人材委員会ポストドクター等の雇用に関する小委員会(第1回) 議事録

1.日時

令和元年11月18日(月曜日)15時30分~17時30分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 議事運営等について
  2. ポストドクター等をめぐる現状について
  3. その他

4.出席者

委員

小林主査、早坂主査代理、長我部委員、加藤委員、川端委員、小鍛冶委員、竹山委員、堀委員

文部科学省

菱山科学技術・学術政策局長、田口サイバーセキュリティ・政策立案総括審議官、増子大臣官房審議官、真先文部科学戦略官、角田科学技術・学術総括官、磯谷科学技術・学術政策研究所長、奥野人材政策課長、楠目人材政策推進室長

5.議事録

科学技術・学術審議会人材委員会
ポストドクター等の雇用に関する小委員会(第1回)
令和元年11月18日
 
 

○議題1については非公開

【小林主査】   私は、科学技術・学術審議会人材委員会の宮浦主査から、ポストドクター等の雇用に関する小委員会における主査の指名を受けました小林と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は、ポスドク問題等については、十数年来関わっておりまして、そういう意味では、いつまでも解決しないことに非常につらい思いをしているところですが、是非ともこの小委員会で次の一歩に進めればと思っております。よろしくお願いいたします。
引き続き、早坂主査代理からもお願いします。
【早坂主査代理】   それでは、一言御挨拶申し上げます。主査代理を仰せつかりました東北大学の研究担当理事をしております早坂です。この小委員会のミッションとしては、ポストドクター等の雇用に関するガイドラインを策定するということですが、若手の研究者に活躍していただくためには、少し広く考える必要があります。キャリアパスの問題と経済的な支援の問題で、今、優秀な学生が博士を目指さなくなりつつあるという現状があります。是非優秀な学生がドクターを取って研究者を目指す、また、研究者を目指した後、キャリアパスとしましては、その後で産業界を含め、いろいろなところで活躍することも検討する必要があります。今、30代の若手の研究者は10年後に、40代になるわけですから、全体として産業界なども本当は一緒に考えていくことができれば、日本の研究力も強化されますし、産業経済や国力に関しても非常にプラスになるのではないかと考えております。この小委員会の具体的なミッションと外れるかもしれませんが、私自身は現在、そのようなことを考えながら、日頃大学で過ごしています。
 以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【小林主査】  ありがとうございました。
 それでは、事務局を代表して、菱山局長から御挨拶をお願いします。
【菱山科学技術・学術政策局長】  文部科学省の菱山でございます。よろしくお願いいたします。ポストドクター等の雇用に関する小委員会の第1回の開催に当たりまして御挨拶を申し上げたいと思います。委員の皆様方におかれましては、本日は御多用の中、御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。
 科学技術イノベーションを支える人材の育成は極めて重要であるというのは、すでに皆様、御承知のとおりでございますし、第6期の科学技術基本計画の策定に向けて、科学技術・学術審議会の各委員会においても様々な議論が行われていますが、その中でも人材育成は、非常に重要と位置づけられており、どの分野でも人材育成の重要性が指摘されているところでございます。
また、特に若手研究者の育成に当たっては、その研究環境の充実が大変重要な課題となっており、さきほども早坂先生からも御指摘があったように、このポスドク問題、非常に重要で、特に様々なプロジェクトで雇用されていることが多いポスドクについて、その処遇とか雇用、研究環境が不安定なものになりやすいということで、これらを適切な水準確保に向けた取組が今必要になっております。
 特にポスドクについては、研究者としての成長の1段階だという観点からは、その能力や研究力の向上を御支援していって、次の安定的なポストにステップアップできるような環境を整えることが大変重要だと考えております。
 また、博士人材のキャリアパスとして、これも早坂先生が御挨拶の中で述べられましたが、アカデミアのみならず産業界での活躍を促進していくことも求められていることでありまして、産学を問わず、すぐれた研究者に求められる能力を産業界とも連携して育成していくことが必要だろうということを考えているところであります。
 昨日、最終日を迎えたサイエンスアゴラのグローバルサイエンスキャンパスでは、大学が協力して高校生の研究を御支援するというものがあり、高校生が非常にすばらしい研究をしているわけでありますが、彼ら、彼女たちが明るい研究生活を送れるようにしていくことも非常に重要だと印象を持った次第です。こうした様々な課題があるわけですが、ポスドクを雇用する際の望ましい研究環境とかキャリア開発支援の在り方を示すようなガイドラインの策定に向けて集中的に御議論いただきたいと考えております。
 そのために、10月1日に開催された人材委員会において、本小委員会の設置が決められたところです。この委員会では、幅広い関係者の皆様に御参加をいただいているところですが、研究現場や法的な観点など、それぞれのお立場から、是非忌憚のない御意見を頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【小林主査】  どうもありがとうございました。それでは、議題2に移ります。議題2は、ポストドクター等をめぐる現状について御議論いただきたいと思います。本日は初回でありますので、今後の議論の参考としていただくために、まず、本小委員会に関係する設置の趣旨、科学技術・学術分野における人材の現状と課題、そして、ポストドクター等の状況等について事務局から説明いただき、現状を共有したいと存じます。
 それでは、事務局から説明をお願いいたします。

