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1.社会的要請への対応
   人工衛星を活用した宇宙の利用は、天気予報、通信・放送・測位、地球環境問題への対応から、宇宙環境利用、宇宙科学など広範な分野に及んでいる。
   このうち、地球観測、通信・放送・測位などの分野では、公共サービスの提供や商業利用を行う段階に入っており、国民の日常生活に深く浸透している。これらの分野での実利用は、人類の生存基盤である地球環境の保全、防災、危機管理、水・食料・エネルギー確保など、安全・安心で質の高い生活ができる国づくりに大きく貢献するものである。このため、利用側のニーズを的確に捉え、開発から利用までが一体となった活動が求められる。

(1) 地球観測
   地球観測は、安全確保・危機管理をはじめとして、国土管理、気象、地球環境、農林水産分野などに活用され、公共性、国際性が極めて高い活動であるため、国が主体的に実施すべき活動である。
   人工衛星からの地球観測は、地球規模での自然現象について国境を越え、陸域・海洋の別にかかわらず、全球を広範囲かつ均一に捉え、定常的に観測データを得ることができる利点を有しており、G8サミット「持続可能な開発のための科学技術」行動計画にもあるように、地球温暖化問題等の解決に資するものである。

   また、大規模地震や火山噴火等の災害状況把握においては、地上のみの観測システムに比べ災害の被害を受けにくく、定期的に観測データを得ることができ、災害時の応急支援対策、災害後の復旧・復興対策に有効な手段として利用できる。さらに、農作物、森林、水産物、エネルギー等の資源の開発・管理や地球地図データの整備のための情報収集等を効果的に行う手段の一つとしての利用も期待されている。

   政府は、我が国の安全確保に必要な情報を収集することを目的として情報収集衛星の自主開発・自主運用に係る取組を推進している。

   また、地球観測分野における衛星観測データが果たす役割は拡大しつつあり、衛星観測データの提供機関と利用機関が密接に連携し、必要なデータを容易にかつ効率的に利用できるシステムの構築が不可欠である。

1)地球温暖化・水循環観測
(将来展望)
   環境分野における諸課題の解決に向けて、人工衛星による全球の高頻度、高精度の観測が継続的に行われ、気候変動予測モデルの検証・精緻化・高度化に大きく貢献することにより、現象の正確な把握、高い精度での将来予測が可能となる。
   地球温暖化問題については、気候変動枠組条約の目標を見据え、全球総合観測システムの構築等により、地球温暖化の現象解明及び影響の予測・評価が行われる。
   また、水問題は21世紀の最も主要な地球規模での環境問題となることが指摘されており、自然条件・社会条件に関して我が国との共通性の多いアジア地域への技術の適用の拡大が見込まれている。今後、地球規模の水循環変動により水資源供給に過不足が生じて人間社会が被る悪影響を回避あるいは最小化するとともに、「持続可能な開発」を実現する社会を構築するために不可欠な水管理手法の確立に向け、観測が行われる。

(重点的に取り組むプログラム)
   地球温暖化・水循環観測については、国際的な枠組みでの取組等を踏まえ、3つの観測に重点化して取り組む。
1温室効果ガス観測
   二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの安定化濃度を明確化するため、関係機関と協力して、温室効果ガスの濃度分布を全球規模で観測する衛星観測システムの開発・運用・高度化を行い、地上観測データ、モデル等との組合せにより、温室効果ガスの削減状況を検証することを目的とする。
   このため、二酸化炭素の濃度分布を全球規模で観測するセンサーを開発し、その運用により衛星観測システムによる温室効果ガス観測手法の有効性を明らかにする。さらに、継続的な監視が可能となるよう、国単位での二酸化炭素の排出量・吸収量を評価できる技術基盤を確立する。

