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第5回科学技術会議生命倫理委員会議事録

1.日時    平成11年9月29日(水)    15:00〜17:00

2.場所    科学技術庁  第1、2会議室

3.出席者

            (委  員) 井村委員長、石川委員、岡田委員、熊谷委員、島薗委員、

                         永井委員、藤澤委員、前田委員、森岡委員

            (説明者)上智大学法学部教授  町野  朔  氏

            (事務局)科学技術庁研究開発局長  ほか

4.議題

            (1)ライフサイエンスを巡る最近の動向について

            (2)クローン小委員会/ヒト胚研究小委員会の審議状況について

            (3)今後の生命倫理委員会の議論の進め方について

            (4)その他

5.配布資料

    資料5−1    ライフサイエンス研究開発の推進体制の強化の必要性

    資料5−2    生命科学の世紀に向けて

    資料5−3    バイオテクノロジーによる健康で安心できる高齢化社会の実現の

                      ためのミレニアム・プロジェクト−要求要旨−

    資料5−4    バイオテクノロジーによる健康で安心できる高齢化社会の実現の

                      ためのミレニアム・プロジェクト

    資料5−5    平成10年12月以降のクローン小委員会及びヒト胚研究小委員会の

                      審議状況について

    資料5−6    ヒト胚等の取り扱い及び人クローン個体の産生等に関する考え方

                      について

    資料5−7    ヒト胚等の規制範囲マップ(案)

    資料5−8    人クローン個体の産生等の法律による規制について

    資料5−9    人クローン個体の産生等を禁止する法律についての報告書

    資料5−10 第4回科学技術会議生命倫理委員会議事録

    資料5−11 科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会(第11回)・ヒト

                     胚研究小委員会(第5回)合同委員会議事録

6.議事

(井村委員長)

  藤澤委員がまだお見えになっておりませんが、ただいまから第5回科学技術会議生命倫理委員会を開催させていただきます。

  昨年12月以来、諸般の事情で大分間があいてしまいまして、大変申しわけございませんでしたが、大変重要な議題もございますので、これから少し詰めてこの会議を開催していきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

  それでは、議事に入る前に、事務局から配付資料の確認を簡単にしてください。

(企画官)

  それでは、配付資料の確認をさせていただきます。お手元にまず議事次第の紙がございまして、その後、資料5−1、5−2、5−3、5−4、5−5、5−6、A3の折り込んでございます5−7でございます。5−8、5−9、前回の議事録は資料5−10、関連します小委員会、合同委員会の議事録が5−11にございます。特に資料番号は振ってございませんが、アメリカの倫理委員会の報告の仮訳と申しますか、要約したものをお手元に配付してございます。以上が本日の資料でございます。

(井村委員長)

  もし不足がありましたら、お申し出をいただきたいと思います。

  それでは、議事に入らせていただきます。議題の1はライフサイエンスを巡る最近の動向についてということでございます。言うまでもなく、21世紀は生命の世紀であるとか、生命科学の世紀であると言われておりまして、世界各国が今競って生命科学の振興に力を入れております。そういった中でいろいろの新しい課題が出てきておりますが、これらのうちには、生命倫理の立場から慎重な考慮を有するものも少なくありません。我が国といたしましても、生命科学の振興に現在力を入れているところでありますが、これと並行して、今後、生命倫理についても十分な検討をしていく必要があると考えております。

  本日は、一番最初に、最近の我が国における生命科学の振興の政策につきまして、事務局から紹介をしていただいて、現在の動向をご理解いただきたい、そのように考えております。

  それでは、ライフサイエンス課長から説明をしてください。

(ライフサイエンス課長)

  7月6日に前藤木の後を継ぎました小田でございます。よろしくお願いいたします。

  それでは、委員長のご指摘、議事に従いまして、これまでのライフサイエンス研究開発の政策の動向ということで、資料5−1と5−2でございますが、資料5−1が現在の概略を述べたものでございます。その前に資料5−2が報告書で「生命科学の世紀に向けて」です。これはこの科学技術会議の井村議員を座長といたしまして、都合全員で13名、一番最後から2枚目のところに、この懇談会の参加者ということで書いてございますが、13名の委員の方のご参加を得まして、一番最後のページに今年の1月から精力的に6月まで8回にわたりまして議論を重ね、今回、こういった報告書を7月8日にまとめたものでございます。

  その中では、何人かの日本人の方、あるいはドイツ等海外の方のヒアリングも含めまして、特に医科学という切り口、さらには植物という切り口、そういった点での切り口において議論を集中的にしたものでございます。

  中身につきましては、3枚紙の資料5−1に概略が書いてございますが、この1月から精力的に行ったこの議論におきましては、まずこの生命科学におきまして、日本の研究の現状ということを、非常に日本が遅れているということの現状について調べておりますが、そこでは、ここに書いてあるような論文の引用度とか、特許申請とか、研究開発といったようなものに加えまして、実はもとになっている研究者、学生、大学院生、あるいは博士課程の卒業者、そういった人材面につきましても、日本はこの分野において劣っているといった一般的な遅れについての認識のもとに、しかし、それだけではなくて、どうも日本の研究成果が上がってこない理由について徹底的に議論をしていただきました。

  特に日本の研究システムの問題点ということで、ノーベル賞受賞者が30代といったところに集中しているという現状から見て、日本の研究システムが必ずしも、そういった独創的な研究成果を上げるのに適していないんじゃないか、こういう認識のもとに調べたものでございまして、それが具体的に言いますと、2ページ目のところで、こういった点での現状の認識をしてございます。これをもとに若手研究者の流動性、独創性をフルに発揮するような新しいタイプの先導的な研究機関を設けてするべきじゃないかという研究システム論にかなり注意されております。

  3点目は、では、どういった分野が日本がこれから緊急的に行うホットな領域かといった点についてでございます。1ページ目にございますように、こういったゲノム、発生・分化・再生、植物科学、ゲノム科学、脳科学ということでございますが、特にゲノム医療と発生・分化・再生、植物科学につきましては、日本におきましては研究システムといった点におきましても、まだこういった独創的な研究をするシステムができていないということで、新世代型の研究機関を設けて、これを早急に、緊急にやるべきだということでございます。

  次に、もう一つの動きがございまして、資料の5−3と5−4でございます。資料5−3、5−4につきましては、実は政府におけます平成12年度の概算要求の内容でございます。基本的には概算要求につきましては、平成12年度は前年と同額ということでありますが、それに加えまして、平成12年度に特別枠、情報通信、科学技術、環境等、経済申請特別枠といったものが設けられてございます。これは2,500億円の特別枠が設けられました。これにつきましては、約倍、5,200億円の要望が認められております。その特別枠の中で、さらに平成12年度の総理の特別に推進すべきものということで、ミレニアム・プロジェクトといったカテゴリーが設けられております。このミレニアム・プロジェクトにつきましては、特別に政府として、国として取り上げるべきものという位置づけです。

  そういったものの中で生命科学といったものにつきまして、総額984億円という新しい課題につきまして要望が実現したわけでございます。これは実は今年の1月から5省庁、科学技術庁、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省といった5省庁が閣僚レベルでの基本方針の合意、あるいは7月にまとめましたバイオテクノロジー産業の創造に向けた基本戦略といった枠組みの構築と基本戦略の構築といったことを受けまして、今回のこのミレニアムのプロジェクトの要望におきまして、984億円という要望が実現したわけでございます。

  その中身でございますが、今回、時間もありませんので省略させていただきますが、一部、この生命倫理委員会との関係で重要な点がございますので若干紹介させていただきますと、資料5−4の少し分厚いものでございますが、資料5−4の7ページでございます。特にバイオテクノロジーによります5省庁連携のプロジェクトでは、ヒト、イネ、微生物のゲノム、遺伝子機能の解析といったものに重点を置いてございますが、その中でもこの4)の細胞機能の解明と利用のための技術開発等といったものが大きな柱の1つとなってございます。

  具体的に言いますと、7ページの下から3行目でございますが、「発生・分化・再生領域の研究開発は、近年の組織工学、幹細胞研究の急速な発展により、自己細胞を用いた拒絶反応の少ない細胞・組織等の医薬品・医療用具の開発が可能となる。また、ヒト胚性幹細胞の作成技術の確立の成功に伴い、世界的に急速に研究が進展しつつある。臓器移植の代わりとして、これらの細胞・組織移植技術の開発等、移植・再生医療面での潜在的可能性が巨大なものがあると評価されている。このため、我が国においても、科学技術会議生命倫理委員会等における生命倫理に関する枠組みの構築とあわせて早急な取り組みを開始する」、こういうふうに我々のほうで、政府のほうでまとめ、今、要望している段階でございます。

  以上、簡単でございますが、ご紹介します。

(井村委員長)

  ちょっと補足をいたしますと、今説明がありましたように、残念ながら、我が国の生命科学は世界のレベルから見るとまだまだ改善されねばならない点が多々あると考えてまいりました。例えばヒトゲノムプロジェクトが現在進行中でありまして、これは2003年までに完成いたします。来年2000年の春にはドラフト、まだ間違い等は、抜けているところはあるとしても、粗読みのデータは発表される予定であるという状況でありますが、その中での日本のコントリビューションは、残念ながら極めてわずかでありまして、ほとんどアメリカとイギリスが組んでやっているという状況であります。