〇事務局より資料2-1、2-2、2-3に基づき説明

【小林主査】  ありがとうございました。 続きまして、大学等におけるポスドクの状況、あるいは若手支援に関する取組などの事例について、今後の議論の参考とするために、川端委員、早坂主査代理から、御所属の機関等におけるポスドク等の現状及びポスドク等に対する支援の取組内容を御紹介いただくことにいたします。
 まず、川端委員ですが、現在、新潟大学で、以前は北海道大学に所属されており、それらの取組について御紹介いただきます。早坂主査代理からは東北大学における取組について御紹介いただきたいと思います。
それでは、最初に川端委員、お願いいたします。
【川端委員】  先程、御紹介いただいた新潟大学の川端でございます。先ほどからいろいろお話しされていて、キーポイントはかなり話されているなと思っております。私からは、前任の北海道大学と新潟大学でのお話しをいたします。
 まず、立ち位置として、ポスドクというものは、30歳前後の社会人というのが大前提で、彼らをどのように支援するかというのではなくて、ポスドクというものを制度として、もし不備があるなら、しっかり支えないとアカデミア自体の魅力が落ちていくのだろうという観点でポスドク制度は考えるべきであると思っております。
 私からの話としては、現実として、具体的な大学のポストは一体どうなっているのか。北海道大学と新潟大学を見ても、大学を替えると状況が大きく違います。その状況の違いに関する話と、あと共通しているという観点、もう一つは、民間へのキャリアパスや育成プログラムについてお話します。民間へのキャリアパスや育成プログラムに関しては、この後、早坂先生から丁寧にされると思うので、そこまでやれている部分とやれてない部分がありますが、おおむね同じではないかと思います。
 その上で、研究者の意識というところが、実は、長我部委員もおられますが、日立製作所にお手伝いいただいて、研究者が何で活性するかという意識調査をやりました。ポスドクの時期に研究者は何を考えていたかというのを、研究者目線から調べたものがありますので、それの紹介と、最後に、こういう観点で対策を考えたらということでお話をさせていただきます。
 資料の2ページ目、「研究者数のフローとPD制度」については、先ほども出てきた話ですが、少し整理すると、学部で言うと、56万人が入学して56万人が卒業して、そのうちの10%、11%が修士に進学して、7万人が入学して卒業するという全体のフローを示しています。それで考えていくと、博士に進学するのは、さらにこれの10%の7,000人で、それに社会人、留学生が入って1万6,000人が入学して1万6,000人が毎年修了しています。そういう中に、ポスドクは今、1万6,000人って、ストックとして1万6,000います。この中に、毎年、先ほどで言えば、1,200人とか1,300人ぐらいが進学し、途中から出ていって、フローが一定になっているということは、毎年、千二、三百人が入ってどっかに出ていっているという、こういう状態です。
 では、アカデミアはという、これは大学のことを言っています。大学全体で言えば、18万5,000人います。これが35年間で出入りしていますから、選ばなければ、毎年5,000人程度は出入りするポストはあるということです。
 よって、分野や環境を選ばなければ、これぐらいのポストはあって、毎年、博士を修了した人間が5,000人ぐらい出ていって、そのうちアカデミアに5,000人とかそれぐらいが動いているとすれば、何だかんだポストはあるように見えてくることになります。 だから、ポスドクに行くというのは、やっぱりそれなりに研究がしたいとか、こういうレベルで研究がしたいとかというところからこういう話が起こっていることを、まず大前提で思った上で、ポスドクはただの避難制度ではなくて育成制度として考える必要があります。
 それから、冒頭でお話ししたように、30歳前後の大人がさらに成長するとで、自己責任の部分があるでしょう。
 3ページ目「若手研究者雇用環境」ですが、これは新潟大学の話になります。グラフの横軸が年齢で縦軸が人数です。助教、准教授、教授で色分けがされています。平成24年の数値がどのように変わったかというと、平成29年では下の通りになりましたが、助手、助教の数で言えば、291が288と、大して変化していません。その代わり、右側が特任の教員です。特任のポスト、人数は助教で言えば108人が159人に増加しました。ショットで見れば、若手のポストは増えているのが大学の中での話です。ただし、質は別です。任期の長短を全部抜きにして、ショットで人件費は、これぐらいは払われているという話になります。これで言えば、若手が挑戦できるポストの総数は増加しています。ただ、一番右の棒グラフ「年齢区分別教員数」を見ると、39歳以下と49歳から39歳、50歳以上と、3つのカテゴリーに分けた場合に、若手の人数は減少しています。要するに、39歳以下は減り続けています。ということは、若手というのは、ポストとしては増加しているけど高年齢化が進んでいることになっていますということです。
 環境で言えば、運営費交付金自体が、大学へのお金は全然減額しないと言いながら、中は競争的資金化しています。ということは、翌年が見通せなくなっています。ということで、人件費に任期が付きます。要するに、パーマネントにしたら、翌年以降の人件費が不透明となります。
 このような中で、任期付きの若手教員はどうすればいいかという話になっていくということかと思います。ただ、若手教員、若手研究者は、ポスドクというよりは、大半は特任教員だと思った方がいいです。今の段階では、これで見ていただけるように、ポスドクの数は1万5,000人から増えなくなりました。ポスドクで雇っても、優秀な人が来ないから、それよりは特任で雇った方がいいということで、人件費をそちら側に移しています。ということは、ポスドクだけじゃなくて、若手の助教も含めてどう育成するかを考えないと若手にはならないというのがここでの話です。
 4ページ目は北海道大学の人材育成本部の話です。ドクターとかポスドクのキャリアパスをどう考えるかというところ、実は彼らの連絡先が集まらないことから、”Hi-System”という独自のサーバーを使用し、ポスドクのメールアドレスなどの連絡先を全部収集した時代がありました。その頃は、大学でメールアドレスを把握しており、ただ個人情報で出してくれないだけだと思っていたのです。けれども、これは雇用関係の話で、この後、是非お話しいただきたいのは、ポスドクに関する雇用関係の実態が、大学ごとにかなり違っているのが、私も知らなかったのですけれども、ここで初めて気付いて、新潟大学で見た場合においては、雇用関係は社会保険だとかなんとかが入っていない雇用関係。だから、何が起こったかというと、メーリングアドレスがないという。したがって、彼らには情報が伝わらない状況になっているのが分かってきたのが個人的には非常にショックを受けました。
