

放射線について考えてみよう

放射線関連の絵を描いた黒板

小学生のための放射線副読本

はじめに

 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9)によって東京電力株式会社福島第一原子力発電所で事故が起こり、放射性物質(ヨウ素、セシウムなど)が大気中や海中に放出されました。
 この発電所の周辺地域では、放射線を受ける量が一定の水準を超える恐れがある方々が避難することとなり、東日本の一部の地域では、水道水の摂取や一部の食品の摂取・出荷が制限されました。
 このようなことから、教育現場においても放射線への関心や放射線による人体への影響などについての不安を抱く方がおられると考え、放射線についての児童向けの副読本を作成するとともに、この副読本の解説や関連情報を加えた解説編を作成いたしました。
 この解説編では、放射線の基礎知識や放射線による人体への影響、目的に合わせた測定器の利用方法、事故が起きた時の心構え、さらには、色々な分野で利用されている放射線の一面などについての解説や関連情報を掲載しています。

目次

◆放射線って、何だろう?

◆放射線は、どのように使われているの?

◆放射線を出すものって、何だろう?

◆放射線を受けると、どうなるの?

◆放射線は、どうやって測るの?

◆放射線から身を守るには?

◆参考資料

◆放射線についての参考Webサイト

放射線って、何だろう?

学習のポイント

◎スイセンからも放射線が出ていることを知り、身近に放射線があることを学ぶ。

◎放射線の発見や発見された放射線を使ってエックス線撮影が行われた歴史について学ぶ。

指導上の留意点

◎スイセンだけでなく色々な植物や岩石などからも自然放射線は出ていること、放射線を使うと人体を切らずに骨の様子などを写し取れることが理解できるようにする。

◎レントゲン博士がエックス線を発見したことを知り、放射線の歴史について紹介する。

◎身近に受ける放射線があることを伝え、放射線に対して児童が不安を抱かないように配慮する必要がある。

 植物や岩石などには、放射線を出す物質(放射性物質:P.10参照)が含まれており、これらが放射線を出している。
 以下の画像は、スイセン以外のものから出ている放射線を写したものである。

植物や岩石などからの放射線を映し出した画像

 このように、放射線は色々なものから出ており、色の明るい部分が、放射線を多く出している部分である。
 植物には、主にカリウムが含まれ、煮干しや岩石にはカリウムの他にも放射性物質が含まれている。
 例えば、植物に必要な三大栄養素の一つであるカリウムの中には、放射線を出さないカリウムと放射線を出すカリウムがある。動物も人間も植物を食べることによってカリウムを取り込んでおり、それにより放射線を出している。カリウムは、筋肉に多く蓄積されている。

補足〈放射線を写す方法〉

 このような画像は、イメージング・プレート(IP)という放射線の吸収量に応じて発光する蛍光物質を塗布したものを使い、スイセンなどから出る放射線を捉えることにより作ることができる。なお、捉える放射線が微量であることから、外部からの放射線を遮った箱の中に数日から2か月程度入れておく必要がある。

補足〈放射線発見の歴史〉

 ドイツのレントゲン博士は、電極の付いたガラス管の実験により、黒い紙で管を覆っても蛍光板が光ることからエックス(X)線を発見した。
 その後の実験により、このエックス線によって骨の形などを見ることができることが分かった。
 エックス線が発見された翌年の1896年、フランスのベクレル博士は、ウランを含んだ物質を重しとして写真乾板にのせて机の引き出しにしまい、ある時、この写真乾板を現像したところ、重しの下に置いていたものが写っていた。ウランを含んだ物質から出ていた写真乾板を感光させたものは、エックス線に似た性質をもっていることを発見した。
 キュリー夫妻は、エックス線に似た光線を出す物質を取り出そうと試み、ウラン鉱石からポロニウムやラジウムという物質を取り出すことに成功した。
 キュリー夫人は、写真乾板の感光作用などを示す能力を放射能と名付けた。
 イギリスのラザフォード博士は、磁石によってラジウムから出る放射線が二つの方向に曲がることを発見し、これらをアルファ(α)線、ベータ(β)線と名付けた。その後、ある放射線が磁石を使っても曲がらないことが分かり、この放射線をガンマ(γ)線と名付けた。

放射線の種類と磁石の影響

年表 放射線に関わる出来事

アンリ・ベクレル(1852-1908)フランス生まれ フランスの物理学者 1903年ノーベル物理学賞を受賞 アーネスト・ファザフォード(1871-1937) ニュージーランド生まれ イギリスの物理学者 1908年ノーベル化学賞を受賞

放射線って、何だろう?

学習のポイント

◎放射線は目に見えないことや宇宙など色々なところから出ていることを学ぶ。

◎放射線は、光のようなもので空気中を飛んでいることを学ぶ。

◎放射線がどこにあるのか進んで調べようとする。

指導上の留意点

◎私たちは、宇宙、地面、空気、食べ物などの自然界から常に放射線を受けていることを理解できるようにする。

◎放射線は、光の仲間に分類できるが、目に見えないものであることを補説する。

◎放射線は、ものを通り抜ける働き(透過力)が強いことを本文の記述やエックス線の写真(児童用P.4)などから確認する。

 私たちは、宇宙や地面、空気、そして食べ物から放射線を受けている。

■宇宙から

 宇宙には、放射線が存在し、今でも常に地球に降り注いでおり、これを宇宙線という。
 宇宙から受ける放射線量は、地上からの高度が高いほど高くなる。これは、宇宙からの放射線を遮る空気が少なくなるからである。

