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 第28回科学技術会議総合計画部会議事録
(平成12年  第1回) 

  1. 日  時:  平成12年4月12日(水)  10:00〜12:00 

  2. 場  所:  虎ノ門パストラル  桜の間 

  3. 出席者:
    (委  員) 井村部会長、石塚議員、吉川議員、熊谷議員、前田議員、阿部委員、
                 池上委員、石井委員、大崎委員、木村委員、小林正彦委員、篠沢委員、
                 関澤委員、瀬谷委員、寺田委員、利根川委員、鳥井委員、鳥居委員、
                 野依委員、前野委員
    (事務局)科技庁:斉藤総括政務次官、青江科学技術政策局長、
                 崎谷科学技術基本計画室長、丸山同室長代理  他
                 文部省:工藤学術国際局長 

  4. 議  題 

    (1)会議の公開について
      事務局より資料1について説明し、総合計画部会を原則公開とすることが承認された。 

    (2)諮問第26号「科学技術基本計画について」の検討について
      事務局より資料2〜8について説明。 

    • 論点整理は網羅的な内容となっているが、この中で特に重点的に取り組むべき施策を決めて行く必要がある。 

    • 資料8において示されている目指すべき国の姿については異論がない。むしろ、どうやって達成するのかの部分である総合戦略(2)、(3)が重要である。
        資料にある「競争原理の導入」、「個人の能力を最大限発揮」も賛成である。資料6に具体的なことがある。国の研究資金は競争的資金と基盤的資金に分けられるが、競争的資金の割合は8.9%、英米では30〜40%とあり、ここが重要である。基礎研究を競争的に行うこと。競争的資金の割合を欧米レベルに少しでも近づくように制度改革を行うべき。評価の項で、個人の評価と機関の評価を区別しているが、個人のプロポーザルの評価をきっちりやれば、間接的に機関は評価されたことになるだろう。こういう理念を明確にするべき。基盤的経費はなるべく少なくして、競争的資金の割合を大きくし、欧米のようにオーバーヘッドを50〜100%付けるようにすれば機関間の競争になる。つまり、優れた教授はたくさんの研究費を獲得できるので、大学間でよい教授を取り合うという競争が起こる。WGの論点整理は内容は良いが、まだ言い方がなまぬるい。
        また、学校教育についてほとんど書かれていないが、長期的視点からは、教育が重要である。「自ら考えて挑戦して自分で問題(又は課題)を見つけることが大事である」という理念を教育に導入するべきであり、そういう人が尊敬される社会にしなければいけない。これら戦略の実現には教育の改革を折り込んで政策を作るべき。 

    • 競争的資金を増やすというのはそのとおりであるが、資金の割合については、数字だけ一人歩きするのはミスリーディングである。米国には、オーバーヘッドというものがあるが、これは人件費等を含むものである。資金のファンディングの構造を含めた検討が必要である。 

    • 教育は国家百年の計としなければならない。競争的資金の割合の算出根拠は定かでないが、母数の17兆円の中には大学の教員、国研の研究者の人件費が入っている。算出の仕方が米国とは異なるのではないか。また、競争的資金が獲得できるかどうかで個人が評価され機関が評価されるという仕組みで良いと思うが、過当競争になるようでは問題で、資金全体の枠を思い切って増やさなければいけない。 

    • 我が国の主な競争的資金には、研究支援者を雇うための人件費は入っているが、研究者の人件費は入っていない。米国の人件費を除いて比較しても競争的資金の割合は日本が少ない。 

    • 基盤的研究費とは、経費を計算するための方式にしかすぎない。講座当校費と学生当校費から学部の予算が計算上算出されるものであり、全部を研究費に使えるわけではない。机や椅子、掃除代、電気・ガス代など大学に必要な経費の計算根拠となっている。自分の経験では、文部省の経費、大学の本部費用(とめおき)、学部とめおきがあり、東大法学部の自分の場合、実際に研究に使える額は年間10万円しかなかった。基盤的研究費とは、大学の基礎体力を築き上げるための資金であり、その上に競争的資金があるもの。 

    • 現状を誤解しているつもりはない。8.9%の計算の根拠は知りたい。しかし、いずれにしても米国の経常的経費はどこから出ているのかということになる。今の制度を続けるのではなくて、どのように変えるべきかをディスカッションしているのである。オーバーヘッドは経常的経費として使うことができる。一方、競争的資金を取れない大学は縮小することになるのである。米国ではアコーディオンのようなもので、いいときは増えるが、悪いと講座がつぶれる。競争するとはどういうことかを考えなければいけない。 