  そういう中で、これから日本の生命科学をどのように振興していけばいいのかということで、昨年の暮れから計画をいたしまして、本年の初めに懇談会を設けまして、資料の5−2にありますような報告書を作成いたしました。これに基づいていろいろなところへ働きかけをしたわけでありますけれども、そうした過程で小渕総理がミレニアム・プロジェクトというものを打ち出されたわけです。それとこれとは若干視点の違うところもありますけれども、基本的にオーバーラップしているということで、ミレニアム・プロジェクトに乗って、今、概算要求をしているところであります。

  そこで3つぐらい重要なテーマを取り上げたわけですが、1つは、ゲノムシークエンシングの後のポスト・ゲノムシークエンシングの重要課題として、遺伝子の個人差、多型といいますけれども、その個人差の研究をやろうと。これは日本人と欧米人とは、もちろんヨーロッパ系とは違うわけですので、日本人の遺伝子多型を解明することによって、日本人の病気の特徴というのを明らかにしないといけませんし、そういうのを基礎にして新薬の開発とか、新しい治療法の開発等をしていく必要がある。それを1つ取り上げたわけです。それから、臓器移植にかわる新しい再生医療といいますか、あるいは細胞治療、そういったものを進めたいと考えました。第3番目に、植物の分子生物学、これはやがて食糧問題が非常に大きな問題になるであろうということを考えまして、その3つをここで取り上げておりまして、それをいずれも、今、概算要求しているところであります。

  しかし、これらはすべて生命倫理とかかわってまいります。まず、ゲノムの場合には、ゲノムの個人差というのを研究を進めますと、その場合にプライバシーを守るとか、あるいは知る権利、知らないで済ます権利をどう保障するかとか、非常に難しい問題がいろいろ出てくるはずであります。それから、発生・分化・再生の場合には、特にヒトのES細胞を使いますと、そのES細胞にかかわる倫理的問題がございます。植物のほうも、将来、安全性等の問題が出てくるのではないかということが考えられるわけでありまして、そういった意味で、この生命倫理委員会とも関係が密接でありますので、最近の動向を少し報告させていただいたわけであります。

  もし何かご質問等がありましたら、お伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。もしなければ、また後でいろいろご意見を伺いたいと思いますので、次の議題に進ませていただきます。これは本日の最も重要な議題でありますが、クローン小委員会/ヒト胚研究小委員会の審議状況についてであります。昨年の12月に第4回の生命倫理委員会を開催いたしまして、クローン小委員会、新たに設置したヒト胚研究小委員会、これは昨年設けました。その後、この小委員会で鋭意審議が行われてまいりました。特に人クローン個体産生につきましては、小委員会で論点を整理していただきまして、意見の集約が図られました。この点につきまして、両方の小委員会の委員長として議論を取りまとめていただいた岡田委員から、まずご説明をいただきたいと考えております。

  なお、両小委員会の委員で刑法がご専門の上智大学・町野教授にも後で法律的な観点から補足説明をしていただくため、本日はご出席をいただいております。

  それでは、岡田委員、よろしくお願いします。

(岡田委員)

  それでは、クローン小委員会等の審議状況につきましてご説明いたします。資料5−5を見ていただきたいのですが、前回の第4回の生命倫理委員会開催以降で、クローン小委員会を3回、新たに設置されましたヒト胚小委員会を4回開催いたしまして、クローン技術やヒト胚性幹細胞をはじめとするヒト胚を取り扱う研究についての議論を重ねてまいりました。さらにこの7月には両委員会の合同委員会を開きまして、クローン個体産生を中心として意見の集約を図ったところであります。その状況につきまして、事務局のほうから説明してもらいます。お願いします。

(企画官)

  それでは、お手元の資料5−6に基づきまして、両委員会でのご議論を紹介いたします。

  これは、去る7月に開催された両委員会の合同委員会での議論を踏まえたペーパーでございます。これまでのクローン小委員会、ヒト胚研究小委員会の議論を踏まえまして、大方受け入れられている意見を四角囲みの中に示してございます。また、それとは異なる意見につきましても併記する形となってございます。

  まず初めに、ヒト胚等の取り扱いに関する基本的な考え方でございます。まず、受精卵・ヒト胚−−以下、ヒト胚等とまとめて申しますが、ほかの人の体細胞とは異なり、ヒトの個体産生につながる可能性があるものであることから、ヒトの生命の萌芽としての意味を持つものであり、その取り扱いは可能な限り慎重に行われるべきである。これがまず基本的な考えでございます。

  これを踏まえまして、次に、ヒト胚等はこのような生命の萌芽としての性質を共通に持つものであるため、その取り扱いについては共通の考え方のもとで規制の枠組みを考えていくことが必要。しかし、ヒト胚等を扱う行為であっても、医療行為・商業行為としての意味を持つ生殖補助技術等につきましては、科学技術政策だけではなく、医療政策の観点からも検討を行い、最終的な規制の枠組みを判断することが適切であり、科学技術会議生命倫理委員会においては、ヒト胚等の研究についての共通の考え方を提示することとする。一方、ヒト胚等の臨床応用や商業化の段階についても、今後、医療政策の検討の中で、この科学技術会議の検討の趣旨が活かされ、ヒト胚等の取り扱い全般に関して、政府全体として整合性のとれた規制が行われることが重要であるというのが基本的な考え方でございます。

  ただ、これにつきましては、ヒト胚などを扱います研究すべてについて共通の考え方を提示する必要は必ずしもなく、クローン技術のヒトへの適用、あるいはヒト胚性幹細胞の作成・使用など新たに問題となったものについて個別に考え方を提示するべきだ、こういう考え方もございます。

  いま一つは、ヒト胚等の扱いは、研究段階と医療行為・商業行為の段階で明確に区別できるものではなく、医療応用、商業利用まですべて共通の枠組みで規制のあり方を考えていくべきであり、研究段階のみにとめた枠組みで規制を行うべきではないとの考え方もございます。

  以上が基本的な考え方でございます。

  次のページでございますが、それぞれ個体の産生についてでございます。まず、人クローン個体の産生についてでございます。人クローン個体の産生は、実際に個体の産生を伴うことから、人間の育種及び手段化、あるいは道具化、さらには生殖のあり方に対する認識からの逸脱、これは無性生殖ということでございます。また、家族秩序の混乱、あるいは産まれてくる子供の身体的安全性の問題などが現実化・明白化します。さらに、人クローン個体の産生に固有の重大な問題として遺伝的形質が複製された人を意図的に産生するということがございまして、実際に産まれてきた子供などに対する人権の侵害が現実化・明白化することになり、個人の尊重という憲法上の理念に著しく反することが挙げられる。よって、人クローン個体の意図的な産生は、その弊害の大きさから全面的に禁止されるべきものであり、強制力を伴った形で法律による規制を行うことが適当である。こちらが大方受け入れられております意見でございます。

  そのほかの考え方といたしまして、まず、人クローン個体の産生も、ガイドラインによる規制で十分防止できることから、法律による規制を行う必要はないという考え方もございます。あるいは人クローン個体の産生は禁止すべきであるが、ほかの生殖補助技術などの規制とのバランスを考えた規制またはヒト胚などの操作全般についての規制、こういう全体をとらまえた枠組みの中で検討すべきだという考え方もございます。

  いま一つ、実行面の話といたしまして、法律により規制を行う場合でも、医師法などによる免許の取り消しなどにより対応すれば十分であり、クローン個体の産生などを禁止する新規の立法は必ずしも必要ないとの考え方も示されました。

  以上が人クローン個体の産生に関します意見でございます。

  もう一つ、人と動物のキメラ、あるいはハイブリッド個体の産生についても議論がございました。ここで申しますキメラは、一番下に注書きしてございますが、キメラ個体とは、キメラ胚に基づく個体のことを指しまして、人の細胞と動物の細胞とのそれぞれ特徴を持つものが入り混じった状態のものでございます。それに対しまして、ハイブリッドと申しますのは、人の精子と動物の卵子、あるいは人の卵子と動物の精子との組み合わせというものを考えてございます。

  これにつきましては、人と動物のキメラ、ハイブリッド個体の産生は、産まれてくる子供の身体的安全性の問題、家族秩序の混乱、人間の育種及び手段化・道具化等について、人クローン個体の産生を越える問題を有する行為であるのに加え、産まれてきた個体等の人権の侵害による個人の尊重の侵害という面でも、人クローン個体の産生を越える問題を有する行為であり、その弊害の大きさから全面的に禁止されるべきものであり、強制力を伴った形で法律による規制を行うことが適当である。

  この点につきましては、基本的には人クローン個体の産生と同様のご意見がございます。

  以上のことにつきまして、A3で折り込んでございますヒト胚等の規制範囲マップというものがございます。こちらは、議論の整理のために事務局が作成して、小委員会の場で議論の参考としてご紹介申し上げたもので、これ自体が結論づけられたわけではございませんが、全体を見渡してみまして、まず対象としてヒトの胚がございます。人と動物との中間といいますか、混ぜ合わせたようなキメラとハイブリッドの胚があり、さらにその手前のものとして、生殖系の細胞、精子、卵子、あるいは死亡した胎児から採取した細胞といったものがある。

  これとは1つ大きな区切りを持ったものとして、クローンの個体、あるいはキメラ・ハイブリッドの個体といったものが対象として存在し、フェーズといたしまして、臨床医学研究を含む研究のフェーズ、臨床医療、商業利用といったものの段階のものがあるということでございまして、今回、両小委員会の間で議論をいたしましたのは、特にこの個体の部分、クローン個体とキメラ・ハイブリッドの個体の部分についてどう考えたらいいかということをヒト胚などの扱いに関する基本的な考え方とともに整理をしてみたところでございます。