2水循環観測
   気象予報の精度向上、洪水や渇水等自然災害の監視、地球規模の水循環の変動予測の実現のため、関係機関と協力して、霧雨等弱い降雨を含む降水量を全球規模で高頻度に観測する衛星観測システムの開発・運用・高度化を行うとともに、関係機関と協力して、観測データを即時(リアルタイム)で提供できる体制を整備することを目的とする。
   このため、全球規模での降雨量を高頻度で観測する衛星観測システムを開発し、その運用により衛星観測システムによる気象予報の精度向上等への利用可能性を明らかにする。さらに、継続的な観測により、水循環の把握や変動予測に貢献するための技術基盤を確立する。

3気候変動観測
   地球温暖化や異常気象の発生傾向の変化等、地球規模での気候変動の監視と予測精度の向上のため、全球規模での継続観測が必要な物理量(雲、エアロゾルの二次元分布、水蒸気、海面温度、海上風等)や、観測が不足している物理量(雲、エアロゾルの三次元分布、大気汚染物質、海面塩分濃度等)を観測する衛星観測システムの開発・運用・高度化を行うことを目的とする。
   このため、長期的かつ継続的に全球規模での観測を実施する。また、得られた観測データを関係機関に適時提供し、気候変動予測モデルの精緻化等に貢献する。

2)災害監視・資源管理
(将来展望)
   災害監視については、情報収集衛星や我が国における災害等のための地球観測衛星の状況を踏まえつつ、衛星観測システムの開発・運用・高度化が行われ、政府及び地方自治体が行う災害状況の早期把握、被災状況に合わせた応急対策活動の円滑化、被害軽減に向けた災害の予測が可能となる。

   資源管理については、衛星観測データを用いて、農業、森林、水産及びエネルギーの分野における資源の効率的な開発・管理、地球地図データ整備や地理情報システム構築のために必要な地図の作成が可能となる。

(重点的に取り組むプログラム)
1災害監視
   国内外の関係機関と協力し、衛星観測システムにより、適正な頻度で天候に左右されることのない観測を行い、観測データを内閣府等に適時的確に提供し、効果的な災害応急活動等に貢献することを目的とする。
   このため、衛星による陸域観測データを既存の地球観測情報システムを活用して、内閣府等の関係機関に提供する。
   さらに、関係機関と協力し、地震や火山噴火等による被害の軽減等に対して有効で、適正な頻度で天候・昼夜等の環境条件に左右されることのない観測等が可能なセンサを搭載した衛星観測システムに必要な技術基盤を確立する。また、昼間晴天時に、我が国全域の常時災害監視が可能な静止衛星による観測システムの技術基盤の確立を目指し、基礎的な研究開発を行う。

2資源管理
   衛星観測システムを利用して資源の効率的な開発・管理、地理情報システムの構築等に貢献するため、衛星による陸域観測データを利用した共同研究や実証プロジェクト等を推進する。
   このため、利用者と緊密な連携を図り、衛星観測データを用いて、農業、地図作成等の資源管理への利用可能性を明らかにした上で、各種資源の効率的な開発・管理及び高精度の地図作成に有効であると考えられる、高空間分解能かつ超多波長な観測等が可能な高性能センサの研究開発を行う。

(2) 通信・放送・測位
   通信・放送分野は、他の分野に比べて国民生活に直結した実利用が進んでおり、今後も利用の拡大が期待されている。また、世界的なIT革命の進展に見られるように技術革新が早く、的確な対応が求められている分野である。
   人工衛星を利用した通信・放送サービスは、1機の衛星で広い地域や海域などを対象とした同報型の情報配信が可能であり、また、山間部や離島など地上インフラの整備が困難な地域へのサービス提供や、広い地域を移動する自動車などの移動体向けに優位性を発揮することが可能である。
   特に、災害発生時においては、地上通信インフラに比して災害の影響を受けにくいことから、バックアップ機能を果たすことが可能である。
   また、衛星間通信については、光やミリ波の利用により、増大する地球観測、宇宙科学データを即時(リアルタイム)に地上へ大容量中継伝送が可能である。

   測位分野では、電子基準点等の地上系と連携した衛星測位システムにより、グローバル・ポジショニング・システム(GPS)の補強・補完を行い、高精度測位情報を山間部や都市部などを含め広範囲に、また、誰でも利用できるように提供することにより、適切な国土管理や災害への対応、高度道路交通システム(ITS)や地理情報システム(GIS)との連携による付加価値の高いサービスの実現が可能である。