■地面から

 46億年ほど前に誕生した地球の地表にも放射性物質が含まれており、こうした環境の中で全ての生き物が生まれ進化してきた。
 地表にある岩石などに含まれる放射性物質の種類や量が違うと放射線の量も変わり、例えば、インドのケララやイランのラムサールといった地域では世界平均の倍以上の放射線が地面から出ている(P.12参照)。
 日本でも関東地方と関西地方を比べると、関西地方では、大地に放射性物質を比較的多く含む花こう岩が多く存在していることから年間で2~3割程度、自然放射線の量が高くなっている。

■空気から

 空気には、岩石から微量に放出されるラドンというガス状の放射性物質が含まれている。石造りの家が多いヨーロッパでは、寒冷なことから窓を閉めることが多く、日本に比べ室内のラドンの濃度が高くなっているといわれている。

色々な場所における自然放射線レベルの違い

■食べ物から

 食べ物の中にも放射性物質が含まれており、代表的な放射性物質は、カリウムに0.012%含まれるカリウム40(40は質量数:P.17参照)である。
 カリウムは、人間の体にも必要不可欠なものであり、体重の約0.2%を占めている。
 私たちは、野菜などを食べることで体内にカリウムを取り込んでおり、その他にも食べ物には、炭素14などの放射性物質が含まれている。

体内・食物中の自然放射性物質

■放射線とは

 放射線には、光のような性質をもったものと粒子の性質をもったものがある。
 私たちは、ものに当たって反射した光を見て、ものの形や色などを判別しており、このように見ることができる光を可視光線と呼んでいる。
 紫外線は、この可視光線よりエネルギーが高い光であり、赤外線は、可視光線よりエネルギーが低い光である。
 ガンマ(γ)線やエックス(X)線は、紫外線より高いエネルギーをもっている。

可視光線、エックス線などのエネルギーの高さの比較

 粒子の性質をもった放射線には、アルファ(α)線やベータ(β)線、中性子線などがある。

補足〈放射線の透過力〉

 放射線には、透過作用があるが、放射線の種類によって異なり、アルファ線は、紙1枚、ガンマ線やエックス線は、鉛や厚い鉄の板などで止めることができる。

放射線の種類と透過力

放射線は、どのように使われているの?

学習のポイント

◎放射線が色々な働きをもっていることを学ぶ。

◎放射線がどのようなところで利用されているかを学ぶ。

指導上の留意点

◎日常生活の中にある放射線の利用について、児童が知っていることや経験したことなどを紹介する活動などを通して、理解できるようにする。

◎放射線の色々な働きが、様々なところで利用されていることを理解できるようにする。

 放射線は、ものを通り抜けたり、強くしたり、細菌を退治するなどの働きをする。これらの働きが身の回りでどのように利用されているか、幾つかその例を紹介する。

■ものを通り抜ける働きを利用

 放射線にものを通り抜ける働きがあることは、レントゲン博士がエックス(X)線を発見した当時から知られ、手のエックス線写真も撮られている。
 病院では、体を傷付けることなく、体の中の様子が分かることから診断に利用され、CT(コンピュータ断層画像撮影)では、放射線を利用した体の断層撮影を行い、画像処理を行うことによって立体的で鮮明な画像を得ることができる。
 右の写真の青い部分は、人工血管を表し、立体的な画像を見ることにより人工血管の様子を確認することができる。
 この他、貴重なものを壊さずにエックス線によって内部を見ることができることから、長崎市のお寺にある仏像の中に金属製の「五臓(内臓)」があることを発見している(児童用P.7)。
 また、絵画の調査にも利用され、下絵を発見している。

人の腎臓周辺の立体画像

■もの(材料)を強くする働きを利用

 プラスチックやゴムに放射線を当てると分子のつながりが強くなり、耐熱性や耐水性、耐衝撃性などを向上させることができることから、自動車のエンジンルーム内の断熱材、フロントパネルなどに利用されている。
 また、物質に放射線を当てることにより、保水性に優れている材料を作ることができることから、やけどやすり傷などを湿らせて早くきれいに治す傷当て材を作ることに利用されている。

傷当て材

■細菌を退治する働きを利用

 病院で使われている注射器などの滅菌は、煮沸やガスを使って行われることもあるが、放射線を利用する場合には、注射器を袋に入れたままで滅菌することができることから衛生的である。また、アメリカでは宇宙食を滅菌することにも利用されている。

■調査や研究に利用

 「すざく」は、エックス(X)線を観測する天文衛星である。色々な波長のエックス線を観測することが可能であることから、宇宙の構造や進化、ブラックホールの研究などに利用されている。

補足〈その他の利用〉

●医療での利用

 医療では、がんの治療にも利用され、最新の治療では、外側からがん細胞に集中的に放射線を当て、周りの正常部位(細胞)のダメージを少なくする治療に利用されている。
 また、核医学の検査では微量の放射線を出す化合物を体内に投与して、体内から出てくる放射線を捉えて診断することに利用されている。この場合は、半減期(P.10参照)の短い放射性物質を工業的に作って病院に供給している。

●農業での利用

 農業では、じゃが芋に放射線を当てることにより、芽が出ることを防ぐことができることから、じゃが芋を長く保存することが可能になる。芽の細胞以外に影響を与えることはない。
 また、品種改良にも利用され、病気への抵抗性をもたせた梨や寒さに強い稲など、様々な品種を作ることに利用されている。
 この他、沖縄県にある病害虫防除技術センターなどでは、ゴーヤーやスイカに被害を与えていた害虫であるウリミバエを駆除するために放射線を利用し、ウリミバエの生殖能力を無くすことにより繁殖を徐々に減らし、ウリミバエの駆除に成功している。