 5ページめは、赤い糸会ということで、現在の状況は離れているので詳しいことは不明ですが、北海道大学ではとにかく企業と若手研究者のマッチングを行う会も十何年と継続しておこなってきました。それを他大学にも展開しているということらしいです。
 6ページ目から、新潟大学の取組です。新潟大学ではそれなりの規模で、四、五十人のポスドクが、ドクターを含めるともう少しいますから、若手研究者に向けた支援の取組はいろいろやっていますということになります。
ただし、先ほどお話ししたように、若手研究者の支援に対してポスドクはほとんど参加していません。1つは、先ほど言ったように、連絡先の収集が不十分で、情報を発信しても本当に伝わっているかどうかが不明です。また、若手研究者からしてみれば、エフォートの問題で参加できないという状況です。北大では、この点は10年かけて教員の意識をかなり変えましたが、まだ新潟大学の場合は指導教員の顔色を伺わなければならないなど、様々な要因があるような気もします。
 7ページは、ペルソナやカスタマージャーニーマップという手法で研究者の意識調査を実施しました。ただアンケートをとって統計をとったのではなく、彼らは潜在意識では一体何を考えているかを明らかにしようというマーケティングの手法です。
 調査カテゴリー自体は、理系と医系と人社系、また、若手・中堅・シニアに分けて、資金が取れなくて元気が余りない人と、資金が取れていて元気がある人というカテゴリーで研究者を選び、それらの潜在意識をずっと調べていくという手法で実施しました。
 8ページ目は、これは縦軸がモチベーションです。横軸が時間です。下の図は、学部から教授までの研究人生みたいな感じになっています。学部の頃からモチベーションが上下する。助教になって上がったり下がったりして、准教授で上がったり下がったりって、こういうような状況のものが出てきます。特に、この中のドクター、ポスドク時代を拡大したのが上の図になります。
 細かくはハンドアウトしたものを見ていただければいいのですが、ドクターに入った頃は一番下のこの頃にあって、基本的には、自分は研究者としてやっていけるかどうか不安であるという状態です。それがだんだん認められて上の方に上がっていき、自分でそれなりの力を認められて楽しいなと思っていて、ここで赤い星マークで記されているポスドクになったときは、本人はとてもモチベーションの高い状態です。だからポスドクは、悲惨な職に仕方なく就いたのではなくて、ポスドクでやったぞという状態に入っている時期で、これは中身を見てみると、結局新しい環境で、自分で決めたやりたい研究ができるという希望に満ちた時期です。このチャンスや勢いをさらに強くするのが施策なのだと思います。給与もいいけれども、こちらの方が重要だろうなというのが1つの意識です。
 ポスドクの中で急激に意識が落ちるのは、結婚や彼氏、彼女ができた時です。そのときに、将来安定な職に就かなければと思い始める時期です。ただしその後、このスキームの場合は、助教に採用されて、また上がります。では、それでオーケーかというとそうではなくて、その後は乱高下します。要するに、研究費が取れないだとか、組織化が大変だとかって、ポスドクだけがへこむわけではなくて、助教になっても乱高下するという話が、意識という意味ですね。
 最後、9ページ目で、全体をまとめると、要するにポスドクというのは悲惨な職ではなく、研究者意識としては非常に自立して自由な研究、それから研究者を選べる、地域も選べる、海外に出ようと思えば出られる。それぐらい自由なのが、彼らの一番おもしろいところです。だから特任助教とは違うのです。制度的には、ポスドクという制度は、こういうものを中心に考える必要があるだろうと思っています。
 2つ目は、大学資金自体は競争的資金化をしていますから、確実に任期のポストは増えていくと思います。長ければいいと言うけど、大学に資金自体は競争的資金化していくという流れで言うと、ここは避けられない部分も出てくるかと思います。
それから3つ目は、ポスドクはアカデミア志向が強く、育成プログラムになかなか参加しないのは、結局ポスドクでロールモデルに触ることがないから。ドクターに進学する人間に同じような意識調査を実施したときに、ドクターに進学する一番の条件は何かというと、半径3メートルのロールモデル。だから、すごくきらきらしたドクターがいたら、修士の人間とか学部の人間はドクターへ行こうと思う。そういうものがポスドクに中には見られない。
 もう一つ言うと、雇用関係以上に彼らは孤立しています。情報として、横の情報が入ってこない。ましてや、人数が少ない。そうすると、ネットとか、指導教員の偏った情報がひたすらポスドクの中に流れ込んでいるという状況から、どうやって彼らを開放するかというのが重要な話だと思います。海外の場合は、さらにこういうことが強く起こっているように思います。
最後は、先ほども出ましたけれども、エフォートの問題。文科省の一部だけはエフォートで様々なことが挑戦できるようになっていますけれども、NEDOにしても、研究専念義務がまだまだ支配しているので、そこについては省庁を超えた考え方が必要かもしれないです。
 以上です。
【小林主査】  ありがとうございました。
 それでは次に、早坂主査代理、お願いします。
【早坂主査代理】  「東北大学における若手研究者の育成・キャリア支援の取組」ということで、お話の中身は、東北大学において実施している様々な取組の中で、割とうまくいっている事例を2つ御紹介します。
 表紙をめくっていただきますと、先ほど、川端先生からいろいろお話がありましたけれども、やはり任期付助教についても考える必要があります。プロジェクトや外部資金で雇用されている人は非常に多いというのが実情です。本日は、委員会に大学以外の委員の方もいらっしゃいますので、任期付助教とポスドクについて御説明します。本学の場合には、教員の身分を付与するためには2つありまして、同じ任期付きでも、「特任」が付くのと「特任」が付かないのがあります。
