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 第7回科学技術会議生命倫理委員会議事録 

  1. 日時      平成12年2月22日(火)    15:00〜17:00 

  2. 場所      科学技術庁第8会議室(通商産業省別館9階) 

  3. 出席者    (委  員) 井村委員長、位田委員、岡田委員、佐野委員 
                               高久委員、田中委員、永井委員、藤澤委員、町野委員、森岡委員 
                  (事務局)科学技術庁研究開発局長ほか 

  4. 議題 
          (1)ヒト胚研究小委員会報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する 
                基本的考え方(案)」について 
          (2)その他 

  5. 配付資料 

        資料  7−1  第6回生命倫理委員会議事録 
        資料  7−2  ヒト胚研究小委員会の検討経緯 
        資料  7−3  ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方(案) 
        資料  7−4  「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方(案)」の概要 
        資料  7−5  ヒト胚性幹(ES)細胞について 
        資料  7−6  クローン技術による人個体の産生等について 
        資料  7−7  ヒトゲノム研究小委員会の設置について 

  6. 議事 

    (井村委員長) 
      それでは、まだちょっとお見えにならない委員の先生もありますけれども、定刻を過ぎましたので、ただいまから第7回生命倫理委員会を開催させていただきます。 
      本年は非常に寒い日が長く続いておりますが、きょうも厳しい寒さの中をご出席いただきまして、大変ありがとうございました。 
      きょうはヒト胚研究小委員会の報告書(案)をご審議いただくということになろうと思いますが、どうぞよろしくお願いをいたします。 
      それでは、事務局から配付資料の確認をお願いします。 

    (事務局) 
      それでは、確認申し上げます。 
      1枚目に議事次第の紙がございます。資料7−1といたしまして、前回、第6回の議事録でございます。資料7−2といたしまして、ヒト胚研究小委員会の検討経緯をまとめた1枚紙でございます。7−3でございますが、現在、一般に意見を公募してございますヒト胚研究小委員会の報告の案でございます。資料7−4、横書きでございますが、事務局、科学技術庁のほうでまとめました報告案の概要でございます。資料7−5が技術について説明をした絵でございます。7−6は、前回、12月に科学技術会議生命倫理委員会で決定した文章でございます。参考までにつけてございます。7−7がヒトゲノム研究小委員会の設置についてという、メンバーリストを添付した紙でございます。それから、資料番号は振ってございませんが、新聞記事をまとめたものが2つございます。1つは今回のヒト胚研究小委員会の報告案の発表に伴って出された新聞記事でございます。いま一つは、その前のクローンの段階のものでございますが、社説を中心に幾つかまとめてございます。 
      以上でございます。 

    (井村委員長) 
      それでは、前回の議事録につきましては、もし訂正がありましたら、終了後に事務局までご連絡をいただきたいと思います。 
      早速、議事に入りたいと思います。 
      既に先生方、報道等でご存じだと思いますが、ヒト胚研究小委員会が最近報告書をまとめていただきました。そこで本日は、まずその内容について説明を受け、その後、ご自由に意見を述べていただきたいというふうに考えます。 
      まず、ヒト胚研究小委員会の委員長を務めていただいた岡田委員から、内容の簡単な紹介をしていただきます。その後、事務局から説明をしていただきます。 
      では、岡田先生。 

    (岡田委員) 
      それでは、ヒト胚研究小委員会の今までのあらましをご報告いたします。 
      ヒト胚研究小委員会は、平成10年11月のアメリカにおけるヒト胚性幹細胞の樹立の報告を踏まえまして、生命倫理委員会からの付託によって、ヒト胚性幹細胞をはじめとするヒト胚研究につきまして、生命倫理の側面から議論を行ってまいりました。また、昨年12月の生命倫理委員会の決定を受けまして、ヒトのクローン胚の取り扱いについても議論を行いました。お手元にお配りしてあります資料の7−2にありますように、平成11年2月以来、約1年にわたりまして、13回の討論を重ねてきたわけであります。ヒト胚性幹細胞の樹立によりまして、ヒト胚の研究利用がこれまでの生命医療の分野から広がりまして、これを契機に議論を始めたわけでありますが、ヒトの胚という人間になり得るものを研究利用してもよいのか。許される場合には、どのような条件であろうかというような議論が行われました。その結果、ヒトの胚性幹細胞の樹立という医療への応用が期待されるものにつきましては、非常に厳しい規制の枠組みのもとでありますけれども、研究を認めていくという結論が得られました。また、ヒトクローン胚等につきましては、ヒトクローン個体の産生につながり得ることから、原則として禁止されるべきでありますけれども、医療などに非常に有用な研究のみ、個別の審査で認める余地を残すべきという結論が得られました。現在、この報告書(案)を公表いたしまして、広く関係学会、有識者、一般国民などから意見を求めているところであります。 
      これが大体の経緯でありまして、詳細については事務局のほうからお願いしたいと思います。 

