「教科書検定の見直し」に関する意見(全国市町村教育委員会連合会)

全国市町村教育委員会連合会

教科書検定手続きの改善策について

  1. 検定手続きの透明性を
    • 基本的に公開を原則として考えるが、しかし、議事や委員会の公開の時期を考慮し、有効に意見等が反映されるタイミングを考慮する。
  2. 専門委員等の活用を
    • 採択の基準を明確にし、専門委員の力量を生かした活用を図る。
    • 専門委員の名にふさわしい人材の起用を図る。
    • 専門委員会での意見交換を十分行い、教科用図書の特色を明確にする。
  3. 公正・中立な審議のあり方を
    • 公正・中立な審議は、教科書検定の大前提である。
    • 関係者の情報管理については、細心の注意を必要とする。
  4. 教科書の記述の正確性の確保を
    • 誤りは許されないという自覚のもとに、教科書の編集を行う。
    • 検定においては、細部における正確性を確かめるシステムや機会が必要である。
    • 教科用図書の信頼性は、学びの質にかかわる重要な事柄である。

新教育課程に対応したこれからの教科書に求められる内容・記述・体様等のあり方について

 教科書は主たる教材としてその使用義務が法定されており、教育の根幹を支えているところである。
 今日、教育界は改革という流れの中に直面している。この改革も国家百年の計は教育にありとするならば、100年後には、どのような日本の子どもを育てることが大切であるかをしっかりと見極めておかなければならない。
 教科書について、第一に論議されるのは「何を」「どこまで」記載するか、という検定にとらわれる問題であり、「何を」「どのように」学ぶのかということは二義的に扱われ、マスコミでは大きく取り上げられることは少ない。もちろん、記述の仕方や構成、体様などは、教育関係者や現場の教師にとっては大きな課題がある。教科書については、すべての児童・生徒が理解しやすく、学習しやすい教科書にするため改善すべき点は改善しなければならない。
 これから先、どのような日本の子どもを育てるのか、このようなビジョンに基づいた教科書を作成していかなければならないと考える。したがって、つぎはぎ的でないしっかりした議論を重ねていくことが必要である。

  1. 基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得
     教科書は、法の定めにあるように、どの学校現場においても主たる教材として使用しているわけであるが、教科書だけで指導が事足りているわけではない。教師自らの自作の教材も多く用いられているし、そのほかにも、教科によっては、副教材として問題集や資料集、ドリル等を使用している。
     教科書は、必要な知識や技能が簡潔な文章で図や資料とともに掲載されており、きわめて効率のよい教材である。その一方で、児童生徒に教科書に記載されたものは、確実に理解させ、習得させるには、児童生徒が学び方を学ぶ必要がある。
     日本の教科書は、概して教材を提示、提案する形でまとめられているものが主であり、学習の目的、手段が明確に読み取りにくい。実際は学習の目的や学びの手順は指導者である教師の創意工夫にまかされている。
     子どもたちが、教科書によって、自ら学び方を習得していくには、学び方が具体的に、細部にわたって示されていなくてはならないが、実際は教師の創意に任されている場合が多い。
     学習のプログラムとして、子どもたちにとっても明確にわかる記述、構成等になっているとは云い難い。
     例えば、国語の教科書では、学習の手引き等で課題がわかりやすく提示されたり、学習活動の手順が示されたりということが、以前より多くなっているが、それでも子どもたちが教科書で自ら学び方がわかるようになっていない。
     国語の教科書に誰それの文章が掲載されたということが話題になるが、その文章が掲載されることによって何をどんな活動を通して学ぶかということは、さほど話題にならないことである。
     現行の国語科の教科書では題材を通して確実に身につけさせる基礎的・基本的な内容が明確に示されていない単元もあるので明確化は必要である。
     算数の教科書等では、単元に関する文章問題、図形等の解決に当たって、考えの説明を求める過程を組み入れることも必要である。
     美術では、多くの良い作品例等の提示がされており、それはそれで効果的だが、教科書によって技法的な知識を得、具体的な鑑賞法について学ぶことは難しい。学び方はあくまでも、教師の力量に左右されることになる。美術科では授業において教科書が必ずしも十分に活用されているとは言えない理由の一つであろう。
     基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得のためには、これまでの教材提示型の教科書から、児童・生徒に学習の目的や方法、手順等を明確にし、学び方を学べる内容・構成を考えた教科書が必要である。また、各単元で身につけさせたい基礎的・基本的な内容に関する用語・技能をキーワードとして記述することも効果的である。
     
