(別記)
基本計画の実施状況
(1)関係省庁の取組み
近年の人工衛星を用いたリモートセンシング技術等の観測技術の発達や、スーパーコンピュータによる数値シミュレーション技術の発達は、地球に関する科学技術の研究に進歩をもたらすこととなった。また、人類の長年にわたる地球に対する探求を通じ、近年、地球及び地球の諸現象に関する知見の蓄積が気圏、水圏、地圏、生物圏及び人間活動圏の各分野において急速に進んでおり、地球を一つのシステムとして把握することが可能な段階になってきている。
関係省庁等においては、基本計画を踏まえ(一部先取りし)、それぞれの行政目的に関連し、以下のような指針等を定めて地球科学技術に関する研究開発を進めてきている。
◎「我が国の海洋調査研究の推進方策について−21世紀に向けた地球規模の海洋調査研究の計画的な推進−」(平成5年12月):海洋開発審議会
◎「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月):地震調査研究推進 本部
◎「地球変動予測の実現に向けて」(平成8年7月):航空・電子等技術審議会地球科学技術部会(科学技術庁)
◎「今後の環境研究・環境技術のあり方について」(平成9年6月):今後の環境研究・環境技術のあり方に関する検討会(環境庁企画調整局)
◎「地球環境研究等の今後のあり方について〜最終報告書〜」(平成9年12月):地球環境研究等の今後のあり方小委員会(環境庁企画調整局)
◎「地球環境科学の推進について」(平成7年4月:建議):学術審議会(文部省)
◎「地球科学における重点的課題とその推進について」(平成7年6月):測地学審議会(文部省)
◎「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について・第6次火山噴火予知計画の推進について」(平成10年8月):測地学審議会(文部省)
◎「農林水産研究基本目標」(平成8年7月):農林水産技術会議(農林水産省)
◎「21世紀の温暖化防止技術の研究開発に向けて」(平成10年6月):産業技術審議会エネルギー・環境技術開発部会基本問題検討小委員会(通商産業省)
◎「21世紀を展望した運輸技術施策について」(平成3年6月):運輸技術審議会(運輸省)
◎「気象庁における地球科学に関する新たな研究及び技術開発の課題と推進方策について」(昭和63年5月):気象審議会(気象庁)
◎「今後の地震・津波情報の高度化のあり方について」(平成6年10月):気象審議会(気象庁)
◎「今後の気候情報のあり方について」(平成9年10月):気象審議会(気象庁)
◎「情報通信研究開発基本計画」(平成9年4月):電気通信技術審議会(郵政省)
◎「情報通信を活用した地球環境問題への対応」(平成10年5月):電気通信審議会(郵政省)
地球科学技術を推進にあたっては、地球に関する科学的知見を深めるだけでなく、科学的知見を得るために観測、解析、予測技術の開発の進展を図るなど、科学的知見の蓄積と技術の開発を密接な連携の下で進めてきている。また、一国で対応できないものが非常に多く、高度な科学技術水準を要するものが多いため、各国の協力の下に実施してきている。
○ 研究開発の推進体制
研究開発の推進体制については、国の試験研究機関、大学等において地球環境研究等に対応するための組織新設等の体制強化が図られている他、関係省庁が自らの予算によって地球的規模の諸現象の解明等に係る研究開発や地球環境の保全・改善に係わる研究開発等を実施するとともに、科学技術庁の科学技術振興調整費(以下、調整費)や海洋開発及地球科学技術調査研究促進費(以下、促進費)、環境庁の地球環境研究総合推進費(以下、推進費)等により、国の試験研究機関等、さらには海外の研究機関等の広範な分野の研究能力を結集し、国際的な研究開発を積極的に実施してきている。また、産学官の特色を踏まえた地球科学技術の研究開発の積極的な推進にあたっては、関係省庁において以下のような取組みを実施している。
この他、地球変動予測に関する研究については、関係省庁が総合的、効率的な取組みが行えるよう、「地球変動予測研究関係省庁連絡会(事務局:科学技術庁、環境庁、運輸省)」が平成10年1月に設置され、地球変動予測に関する研究テーマ、研究実施内容等についての情報交換や地球変動予測研究の連携に関する検討を開始している。