じゃが芋への照射

ウリミバエ

●工業での利用

 工業では、放射線を利用することにより、排ガスや排水中の有害な化学物質を分解処理する技術が開発されている。
 また、エンジン内部の燃料や潤滑油の様子など金属管内の液体の動きや燃料電池の中の水素と水の動きなどの研究に放射線が利用されている。

●先端科学技術での利用

 先端科学技術では、茨城県にある高強度陽子加速器施設J-PARCにおいて、加速した陽子を原子核に当てることにより中性子やニュートリノなどの粒子を作り出すことができ、素粒子物理や物質科学など最先端の研究に利用されている。

高強度陽子加速器施設J-PARC

放射線を出すものって、何だろう?

学習のポイント

◎放射線を出すものを放射性物質と呼ぶこと、放射性物質が色々なものに含まれていることを学ぶ。

◎放射性物質を取り出すことに成功した歴史を学ぶ。

◎放射性物質は、時間がたつにつれて減り、その減り方は放射性物質の種類によって違うことを学ぶ。

指導上の留意点

◎放射線を出すものを放射性物質と呼び、色々な種類があることや自然のものに含まれること、そして放射線と放射性物質の関係について理解できるようにする。

◎キュリー夫妻が、世界で初めて2つの放射性物質を取り出したことを理解できるようにする。

◎放射性物質は、時間がたつと減り、別のものに変わっていくことと、その減り方を理解できるようにする。

■放射性物質と放射能、放射線

 放射線を出す物質が放射性物質、放射線を出す能力が放射能である。電球に例えると、「放射性物質」が電球、「放射能」が光を出す能力、「放射線」が光である。

電球・光を出す能力・光と放射性物質・放射能・放射線の関係

補足〈原子の姿〉

 全ての物質は、原子でできており、およそ110種類ほどの原子(または元素)が発見されており、人間の体や食べ物、空気、水など、全てのものが小さな原子が集まってできている。
 原子は原子核とその周りにある電子から成り、原子核は陽子と中性子でできている。原子はとても小さく約1億分の1cmの大きさしかなく、原子核はさらに小さい。陽子数によって、元素名が決まる。

原子と原子核の拡大図

■原子核から出る放射線

 原子核には、自然に放射線を放出して別の原子核に変わっていくものがあり、原子核から出る放射線は、アルファ(α)線、ベータ(β)線、ガンマ(γ)線のことである。

小さな粒子が高速で飛ぶ放射線(アルファ線、ベータ線)、波のように伝わる放射線(ガンマ線)

■半減期

 放射能は、時間がたつにつれて段々弱まり、放射能が弱まることによる放射線の減る速さは、それぞれの放射性物質によって違ってくる。放射能が元の半分になるまでに掛かる時間を半減期といい、ラドン220(注1)の約56秒と短いものからトリウム232の141億年と長いものまである。

半減期による放射能の弱まり方

様々な放射性物質から放出される放射線の種類と半減期

考えてみよう・回答

 4か月後に半分になるので、500個は次の4か月後(始めの時から8か月後)には半分の250個に、そして次の4か月後(12か月後=1年後)には半分の125個になる。答えは、125個。

補足〈半減期を利用した年代測定〉

 古い土器の年代は、土器に付着した植物の「こげ」や「すす」に含まれる炭素を測定して推定することができる。
 植物は、炭素原子1個と酸素原子2個でできた二酸化炭素を取り込んでおり、ほとんどの二酸化炭素は、放射線を出さない炭素(炭素12)原子でできているが、中には放射線を出す炭素(炭素14)原子でできたものもある。植物は採取されると二酸化炭素を取り込まなくなり、炭素14は半減期(5730年)に従って減っていくことから、この量を測ることによって土器の年代が分かる。

土器

放射線を受けると、どうなるの?

学習のポイント

◎原爆の爆発により発生した放射線が人体に影響を与えたことを学ぶ。

◎放射線による影響を考える時は、放射線の量が大事であり、放射線による影響を表す単位があることを学ぶ。

◎がんなどの病気になる原因には、色々あることを学び、健康的な暮らしの仕方を考えてみる。

指導上の留意点

◎放射線が人に与える影響を考える時は、放射線量を知ることが大切であることを理解できるようにする。

◎放射線による影響を表す単位としてシーベルトを用いることを理解できるようにする。授業の展開によってベクレルとグレイという単位についても扱う場合は、内容が複雑化することから、児童の負担が過重とならないように留意する。

◎がんなどの病気になる原因は、色々あることを知り、健康的な暮らしを送るために心掛けなければならないことを理解させる。

■放射線に関する単位

 放射性物質が放射線を出す能力(放射能の強さ)を表す単位を「ベクレル(Bq)」といい、人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位を「シーベルト(Sv)」、放射線のエネルギーが物質や人体の組織に吸収された量を表す単位を「グレイ(Gy)」という。

ベクレル、グレイ、シーベルトの説明

■放射線による人体への影響

 放射線の発見以降、研究や利用による研究者や医師などの過剰な被ばくや広島・長崎の原爆被災者の追跡調査などの積み重ねにより、放射線による人体への影響が明らかになってきている。
 一度に多量の放射線を受けると人体にがんなどの症状が現れることは分かっているが、子どもも含め一度に100ミリシーベルト以下の放射線を受けた場合に放射線が原因と考えられるがん死亡が増えるという明確な証拠はない。しかし、がんなどになる可能性があると考えて、被ばくする量を減らすことが国際的に求められている。
 なお、自然放射線であっても人工放射線であっても、放射線の種類が同じであれば同じ性質をもっており、受ける放射線量が同じであれば人体への影響の度合いは同じである。