1)通信・放送
(将来展望)
   高度な情報通信社会が実現すると、多くの人々が、様々な機器を通して、安全・快適に超高速・高速ネットワークにつながり、その上を多様な情報内容(コンテンツ)が流通し、新しいサービスや価値をいつでも享受できる環境が整備される。
   次世代情報通信基盤の整備が進み、いつでもどこでも何でもつながるユビキタスネットワークが形成されると、デジタル情報がこの間で自由に交換、共有できる基盤が整備され、例えば、自動車、電車及び航空機等での広帯域(ブロードバンド)接続によるサービスが提供される。
   また、高速・大容量の伝送が可能である新たな周波数の活用により、家庭に居ながら究極の臨場感を有する超高精細放送(UDTV)サービスや立体放送サービス等が提供される。

(重点的に取り組むプログラム)
   通信・放送については、利用ニーズを踏まえ、3つの分野に重点化して取り組む。
1固定通信・放送分野
   全国一律のブロードバンド環境の実現やアジア太平洋地域における情報格差(デジタル・デバイド)の解消を図るため、地上の通信インフラとの相互補完を図りつつ、固定衛星通信の大容量化や災害時等の通信確保等の技術開発を行い、超高速衛星インターネットの実用化を目指す。
   このため、関係機関との協力により、宇宙実証実験を行い、超高速衛星通信の基盤技術を確立する。さらに、関係機関との協力により、非常時等のための通信に活用するため、ミリ波帯大容量通信技術や高度な放送サービス実現のため、降雨減衰補償技術等の宇宙実証を行う。

2移動通信・放送分野
   衛星を利用した移動通信・放送システムの高効率化を図るため、大型展開アンテナや高出力中継器等の開発を行い、静止軌道からの小型移動端末向けの衛星通信技術や、地上のみならず海上等を含めた広い範囲にくまなくサービス提供可能な移動体通信に必要な技術を獲得する。
   このため、関係機関との協力により、小型移動体端末向け通信に関する実証実験を行い、移動通信の基盤技術を確立する。さらに、ミリ波帯大容量通信技術の移動通信実験を関係機関と協力して行う。

3衛星間通信分野
   地球観測衛星など低軌道周回衛星や惑星探査機からの大容量データをリアルタイムに受信可能な通信網の確立に必要な光やミリ波を利用した衛星間通信のための基盤技術を確立する。
   このため、光による衛星間通信実験を行い、大容量衛星間通信のための基礎技術を獲得する。さらに、観測データの増大とその迅速な収集に対するニーズを踏まえ、大容量衛星間通信網を構築するための基盤技術を確立する。

2)測位
(将来展望)
   衛星測位システムは、災害対策などの国・地方公共団体等が提供する公共サービスへの応用、民間による各種事業への展開の可能性を持っている。今後、移動体通信等との複合サービスや、個人の行動に対応したナビゲーション・システムの普及により、国民生活の豊かさと質が大幅に向上する。
   また、ユビキタスネットワークの進展に伴い、位置情報の重要性がますます高まり、その高度な活用等により新たなビジネスの創出が期待される。

(重点的に取り組むプログラム)
   測位システムは、安全の確保や生活の質の向上などに向けた幅広い応用が期待されることから、我が国の技術水準を測位システムの構築に十分なレベルまで高め、維持する。
   このため、静止軌道上での高精度軌道決定や地上との間の時刻管理などの宇宙実証を行う。さらに、関係府省で検討された測位に係る具体的な利用ニーズなどを踏まえ、高精度測位情報の利用促進を図るため、民間を含めた関係機関との協力により、準天頂軌道を利用して、測位システムに必要不可欠な基礎技術である、衛星搭載用原子時計、衛星群時刻管理技術及び高精度衛星軌道決定技術に関する宇宙実証や電子基準点による補正情報等を移動体衛星通信システム等で伝送することによりGPSの補完・補強に係る技術実証実験を行い、測位に関する技術基盤を確立する。


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