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 第29回科学技術会議総合計画部会議事録
(平成12年  第2回) 

  1. 日  時:  平成12年5月11日(水)  10:00〜12:30 

  2. 場  所:  東海大学校友会館(霞ヶ関ビル33階「阿蘇の間」) 

  3. 出席者:
    (委  員) 井村部会長、石塚議員、熊谷議員、佐野議員、前田議員、阿部委員、
                 池上委員、猪瀬委員、江崎委員、大崎委員、金井委員、木村委員、
                 小林正彦委員、小林陽太郎委員、篠沢委員、瀬谷委員、寺田委員、
                 鳥井委員、西澤委員、野依委員、堀場委員
    (事務局)科技庁:青江科学技術政策局長、崎谷科学技術基本計画室長、
              丸山同室長代理  他
              文部省:工藤学術国際局長、井上大臣官房審議官 

  4. 議  題 

    (1)科学技術システムの改革について
      事務局より資料1について(参考資料)科学技術システムの改革に関する関連資料を適宜参照しつつ説明。 

    【競争的資金】 

    • 競争的資金の拡充と評価システムの点は異議はない。競争的資金の割合を欧米水準に引き上げるという点に異論がある。何を分母に入れ、何を分子に入れるのかを明確にしないと数字が一人歩きするのが心配。  各国の大学を比較すると、英国では、リサーチ・カウンシルから大学への競争的資金が4億ポンドで、ファンディングカウンシルからの一般的資金は37億ポンドである。従って競争的資金の比率はほぼ日本並とも言える。米国では、連邦政府は大学に50%以上の間接経費を上乗せした研究費をファンディングしているが、基盤的経費は各州が措置している。フランスでは、CNRSが中心で、日本でいうところの競争的資金はない。  間接経費制度の導入も含め、競争的資金が増加することによる研究開発費全体構造への影響を考慮する必要がある。各国の構造をよく考えるべきで、短絡的に30〜40%というのはどうか。仮にパイを増やさないとするとどこを減らすのかということになる。競争的システムを構築することは大事であるが、競争的資金のみ突出して増やすことの影響を考えるべき。競争的環境は総合的に考えるべきである。 

    • 競争的資金の拡充は、公財政支出を増やすという前提でなら賛成。拡充した部分を競争的資金に充てる必要がある。個人単位の若手研究者に重点配分すべきとあるが、研究はグループ単位の研究も考慮すべきで、また、若手といっても分野によっては40歳を過ぎても若手ということもあり、一律に年齢だけで区分するのは良くない。評価については、現在は事前評価が主になっているが、事後評価をしっかり行うべき。政策についても事後評価ができていない。オーバーヘッド制度については、30%程度とすることには賛成だが、全体の枠を増やさないと実質的な研究費が削減されることになり良くない。その分を上乗せするように別枠で措置する必要がある。 

    • オーバーヘッド制度の件は、学術審議会にてかねてから希望していることであり、よろしくお願いしたい。ただし、高等教育に対する公財政支出を増やすプロセスと一緒でないといけない。公財政支出をせめて主要OECD加盟国並にして欲しい。東北大学の例では教官当積算校費は、大学、学部、学科の管理費を差し引かれて研究室には1/4から1/3しか渡らず、しかも大半は教育のために使われている。教官当積算校費はこれ以上減らせない限界のところにあり、今のパイの中でやっても意味がない。また、教員養成大学のように、競争的資金をとりにくいので教官当積算校費が減っては困った事態になる大学もある。したがって、公財政支出の欧米並への拡充と同時にオーバーヘッドを導入するべき。 

    • 基盤的なものが整備された上での競争的資金である。競争的資金を獲得する人は増えつつあるが、現状は、研究室別に経済格差の極めて大きい状況にある。研究面では当然のことであるが、大学生、院生の教育は大学の最も大きな使命である。教育条件が講座によって異なっている。これは基盤的資金が不足しているためであり、一方、個人の能力だけでなく、競争的資金が取りやすい分野、取りにくい分野があるからである。国立大学は大学としてあるべき基盤整備ができているのか。施設や図書館などは欧米に比べ、劣悪な状況である。教育・研究の基盤について総点検し、十分整備した上で競争的資金をつぎ込まない限り成果が出ない。 