補足〈身体的影響と遺伝性影響〉

 人体へ及ぼす放射線の影響の一つは、被ばくをした本人に現れる身体的影響である。身体的影響は、急性障害、胎児発生の障害及び晩発性障害(放射線を被ばくしてから、発生までの潜伏期間が長いもの)などに分類される。また、被ばくをした本人には現れず、その子孫に現れる遺伝性影響も研究されているが、遺伝性影響が人に現れたとする証拠は、これまでのところ報告されていない。
 ※遺伝性影響(hereditary effects)とは、子孫に伝わる遺伝的な影響のことで、遺伝的影響(genetic effects)が細胞の遺伝的な影響までを含むことと区別している。

身の回りの放射線被ばく

■がんの色々な発生原因

 がんは、放射線だけでなく食事、喫煙、ウイルス、大気汚染など色々な原因によって発生すると考えられている。下の表の国立がん研究センターの調査をはじめ色々な機関ががんのリスクについて調べ、その結果を発表している。

放射線と生活習慣によってがんになる相対リスク

放射線は、どうやって測るの?

学習のポイント

◎放射線は、測定器を用いることにより測ることができることを学ぶ。

◎測定器を使って学校やその周辺の放射線量を測り、場所によって放射線量に違いがあることを学ぶ。

◎霧箱を作って、放射線の飛跡を目で見ることができることを学ぶ。

◎一部の放射性物質を扱う施設では、放射線量を測って監視し、管理していることを学ぶ。

指導上の留意点

◎学校周辺の放射線を測ると色々な場所で放射線量が違うこと、霧箱の実験を行い放射線の飛跡を見ることによって身の回りに放射線があることを理解できるようにする。

◎一部の放射性物質を扱っている施設では、常時、放射線を監視・管理していることを理解できるようにする。

■簡易放射線測定器の活用

 小学生、中学生、高校生、学校などに簡易放射線測定器「はかるくん」が貸し出されている。
 これを使って目には見えない放射線を測定し、放射線の存在を確認することができる。
 「はかるくん」には、ガンマ(γ)線を測るものの他、ベータ(β)線も測れるものがある。
 学校などにある石碑は、放射性物質が比較的多く含まれている御影石などでできていることが多いため、放射線量が高くなる。また、池やプールなどの水が張ってある場所では、水が放射線を遮へいする役割を果たし、低い値となる傾向にある。

[身近な放射性物質の例]
 1.御影石(トリウム、ウラン、カリウム40など)
 2.塩(カリウム40)
 3.湯の花(トリウム、ウラン)
 4.カリ肥料(カリウム40)
 5.船底塗料(トリウム232)
 6.マントル(トリウム232)
 ※キャンプの時などに使用するランタンの芯
 7.塩化カリウム(カリウム40)

[測定場所の例]
 屋内:木造やコンクリート建築の他、石造建築、煉瓦建築など
 屋外:自宅の庭、道路、田畑、神社、寺院、公園など
 その他:石材店、トンネル、洞窟、池、湖、海、山など高い所、雨や雪の降り始めの大地など

[注意事項]
 測定の際、測定場所の様子(屋内なら壁材、床材など、屋外なら地面や周囲の特徴など)を記録させる。
 「はかるくん」を電子機器などに近付けた場合、電気ノイズの影響で異常に高い値を示すことがあるので、電子機器の近くで測る場合は注意が必要である。

簡易放射線測定器「はかるくん」について

 簡易放射線測定器「はかるくん」の貸出しは、学校教育などの支援を目的としており、利用者は小学生、中学生、高校生、学校などである。

■問合せ先

 文部科学省 〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2
 TEL.03-6734-4131(直通)
 専用Webサイト はかるくんWeb(※財団法人日本科学技術振興財団ウェブサイトへリンク)

■放射線の飛跡の観察

1.用意するもの
 透明な容器、黒い紙、エタノール、スポイト、スポンジテープ、懐中電灯、発泡スチロール、ドライアイス、放射線源。例えば、掃除機の吸込口をティッシュペーパーなどで覆い、30分間程度吸引して空気中のちり(ちりにはラドンの壊変生成物が付着している)を集めて利用する。

2.黒い紙を容器の底に入れ、内側にスポンジテープを貼り付ける。

図3の図解

3.スポンジテープにスポイトに入ったエタノールをたっぷりと染み込ませる。

図4 の図解

4.放射線源を中央に置き、蓋を閉める。ドライアイスの上に透明な容器をのせる。

5.部屋を暗くし、懐中電灯で横から照らし観察する。霧箱の写真のように、飛行機雲のようなものが見える。
 ※ドライアイスは、直接手で触らないこと。
 ※エタノールは、火の近くで使わないこと。

補足〈色々な放射線測定器〉

 放射線は、人間の五感で感じることはできないが、目的に合わせて適切な測定器を利用することによって、数値として確かめることができる。
 測定の方法は、大きく三つに分類される。1.放射性物質の有無を調べるもの、2.空間の放射線量を調べるもの、3.個人の被ばく線量を調べるものである。