    • 米国では、よい研究者は巨額の研究費を獲得でき、大学全体をよくするように使える。日本ではオーバーヘッドというシステムがない。従って、このファンディング構造を変えるということを議論するべき。基盤的研究費を削って競争的資金にまわすという議論があるが、今の基盤的研究費は大学の管理費用がほとんどであり、本来あるべき基盤的経費ではない。この辺りを無視して割合の話だけをしてもだめである。 

    • 現状認識についてコメントしたい。1)対価よりもコストのかかるものがあるということを認識すべきである。例えば、医学部というのは膨大な教育費がかかるものであり、赤字となるものである。米国では、このことは認知されている。2)重要案件をポジティブにピックアップする必要性はわかるが、NASAやNSFでは、分野を限定せずに、どんなテーマでもオープンであり、今年の重点テーマというようなものはない。そういったところから予想外の成果が出る。3)基礎研究についての取り組みがおろそかになっているのではないか。4)競争的環境という点では、成果の競争のみならず、学問の伝承の競争、特許取得についても立ち遅れている。また、評価についても遅れている。大学、グループ、研究の仕方についての「評価」が検討されているが、賞をあげるなどの「対価」についての検討も必要である。研究成果に対してどういうプライズがあるかということである。5)現実の世界とのリンクが弱すぎる。米国では研究者が、FDAの新薬の認可など毎日ネットで流れるグローバルなニュースに関心が高いのに対し、日本の研究者は例えば年数回しか発行されない学会誌のニュースにしか注目しないところがある。6)様々な分野にわたる総合的なアプローチが必要なのに、たこつぼに入りたがる点がある。7)研究と教育のリンクは重要である。8)国立、公立、私立、民間それぞれの研究機関についての法律的な扱い方の差はこのままでいいのかということを検討するべき。 

    • 5年間の期間の成果も必要であろうが、長期的視点でみることも重要である。建物だけでなく、インフラストラクチャーの整備は重要である。目に見える形で出てこないであろうが、20年先を担う人物の育成は重要である。成果の活用については、活用であって搾取であってはならない。研究成果が、国や学術研究以外のセクターからの搾取であってはならない。対価をどうするか、学術に対する尊敬の念など、(研究者への)リターンをどうするかという点が重要である。 

    • 世界から尊敬される国とあるが、世界的状況の認識が不足しているのではないか。科学技術の発展は貧富の差を拡大させている。Sustainable Development(持続的発展)についての解が得られていないという状況である。科学に方向性を持たせるには、Interdisciplinary(学際的)な取組みが重要である。このためには、先ほど利根川先生がおっしゃった自由競争のように、大学がマネージメント能力をもつことが必要であり、より自由度を与え、成果を上げた大学に金が付くような健全な枠組みにするべきである。米国では、かつてバイオに特化した大学があり、そこが現在栄えている。日本では、例えば現在、大分大学は福祉に特化しようとしているが、学問ではないといって認めようとしない風潮がある。アカデミックな分野に対しても資金を出せる政策を取るべき。 

    • 科学技術を従来の枠で捉えるとエゴになり説得力がない。日本としてどのような国を目指すかを明確にすべき。そのためには17兆円のレビューが必要。国際競争力、持続的発展等どの分野にどれくらいの資金を投資するかという話が進みすぎ。今の枠組みのままで多額な資金を投入しても効果的でない。科学研究システムと教育システムの改革が必要であり、これが連動した政策を検討する必要がある。教育問題について、今10才の人が50年後にこのような会議に出たとき、何故こんなことを決めたんだと言うようにならないようにすべき。内外の研究者を引きつける魅力のある環境の整備が必要であり、これは給与システム、昇進などを含めての話である。日本では研究を学術、産業技術等に特化して分類しすぎる傾向にある。産業技術という点では、開発研究だけでなく教育や基礎研究も合わせて考えるべき。極端に特化しすぎることには注意が必要。 