    (井村委員長) 
      それでは、事務局のほうから追加の説明をしてください。 

    (事務局) 
      それでは、ご説明申し上げます。 
      資料7−3と7−4を用意してございますが、主として資料7−4に簡略にまとめてございますので、そちらを中心にご説明申し上げたいと思います。 
      まず、今回の報告の案の構成でございますが、1ページ目に書いてございます。第1章といたしまして、ヒト胚研究をめぐる動向を俯瞰してございます。その上で、第2章といたしまして、ヒト胚の研究利用に関する基本的考え方、第3章でヒト胚性幹細胞についての検討、第4章でヒトクローン胚などの取り扱いについて検討してございます。第5章で情報公開などをまとめてございまして、第6章に、今後検討すべき課題をまとめてございます。 
      まず、ヒト胚研究をめぐる動向でございますが、ヒト胚研究自体は、まず昭和53年の体外受精の成功、これによりまして、従来、不妊の方々に新生児を産み出すことを可能にすこととともに、その結果出てまいります余剰胚と呼ばれます、不妊治療に使用されないヒト胚が出てまいりました。それを使って研究ということが進められつつあるわけでございますが、我が国におきましては、現状、産科婦人科学会の会告によりますガイドラインといいますか、学会のガイドラインがございます。その中で、精子、卵子、受精卵を取り扱う研究に関しては学会に登録の報告を行うことになってございますが、昭和60年度から平成11年度までに合わせて100件ほど研究が登録されてございます。 
      そのような中、2ページにございますような、ヒト胚性幹細胞の樹立が報告されてございます。平成10年の11月に、アメリカのウィスコンシン州立大学において発表されてございますが、この下に絵がかいてございます。受精卵から受精後5日から7日程度の胚盤胞と呼ばれる時期でございますが、その際の胚の中にあります細胞、これを培養いたします。それで、その中から変化しないまま分裂し続ける細胞を選びまして、これがES細胞(ヒト胚性幹細胞)として樹立と呼んでいますが、分離され、継代的に培養されていくものになるというものでございます。 
      このES細胞、以下、「ES細胞」と言わせていただきますが、3ページにございますように、特徴的なものが2つございます。1つは体を構成するあらゆる細胞に変化することができると言われております。ただし、人の個体そのもの、人そのものを、このES細胞だけでつくり出すことはできないと言われてございます。 
      「不死性」と書いてございますが、何回でも分裂できるものでございます。通常の細胞はある程度の分裂を繰り返しますと、それ以上分裂できなくなって死んでしまいますが、ES細胞については何回でも分裂できるという特徴を持ってございます。 
      これについて、さまざまな応用が考えられまして、まず「移植医療用の細胞、組織等の作成」というものが挙げられてございますが、お手元にお配りしてございます資料7−5に、もう少し大きな絵で、幾つか説明してございます。 
      この胚の中から得られますES細胞、こちらをある条件のもと培養する、あるいはある条件を付すなどすることによりまして、分化させることができます。こちらにございますのは、例えば、脳の神経細胞、肺の細胞、筋肉の細胞、心臓の細胞、あるいは血液の細胞、いろんな細胞に分化させることができまして、そこからさまざまな組織につながっていくというものでございます。 
      参考といたしまして、この下のほうにマウスにおける研究が書いてございますが、太字で書いてあるところが既に可能になっている経路でございます。例えば、ドーパミンを生産するニューロン、これがうまく人で産生できるようになりますと、パーキンソン病への対応として使うことができるようになってくるかと思います。また、心筋細胞、こちらがヒトにおいて得られますと、心筋梗塞、心筋症といったものへの対応、あるいはグリア細胞、さらに人工血管のための血管内皮細胞、あるいは骨、血液の幹細胞、皮膚の細胞等々、既にマウスではかなりの分化をさせることに成功してございます。こちらを用いますことによりまして、移植医療用の細胞組織等を作成することができる。さらには、将来的には、例えば臓器といったものも可能になるかもしれないと。3ページに書いてございますが、「動物個体の中にヒトの臓器と同じものを作成する方法」というふうに書いてございますが、動物の体を使い、ヒト由来の組織を育てるというような研究もあり得ると考えております。さらに、ヒトを対象とした発生・分化等の生命かかるの基礎研究、医薬品の効果の判定、毒性試験などへの応用といったものが挙げられると思います。 
      4ページにも同様の絵がかいてございます。横書きのものでございますが。これがES細胞の研究の可能性でございます。 
      いま一つ、ヒト胚関連ではクローン胚、こちらはクローン小委員会の議論でかなり出てきておりますので詳細は割愛させていただきますが、クローンの個体を産生することに成功し、同時にクローン胚というものが脚光を浴びてきてございます。これにつきましては、1つの応用の可能性といたしまして、クローン胚と今申し上げたES細胞の技術とを組み合わせることが考えられます。具体的には、資料7−5、縦書きの絵のほうの4ページに書いてございますが、ある人の体細胞を取り出しまして、それを除核卵、未受精卵の核を除いたところに移植してクローン胚が得られます。それを培養し、ES細胞を分離することができましたら、この細胞を提供したある人と全く同じ遺伝的特徴を持つ細胞をつくることができます。これによりまして免疫拒絶を起こさない細胞組織を得るという、そういう技術も可能になってくると考えられます。 
      また、特徴的なものといたしましては、同じ絵の資料のほうの9ページでございますが、細胞質に存在するミトコンドリア異常を原因とする疾病の発症を予防する、こういった研究というものも考えられます。これは、今の申し上げたクローン胚とかESのように、既にいる人の細胞ではなくて、新たに得られた受精卵の核を移植する技術でございますが、先天的にミトコンドリアの異常を持っている受精卵から出産に至りますと、そのお子さんがなかなか育つことができない、重篤な病気になるというようなことがございます。それに対しまして、その核、この中心の核の部分は正常でございますので、その核の部分を、このミトコンドリアというエネルギーを生産する部分、この小さいぽつぽつがそうでございますが、その部分はほかの人の卵を使うと。その核を正常な方の卵に移植することによって、こういった病気への治療といったものも考えられるという。現段階の技術ではございませんが、そういった可能性があるというものでございます。 
      また、横長の資料に戻っていただきますと、そのほかに、先ほどのES細胞を用いて、動物の胚と組み合わせることによりまして、動物の個体の中にヒトの臓器と同じものを作成し、それを医療に用いるというような可能性も考えられます。こういったことから、クローン胚においても、可能性として、応用のようなものがあるというところでございます。 
      同じ横長の資料の6ページは割愛させていただきまして、資料の7ページでございます。こちらにヒト胚研究についての各国の対応を表にまとめてございます。かなり簡単にしてございますので、若干正確さを欠くところはございますが。 
      イギリスにおいては、ヒトの受精・胚研究法によりまして、ヒト胚研究一般許可制になってございます。今ご紹介いたしましたようなES細胞の樹立につきましては、許可される研究の目的の中には含まれておりませんので、実態上、禁止されているというものでございます。また、ヒトクローン胚の作成も同様の禁止となってございますが、倫理委員会レベルの報告といたしまして、治療のためのES細胞の樹立ですとか、ミトコンドリア異常症の治療のためのクローン胚の作成、こういったものについては認めてもよいのではないかという報告が出されてございます。 
      フランスにつきましては、生命倫理法によりまして、生殖医療全般を規制する中で、ヒト胚の研究は原則禁止、観察する研究のみ許可によりできる形になってございます。したがいまして、ES細胞、クローン胚とも禁止でございますが、昨年の11月に国務院の報告が出ておりまして、ヒト胚性幹細胞樹立のためのヒト胚研究、これについては認める方向で議論がなされ、今、法律の改正が作業中と聞いてございます。 
      ドイツについては、やはり生殖補助全般を規制する胚保護法がございまして、この中でヒトの胚に関する研究はすべて禁止されております。今のところ見直しの計画はございません。 
      アメリカにつきましては、具体的に、民間も含めて、すべてを規制するような、国レベル、連邦レベルの法律はございませんが、予算の支出に関連する法律をもちまして、国の予算、連邦の予算については、ヒトの胚の研究には使えないということでございます。したがいまして、ES細胞の樹立ですとか、ヒトクローン胚の作成といったものもできないということになってございます。ただ、大統領諮問委員会の報告が昨年9月に出されてございまして、ES細胞の樹立に連邦の資金を支出することを認めるべきとの方向が出てございます。またNIHにおきましては、現在の法律の枠組みの中という限定でございますので、ES細胞の樹立をすることは認めませんが、既に民間において樹立されたES細胞を使う研究は認めるというようなガイドラインの案でございますが、出されております。 
      日本につきましては、先ほど申し上げたとおり、学会の会告がございます。それで、ヒト胚研究小委員会においてES細胞の樹立、それから12月の生命倫理委員会での議論を踏まえましたクローン胚の作成に関する考え方といったものについて取りまとめておるところでございます。 
      8ページでございますが、ヒト胚研究に関する基本的考え方について、報告書の第2章において、簡単にまとめてございます。ヒト胚研究小委員会では、このES細胞の樹立を契機として、ES細胞の樹立について、いろいろ問題点を議論してきたわけでございますが、その過程で、どうしても破壊されてしまうヒト胚。そのヒト胚を果たして研究に使っていいものかどうか、そういった議論が出てまいりました。その中で、ヒト胚の位置づけですとか、ヒト胚の研究利用に関する考え方について、一定の議論をして、ここにまとめてございます。 
      まず、ヒト胚の位置づけでございますが、体外受精の結果得られ、子宮に移植される前のヒト胚は、一たび子宮に着床すれば成長してヒトになり得るものであり、ヒトの生命の萌芽としての意味を持つ。ただ、命そのものということではなかろうということでございます。したがって、ヒトのほかの細胞と、例えば、ヒトの体の細胞などとは異なりまして、倫理的に尊重されるべきものであり、慎重に取り扱う必要があるというのが基本的な位置づけでございます。 
      その中で、研究利用に関する基本的な考え方でございますが、このヒトの命の萌芽として尊重されるべきという要請を考慮しつつ、医療や科学技術の進展に重要な成果を生み出す場合には、適切な規制の枠組みのもとで、一定の範囲で許容され得るのではないかといいますのが、ヒト胚研究に関する基本的な考え方でございます。 
      では、その際の適切な規制の枠組み、その一定の範囲といったものはどういうものかということについて議論がされてございまして、次の9ページに、遵守すべき事項としてまとめてございます。 
      まず、研究材料として使用するために、新たに受精によるヒト胚を作成しないこと。ヒトの胚というのは、やはり生命を産み出すために得られるべきものであり、研究目的でつくり、それを破壊するといったようなことは慎むべきであろうという考え方でございます。2点目といたしましては、研究目的でどのような胚を使うかということでございますが、体外受精の結果得られまして、既に治療行為が終了しているなどの状況から、廃棄する、この胚を捨てるということが、意思決定が既に行われているというものについて使うべきであろうということでございます。その際でございますが、3)でございますが、ヒト胚の提供に関して、提供されるドナーの方が事前に研究目的と利用方法等の十分な説明を受けてい理解した上で、自由な意思決定により提供に同意するということが必要だろうということでございます。また、ヒト胚の提供、授受、すべて無償で行われること。売買してはいけないという考え方でございます。5点目といたしまして、提供者の個人情報が厳重に保護されるということ。6点目といたしまして、この生命の萌芽たるヒト胚を用いるに足る十分な科学的な必要性と妥当性が認められるべきだということでございまして、この点につきましては7)でございますが、ヒト胚を扱う研究計画の科学的・倫理的妥当性について、第三者的な立場を含めて、研究実施機関において十分な検討が行われるとともに、国または研究実施機関外の組織、研究実施機関外において確認を受けるという慎重な検討をすべきだということを指摘してございます。8点目といたしましては、情報公開のことにつきまして指摘してございます。こういった点を考慮して、ヒト胚研究のあり方について検討していくことが必要でありまして、特にこのヒト胚小委員会の報告案の中では、これらを総合的に配慮し、ヒト胚性幹細胞樹立に関する考え方を取りまとめてございます。また、ここに示した考え方というものは、現在行われております生殖医学発展のための基礎的研究、あるいは不妊症の診断、治療の進歩に貢献するという、ヒト胚研究においても遵守されるべきだということをし指摘してございます。例えば、7)にありますような、外部、研究実施機関外の組織による確認といったものは、現在のところ行われずに、産科婦人科学会への登録だけでヒト胚研究が行われておりますので、そういった点について、今後、こういった考え方を配慮してほしいということが指摘されてございます。 