- 科学技術庁の戦略的基礎研究事業等の公募型の研究制度を活用した産学官の連携による研究開発の推進
- 建設省の総合技術開発プロジェクト等における産学官の緊密な協力体制による総合的かつ計画的な研究の推進
- 通商産業省のニューサンシャイン計画における産学官の緊密な連携による研究開発の推進
- 科学技術庁の地球フロンティア研究システム等、産学官を問わず国内外の優秀な研究者が参加できる流動研究員制度の導入による研究開発の推進
(2)基本計画全般の実施状況
1)地球規模の諸現象に関する研究開発(科学的知見の増大、予測・予知)
○ 地球の歴史的変化の研究
世界最古のバイカル湖湖底堆積物や極域氷床深層コア解析による過去数十〜数百万年間の地球環境変動の復元研究が行われている。
○ 各圏域毎の研究
気圏に関する研究については、様々なプラットフォームを利用した温暖化物質や成層圏オゾン層の精緻な観測や動態解明、さらに、極渦による高緯度域のオゾン層の変動の解明など、気圏−水圏−地圏間の相互作用を解明に資する基礎的な知見が集約されつつある。しかし、それらの観測の時間的・地理的密度が十分とは言えない。
また、豪雨など災害をもたらす小さなスケールの現象については、新たな観測技術の活用、数値実験等により、メカニズムの解明が進められている。この他、台風に伴う高潮や津波の災害に係わる局地現象の予測モデルの高度化が進められている。
地球規模での水循環に関する研究では、アジア地域におけるデータセット作成の研究が遅れている等、地球規模のモデルの妥当性評価や信頼性の向上を図る上で、現地での観測データに空白域があるといった問題も顕在化してきている。
地圏に関する研究については、主に地震や火山の現象解明や地球の全ダイナミクス構造の研究等について着実に進められている。地球内部の構造については、地震波の伝播(トモグラフィー)の解析が進められ、地球内部と地表活動の関係が理解できるようになるなど順調に進展している。その結果、地球内部の対流などの全地球的ダイナミクスに関するモデリングについては知見の集積により大きな進展を見たが、地殻内部での現象を十分再現できる数値シミュレーションモデルの開発等が今後の重要課題となっている。
一方、地震・火山活動の推移の実況把握や予測技術の改良・開発を推進するため、地震の過去資料の解析や各種地震計による観測を行い、地震活動の解析、震源過程の解明、火山噴火の発生機構の解明等が進められている。
生物圏に関する研究については、深海生物等を対象とした極限環境への適応機能に関する研究や森林等の有する炭素固定能力等に関する研究、農林水産生態秩序の解明と最適制御に関する研究等が行われている。
人間活動圏に関する研究については、推進費等で土地利用・被覆変化、産業社会転換等に関する研究が行われている。
○ 気圏・水圏・地圏の相互作用に関する研究
これまでにアジアモンスーンやエルニーニョ・南方振動等の機構解明やそれらの相互作用に関する研究、地球温暖化の原因物質挙動、雲が地球温暖化に及ぼす影響、黒潮の開発利用等に関する調査研究、地球温暖化の予測技術等に関する調査研究、二酸化炭素等温室効果ガスの挙動解明、地球温暖化が生態系、健康、沿岸域、水資源及びエネルギーシステム等に及ぼす影響、海洋表層過程による二酸化炭素の吸収、地球温暖化に係わる対流圏オゾンとの関連、物質の輸送・化学変化等に着目した気候モデル及び地域気候モデル、西シベリアにおける温室効果気体の収支推定と将来予測、海面上昇の影響の総合評価に関する研究等が積極的に行われてきた。
このような取組みにより、大気・海洋変動に係わる素過程、物質循環、気候変動の機構解明などに関する科学的知見については、室内実験、野外観察、データの解析、理論的考察及び数値実験等を通じてそれぞれの分野において着実に蓄積されてきたと言える。
これら様々な現象についての科学的知見を集約させて、現象のメカニズムをモデル化すること、モデルの性能を評価・検証すること、さらにモデルによる予測可能性に関する研究などに取組み、大気モデル、海洋大循環モデルや大気海洋結合モデルなどの予測モデルについて、予測技術の高度化に向けた研究を着実に進めてきている。また、地域レベルの気候モデルの高度化等も積極的に進めている。