1.放射性物質の有無を調べる
 ガイガー・ミュラーカウンタ(GM計数管)など
 放射線の数を測るもの。物質に放射性物質が付着しているかを調べるのに利用される。
 (単位:cpm※など)
 ※cpm:1分間に計測された放射線の数

ガイガー・ミュラーカウンタ

2.空間の放射線量を調べる
 シンチレーション式
 サーベイメータなど
 空間の放射線量を測るもの。放射線による人体への影響を調べるのに利用される。
 (単位:μSv/h)

シンチレーション式サーベイメータ

3.個人の被ばく線量を調べる
 個人線量計
 個人が受ける放射線量を測るもの。放射線量を知りたい時にも使われる。
 (単位:mSv)
 (注)個人被ばく線量計は、携帯電話などからの電気的ノイズにより誤計数する場合があるので、携帯電話などと同じポケットに入れて使用しないこと。

個人線量計

放射線から身を守るには?

学習のポイント

◎事故が起こった時に放射性物質から身を守る対策を学ぶ。

◎事故が起こった時は、学校の先生や保護者の指示に基づいて行動することを学ぶ。

◎事故後しばらくたつと、それまでの対策を取り続けなくてもよくなることを学ぶ。

指導上の留意点

◎放射線から身を守る対策について理解できるようにする。

◎事故後しばらくたつと、放射性物質が地面に落下などすることから、それまでの対策を取らなくてもよくなることを理解できるようにする。

■放射線から身を守るには

 放射線の外部被ばくから身を守るには、距離をとる、時間を短くする、遮蔽する方法がある。例えば、放射性物質が人体に比べて十分に小さい点として存在するような場合には、距離が2倍になれば放射線量は4分の1になる。ただし、放射性物質が周辺に面として分布するような場合は、離れれば影響は小さくなるが、距離の2乗に反比例して影響が小さくなるという関係は薄れる。また、被ばく(放射線を受ける)時間を少なくしたり、遮へい物を置いたりすることによっても受ける放射線量を減らすことができる。
 内部被ばく(放射性物質を体内に取り込むこと)から身を守るには、放射性物質を体内に取り込まないようにすることが重要である。

■事故の時の身の守り方

 外部被ばく(体の外から放射線を受けること)を防ぐには、「退避」や「避難」が有効である。なお、外部被ばくをしたとしても、放射線は体内を通り抜けたり、体内を通過中にエネルギーを失って無くなったりすることから、体の中にとどまることはなく、放射線を外から受けたことが原因で人やものが放射線を出すようになることはない。従って、外部被ばくをしたからといって被災者をいじめたり、差別したりすることがあってはならない。また、内部被ばくを防ぐには、屋内へ退避し建物の窓を閉めるなどして、放射性物質を吸い込まないようにするとともに、自治体の指示で制限された飲み物や食べ物をとらないことが重要となる。
 また、空気中に放出された放射性物質は、近くの地面に降り、特に雨に付着するとほとんどが地面に落ちる。地面に降らなかったものは、上空に広がり、風に乗って遠いところまで運ばれるが、時間がたてばやがて地面や海面に落ちたりしてくる。地面に落ちた放射性物質は、土に固着することから、風で舞い上がるなどすることは少なくなる。

補足〈計画的避難〉

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故では、事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達する恐れのある区域に住む方々に対し別の場所への計画的避難が指示されている。

補足〈避難勧告となる20ミリシーベルトの考え方〉

 国際放射線防護委員会(ICRP)は、緊急時の被ばく状況において、放射性物質により汚染された食品の摂取の制限などに伴う健康リスクと被ばくによるリスクを考慮して、放射線防護の基準値を年間20~100ミリシーベルトとしている。
 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故では、緊急時としてその基準の中で最も低い値である20ミリシーベルトが採用されている。将来的には、年間1ミリシーベルト以下まで戻すことを目標として様々な方策により「合理的に達成できる限り低い」被ばく線量を目指している。
 この基準は、ICRPの勧告を基に原子力安全委員会の助言を得て定められている。
 1.緊急事態期:事故による被ばく量が20~100ミリシーベルトを超えないようにする。この段階では、遠くの安全な場所へ避難したり、飲料水や食品についての放射線測定を徹底したりすることなどにより、被ばく量の低減に努める。
 2.事故収束後の復旧期:年間1~20ミリシーベルトを超えないようにする。この段階では、学校や住宅周辺の汚染された土壌の処理を行ったり、規制値を超える食品などが市場に出回らないよう監視を継続したりすることなどにより、被ばく量の低減に努める。

ICRPの勧告について(事故に関する放射線量の目安)

補足〈放射性物質の管理〉

 一定の放射性物質を取り扱う場合には、取り扱う前に許可を受けたり届出をしたりしなければならないことなどが法令で定められている。また、そのような場合には、放射線を取り扱う者以外の立ち入りを制限する「(放射線)管理区域」の設定などが行われている。

補足〈病院などでの管理〉

 病院のドアなどに貼ってある下のような標識は、放射線を使って検査や治療を行う部屋であることを示している。このような標識が貼られている部屋では、放射線を管理しているので、入る時には病院の人の指示に従うことが必要である。

放射線管理区域を示す標識

参考資料

■原子核・原子番号・質量数

 原子核は、プラスの電荷をもった質量が電子のおよそ1840倍の陽子と、陽子とほとんど同じ質量の電荷をもたない中性子からできている。
 原子核の中の陽子の個数は、原子番号に相当し、原子核の陽子と中性子の総数を質量数と呼ぶ。