    • しっかりした評価システムがあるのであれば、競争的資金を拡充するべきである。日本では、少し前は、基礎研究、産学連携、現在ではIT及び生命科学と次から次へとブームが動く。研究には、多様性、継続性が重要であり、しっかりした評価システムが必要である。今までの日本をみているとしっかりした評価システムができていないのではないか。あるべき評価システムの検討が先であり、また競争的資金による実績を評価して競争的資金の比率に見合った分、増やすというのはどうか。 

    • 本資料は、人をどう動かすかということを主体として検討しており、その上で資金をどう使うのかということであり、評価している。システムというものは単純なものがよく、競争的資金は20%に倍増するというクリアな目標でよい。また、基盤的経費も減らすのではなく、総枠を増やすべきである。これは国の姿勢を示すものである。 
        評価については、産業界では市場を通じて自動的に人の間で評価をしている。 また、サンセット型で評価次第ではつぶれるということになる。研究所のようにつぶれないことを前提にすると座敷牢になりうまく機能しなくなってしまう。評価についても単純なものを検討するべきである。 

    • 以前の話だが、米国の研究者でオーバーヘッドのことを必要悪(necessity evil)と言っていたものがいた。大学の経営側にとってはいいことであろうが、研究者にとっては研究費が減るので嫌なことなのである。では研究者にとって利点は何かとなると明確にはなっていない。オーバーヘッドは競争的資金の外枠で考えるべきである。 
        基盤的経費が今まで十分に手当てされているのであれば、それを削るということもあるだろうが、現状の基盤的経費は大半はなんとか大学を存在させるために使われている。基盤的経費が学科に来る時点で1/3になっており、さらにこれを学生実験や修理費にも使い、研究はごく一部である。したがって、積算校費を減らしたのでは、研究を奨励したことにならない。 

    • 研究者のあり方を日米で比較すべきである。米国では、サラリーは9ヶ月分しか出ず、残り3ヶ月は自分で稼がなければいけないから、新しいことをやって研究費を獲得できないと生きていけない。 
        日本では、「大学教授は何もしなければこれほどいいことはない。何かしようとすると大変である」ということが書かれているものを読んだ。大学教授は何もしなくても給料は変わらず、基盤的経費が使える。また、世の中が必要としている分野でもそうでない分野でも大学教授の給料は変わらない。このような平等主義を打破しないと日本の大学は発展しない。米国のResearch Universityでは大学間で大きな差が生じている。国立大学にもいろいろあり、一概には言えないが、ここではResearch Universityについて議論すべきであり、教育大学の基盤的経費をどうするかを議論する場ではない。 
        一般の研究課題についての評価はできるが、若手研究者の新しい研究についての事前評価は難しい。したがって、Research Universityでは、後で成果を評価するテニュア制を導入するべきである。米国でも研究者は任期付任用を好むわけではないが、(その分特別な報酬又は条件を出し、)実績を評価して教授にしている。 

    • 改革を進める場合、財源の枠との関係で、1)総枠を増やし、増やした分を皆で分けるという方法では、改革は進まない。最近の経済対策はこのケースに近く、大きな追加により景気は立ち直ったが、構造改革には遅れが出ている。2)として、増えた部分だけを新しい改革部分に投入する。3)として、総枠の増加はひとまず考えずに、既存の部分に切り込むという3つの姿がある。論点整理またはそれ以降に競争的資金と金額の総枠についての議論があったのか。 
        私も科学技術予算の総枠を増やすべきであると考える。しかしながら、増やす部分だけを競争的資金の拡充に当てるのでは、改革は微温湯的なものになるのではないか。総枠が大変増やせるなら少しは改革につながるが、財政の現状はそういう状況にない。もっと効率を求めて、切り込み型にしないと改革が進まないのではないか。 