      その上で、ヒト胚性幹細胞についての考え方を、第3章以降でまとめてございます。お手元の資料の10ページからでございますが。 
      基本的考え方といたしまして、ES細胞の樹立自体は、先ほどのヒトの生命の萌芽としてのヒト胚、こちらを用いるという点から、慎重に行わなくてはならないということでございます。 
      ES細胞の使用でございますが、このES細胞自体は培養される細胞でございますが、そもそもヒトの胚から樹立されるという、そういう由来ということ、また全能性を持つ、いろんな細胞に変化できるということ、こういったことから慎重な配慮が必要であると、乱用を防ぐ必要があるという考え方でございます。 
      具体的な規制の形態についてでございますが、結論といたしましては、研究者の自主性や倫理性を尊重した柔軟な規制を行うことが望ましいとしてございますが、まずES細胞自体では個体産生に至らないこと、また、その材料として用いられますヒト胚についても、それ自体について刑法的な保護もなされていないというようなこと。それから個体産生に至らないといった問題、ヒト胚そのものの保護の観点といったことから、クローンの個体の産生とは異なりまして、弊害から見て、法規制が不可欠なものではないと。その上で、このES細胞の研究につきましては、まだ緒についたばかりで、始まったばかりでございまして、どのような研究がこれから進むかも、なかなか予測できない点もありますので、法律による規制というよりも、ガイドラインによる柔軟な規制のほうが望ましいのではないかという考え方でございます。また、この分野は非常に発展が早いものですから、規制の見直しといったものは、常に行われるべきであろうということは示されてございます。 
      その上で、ヒト胚を用いて、ヒトのES細胞を樹立する要件をまとめてございますが、このヒト胚小委員会の議論は、まずES細胞を樹立するということから始まったわけではございませんで、果たして樹立してよいのかどうかといった点も随分議論になりました。その中で、具体的に枠組みの案をつくってみて、ほんとうにそれが倫理的に問題がないことを担保できるようなものになるかどうかということを見ながら検討してまいりまして、最終的に、このような枠組みであればヒト胚の乱用は避けられるだろうという考え方から、以下に示すような要件といったものが得られてございます。 
      まず、樹立に用いることが可能なヒト胚の由来でございますが、不妊治療の余剰胚に限定するという考えでございます。樹立のために新たに胚を作成することは認めないと。ヒトのクローン胚を用いたES細胞につきましては、確かに医療への応用という面からは一番有効と考えられる手段でございますが、そもそもクローン胚というものがクローン個体につながるような、慎重に扱うべきものであるということ、また、クローン胚をつくり滅するということは、研究目的でヒトの胚、もしくはヒトの胚に準ずるようなものをつくることと同じような意味を持つということから、まずこの不妊治療の余剰胚でES細胞を樹立し、その実績を見て、その是非を再検討すべきだというふうにまとめてございます。 
      また、ヒト胚を使用する際の留意点を条件として挙げてございまして、凍結期間を除き、受精後14日以内のヒト胚を使用と。一定の歯どめをかけるという意味でございます。2点目といたしましては、凍結保存胚であること。現在、不妊治療の現場において、たまたま多く女性の体から卵が得られた場合など、それを受精させて、一たん凍結し、後の治療に用いるというようなことが行われてございますが、そのうち、もう不妊治療に使われなくなったものを用いると。この考え方は適切な手続き、例えばインフォームドコンセントをとること、またその確認といったものに十分な時間をかけるためには、凍結保存胚であることが必要であろうという考え方でございます。3点目といたしまして、ヒト胚の提供の対価が無償であること。4点目といたしまして、必要な数以上のヒト胚の提供を受けてはいけないということ。5点目といたしましては、提供されたヒト胚というのは、樹立計画に遅滞なく用いると。この趣旨は、樹立機関において不必要にヒト胚を保管することがないようにという配慮でございます。6点目といたしましては、インフォームドコンセントが適切に得られ、その内容に合致した研究であるということ。7点目といたしまして、提供機関から適切な手続きを経て提供されたヒト胚であるということを挙げてございます。 
      その上で、12ページでございますが、このようなヒト胚を用いるにしても、そもそもヒトのES細胞を樹立する必要性は十分なくてはならないと。したがいまして、既に必要なES細胞の供給が行われている場合には、研究者の関心として、自分はES細胞を樹立したいという意見があったとしても、それを認めるべきではなかろうという考え方でございます。また、単に樹立するというよりも、具体的にどういう形でES細胞を用いていくかということもあわせて提示されていることが必要であろうということでございます。また、ヒト胚の乱用を避けるための厳格な要件を満たす樹立機関における樹立。ES細胞の樹立に関する手続きの遵守といったことを掲げてございます。 
      それにつきましては、まず次のページのインフォームドコンセントのところから説明させていただきたいと思いますが、同時に、その研究の流れをちょっとごらんいただいたほうがわかりやすいかと思いますが。 
      この資料7−3の報告本体の21ページをごらんいただけますでしょうか。「ヒトES細胞の樹立に関する審査手続き」というものがございます。この中で幾つか、このES細胞の樹立に関するプレイヤーといいますか主体が書いてございまして、実際に樹立をするのは、この「樹立機関」という四角で囲まれた部分でございます。ここがヒト胚をいただいて、ES細胞をつくるということをしていきます。そこに対して、このヒト胚を提供するのは「ヒト胚提供機関」と下に書いてございますが、これは不妊治療を行っている産科婦人科のクリニックといいますか、病院がここに当たります。このヒト胚の提供機関から樹立機関が胚をいただいて、研究をしていくわけですが、それに際しての具体的な手続き並びにインフォームドコンセントをどのようにとっていくかということが書かれてございまして、横書きの資料の13ページに、まずインフォームドコンセントのあり方が書いてございます。ここはかなり実際に治療を受けている患者の方と医師の間との一種の力関係など、いろいろ考えて、ヒト胚の提供が自由意思で行われるということを確保するためにも慎重な検討をしてございます。 
      まず、樹立しようとする研究機関、樹立機関が、こちらが計画を立てまして、その機関だけではなく、外部の方も入れた審査委員会において、その樹立計画の妥当性をチェックすることになります。そこで樹立計画が妥当と考えられますと、今度は医療機関内。この下にございますヒト胚の提供機関でございますが、医療機関として、このような樹立計画に自分たちは協力するかどうかといった検討をします。それでオーケーが出ますと、国に対して樹立計画の申請、国の確認といったものが行われまして、国レベルで、このES細胞の樹立計画に問題がないということになりまして初めて、ドナーの候補者に対して不妊治療の結果使われなくなった余剰胚を提供いただけるかどうかという説明文書と同意書の手渡しが行われます。十分な説明をした上で、ドナーの同意が得られますと、まず、この一連の同意までの手続きといいますのは、樹立機関の研究者が説明等を行いますが、まず医療機関としてインフォームドコンセントの確認をいたします。それは審査委員会も含めて確認いたします。この医療機関から樹立機関、実際に研究を行う機関に対してインフォームドコンセントを取得、確認したということを報告し、この樹立機関から国に対して、そのインフォームドコンセント取得確認の報告があるという手続きを経て初めて、実際にES細胞の樹立の研究に入れるというものでございます。 
      また、この下の部分でございます。説明方法のところでございますが、不妊治療の担当医が、このES細胞の樹立に関して説明を申しますと、治療行為との混同を招く、あるいは担当医の説明が非常に大きな影響を与えるということから、説明自体は担当医、主治医ではなく、実際に研究を行う機関から説明者が来て行うということを考えてございます。 
      その上で、次の14ページでございますが、ヒト胚提供におけるインフォームドコンセント等のあり方の説明事項といたしまして、どういう内容を説明するかということも慎重に検討してございます。 
      研究の目的、方法、予期される利用法。あるいは提供された胚は樹立の過程で壊されてしまうということ。また、ドナーの個人情報は、この提供された胚を樹立機関に移行する際には一切附属せずに、プライバシーの保護は確立されるということでございます。 
      この点につきましては、研究者サイドから、例えばドナーの病歴といったようなものについて情報があったほうがいいというご意見もありましたが、ドナーのプライバシーを保護するために、一切の情報をつけずに樹立機関に渡すという結論を得てございます。ただ、そのかわり、樹立されたES細胞については遺伝子解析を行う場合がある。それはただドナーの個人の遺伝子情報を知るためのものではないということ、こういった説明を十分することになってございます。また、研究結果はドナー個人に知らされることはなく、樹立されたES細胞は長期にわたって維持、使用される可能性があることも説明をします。また、その結果といたしまして、医療上有用な成果が得られた場合、その成果から利潤が発生する可能性。例えば、移植用の人工的な細胞といいますか、そういった移植用の皮膚が商品化されるというようなこともあるかと思います。そういった利潤が発生することがあると。ただし、この胚の提供というものは無報酬であり、また、こういった利潤が発生したとしても、将来に渡ってもドナーは報酬を受けることはないということでございます。さらに、ヒト胚のドナーが特定可能な状態で提供機関に保存されている間は同意の取り消しが可能であり、最低限1カ月、その期間を持つということも取り上げられてございます。 
      以上がインフォームドコンセントに関する手続きでございまして、次のページ、15ページでは、実際に研究をやれる機関はどのようなものかというものを、要件を示してございます。 
      まず、ある程度、ES細胞樹立に関する管理を徹底するという観点から、樹立を行う機関を絞りましょうと、数機関を目途にしましょうということがうたわれてございます。その上で、研究機関内での樹立体制、審査体制をきちんと確保するということで、十分な人員、設備、予算等を有すること、外部の有識者も含めた審査委員会を設置するということ、技術的及び倫理的な事項を含めた規程を整備するといったことが挙げられてございます。それから、透明性の確保を図るということ。 
      また、大きな特徴といたしまして、樹立機関としての公的な役割というものがございます。これは樹立機関を数機関に絞るということから出てくる問題でもございますが、樹立機関の判断で独自に得られたES細胞を分配することはなく、あくまでES細胞使用研究の要件を満たした使用機関。後ほどご紹介しますが、当面の間は国による2段階の審査を経た機関に限られます。そこに対して実費を除き無償で提供するということが挙げられてございます。ES細胞を管理するという観点から、登録制度等の管理体制、データベースなどを備える。運用していく力があるということ。また、記録を保存し、国に定期的に報告するということ。樹立されたES細胞については、そもそも提供されるヒト胚が無償であることから、当然、売買等の禁止ということも掲げてございます。 
      また、ちょっとわかりにくいところでございますが、「寄託された改変ES細胞」と書いてございますが、ES細胞を扱う研究をした結果、よりよいといいますか、使いやすいES細胞が得られた場合などは、これは樹立機関において、リソースバンクといいますか、そういう細胞を配っていく役割として、それを管理・分配していくというものでございます。また、立ち入り検査等を任意で認めることによりまして、国の確認等を受けることを認めるということも条件として必要であろうと書いてございます。 
      さらに要件が続きまして、ヒト胚の提供者のプライバシーを保護するための手続きがとられるということ。次の点といたしまして、ES細胞の樹立過程の研究を行うことを望む研究者等の要望に応じ、樹立研究や使用研究のための研究スペースの提供や共同研究の機会の提供を行うこと。これは樹立機関の数を限ることから、その機関以外で研究をやりたい方が研究をできるようにという配慮でございます。 
      また、先ほどの絵にもございましたヒト胚を提供する医療機関、こちらについても要件を付加してございまして、十分な実績と能力のある医療機関であるということ。審査委員会がきちんと存在し、樹立計画を承認するというようなことを条件として示してございます。 
      次のページで、樹立に関する手続きが書いてございますが、先ほど報告書でごらんいただいた大きな絵と同じでございますが、まず樹立計画について樹立機関の中で審査を行い、それを外部の方も入れた審査委員会にかけると。それについてオーケーが出れば、国に対して樹立計画の妥当性の確認を求めていただく。国は専門の委員会に対して意見を求めまして、それでオーケーとなりますと、国から樹立機関に対して研究着手ができるという通知を出すと。こういう形で機関内における審査、さらには国における審査という2段階の審査を行うということが必要であると指摘してございます。 