 「特任」が付かない助教で任期が付いても、承継枠という、いわゆる昔の定員の枠に入っており、最終的には退職金が積算される人もいます。外部資金で雇用されている任期付きの助教は、一般的にはこういうことになりません。任期付助教で「特任」が付かないものは人事のプロセスをきちんと経て、普通の承継枠の助教と同じようにちゃんとした人事のプロセスを経て選考すると、何も付かない助教ということになります。一方、急いで人事を進める必要がある場合など、たとえばプロジェクトが3年しかないところで人事に半年かかっていたらプロジェクトが進みません。そのような場合には、人事をある程度簡略化してできる制度があり、それについては「特任」という名称が付いたりしています。
 それからあと、教員は人事選考過程がはっきりと決まっていますが、このスライドで学術研究員と記載しているのがいわゆる狭い意味のポスドクです。この場合には、資金を持っている先生が、この人を研究員として採りたいということであれば、それで採用できます。そういう意味で、教員とは人事プロセスが違うとお考えください。ここにありますように、かなりの数の人が任期付助教で、不安定な身分であるということは確かです。
 今回はそういう中で、本学で2つ事例を紹介させていただきます。1つは、学際科学フロンティア研究所というものがございまして、毎年10人から十数名程度国際公募をして、分野を問わず学際的な研究をやりたい人の応募を進めているところです。比較的優秀な人材が集まってきます。それはなぜかというお話をします。
 2つ目は、川端先生からも北大のお話がありましたが、北海道大学、東北大学と名古屋大学で、科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業を実施しており、昨年度まで5年間補助を受けており今年度から3年間は自走期間となっていますが、それに ついても御紹介させていただきます。
 まず、2ページ目、学際科学フロンティア研究所というところが東北大学あり、これは特に若手研究者を中心に異分野融合で学際的研究を進めることを目指しています。若手研究者を支援することで、新しい分野を開拓し、人材育成、若手研究者を育成します。シニアの研究者も若干いますが、基本的には若手の助教50名の規模です。
 3ページ目です。学際科学フロンティア研究所には前身があったのですが、現在の形になったのは平成25年度からで、国際公募で任期付助教を毎年10名程度採用しております。これは、概算要求の特別経費で文部科学省から支援していただき、あと総長裁量経費等を投入しております。現在までに77名採用で、海外にいる日本人が17名、外国人が12名採用されております。
 ここは任期が付いてございまして、少し前までは3年プラス2年で最大5年の任期でやっていたときには、在籍年数が平均で3.5年ぐらいです。そうすると、せっかく来て活躍してもらっても、3年ぐらいで残りの年数が短くなっていくと次の異動先を考えますから、なかなか腰を落ちつけて研究ができません。それで、現在では、3年プラス2年プラス2年ということで、基本的には5年で、できれば5年のところでその次のポジションを探していただくということなんですが、なかなか見つからない人の場合には、審査をした上で2年の延長ありという、制度になっております。
 学際研の特徴は、学内にメンターの先生を必ず指名し、いろいろアドバイスを受けますが、ただし、メンターの先生にも独立した研究環境を提供してもらうということをお願いしています。
では、独立した研究環境は何かといいますと、基本的には研究費を全て自分の好きなように使えるということです。その下にありますように、ここで採用された人は最初の3年間に年間250万配分されます。最近大学の運営費交付金も減ってきており、本学の場合では、1研究室当たりで理工系で普通の講座ですと、電気代等、諸経費を引かれると、残りがこの程度ぐらいになるかと思います。研究所はもっと多いですが、普通の研究科の1講座、教授1、准教授1、助教1だとそのぐらいです。それと相当するぐらいの資金を、この若手の研究者には自由に使えるようになっています。
 この資金を、当然ですが、全部自分で自由に使えるというのが、ある意味、独立した研究環境ということで、個室を用意するとかそういうことではありません。学際研の中にはもちろんこの人たちがいる部屋はあります。
 それから、異分野交流で新しいことに挑戦してほしいということで、機会を提供しています。あと、国際研究活動の支援もしております。
 次、4ページです。なかなか数字で成果は計りにくいですが、平成30年度の学際研所属の研究者の論文のサイテーションです。FWCIとは、Field Weighted Citation Impactということで、分野によって論文の引用数は違いますので、平均の引用数に比べて何倍かという数字です。それは分野ごとに異なります。その数字を見ると1.6となっており、これは国内では高い方です。東北大学で1.18、東京大学でも確か1.3とか1.35ぐらいが平均ですので、それと比べてもここに所属している若手研究者は、質のいい論文も書いているということが分かります。
 それから、その下にありますのは、表彰等ですが、昨年度で言いますと、本学のJSTのさきがけの研究員11名のうち3名がこの学際研の助教である等々ありまして、優秀な人が来ているのは確かです。
次の5ページですけれども、キャリアパスについてです。右側の円グラフで転出先を見ると、本学に残っているのは30%程度、その他の国立大学、私立大学、海外に行ってる人もいますし、あと研究機関もあります。中には教授で転出している人もいます。そのように割とうまくいっていますが、なぜこの学際研がこのような結果になっているかというと、当然ですが、基本的にはもともとポテンシャルのある人が応募してきます。分野を決めないで募集しますと、やはり優秀な人がたくさん来るんですね。それを今、大学の人事で非常に分野を限定して、こういう分野で、こういう専門分野を持ってる人から助教を公募すると、5人しか応募してこなかったりします。けれども、広く募集すると倍率は10倍から20倍です。年によって上下ありますけど、最低でも10倍以上です。ですから、10人程度を募集するところで百数十人ぐらい応募してきますので、当然、優秀な人がそれなりに含まれます。そういう人たちにある程度の研究費を出して研究環境を与えると、論文、キャリアパスなどを見ても、それなりに効果があることが分かります。
 次に、6ページ目。これは先ほど言いましたように、3大学で人材育成コンソーシアムを実施している例です。7ページ目、これは共通で各大学のノウハウを横展開しました。産業界とのマッチングも、それぞれの大学での実施状況の共有をしています。それから、ここに選ばれた人に対しては、6か月以上国内外での研修や、外に行ってもらうとか等々、要するにこの3大学で持っているノウハウをそれぞれ横展開し、良いところはお互い実施しあうということです。