    • 論点整理では、投資全体の予算枠拡大の話はしていない。しかし、外国では競争的環境作りに役立っているので、競争的資金の拡充は必要という点、ならびに、オーバーヘッドの導入が必要という点についてはまとめている。 

    • 事後評価が一番客観性のあるやり方であり、重要。日本ではプライオリティに対する評価がない。誰が初めにやったのかという観点からの評価である。長岡半太郎はいい成果を挙げたのに、口が悪いために損をした。性格が優しい人が評価される傾向がある。年齢が高いのにこのような会議の委員になってくれるなという意見も聞いたが、年齢は関係ないと思う。(大学の定年延長のような逆行した話もある。)昔、特許料を請求するなどは金にうるさい輩のやることという風潮があり、そのため特許料収入はほとんどない。文部省の科研費もほとんど認めてもらえなかった。しかしながら、35年間も無視されてきた成果が最近になって認められるようになった。どこがいけなかったのかケーススタディが必要。評価について、科学的手法により他の国より進んだものにしていかなければいけない。 

    • 競争的資金の拡充について、機関間の競争、個人間の競争を促進するという意味で、やるべきである。優れた研究者を擁する優れた機関のオーバーヘッドが伸びることによりインフラ等が強化されて、さらに優れたところが伸びるという差別化が進む。ただし、評価がキーとなる。また、オーバーヘッドは、インフラ整備に使えること、機関長の裁量で使えることとすることで、学長が、はやりではないが大学として必要なところにも配分できるのではないか。 
        若手研究者については、ヒエラルキーがある中で、競争的資金を獲得した若手がかえって孤立することにならないように留意すべきか。また、現在、チームワークよく研究しているところに対してマイナスにならないよう配慮が必要。 

    • オーバーヘッドは、機関が自由で柔軟に使えるようにして、それが機関のインセンティブとなってより多くの研究費を取れる人を雇うようになる。若手は競争的資金が取りにくいが、それでも投資をしたいという若手もおり、それは近くにいる人の方が適切に評価できるのだから、機関が裁量で投資できるようにするのがよい。 
        ドイツでも現在、改革を進めている。若手を米国に2年間派遣し、帰ってきてから3年間ドイツでの研究を支援するという制度を始めた。ドイツは従来ハビリタチオンという制度があり10年間教授に仕えることになっているが、これを変えようとしている。 

    • 評価について、システムとして考えるべき。競争的資金の拡充はよいが、その前に考えるべきは校費である。校費は理工系の学科ではほとんど教育のために使われているが、教員養成系大学等では研究のためにも使われている。  英国では、教育のための資金は評価をしつつも一応きちんと渡している。つまり教育評価も行い、4点満点で1点が2年続くと資金がゼロになってしまうという極端な例もあるにはあるが、分野、学生数等に応じて教育のための資金はきちんと配分されている。他方、教育のための研究資金は競争的に配分している。教育研究費の総額に占める研究資金の割合はあまり高くない。ポリテクニークが格上げされて大学の数が100程度になったが、その中で大きな競争的研究資金をもらっているのは20大学くらい。他の大学は教育資金が中心であるが、最近の傾向として、これらの大学の研究の質が上がっている。研究と教育の一体性が重要であり、基盤的な教育経費はきちんと渡すべきである。 

    • 競争的資金には評価が非常に重要。企業では投資の事前・事後評価を確実に行い次の施策(投資)に繋げる。科学技術も投資としてとらえ、その評価は困難であるのは理解できるがきっちり行わないと問題がある。江崎委員が言われる米国の例についてはよく分かる。これからの日本は平等社会ではダメであり、米国を参考にして日本の研究はどうあるべきかを決めるべきではないか。 