  2. 基礎的・基本的な知識・技能を活用する思考力、判断力、表現力等の育成
     論理的思考力や、日常生活や社会生活に生きて働く判断力、様々な場面や条件の中で適切に表現する力などは、どの教科でも現行の教科書には反映されている。しかし、実際の授業で、日常的に培っていくための内容や学習計画になっているかというと疑問を感じることもある。特設ページ的な扱いでなく、それぞれの教材で実験や観察、論述やレポートなどの学習活動を組み込み、発達段階に応じて思考力、判断力、表現力を育成できるような工夫がさらに必要になると思われる。教師にとっても児童生徒にとっても、かなり負担と思えるような時間的、物理的な条件をクリアーしてはじめて可能な教材も見受けられる。
     児童生徒の現実の学習活動を十分理解した上で、日常的に思考力、判断力、表現力等の育成ができる内容、記述、構成等が必要である。
     様々な学力調査等の結果から現在の児童生徒は道筋を立てて思考し、その内容を言語化する能力が不足しているといえることから、論理的に思考した内容を相手に的確に伝えることを段階的に指導する必要がある。例えば、ディべートは現在高学年の国語で取り扱われているが、その内容を段階的に細分化し、小学校低学年から系統的に指導できるようにする。また、算数において、自己の考えを言語化して表現させるような学習課題の設定を今までよりもより明確に示す必要がある。
     書き込みができるような工夫や、児童・生徒が自主的に学習できるようなページの掲載や、記述のみでなく、図式化したものの提示などを工夫し、指導内容・適切な資料・ノート的な要素が織り込まれた新しい教科書も良と考える。
     
  3. 繰り返し学習や知識・技能を活用する学習、発展的な学習に児童生徒が自ら取り組むような読み応えのある教科書記述
     繰り返し学習については、段階や系統を踏まえて取り入れる必要がある。例えば、算数では、練習問題や補充問題などが増加することなどが考えられるが、単に数や機会を増やすだけではなく、児童・生徒の意欲や学習の効果を十分に考慮した内容、記述が求められる。
     発展的な学習内容をいままで以上に組み込むことが必要である。意欲化を図るためには基礎的・基本的な学習内容と発展的な学習内容を教科書の構成上分かり易くする。例えば、ページを区切りここまでが基礎的内容、ここからが発展的な内容であることにすることや、発展的な内容には色分けをしたり、マーキングをしたりすることによって識別できるようにする。さらに、発展的な内容においてもレベルを段階的に設け、それらについても視覚的に捉えやすい工夫がなされるとさらによい。
     知識が深まるようなコラムや、以前に学習したことなどの関連する項目の照会、索引の充実を図ることも必要である。
     驚きや喜び、感動を生み出す新しい教科書の誕生を期待したい。また、感性に訴え、考えることを促し、学びを引き出す要素を持たせることである。
     
  4. 児童生徒の学習意欲を高め、教師が児童生徒に、より教えやすくするような教科書内容の創意工夫と正確な教科書記述
     大判化や、写真、紙質の向上、グラビア頁の増大、カラーページの増大などによって、教科書の体様が大きく変わってきている。理解を深めるということであろうが、それがストレートに「質的向上」に結びついているかどうかは議論の余地がある。たとえば、算数の教科書では、児童の関心を引きつけるために、キャラクターやマスコットが出てきたり、挿し絵が非常に多いが、本当に理解の助けになっているのか検証する必要がある。社会科では、大判化し、カラーになったことによって、写真が見やすくなり、図表やグラフも非常に分かりやすくなったが、記述自体がそれによってどう変わったのかということが気にかかるところである。
     「児童生徒の学習意欲を高め、教師が児童生徒により教えやすくするような教科書内容の創意工夫と正確な教科書記述」という観点からすると、改めて記述の方法や文章そのものの見直しを図ることが必要である。「親しみやすさ」、がそのまま「学びやすさ」や「意欲」に結びつくかどうか、豊富な資料やビジュアル化が「教えやすさ」に直結するのか。教科書のページ数は増えており、これまで以上に丁寧な展開がされているが、その一方で文章記述がより分かりやすく、正確であるのか、検証の余地がある。
     そして、見出し等の工夫や情報の正確さ、最新の情報の掲載、写真の鮮明さ等は強く要求される事項である。
     学習意欲を高め教えやすくする工夫としては、学習内容の系統性を明確にすることである。学習内容の系統性をフローチャートのように明記してあればつまずきのポイントを児童生徒自身で振り返ることができるようになり、また、教師もそれを活用して指導することにより、つまずきの解決をいっそう効率的に行うことができるようになる。
     教科書は、ずっと手元において活用したいと思える、学びが継続していくものでなければならない。
     
  5. 体育科の運動領域の教科書の作成が必要である。これまでの体育科の特性から保健領域の教科書はあるが、運動領域の教科書はない。しかし、児童生徒に最低限身につけさせなければならない内容(ミニマム)を明確にした指導の必要性が示された現在、運動領域においても教科書を作成する必要がある。指導と評価は一体であり教科書があればそれを、明確な基準として、そこに示された内容を身につけさせられたかどうかを教師は評価することになる。必然的にその内容について身につけさせようと教師の指導はいままで以上に積極的なものになることが期待できる。

 教科書の改善については、価格があることから分量的に大きな制約がある。また、教科の特性や校種による違いなど、同一には論じられない点も多い。質の高い教科書ではあっても、教科書を指導する教師の側の問題もある。今回ここに述べたのは、全体を通しての意見であり、教科それぞれについては、さらに個別に論じる必要があることを付記する。

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初等中等教育局教科書課