このような取組みの結果、コンピュータ・シミュレーションによる全球的な気候モデル研究と過去の気候変動のデータ等によるモデルの検証が進み、エルニーニョ等の中長期の気候変動予測が試みられるまでに進歩した。海洋大循環モデル等の分野でも観測技術等の進歩により研究が進み、10年規模の気候変動と地球温暖化との関係の研究について、雲やエアロゾルの影響評価など解決すべき課題はあるものの、1990年当初から順調に進展した。アジアモンスーンの研究等も研究体制が整い順調に研究が進んでいる。
このように、中長期のエルニーニョ予測研究や地球温暖化予測研究等は実社会への貢献という観点から、着実に成果を挙げてきた。地球温暖化分野については、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)等に対して、地球温暖化予測モデル等の科学的知見を提供し、一部では高い評価を受けている部分もあるが、我が国からの参加者数が少ない等、全体的な貢献は十分とは言えない。今後、国際協力や社会・政策的取組みの観点からも、この分野への一層積極的な取組みが望まれる。
なお、地球規模の自然変動の予測・予知を進展させる上で必要不可欠なハード面を充実させるため、高速計算技術を飛躍的に向上させ地球規模の複雑な諸現象を忠実に再現することを目指し、平成9年度より進められている現在の約1000倍の精度で超高速数値シミュレーションを達成できる「地球シミュレータの開発」には国内外からの期待が大きい。
○ 生物圏と他の圏域の相互作用に関する研究
熱帯林変動とその影響、生態系での物質循環、気候変化の生態系への影響等に関する調査研究等が行われており、陸上、海洋、沿岸域、河川域について研究が進められている。
一方、炭素循環等に関する研究では、陸域、生物圏での研究が相対的に不十分であり、地球を一つのシステムとして捉えた統合的な観点からの研究の推進が望まれる。
地球の浄化・修復メカニズムなどのモデル化については、例えば干潟実験施設等を活用した海水浄化機能の解明等の研究が実施されている。
温室効果ガスによる環境変化に対する生物の反応性に関する研究等については十分な取組みがなされていない。
2)持続的発展のための科学技術
○ 環境適応マネジメント
環境庁の推進費では平成7年に「人間社会的側面からみた地球環境問題」分野を設定し、アジア太平洋地域における温室効果ガスの排出、温暖化による影響、対応策等を総合的に評価できる総合評価モデルの開発・改良と適用に関する研究や、持続的な国際社会に向けた環境経済統合分析手法の開発に関する研究等が行われている。また、材料の生産から消費、廃棄にいたるライフサイクル全体における環境への影響評価技術等の検討等も行われている。
○ 地球規模の資源調査及び資源変動把握
日本の資源に関する現状の調査・分析と長期的資源政策の策定に関する検討等が行われている。また、北西太平洋沖合域をフィールドとして、魚類の餌となる動植物プランクトンを通して、気候・海洋環境変動が漁業資源に及ぼす影響の解明とその変動予測モデルの開発等が行われている。
○自然エネルギーの利用の推進
ニューサンシャイン計画において、再生可能エネルギー分野として、太陽エネルギー(太陽光発電、産業用ソーラーシステム等)、地熱エネルギー(地熱探査技術等検証調査、熱水利用発電システム、高温岩体発電システム等)、風力エネルギー(大型風力発電等)に関する技術開発が進められている。
この他、波力エネルギーの有効利用に関する研究として、実海域実験用の沖合浮体式波力装置による実験、波エネルギーを防波堤や護岸で吸収し有効に活用する技術の研究等が行われている。
○ 自然と調和したマクロスケールの社会資本の整備
建設事業の実施に際して、構造物の計画、施工、設計、維持管理、更新、再利用に至るライフサイクルコストを通じて、環境等に与える影響を外部コストとして定量的に評価する手法を開発するとともに、環境負荷低減技術の開発に関する研究等が実施されている。
また、建設事業による生物への影響の予測、有効な生息空間の創造技術の開発、自然作用を活かした共生型川づくりに関する研究の一環として、世界最大規模の実物大実験河川である自然共生研究センター(岐阜県木曽川)を平成10年度に整備しこれを活用した研究が行われている。
3)地球環境を保全・改善するための科学技術
地球環境を保全・改善するための科学技術としては、温暖化対策技術、砂漠化対策技術、熱帯林減少対策技術、酸性雨対策技術、オゾン層破壊対策技術、海洋汚染対策技術、環境調和型技術が研究開発項目として挙げられている。
