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太陽電池パドルハーネスの熱解析
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熱解析の条件
太陽電池パドルハーネスの軌道上温度について、原因究明の一環として、新たに熱平衡試験を実施した(図 −3−6)。この実験では、ハーネスに軌道上と同等の電流を流してブーム及びハーネスの温度を測定し、新たな熱数学モデルを構築した。設計時点で使用した熱数学モデルからの主な改良点は、次のとおりである。
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MLIの実効放射率の見直し
設計時には、 .3.(2)で示したとおり、MLI実効放射率を0.2としていたが、上記熱平衡試験結果と実装状況にあわせた要素試験での評価により、ブームにおいて束線ひもで固定した箇所を0.05とした。
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熱数学モデルの詳細化
熱数学モデルは、太陽電池パドルハーネス内部の温度勾配を正確に予測できるよう、設計時点の10節点から34節点に増加することなどの改良を行った。 |
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2) |
熱解析の結果
新たな熱数学モデルによる解析の結果、最も高温となる部分は大電力ハーネス束の中心部であり、その中心部での予測温度サイクルは、約100〜230 (注)となった。また、大電力ハーネス束の中心部と周辺部との温度差は、約15 である。
設計時の大電力ハーネス束の予測最高温度は約143 であったが、今回の新たな熱解析の結果から、最高温度は約230 まで上昇していた可能性が高いと考えられ、部品メーカーが規定したハーネスの許容温度(200 )を超えていた可能性が高い。
(注)
この熱解析には、10〜15 の解析誤差が含まれているため、予測最高温度は230 15 となる。 |
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(2) |
太陽電池パドルハーネスの損傷発生に係る検証
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温度サイクル試験
軌道上での温度予測結果を踏まえ、「みどり 」の太陽電池パドルハーネスが遭遇したと思われる温度サイクル環境が、ハーネスの被覆に与える影響を確認することを目的とした検証試験を実施した。
試験は、約15分で約100〜250 の温度サイクルをかけて、ハーネスの被覆での損傷の発生を確認するものである。約5000サイクルを経過した時点で、少なくとも被覆の一方に芯線に達する損傷が発生したことが確認された。その後の顕微鏡観察により、被覆同士が固着していたところで損傷が発見された(図 −3−7)。
このことから、高温となったハーネスの被覆同士が固着することにより、少なくとも被覆の一方に芯線に達する損傷が発生する可能性が高いと考える。
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高温放置・温度サイクル試験
前述の温度サイクル試験において、被覆の固着部で損傷が発生したことに着目し、ハーネスの被覆同士の固着の再現確認等を目的とした検証試験を実施した。この試験では、ハーネスを高温下に放置した後、130 差の温度サイクルをかけた。
高温放置の結果、ハーネスの被覆同士の固着が確認された。その後、当該ハーネスは温度サイクル試験に供され、約2400サイクルを経過した時点で、少なくとも被覆の一方に芯線に達する損傷の発生が確認された(図 −3−8)。
このことから、ハーネスの被覆同士が固着することにより、芯線に達する損傷が発生する可能性が高いと考えられるが、この実験で見られるハーネスの損傷がどのようなメカニズムで発生するのかの特定には至っていない。 |
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太陽電池パドルハーネスの帯電に係る検証
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MLI帯電電位の解析
NOAA−17が平成15年10月25日にオーロラ帯を通過した時に観測した電子流入量から計算すると、「みどり 」の太陽電池パドルハーネスのMLIとハーネス間には、少なくとも約 1200 の帯電電位が発生した可能性が高いと考えられる。
なお、アメリカ空軍が使っている軍事衛星のDMSP(Defense Meteorological Satellite Program)衛星(高度約840 )や、「みどり」の観測例から推定すると、「みどり 」の太陽電池パドルハーネスのMLIは、毎周回ごとに日陰、またはオーロラ帯を通過時に帯電し、ハーネスとの間に1000 程度の電位差を生じていた可能性は高いと考える。
