参考2 財務評価に関する先行事例

1.日本私立学校振興・共済事業団

 学校法人を対象に「学校法人基本調査」(≒学校基本調査)における貸借対照表及び消費収支計算書(≒損益計算書)等のデータを集計、「今日の私学財政」を刊行し、学校法人の経営の参考となる財務関係データを提供している。
 「今日の私学財政」においては、貸借対照表、消費収支計算書、資金収支計算書(≒キャッシュ・フロー計算書)、財務比率表について、附属病院の設置有無の別、規模(学生収容定員)別、学部構成(複数学部、医歯他複数、薬他複数、理工他複数、文他複数、その他)別、地域(北海道等全国10ブロック)毎に5ヵ年分のデータを提供。当該データを活用し、個々の学校法人の経営相談にも応じている。
 財務分析の視点については、「今日の私学財政」の財務比率表において、自己資本の充実度、固定資産の調達財源の長期資金比率、資産構成の健全性、負債弁済のための資産の蓄積、資産に占める負債比率、帰属収入に占める消費支出(≒経常費用)比率、収入構成の健全性、支出構成の妥当性、収支バランスについて対応する財務指標を設定している。
 また、私立学校は、収入の大半を学生納付金収入に依存しているため、財務の健全性、効率性等に加えて、非財務データである志願者倍率や定員充足率を重視している。

「今日の私学財政 大学・短期大学編 日本私立学校振興・共済事業団」(抄)

注)

  1. 財務比率の評価は、個々の学校法人に適用する場合に内部事情i等を個別に判断しなければ一概にその良否をいえないが、私学事業団では財務比率の高低の評価を、次の通りとした。
     △ 高い値が良い ▼ 低い値が良い ~ どちらともいえない
  2. 総資金=負債+基本金+消費収支差額自己資金基本金+消費収支差額

貸借対照表関係比率

分類 比率名 算式 評価
自己資金は充実されているか 自己資金構成比率 (基本金+消費収支差額)÷総資金
消費収支差額構成比率 消費収支差額÷総資金
基本金比率 基本金÷基本金要組入額
長期資金で固定資産は賄われているか 固定比率 固定資産÷自己資金
固定長期適合率 固定資産÷(自己資金+固定負債)
資産構成はどうなっているか 固定資産構成比率 固定資産÷総資産
流動資産構成比率 流動資産÷総資産
減価償却比率 減価償却累計額÷減価償却資産取得価額
負債に蓄える資産が蓄積されているか 流動比率 流動資産÷流動負債
前受金保有率 現金預金÷前受金
退職給与引当預金率 退職給与引当特定預金÷退職給与引当金
負債の割合はどうか 固定負債構成比率 固定負債÷総資金
流動負債構成比率 流動負債÷総資金
総負債比率 (固定負債+流動負債)÷総資産
負債比率 総負債÷自己資金

消費収支計算書(≒損益計算書)関係比率

分類 比率名 算式 評価
経営状況はどうか 消費支出比率 消費支出÷帰属収入
収入構成はどうなっているか 学生生徒等納付金比率 学生生徒等納付金÷帰属収入
寄付金比率 寄付金÷帰属収入
補助金比率 補助金÷帰属収入
支出構成は適切であるか 人件費比率 人件費÷帰属収入
教育研究経費比率 教育研究経費÷帰属収入
管理経費比率 管理経費÷帰属収入
借入金等利息比率 借入金等利息÷帰属収入
基本金組入率 基本金組入額÷帰属収入
減価償却比率 減価償却額÷消費支出
収入と支出のバランスはとれているか 人件費依存率 人件費÷学生生徒等納付金
消費収支比率 消費支出÷消費収入

2.国立大学財務・経営センター刊行「経営ハンドブック」(抄、一部要約)

 国立大学法人における財務分析の視点として、1.健全性(安全性)、2.効率性、3.収益性、4.発展性、5.活動性が提示されている。

  • (1)健全性(安全性):継続安定的に教育研究を提供するため財務の健全性が確保されているか。
  • (2)効率性:経営が効率的に行われているか。
  • (3)収益性:附属病院について、診療経費に見合う収益確保がなされているか。
  • (4)発展性:外部資金や収益性の拡大、内部留保、知的財産の増加がなされているか。
  • (5)活動性:教育、研究及び管理が適正な水準で行われているか。

注)

  1. 財務比率の評価は、個々の国立大学法人に適用する場合に内部事情等を個別に判断しなければ一概にその良否はいえないが、当該財務比率の高低の評価を、それぞれの財務分析の視点から一般的に評価した。
     △ 高い値が良い ▼ 低い値が良い ~ どちらともいえない