    • これまでに出た意見をまとめると以下の通り。 

      • 競争的資金を大幅に増やす。明確な数値目標については更なる検討が必要。 
      • 評価を確実に行うこと。今回、大学評価機関が出来たがこれはイギリスの高等教育協議会(HEFCs)に当たる。研究評価については大きな課題であり、今後検討したい。 
      • オーバーヘッドを導入する。問題は、現在の予算の枠を守るか切り込むかであるが、枠を守るだけではダメではないか。 
      • 基盤的経費について再度整理が必要。私が京大にいたときには、図書の整備、光熱水費、動物実験施設維持、教育関係等への負担が大きく、殆ど研究室に返ってこなかった。教育について必要なものは十分に確保すること。  特にコメントがあれば願う。 

    • 公財政支出増は必須の前提条件である。 

    • 今の議論の前提であるが、過去に赤外線による太陽の観測が一時ブームになった時、米国はブームが去ったとき研究をやめたのに対し、日本は継続し世界のトップになった。このように、米国型にするのか継続性を持たせるのかと言うことを考えて決めて欲しい。 

    • 校費的なものとプロジェクト的なものとの関係だけの議論が多いが、大学関係では科学技術関係経費には、施設費、私学助成金等の教育関係経費も含んで構成要素が多様であり、比率論を重視するなら精査すべき。 

    • 若い人、日本人も外国人も問わないが安心して自由に研究できる基本的環境を保証できるか。このために基盤的経費を活用すべきだが、これが全くできていないのが問題。まず、国際的水準の基盤整備が先決。 

    • 本当にオリジナルな研究は評価しにくい。シーズを生むための研究費として、かつては教官当積算校費が機能していた。この点を考慮に入れ、画一的にならないよう考えるべき。 

    • 間接経費の一部が学長裁量で使えればよいのではないか。 

    【若手研究者】 

  5. テニュア制を研究大学、研究所に導入すべき。テニュアの時期については5年か7年か議論されるべき部分ではあるが、35,6歳を目処に検討すべき。現行の基本計画においても記載されているが、任意としか書かれていない。この際原則として全機関に導入するとしてはどうか。ただ、現行の計画による状況を評価し、どのような問題があり、どのように改善するのかといった部分をしっかり詰める必要がある。若手の育成には研究補助者が必要であり、補助者の確立についても検討すべき。  また、評価には産業界の人材を評価者に登用すべきである。これにより、単なる評価だけでなく、人材の交流促進にも結びつくであろう。 

  6. テニュア制度であるが、テニュアの定義をしっかりすべき。日本は終身雇用制だが他国は違う。米国においては、定年制がないので若手のためのポジションがないという問題が起こりつつある。英国ではサッチャーがテニュア制度を廃止し、企業と同様に8ヶ月前の通告で解雇できることになった。 
      日本では、やはり投資するなら若手にすべき。若手のジョブキャリアを増やしモチベーションを上げるためにも、出口を確保するテニュア制が必要。また、逆に45歳や50歳以上になったら任期付きにする等の逆テニュア制も検討すべきでないか。 

  7. 今言っているテニュアは米国式のものに定年制をとり入れたものを考えている。先般セントルイスに行った際、先方の学長に話を聞いたが、米国ではテニュア職の教授になっても9年に1回厳しい評価を受け、悪ければ給与を減額されるとのことであった。 

  8. 若手の活性化については賛成。大学の教授・助教授等の職務の定義の不整合が指摘されているが、教育面では「講座」の名が示すように教授、助教授・助手等の役割分担が必要で、研究面では個々に独立して行うことが重要である。テニュア制については、米国のように若手から収奪するやり方は植民地・奴隷制度のあった国のシステムで、日本式は独自のものを考えるべき。同じ任期制でも、日本では若手を一定期間安定した身分で自由に研究させ、経験を積んで助教授・教授になり、自分でポジションを得られるようになったら任期制に移行し、再任時に厳しい評価を行うようなFA制度(逆テニュア制度)が良いのでは。 