  以上、簡単ではございますが、ご紹介を終わります。

(岡田委員)

  11回、クローン小委員会を開きまして、その最後のまとめとして資料5−6を提出したということになります。資料5−6はヒトの個体、クローン個体産生に関しては、法律規制が妥当であろうというのが大方の意見ということでまとめました。その経緯につきましては、前回のこの委員会でクローン小委員会の中間報告をいたしましたけれども、その中で規制の形態を国のガイドライン以上の規制とすべきということでありまして、方法としてガイドラインでクローン技術全体を規制する方法、あるいはクローン技術を用いたヒト個体の生産は法律で禁止し、それ以外の部分はガイドラインに基づいて規制する方法があるということでありました。

  今、事務局から説明してもらった資料では、人クローン個体は法律による規制としてありますが、この点につきましてはクローン小委員会とヒト胚研究小委員会のメンバーであり、刑法の専門家である町野教授にお願いして、詳細な検討をいただいたところであります。本日は町野教授にも出席をお願いしておりますので、町野教授のほうから法規制について、ガイドラインとの比較、法律による規制の論理的な根拠などについて補足説明をお願いしたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。

(町野教授)

  承知いたしました。お手元の資料にあります5−9というのが小委員会、具体的には岡田先生の依頼を受けまして作成した試案みたいなものなんですけれども、一番の小委員会での議論で私が承知しているのは、規制はすべきである。しかし、それが法律によるべきか、それともガイドラインによるべきかということについて意見が分かれる。もし法律によったときについては、どのようなイメージになるだろうか、それを示してほしいということを依頼を受けましてつくりましたのが、その報告書でございます。ですから、これを踏まえました上で、若干、法律による規制というのはどのような意味を持つかということを補足説明させていただきたいと思います。

  まず一番最初に、ガイドラインを含む公的な規制もそうなんですけれども、法律による規制を行うといった場合については、理由がなければいけないということ。まず一番最初に、反倫理的であるから規制すべきであるということだけでは、おそらくこれは妥当でないだろうというわけでございます。たとえ倫理というのが多数者のもののそれであったとしても理屈は同じだろう。倫理というのは、基本的には個人、個人の問題であって、公的な問題ではないからだというわけでございます。法律によってある種の規範を強制することが許されるのは、当該の規範の違反が社会に対して何らかの害を与えるという意味での行為の反社会性と言われるものが必要だと考えられる。

  これは刑法の用語ですと、法益といいますか、法律によって守られるべき利益の侵害、あるいは期待であると言いかえてもいいということになります。したがいまして、例えば援助交際が反倫理的であるという理由だけで、これを法によって禁止、処罰するということはできない。それが例えば未成年者の健全な発達を阻害するとか、そういうようなことが理由になって初めてできるというわけでございます。人クローン個体の産生等についても、原理としては異ならないということになります。

  法律の中でも刑法というのは、刑罰という厳しい制裁を用いて規範を実現するものでありまして、処罰される者は犯罪者ということに烙印される。スティグマを与えられる。このようなことから、刑法はそれ以外の手段によって、つまり、刑法以外の手段によっては目的の達成が不可能である場合、または規制のもたらす弊害の程度が規制の目的との関係で甘受できる程度に低い場合に用いることができるというようなことが言われます。これが刑法の謙抑性と言われる原則でございます。

  しかしながら、刑法には以上のような犯罪防止のためを目的というぐあいに考えたわけですが、それ以外にも倫理的なシンボルとして、つまり、ある種の行為をしてはいけないということをはっきりさせるということも期待されることは事実でございます。これが妥当かどうかについては非常な争いがあります。しかし、伝統的にこれが認められてきたこともまた否定し得ない。例えば現在では、刑法典の中に堕胎罪の規定があります。これがほとんど空文化しているということはだれも認めるわけですけれども、依然としてそれを置いておくのは、やはり胎児の生命は守られるべきである。堕胎は悪であるということを宣言したいからだというぐあいに言われるわけでございます。

  特に先端医療技術の規制が生命倫理的な判断によって行われることが多いわけですけれども、そのときにはこの機能が重視されることが多いわけです。外国の人クローン個体の産生等を禁止する法律というのは、ほとんどが刑法によるのですが、それはこのことに由来しているように思われます。

  法律による規制と国のガイドラインによる規制とをここで比較するということになります。我が国では、医療の法的規制に関する謙抑主義というのが、いわば伝統的であったように思われます。つまり、なるべく法律は医療、あるいは科学技術の職能集団が行うそれに介入しないという態度をとってきた。その中で、国は1994年に遺伝子治療の規制に関してガイドラインを導入いたしました。これは公的な規制としてはおそらく我が国で非常に目立ったものであったということができます。しかし、これは一種の行政指導でございます。今回問題の人クローン個体の産生等の規制についても同様の規制によるべきであり、法律、特に刑法による規制の必要はないとする見解も主張されております。

  ガイドライン規制の長所というのは次のようなところにあります。まず1つは、医師、研究者などのプロフェッションの自律性を尊重するという立場をとります。それから、職能集団の自主的な監視を通じまして、緻密でソフトな対応ということが可能になります。規制行為をめぐる科学技術の進歩、社会情勢の変化に対応して、適時にこのガイドラインを動かすことによって柔軟に対応することができます。しかし、ガイドラインというのは、行政指導を明文化したものにすぎませんで、法律、つまり、行政手続法によりますと、その違反者に対して、つまり、行政指導の違反者に対して制裁措置となるような不利益な取り扱いを禁止しております。この原則を変えろという意見もあり得るわけですけれども、これは法律に基づいた行政の原理というものでございます。

  つまり、国の側が制裁を加えるには、やはり法律の根拠がなきゃいけない。行政の恣意的な判断でやってはならないという原則でございます。したがって、ガイドラインの違反行為に対して公的な制裁を加えることはできませんから、その遵守を強制するということには限度があることは認めざるを得ない。特に自制力を有するプロフェッションである人たちについてはガイドラインは意味を持つ。しかし、その外部にいるアウトサイダーに対してはほとんど意味を持たない。特に日本国に外国から人がやってきて何かするという場合については、これは全然及ばないということになります。

  他方、法律による規制の長所と短所は、ガイドラインによるそれとちょうど反対になるということが言えます。特に強制力の存在は法律による規制の大きな特色ですが、さらに国会の審議によって規制の是非、範囲を決定するという手続が法律についてはとられます。これは行政機関によるガイドラインよりも、この意味では民主主義の要請に合致した規制方法であるということができます。特にこれは2つの点で重要でございます。1つは、生命倫理の問題というのは、国民全体が議論すべき問題であって、一部の行政機関、一部の職能集団の判断にゆだねられるべき問題ではないということが言えます。そうだといたしますと、これはまさに国会で議論して、法律によって行うべきであるということが言えます。

  第2に、この技術の規制ということは、同時に、他の憲法上の幾つかの権利と衝突することがあり得ます。一番出てまいりますのは学問の自由でございます。そのほかにも、例えば治療を受ける権利、ある治療方法を禁止するということになりますと、治療を受ける権利を禁止する。あるいは生殖医療技術の規制ということになりますと、リプロダクションの権利の規制ということになります。これらは現代の社会においては、憲法上の権利として認められたものでございます。これらの憲法上の権利との衝突という事態は、これを一行政機関にゆだねるにはあまりにも大きな問題だということになります。これについては国会で議論がされてしかるべきだということになります。

  他方、この法律による規制というのは、職能集団の自律性に期待するガイドラインとは異なりまして、法的存在の制裁の存在を予告して威嚇するという、その意味ではムチをもって臨むというような規制方法でございます。そのために職能集団の自尊心を傷つけるものであることは、これは間違いない。また、規制の範囲が不明確であるときには、研究者に対して、これをやったら処罰されるかされないかわからない。それじゃ、やめておこうという萎縮的効果が働きます。したがいまして、周辺分野の研究が阻害される危険性も存在いたします。

  人クローン個体の産生等という、いわばクローン技術の革新的な部分だけを法律より規制すべきであるというのが、先ほど出てまいりました覚書でございまして、クローン小委員会とヒト胚研究小委員会の覚書でございますが、この考え方については、規制の必要性と以上のような2つの規制手段の特質等考慮した上でなされたものであろうというぐあいに理解いたします。これは、私は理解可能なものだろうというぐあいに思います。

  人クローン個体の産生等を新たに規制しようとする場合、他の生命科学技術が規制されていないということとの均衡も考えなきゃいけないということがもう一つの論点でございます。もし人クローン個体の産生等を規制する理由が、他の現在規制されていない分野についても妥当するということであるとするならば、人クローン等だけを規制して、ほかの部分を放っておくというのは均衡を失するということになるからでございます。特にこの点、我が国では特殊事情がありまして、人工妊娠中絶を許容する母体保護法が存在いたします。これは胎児の生命の保護がかなりの部分断念されているということを意味するわけでございます。また、ヒト胚への不当な干渉を禁止する法律はもとより、フォーマルな規制というものはこれ以外には存在していない。このところでクローン技術の規制ということに及んだときについて、果たしてこれとの均衡はどうなるのかということが問題になるわけでございます。

  そういたしますと、人クローン個体の産生等を規制するときも、そこの固有の規制理由と、それ以外の生命科学技術一般の規制のためにも援用し得る理由とを区別しなければいけないということになります。そしてさらに、現在、規制をしないとされております生命科学技術に関する規制のあり方についても将来検討しなきゃいけないというのが議論の順序になろうというぐあいに思います。