なお、上記の研究開発項目に対し、関係省庁は以下のような各種研究開発を推進している。また、大学等の研究者は、関係省庁の推進する研究開発に適宜参画するとともに、文部省より科学研究費補助金等の支援を受けて、自由な発想に基づく研究を行っている。
○ 温暖化対策技術
科学技術庁では、原子力の開発利用を国民の理解と安全確保を大前提に推進している。また、光合成に関する基礎研究や、エネルギー利用効率の改善に資する取組みとして超鉄鋼材料の研究開発を進めている。
北海道開発庁では、地球温暖化への適応策として、地球温暖化がもたらす積雪寒冷地の水文・水資源環境へ与える影響を把握し、水文・水資源管理手法の開発を行うことを目的とした研究開発を実施している。
環境庁では、気候変動枠組条約第3回締約国会議において採択された京都議定書で定められた温室効果ガス削減目標の達成に向けて、温室効果ガス削減技術及び社会システム等に関する研究を実施している。
農林水産省では、農地等からの温室効果ガスの発生要因の解明、発生量の推定及び発生抑制技術の開発を行うとともに、森林等が有する炭素固定能の評価、光合成能を飛躍的に高めて大気中の二酸化炭素の低減に資するための農林生物の開発等を行っている。
通商産業省では、原子力の開発利用を国民の理解と安全確保を大前提に推進している。また、エネルギー・環境領域の総合的な研究開発制度であるニューサンシャイン計画において、二酸化炭素排出抑制に重点化した革新的な技術開発等を加速的に推進している。具体的には、太陽光発電技術、分散型電池電力貯蔵システム技術開発、燃料電池発電技術等の技術開発を加速化するとともに、新規の技術開発として超低損失電力素子技術開発を開始している。また、中長期的観点に立った地球環境技術に関して、二酸化炭素を人為的に海洋の中層に放流し、大気から隔離することの技術的見通しを得るための二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響評価技術開発を実施するとともに、細菌・藻類等利用二酸化炭素固定化・有効利用技術開発等を実施している。さらに、温室効果ガスである代替フロン等について、オゾン層破壊物質に関する技術開発で得られた知見も活用し、代替物質の技術開発、代替プロセス等の研究開発、破壊技術開発等の取組みを実施している。
運輸省では、自動車分野で、都市部における低公害、省エネルギー、交通の円滑化等の課題に対応できる電気−ハイブリッド動力方式を用いた超小型自動車の研究開発、船舶分野では、燃料電池推進船の開発、数値流体力学(CFD)等による抵抗の小さい船型の開発を行っている。また、二酸化炭素の深海貯留技術の開発、モーダルシフト実現のための国内物流ネットワークのシステム分析を行っている。さらに地球温暖化による海面上昇が港湾施設や沿岸域の生態系等に与える影響予測について研究を実施している。
郵政省では、交通流の円滑化、物流の効率化による二酸化炭素排出量の削減を実現し、もって環境の保全に資する高度道路交通システム(ITS)の実現に向け、路車間の通信技術、車車間の通信技術をはじめとした研究開発を推進しており、テレワークについても、交通代替による大きな二酸化炭素削減効果が期待できることから、テレワークのサポートに資する技術の開発を実施している。また、通信設備、マルチメディア端末等の抜本的な低消費電力化を可能とするデバイス技術の研究を行っている。
建設省では、二酸化炭素排出量の少ない都市構造・交通体系の研究、交通渋滞等の解決の切り札となる高度道路交通システム(ITS)の整備等による交通渋滞の緩和、都市空間におけるヒートアイランド現象の軽減に関する研究、自動車排出ガス(二酸化窒素)の脱硝技術、省エネセメント等の建設事業の実施における二酸化炭素排出量の少ない技術の開発、地球温暖化による海面上昇が海岸保全施設に及ぼす影響に関する研究、将来の気候変動を考慮した水資源開発・洪水防御計画の策定手法の研究等を実施している。
○ 砂漠化対策技術
環境庁では、平成10年度に我が国が砂漠化対処条約を締結したことを踏まえ、アジア太平洋地域の砂漠化の要因となっている塩類集積土壌、過放牧及び風化による土壌劣化等に関する研究、世界各国で実施されている砂漠化対策技術の総合化・体系化を実施している。