      18ページでございますが、こちらからは、今のような厳しい手続きをもって樹立されたES細胞について、どういう研究ができるかというものでございます。 
      まず、研究の目的の限定といたしまして、ヒトの発生、分化、再生機能等の解明を目的とした生命科学の基礎的研究、あるいは新しい診断法や治療法の開発、医薬品開発のための医学研究と、こういったものに限定すべきだろうということでございます。 
      ES細胞自体は臨床応用というものは将来的には期待されておるのでございますが、このヒト胚研究小委員会では、あくまで倫理面からの検討を行ったものでございますので、安全性等の点につきましては、臨床利用についての基準が定められるまで、当面臨床研究は行わないということを明示してございます。 
      また、ヒトのES細胞を使うに当たりましては、動物のES細胞やヒトの組織の細胞などで研究が十分に行われているということで、ヒトES細胞を利用することに合理性があるものに限るべきだということも指摘してございます。 
      さらに、19ページでございますが、禁止事項として、特に倫理的に問題となる禁止事項を挙げてございます。 
      1点目といたしましては、ヒトのES細胞から個体を発生させる研究。最近、マウスのES細胞を使って個体を発生させたという報道がなされてございましたが、こういったものをヒトでやることについて禁止をするということでございます。それから、2)と3)は、それぞれ着床前のヒト胚、あるいはヒトの胎児、着床後の胎児へのES細胞の導入でございまして、これは本来、1対の遺伝子を持って生まれてくるヒトに対して、別なES細胞、別な細胞を合わせるというか、混合されたヒトを生み出すことになりますので、これらのことを禁止しましょうというものでございます。4)といたしましては、ヒトのES細胞を導入した着床前の動物胚からの個体産生でございます。これにつきましては、将来的には先ほどの臓器の産生のような、ヒトに移植可能な臓器を産生するようなことも考えられるのでございますが、今の時点では、十分に、どの部分がヒトになるかということの制御は難しいということから、個体の産生は禁止しましょうという考え方でございます。着床前の動物胚、胚の段階にとどまるものについても、今の段階で直ちにやれるものではないということが指摘されてございます。また、動物の成体、親になったもの、あるいは胎仔、胎児でございますが、これについてES細胞を導入することは、研究上有用であれば認められますが、特に慎重な検査を行っていく必要があると指摘してございます。 
      また、ES細胞の管理を徹底するために、以下の要件を満たすことが必要としてございまして、ES細胞は樹立機関により供給されるものであること、輸入されたES細胞については個別に検討するということ、またES細胞の再配布を行わないということを指摘してございます。これは樹立機関を限ったとしても、研究に使ったところから次から次へと配られますと際限なく広がるということから、樹立機関からの配布に限るという考え方でございます。 
      20ページでございますが、ES細胞を使用する研究についての要件を示してございます。成果の取り扱いがまずございまして、ES細胞と同様の全能性を持つもの。例えば、ES細胞にある特殊な遺伝子を導入することによりまして、ある特定の光を当てれば発光すると、蛍光色を出すというようなES細胞をつくることができますが、そういったものについて、ES細胞を使った機関から再配布することを禁止しましょうと。それはES細胞の樹立機関に寄託し、その樹立機関が一元的に管理をしていくという考え方でございます。 
      他方、ES細胞を分化などさせて得られた細胞・組織。例えば、移植用の皮膚の細胞を分化させる、あるいは人工の心臓の筋肉の細胞を分化させる。それを移植用に培養していくといったようなものが考えられますが、そういったものについては再配布、産業利用については、ES細胞の樹立・配布の基本方針に照らして個別に検討していくという考え方でございます。組織・細胞によりましては、ある程度商業化して、非常に品質のいいものを多くの方に供給することによって本来の趣旨が全うされることもあるかと思いますし、そういったメリットと、そもそもいただいたヒトの胚が無償で善意で提供されたものということをよくかんがみて検討すべきだという考え方でございます。また、研究の成果により得られた知見等を産業上利用する行為。薬の開発を行うとか、そういったことについては、特に制限を設ける必要はないだろうということでございます。 
      使用機関につきましては、次の「・」でございますが、ES細胞の管理を徹底するための要件といたしまして、研究体制や審査体制を確保するということ。また、手続きといたしましても、研究機関の審査と国による審査について確認手続きをとっていくというものでございます。これにつきましては、研究が積み重ねられまして、類型化されたものがあれば、将来的には見直すこともあるかと思いますが、あくまで現段階ではすべて国によるチェックを受けていきましょうというものでございます。 
      以上でES細胞の部分がございまして、次のページが第4章、クローン胚の扱いがございます。 
      クローン胚の扱いにつきましては、前回の生命倫理委員会の決定、資料7−6に添付してございますが、この2枚紙で、クローン技術によるヒト個体の産生、特に成体からの体細胞の核移植、これによって個体産生をすることは禁止しましょうと。また、キメラやハイブリッドによる個体産生も禁止しましょうということを決定いたしましたが、それとあわせまして、個体の産生を目的としない研究の扱い、こちらについてヒト胚研究小委員会の結果を踏まえて、あわせて規制の枠組みを整備していくことが必要だという指摘をしてございまして、こちらを踏まえ、研究の枠組みについて検討してきたものでございます。 
      次の22ページでございますが、ヒトクローン胚等の取り扱いについての基本的な考え方でございますが、このクローン胚などにつきましては、母体に移植しますとヒトクローン個体などにつながる可能性があること、ヒト胚の操作につながるというようなことから原則禁止すべきであろうという考え方でございます。ただし、科学的な必要性、医学的な重要な成果が得られるというような場合に限りまして、個別の審査、この研究を行う機関と国との二重審査で妥当性を判断する余地を残すという考え方でございます。現段階で個別の審査の結果認められる可能性があるものとして、ヒトクローン胚、キメラ胚、それぞれ書いてございますが、次のページに、事務局で整理した、文章だけだとわかりにくいものですから、これはヒト胚小委員会での議論に用いた、きょうは少し簡略化したものでございますが、クローン胚の場合、キメラ胚の場合、それぞれどういった場合が考えられるかというものを示してございます。 
      ヒトの成体の体細胞の核を移植して得られるヒトクローン胚につきましては、ES細胞の樹立に向けた核の初期化のプロセスの研究など、こういったものが考えられるだろうということでございます。ただし、ES細胞の樹立自体は当面禁止するということでございまして、あくまでその全段階としての核の初期化のプロセスの研究に限ると。しかも、当面はヒトの卵を使わずに動物の卵を使って研究をしていくべきだろうということが指摘されてございます。特に、このヒトの成体の体細胞の核移植をし、それを母体に移植、女性の子宮に戻す、あるいは動物の子宮に戻すというようなことをした場合には、個体を産生するということで、罰則を伴う法律で禁止をするというものでございます。初期胚、受精からしばらくまでの間の初期胚につきましては、ミトコンドリア異常症の発症予防などのための研究といったものが考えられるということでございます。これは将来的には個体の産生というものも考え得るということも含めて、ガイドラインでの全面禁止ということに個体産生がなってございます。 
      22ページはキメラ胚の扱いでございますが、ヒトと動物の特性をあわせ持つようなキメラ胚、細胞をまぜた胚でございますが、これについて、ヒトの胚に動物の細胞、動物の胚、動物の組織等を入れるものにつきましては、具体的有用性が想定されないため全面禁止にし、母体への移植は法律で禁止するというものでございます。一方、下の段でございますが、動物の胚にヒトの胚性幹細胞を入れると、導入するというようなもの。これは原則禁止されるべきでございますが、個別審査によって判断する余地を残すというものでございます。具体的には、移植用臓器などの作成について研究をするということが考えられるということでございます。ただ、これは今の段階ではまだヒトの胚性幹細胞を使うというよりも、もう少し前のヒトの普通の組織の細胞、あるいは組織の幹細胞といったものを使うことが必要だろうということもあわせて指摘されてございます。 
      母体への移植につきましては、ヒトの胚に動物の細胞を入れるものは全面禁止、動物の胚にヒトの細胞を入れるものについては当面全面禁止でございまして、ガイドラインで禁止をするという考え方を示してございます。 
      これはクローン、キメラについての基本的な考え方と、具体的に研究が考えられるものについての整理でございまして、23ページでは規制の考え方を示してございますが。まず基本は、ES細胞の樹立と同様の厳格な審査、研究機関による審査と国による審査の二重審査により実施の妥当性を個別に判断すべきだと。原則禁止の中で、例外的なものはこういう形で審査できると、判断すべきだという考え方でございます。同時に、クローン胚の取り扱いが、禁止すべきクローン個体等の産生と密接に関連することから、法律に一連の手続きとして位置づけていく必要があるということでございまして、国がクローン胚の扱いについての指針を明示するということ。適切なクローン胚の扱いから逸脱するようなもの、指針違反があるような場合については、国として必要な是正措置を講じることができるわけでございます。これはガイドラインによる規制ではあっても、一定の強制力を法律に組み込むことによって持たせようという考え方でございます。 
      24ページに個別審査の考え方がございますが、個別、それぞれ具体的に検討していくことがございますが、特に注意すべき点といたしまして、個体の産生の禁止、研究の必要性・妥当性、ほんとうにそういったクローン胚、キメラ胚といったようなものをつくる必要があるのかどうかと、あるいは胚の特徴に応じた研究期間の制限、インフォームドコンセントの適切な取得、プライバシーの保護、商業的な利益、クローン胚等による商売の禁止といったものが必要だろうと考えてございます。以上がクローン胚、キメラ胚と、あわせましてハイブリッド胚、ヒトと動物の精子・卵子のかけ合わせについても同様な考え方でございます。 
      第5章で情報公開の点について記述してございまして、ヒト胚を取り扱う研究の実施に当たっては、情報を公開し、研究の透明性を確保することにより、国民の理解を得ていく努力が必要であるということ。そのため研究者自身、あるいは国は研究の独創性や知的所有権に配慮しつつも、研究の実施状況や成果、応用事例の積極的な公開に努めることが望ましいということ。国際的な情報公開や議論を深め、研究活動のあり方が国際的に協調したものになるよう努めていくことが必要と。情報公開と国際協調の点を必要性を指摘してございます。 
      26ページに、第6章でございますが、本報告での今後検討すべき課題を示してございまして、本報告ではヒト胚性幹細胞とクローン胚などを中心に議論をしてきてございますが、こういったヒト胚性幹細胞の樹立などに関する規制の枠組みは、ヒト胚の取り扱い、あるいはヒト胚の提供者に対しての配慮などにおいて、ヒト胚研究全般の枠組みを検討するに当たって、この枠組みと同様の配慮が求められていくだろうということでございます。今後、生命倫理委員会などにおきまして、社会のヒト胚の扱いに関する意見をくみ上げ、生殖医学の基礎研究などを含めたヒト胚研究全般に関する包括的な検討をしていくことが必要であろうということを指摘してございます。その上で、今後の議論に資するため、これまでの検討から導き出されるヒト胚を用いる研究を行うに当たって守られるべき基本原則を構成するような基本事項、こちらを提案として示してございます。 
      まず、基本理念といたしまして、ヒト胚がヒトの生命の萌芽として尊重されるべきものであるということ。その研究理由は適切な枠組みのもと、必要性とヒト胚の生命の萌芽という位置づけを比較考量した上で行われなければならないと。しかも、その際にも、以下に示すような事項に則って慎重に行う必要があるということでございまして、生命の萌芽たるヒト胚を用いることについて、生命科学上の必要性、妥当性が認められるものであるということ。人間の尊厳を侵すような研究は行わないということ。 
      遵守事項といたしまして、新たに受精によるヒト胚を作成しないこと、研究で用いるヒト胚は廃棄する旨の意思決定が既に別途、明確になされていること、インフォームドコンセントがきちんととれているということ、提供者の個人情報は保護されるということ、ヒト胚の提供と授受がすべて無償で行われるということ、こういったことが遵守されるべきだと指摘してございます。 
      さらに、この研究の妥当性については、当事者だけではなく、第三者的な立場も含めて、研究実施機関内での検討、さらには国、あるいは研究実施機関外のしかるべき組織の確認を受ける、こういった慎重な手続きが必要であろうということでございます。こういった今後の検討事項についても取りまとめて、指摘してございます。 
      以上、少し長くなりましたが、ヒト胚研究小委員会の報告案の概要について、説明申し上げました。 