 次の8ページは共用機器の利用についてです。自分のところにはないが、ほかのところで所有しているものを使えるようにということをする交流を行っています。やはり意識の高い人が多いので、そういうものがあったらどんどん使おうという人が結構います。
 次の9ページ、これも異分野、新しい分野の研究に関することです。先ほど文科省からも、日本の研究の現状というお話で論文のサイテーションや論文の数のお話がありましたけど、もう一つ、今、日本の研究で少し諸外国に比べて劣ってるのは、新しい分野を開拓できてないということがあります。
 30年ぐらい前の研究、物理、化学とか材料科学とかそういうディシプリンの中でとどまっていて、それこそAIや情報とかの新しい分野になかなか打って出て行けていないということもありますので、様々な分野の人に一緒になってディスカッションしてもらうような環境を提供します。もちろん、そういうことをやるのですけど、枠といいますか、環境だけ提供してお金は出しますっていうことで、自分たちのアイデアで自由にやってくださいと言えば色々なことが進んでいき、そこにありますように自分1人の知識で成し遂げられないのが学際的研究というので、面白いものが出てきました。
その結果、次の10ページにございますけれども、具体的に、異なる大学で異なる分野の専門を持ってる人たちが何か新しい研究をこうやって一緒に始めたりして、外部資金を獲得したり、論文を発表したり、学会で発表したりということで、そういうことが進んでいます。
 このように、2つの例をお示ししましたが、11ページにまとめました。冒頭で御挨拶の時にもお話しさせていただきましたけれども、資料の最初の方の、文部科学省から御提供のあった様々な状況のデータの中で、なかなか計れないものがあります。それは「質」です。大学院の学生は数が減っているというんですけども、質の問題もあります。例えば、1980年代は今よりもはるかに博士課程の学生数は少なかったのですが、例えばノーベル賞につながるような研究者を輩出したり、ある意味、きちんと成果は上がっていたわけです。ですから、数の問題より質の問題があります。なかなか数字では出しにくいのですが、やはり明らかに大学院、特に博士課程の学生の質は少し低下していると思います。
 その理由は明らかで、大学院生でいる間の経済的支援の問題と、それからキャリアパスの問題が大きいです。経済的支援につきましては、この委員会でこのお話をするのも何ですけれども、欧米では博士課程の学生に年間大体400万円ぐらいを授業料以外に支給するというのが普通です。もちろん、研究中心型の大学で、これはほとんど先生が研究費を取ってきて、そこから払っています。
 先日、シアトルのワシントン大学でお話を聞いていましたら、ワシントン大学は授業料が高いので、ドクターコースの学生1人を抱えると人件費で700万ぐらい掛かります。4人とか5人抱えると、もうその人件費を工面するだけで大変だというお話もされてました。
 現在、修士課程を修了して民間の会社に行きますと、平均で多分、初任給は23万7~8千円ぐらいだと思います。それに手当が付き、2、3年働けばボーナスもそれなりに出たりします。そうすると、修士が終わって大企業に行って2年目、3年目の人たちを比べると、やっぱり多分400万円近くとかの給料を彼らはもらっていると思うんですね。一方で、博士課程に残るということは、キャリアパスのリスクも取るし、かつ経済的にも非常に苦しい状況です。
 日本学術振興会のDC1、DC2の特別研究員は月20万円で年間240万円ですが、社会保険料も自分で払って、それから授業料を払ってる人も相当数います。そうすると幾らも手元に残らないということで、果たしてそこに優秀な人が来るかという問題があります。それを解決する必要があります。日本では、この場もそうですけども、ドクターを取った人を研究者としてどう育成するかという議論がほとんどです。日本では博士を持ってる人の74~75%でしたか、たしか7割以上は大学にいます。ところが、NISTEPの今年3月に出たレポートを拝見しますと、ドイツは博士の7割が大学以外で働いて、責任を持った仕事もでき、よい給料をもらっています。アメリカでも、ドクターを持ってる人で、大学で働いてるというのは40%台で、5割を切ってます。そういう意味で、やっぱり博士を取ることがイコール研究者ではないという風潮にしていかないと、なかなか優秀な人が大学院にきません。
 あと、今までの若手研究者の評価の在り方というのも、この後ポスドクの雇用をどうするとか、ポスドクを生かしていく人材育成という意味ではやはり大事です。そして本当に優秀な人の見極めは、論文数だけではなくて、サイテーションだけでもなくて、やはり何か、ある意味リーダーとしての資質であるとか、マネジメント能力であるとか、いろんなものをちゃんと見極めて評価してあげて、この人はこれだけできるんですよということを示し、企業などと連携してつなげていく必要があるかと思います。
 若手研究者の場合、先ほど2つ事例を御紹介しましたけど、優秀な人をきちんと見極めてリクルートできるようにして、そういう人にある程度の研究費と研究環境を提供すると、ドクターを持ってる一人前の方は、どんどん研究を進めることができます。そうすると新しいことがどんどんできて進んでいく。それプラス、国際共同などについては多少、メンターの先生とか、周りがサポートしてあげる。そういう機会を作ってあげたりすると、進む面があると感じております。ということで、若手研究者のキャリアパスは大学、国の研究、それから企業、国際機関等などで移動できる必要があって、そのためには、特に日本の場合には、産業界とか社会全体での意識改革が必要かなと思います。
 下の青い枠の中に記載しましたが、優秀な学生がきちんと博士を取ることを目指す。そうすると、そういう人たちは会社でもどこでも活躍できると思います。ところが残念ながら一部そうでない人も見受けられます。余り批判すると委員の立場としてよくありませんが、大学院重点化で90年代に何が起きたかといいますと、結果的には、従来なら大学院に合格しない人が入学してくるということがありました。誰でもトレーニングをすれば同じように優秀な研究者になるかというと、そこは残念ながら、ドクターを取るレベルになるとなかなかそうはいってないというのが現状です。一方で、大学院の定員は増やすが、国としてはやはり入学させたら教育をして学位を取らせるのは当たり前だから、きちんと学位を出してますかということが評価されます。昔は、4年、5年、6年掛かって、結構苦労してドクターを取ってる人もいました。指導教員も厳しくて。けれども、今はそういう人を抱えていると大学の評価としてはマイナスになるため、受け入れたら、どのぐらいの割合で学位を出してるかということも問われます。残念ながらドクターを取った人が必ずしも全員優秀ではないということは現実にあると思います。また、やはり企業から見ると、博士なのにいま一つ、期待に応えていないという評価もあったりします。なかなか企業にキャリアパスがつながりません。