農林水産省では、中央アジア地域の高温乾燥の自然条件下にあるフィールドにおいて、土壌の塩類集積の実態把握、その防止策及び塩類集積土壌の回復策に関する研究等、砂漠化を防ぎつつ持続的な農業生産を可能とする技術開発を実施している。
○ 熱帯林減少対策技術
環境庁では、平成9年に開催された第19回国連環境開発特別総会(UNGASS)において、CSD(国連持続可能な開発委員会)の下に設置されることが合意されたIFF(森林に関する政府間フォーラム)において、「森林条約」等の国際メカニズムの検討とコンセンサスづくりが進められている。こうした国際的な情勢を踏まえつつ、世界最大の熱帯木材輸入国の我が国は、急激な減少・劣化を続けている熱帯林の保全に向けた研究を実施している。
農林水産省では、熱帯林での木材生産形態が森林生態系に及ぼす影響と野生生物が森林更新に果たす役割の解明を進めるとともに、熱帯林植生の変動・再生機構の解明のための長期観測と熱帯林の変動が水・炭素循環・気候に与える影響の解明を進めている。
○ 酸性雨対策技術
科学技術庁では、液体燃料での低NOx 燃焼技術について研究を進めている。
環境庁では、急激な経済発展を遂げている東アジア諸国からの酸性雨原因物質である硫化硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量が増加し、近い将来に酸性雨による悪影響が深刻な問題となるおそれがあることから、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」が試行的に開始された。東アジア諸国の酸性雨原因物質の排出削減、東アジア酸性雨モニタリングネットワークへの貢献を目的とした研究を実施している。
農林水産省では、酸性雨等による森林の衰退の有無や環境要因について、全国に定点を設けモニタリング調査を行い、その影響の把握と解明に関する研究を実施している。
○ オゾン層破壊対策技術
環境庁では、オゾン層破壊物質の排出を抑制することを目的とした安全、確実な回収・再利用・分解等の技術開発等を実施している。
農林水産省では、農業生産現場において、臭化メチルに替わりうる薬剤、熱処理、生物的手法等による防除技術の開発を進めている。
通商産業省では、オゾン層破壊物質である特定フロン等について、温暖化対策も踏まえた代替物質の技術開発等の取組みを実施している。
○ 海洋汚染対策技術
環境庁では、平成6年に海洋環境の保護及び保全に関する沿岸国等の責務等を規定する国連海洋法条約が国際的に発効しており、我が国においても平成8年に批准している。また、地域的な取組みとして平成6年に北西太平洋地域の環境保全を図るため、「北西太平洋地域海行動計画」が採択された。これらの国際動向を踏まえ、東アジア海域を中心に調査研究を実施している。
農林水産省では、赤潮による被害の軽減のための発生機構の解明と発生予測技術の開発を行っている。また、流出油による海産生物への影響を把握するとともに、その評価法の開発を進めている。
運輸省では、油流出事故等に対応する油回収技術、油汚染監視技術、漂流予測技術、海況を精度良く把握するためのデータ同化技術等の開発、実用化に取組んでいる。
○ 環境調和型技術
通商産業省では、環境調和型生産技術として、生体の反応機構を利用した高機能化学合成バイオリアクター、微生物の活用による水素製造技術等の他、低環境負荷物質開発技術として、生分解性のプラスチック等の技術開発等を進めている。
4)共通・基盤技術
(観測技術)
○ 人工衛星を用いた観測
日本においては、平成4年に地球資源衛星1号(JERS−1)「ふよう1号」、平成7年に静止気象衛星5号(GMS−5)「ひまわり5号」、平成8年に地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS)「みどり」、平成9年には日米共同プロジェクトとして熱帯降雨観測衛星(TRMM)を打上げた。このうち、現在運用中のものは、ひまわり5号とTRMMである。また、環境観測技術衛星(ADEOS− II )及び陸域観測技術衛星(ALOS)の開発については、引き続き、国内外の関係機関との協力の下に進められている。なお、ひまわり5号の後継機である運輸多目的衛星が平成11年11月以降に打上げ予定で、準備が進められている。