    (井村委員長) 
      ありがとうございました。 
      今、説明のあったとおりでありまして、細部についてはわかりにくい点もあったのではないかと思いますが、何分にもヒト胚を扱うということで、何よりも倫理性が重要であります。しかし他方では、ヒトの胚性幹細胞というのは、おそらく将来、臓器移植に取ってかわるような、あるいはそれをはるかに超えるような治療への応用の可能性というものが非常に大きいというものでありますので、各国とも、その取り扱いに非常に苦慮しているというのは、先ほど説明のあったとおりであります。その両者のバランスをいかにうまくとっていくかということが非常に難しい課題でありましたけれども、小委員会では、この問題をかなり徹底的に討議をしていただきまして、今、報告のあったような報告書をまとめ上げていただいたわけであります。 
      そこで本日、この報告書についていろいろご意見を伺いまして、その上で、一般の意見も公募した上で、最終的に生命倫理委員会としての意見をまとめたい、そのように考えております。 
      それでは、ご質問、ご意見等あったらお願いしたいと思います。 
      これは定期的な見直しは書かなかったんでしたか。 

    (事務局) 
      ええ。盛り込んでございます。 

    (事務局) 
      明確に何年置きというのは書いてはございませんが、報告書の10ページでございますが。10ページのヒト胚性幹細胞についての基本的な考え方というのが「1.」にございまして、科学技術の急速な進歩を考え合わせると、常に成果が公開され、規制の枠組みの見直しが行われるべきであるということを示してございます。 

    (井村委員長) 
      それでは、森岡委員、どうぞ。 

    (森岡委員) 
      ちょっと聞き取れなかったのかもしれないですけど、ヒトクローン胚は法律で禁止すると。あとのものは、今のお話ですとガイドライン的なものでやろうと、そういうことですね。 

    (井村委員長) 
      個体をつくるところは法律で禁止する。試験管内で扱うのはガイドラインと。 

    (森岡委員) 
      ES細胞もそういう考えでやるという。 

    (井村委員長) 
      そうです。 

    (森岡委員) 
      その前に、結局、規制の具体的な方法として、ガイドラインとか省令でやることになるんだろうと思うんですけど、どこの所轄官庁がそれを統括してやるのか、その点がちょっと明確でないような気がするんです。 

    (事務局) 
      このES細胞の部分につきましては、科学技術会議の場でこういった検討をしてまいりましたので、それを踏まえて、指針についてもヒト胚小委員会、生命倫理委員会の場でご議論いただいた上で、所轄の官庁といたしましては、基礎研究を、現在、臨床応用とか、そういった問題ではなくて、基礎研究が中心でございますので、科学技術庁、あるいは必要なところは文部大臣というところが入ってくるかと思いますが、そういったところでやっていくことになると思います。 

    (森岡委員) 
      どこが最終的に責任を持って、そのガイドラインの施行をやるのか明確でないところがあります。文部省とか厚生省とか、いろんな管理下で研究をやっている研究機関がいっぱいあるわけですね。どういう規制で、だれが責任持って、このガイドラインを守らせるかというところが、今のこれを見ると不明確なような気がしますが。 

    (井村委員長) 
      その点は今後議論をして、できるだけ明確にしておかないといけないと思いますが、あくまでも研究を対象としたものでありますので、来年以降は、多分、文部科学省がそれを担当するということになると思います。将来的に医療への応用が始まるときには、またその議論をしないといけない。今のところ、まだそこは禁止しているわけですから、もっと研究を積み上げていかないと、人間に胚性幹細胞等を移植することは禁止しているわけですから、それを緩めるときには、もう一度、多分、厚生省が参加してくると思うんですが、とりあえずは研究面での規制というふうに我々は考えております。 

    (事務局) 
      補足をさせていただきますと、今、遺伝子組みかえ実験のガイドラインが機能してございまして、基本的には研究のといいますか、基礎研究部分については科学技術庁長官、大学部分については文部大臣、実際に医療応用の部分については、医薬、薬のところに行きますと厚生省、あるいは農作物については農水省という、上流、下流とでまず分かれてございます。その中で、今回のES細胞については、少なくとも、座長からお話がありましたように上流の部分で今行われておりますので、そういったものについては、その考え方でまずできると思っております。 

    (井村委員長) 
      森岡委員おっしゃったことは、この生命倫理委員会の位置づけとも関係してくるわけですね。だが、それは必ずしも明確ではないというところがあります。だから、今後、総合科学技術会議が発足するに当たって、もうちょっと生命倫理委員会がどういう位置づけにあるのか。これは1段、各省よりも高いと言うとおかしいかもしれませんが、内閣府の中にあって、すべての省が関与するものなのかどうなのか。その辺は少しこれから総合科学技術会議の議論の中で明確にしていかないといけないところじゃないかという気がしております。 

    (佐野議員) 
      私は素人なんですけど、質問は、ヒト胚研究で用いられるヒト胚というのは、余剰胚に限るということを決めておられますが、それはなぜそういうふうに限らなければならないのか、例えば、使用した後で廃棄するというようなコントロールがなされれば、何もそれに限らなくてよろしいのではないか、余剰胚に限るというのは、他力依存ではないかということです。供給が十分あればいいですけれども。 