 本当にできる人に、良い環境を与えて、博士として出すと、企業でもどこでも十分活躍できる人材というのは当然たくさんいると思います。そういう人たちが現状、ドクターコースに行ってないということです。
 小委員会では少し論点がずれてるかもしれませんが、学部の学生から見たときに博士取得とその先のキャリアパスが魅力的であるということで、優秀な人がどんどん入ってきて活性化する。そして繰り返しになりますが、今、一時だけ若手研究者を支援することをやっても、10年後には、30代の人はみんな40代になる。常に新しい人は下から入ってきて、ドクター取って、その間に研究に真剣に取り組み、その人たちが全員大学に残らなくても、その人たちがその後のキャリアとしていろいろなところで活躍できる場所、人材の循環システムをうまく作ると、日本の研究力そのものも上がると思います。また、先ほどポスドクの人がどのぐらい論文書いて、サイテーションの多い論文をどのぐらい書いているかという話題も出ましたが、日本では論文の数だけでいえば24~25%ぐらいの論文は大学院の博士課程の学生が筆頭著者です。ですから研究力という意味でもいい人材に博士課程に来てもらって、ドクター取って、その後のキャリアパスをちゃんとつないでいくことで研究力も上がると思いますし、日本の産業界、経済界にとっても非常にプラスになると思います。特に大学、アカデミア以外のところとどういうふうにうまくつないで、人材をそこで活用してもらうようなシステムを作るか。そういうことが日本にとって非常に大事ではないかと考えています。
以上です。
 【小林主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、意見交換に移りたいと思いますが、残り時間があまりありません。初回ですので、皆さんに御発言いただきたいと思いますが、1人5分話すとぎりぎりかなという感じですが、御挨拶を兼ねて、順次、御意見等を伺いたいと思います。今回は、少し広めに話題を捉えていいのではないかと思いますので、御自由に御発言いただければと思います。
では、竹山委員、どうぞ。
【竹山委員】 資料2-1のキャリアパスですが、他の委員会でも問題点が指摘される図ですね。研究者のキャリアパスというところに余りにもフォーカスされ過ぎていますが、そもそも研究者というものの捉え方にも幅があると思っています。例えば博士号取得後、ポスドクを数年経験し、優秀なURAとなる道もあるかと思います。又は科学技術政策の人材として国連等の国際舞台で活躍する人材になるかもしれません。
 博士人材がパワフルに活躍できる場、必要とされる場は非常に多くあると思われますが、日本の人材育成は数十年出遅れてしまっていると感じています。一方、人材自身の認識も低かったのも事実です。ですので、博士人材の活躍の場の多様性を理解し、教育していく必要があると思いますが、アカデミア以外が逃げ場のような指導は間違っており、より優秀な人材が選ばれるということも見せていかなくてはならないと思います。博士号取得後、大学に残って教授になることが成功の道であるといった考え方は是正されるべきでしょう。
 優秀な修士学生が博士課程に進学するには、魅力ある博士課程とその後を作る必要性があると言われますが、魅力あるということは何かということを、全体的、制度的にも考えて修正していく必要があると思います。
ドイツのボン大学は強い学長のリーダーシップのもと、エクセレンス・クラスターを最多の6分野で獲得し、エクセレンス大学の認定を受けました。学長のHoch先生に成功の秘訣を伺いました。ご自身で各先生方に一番欲しい、改善してほしい点をヒアリングしたところ、研究時間を増やしてほしい、ということだったそうです。そのための改革を行った点が大学の研究力にもつながったとのことです。任期付きの助教とポスドクを天秤にかけると教員特有の雑用がないJSPSの特別研究員などのポスドクのほうが良い、という若手研究者もいます。待遇面、研究時間などいろいろ課題はあるかと思いますが、研究時間は大きな課題かと思います。
【小林主査】  ありがとうございました。
 次は、いかがでしょうか。
【加藤委員】  大学の2つの機関のお話を伺って、産総研とは少し違うという印象を受けました。産総研で、いわゆるポスドクというのは、文科省の範疇に入りますと任期付き職員もポスドクなのかと思うんですけれども、どちらにしても、任期付き職員にしても、いわゆるポスドクにしても、きちんと雇用保険に入って契約をしますので、大学に比べると随分安定なポジションなのかなという印象を受けています。
 それから、キャリアパスにつきましては、産総研にはイノベーションスクールというものがございまして、もう十数年続いております。年間20名程度、ポスドクを雇用し、その方々に、1年間の契約で研究を進めながら、その間にまずはOJTに行っていただきます。企業で二、三か月体験をすることで、自分が企業で活躍できる人材なのかどうかを見極めていただきます。
同時に、大学の講義とは全く違う座学をします。皆さん、ここで「30歳の大人」とおっしゃっていますが、実は30歳の大人なのにビジネスマナーを全然知らないのが博士課程の方でもいらっしゃいます。そのビジネスマナーから始まって、人と一緒に協力して連携する力をどうやったら身に付けられるかという座学をします。
それから、現在の産総研の理事長の中鉢が、これまでの企業での多くの経験や知見を基にスクール生を対象とした塾を開き、理事長から直接に様々な指導をします。そうすると、その機会で開眼するというか、気づきがかなりあるみたいで、1年間で随分と人が変わる。教え手や、イノベーションスクールの事務局側もその体験をずっと蓄積していて、彼らにとっては1年間がかなり重要な時間だということを確信しています。
 これによって、約80%のスクール生が正規の就職をするという結果に結び付いていますので、これは一つのキャリアパスのための有効な手法と言えると思いました。
 そんなことを、本日のお話からは感じていたところです。
