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 §3 基本計画策定後の情勢 


 (1)地球環境問題を巡る状況 

  基本計画が策定された1990年(平成2年)には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第一次評価報告書が公表され、温室効果ガスの増加による地球の温暖化が指摘された。それ以降、1992年(平成4年)に「環境と開発に関する国連会議(いわゆる「地球サミット」)」において、世界的な持続可能な開発を達成するための行動計画である「アジェンダ21」が採択されるとともに、「気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」への署名が行われ、森林の管理及び保全に関する「森林原則声明」が採択された。また「アジェンダ21」を受けて、1994年(平成6年)には「砂漠化対処条約」が採択された。1995年(平成7年)には、IPCC第二次評価報告書が公表され、人間活動の影響による地球温暖化が既に起こりつつあることが確認された。さらに、1997年(平成9年)12月には、地球温暖化防止を目指した「気候変動枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議:COP3)」において、温室効果ガスの排出量に関する具体的な数値目標が盛り込まれた「京都議定書」が採択された。この「京都議定書」の採択にいたる地球温暖化に関する政策決定の過程では、地球環境が人類生存にとって危険なレベルにあるのかどうかを知るために科学を動員し、危機を回避するための技術や社会システムはどのようなものでなくてはならないかが議論された。  

  一方、国内においては、1994年(平成6年)に環境保全に係る調査研究、観測・監視等の充実、適正な技術の振興等の推進の重要性が盛り込まれた「環境基本計画」が策定され、1999年(平成11年)4月には温室効果ガス排出削減のための「地球温暖化対策の推進に関する法律」が施行された。   このように、地球環境問題に対する国内外の社会的な関心の高まりは、政策レベルにおいて多くの出来事となって現れてきており、既に、地球科学技術は社会の意思決定とは無関係ではいられなくなってきている。  

  また、基本計画が策定された1990年以前において決定された、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」(1985年(昭和60年))、オゾン層破壊物質の生産削減等の規制措置を盛り込んだ「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(1987年(昭和62年))等に基づき、オゾン層破壊物質の代替物質の開発、普及、オゾン層破壊物質の分解技術の開発が進み、実際に社会システムの中に導入され有効に機能してきた。  

  平成10年に総理府が実施した「将来の科学技術に関する世論調査」では、科学技術の発達が今後生かされるべき分野として「地球環境や自然環境の保全」、「エネルギーの開発や有効利用」、「資源の開発や有効利用」等が最上位に挙げられており、地球科学技術による社会への貢献を望む国民の世論が大きい状況となっている。  

 (2)科学技術を巡る状況 

  1995年(平成7年)11月、科学技術の振興に関する施策の基本となる事項を定めた「科学技術基本法」が成立した。同法に基づき翌1996年(平成8年)7月には社会的・経済的ニーズに対応した研究開発等の強力な推進と基礎研究の積極的な振興等を基本方向に据えた「科学技術基本計画(閣議決定)」が定められた。これを踏まえて我が国は新たな研究システムの構築を目指すとともに、研究開発の厳正な評価を実施することが示された。これを受けて1997年(平成9年)8月、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針(内閣総理大臣決定)」が定められた。  

  本年4月に科学技術会議政策委員会がとりまとめた「科学技術基本計画のフォローアップについて(中間とりまとめ)」においては、1)国家的・社会的課題を如何に明確化し、そのための科学技術の目標を如何に分かりやすく設定し具体的な推進方策をたてるか、2)科学技術の基盤であり知的資産の拡充に貢献する基礎研究、競争力ある産業技術の育成に寄与する科学技術を如何にして世界水準に高めるか、が今後の課題であると指摘されている。  

 (3)地球科学技術に求められる方向 

  地球環境問題を巡る様々な状況の変化において、社会と地球科学技術の関係に新しい考え方や手法が提起されつつある。 

  例えば、現在とりまとめが進められているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第三次評価報告書(2001年公表予定)においては、現在の科学技術の発展の向こうにどのような社会があるのかを描くのではなく、まず将来の望ましい社会像を描き、それを実現するためにどのように科学技術を進めるべきかを考えるというアプローチがとられつつある。  

  また、地球環境問題に取組むにあたり、不確実な見通しのままで大きな社会変化を伴う意思決定を行う場合、危機を過大に評価すると社会経済的コストが発生し、過小に評価する場合には甚大な被害が発生すること、従って社会的な利益と危険性のバランスをとることの重要性についての認識が広まってきた。科学技術を動員しより確実な情報を得ることは、極めて大きな経済価値を持つことになる。地球科学技術は、人類や国、個人の安全保障という観点からは、価値ある情報を得るための極めて効率の良い投資と捉える考え方が広まりつつある。  

  産業界においては、1999年6月に経団連より「産学官共同プロジェクト構想」が内閣総理大臣に提案され、経済と環境を両立させる社会の実現を目指し、産学官連携により戦略的、計画的に推進すべき分野として環境分野を掲げている。その中では、資源循環型社会の推進、中長期的な地球温暖化対策の推進について、政府の積極的な取組みが提言されている。  

  こうした視点をも踏まえて、地球と人間社会の調和を目指して地球科学技術を推進することが必要となっている。すなわち、一般市民を含む政策決定者と専門家による社会的なリスクに関する対話を基に、自然科学の知見と人文・社会科学をどのように融合して政策につなげるか、国際的、地域的、分野的に分散して自主的に進められる性格を有する地球科学技術をどのように効果的に組織化するか、将来の望ましい社会像を念頭において地球科学技術推進の全体構成をどのように描くのか、といった課題に取組み、これを踏まえて、どう地球科学技術を構築するかを考えることが重要となっている。  

 (4)国民各層との連携・協力 

  地球環境問題への対応は、国民生活や産業のあり方に大きな変化をもたらしてきている。1999年(平成11年)4月に施行された「地球温暖化対策推進法」では、国、地方公共団体、事業者及び国民といった各主体が講ずべき措置に関する基本的事項を内容とする基本方針を閣議決定した。このような背景のもと、地球科学技術の推進においても、国や大学のみならず、地方公共団体、産業界、民間団体、国民といった各主体の参加・協力・連携が必要不可欠となってきている。  

  例えば、地球環境問題は地域に密着した問題があり、地方公共団体、民間団体等においては、地域の自然的・社会的条件等を踏まえた効果的な取組みが可能で、その成果を積み上げていくことが重要である。国民においては、地球環境に関し広く理解を深め、環境に優しい合理的な行動を選択し、様々な取組みに積極的に参加することが望まれるようになってきている。  

  また、産業界においては、すでに温室効果ガスの削減に向けた経団連環境自主行動計画の策定等、具体的な取組みが自主的に進められている。また、1996年には国際標準化機構(ISO)により、生産、サービス、経営に際して環境対応の立案、運用、点検、見直しといった環境管理・監査システムの国際規格である「ISO14000シリーズ」が制定され、我が国の産業界もこの規格に沿った取組みがはじまってる。特に、近年、地球環境問題の解決に向けて、経済的措置を活用したインセンティブ付与型施策の重要性が指摘されており、産業界の自主的な取組みを促進するとともに、競争力ある産業技術の育成に寄与する地球科学技術を如何に促進するかが重要となっている。     

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