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1.我が国の宇宙開発に関する基本的考え方
1.宇宙開発の理念
   宇宙開発は、宇宙の成立ちの探索、宇宙空間の利用のための開発を通じて、人類の将来の発展に向けて無限の可能性を秘めた活動であり、人類にとって広大なフロンティアを開拓するという挑戦的な取組みである。
   我が国は、これまでの国内外の宇宙開発への取組みの努力によって、大きな成果を挙げており、世界における宇宙開発の存在感ある一極を形成してきている。まず、宇宙の起源、物質の根元に係る新たな知識を増大し、宇宙観、地球観、人類観に大きな影響を与えたと同時に、実用目的への応用によって、人類の生活の質の向上、産業の発展等にも大きく貢献してきている。これらは通信・放送衛星、気象衛星、地球観測衛星等の開発利用、それらの衛星の打上げ用ロケットの開発・運用等により実現してきている。
   これまでの開発経緯からは、宇宙開発の成果は多くの先進的で高度な技術の開発とその安定的な運用にかかっており、これらのいわばシステム技術体系等の構築・運用は国家の総合的な技術力を象徴している。換言すれば、広い意味での国の安全保障に密接に関係する戦略的技術であり、我が国の国際的地位にも係る極めて重要な技術分野である。したがって、宇宙開発は、我が国の存立基盤の一翼を担うものとして、我が国としての自律性を維持し、研究開発の着実な推進を図ることが必要不可欠である。
   宇宙開発は、このように、科学、経済、生活、技術、国力等の各種の側面において極めて重要な意味を持つ分野であることを十分に認識し、我が国のおかれている内外の諸事情を十分に踏まえ、適切な取組みを着実に進めていくものとする。


2.我が国の宇宙開発の目的と基本方針
(1) 我が国の宇宙開発の目的
   21世紀に入り、科学技術は、人類の生活と福祉、経済社会の発展に一層貢献し、世界の持続的な発展の牽引車となることが期待されている。特に、世界と我が国が直面している諸課題を克服し、未来を拓いていくために、科学技術の発展は重要な鍵である。

   宇宙では、衛星を利用した通信・放送・測位、地球環境観測のように地球規模での広範囲にわたる活動が可能であり、また、宇宙環境利用にみられるように、宇宙という特有の環境条件を利用すれば地上では実施できない活動が可能であるなど、独自の可能性を秘めている。
   また、宇宙に活動範囲を広げるということは、未知のフロンティアの開拓であり、新たな可能性への旅立ちとなるもので、知的資産の拡大のみならず、人々に夢と希望をもたらすものである。
   さらに、宇宙利用の拡大に伴い、新たな付加価値、新産業の創出に貢献することが期待されており、研究開発成果の民間移転等を通じ、国民生活の豊かさと質の向上、福祉、経済社会の発展に一層貢献し、安全で安心な社会の実現に寄与するものである。

   今後とも、科学技術基本計画で定められた我が国が目指すべき国の姿の実現を目指し、次の目的を達成するため、宇宙開発を積極的に推進する。

安全で安心な社会の構築
   人々が安心して心豊かに暮らすため、国際的な紛争や大規模災害から生命や財産を守り、我が国の安全の確保を図ることは、国家の最重要課題である。この責務を果たすため、宇宙という場を利用した活動により、地上システムとの連携、又は、補完関係を構築しつつ、安全で安心な社会の構築に寄与する。

国民生活の豊かさと質の向上
   物質・精神の両面で一層快適で便利な生活を実現するため、宇宙開発により、高度情報通信ネットワーク社会の形成といった知を基盤とした知識社会の実現に貢献するとともに、人類の生存基盤や自然生態系に係わる地球環境問題の解決につなげる。

経済社会への貢献
   変化する時代の要請に的確に対応し、経済社会に対して積極的に貢献するため、成果の社会還元の推進等により、国際的な競争力を有する産業への成長促進につなげる。また、宇宙環境利用の優位性を最大限に活かし、新たな付加価値、新産業の創出に貢献し、幅広い技術力のすそ野を形成する契機となる活動を行う。

知的資産の拡大
   未知なる宇宙及び太陽系の探査活動や宇宙環境を利用した基礎的な研究は、宇宙の起源、地球の諸現象などに関する普遍的な知識・知見を獲得するものであり、新しい価値観や新たな文化の創造にもつながるものである。
   また、未知のフロンティアである宇宙に挑む姿は、次世代を担う若い世代を含めて多くの人々に、夢と希望をもたらすものである。さらに、人類の新たな活動拠点を構築するとの観点から、次の世代の選択肢を増やしていくための活動を行う。

(2) 我が国の宇宙開発の基本方針
   我が国の宇宙開発は、これまで先行する欧米の技術水準に追いつき、技術基盤を確立する段階で、欧米に比べて限られた予算・人員で効率的に研究開発を推進してきた。しかし、活動範囲が広がりすぎた傾向は否めず、全体として見れば信頼性を含む技術力の欧米との格差は歴然としており、また、研究開発の成果を利用促進や新産業創出に十分につなげられていない状況である。また、確固とした技術基盤が構築されていない面があり、必ずしも十分な国際競争力を備えていない点がある。
   一方、近年の内外の状況を見ると、国際的な競争の激化やアジア諸国の競争力の伸長に伴い、我が国経済が停滞しており、また、我が国の財政事情が極めて厳しい状況にある。