【小林主査】 ありがとうございました。
 それでは、長我部委員、お願いします。
【長我部委員】
 私どももポスドク問題を解決するために、例えば研究テーマを設けて、ある一定期間、共同研究にポスドクの方に入っていただいて、見極め期間を作り、よければ企業に入っていくというような試みも過去にやってきましたが、なかなか大きな動きにはならず、苦労した経験があります。
 その中で、本日のお話を伺っていて一つ本質だと思ったのは、修士の優秀な学生がドクターコースに進まない事だと思います。その原因の一つを取り除くために、非常に魅力的なドクターコースを作るということもありますが、同時に、学位取得者が社会に出たときに、他国よりも処遇等々の面がはるかに低い事が問題です。民間企業に就職したときに、例えば北米だったら、相当な年収を最初から取りますが、私どもをはじめとして日本の企業ですと、修士修了の方々の3年経過相当は保証しますけれども、それ以上でも、それ以下でもない。大学院後期課程の進路のキャリアパスが2つあるとしたとき、社会に出たときも余り魅力的ではない。ここは、大きな問題と思います。
 では、なぜ日本企業は、学位を持った、しかも修士課程の優秀層が進学しているとすれば、なぜ能力にみあった給料が払えないかというと、1つは、分配の原則が職種によらずかなりフラットになっている事が背景になると思います。特に製造業では多様な職種の方々が働くので差を付けにくいと思います。例えば、金融機関など、全員がホワイトカラーの企業ですと、やはりサラリーは非常に高い。コンサル業などは典型的です。
 また、日本企業、特に製造業は、世界の企業と比べるとかなり収益性が悪かったという事情があると思います。これはホワイトカラーの生産性が低い事が一因ですが、現在多くの企業で改革が進んでいるので、高収益化していくと思います。すると今後は学位取得者、あるいは中途採用者の初任給は上がっていくと思います。実際、中途採用のケースは、随分増えていますし、能力にみあった給与レベルを最初から提示する傾向になっていると思います。このように、ある一定の能力を持った人に対して、それなりの報酬を払うという習慣は出てくると思います。
 もう一つ、学位を取得した後期課程の学生にとって社会に出る事が魅力的でない理由は、大企業に入ってもつまらない、リスクを取らないということです。これは、最近、大学からもよく言われますが、一つの理由は、やはり今、株主のガバナンスがすごく強い事です。企業の株式を多く持っているのは機関投資家です。例えば、年金組合ですから、自分たちの所有する株式の株価上昇や配当が多くないと老後の生活ができなくなるわけで、相当の圧力をかけてくるのが当然です。企業としては一定の収益を上げるということで非常リスクが取りにくい状態です。それをコンペンセートするために、世界中はやはりスタートアップ、あるいはリスクを取っていいお金で、伸び伸びと新しい技術的な着想とか、ビジネスモデルの着想を事業にして、失敗してもまたチャレンジするわけです。また、チャレンジした経験のある人は多くの大企業が採用する。そういう好循環ができています。
やはり一つは、そういうリスクを取る企業に出資するファンドが増えてくれること。大学等も、最近、ファンドを持って運用していますし、日本の金融機関もそちらの方向に向いてくれると思います。スタートアップに携わる人は、高額の給料を自分で設定すればいいわけです。そういった形で、リスクを取ったチャレンジをして、それなりの報酬を得る。それがまたチャレンジをした経験になって、その経験がゆえに他の企業にも再就職できるという好循環がやはりできるはずです。
まとめると1つは、今の企業の収益性が高まって、能力のある人にお金を出すという傾向が強くなると同時に、リスクを取った会社に出資するファンドが増えること、この社会的条件が整っていけば、少しは博士後期課程に進むことが魅力的に映るのではないかと見ています。
 研究能力というのは、私の経験でも、経営力にも何にでも生かせる、かなりユニバーサルな能力だと思います。本来、優秀層が博士後期課程に行っていれば、恐らくどこの分野に出ても活躍はできると思っていますので、まず、その外側のエコシステム、この小委員会の検討項目からは外れますが、すごく重要だと思います。
【小林主査】  ありがとうございました。
 次に、小鍛冶委員、お願いします。
【小鍛冶委員】  私は皆さんとは畑違いの法律家で、大学の労務管理に関するアドバイスなどの仕事もしている関係で、今回、この小委員会に入らせていただいているので、ポスドクの雇用についてのガイドラインの話をするのかと思ったら、各委員とも、もっと世の中全体の話をしており、土俵の違う私は一体何を話せばいいのだろうと思っているところであります。
 いろいろと議論していく中で、もちろん最終的にはポスドクの話もするのだろうと思います。そのときに、今回のポスドク等の雇用に関する小委員会の目的に照らしてガイドラインを作成していく上で、法律的な規制として、主に労働契約法の定める無期転換制度というものとどう折り合いをつけるか、という点は、各大学・研究機関の中でも常にいろいろ考えなければならない問題だと思うのです。これについて、皆さん全体の話をするのはいいのですが、労働契約に関する日本の基本的な法制度がどうなっているかというところは、ある程度共有していただいた方がいいと思うので、そういう資料を少し準備していただいた方がいいかと思っています。
 例えば、若手研究者の議論をする場合、ポスドクだけではなくて、任期付きの助教等も含めて、トータルで議論をしていかなければならない、ということを皆さんはお話しされているのだと思いますが、大学内で若手研究者として複数の雇用形態のステップを上がっていくときに、労働契約法の無期転換制度というものがどういう足かせになっているのか。足かせと言ってはいけないのかもしれないですけれども、きちんと制度について理解して、そのうえで、この委員会の役割として現行の制度の改善をすべきだ、という提言もするのかどうかは分からないですけれども、そういうことも含めて現状の制度的な、国内労働法の規制がどうなっているかは、少し知識として共有していただいた方がいいかと思いました。
以上です。
【小林主査】  ありがとうございます。多分、その辺りも、一度やらなくてはいけないですね。
 次に、堀委員、お願いいたします。
【堀委員】  初めての参加になります。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は、若者の学校から職業への移行について研究しておりまして、例えば大卒就職であるとか、あるいはフリーターの問題であるとか、今ですと就職氷河期世代の問題についての研究をしております。