    • 競争的環境については市場づくりまで考えない限りいくら競争といっても実現できない。評価をしても人のモビリティがないと座敷牢を作るだけ。「基礎研究の重視」だけでは何も変わらない。数値目標を立ててふってみるべきだ。歪みがでたら修正すればよい。競争的環境・資金についても目標立てて実行してみて、必要なら5年後にでも変えればよい。戦略とは目標達成のための障害を回避していくことであり、産学官連携等完璧でなくてもとにかく取りかかることが重要。最近、英国の産学官連携について調べたが、ケンブリッジ大でもイノベーションセンターができるなど変わってきており、研究インフラに予算を付ける傾向にある。ロバート・メイ氏によると「日本のファンディングについては問題がある」との指摘もある。今のままでは問題であり、とにかく変化を起こし様子を見ることが必要。  重要なのは産業界がどのように関与するかである。実際、産業界は冷めており、一部には日本の大学を見限り海外との連携を進めているところもある。  国の予算の使い方について、研究現場ではあまり議論されていない。公務員法や会計法などについて、科学技術の振興に関する特例法を決めて、従来と違うようにすべき。省庁縦割りとならないようにするには元々のルールを変えないとだめである。 

    • 「安心・安全で快適な生活ができる国」について、小職が担当している視点から考えるとニーズからのアプローチは重要である。しかし、我が国の食料の自給率の向上というだけでは限界がある。世界の人口は爆発的に増加しており、世界の食料が安定して供給されないとこの目標は成り立たない。従って、国際協力の視点も重要であり、グローバルなニーズを捉えていくことが大事である。これは、「世界から尊敬される国」にも繋がり、食料、環境に関しては日本だけでなくもっと広い視点から国際協力についても考慮すべき。 

    • 持続可能な発展という表現が気になる。日本が地球規模の課題についてどういう役割を果たすかが問題である。
        バイオ食品等、科学技術コミュニティーの人々が社会から信頼を失っていることを理解すべき。このため、社会とのコミュニケーションが大事であるが、社会との繋がりの部分が産業技術強化といった方向にだんだんと矮小化している。
        競争的環境について、今の日本に戦略的な判断ができる人がいるなら資源の競争的な配分等も実現できるが、日本では出る杭は打たれる。米国とはそこが異なる。 

    • 科学の発展には教育と競争的環境が重要。生命科学の成長を国民の健康にもっていくためのインフラも必要。生命科学に基づく健康科学が重要。米国のFDAのような安全・効果を国として判断する機関が重要。遺伝子組換え食品についても、安全性についての公的な規制がない限り、国民の手元に届いていかない。 

    • 石井委員が言われた東大法学部の先生個人への予算が年10万円というのは問題。予算配分の仕方を見直すことが重要でないか。これを報告に取り入れるべき。
        先ほどの貧富の差が拡大しているというコメントについて、先般出席したベンチャー企業の会議では、日本全体の貧富の差は減少しているが、努力した人へのインセンティブが少なく、これでは日本の技術は進歩しないとの意見があった。この点から重要なのは評価。企業では投資に対する効果を極めて厳しく評価している。科学技術ではここまで定量的な評価は困難であろうが、評価の充実が重要である。
        3つの目標には経済、防衛等に係る問題もあり、科学技術だけで達成できるものではない。この一部分を科学技術が受け持つと言うことを明確にすべき。 

    • 産業界の立場から言うと、池上委員の発言にもある通り、日本の大学はあてにしていない。明らかに構造改革をしないとどうしようもない。当社でも英国にソフトウェアのシミュレーションについての研究所がある。そこでは、経済学部出身で日本の銀行のロンドン支店で財務経理を担当した後大学に戻り、銀行での経験とシミュレーションを組み合わせて新しい分野を切り開こうとしている人材と協力し研究を行っている。まさに人材の流動化そのものである。こういう現実と本日の各委員の発言等のギャップを考えると、骨太といっても議論だけでは変化しないのではないかと思えてしまう。
        ちょっと法律を変えて、今の大学とは全く別に、例えばマネージメントは経済界から、研究者は世界中から集め、個人に自由に資金を与え、オーバーヘッドは税金で負担し、その研究テーマを産業界に競売に出し、スポンサーを募るというような今までの規制の外におく試みは如何か。これ位しないと産業界が望む産学官連携は実現しないのでは。17兆円の使われ方を調べれば自然に答も出るのではないか。 