■人工放射線の利用

 私たちは、放射線を人工的に作り、医療をはじめとして生活に便利なものに利用している(「放射線は、どのように使われているの?」の項目参照)。利用に当たっては、放射線を受けるリスクはあるが、リスクよりも放射線を使った方がベネフィット(便益)があるということが必要である。

1.医療からの放射線
 医療としては、胸や骨、胃腸などの診断やがんの治療で使う。がんの治療に放射線を利用する利点として、切らずにがんの患部を縮小させることから、治療の予後の生活の質が高くなることが期待される。
 日本において、自然放射線と人工放射線から受ける一人当たりの年間放射線量のうち医療による割合は6割を占めている。

2.原子力施設などからの放射線(平常時)
 原子力施設には、原子力発電所や核燃料製造工場、原子力の研究炉などがある。原子力発電所は、火力発電所や水力発電所などと同じように電気を作る電源の一つである。
 このような放射性物質を取り扱う施設では、周辺の住民の方々が受ける放射線量を管理している。その量は、法令で年間1ミリシーベルト以下になるように定められている。原子力発電所や核燃料を扱う施設では、周辺の放射線量をできるだけ抑えるために線量目標値を定めている。

自然及び人工放射線源から受ける一人当たり年間線量(世界平均、日本平均)

■外部被ばくと内部被ばく

 人体が放射線を受けることを被ばくといい、放射性物質が人体の外部にあり、体外から被ばくすることを外部被ばく、放射性物質が人体の内部に入り、体内から被ばくすることを内部被ばくという。
 外部被ばくの例としては、宇宙から飛んでくる放射線(宇宙線)などの自然放射線やエックス(X)線などの人工放射線によるものがある。
 また、内部被ばくは、放射性物質を含む空気、水、食物などを摂取することにより、放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。

■内部被ばくを調べる

 内部被ばくは、体内に存在する放射性物質の量を測定することにより調べることができる。ホールボディカウンタは、数台の検出器や移動する検出器により身体全体の放射性物質の量を測定する装置である。鉄などの遮へい体で囲むことによって外部からの自然放射線を遮り、体内から放出されるガンマ(γ)線のエネルギースペクトル※を分析して体内の放射性物質の種類ごとの量を測定する。その他、採取した尿や呼気などを検出器によって調べることにより、体内に取り込まれた放射性物質の量を測定する方法がある。
※エネルギースペクトル:光や音、エックス(X)線などを波長の順に並べた強度

ベッド式ホールボディカウンタ

■飲食物の暫定規制値について

 原子力安全委員会は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて、甲状腺で年間50ミリシーベルト、全身で年間5ミリシーベルトを基にして飲食物摂取制限に関する管理基準の指標を策定している。その指標値を基に、厚生労働省は「食品中の放射性物質に関する暫定規制値」を定めている。
 暫定規制値は、全ての飲食物を1年間、毎日、摂取し続けても健康に影響がないことを前提として決められた基準であり、相当の安全を見込んで設定されている。
 ここでの暫定規制値とは、緊急事態時のものとして設定された値であり、被ばくのリスクと野菜を食べる機会が少なくなることによる健康リスクなどを考慮して、被ばくによる健康への影響をできるだけ低く抑えることが求められていることから、合理的に達成可能な範囲内で適宜、この暫定値は見直される。

■放射線の線量(グレイとシーベルト)

 グレイとは、単位質量当たりのエネルギー吸収量で定義される「物理量」である。シーベルト★1(ここでは「実効線量」の単位として用いられている)は、被ばくによる将来の発がんリスクを簡略的に数値化した放射線防護のための「指標★2」である。この指標は、放射線に対して感受性の高い乳幼児なども含めて評価されている。
 実効線量は、がん、白血病、遺伝性影響(P.12参照)などの確率的な影響★3のみに使用し、リンパ球減少、おう吐、脱毛、眼の白内障などの確定的な影響★4の線量指標には使用できない。確定的な影響が生じそうな被ばくの線量を表す単位には、グレイを使用するのが適切である。

★1「シーベルト」という単位は、実効線量(注1)のみならず、等価線量(注1)や1センチメートル線量当量(注2)(「はかるくん」などによる測定表示のための量)など、異なる定義の数量にも使用されるので注意が必要である。
★2人体が受けた放射線の種類や受けた人体の部位(臓器・組織の別)の放射線に対する感受性で重み付けをしてグレイを基に計算される。
★3確率的な影響:線量の増加とともに現れる確率が増加すると見なされる影響。
★4確定的な影響:あるレベルの線量を超えると必ず現れる影響。重篤度は、線量とともに増加する。

(注1)人体への影響を表す方法として、実効線量と等価線量がある。単位は、同じシーベルトである。等価線量は、人体のある臓器・組織が放射線を受けた時の影響に放射線の種類による影響の大きさを加味した線量を表す。実効線量は、それぞれの臓器・組織が受けた等価線量に臓器・組織(臓器・組織1からNまで)の影響について重み付けをして足し合わせたものである。
 等価線量=吸収線量×放射線の加重係数
 実効線量=(臓器・組織1の等価線量×臓器・組織1の加重係数)+…+(臓器・組織Nの等価線量×臓器・組織Nの加重係数)

(注2)1センチメートル線量当量は、実効線量が測定器を用いて測定できない線量であるため、測定可能な実用的な線量として導入された。これは、どのような放射線がどのように人体に入射した場合でも、必ず実効線量を安全側に評価できる量になっている。日本の法令では、1センチメートル線量当量を実効線量とみなすように決めている。