    (井村委員長) 
      それは岡田先生か事務局か、どちらかかから。 

    (岡田委員) 
      まとめ方としては、とにかくES細胞を何とか研究の場に持っていきたいというのが1つありました。ただ、それが問題点が非常に考えれば考えるほどあるし、あっさりすればあっさりという形のものでもありますけどね。ただ、最初は秩序立って動かしていったほうが、最初から非常に幅広くできるというような形の論拠も、説明すればできるかもしれないし、それはもってのほかだという反対意見も出ると思いますが、みんながそれほど問題点としてはないであろうという細い道を、とにかく通ってみようというのが余剰卵ということだったわけです。それのもとには、確かに体外受精というものが、もう既に日本で走っていて、産婦人科領域で生殖補助技術が、これはもう非常に長い歴史があるようでして、産婦人科学会のほうのデータを見せていただいても、非常にたくさんの子供さんがそれでできているようですね。それのシステム化をすると、ここに事務局のほうで説明していただいたように、女性の方から強制排卵で卵が数個取れるんだそうですね。それをご主人の精子と試験管の中で受精させて、それで子供を得るために着床のほうに持っていくわけですけど、残りが出るんですね。これはその着床したのが100%成功するわけでもないから、低温保存をしておいて、子供さんがうまくつくれなかったときには、またそれを使おうというかたちの保存というのは、もう既にいつも行われているようです。受精卵を保存すると。それで、それに関しては、子供さんがもしも生まれれば、保存してあった受精卵は、そこの機関で永遠に保存してはいけないことになっているようでして、これは必ず廃棄しなくてはいけないという1つのルールで動かしていっているようです。ですから、そういう廃棄という形の現象というものを少し利用させていただくことで、倫理的ないろんな負い目というのを少し弱めてみたいということがありまして、そういう流れの中のものから動かしていって、それでES細胞が皆さんが研究するようになって、それが非常にうまく展開できて、すばらしいということであれば、また見直しをやって、そこからもっと自由度の高い方法論を考えていくという場が出てくると思います。しかし、今の時点では、ヒトのES細胞を細胞を使ってどれくらいのことができるのよと言われると、だれも知らないわけです。マウスではできていますけどね。マウスでできているのがヒトでできるかと言われると、実はこれも完璧なイコールじゃないんです。ですから、そういう意味では、今のような形で余剰卵というところからの1つの秩序立った格好でES細胞を研究していく流れに乗せて、それから次のステップは、また考えてみるというほうが、1つのこういうふうな新しいテクノロジーに関しては、安全度を見越してやっていくほうがいいのではなかろうかというようなことなんですけれども、それでよろしいですか。 

    (佐野議員) 
      十分ご検討なさっていると思いますが、意見ではございませんけれど、ガイドラインというのは、なるべくシンプルなほうがよかろうかと思って。 
      あと、プライバシーとか、そういうのも、今のようにES細胞の向こうに子供さんなんてというふうに考えると、もう大変なことになりますけど、その切り口を何かもう少しできないかなということです。どうも失礼いたします。 

    (井村委員長) 
      私自身は小委員会に出ていなかったんですが、その報告は時々聞いておりまして、非常に苦心をしていただいたところではないかというふうに思います。というのは、やはりES細胞をつくるために、わざわざ精子と卵子を取って受精させるということになると、これはやはり倫理的に非常に問題が出てくるだろう。しかし、そうではなくて、どうせ廃棄する余剰胚ですから、それを使ってやるというのが一番倫理的に問題が少ないところではないだろうかというふうに私も考えまして、ここは非常に苦心していただいたところだなというふうに思っております。 
      ほかに何かございますでしょうか。 
      それから、もう一つ、EG細胞というのがあって、これは原始性腺ですか。ですから、胎児の将来卵巣や睾丸になる組織から取ってきて、同じように幹細胞をつくることができるんですが、この場合には、胎児を利用するという問題がありますので、これも将来の課題ということになっているわけです。 
       

    (岡田委員) 
      EGに関しては、始原生殖細胞というほうに関しては、結局、中絶胎児から取らなければなりません。そうすると非常にきれいに取らないと採取が難しい。ほとんど、そんなにきれいに取るチャンスはないというのが、産婦人科から来てくださっていた委員の方のお話でした。現実的には、それは何とか取ろうと思えば取れると思いますけれども、やはり一番楽なのがというか、普通にやるとしたら、ES細胞のほうになろうというのが、委員会としてのバックグラウンドにはあったことは確かです。 

    (井村委員長) 
      一昨年でしたか、昨年2月ぐらいでしたかね。ジョン・ホプキンスで実際にEG細胞をつくったのが来まして、見せてくれました。胎児を使って。非常に小さなところから取っていかないと。おっしゃるように、かなりの技術が要るということと、その後出た論文で、いわゆる刷り込み、EGのほうはインプリンティングがないんですね。ESは既に刷り込みが始まっているんですね。だから、その辺で全く同じでないので、やっぱりESのほうからスタートしたほうが、将来の臨床応用、問題が少ないのではなかろうかという感じもあるんです。 

    (岡田委員) 
      どうも、感じとしては、そのようですね。 

    (井村委員長) 
      何かほかにございますでしょうか。 

    (田中委員) 
      この案では14ページで、それから、こちらの横書きでは20ページに関係することなんですけれども。ヒトのES細胞を使用する研究の要件のところで、再配布とか産業利用の取り扱いについては個別に検討するというようなことをおっしゃっていて、それを産業上利用する行為については特に制限を設けないとまとめていらっしゃるんですけれども、この産業利用の可能性については、現在、どの程度のめどがついているのか、全然めどがつかないということなのか。このあたり何か厳重な審査をベースにしていらっしゃるわりには、比較的オープンな形で、このあたり締めていらっしゃるんですけれども、現実的な可能性については、どの程度の見通しを持っていらっしゃるのか、教えていただければありがたいんですけれども。 

    (事務局) 
      まず、事務局からお答えいたしますと、具体的に産業利用がどうなるかというところまでの見通しは、まだできておりません。ただ、先ほど来の、やはり医療面では非常に関心が高うございまして、1つには、先ほどの移植医療ということから分化させていくと。それは、例えば、皮膚については、もうベンチャー企業はできておりますし、アメリカなどでは、もう皮膚はかなり商業化して、全身やけどとかの治療に使われております。そういったものは、まだマウスですが、マウスのES細胞からマウスの皮膚ができるように、ヒトのES細胞からヒトの皮膚というのは当然できていくようになると思われます。その他の臓器や組織についてどうなるかというのは、まさにこれから研究をしていかなきゃいけないところもございますし、またES細胞を実際に移植するときの、今度は安全性の評価、まさにこれは厚生省さんの領域になっていくところでありますが、そういった問題というのも必要になってきますので、直ちに産業ということではございませんが、ポテンシャルとしては非常に大きなものを持っていると。 
      いま一つの応用の方法といたしまして、これは比較的早いかもしれないんですが、薬の治験の材料として使うという使い方がございます。それは、こちらの縦書きの資料の2ページにございます。縦書きの絵の資料の資料7−5の2ページでございますが。上のほうの血液製剤、輸血用血液、こういったものは一種の細胞治療、細胞移植の展開でございますが、例えば、今、動物を使って薬の治験をやり、それからヒトというふうに移っていきますが、その際に、このES細胞自体は非常に感受性の高い、毒性が何かとすぐ反応する細胞のようでございまして、そういったことについては有効利用する道というものも比較的わかりやすい産業利用としてあるようでございます。なかなか明示的には申し上げられませんが、今のようにポテンシャルは非常に高いものがある。だから、具体的にどのタイミングでどうなっていくかというところまでは、まだ研究段階のものであるというふうに、私どもは考えております。 

    (岡田委員) 
      もちろんヒトのES細胞は、世界中どこも正式には使えるようになっていませんですから、ヒトのESに関してはわからないということなんですけれども。ヒトのES細胞を取ったところが、ES細胞であるという検証にどうやったかといいますと、ヌードマウスといって、免疫系がつぶれていて、ヒトの細胞を入れても排除する免疫機構がないヌードマウスというのにヒトのES細胞を取り込んだら、テラトーマと称しまして、腫瘍ができたと。だけど、その腫瘍というのは、いろんな分化したヒトのES細胞由来の、いっぱい分化した、いろんな臓器に分化した腫瘍なんです。これは、マウスのES細胞もそういうキャラクターというのを、そういう格好で移植すれば持つわけです。ということは、もうそこで既に、マウスの中ですけれども、ヒトのES細胞がいろんな臓器に変わり得るものであるというのは、そこでもう証明できています。ただ、これを全部のいろんな臓器が試験管の中でわっとできたのではどうにもなりません。それで、例えば、骨髄性の細胞の、それも血小板をつくる細胞をたくさん取りたいというふうなときには、ESから何段階かうまく分化させていって、血小板をつくってくれる、もとの細胞の、いわゆるその幹細胞といいますか、ステムセルというのを取れるようになると非常に有効なんですね。だから、キャラクターとしては、もう既にマウスのES細胞と同じように、あらゆる臓器に分化するキャラクターを持っているというのは、みんな理解しているわけです。ただ、それを利用していくときに、どううまくそういう道筋に乗せていけるかどうかというのが大切なところで、僕の経験では、日本は多分そういう仕事は実は得手なんです。外国よりも日本のほうが、そういう形の仕事はどうも上手じゃないかと思っていまして、それで期待しているというところもあります。 