財務分析の指標

(1)健全性

財務指標 算定式 使用上の留意事項 評価
1.流動比率 流動資産÷流動負債 流動負債の支払い財源を確保しているか否か。
2.当座比率 当座資産÷流動負債 流動負債を当座資産で支払うことが可能か否か。
3.業務活動のキャッシュフロー対流動負債比率 キャッシュ・フロー計算書の業務費÷流動負債 国立大学法人の本来業務の活動によって創出した資金で流動負債を返済できるか否か。
4.負債比率 負債÷自己資本 負債が自己資本で返済できるか否か。なお、国立大学法人は、減価償却累計額が直接資本剰余金から控除され、「資本維持の原則」は成立しないため、使用は慎重にすべき。
5.自己資本比率 自己資本÷(負債+自己資本) 自己資本の総資産に占める割合を表す。使用は慎重にすべき(4.なお書き)。
6.固定比率 固定資産÷自己資本 固定資産が自己資本で賄われている割合を表す。使用は慎重にすべき(4.なお書き)。
7.固定長期適合率 固定資産÷(自己資本+固定負債) 固定資産が自己資本と固定負債で賄われている割合を表す。使用は慎重にすべき(4.なお書き)。
8.経常収益に占める運営費交付金収益の割合 運営費交付金収益÷経常収益 経常収益に対する運営費交付金収益を表す。

(2)効率性

財務指標 算定式 使用上の留意事項 評価
1.業務費対人件費比率 (人件費÷業務費)×100パーセント 教育・研究の財源が十分確保できているか否か。
2.業務費対一般管理比率 (一般管理費÷業務費)×100パーセント 業務費に対する大学の管理業務の費用の割合を表す。
3.自己収入経常収益比率 (自己収入÷経常収入)×100パーセント 特に自己収入比率の高い国立大学法人において、財源の安定性を図るとともに教育研究活動の質的充実に資する財源を確保できるか否か。

(3)収益性

財務指標 算定式 使用上の留意事項 評価
1.資本経常利益率 (経常収益÷資本)×(経常利益÷経常収益) 資本を投下しての経常活動による回収率。活動や収益構造の同質性が保証される場合に限り使用。
2.人件費あたりの自己収入 (自己収入/人件費)×100パーセント より詳細な分析のために、収入源泉別の人件費あたりの自己収入を産出する必要。
3.負債利子率 金融費用÷負債 財務費用を国立大学財務・経営センター債務負担金、長期借入金及び国立大学法人等債などの負債合計で除した比率。

(4)発展性

財務指標 算定式 使用上の留意事項 評価
1.経常収益伸び率 (当年度経常収益高-前年度経常収益高)÷前年度経常収益高 経常収益の大きな国立大学法人ほど、伸び率を大きくするのが困難。
2.経常利益伸び率 (当年度経常利益-前年度経常益)÷前年度経常収益高 利国立大学法人の平均値や、他の国立大学法人との比較に加え、3~5年間の伸び率の推移を見ると良い。さらに、経常収益計上利益率や総資本計上利益率と併せて分析することが必要。
3.総資産増加率 (当年度総資産-前年度総資産)÷前年度総資産  
4.一人あたりの付加価値増加率 (当年度一人あたり付加価値-前年度一人あたり付加価値)÷前年度一人あたり付加価値 付加価値は(経常収益-外部購入費用)。損益外減価償却累計額も算入することが適当。
5.無形固定資産比率 無形固定資産÷総資産 知的財産として無形固定資産から当該国立大学法人の発展性を表す。

(5)活動性

財務視評 算定式 使用上の留意事項 評価
1.教育研究費比率 教育研究費/業務費 国立大学法人の本来活動である教育研究に関する経費がどの程度充当されているか。
2.学生あたり教育経費 教育経費÷学生数 充実した教育資源の投入がされているか否か。教育課程別、規模別の比較が重要。
3.教員あたり研究経費 研究経費÷教員数 財務的に研究活動への充当がなされているか否か。科学研究費補助金のような、損益計算書に表れない金額に留意。
4.学生あたり教育研究教育支援経費 研究支援経費÷学生数 教育研究活動を支援する活動の充実度を表す。規模の影響などを考慮することが必要。
5.教員あたり教育研究支援経費 教育研究支援経費÷教員数 教員活動に対する支援の手厚さを表す。さらに文理等で分類が必要か。
6.教員人件費あたり教育経費 教育経費/教員人件費 人件費を所与とするときの教育の充実度を表す。教育評価と人件費の関係を別途整理する必要。
7.教員人件費あたり研究経費 研究経費/教員人件費 人件費を所与とするときの研究の充実度を表す。教育評価と人件費の関係を別途整理する必要。
8.修繕費比率 修繕費/有形固定資産 国立大学法人の有形固定資産に比べ、修繕がどの程度なされたのかを表す。

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