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MLI帯電電位検証試験
「みどり 」の実機と同等のMLIを用いて、外側から電子照射し、MLIの帯電電位の検証試験を行ったところ、約 1200 に帯電することが確認された。 |
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太陽電池パドルハーネスの放電に係る検証
太陽電池パドルハーネスは、MLIで覆われていることから、ハーネスとMLIとの間での放電の発生を確認する目的で試験を実施した。
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MLIとハーネス間でのトリガ放電に係る検証
「みどり 」と同等のハーネスを用い、被覆に芯線を露出させる環状の傷を付けたハーネス(損傷ハーネス)を2本対向させ、真空チャンバ内でMLIに電位差を与え、放電が発生することの確認を行った。試験条件等は、図 −3−9に示すとおりである。
この結果、MLIと1本の損傷ハーネスの間でトリガ放電が発生するとともに、隣接したもう1本の損傷ハーネス間にも単発的な放電が確認された。
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ハーネス間の持続放電及び隣接ハーネスへの波及に係る検証
ハーネス間で発生した単発的な放電から、持続的に放電が継続すること及び隣接ハーネスへ波及することの確認を目的とした検証試験を実施した。ハーネス間の持続放電確認試験の概要は図 −3−10に、多数回路波及確認試験の概要は図 −3−11に示すとおりである。
この結果、損傷ハーネスの芯線の露出部が対向している場合は、損傷ハーネス間の単発的放電が発生した箇所で損傷ハーネスの被覆が炭化され、この炭化された被覆(炭化導電路)を介し、発熱を伴う短絡が持続(持続放電)し、隣接する無傷のハーネスへも波及することが確認された。
さらに、多数の回路を用いて検証試験を2回行った結果、1回目の試験では、1組のハーネスの持続放電は隣接するハーネスに波及し、約30秒間で10回路すべての回路が開放または短絡することが確認された。また、2回目の試験では、約30秒間で8回路が開放または短絡することが確認された。
以上のことから、MLIと損傷ハーネス間でのトリガ放電及び損傷ハーネス間の単発放電が繰り返されることにより、損傷ハーネスの被覆が炭化し、隣接する損傷ハーネス間に炭化導電路が形成され、これを介して発熱を伴う短絡(持続放電)に発展すると考える。さらに、損傷ハーネス間の持続放電による発熱が隣接するハーネスに波及し、その被覆が熱損傷することにより生じた炭化導電路を介して発熱を伴う短絡が新たに発生し、数分間で隣接するハーネスに次々と波及し、最終的にハーネス束全体の回路の開放または短絡に至った可能性があると考える。
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MLI内圧に係る検証
太陽電池パドルハーネスは、MLIで巻かれていることから、軌道上の温度変化により、その内圧の変化を確認することを目的とした検証試験を実施した。
この結果、温度の上昇に伴い、MLIの内圧も上昇することを確認した。
このことから、太陽電池パドルハーネスが高温になることにより、MLI内部の圧力が高くなり、放電が発生しやすい環境が作られた可能性があると考える。 |
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衛星の姿勢変動に係る評価
「みどり 」の電力低下が発生している10月25日1時13分から17分にかけて、ロール・ピッチ・ヨーの3軸全ての姿勢角で、1回帰前の姿勢と比べてわずかながら変動が生じている。また、同時期に軌道高度もわずかに低下している。
この変動が生じている際の衛星の動作による擾乱量を差し引いた後の姿勢変動量及び角運動量は、それぞれ次のとおりと推定される。
ロール |
: 0.004度、 1.0 |
ピッチ |
: 0.003度、 0.6 |
ヨー |
: 0.005度、 2.0 |
この蓄積された角運動量が、何らかの力により発生したと仮定し、力積の作用点が存在する範囲を求めた結果は、図 −3−12に示すとおりである。
3−4で示したとおり、これまでのFTAによる異常部位の絞り込み結果を考慮すると、太陽電池パドルハーネスから太陽電池ブランケットの一部の範囲に力が加わっている可能性が高いと考える。
また、ハーネスを高温で加熱した場合の発生ガス量や組成を測定し、推定した上記の力は、「太陽電池パドルハーネスの熱損傷に伴って発生したガスが、MLIの隙間や破損箇所から噴出したために生じた」と仮定すれば説明が可能である。 |