    (井村委員長) 
      よろしいですか。 

    (田中委員) 
      そうなると、余った胚だけで足りるのかどうかという心配がありますが。 

    (井村委員長) 
      いや、それはどんどん増やせますから。 

    (田中委員) 
      増やしていけばいいのですか。 

    (井村委員長) 
      はい。ただ、実際、臨床に応用する前には、もう一つ、免疫の問題を解決しないといけないですね。だから、他人のES細胞で何かをつくって、実際、患者さんに使ったときに、普通だと、これは異物として排除される。いわゆるリジェクションという拒絶反応が起こる可能性があるんです。ESでそれがどうなるかというのは、まだ完全にわからないところがあると思いますが、その辺の問題はこれからの課題ですね。 

    (岡田委員) 
      結局、そこら辺まで行ければ万々歳なんですがね。だから、そのときにはいろんなやり方があって、クローン胚を見ているというようなこともあるだろうし、あるいは幾つかのラインをとっておいて、それに関して動かしていって移植させるということもあるでしょうしね。ですから、それを気にしないといけないようになったら大したものです。 

    (佐野議員) 
      ちょっと1点だけお伺いしたいんですけど。 
      今、臓器移植というのは、なかなか日本では思ったように進展しないで、やはりまた海外へ千万単位のお金をかけて行くような状態が続いているんですけれど、このES細胞なり何なりで、自分の細胞の移植用の臓器ができる。非常に日本では明るい将来ではないかと思っていたんですが、これを見て、やはり研究はどうなんでしょうか。将来は日本人は海外に行かなくても日本で安くできるというような、そういう内外格差というのは縮まると考えてよろしいんでしょうか。 

    (岡田委員) 
      このES細胞がミシガンかウィスコンシンだか、どっちだったか。 

    (井村委員長) 
      ウィスコンシンだったね、一番初め。 

    (岡田委員) 
      発表になったときに、実は世界中の研究者が、ぱっとそう思ったんです。それで、何とかES細胞を動かしていきたいと、研究に持っていきたいという圧力が非常に高くて、それで生命倫理との関係での調和をどこら辺でとれるかというのが、各国で非常に頭を悩ましているということでして、先生のおっしゃったような形のところも含めて、可能性というのを非常に大きく思ったということから、問題がありながらスタートしたということだと思います。 

    (井村委員長) 
      ほかに何かございますでしょうか。 

    (藤澤委員) 
      小委員会、非常に面倒な問題を克明に審査していただいて、心から敬意を表しますけれども。一番基本的な考えのところで、我々素人、細かい内容については素人ですからいいんですけれども、科学的・倫理的な妥当性という言葉がございますが。科学的妥当性というのと倫理的妥当性というのを両立させるというところが腐心するところですよね。これ、ほっておきますと、どんどんどんどん科学のほうが勝っていくわけです。ではないかと思うんです。倫理がどうしても負けます。そこら辺、おそらく一般の国民も、かなりの多くの人がそういうふうに考えているのではないかと思いますけど。 
      その点の1つの具体的なこととしてお伺いしたいのは、ここのヒト胚、生命の萌芽ではあるけれども、生命そのものではないというのは、どうも素人にはわかりにくいんですけれども。ヒト胚ですね。生命の萌芽ではあるけれども、生命そのものではないというのは、どういう考え方の基準で、こういう概念を確立されたのかというのをやはり伺っておきたいと思うんですけれども。 

    (位田委員) 
      私もヒト胚研究小委員会におりましたので、お答えしたいと思います。 
      もちろん、生まれてくれば、これは「人」になりますので、法律上、胎児も人として扱われる可能性がございます。しかし、ヒト胚そのものは、まだ胎児にはなっておりませんので、その前の段階ですので、これを同じように人、もしくは人の生命と考えていいかどうかというのは非常に難しい判断でございます。胚の段階ですから、完全に胎児にまで至っていない段階なので、ヒトの生命とは言いがたいのではないか。かといって、それが単なる「物」ではなくて、それが分裂していけば、当然人になるということから、ある意味では、その中間段階を表現するために、「人の生命の萌芽である」という言い方をいたしました。 
      では、何を基準にして萌芽というかと言われると、実はこういう基準によりましたということは言えないと思います。考え方としては、一旦受精して胚になれば、もうそれは人の生命と同じだからという考え方もあります。例えば、ドイツなんかはそういう考え方をしていると思います。しかし、国によって、まだそこまでは行っていないんだという考え方もあります。その辺はヒト胚の研究を認めるということから考えると、生命とまでは行かないのではないか。そういう意味で萌芽という。ある意味ではわかりにくいといいますか、ちょっといわく言いがたい言い方を使ったかなと思いますが。 

    (藤澤委員) 
      ごく常識的に考えますと、生命の萌芽というのは、科学のほうからいえば、いくらでも理屈をつけて、生命の萌芽ではあるけれども生命ではないと理屈つけるけれども、おそらく一般の人が持っている倫理的なセンスというか、そういうものからいうと、生命の萌芽といったら、もう生命ではないかというほうに傾くんではないかと思うんです。だから、これからもしいろんな国民の意見を聴取するというようなことになったら、原理的には突き詰めて明確化するというのは不可能かもしれませんけど、あとう限り、そこをあいまいにしないで、はっきりしたほうがいいという感想を持ちます。 

    (位田委員) 
      このヒト胚幹細胞の研究というのは、胚をつくって、できた胚を滅失するという行為がありますので、もしそれをヒトの生命だとしてしまいますと、極端に言えば殺人をやってしまう形になります。例えば、ドイツの胚保護法なんかはそういう立場なので、したがってヒト胚研究はできないことになっています。そのヒト胚研究を、もしできるのであればやりたい、もしくはここまでだったらやってもよろしいという線を引くとすると、つまりヒト胚研究は可能であるという立場に立てば、人の生命ではないという、ある程度のエクスキューズが要るのではないかと思います。そういうところから、ヒト胚というのは生命の萌芽であると。 
      その観点から、先ほど余剰胚の話がありましたけれども、あれは本来なら捨てる胚を使わせていただくということでして、わざわざこのヒト胚研究のために胚をつくるということは、ある意味では人の生命を操作することにつながりますので、それはやらないということです。具体的な部分では、生命と生命の萌芽というのは違うというところは線を引いていると思います。 

    (藤澤委員) 
      そうすると、非常に古典的な哲学の概念として、可能性と現実性というのがありますよね。要するに、生命の可能態ではあるけれども、現実態ではないということですか。 

    (位田委員) 
      はい。 

    (井村委員長) 
      それに近いですね。 

    (位田委員) 
      そうですね。 

    (井村委員長) 
      現に体外受精というのは、さっきも話があったように、数個の卵を受精させて、そのうちの2個か3個ぐらいを母体に戻して、あとは置いているわけですから、それを廃棄するわけですから、もしそれが生命であれば、やはり一方では殺人をしながら子供をつくっているということにもなるわけですね。それと、やはり初期の胚というのは非常に死亡率が高くて、現実には随分死んでいるようです。ごく一部が子供になって生まれてくるわけで、多くの初期胚がいろんな形で死んでいるようでありますので、イギリスなんかは原始線条が出てきたときをもって人間の個体とするということを決めていると。だから、どの辺に人間であるということを置くのかは非常に難しい問題だろうというふうに思いますが。 

    (藤澤委員) 
      法律的な概念としてはともかく別としまして、ある意味では、殺人を犯しながら研究をしているんだというぐらいの覚悟を持っていただきたいという気持ちがするわけです。 

    (井村委員長) 
      それでは、ほかに何かございますか。 
      高久先生、おくれておいでになりましたが、何か一言ありますか。 

    (高久委員) 
      岡田先生が随分ご苦労されてまとめられました、この報告書は世界的に、高く評価されていると思います。最近、たしか『ネイチャー』に、日本でこういう報告書を出した。サイエンスのためには良い事だと紹介されていました。もちろんいろいろなレギュレーションがかかることにはなると思いますが、どうしても踏み越えていかなければならない1つのステップだと考えています。 

    (井村委員長) 
      ほか、よろしゅうございますでしょうか。 

    (永井委員) 
      これは事務局にお尋ねしたいんですが、クローン胚とキメラ胚とハイブリッド胚と3つに分けて議論していますが、ハイブリッド胚についての記述がちょっとわからないところがあるんです。例えば、26ページでの基本的な考え方の項。キメラ胚とヒトクローン胚とここで議論されています。ところが最初のほうの、第4章の1のところで生命倫理委員会における議論というのがあるんですが、ここでいわゆる核移植によるハイブリッドについて、最初に、ヒトの体細胞の核を動物あるいはヒトの除核卵に移植するということは法律によって禁止されるべきであるということがまず書かれている。4行目と5行目に。その後に今度はヒトの初期胚の核をヒトまたは動物の除核卵に移植するとある。動物からヒトへ、ヒトからヒトの初期胚、その他ということで記述がすすめられている。また、キメラ胚、その他については、ヒトクローン胚については項目別に議論している。しかし、ハイブリッド胚については同じような記述がどうも見当たらない。それからミトコンドリア症についてはまたいろいろ出ています。つまり、1)の生命倫理委員会における議論のところで、法律によって禁止するということが言われていながら、ところが今度、ヒトの初期胚のところでは、別に法的規制にするとも記してないし、何となく、全体として記述の仕方、あるいは論の進め方に、どうも整合性が欠けて、はっきりしていないような感じを受けるのですが。 