  そういたしますと、人クローン個体の産生の規制につきましては、産まれてくる子供の身体的安全性の危険、それから、先ほどのメモにもありましたが、胎仔生殖であることに由来する家族秩序、社会秩序の混乱、さらには人間の育種、道具化・手段化ということが言われます。これらは生殖医療技術、遺伝子操作などの他の生命科学技術についても、程度の差こそありますけれども、存在するものです。例えば遺伝子工学に基づくいろいろな胚の操作等についてもこれは言われてきたことでございます。

  しかし、以上に加えまして、人クローン個体の産生には次のような固有の反社会性があります。これが存在するということが、ヒト胚への不当な干渉の規制、禁止の現在における不存在があるにもかかわらず、人クローン個体の産生のみを取り出して規制することを是認させる理由となるように思われます。

  つまり、憲法13条によりますと、すべて国民は個人として尊重されるということになっております。これは言いかえますと、すべての人は独自の人格を持った1回限りの存在として尊重されなければならないということを意味いたします。既に存在する特定人の遺伝的形質を複製した人をつくる行為は、この意味での個人の尊重に反する行為である。国がそれを禁止せずに放置するときには、国は個人の尊重を保障すべき義務を懈怠しているということを意味することになります。また、それは同時に複製元の特定の個人の尊厳も侵害する行為であるとも思われます。

  このようなことから、人クローン個体の産生ということにつきましては、固有の反社会性、これにしか存在し得ない反社会性というのが存在するということは言えよう。しかし、人クローン個体には至らないけれども、人クローン胚の作成についても以上のような反社会性が存在しているとは言えます。しかし、その程度はかなり低いということが言えます。この点を考慮いたしまして、外国の立法令には人クローン個体の産生ばかりではありませんで、人クローン胚の作成、あるいはそれへの干渉ということも処罰するものが相当程度ありますけれども、この先ほどの覚書にもありましたとおり、人クローン個体の産生とそれ以前の問題というのを区別して規制する。そして前者は法律、後者は法律によらないガイドラインだというのも理由があるということになります。

  人と動物のキメラ・ハイブリッドにつきましても、同じような議論ができます。これも共通のいわば弊害といいますか、反社会性というのは人の生命の恣意的操作、産み出される生命、特にキメラ・ハイブリッドの場合は、産まれてきた生命というのが、つくられた生命が人であるかどうかさえ疑わしいものが存在し得るわけでございます。そのような存在の身体的安全性への危険、家族秩序の混乱というようなものがあります。しかし、それ以外にも、キメラ・ハイブリッドの場合の特色というのは、人間という種の完全性を害する行為であるということになります。人間は他の生物と截然と区別された存在であるということは、人間社会の基礎にあるわけでございます。

  生物学的に両者の分野を不明確にする行為と、それがどちらに属するかわからない、あるいは動物的なものを存在させるというのは、この基礎を堀り崩す行為であると言うことができます。さらに人間として不完全な個体が産み出されるということは、産み出された個体の尊厳を侵害する行為だとも言えます。これらはいずれも憲法13条の先ほどの人間としての尊重、クローンの場合とは違った意味でのそれに反する行為だということも言えます。

  以上でございます。

(岡田委員)

  どうもありがとうございました。クローン小委員会におきまして、町野教授に、資料5−9にあります人クローン個体の産生等を禁止する法律についての報告書の作成をお願いしまして、その次のクローン小委員会までにこれをまとめていただきました。まとめるにあたって、町野先生が人クローンに関する法律問題研究会をわざわざ別につくっていただきまして、随分の討議を重ねてくださいました。今、町野教授から説明をいただきましたように、法制面での検討も十分に加えた上で、両小委員会ではクローン個体産生は法律による禁止が妥当との方針を打ち出したのであります。ガイドラインによる規制がよいという委員も、研究に影響を及ぼさないよう個体産生以外はガイドラインによる規制という前提であれば、法律による規制もやむを得ないとのことでありました。

  また、クローン個体産生のみを特に規制するのではなく、ヒト胚全体、あるいは生殖補助技術全体を取り扱うべきとの意見も出されておりまして、これは事務局のほうからまとめとして出してもらいました資料5−6の中に併記されております。このヒト胚を取り扱う研究の部分につきましては、クローン技術の研究も含め、ヒト胚小委員会において現在、検討を進めているところであります。

  これからの日本の生命科学分野の発展を政府がプロモートするというお話が今ありましたが、生命というのを取り扱う分野は、これが人間に無限接近したときに必ず起こってくる問題があるわけで、それが今現実になっているかと思うんです。ほんとうはこういうふうな接近がなかったほうがよかったと私自身は思っているのですけれども、とにかくこの動きというのは、そういう格好で世界で動いていくでしょうから、これに対して生命倫理のベースからどう対応していくかというのは大変なところがあろうかと思っていまして、鋭意努力いたしますけれども、ちゃんとできるかどうかというのはやってみないとわかりません。

  以上で小委員会での検討状況につきまして、ご紹介いたしました。このことにつきまして、皆様方のご意見を聞かせていただけるとありがたいと思います。

(井村委員長)

  岡田委員、どうもありがとうございました。

  小委員会は大変頻回に開催をしていただいて、熱心に議論をいただきまして、その結論は今お聞きいただいたとおりでございまして、若干の少数意見はありましたが、多数意見として法的な規制をするべきであろうという結論となりました。これにつきまして、これからご自由に討論をいただきたい、そのように思います。いかがでございましょうか。

(島薗委員)

  わかりやすくご整理くださって、問題点がはっきりしてきたように思います。私も少し議事録などを読みまして、どういうことが議論になっているかというのを勉強してまいりました。その印象から申しますと、小委員会の役割と親委員会、生命倫理委員会の役割というのをまずはっきりさせたほうがいいのではないか。小委員会は技術的な問題から入り、どこに問題点があるかということを明らかにして、その個別の問題に対してどう対処するか。そこに主たる役割があると思うんですけれども、生命倫理委員会のほうは、それを踏まえながら、より大きな方針を論ずるべきところではないかなと思います。

  ですから、小委員会から出てきた法律が適当であるということに関係して、どういうふうなマクロな問題が出てくるかということを考える必要があるんじゃないかと思うんですね。今の町野先生のお話でも、これは国民的議論が必要なことである。だからこそ、法律で扱わなければならないんだとございました。それから、クローンとか、キメラ、その2つ取り上げられております、これだけを特別に法制化する理由ということを述べられましたが、その背後にはかなり哲学的な問題が入っている。なぜそうでなければいけないかということに関して、人間観、世界観に関する問題が入っているように思うんですね。そのような問題がどこでどういうふうに議論されるのかということについて今後の見通しをお考えいただく必要があるんじゃないかと思いました。

(井村委員長)

  ありがとうございました。

  1つの重要なポイントを今ご指摘いただいたわけでありまして、それはこの生命倫理委員会と小委員会の関係であります。生命倫理委員会としては、すべてを小委員会にゆだねたというわけではございませんで、細かい点について十分審議をしていただくというために小委員会を設けたと理解をしております。したがいまして、この親委員会である生命倫理委員会で十分討議をしていただいて、そして最終的には生命倫理委員会としての意見をまとめる必要がある。そういう責任がこの生命倫理委員会にはあると私は考えております。

  そういうことでおそらくご異論ないだろうと思うんですけれども、何かご意見があったらお伺いしておきたいと思います。ただ、法律の問題などになりますと、かなり専門的なことになって、とてもここでは議論できないので小委員会にお願いし、さらに町野先生が中心になってやっていただいたということでございます。何かございませんでしょうか。

(森岡委員)

  今ご指摘になったことですけれども、一番問題なのは、人クローンの問題だけを法律で規制するというのが、ちょっと唐突かなという気もするんですね。アメリカでは法的規制はないようですけれども、ヨーロッパではのほうはかなり生殖技術に対して法律があって、それでやっている国が多いと思います。ですから、基本的に法律をつくるという場合に、人クローンだけ切り離してやるのか、町野先生のご意見でもちょっとはっきりしないところがあるんですね。これだけ切り離してやるとき、ちょっと無理があるのかなという気がしているわけです。結局、こういう委員会では、ある程度、全体の法律化について、議論しておいたほうがいいんじゃないかという気がします。

(井村委員長)

  岡田委員、今の問題につきまして何かございますか。

(岡田委員)

  小委員長として報告させていただいたとおりで、随分いろいろな意見が出ていまして、町野教授は、これをつくられたときはクローン個体をつくるというだけではなくて、資料5−7で大体の検討すべき守備範囲がここへ出ているわけですけれども、個体をつくるというここだけをきょうは報告をいたしました。そこだけは法律規制をして、ほかのところはこれからの検討ですけれども、ガイドライン規制で動かしていくのがいいであろうという報告をしたわけですが、これを町野先生がつくられたときには、全体を法規制の中に放り込んでおいて、それで絶対だめというのと、それから、審査をしてオーケーするというものとを全体の法律の中で処理したほうが据わりはいいというお話でした。

  ただし、今の世界の動きの中から言いますと、これ全体をやると、これはなかなか、いつ終わるかわからんというところがありますし、人クローンの個体をつくるということに関してだけなら、多分、すばらしいとおっしゃる方は、私はないと思っていますけれども、国の1つの生命科学施策としては、できることは何でもやってもいいよということではありません。どうしても踏み込んではいけない問題がはっきりあって、そこは踏み込みませんということを表明するには、クローン個体は禁止するというのが一番簡単なんですね。そんな形のことはしませんよということが、今の時点では、必要なんだと思うんですね。これは私の私見です。