  9. 競争的資金の増額が議論されているが、評価制度が確立していることが基本的に重要。これがあってはじめて競争的なシステム、環境が実現する。また、産業界における任期付任用について、国家公務員の身分を保留したままで企業に任期付採用を求めるという意味であれば無理。就職するなら転職していただく必要がある。 

  10. ここでは公務員という資格をもったままのものは考えていない。 

  11. それであれば中途採用等の表現とすべき。 

  12. 例えば博士課程を出た人が就職する際、国研や大学が任期付任用で、産業界だけ終身雇用であればバランスが取れない。オールジャパンとして若手研究者のレベルアップを図るために産業界にも博士号を有する研究者を活用いただき、そこで研究を積んだ研究者がまた大学等の研究に戻ってくる環境を作りたい。 

  13. 産業界でも優秀な人材であれば博士課程を出た人でも採用しており、競争環境となっている。産業界も積極的にポスドク等を採用するといった表現でいいのではないか。 

  14. 現行基本計画で成功したのはポスドク1万人、不成功だったのは任期付任用の導入。これが定着しなかったのは何故かを考えると、若手研究者はパーマネントと任期付き任用があればパーマネントを選ぶ。従って、産業界においても研究者の採用には任期付きを基本とすべきと考えた。 

  15. 官がそこまで言うのは言い過ぎとの懸念もある。 

  16. ポスドク1万人計画がうまくいったというがこれで研究システムが良くなったと言えるのか。官は数だけ達成すればいいと考えているようであるが、この認識が問題。任期付任用の導入についても、任期付の研究者が幸せだったのか、研究現場が活性化されたのか等を評価しないと判断ができない。今は1万人を達成したというのは言えるが、どういう成果を出したという評価はされていない。これを確実に実施すべきである。若手研究者をもてあそぶようなことはしてはならない。 

  17. 分野によって大きな違いがあるであろうが、大学としての基本的なユニットがどうあるべきかを考えることが重要。英国では教授に対し、多くのサポーティングスタッフが存在する。Research Universityで研究ユニットをどう考えるかが問題で、学校教育法で助教授や助手の役割がどう記載されているかは大きな問題ではない。 
      任期付任用を強制すれば公的機関から民間に人が流れる分野も出てくる。任期付任用について、これを機関評価に加えることまで言えるのか。任期付任用は分野によっても対応が異なるのではないか。 

  18. ポスドクの1万人計画については成功であった。女性研究者が増えた、国研が活性化されたなどの成果が出た。研究所内では従来の研究者よりむしろポスドクの方が活躍しているという声もある。 

  19. 任期制について、能力に合わせた処遇を図ることが重要。任期を付けるという不利益な勤務環境下におかれる代わりに高く処遇すること。官が作った任期制を外部の産業界に実施するよう要請するかを議論するのは、素浪人を増やすのを国是とするのかといった日本社会のあり方の議論である。社会全体で通用する任期制とすべき。米国で任期制が活用されているが、かつてベル研究所では5年ごとに表彰しそれを5回繰り返した人をファイブスタージェネラルと称して礼遇していた。日本では、任期付任用者への経済的処遇に加えて、研究者として社会的に礼遇すべき。また、産業界への任期制要請については、社会としての意識が成熟するのを見て進めてもいいのではないか。 

  20. 大学によって差があるとは思うが、一般に企業は博士号取得者を採用しない傾向にある。大学としては民間で活用できる人材の輩出に努力すべきではないか。研究等を通して一つの仕事をやり遂げるのがドクターであり、このような人材については企業はいくらでも採用するが、逆にこの仕事しかできないといったように偏った人材は採用できない。大学ではこの旨を理解いただきマーケットが望む教育を行って欲しい。 

  21. 科学技術者をそれなりに活用できる場を社会として作らないと、せっかくの研究シーズが社会に還元されない恐れがある。そのためにも、産業界は積極的に博士号取得者を採用いただきたい。任期付任用についても、この会議では日本全体の科学技術の向上のための産学官一体となった施策を論ずる必要があり、大学・国研等だけが任期制というのはいかがなものか。 

