新教育課程の実施に対応したこれからの教科書の改善方策について(全国高等学校長協会)

全高長 第22号
平成20年5月20日

文部科学省初等中等教育局教科書課長様

全国高等学校長協会
会長 島宮 道男
(公印省略)

-新教育課程に対応した、これからの教科書に求められる内容・記述等の在り方-

 「学力が低下した」、「いや低下していない」とか世上かまびすしい。しかし、いわゆるPISA型学力については、日本の教育に課題があることは多くの人が認めている。
 高等学校学習指導要領はまだ最終結論に達していないが、97.7パーセントの義務教育修了者を受け入れている高等学校としては、下記2方向に対応できる教科書を要請する。

1.「基礎学力定着」に向けて

 高校進学希望者がほとんど全入状態の高等学校では、学力のバラツキが大きい。
指導内容を精選した教科書で確実な定着を図るのが、従来型多様化対応路線であったかも知れない。しかし、現実には高校生の学力幅が大きすぎて、「基礎重視型」と「応用力重視型」に2分出来るような状況ではない。

 今後は、個の力に応じた基礎学力定着や上位課題への挑戦促進を目指すことが求められるだろう。学習課題のレベルに配慮しながら、教科書記述の総量を増やし、多様なレベル対応の必要があるのではないか。

 また、現状では教科書の学習内容に系統性が不足しているのではないかとの意見もある。学ぶ者の立場に立つ、好奇心や学ぶ意欲を刺激する教科書を切望する。

2.「教科書(内容)を教える」から「教科書で教える」への転換促進に向けて

 社会の変化が大きく、技術が日進月歩の現状でも、基礎・基本的な部分は、学校教育等を通じた学習が有効な手段と言える。
 21世紀社会では、学校教育に終わらず、生涯学習を通じて学び続ける努力や知識・技術が一人ひとりに求められ、正解のない答えを探求していくことになるだろう。
 知識や技術の基礎・基本習得にとどまらず、生涯を通じて学ぶ姿勢の獲得もまた、学校教育の成果に大きく依拠する可能性が高い。

  1. 学校の授業を「知識注入型」から「探求型」に大きく転換する必要があり、それに伴い学習活動を支える教科書もまた、変身を遂げる必要があろう。
     探求テーマのヒントは必要だろうが、一人ひとりの探求型推進はハードルが高すぎる。「まずグループでの取り組みから」が、学校という集団教育の場を生かせる。多様な意見の持ち主との意見交換・協働作業は、共生社会に有用である。

     従来の「教科別」教科書に加えて、「合科的・主題別」教科書も必要ではないか。 
     
  2. ICTの長足の進歩は、今後ますます学校教育の在り方に影響を与えていくだろう。その際役立つ教科書の姿は、基礎資料+参考資料だろうか。

     基礎資料の中には、いわゆる読み・書き・パソコン活用能力の基礎と、資料検索・収集・精選・意見のまとめ方、意見表明方法等を含むだろう。

     参考資料部分は、多様な観点からの意見(論)併記を含め、個の関心に対応した<情報へのアクセスの仕方>や<その活用法>へのヒントがあることが望ましい。

 いずれにせよ、高校段階での教科書は、個の能力に応じて、自力で、または集団で校内外の学習を進める上での資料集またはヒント集の色彩を濃くしていって欲しい。
 それが「教科書で教える」、「教科書を通じて学ぶ」ことを支援し、PISA型学力向上に繋がるのではないだろうか。

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