  それから、そういう意味で、ほかのものは法規制をすると、相当ややこしいことになります。現実的にここからこっちは、いろいろな問題があるんです。ですから、そういう意味では、はっきりと切れるところが、個体をつくるかつくらないかというところにあるので、ここのところをはっきりと切り離してでも、そういうことはしないということは非常に意味があると、私自身は思いまして、個人的にね。

  もう一つは、今、町野教授から説明がありましたように、ガイドラインと法規制の差のところで非常に私が気になりましたことの1つは、ちょうど去年の夏に中間取りまとめをいたしまして、それで総理府のアンケートをとったり、野村総研のアンケートという形の作業に入った、ちょうどそのころ、アメリカのシードさんという方、いつも出てくる人ですが、この人が、多分、東京だと思います。東京で新聞記者の方々を集めて、これは僕の耳学問でちゃんとチェックしていませんが、集めて記者会見をされて、千葉県にクローンの研究所をつくる。そこでうまくいけば、北海道でもう一つ研究所をつくる。北海道では人のクローン個体もしたいと思っているというようなことを言われたという話が僕に入ってきたんです。

  ちょうどその日に北海道新聞から電話がかかってきまして、クローンの規制はどうなっていますかということでした。ですから、シードさんにしても、何で日本でと。もしもほんとうにするのなら、アメリカでやってくれたらいいじゃないのと思いましたけれども、そういうふうな形の問題というのが、これは相当ウエイトの高いことで、それの規制ができるような条件は、日本はとっておかなきゃいかんというのも1つファクターの中に、私自身にはあって、いろいろな委員の方々との意見の調整をずっとしながら、大体その意見としてここを切り離して法規制でぴしっとやって、それから後のことはガイドラインという少しやわらかい形で具体的な問題点の処理をやってみたいものやということになったというのが経緯です。ですから、これも私見ですが、私自身としては、ここのところはいろいろな意味で法規制をしておいたほうがいいと私は思っています。

(森岡委員)

  わかりました。それは緊急性の問題が1つあるということですね。それでは、その他のガイドラインのほうはどこでどういう方向でやるのでしょうか。

(岡田委員)

  これはこれからの検討課題です。

(森岡委員)

  ですから、今の法規制のところだけやって、その他はガイドラインだよと言って、そのガイドラインの進め方をどうするか。両方を進めませんと、将来的に長い目で見ると、何か片手落ちになるような感じがしますが。

(岡田委員)

  いや、やるということで了解をとって人個体、クローンのところははっきりと規制という格好でまず出そうという話になっています。

(森岡委員)

  ガイドラインのほうはどういう組織で。

(岡田委員)

  いや、これからのことです。ある方は、もっと強い法規制というような格好のことを言われる方もあるし、法規制なんかとんでもない、ガイドラインでとにかく先へ進ませていくべきだということを言っておられる方もいるし、それはちょうど同じような議論が、ここでも添付資料の最後に、Ethical  Issues Human Stem Cell Research Executive Summary (September  1999)というアメリカの資料がありますが、ここに問題点が出ていますが、これと同じようなことを今、ヒト胚小委員会でも問題点として、ほとんど全部出ていまして、これをどういう形で考えていくかというのはこれからのことになります。

(森岡委員)

  ほかの生殖技術もそうなんですけれども、日本ではまだガイドライン、そういうものがきちんとしてないんですね。一応、各学会に任せている。

(岡田委員)

  もちろんないです。

(森岡委員)

  外国でも法律化しているところもありますし、ガイドライン的なものも、政府レベルで出したりしているように思います。日本もそういう方向に行かないといけないような気がするんですけれども。

(岡田委員)

  まだその辺は、この間のヒト胚の委員会のところで問題になっていました。そこのところでモラトリアムというようなことでやっていくという、当面禁止ということをはっきりと打ち出してやるか、それとも科学研究費で申請されてくるものの中で、政府関係のいろいろなところで。それに関するテーマのものが多分出ないと思いますが、出てくるようだったら、これを最終的にはヒト胚小委員会に最終的に生命倫理の問題点で上げてきて、そこで申請者との質疑応答をやって判断をしてはどうかという提案があって、そういう形で、もしも申請があればやっていこうか。ただ、多分、そういう申請が出てくることはまずないだろうとは思いながら、そういうことは考えておこうということで……。

(森岡委員)

  要するに、人クローンについての法律だけつくって、ガイドラインのほうは放ったらかすのは片手落ちということですね。

(岡田委員)

  ガイドラインそのものは、そんなに難しいことはないんですよ。

(森岡委員)

  まあ、どこまでのガイドラインをつくるかということですね。

(岡田委員)

  ガイドラインをつくって、委員会をつくってやればいいんですが、ただし、そういうことを例えばヒトの受精卵とか、未受精卵を今、生殖医学のほうは、生殖医学に関係する研究に関してだけは、受精から14日の間、これはまだ分化がちゃんと進んでいない、分化の始まるスタートのところです。そこまでのところは研究してもいいということで今やっているわけですが、ヒト胚小委員会が問題にしているのは何かというと、生殖医学ではないんです。そういう受精卵というのを研究に使うときに、生殖医学を超えて一般的な生命科学の研究として使うことをオーケーするかどうかという問題でして、これは多分、研究者間では簡単にいいじゃないかという話になると思うんです。

  ただし、この問題は、小委員会でも少し難しいかもしれんと実は思っているんですけれども、一般国民との対応の中で、それを許してもらえるかどうかというのをどうやったらコンセンサスを得られるかという方法論が僕にわかりません。今のところわかっていません。それで、ある意味ではそっちのほうがウエートが高いかもしれん、そう思っていまして、そこではこれから委員の方々と考えていかなければならないところだと思います。小委員会としては、多分、今の雰囲気からすれば、ガイドラインをつくって進めていこうではないかという話になると思います。それはそれでいいんですけれども、その前の段階ののコンセンサスをどうやって得るかという方法論が、今私自身にわかっていません。これは教えていただけるとありがたいんですけれどもね。

(井村委員長)

  前田委員がお帰りになるんですが、まだよろしいですか。何かご意見があれば言っていただいて。

(前田委員)

  産業界からの委員ということで、何かというようなこともございますので、若干申し上げておきたいと思うんですけれども、だからといって、産業界全体がまとまってこう言っているよという代表の話ではなくて、産業界の私個人一員として、こう考えているということでお聞きいただきたいと思います。両小委員会、大変ご努力された跡が見えまして、我々の頭も整理されてきてありがたいと思うんですけれども、特に人クローン個体の産生ということにつきましては、先ほども町野先生から話がありましたように、産業界という立場から云々ということを超えて、そのもう一つ前に、倫理的な観点だとか、あるいは反社会性が存在するかどうかとか、そういうような観点からまず考えるべきであって、法的に禁止されるべきだろうと、こういうふうに常識的に考えております。

  若干の先進国についても、そういうような方向であるということも我々認識しております。ただ、産業界、いろいろな業種がございまして、若干のニュアンスの差はあることはあるようですが、大体、個体の問題については法的規制をきちっとやっていただくほうがいいのではないか、そういうふうに感じています。ただ、今もお話には出ているような生殖補助等のプラスの面をどう考えていくのかというようなこと、できればきちんと同時に解決しておかねばならない事柄かなと、そんな感じもいたしております。

  それから、ヒト胚等の取り扱いにつきましては、産業界、おそらく医学の分野において、人類のプラスの面につながる面も若干ある。そういう点も多いということから、ガイドラインまたはライセンス制等の一定の規制条件下で、その取り扱いが認められるといいますか、ある程度の自由度でいろいろ研究開発ができるということがいいんじゃないかなと、そんなふうに考えております。ただ、私が言うのもおかしいんですが、急激な進歩を遂げている分野なので、こういうものについてはきちっと何年か後、見直し義務といいますか、こういうのも規則としてきちっとやっておかないといけないんじゃないのかなとも考えております。

  それと、先ほどもちょっと触れましたけれども、国際的なイコールフッティングといいますか、国際的同等性を失わないようなガイドラインなり規制であってほしい、こんなふうな感じを持っております。

(井村委員長)

  ありがとうございました。

  この7月にドイツで生命倫理のシンポジウムがありまして、私も呼ばれて行きました。そのときにこの問題が取り上げられまして、ドイツは法律で胚の研究をほとんど全部縛っているんですね。それに対して研究者の間で非常に不満が出ている。特にES細胞なんかほとんど扱うことができない。だから、そのときは、もう少しプラグマティックな方法をとったほうがいいという意見が研究者の間では非常に多かったわけです。だから、何もかも禁止を、非常に幅広く網をかけてしまうと後で困る。ドイツも、その法律をつくったときには、そういったES細胞なんていうことは念頭になかったわけです。出てくるとは思っていなかったので非常に厳しくかけてしまったのが、後になると非常に困った問題になっていくことがありますので。

  私もやはり基本的には、どうしてもやってはいけない、越えてはいけない一線はきちっと法律で決めておいて、あとはガイドラインなり、ライセンス制が案外いいかもしれない。どこかで評価してきちっと認めた人には研究を許すとか、そういうことでやっていくほうが現実的ではないだろうかという気がしているんです。生殖医学にあまり踏み込みますと、また非常に難しい問題があるんですね。もう既に始まってしまっているものがいっぱいあるんです、生殖医学の領域では。そこは非常に難しい問題だと思うんですが、島薗委員、どうぞ。