    (事務局) 
      それでは、ご説明いたします。 
      まず、ハイブリッドの扱いについては、28ページに5)として書いてございますが、ちょっとその前に、全体、クローンの中でも少し「ハイブリッド」という言葉が出たので、資料の7−5に少し技術の説明をしてございますが。7−5の絵でございますが、5ページに、まず法律で禁止されるべきものとしての、成体の体細胞の核移植によるクローン個体の産生、こちらがございます。これは成体の体細胞の核であれば、動物の除核未受精卵、ヒトの除核未受精卵に入れようが、いずれにしても胚に移植し個体を産生することは法律で禁止という考え方でございます。 
      次のページに、初期胚の核移植によるクローン個体の産生、卵分割によるクローン個体の産生と整理してございまして、この部分につきましては、前回、生命倫理委員会で議論したときに、あまり卵の違いのところを特に強調せずに、初期胚の核のほうに注目しまして、これは例えばミトコンドリア症等の治療に用いられる可能性もありますから、法律による禁止というよりも、ガイドラインの禁止を考えていきましょうという議論がされてございます。卵分割によるクローン個体の産生も同様の考え方でございますが。 
      その中で、一部、ヒト胚小委員会で議論になりましたのが、8ページにございます核移植のハイブリッドでございまして、核を移植する際にも、動物の未受精卵に移植した場合に、核の遺伝情報はヒトですが、ミトコンドリアは動物、細胞質は動物という、非常にある意味奇妙なものになってしまうと。これについて、初期胚からの核移植をすべて法律で禁止しないとすると、こういう個体も法律では禁止されなくなってしまいますので、ここについて、やはり法律で初期胚のものも含めて禁止しましょうというふうに議論させていただいたのが27ページの「動物の除核卵にヒトの細胞核を移植する研究が」というところでございまして、ここを実はヒト胚小委員会の議論の中で新たに、これはやはりヒトと動物のアイデンティティを侵すようなものだということが言われてございます。 
      生命倫理委員会で議論をされておりましたハイブリッドは、実はその前のページの7ページにございますヒトの精子と卵子の組み合わせ、ヒトの精子と動物の卵子、あるいはヒトの卵子と動物の精子といった、配偶子をヒトと動物の間でかけ合わせるようなハイブリッド、これについては法律なりで産生禁止するための措置を講ずる必要があるということをうたってございます。今回、このヒト胚研究小委員会の中では、核移植のハイブリッドについても取り上げたので、少し議論が混乱、わかりにくくなっていますが、そういう趣旨でございます。 
      さらに、こちらの配偶子、卵子と精子との組み合わせによるハイブリッドにつきましては、28ページでございますが、これは個体産生はもちろん禁止でございまして、胚の段階についても原則的に禁止されるべきであると。ただし、受精能力試験、これはもう一部現実にも行われておりますが、例えばハムスターの卵子を用いてヒトの男性の精子の受精能力を調べるといったような試験については一定の有用性があり得るという整理をしてございます。 
      以上でございます。 

    (井村委員長) 
      ほかに何かございますか。 
      永井先生、大変複雑なものですから。 

    (永井委員) 
      非常に複雑で扱いにくいということはよくわ かりました。 

    (井村委員長) 
      いろんな可能性が考えられて、非常に複雑になっております。 
      もし、ほかにご意見がなければ、この小委員会の報告案を基本的に支持をする、承認をするということでよろしゅうございますでしょうか。 
      なお、もしご意見がありましたら、またいろいろお寄せいただきたいと思いますし、パブリックのコメントも今求めているところですので、それらを踏まえて最終的な報告書をまとめるということにしたいと思います。多分、次回の生命倫理委員会が最終的な報告書をまとめることになろうと思いますので、そういう手順で進めさせていただきますが、よろしゅうございますでしょうか。 
      どうもありがとうございました。 
      それでは、2番目の議題に進みます。議事の公開についてであります。 
      次回、この報告書をもとにして、生命倫理委員会としての最終結論を出していただくわけでありますけれども、報道等を見ても、生命倫理委員会の議論の過程が社会の目に見えるような形になっていないので、それを見えるようにすべきであるという意見がございます。特にこの生命倫理にかかわる問題は、パブリックアクセプタンスというのが非常に大事であって、研究者の間では認められていても、パブリックが認めなければ前へ進めないという状況でありますので、やはりこの生命倫理委員会も公開にして、審理の過程が見えやすいようにしたほうがいいのではないだろうかというふうに考えております。現在は議事録を公開することにしておりますけれども、あらかじめ委員に確認をしていただくために、公開まで1カ月以上かかってしまいます。その点も問題であります。小委員会の議論は、すべて公開で行われているわけでありますので、この生命倫理委員会だけを非公開にすることの意味があまりありません。そのことにつきまして、皆さんのご意見を伺いたいというふうに思っております。いかがでしょうか。 

    (藤澤委員) 
      仕方がないのではないですか。小委員会が公開で親委員会が非公開というのは、やはりちょっと。ここまで来たらしようがない。 

    (井村委員長) 
      いかがでしょうか。 

    (高久委員) 
      私は初めて出たので経緯は知りませんが、個人的には、したほうが良いと思います。 

    (井村委員長) 
      ほかにいかがでしょうか。 
      これは一番最初のときに、一部の委員の方が反対であったということもあって非公開にいたしました。しかし、ほとんどの委員会が現在公開でなされておりますし、これに関係しても、小委員会は全部公開でやられているのに、この親委員会だけが非公開であるという根拠はあまりなくなってきているんですね。政府の委員会すべて公開しないといけないかどうかということになると、これはいろいろ考え方もあると思いますけれども、この生命倫理委員会は、特に一般の方の理解を得るということが非常に重要でありますので、そういう意味では、思い切って公開にしたほうがいいんではないだろうかというふうに考えているわけですけれども。 

    (田中委員) 
      私は公開に賛成なんですけど、フォーマルな文章、議事録なんかは従来どおり整理して残していくということで、要するにこの議事を公開するということでございますね。 

    (井村委員長) 
      そうです。 
      もちろん、非公開にしないといけないような議題があったときには、それは非公開にいたしますが、その非公開の条件は、一応考えておかないといかんと思いますけれども、原則公開ということで、できればいきたいと思うんですが、いかがでしょうか。 
      それでは、もしご異論がないようでしたら、次回から公開でやらせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。 
      最後に、事務局のほうから日程についての連絡がございます。 

    (事務局) 
      次回でございますが、3月13日でございます。時間は同じ3時から5時の予定でございます。場所も同じ、こちらの会議室でございますので。 
      今後の予定を少し補足いたしますと、今月いっぱいパブリックコメントを受け付けてございまして、29日、今月の末には公開のシンポジウムを開きまして、この報告案の説明、それから一般からの質疑応答というのも受けるつもりでございます。その後、3月6日にヒト胚小委員会を1度開催いたしまして、その後、3月13日に生命倫理委員会、こちら、同じ時間、同じ場所ということを予定させていただいております。 
      以上でございます。 

    (井村委員長) 
      それから、シンポジウムを開くことも、ちょっと言っておいたらどうですか。 

    (事務局) 
      29日でございますが、場所は平河町の都市センターホテルのオリオンでございます。2月29日、1時から5時までの予定でございます。これはすぐにお配りするようにいたしますので。 

    (井村委員長) 
      はい。お配りしてください。 
      これは「胚性幹細胞と生命倫理」ということで、一般の人にできるだけ理解していただくということを目的といたしまして、公開のシンポジウムをしたいというふうに考えております。もし周囲の方々等で関心のある方がおありになりましたら、お薦めいただければ非常にありがたいと。 

    (研究開発局長) 
      意見の公募につきましても、ホームページ等を使いまして呼びかけております。期間は大体1月ぐらいとるようにしていますけれども、関心を持っている方はごらんいただくんですけれども、これも限りがあると思っていまして。そういう意味では、今回、この意見公募と並行して、シンポジウムというのをぜひともと思って企画した次第でございますし、ヒト胚小委員会の方、あるいは外部の方にもパネリストとして参加していただくような準備もしております。我々の関連の学会等にも呼びかけて、非常に多くの方に参加していただくようなことに努力させていただきたいと思います。こういったことも踏まえまして、今の報告書案について、必要があれば修正等も考えさせていただくといったことで、最終的な案に持ち込みたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 

    (井村委員長) 
      今配付しております、これがその内容でありますので、ごらんいただきたいと思います。現在、科学がものすごく速く進みますので、パブリックアンダースタンディングをどのようにして促進、推進していくかというのは非常に難しい問題に各国ともなっております。したがって、あの手この手の手を使わないといけないだろうと。もちろん、インターネットの利用等は1つの大きな方法でありますけれども、いろんな形でパブリックアンダースタンディングを進める。この委員会も公開にして、新聞記者の人に来ていただいて、適正な報道をしていただくということも非常に重要なパブリックアンダースタンディングの方法であろうというふうに考えます。今回はこのシンポジウムを一遍やってみようということになりました。そういうことでございますので、ご了承いただきたいと思います。 
      それでは、予定の時間より少し早うございますが、本日はこれで終わらせていただきます。どうも長時間ありがとうございました。 

    −−了−−