これら人工衛星に搭載する各種センサの開発に資するための研究等については、促進費や推進費等により関係省庁の国立試験研究機関の協力のもと、基礎技術・知見の集積が図られている。 例えば、オゾン及びオゾン層破壊関連物質の高度別濃度分布の監視を行う「改良型大気周縁赤外分光計− II 」等のセンサの開発、大気微量気体の計測技術、エーロゾル等の観測技術、多チャネンルのマイクロ波放射計による観測技術、衛星搭載型ライダ(レーザ・レーダ)による観測技術等の研究開発が行われている。
その他、災害や地球環境変動の観測研究として、合成開口レーダ等の能動型マイクロ波センサによるリモートセンシング技術の高度化等の研究開発が推進されている。
○ 航空機等を用いた観測
地球温暖化やオゾン層破壊等の解明に資するため、航空機搭載、地上設置、衛星搭載のセンサ等に関して、郵政省では電波と光を利用した先端的な地球環境計測技術(遠隔計測技術:リモートセンシング)の研究開発を系統的・統合的に実施している。
○ 船舶等による観測・試料採取、陸上観測・試料採取
船舶等による観測・試料採取については、海洋気象観測船「凌風丸」、測量船「昭洋」等の代船、海洋地球研究船「みらい」等の海洋観測船の配備や、海底での変動現象等を長期間連続し観測するシステムの構築が進められてきている他、海洋の3次元水温分布等を把握するための海洋音響トモグラフィー技術、深海底掘削システムを有する地球深部探査船等の研究開発が進められている。
また、深海係留型のブイでは、係留部分から定期的に切り離されて海面に浮上し、観測データを自動送信する「メッセンジャーフロートシステム」が開発されるとともに、海洋中層循環を把握するため亜熱帯域に各種中層フロートが導入されている。この他、小型航空機や船舶に蛍光ライダを搭載することにより、海上における流出油や船舶の排ガス拡散をリアルタイムに監視する技術の開発が行われている。
陸上観測等については、地下深部における高精度連続観測技術の開発等として、大学等で精密制御震源(アクロス)を用いたトモグラフィー技術の開発・高度化が進められている。また、測地測量技術の高精度化・グローバル化により地球的課題に対処するため、GPS連続観測技術等の高度化に関する研究開発や、全地球的なプレート運動の観測を可能とする超長基線電波干渉法(VLBI)を用いた測量技術等の高度化に関する研究開発が進められている。
温室効果ガス等の観測については、大気上層での定常観測を可能とする民間定期航空機による観測システムが開発され、一般商船での洋上観測を可能とする自動観測システムの開発が進められている。また、様々な気象現象の的確な把握のため、経済的かつ高度化された次世代の気象観測システムについて研究が進められている。
その他、波浪、津波等を観測する技術として、全国51ヵ所の波浪観測地点を有する全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)を整備・運用している。また、海底ケーブルシステムを用いた地震等多目的地球環境モニターネットワークの開発に関する研究等も進められている。
(情報システム)
科学技術庁所管の宇宙開発事業団では、衛星観測データの有効かつ広範な活用の推進のため、地球観測データ解析研究センター(EORC)を平成7年に設置している。
環境庁国立環境研究所地球環境研究センターでは、スーパーコンピューターの導入により、地球環境研究の推進、政策立案に必要な各種データベースの構築・整備を進めている。
農林水産省では、作物生産のための各種支援情報をネットワーク上で総合的に利用する情報処理システムの構築のための基盤技術の開発等を進めている。
運輸省海上保安庁では、日本海洋データセンター(JODC)で、国内外の各海洋関係機関に散在する各種海洋データ・情報を一元的に収集・処理・保管し、オンラインシステムにより国際間の迅速なデータ交換等を実施している。また、運輸省船舶技術研究所では、当所が所有する船舶海象情報を基に、各国、各機関に分散する海象情報に関するデータを加えて総合データベース化を行っている。
気象庁では、海洋リアルタイムデータベースを整備し、また、世界気象機関温室効果ガス世界資料センターを開設し、観測データを収集、品質管理を行い、インターネット等により国内外に広くデータを提供している。さらに、大学等関係機関と地震データを交換するシステムを整備し、研究機関に提供している。