(島薗委員)

  難しい問題があるということは承知しているつもりなんですけれども、ここは科学技術庁の生命倫理委員会なので、科学研究の立場が優先されるということは予想はしているわけですけれども、委員会発足のときに森委員長が言われましたが、省庁間の関係で……。

(井村委員長)

  これは科学技術庁ではありませんで、科学技術会議は全体、各省庁を超えてということです。

(島薗委員)

  失礼しました。国民生活に非常に影響の多い、科学技術の中でも非常に特殊な領域だと思うんですね。国民生活、あるいは人類の生活の未来にさまざまにかかわってくる。そういう問題をゆっくり議論しながら国民的合意を得ていく、そういうプロセスがどこにあるのかということで、この委員会はそういうことに積極的にかかわっていくんだと理解しておりました。ここでいろいろなことを限定しまして、できるだけ狭い問題に入ったほうがプラクティカルで、私もプラクティカルな対応が必要だと思うんですけれども、その場合に、その先の問題、それに対してどういう対応があるかということをある程度示さないと、限定したことの正当性が弱くなると思うんですね。

  今後の見通し、例えばヒト胚研究に限って考えていく。医療政策ということは一応除外してというのならば、その問題、両方の関係はどこでどういうふうに審議がなされるのか、大変難しい問題があるということは、それは簡単には扱えないということだと思いますが、扱わなくていいことではないと思いますので、その問題が今後どういうふうに扱われていくのかということについて、科学技術会議の立場からも見通しを示しておく必要があるんじゃないかなと、そういう意見です。

(井村委員長)

  ありがとうございました。

(石川委員)

  私は、生命科学というのはよくわからない人間で、私がこの席にいるのは、多分、こういう生命科学の問題に関連した倫理の問題で、日本の社会がそれをどう受け入れていくかとか、あるいは拒否するかという、そういうようなものについての考え方を申し上げるためだろうと思いますが、そういう観点から考えてみますと、私は、先ほど来言っておられた岡田先生の考え方に賛成でありまして、個体を生む、つくるという、そういうことについておそらく国民は、今一番嫌悪感を持って見ているだろうと思うんです。だから、日本の社会の多くの人々にとって、この問題で一番ショッキングな出来事は、何といっても、人間ができちゃうということですね。このことを非常に嫌がっている。

  この問題は、私は、背景にはいろいろなものがあると思いますけれども、そう簡単におさまっていくとは思えない。私は、これを規制するということは大変大事だろうと思うので、これは法律できちんとやったほうがいい。しかも、そういう国民の意識が変わらなければ、その場合の罰則はきちんとつけて、それでやったほうがいいのではないか。ただ、先ほど来、皆さんが申されておるように、それを除いた研究のいろいろな進展ということを考えると、そこまで全部法律で縛っちゃうということは難しいでしょうから、そういう意味ではガイドラインのもとでやったほうがいい。そのほうが自由であると私は思うわけです。

  ただ、こういう問題は、とにかくこれから先何が出てくるかわからないというところがありますから、過去の法律で縛ろうと思っても、これは無理なんですね。医師の免許を取り消せばいいという議論もあったようでありますけれども、それだけでは済まない。ですから、研究が進展していって、そういう生命倫理に強く関係する部分が出てきたときには、またガイドラインのままいくか、法律にするかということは考えなきゃいけないだろうと思うんですね。ですから、それだけの弾力性を持ってこの問題をやっていくということが、私は大事だろうと思うんです。

  最初に井村先生が言われたことですけれども、いろいろ生命倫理に関係する問題が出てくるということを言われたわけです。私も先ほど申したように、こういった研究が進んでいったときに、我々がびっくりするようなことは多分出てくるに違いない。そういうときに、そういった現象が一体国民の倫理観とか、国民の道徳観、あるいは家庭生活とか、そういったものにどういう影響を持つか。つまり、そういう影響を持つようなものとして、どんなものが出てくるのかということを想像はできないかもしれないけれども、絶えず注意していないといけない、そういう感じがいたします。

(井村委員長)

  ありがとうございました。

  ほかに何かご意見ございますでしょうか。

(藤澤委員)

  私も、生命科学にも、法律にも素人でございまして、いわば純粋に生命倫理的な観点からの発言になりますけれども、そういう観点から言うと、岡田先生のご報告の中にちょっと出てきましたように、全体に法律の網をかぶせておいて、それで、その中で振り分けするのがいいんじゃないかというのは、町野先生がおっしゃったと言いましたけれども、おそらくそれが一番いいんじゃないかと思うんですけれども、ただ、ここだけは踏み込んではいけないぞということで、個体の生産のところ、今はっきり打ち出しておく、禁止を打ち出しておくという考え方も確かにリーズナブルなところがございますので、今のところはこれで仕方がないかなという感じがいたしますが、素人ながら、念のために、参考のためにお伺いしておきたいのは、これは生命倫理的にはここで線は切れないと思うんですけれども、研究の内容的にはここでほんとうに切れるんでしょうか。何かずっとつながっていくという感じを持っているんですけれども、先ほどから出ている何が出てくるかわからないというようなところの線で。

(岡田委員)

  常識的に言えば、クローン技術の最初のところの体細胞の核を交換するという格好から進む実験、これがオーケーされたとしたら、進むのは個体ではないですね、こっち側ですね。個体をつくってもあまり得にならない。いろいろな意味で、研究にもならないんですよ。研究というのは全体がボカッとできてくると、何が出るかわからんですからね。ですから、研究のほうとしても、それほどおもしろいものではない、ヒト個体をつくることは。それで、研究自体であるとすると、メリットというのはあまりないと思うんですね。デメリット側のほうが多いです。その子供をだれが面倒を見てどうするか何かから大変なことになりますからね。

  ですから、そういう意味では、あまり現実的にこれから動いていく問題としては、全体の流れとしては大体小委員会の皆さんが考えられているようなもの、個体以外のところの流れというぐあいに皆さん行くだろうから、そっち側の問題に関しての生命倫理的な問題ということでテーマを絞っていって、それで最終的にはガイドライン方式にしろ、ライセンス方式をやるにしろ、そこのところはどっちにするにしても、結局、今さっき申しましたように、石川先生がお話しくださったことと関係することなんですけれども、それを使うということに対する国民の精神的な問題で、精神的な今までのしきたりの中で動いてきたあるパターンを崩すという形があると思いますけれども、それをよしとしてもらえるかどうか。よしとしてもらえるぐらい、これはすばらしいところがあるという説明をどうやってするかということになるかと思いますけれども。

(藤澤委員)

  さっき先生がおっしゃったように、大抵、研究者に任せておくと、ヒト胚の部分でもいいんじゃないかという話になるけれども、ほんとうに国民がそれを許してくれるかどうかということをおっしゃいましたね。そこが生命倫理観の一番問題点で、研究の自由という概念は今、私は疑わしいと思っているんですけれども、しかし、この結論に関しては、これをひっくり返すという意図はございませんけれども、もう一つ、ここの個体の部分でも、法律でなくてもガイドライン規制で十分防止できるというご意見があったと書いてありますけれども、そのガイドラインで十分だということの理由は、法的にずっと、あるいは研究対象の上からずっとつながっているから、ここだけ切り離しが難しいという、そういうあれなのか。それとも、個体のところも法律で縛っちゃうと、研究の自由が阻害されるからだというような理由なのか、どういうご意見だったんでしょうか。

(岡田委員)

  今のお話をちゃんとお答えすると、一番ウエイトの高い意見は何かといいますと、結局、今まで生命科学関係の分野で法律規制という格好のことは1回もなかったわけです。それで、そういうふうなものが、これは野放しでやっているわけではありませんで、産婦人科学会でも非常にちゃんとした規制があって、そこの中でやられていることなんですけれども、これは自主規制をやっておられます。

(井村委員長)    

  このクローンとかキメラの問題に関しては、小委員会の結論を尊重して、法的規制ということを基本的にお認めいただけるかどうか。それから、ガイドラインについては引き続き小委員会で検討をしていただく。大変でしょうけれども、これはやっておかないといけない問題ですのでということでよろしいかどうか。その辺をお伺いしたいと思います。

(森岡委員)

  それで、ガイドラインというのも、官庁例えば厚生省なりがガイドラインを出すという、そこまで持っていくのか、今のようにもう少し放っておくかということなんだろうと思うんですけれども、臨床医の立場からすると、すっきりしてほしいと思う。例えば、不妊症の治療で夫以外の人の精子の提供はいいけれども、妻以外の人の卵子は何でだめだと言われても、どうも納得できないところがあります。ともかく、結論は出なくても少なくともディスカッションをするような場をつくるのが良いと思いますが。

(岡田委員)

  こういうのはどうしても後追いになるんですよ。これはしようがないことだと僕は思っていますね。

(森岡委員)

  外国なんかの場合、かなりやられているところがありますね。

(岡田委員)

  そんなことないですよ。

(森岡委員)

  アメリカは比較的自由にさせているようですが、ヨーロッパなんかは結構いろいろの規制をしていると思いますが。

(岡田委員)

