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2.フロンティアの拡大
(1) 宇宙科学研究
   宇宙科学研究は、宇宙の起源と進化、宇宙の中の太陽系の起源と進化、あるいは太陽系における地球やそこに住む生命の起源等の究明を目的とした人類共通の根源的な欲求に根ざす活動である。また、地球や太陽圏環境を理解し、原始生命発生の過程を探ることは、人類の将来にわたる生存にとっても極めて重要な情報をもたらすものである。
   宇宙科学の成果として得られた知識・知見は、人々の宇宙観、地球観に大きな影響を与え、新たな文化の創造や文明の展開をも促す可能性を有している。
   宇宙科学研究の推進に当たっては、研究者の自主性の尊重など学術研究としての特性に配慮した上で、幅広い分野での関係大学・研究所等の研究者の参画を求め、コミュニティの合意を得てプロジェクト等を推進することが重要である。

(将来展望)
   宇宙空間の環境を利用した実験・観測等を行い、宇宙における極限状態の物理法則を解明することは、基礎物理として極めて重要な分野である。また、地上では捕捉できない波長領域の電磁波における天体観測は、地上における天文学と相俟って、宇宙の究極の姿を解明することにつながるものである。また、太陽系形成の歴史を知り、太陽・太陽系空間・惑星環境を知ることは、太陽系における原始生命発生の過程を探ることなど生命科学的な観点とあわせて、太陽系科学の究極的な目標である。

(重点的に取り組むプログラム)
   今後とも世界最高水準の、我が国として特色のある宇宙科学を推進する。プロジェクトの推進に際しては、大学共同利用システムによる幅広い関係コミュニティの参画を求め、ピアレビュー等により、プロジェクトの立案・選定、成果の評価等を適切に実施する。
   なお、近年、観測装置の大型化等の傾向が見られ、長期間にわたり着実な資源投入が必要であることから、国際協力に留意しながら、高い独創性を有する世界最高水準の活動を優先して着実に推進する必要がある。

1宇宙空間からの天文学及び宇宙物理学
   現在の天文学の主要なテーマである宇宙の形成と太陽系外の惑星の探索を重点的に推進する。また、宇宙の構成体である銀河や恒星の形成・消滅過程を理解するための観測を重点的に推進する。
   このため、赤外線観測を中心とした衛星による観測研究を推進するとともに、可視光・赤外線域における低エネルギー現象の高解像度観測手法の基礎的な研究開発を推進する。
   また、宇宙の極限状態の物理法則の解明を目指して、ブラックホールなどの高エネルギー活動天体現象に焦点を当てたX線天文衛星及び超長基線電波干渉計(VLBI)衛星による観測研究を重点的に推進する。また、世界的に未開発の分野であるガンマ線撮像観測、重力波検出等の実現に向けた基礎的な研究開発を推進する。

2太陽系探査科学
   太陽系を理解する様々なアプローチのうち、科学衛星による直接探査が最も効果的な成果を挙げると期待される「太陽系形成の歴史を探る」こと及び「太陽、太陽系空間、惑星環境を探る」ことを重点的に推進する。
   このため、月は地球の形成に深く係わり、地球型惑星の標準的形成・進化過程を保存しているので、月の起源と進化の解明を目指した月の科学探査を進める。また、太陽系の始源物質を保存している小惑星の表面物質等の直接探査及びサンプル回収を推進する。
   また、太陽の超高温プラズマの生成等の解明に焦点を当てた太陽観測を行うとともに、地球及び惑星の大気や磁気圏、太陽圏空間プラズマの観測的・理論的研究を推進し、宇宙空間の環境の理解及び地球環境の普遍性と特殊性の解明を行う。

3宇宙飛翔及び宇宙探査に係る工学研究
   より遠く、より自在な、より多面的な探査活動を実現するための工学研究を推進する。
   このため、より遠くへの探査活動を可能とする、新しい宇宙推進系、高効率の電源系等の研究を進めるとともに、長遠距離通信の高効率化を可能とする研究等の基礎的研究を実施する。また、自在な探査活動を可能とするため、自律探査ロボットや極限的な宇宙環境に耐える電子部品技術等の基礎的研究を実施する。さらに、多面的な探査活動を行うため、技術観測機能の分散化・多様化・連携化を可能とする基礎的研究を推進する。

(2) 宇宙環境利用
   国際宇宙ステーションや無人宇宙実験システムは、長時間の微小重力や高真空等、地上では得がたい環境を提供するものである。我が国の宇宙環境の利用は、小型ロケットを利用した宇宙実験、落下施設や航空機を利用した無人による微小重力実験などが行われ、さらに、米国スペースシャトルやロシアのミール宇宙ステーションを利用した有人による宇宙環境利用の高度化が図られてきた。

   長期の有人活動が可能となる国際宇宙ステーションでの宇宙環境利用は、宇宙特有の環境条件を利用して、さまざまな現象を人間自らがその場で観察し、操作、管理可能な環境を確保する、いわば「軌道上研究所」としての機能を果たすことが可能である。国際宇宙ステーションでは、人間が介在することにより、実験中での制御や条件変更が可能となり、無人システムでは実現が難しい高度な実験や観測を実施する。また、船外設備を活用し、基盤技術開発の実験台(テストベット)としての利用が可能である。
   さらに、多様な利用により成果の拡大を図るため、商業活動、教育等の利用を推進する。

(将来展望)
   宇宙環境利用は、国際宇宙ステーションの本格的な運用段階に入ることにより、新たな時代を迎えることとなる。また、宇宙環境利用が進展し成熟するに応じて、我が国は国際的な競争環境にさらされることとなることから、戦略的な取組みと適時的確な評価に基づき、我が国が得意とし、国際競争力を維持できる分野への重点化を図ることが重要である。
   また、宇宙での実験等で得られた知識・知見等を活かし、革新的な技術や新たな付加価値を獲得することにより、民間の国際競争力の強化や新産業の創出が期待される。

   今後の広範な有人宇宙活動に当たっては、信頼性の格段の向上や輸送コストの大幅な低減など、革新的な技術開発が必要である。しかしながら、宇宙への一般の人々の関心は高く、我が国としての有人宇宙活動のあり方については、技術的な側面だけでなく、広く国民の意見を踏まえた検討を行うことが重要である。

(重点的に取り組むプログラム)
   我が国の宇宙環境利用は、国際宇宙ステーション計画の遅延等に伴う利用機会の不足等により、適時的確に成果を創出することが困難となっている。
   国際宇宙ステーションの日本独自の実験棟(JEM)の初期運用開始までの間の利用促進を図るため、既存の微小重力実験手段の利用により、成果の早期創出が期待される課題に対する利用機会を提供する。また、JEMの利用に当たっては、宇宙ステーション補給機(HTV)を含めて、長期的な視点から将来展望を見据えた上で、限られた資源の中で最大限の成果を創出するため、特に費用対効果の観点から重点化を図ることとする。
   JEM等の運用業務・利用サービス提供業務については、定常段階までには極力民間を主体とした活動に移行し、JEMが広く国民一般に利用される施設設備として、利用サービスの向上、柔軟性の確保、費用の最小化を実現し、効率的かつ効果的に利用計画を推進する。このため、JEM等の運用・利用において担うべき官民の役割分担を明確にし、適切な協働体制を構築する。また、JEMの初期運用段階を通じて、民間と協力しつつ、確実な運用管理手法を確立し、民間への技術移転を図るとともに、利用の有効性を検証し利用方法等を確立する。


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