■国際放射線防護委員会の勧告とがん

 放射線を受けると健康に影響を及ぼす可能性があり、長期的な影響として、受けた線量が多いほど、数年後から数十年後にがんになる危険性が高まると考えられている。
 国際的な機関である国際放射線防護委員会(ICRP)は、一度に100ミリシーベルトまで、あるいは1年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合(低線量率)には、リスクが原爆の放射線のように急激に受けた場合(高線量率)の2分の1になるとしつつも、安全側に立って※、ごく低い放射線量でも線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて防護するように勧告している。
 仮に、蓄積で100ミリシーベルトを1000人が受けたとすると、およそ5人ががんで亡くなる可能性があると推定している。
 日本では約30%の人ががんで亡くなっているので、この推定を用いると1000人が数年間に100ミリシーベルトを受けたとすると、がんによる死亡がおよそ300人から305人に増える可能性があると推定される。
 ※受ける放射線の量が低くなると放射線により人体に影響が出てくるかどうかは分からなくなる。この場合でも、受ける放射線の量と比例して影響が起こると考えて、放射線をできるだけ受けないようにすることが大事であるとされている。

■一度に多量の放射線を受けて現れる影響

 一度に多量の放射線(ガンマ(γ)線やエックス(X)線)を全身に受けた時に現れる影響(急性影響)に関し、どのくらいの量の放射線を受けるとどのような症状が現れるのかは分かってきている。

放射線を受けた時の人体への影響

■「しきい値のある影響」と「しきい値がないと仮定する影響」

 「しきい値」とは、放射線を受けた時に症状が現れる最小の放射線量のことをいう。例えば、250ミリグレイを超えると人によっては白血球が減少し、それ以下では白血球の減少は見受けられない。しきい値を超えてその影響が確実に現れるような影響が「しきい値のある影響」(確定的影響)である。
 一方、放射線によるがんの発生にはしきい値がないと仮定し、受けた放射線量が増えるに従ってがんの発生する確率が高くなると考えるのが「しきい値がないと仮定する影響」(確率的影響)である。
 「がん」や「脳卒中」、「心臓病」は、日本人の死因の約6割を占め、特にがんは死亡原因の第1位となっている病気であり、がんによる死亡者数は増え続けている。
 正常な細胞が、がん細胞になる原因として、発がん性物質の存在が確認されている。
 これらの物質をつくり出す原因は、食生活などの生活習慣に深く関係しており、老化や喫煙、大気汚染、そして放射線もその一つに挙げられるなど、色々な要因によってがんを発生すると考えられている。このため、発生したがんが放射線によるものかどうかを特定することは困難である。

放射線によるがん・白血病の増加

■国際放射線防護委員会(ICRP)の役割

 1928年、放射線障害を防止するための国際的な体制として設置された「国際エックス(X)線およびラジウム防護委員会」を継承し、1950年に放射線防護の国際的基準を勧告することを目的にICRPが設立された。ICRPは、放射線防護に関する基礎的な調査研究から被ばく線量限度の勧告値の設定まで広い分野で活躍しており、世界の大部分の国がICRPの勧告を尊重している。
 放射線による人体への影響を「確定的影響」と「確率的影響」とに分けてそれぞれに考え、放射線障害を防止するため線量限度値を勧告している。

■放射線の規制値

 我が国における放射線被ばくの規制は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて制定され、公衆の被ばくは年間1ミリシーベルトを超えないように原子力発電所、病院、工場などの事業所ごとに事業所の境界での線量限度が決められている。この線量限度は、適切な施設の設計や防護の計画を立て、認可された条件の下での規制値であり、これらの限度を超えれば、健康影響が現れるというような安全と危険の境界を示すものではない。
 今回の東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故のように、環境中に放出された放射性物質による被ばくは、計画被ばく状況での規制された線源からの被ばくと違い、計画的な防護ができない状況であるので上述の年間1ミリシーベルトという線量限度は適用されず、緊急事態期や事故収束後の復旧期の参考レベルという制限値を用いて防護する。参考レベルとは、その値を超えるような場合に必ず避難や除染のような線量低減の防護措置を取るように設定する制限値である。しかしICRPは、この防護措置について過大な費用と人員を掛けることなく、経済的、社会的に見て、合理的に達成できる限りにおいて行うべきであると述べている。

■集団実効線量について

 集団実効線量とは、ある集団全体の被ばくの大きさを示す指標であり、集団の一人ひとりの実効線量をその集団について合計したものである。その集団が複数の場合には、全体の集団実効線量は、個々の集団実効線量の合計であり、その単位は人・シーベルトである。放射線防護の最適化が集団全体で進んでいるかどうかの判断に用いることや被ばく事故の規模を示す場合にも用いられる。ただし、ごく小さい線量を極めて多い人数で合計した集団線量で集団のリスクを表すことは適切でない。
 ICRPは、集団実効線量について次のように述べている。
 「集団実効線量は、放射線の利用技術と防護手段を比較するための最適化の手段である。疫学的研究の手段として集団実効線量を用いることは意図されておらず、リスク予測にこの線量を用いるのは不適切である。その理由は、(例えばLNTモデル(しきい値無しのモデル)を適用した時に)集団実効線量の計算に内在する仮定が大きな生物学的及び統計学的不確実性を秘めているためである。特に大集団に対する微量の被ばくがもたらす集団実効線量に基づくがん死亡数を計算するのは合理的ではなく、避けるべきである。集団実効線量に基づくそのような計算は、意図されたことがなく、生物学的にも統計学的にも非常に不確かであり、推定値が本来の文脈を離れて引用されるという繰り返されるべきでないような多くの警告が予想される。このような計算はこの防護量の誤った使用法である。」
 (ICRP2007年勧告)