  表面に出ている受精卵を操作したらいけないという原則、これはそうなんですが、多分、生殖医学領域はそれとは別個の判断でドイツでも動いていると思います。ですから、なかなか、ドイツはこうだと言われると、そうかと思うけれども、実際はまた分野が違って動いているということもありまして、だから、どうしても後追いになるんです。これ、後追いは仕方がないと僕は判断していますね。何かを決めたときに変な決め方にならないということはどうしても必要であって、そこでミスしないようにということはせざるを得ない。放ったらかすのはとてもいかんことだと思います。あと、非常に厳しい案を出せば、これは闇が横行するということとイコールですからね。ですから、そこのバランスをどうやってとっていくかという問題点は相当難しいんでしょうね、ハンドリングができるとしてもね。その前にハンドリングしてもいいかというのはよくわからないです。

(島薗委員)

  二者択一の形で問題が提起されて、そうなると、どっちを選ぶかということになりまして、私も差し当たりはそういう個別のことから入っていくしかないだろうという気がするんですけれども、少数意見のほう、全体の法律にかぶせるという意見の背後にある問題意識、それをもう少しくみ取る必要があるんじゃないかということです。議事録を拝見しておりまして、小委員会で生物学的な問題が丁寧に議論され、あるいは法律的な問題が議論されるんだけれども、なかなか生命倫理的な問題まで至らない。それはおそらく小委員会に与えられた役割があり、研究のレベルで話をとめようという限定があり、そうしますと、国民が求めているものにそれで応じられているんだろうかという、そういう疑問なんです。ガイドラインということを考えるにしても、そこに生命倫理の問題が十分反映されるような、当然、生殖技術のさまざまな問題が議論に上るような、そういう形のプロセスが今後必要ということ、クローン問題が突きつけたことから新しい事態に今入ってきているんじゃないだろうかと、そういう考え方です。

(岡田委員)

  このクローン個体のことに関しては、これは総理府のアンケートもすごい量のアンケートです。それからあと、野村総研のやってくださった、これは個人個人と対応して整理してくださったものなんですけれども、そこでの大多数の意見は、大体今提案いたしましたようなものなんですね。ただ、それが1億何千万かの日本人の代表になるのかと言われると、これは僕にはわかりませんけれども、そういう意味の一般の方々というのも語弊があるかもしれないけれども、これに直接関係していない方々のご意見というのは、このクローン個体に関してはできる限りのことはやってありまして、それで、そこでの方向性は、法規制がいいというのが圧倒的に多かった。中身の理解はいろいろずれてはいたと思いますけれどもね。

  それからあと、小委員会での生命倫理に関する討論という話になりますと、これは難しいんです、ほんとうのことを言うと。生命倫理って何かと言われましたら、これは個人個人で違うものなんです。倫理というのはもともと個人個人で違うものだと思っている。そうでしょう。

(永井委員)

  私もクローン小委員会の委員に参加していたわけですが、要するに理想的に言えば、理論体系がまずあって、こうこうこうだからこうなるというふうですとすっきりするわけですが、しかし、この問題そのものが今までになかった形であらわれてきているので、法律による規制の問題にしても、従来の法概念で適格かつタイムリーに対応できる問題かどうかということになると、法分野の人たちの間でも意見が分かれたと思います。法律というのは一たん成立すると、なかなか修正しがたい。国会を通していますから。しかし、事態がいろいろな形で変動しているのが今の現実です。法的な問題に関しても、ある程度の期限をおいてフォローアップして今後生じてくる新たな事態に対して適格に対応していくということをきちんとやるべきではないか。また、それは可能ではないかといわれる法律関係の方もおられる一方、いや、それは非常に難しいという考え方もあって一致していないんですね。

  しかし、現実が、先ほど岡田委員が言われたように、我々はフォローアップ、後追いという形にどうしてもならざるを得ないということになっています。ヨーロッパ諸国の間でも、米国においてもいろいろ違う点が出てきている。したがいまして、プラクティカルに対応してゆくということが現在とれる良策かと思います。理論的とか、総合的な考え方からすれば、何となく完全ではないというような感じを与えますが、しかし、それ以外に良策はないのではというところで小委員会としては落ち着いたかと思います。

  つまり、仮に法的なものを制定しても、きちんとフォローアップすると同時に、先ほど島薗委員が言われたように、絶えず国民の意見を聴取していくような仕組みをビルトインしていかないといけない。生命倫理に関するものは、全く今までにないような形で起きてきた問題ですから。また、ガイドラインで対応するにしてもきちんとフォローアップする何らかの仕組みをビルトインする必要があると思います。国民の意見を聞いていくということでも、今までにない対応の仕方を要求されるのではと私は判断しておりましたが。

(熊谷委員)

  3つ教えていただきたいんですけれども、質問です。一番最初の質問は人工授精、体外受精というのは、広い意味でのクローン技術に含まれるんですか。

(井村委員長)

  それは含まれません。

(熊谷委員)

  含まれない。

(井村委員長)

  はい。

(熊谷委員)

  クローン技術とは全く関係ない話ですね。

(井村委員長)

  全く関係ないです。これはあくまでも男性の胚細胞と女性の胚細胞を結合させて新しい個体を生み出すわけですから、普通の生殖の1つの変形にすぎないわけですね。

(熊谷委員)

  そうですね。私も大体そういうふうに理解していたんですが。わかりました。

(岡田委員)

  法律化が最初になると、そちらの問題点のところまで法規制がどうこうという話が出ては、えらいことになるという話が現場の先生から出てきました。

(熊谷委員)

  2点目は、このキメラ・ハイブリッド個体も含めて、人クローン個体の産生を法律によって禁止するということは、実定法の常識からいって、それ以外のクローン技術の研究や応用はよろしいという解釈でいいわけですね。

(井村委員長)

  そこはガイドラインでいきましょうと。

(熊谷委員)

  今後、少なくとも今の時点では、それ以外のものはやってよろしいという、そういうことになりますか。

(井村委員長)

  いえ、それも今、モラトリアムです。現在は、一応禁止しておりますが、それはガイドラインが出れば、そのガイドラインに従って一定の範囲でやっていいということになると思います。

(熊谷委員)

  じゃあ、引き続いて、それもセットにして決めていこうという考え方ですか。

(井村委員長)

  はい、そうです。

(熊谷委員)

  3点目は、法律によって禁止する場合には、違反した行為に対して罰則規定が必要なんですが、それはどういう程度の罰則になると考えればいいんですか。ここで見ますと、大規模な装置も要らないし、お金もそうかからないし、高度な技術も要らないので、こっそりやろうと思えばできるというようなものであるとすると、法律に違反してやっても、商売としても利益に結びつきやすいということになると、大概の罰金ぐらいだと、それでもやったほうが得だということにもなりかねないので、その罰則というのはどういうふうになるのか、検討していらっしゃるんだったら聞かせていただきたいと思ったんですが。

(井村委員長)

  町野先生に言っていただくほうがよかったですね。岡田先生、どうですか。

(岡田委員)

  町野教授は、罰則も刑量のところはあけておられました。外国の例というのは、事務局のほうで幾つか調べてくださって、ちょっと忘れましたが、相当高い罰金刑のものと安いものとありました。禁固とか何とかというのがあったかどうか忘れましたが、各国で随分違うようですね。ですから、もしも法規制をするとしたら、罰則規定のところに何か、空欄になっているところに入れなければいけませんが、これをどの委員会で決めて入れていただくのか、これは私にはわかりません。

(石川委員)

  非常に難しいのは、今ある刑法には罰則規定があるわけですね。しかし、今まで決めてきている刑法の罰則の考え方をそのままそういうものに延長していいかどうかということは問題になるんじゃないでしょうか。だから、1つの新しい現象であって、すこぶる重大な現象であるということになれば、それは過去の刑の刑量の考え方とは必ずしも一緒にならないかもしれませんね。

(井村委員長)

  ただ、これは産婦人科医が介在しないとできない、個体をつくるということはできません。試験管の中だと研究者ができますけれども、個体をつくろうと思うと、産婦人科医が入らないとできない問題ですね。

(熊谷委員)

  そうなんですか。

(井村委員長)

  まず困難だろうと思うんです。それはまず難しい。だから、そこで医者としての資格の剥奪をされる可能性はありますね。

(熊谷委員)

  それでも一生食えるぐらいの金がもうかっているんだったら……。

(井村委員長)

  いやいや、そんなにもうからないです。

(石川委員)

  僕も岡田先生の言われるように、多くの人はそっちへ行かないと思いますけれども、人間というのは変わったのが時々出てきますから、そういうことを抜きにやるという人間もいるわけで、そこは心配なんですね。ですから、私は、そのものに関する限りは、罰則は厳しいほうがいいと思います。これだけはどうしてもだめだというのについては、そのほうがいいのではないかと思うんです。

(森岡委員)

  よくわからないんですけれども、法に反して産まれた子供をどうするというようなことも、法律をつくるとなると、問題になってくるでしょうね。

(井村委員長)

  クローンではまだ産まれていないと思いますね。

(岡田委員)

  それも、もしも違反で産まれてきた子供さんがあれば、これは人間として取り扱うということの原則というのは、ヨーロッパのユネスコとかの話ではちゃんと出ているわけで、それは当たり前のことであって、それをつくった側のほうですからね、問題は。子供さんに及ぶわけじゃないわけです。これはそうしたものだと僕は理解していますけれども。

(森岡委員)

  具体的にだれの子供とするのかとか。

(岡田委員)

  ただ、それを一般の周囲の人が変に取り扱うかどうかというのは、これもまた問題で、やはりクローンをつくらないほうがいいだろうということですね。

(石川委員)