 私自身も、大学院からポスドクを経て今の研究所で働いているわけですけれども、本日、先生方のお話を拝聴しまして、大学は余り変わっていないんだと非常に感じました。というのは、もともと私は教育社会学なんですけれども、院生のときは、今もお話がありましたが、労働法のことを全く知らなくて、厚生労働省の研究所に入り、本来、労働者はこんなに守られているものなのだと非常に驚きました。それに関して、本日のお話を聞いた範囲ですので、イメージが正しいかどうか分かりませんが、やはりまだ労働法の網が余り掛かっていないと推測している次第です。だから、今回、私を呼んでいただけたのではないかと思っておりまして、そちらの方でも貢献させていただければと思っています。
 先ほど小鍛冶委員からもお話がありましたように、雇用関係がないのに働いている人たちに対して網を掛けていくような、世の中的にはそうした方向にある中で、研究者といえども、どこまで網を外していいのかということに関しては改めて議論が必要だと感じました。
 以上です。
【小林主査】  ありがとうございました。
 私も少しだけで言いたいところがあります。まず一つ、傍聴の方等もいるので、誤解がないようにということで確認しておきたいのですが、いわゆる雇用関係がない中にはJSPSの特別研究員も入るわけです。確かに雇用関係がない特別研究員が大学の中にたくさんいます。それ自体、非常に問題をはらんでいますが、ただ、彼らは雇用関係がないから非常に悲惨な状態かというと、無給だとか、そうではないわけで、そこは誤解されない方がいいだろうと思いました。この点については誤解を招かないようにということで加えさせていただきたいと思います。
 もう一つは、私がずっとこの問題を考えてきて思っているのは、よく日本で失われた10年、20年、30年という言い方をしますけれども、それを考える上でも、大学は優秀な人材を育成して、社会はその人材をちゃんと活用できていたのかという観点も重要ではないかということです。博士というのは、それなりに優秀な人間がそろっているし、能力も非常に高いが、それをこれだけ余らせているとか、中には本当にかわいそうな状況の人たちもいるわけですが、活用できていないということは、これ自体が日本社会の問題ではないかと考えています。そこがうまくいけば、先ほどいろいろな好循環の話が出てきましたけれども、社会も非常に回っていくはずなので、もしかしたら、そういう人材の活用ができない状況が、失われた30年なり何なりの一つの側面ではないかという気がしています。
 それは大学にとっても同じことで、これだけポスドクを雇用していながら、あるいは優秀なポスドクを雇用していながら、では、その後、彼らをちゃんと正規の雇用形態で受け入れているかというとそうではない人が少なくない。もちろん正規の教員として受け入れている人たちもいるわけですが、例えばポスドクの経験を評価して採用するような仕組みを取っているかというと、意外に取っていないという問題があります。つまり、大学自身もポスドクを活用することができていないのではないかという感じがします。そういう問題をちゃんと考えていく必要があるという気がしています。
 もう一つ、これも誤解ないように付け加えたいと思うのは、今、博士卒業者が非常に苦しい状況にあるのは世界的な傾向であって、日本だけではないというのは確かで、どこの国でも博士を出ながら就職できないとか、非常に安い給料で非正規の雇用にあるというような状況に陥っているということは、よく言われることです。学歴相当の仕事がないというようなことも実は世界的に言われていることで、そういった観点も含めてもう一度見直さなくてはいけないと思っています。
 あと、本日、共通に出てきたのは、大学院のレベルでもいいんですけれども、長期インターンシップのような社会経験をすることに意味があるということです。これも世界共通に、効果的だと言われています。これは博士の改革の方にも関連してくるんですけれども、そういうことも考えなくてはいけないという気がします。
 本日は初回であって、皆さん十分にお話ができなかったかもしれません。発言できなかったこと、あるいは発言したかった点をもう一回きちんと整理しておきたい方等、いらっしゃると思います。何でも構いませんので、こういうことを議論した方がいいのではないかというようなことも含めて、事務局に出してもらってよろしいですか。
 こういうことを議論した方がいいのではないか、あるいは自分はこういう意見だとか、こういう問題があるとかという点に関して、宿題というか、復習のようなつもりで各自出していただければと思います。できれば、効率的に議論を進めていく上では、毎回、そういう振り返りをした方がいいのではという気もしていますが、毎回は大変なので、最初なので、今回だけは是非ともお願いしたいと思います。
 議論は尽きませんが、時間も近づいてきていますので、足りないところはメール等で補っていただくことにしまして、今後の議論につなげていきたいと思います。
 最後に、事務局から、今後のスケジュール等についての御確認等をお願いいたしたいと思います。
【満田人材政策課長補佐】  本小委員会の次回以降の日程について御説明をさせていただきます。資料3をごらんください。
次回以降の具体的な日程につきましては、委員の皆様から頂いた日程を踏まえ、主査と御相談の上、改めて御連絡をさせていただきます。
 また、次回につきましては、ヒアリングを予定しておりますので、非公開とさせていただきたいと思います。
本小委員会につきましては、来年の夏頃のガイドライン案の策定に向けて、ヒアリングなども含めまして4~5回程度、開催することを予定してございます。ヒアリングなどの対象機関につきまして、御意見や御希望などございましたら、先ほどの御意見と併せて事務局の方までお知らせいただければと思います。
 本日の会議の議事録につきましては、作成次第、委員の皆様にお目通しいただきまして、主査に御確認の上、文科省のホームページの方に掲載させていただきます。
 また、本日の資料につきましては、机上に置いたままにしていただければ、後ほど事務局の方から郵送させていただきたいと思います。
 説明は以上でございます。
【小林主査】  ありがとうございました。
 これで本日は閉会といたしたいと思います。次回以降、またよろしくお願いいたします。

―― 了 ――

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