    • 競争的資金を増やすのは大賛成。しかし、現在のファンディングのメカニズムで競争的資金を増やしても、冒頭出に基盤的経費の10万円が5万円になるだけで全くワークしない。基本的なメカニズムから変えないと効果がない。
        他方、GDPに対する日本の高等教育予算は0.5%と世界最低レベル。これを変えないといけない。英国では1989年に学生一人当たり7,000ポンドであった予算が1990年代後半に4,000ポンドに下がったため、学生からの負担を増やして教育サービスレベルを上げる施策を導入した。一方で1999年から3年間毎年5%ずつ高等教育に対する公的支出を増額することを実行している。このような点は大いに見習うべきだ。
        利根川委員の言われる教育問題はその通り。これに対応できる先生が日本にはいないのが問題。大阪の小学校で10年間種々の手を打ったが全くうまくいかなかった。しかし、校長の交代とともに総合学習の時間に子ども達に好きなことをやらせるような工夫をしたら一気に活性化したという事例がある。ケースに合わせた対応が必要。 

    • 予算の配分を競争的にするアプローチは結構であるが、それを支える官、民の財政的基盤がどんな状態か。日本は租税負担率が低く、官の方の財政支援力が劣化しており、脆弱であることが明らかになってきている。これまでは17兆円出せたが、今の財政状況、租税負担率の下では、力は限定的。民間の方でも国外に研究の主たる関心を移しつつある。日本全体として研究費は多いが財団的ファンディングには問題がある。総体として財政力に問題があり、この状況で何がやれるか。従来は各方面に手を広げてやっていけば良かったが、資源は限られており、これが限界に近づいていることは明らか。よって、評価、資源配分をしっかりし、競争的配分、重点化に取り組むべき。 

    • 次の基本計画を作るにあたりしっかり考えねばならない事項は次の通り。 
      • 国家としての科学技術に関する戦略性と具体的な重要領域の明示 
      • 研究活動の競争性についてしっかり方向付けるべき 
      • 産業界におけるものづくりの信頼感低下について。これは教育の重要性にもリンクする。 
      • 今の仕組み、制度では何を言っても変えられず、思い切った改革が必要である。特に科学技術予算の仕組みについて単年度予算では戦略的な活動は無理であり、複数年度化が必要である。また、この権限を持つところ「総合科学技術会議」が予算を総枠で管理し、司令塔として動ける制度を確立すべき。国家的に考える重点プロジェクト等、一元管理が必要で、産学官協力の下、バランスを持って調整する能力と予算を管理できる仕組みに変えて行くべきである。 

    • 日本において重要なのは競争的研究環境の実現。このためには厳正な評価と資金への反映が重要であり、更にこれに適応できる人材の育成はもっと強調すべきである。本計画は向こう一世紀の最初のものであり、義務教育から競争的環境に適応できる人材育成について強調すべき。 

    • 現行の計画は戦略や重点分野の提示など最初から欠落があるとの指摘があった。次期計画についてはその点にも十分注意し検討したい。また、達成できていない部分もあり、これらについて、特に教育問題について制度面等の議論も必要。教育についてはこれまで深堀してこなかった。科学技術の切り口から、大学だけでなく教育において何が必要かを見据えた計画とすべき。 

    • 大学の教育研究については質の低下ではなく環境の劣化である。科学技術創造立国で尊敬される国といっても、まず国内に科学技術を尊重する社会環境を醸成することが大事。社会的には法経の出身者が企業や行政の中枢を占めており、それらの一部には未だに欧米崇拝的な考えがあり、日本の研究者がしっかりやっていることを理解しようとしない風潮がある。大学の研究者は劣悪な環境の中で一生懸命頑張っている。大学審は、21世紀の「競争的環境の中で個性輝く大学」作りを提唱している。今は、国としての「個性的な科学技術創造」という視点が重要。米国と同じことをしても無駄なのでは。 

    • 本日の議論を聞いていると、現状を変えることはなかなか大変だなあという感じ。米国の方が基礎研究の成果が質量とも多く、これが何故か考えるべき。今の制度のままでは目標を達成することは無理である。日本の古くからの制度・価値観を変えてでもこういった分野の成果を上げることに努力するかということ。基本計画は先見的なビジョンに満ちたものとすべきであり、現状維持を排除し推し進めないと意味がない。 

    • 重要なことは実現できる政策を打つこと。10年前から指摘されているのに変わっていないものがある。実際に政策をどう打ち出すかが重要。基本計画でそれらが通ればかなりのことが実現できる。短期的、長期的の両視点から次回はもう少し具体的な議論をしたい。 

    (3)今後の進め方について
      事務局より資料9について説明。 

      次回会合:5月11日(木)10〜12時
                東海大学校友会館(霞ヶ関ビル33階「阿蘇の間」) 

     以上