「教科書検定の見直し」に関する意見(社団法人教科書協会)

平成20年5月28日

教科用図書検定調査審議会総括部会
部会長 杉山 武彦様

社団法人 教科書協会

はじめに

 教科用図書検定調査審議会の委員各位におかれましては、我が国の教科書の質的向上のためにご尽力をいただいておりますことに、衷心より敬意を表する次第です。
 このたび、新教育課程の完全実施に先立ち、教科書の改善に関する貴会でのご審議に際して、当会に意見を提出する機会を与えていただきましたことを深謝申し上げます。
 以下に、予めお示しいただいた項目に沿って意見を申し述べさせていただきます。項目ごとに(1)、(2)、…で意見・要望を述べさせていただいたうえで、必要に応じてそれらの理由・背景等を○印を付して記しております。
 教科書発行者は、新教育課程ないしは新学習指導要領のめざす理念・方向を十分に咀嚼し、我が国の学校教育の改善・充実に資する教科書を作成していく所存です。何卒下記の点について、ご検討くださいますようお願い申し上げます。

1.新しい教育課程の実施に対応した教科書の改善方策について

(1)新教育課程に対応したこれからの教科書に求められる内容・記述・体様等のあり方について

(1) 新教育課程のめざす理念・方向を体現し、「学びやすく教えやすい」なおかつ正確性の高い教科書を作成するために、教科書発行各社は全力を傾注していく所存です。

  •  新教育課程ないしは新学習指導要領が要請している諸課題に関しては、その趣旨を理解し、創意工夫を行って課題に応える教科書を作成することは、発行者の責務であります。
  •  教科書が児童・生徒及び教師にとって、「学びやすく教えやすい」ものであることは、必須条件であると受け止めております。

(2) 「教科書の質量の充実」については、「新教育課程に対応したこれからの教科書に求められる課題」においてその方向が示されております。発行者としましては、「充実した」教科書を作成することに全力を傾注しますが、それらの課題を全て満たした教科書を作成した場合、教科書が分厚いものになると予測されます。したがって、学校ないしは学級の児童・生徒の実態に応じて、教科書の記載内容を選択的に取り扱ってよいという教科書観への転換が重要になってくると思います。

  •  教育現場には教科書に記載されている内容を全て指導しなければならないという教科書観が浸透しています。この考え方は保護者も同様であり、教科書に記載されている内容を扱わなかった場合は、学校ないしは教員に質問や抗議が寄せられると聞いております。当然ながら発行者は「教科書の質の充実」の課題を真摯に受け止めております。しかしこうした状況下では、「量の充実」の課題に応えた教科書に対しては、指導内容が過多で標準授業時数内では全てを扱いきれないという批判が出ることが予想されます。
     例えば内容面・造本面からどの程度のページ数が望ましいのかという目安があれば、教育現場に混乱を招かないと思われます。

(2)教科用図書検定基準の改正等について

(1) 「義務教育諸学校教科用図書検定基準」第2章1(2)の「…学習指導要領に示す内容及び学習指導要領の内容の取扱いに照らして、不必要なものは取り上げていないこと」という規定は見直しが必要ではないかと考えます。

  •  新教育課程ないしは新学習指導要領では、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに、それらを「活用する力」を育むための繰り返し学習や知識・技能を活用する学習、さらには教科横断的な課題として、思考力・判断力・表現力の育成、言語活動の充実などが掲げられています。例えば、繰り返し学習(スパイラル)に関して、学習指導要領で反復学習として明記された内容以外の反復学習の内容を教科書で取り上げた場合、上記の規定に抵触する懼れがあるのではないでしょうか。この規定は、平成11年に検定基準改正が行われる以前からあるものですが、前述の観点から見直しが必要ではないかと考えます。

(2) 「義務教育諸学校教科用図書検定基準」第2章2(5)「図書の内容は厳選されており、網羅的、羅列的になっているところはないこと」という規定の、「厳選されており」は見直しが必要ではないかと考えます。

  •  中央教育審議会の答申に「子どもが学ぶにあたって必要な内容が質的にも量的にも十分確保されるよう記述内容を工夫しつつ」という提言があります。それと上記の規定との関係をどのように考えるかということになるかと思います。当該規定は、平成11年の検定基準改正で新設されたもので、高等学校検定基準にも同様の規定があります。

(3) 「義務教育諸学校教科用図書検定基準」第2章2(7)「図書の内容に、他の教科、学習指導要領に示す他の分野又は他の領域、道徳及び特別活動の内容と矛盾するところや不必要に重複しているところはないこと。」という規定の「不必要に重複しているところはないこと」の規定は見直しが必要ではないかと考えます。

  •  新教育課程では、教科横断的な課題が数多く提示されていますし、各教科の学習で獲得した知識・技能や活用力を総合した「生きる力」を培う意味でも、教科間の関連・連携を強化することは重要なことと考えます。上記の「不必要に重複しているところはないこと」は、平成11年の検定基準改正で付加されたもので、教育内容の厳選・削減に対応したものと推測されます。

(3)その他の改善方策

(1) ページ数・判型・色度数などの体様に関して、何らかの方向性を示される予定があるのでしょうか。もし示されるのであれば、できるだけ早期にお示しください。

  •  発行者としましては、「学びやすく教えやすい」教科書を作成すべく決められた基準にしたがって創意工夫をこらしております。見た目の良さだけで徒に色数を多くしているものではありません。現在新教育課程での小学校教科書の編集は既に中盤を過ぎております。もし拘束性のあるガイドラインが示されるのであれば、教科書作成にできるだけ影響が及ばないようご配慮いただくようお願いいたします。

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初等中等教育局教科書課