郵政省通信総合研究所では、地球環境保全国際情報ネットワークの推進等について、データ利用技術、情報通信ネットワーク技術等の高度化のための総合的な研究開発を実施している。
建設省国土地理院では、整備された地球地図の更新や提供を可能とする「地球地図データ管理システム」構築の研究・開発を進めている。
また、関係省庁の各機関が地球観測情報ネットワーク(GOIN:Global Observation Information Network)に参加することにより、日米間を中心に地球観測データの流通、利用が促進されてきた。なお、GOINについては、平成11年に地球観測衛星委員会(CEOS)の情報システム・サービス作業部会(WGISS)が引継ぐこととなり、今後は日米のみならず世界各国の参加を促進することとなった。
5)国際活動の推進
地球科学技術に関連する研究分野の進展に伴い、計画的・長期的に行われるグローバルな観測研究の必要性が増大している。このため、観測網の展開等には、各国の協力が不可欠であり、国際的な組織による国際共同研究が一層重要になっている。このような観点から、関係省庁、大学等が連携協力を図りつつ適切な分担を踏まえ、次のような国際共同研究等を推進してきている。
(国際機関等の提唱による共同研究)
国際科学会議、世界気象機関、政府間海洋学委員会等の提唱による以下のような国際共同研究計画及びそのサブプログラムに積極的に参加している。 太陽地球系エネルギー国際共同研究計画(STEP) 全球海洋観測国際共同研究計画(GOOS) ・縁辺海観測国際協同研究計画(NEAR−GOOS)等 全球気候観測国際共同研究計画(GCOS) 全球陸面観測国際共同研究計画(GTOS) 地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP) 気候変動国際協同研究計画(WCRP) ・気候変動予測可能性研究計画(CLIVAR) ・全球エネルギー水循環観測研究計画(GEWEX)等 地球環境変化の人間的側面国際共同研究計画(IHDP) 地球変動分析・研究・訓練システム(START) 北西太平洋地域海計画(NOWPAP)等 (ユネスコ科学関係事業) 人間と生物圏(MAB)計画 国際地質対比計画(IGCP) 国際水文学計画(IHP) 西太平洋海域共同調査(WESTPAC) ソーラー・エネルギー事業等 (その他の共同研究) 国際深海掘削計画(ODP) 国際海嶺研究計画(InterRidge) 地球地図整備 北極圏環境観測国際共同研究 南極地域観測事業 等
○ 二国間協力による活動
上記の国際共同研究の他、二国間協力による活動にも積極的に取組んでおり、米国、フランス、ドイツ、カナダ等との間の科学技術協力協定等の下で、地球科学技術に関する研究協力を進めており、具体的な共同研究課題については対応各国との間で定期的に研究活動のレビュー等が行われている。なお、日米間においては、平成9年5月の日米コモン・アジェンダ次官級会合において、コモン・アジェンダの新規協力分野として「地球変動研究・予測」が追加され、平成11年4月の同会合では「深海掘削」が新規協力分野として更に追加された。
また、平成8年9月、天然資源の開発利用に関する日米会議(UJNR)の中で「沿岸環境科学技術専門部会」の発足が認められ、平成10年3月に第1回会合が開かれた。
○アジア・西太平洋地域を中心にした取組み
従来取組みが十分でなかった北極域及び赤道域での研究に関して、科学技術庁の「地球フロンティア研究システム」の下で研究協力を推進しており、平成9年度より米国との国際協力の下、アラスカ大学の国際北極圏研究センター(IARC)、ハワイ大学の国際太平洋研究センター(IPRC)において、観測活動を積極的に行う等地球変動予測に関する研究協力を進めている。また、政府間のアジア太平洋地球環境研究ネットワーク(APN)により、アジア太平洋地域での地球環境研究事業の支援が行われている。
○開発途上国への対応
開発途上国をフィールドとする観測研究の実施や環境保全技術等の成果の移転の観点から、上記の国際共同研究の枠組みや促進費、推進費等を活用して研究交流・協力を推進するとともに、これらを通じ開発途上国の調査・研究、技術運用のための教育・訓練を支援している。なお、政府開発援助(ODA)に関して、環境分野では当初の目標を上回る協力実績(予算等)となっている。