■放射線量を測る

 放射線は、測定器を用いて測ることができ、放射線の種類によって使用する測定器も違ってくる。
 測定器が放射性物質に近付けば近付くほど測定値は高くなり、一般的な測定では、空間線量を測る時は近くに建物などが無い場所で地上から1メートルまたは50センチメートル離して測る。
 放射性物質の汚染を探す時には、測定器を汚染させないために少し距離を離すか、測定器にカバーをして測る。
 個人(放射線業務従事者)が受けた放射線の線量を測るには、胸や腹部(妊娠可能な女性の場合)などに装着して測る。
 測定器により測定できる放射線の種類、エネルギーの範囲やその精度が違うため、測定する際には注意書きなどをよく読んでおくことが必要である。

■色々な測定器

 放射線を測る測定器は、大きく三つに分類される。

  1. 放射性物質の有無を調べるもの(表面の汚染の測定に利用)
  2. 空間放射線量を測定するもの
  3. 個人被ばく線量を測定するもの

1.のガイガー・ミュラーカウンタ(GM計数管)は、放射線の電離作用を利用したもので管に高電圧を掛けて放射線の数を測る装置である。
2.のシンチレーション式の測定器は、放射線の蛍光作用を利用したものでガンマ(γ)線のエネルギーや線量を測定するNaI(ヨウ化ナトリウム)やCsI(ヨウ化セシウム)の結晶を用いた測定器などがある。
3.の個人線量計は、体に着用する小型の測定器で体の外から受けた放射線量を測定する。光刺激ルミネセンス線量計(OSL)、シリコン半導体線量計、蛍光ガラス線量計、熱ルミネセンス線量計(TLD)などが用いられている。

 放射線の測定には、放射線の種類によって測定するものが違うため、その目的に合った測定器を使用することが重要である。

イメージングプレート電離箱式サーベイメータ半導体検出器 

放射線測定の分類

■放射線のリスクとベネフィット

 世の中のものには、プラスの面とマイナスの面がある。プラスの面をベネフィット(便益)といい、マイナスの面をリスクという。リスクは、日本語の「危険」とは違い量的な意味で使用され、望ましくない害が起こる可能性の程度(確率)を指す。実際に発生した時の害の大きさが異なる場合には、その大きさと発生する確率との組み合わせで定義されることもある。
 ベネフィットは大きければ大きいほど良く、リスクは小さければ小さいほど良い。しかしながら、人がベネフィットを得るために何らかのものを利用しようとする限り、幾らかのリスクは避けられず、それを完全に無くすことは決してできない。さらにいえば、リスクを完全に無くしてベネフィットだけを得ることは不可能である。
 放射線利用の場合は、多量の放射線を受ければ、がんなどの症状が将来において現れるかもしれないというリスクはあるが、その一方で、放射線を用いたエックス(X)線撮影、CT(コンピュータ断層画像撮影)などの利用により体内臓器の検査をしたり、早期にがんを発見したり、放射線を照射してがんを治療したりすることができるというベネフィットがある。
 このように、リスクとベネフィットのバランスを考えて判断することが重要であり、放射線は医療をはじめ色々な分野で利用されている。

放射線についての参考Webサイト

著作・編集

 放射線等に関する副読本作成委員会

【委員長】
 中村 尚司 東北大学名誉教授

【副委員長】
 熊野 善介 静岡大学教育学部教授

【委員】
 飯本 武志 東京大学環境安全本部准教授
 大野 和子 京都医療科学大学医療科学部教授/社団法人日本医学放射線学会
 甲斐 倫明 大分県立看護科学大学教授/日本放射線影響学会
 高田 太樹 中野区立南中野中学校主任教諭/全国中学校理科教育研究会
 永野 祥夫 世田谷区立用賀中学校主幹教諭/全日本中学校技術・家庭科研究会
 野村 貴美 東京大学大学院工学系研究科特任准教授/日本放射線安全管理学会
 藤本 登 長崎大学教育学部教授
 諸岡 浩 西東京市立碧山小学校校長/全国小学校生活科・総合的な学習教育研究協議会
 安川 礼子 東京都立小石川中等教育学校主任教諭/日本理化学協会
 米原 英典 独立行政法人放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター規制科学研究プログラムリーダー
 渡邊 美智子 茨城県土浦市立山ノ荘小学校教諭/全国小学校社会科研究協議会

(敬称略・五十音順)

監修

 社団法人日本医学放射線学会
 日本放射線安全管理学会
 日本放射線影響学会
 独立行政法人放射線医学総合研究所

(五十音順)

写真提供・協力

 独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、株式会社応用技研、財団法人環境科学技術研究所、九州国立博物館、京都大学医学部附属病院、セイコー・イージーアンドジー株式会社、株式会社千代田テクノル、東北放射線科学センター、公益財団法人日本科学技術振興財団、J-PARCセンター(独立行政法人日本原子力研究開発機構/大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構)、財団法人日本原子力文化振興財団、財団法人日本分析センター、日立アロカメディカル株式会社、富士電機株式会社、財団法人山形県埋蔵文化財センター

(敬称略・五十音順)

発行

 文部科学省
 〒100―8959
 東京都千代田区霞が関3‐2‐2

 平成23年10月発行

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研究開発局開発企画課

-- 登録:平成24年01月 --