  22. 企業がこれだけ変革するのに10年かかっており、頑迷固陋な大学では20年位かかる可能性もある。日本として科学技術システムがどうあるべきか基本的なところから見直し対応を考えるべきとの考えもあるが、今のシステムで動いていることを前提として改善することを検討すべき。ただ、競争的環境と評価については確実に取り込むべき。 
      ポスドクは企業にとって殆ど役に立たず、企業で5年間働いた方がよい。ポスドクは大学の最高級商品のはずであるが生産者指向であり、需要者指向になっておらず誰にも買われていない。大学はもっとユーザの要望を考えるべきである。 
      任期付任用については、技術開発が急速に進むなか企業でも数年を単位とする研究があり、期限付でも就職する人があれば歓迎する。ただ、今のところ任期付を希望する人は少ない。 

  23. 大学等の研究では多くの場合チームで研究を行い、また大きなプロジェクト研究を行う場合もある。このようなケースに年齢の如何を問わず、研究主導者について、厳正な評価に基づく任期制。テニュア制にすることを勧める。研究協力者に対する評価は別途に考える必要がある。また、研究者個人の力を十分に発揮させるためには十分なサポーティングシステムを作る必要がある。 

  24. 東北大学電気通信研究所では以前は企業(一度民間)の経験のある人しか教授に採用しなかったことがあるが、それぞれに問題があり、画一的なやり方は問題である。大学の研究者も企業のニーズを把握することが重要であり、この中で基礎研究へのヒントも得られる。 
      昔は、大学での発明を企業に提示したら企業は活用に向けて積極的に対応したものであるが、最近はもっと検討して欲しいと返されることが多い。 
      最も懸念されるのは画一化である。大学、企業が双方よりアプローチしていくことが重要である。 

  25. ここまでの討議をまとめると以下の通り。 

    • 若手研究者が独立して研究できる制度が重要(JSTの「さきがけ研究21」等はかなり良い成果を上げている)。 
    • 流動性の促進のために人事の公開公募制を進めるべき。 
    • テニュア制をすぐに導入するのは無理ではあるが、任期付任用について、テニュア制を目指し拡大していく。国研の任期付任用の期間については今は3年であるが、やはり、任期が3年だと、腰をすえて研究できる機関は2年未満しかなく、そうすると十分な成果をあげることは困難な場合もあるため、例えば5年以内で弾力的に定めるようにしたり、再任を可能とするようにすることが必要。 
    • 任期付任用の処遇についても改善を図る。 
    • 産業界に役立つという視点で人を育てると同時に産業界もそう言う人を雇って頂きたい。 

  26. 今回の基本計画では企業がどこまでコミットするかが重要。企業は日本の大学に期待していない等、本音ベースの話があったが逆に企業にもプレッシャーを与えるべき。 

  27. サイエンスを論議するのかテクノロジーを論議するのか等、論議をもっと整理すべき。サイエンスのポスドクが企業にとって全く役に立たないとの話もあるが、サイエンスで優れた人として伸びればよい。基本的に企業が関係しないがアカデミックとして伸びる分野の話と、企業に本来役立つべきテクノロジーの分野があり、このテクノロジーの分野で大学が企業のことを考えていないと言うことが問題がある。研究開発投資の伸びでどういうインパクトを産業界に与えることができるのかが重要。いずれにせよ、この二つの部分を一緒に考えると混乱する。 

  28. 現行計画での施策がうまく機能しないとの指摘があったが、次期計画についてもそれが懸念される。これが確実に実行に移されるため、例えば研究人材の流動化促進について目標を決めて総合科学技術会議でフォローするなどの仕組みが必要。 

  29. 日本の研究費が極めて複雑になっており、研究者にも分からない。一方20〜30人の班で行う研究が多く、個々の研究者の成果等が把握しにくいことは問題である。米国では個々の研究者に資金が提供されており、もっと単純な研究費の出し方であるべきではないか。このあたりどうあるべきか次回までにお考えいただきたい。 

     以上