   このため、利用促進や研究開発の意義等の観点から戦略的に重要な分野を先導的基幹プログラムとして設定するとともに、各プログラムに即した評価により各プロジェクトの優先順位付けを行った上で、組織・プロジェクトの合理化・スリム化を図り、確実に推進する。
   また、宇宙開発は、科学技術基本計画で示された重点分野にもつながるものである。我が国が科学技術創造立国の実現を目指す上で、今後とも重点化を図った上で、宇宙開発への取組みを重視する。

   さらに、国際協力の推進に当たっては、宇宙開発が比較的大規模な経費を必要とし、リスクの高い活動であるが、国際的な協調によって大きな成果をあげ得る分野であることから、我が国として維持すべき自律性に配慮しつつ、その役割と費用分担を考慮し、着実に推進する。

   さらに、研究開発により得られた技術・情報が、輸出等により国際的な平和と安全の維持を妨げることがないよう適切に対応する。


3.宇宙航空研究開発機構の役割
   機構は、宇宙開発、宇宙科学研究及び航空科学技術の研究開発を推進する我が国の中核機関であることの重要性を踏まえ、宇宙分野の基礎研究から利用を見据えた研究開発までを担う一体的研究開発機関としての機能を果たすことが求められている。
   機構は、産業の発展に資する強固な産学官の連携・協働体制を構築し、研究開発の成果を速やかに民間移転し、産業の国際競争力の強化につなげる。産業化に関連する業務を総合司令塔的な立場で運営する組織体制を構築し、産学官との連携を一層推進する。これにより、一層の信頼性と安全性の向上、コスト低減等を図る。

   また、機構は、幅広い利用者や研究者等との連携を図りつつ、宇宙開発を効率的かつ効果的に推進し、質の高い成果をあげるとともに、宇宙開発に携わる一人一人が、国民や社会に対する説明責任を的確に果たすように取り組む必要がある。

   このため、宇宙開発の目的に沿って、機構は、次の4つの役割・機能を担うものとする。
研究開発
   我が国の宇宙活動の自律性を確保しつつ、先導的基幹プログラムで設定した目標を達成するための研究開発を行う。また、地上システムの整備・運用を着実に行う。
   また、幅広い研究者間のネットワークを構築し、適切な評価を行い、世界最高水準の宇宙科学を推進する。
社会との連携・協力
   産学官の連携・協働体制を構築するため、積極的な人材交流や、オープンラボ等を通じて、宇宙実証の機会の提供、施設・設備の供用の推進を図る。また、宇宙を活用した教育をはじめとする国民理解の増進等社会との対話を推進する。
国際協力
   先進諸国との間で、我が国の技術力を活かし、適切な役割分担の下で主体的な国際協力を推進するとともに、我が国と関係の深いアジア・太平洋地域の特質に留意した共同研究開発、人材交流等の国際協力を着実に推進する。
人材養成
   次世代の研究開発を担う人材養成、個人の自由な発想による研究の支援を行う。また、大学院教育協力に積極的に参画する。


4.研究開発の重点化の考え方
(1) 研究開発の重点化
   長期にわたる低成長、厳しい財政事情等を踏まえ、機構において今後10年程度の期間において推進すべき研究開発について、重点化の考え方を定めた上で、官民の適切な役割分担の下に、予算・人材等の資源を重点配分する。
   宇宙開発は、比較的大規模な資金を要するため、効果的かつ効率的に成果を創出する必要があり、事業に携わる者は、成果の創出に関して厳しく責任を自覚し、成果を上げるべく改善・努力を常に続ける。
   事業の企画に当たっては、その必要性や有効性を厳重に見極め、事業のスクラップ・アンド・ビルドを含めて、必要な整理・合理化・削減を行う。また、各事業について、企画(PLAN)、実行(DO)、評価(SEE)のプロセスにより、資源配分に的確に反映させる。

(2) 官民の役割分担
   宇宙産業が将来の我が国の基幹産業に発展し、経済社会の発展に寄与するため、利用を見据えた研究開発が不可欠であり、研究開発の企画構想段階から、官民が連携・協働体制を構築し、イコール・パートナーシップの下で宇宙開発を進める。宇宙開発は、技術集約度が高く、また、手作りに近い一品生産品をシステムとして統合する必要があり、技術力を維持、継承し発展させていくため、官民が役割分担を明確化した上で取り組む。

   今日までの我が国の宇宙開発の蓄積を踏まえて、「民間でできることは民間で」との方針の下、国は、民間では実施困難なリスクの大きい研究開発、宇宙実証等を行い、その成果を速やかに民間移転することにより、産業競争力の強化に寄与する。
   また、産業化の段階においては、新たな宇宙利用の可能性を探るとともに、必要な基盤的な技術開発を行うことにより、その可能性の顕在化に資する。このため、信頼性や安全性の向上のための宇宙実証の推進、宇宙における実証・実験機会の提供、民間では整備できない大型試験施設・設備の供用、打上げ射場の整備充実を推進する。
   なお、民間においては、我が国が得意とする分野の技術優位性を活かし、その事業化に関する責任とリスクを踏まえ、宇宙の利用拡大に向け、魅力あるサービス等の提供に努めることを期待する。

   個別プロジェクトの推進に当たっては、以上の基本的な考え方の下で、あらかじめ官民の役割分担を明確にした上で推進する。


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