  それから、フォローアップするというお話がありましたけれども、国民がどういうふうにそれを受け取っているかと知ることは非常に難しい。ですけれども、私は、やり方としては、1つはオピニオンリーダーと言われる人たちがどう考えているかという、その調査が1ついるだろう。それからもう一つは、機関を変えて無差別抽出でやってもらって、その幾つかの統計を比べ合わせてみるというやり方と2つやると、それで正確とは言えないけれども、大体の傾向はわかるんじゃないでしょうか。だから、今度、野村総研でやられたわけでしょう、あれ。もう一つありましたね、総務庁でしたか。

(研究開発局長)

  はい。総理府で。

(石川委員)

  だから、例えばそういう世論調査を仕事としている著名な機関があれば、それを使うとお金はかかりますけれども、3つか4つぐらいのそれをつけ合わせてみると、傾向は大体わかるということはないでしょうかね。

(井村委員長)

  ありがとうございました。確かに今の問題、これからいろいろな問題が出てきたときに大切な問題、しかしまた大変難しい問題で、サミットの国の生命倫理委員会を何度かやったんですが、その問題がいつも出てくるんです。パブリックがどうして知るか。それはいい方法がないんですね。それは特に技術が難しくなればなるほど、一般の人の理解を超えてしまいますから、非常に難しいところが出てくるわけですが、クローンなんかはわりとわかりやすいので、かなりはっきりした意見を聞くことができたわけですけれども、非常に難しい問題があると思うんですけれども、これも引き続き検討をしていく必要がある。どのようにしてパブリック・アクセプタンスを得ていくかということが問題だと思います。

  そろそろ結論を出さないといけませんので、基本的に小委員会の方針で、これから小委員会のほうで最終報告の議論をしていただく。そして、次の生命倫理委員会でもう一度お諮りをして、それをアプルーヴするということでよろしゅうございますでしょうか。いろいろ難しい問題がありますけれども、そういうことでもう一度岡田先生にご尽力をいただいて、まとめていただくということにしたいと考えております。よろしゅうございますか。それで、これはもっと基本的にやらないといけないということも私もよくわかるんですが、ただ、時間の問題も必要なんですね。既にこの委員会ができて、もう2年ほどたっているのに−−まだ1年半ですか。

(岡田委員)

  長いですよ。

(井村委員長)

  2年たっているんですよね。それで何も出てこないということも自体もまた問われることなので、この時点で何らかの一応の結論は出したいという気持ちもあります。その辺もお考えいただいて、ご協力をいただきたいと思います。

  それでは、今後の生命倫理委員会の方針につきまして、若干ご議論をいただきたいと思いますが、何かございますでしょうか。今まではこの2つの小委員会が走っておりまして、かなり小委員会にお任せして、実はこの委員会も10カ月ぐらい開いていなかったわけです。しかし、それでは少し問題があるであろうということを何人かの委員の先生からご指摘いただいております。そういうことも含めまして、例えば生命倫理の基本的なあり方とか、あるいは先ほどもちょっと言いましたように、ゲノムの多型、個人差の問題が出てまいりますと、これをどう扱うかというのも、生命倫理委員会としては議論をしておかないといけない問題ではないかなという気がしております。

  これについては、一応、人の遺伝子についてはユネスコがガイドラインを出しているわけですね。ただ、そのときには多型という考え方はありませんでしたので、ある特定の遺伝子を調べる場合のガイドラインなんですが、今度は何が飛び出してくるかわからんわけですね。一斉に遺伝子を洗っていくわけですから。そういうこともどういうふうにしたらいいのかという問題もあるわけですが、今後、そういうことも含めまして、今後の生命倫理委員会のあり方で何かご意見があればお伺いをしたいと思います。いかがでしょうか。

(研究開発局長)

  先ほどの整理していただいた今後のということに関係するわけですけれども、議論を伺っていまして、これは事務方としてお諮りしておきたいのは、クローン個体産生について法律で規制することあるべしということになりましたときに、今、量刑についてどれくらいかとか、いろいろなご議論もございました。この辺はむしろ関係の実定法を扱う役所の立場があり、科学技術庁だけでなかなか判断できないところもございますから、関係の役所と相談し、その辺もある程度、議論してみないと、なかなかお答えできない部分があるわけです。ですから、その辺は並行して、ある程度方向あるべしということでございましたら、それを踏まえて、そういう検討をさせていただいて、次回またクローン小委員会、あるいはこの生命倫理委員会があるときには、その辺の見通しについても報告できるような格好にさせていただけたらと思っていますけれども、その辺をご了解いただければと思います。

(井村委員長)

  これはよろしいですね。そうしていかないと問題でしょうから。

  あと、今後の進め方とか、議論の対象とか、そういうことにつきまして、いきなりかなり技術的な細かい問題に入ってしまったという反論もありまして、ですけれども、これはクローンが出てきたために、この生命倫理委員会が実はスタートしたということもあって、ともかくクローンは何とかしないといけないということで、まずそれに入ってしまったわけですが。

(藤澤委員)

  一番最初の会合のときに、この生命倫理委員会は専らクローンだけのためにやるのかということを質問させていただいたんですけれども、いろいろな範囲があると思う。今、非常に規制をされるんですね。1年に1回のシンポジウムがあるというのも、何をしているんだろうと、自分ながら思うようになるので。

(井村委員長)

  今後は年に三、四回は開催させていただきたいと思います。

(藤澤委員)

  何をやっていたのか忘れてしまう。

(研究開発局長)

  その辺り、申しわけありません。事務方としましても、ほかの委員の方からも、生命倫理委員会につきましては間隔が、小委員会等の作業がかなり密にしていただいたことが言いわけにはなるかと思うんですけれども、進捗状況についてご報告するぐらいのことで開催させていただければと思ったんですけれども、ほかの先生方からもおしかりをいただいております。そういう意味では、その辺わきまえて努力をさせていただきたいと思います。

(井村委員長)

  何かほかにございますでしょうか。ヒトのゲノムの問題なんかどうですかね。永井先生、どうお考えになりますか。

(永井委員)

  特にありませんが、いずれ非常に大きな問題として浮上してきますね。

(井村委員長)

  既にこういうのは始まっているんです。

(永井委員)

  そうですね。先ほど岡田委員が言われたように、どうしても対応が後追いになりがちですので、事前に問題点を絶えず先取りして事前に倫理委員会に議題として提出していただいて、事務方でもあまり間を置かずに対応してゆくというのがどうしても必要だと思います。また、さっき、今までよりは回数を増やすということですから、対応の方策などについ今後かなりきちんと議論しておく必要があると思います。

(井村委員長)

  これはさっきもお話ししたようにナショナルプロジェクトという日本人の多型と病気の関係とか、そういうことをこれからやっていこうとしているときに、一度きちんと議論をしておきませんと、いかんと思うんです。ユネスコのガイドラインでいいかどうかということが1つ問題になるわけで、その辺を、ユネスコでしたか、OECD、ユネスコですね。ユネスコのガイドラインがかなり、遺伝子を操作するときのがあるんですけれども、プライバシーを守るとか、そういうことをよほど厳しく言わないと、万一そういうことが流れたことによって、どこかがプライバシーを破るようなことがありますと非常に難しい問題を起こして可能性がある。

(永井委員)

  実際に研究センターといったものが計画をされているわけですから、きちんとその点を対応していかないと、倫理委員会としても大きな責任が生じてくると思いますね。

(井村委員長)

  そうですね。しかも、外国へも取りに行くわけですね。これがまた国際的にも問題になっているわけで、例えば日本人と中国人の多型の比較をしたりとか、あるいはビルマとか、タイとか取りにいきますと、先進国におけるようなインフォームドコンセントがなかなかできない。そういう状況の中でみんな血液をもらってきているということがあるんですね。だから、問題は国際的な問題にまで発展する可能性を持っている、非常に難しい問題ですね。

  それでは、もし何かありましたら、また事務局のほうまでご連絡をいただいて、次回に少しご議論をいただくということにしたいと思います。

  最後に、この委員会の公開の問題ですが、これは委員の方に反対もありまして、この生命倫理委員会は非公開でやっております。しかし、小委員会は公開をしていただいているわけです。それで、この委員会ももう少し公開性を高めるために議事録を委員のご発言の名前もつけて公開をしてはどうかということが出ているんですが、いかがでしょうか。その前に一応ごらんいただいて、お目通しいただいて、問題があれば削除していただくということで、そういう形で扱ってよろしいかどうかお伺いをしたいと思いますが、いかがでしょうか。

(藤澤委員)

  そういう要請が強いんですか。

(井村委員長)

  いろいろなところからあるんです。基本的に政府の会合を公開するということになっていますので、ただ、私は、何もかも公開する必要は必ずしもないと思っておりますけれども、しかし、公開性といいますか、透明性を高めるために、公開しない場合にはできるだけきっちりした議事録を出すということになっておりますので、そういうことでよろしゅうございますか。その前にお目通しいただいて、それから出すということにしたいと思います。

  あと、事務局から何かありますか。次回の予定とか。

(ライフサイエンス課長)

  できれば、次回について、先ほどお話もございましたように、3カ月に1回ぐらい、四半期に1回ぐらいということで、できれば12月前後、11月の下旬か12月ぐらいに開催させていただきたいと思いますが、きょう時間をセッティングするのは、ご欠席の委員もございますので、また後ほど早めに、できるだけ参加できるような形でしたいと思います。よろしくお願いします。

(井村委員長)

  それでは、ちょうど予定の時間になりました。大変長い時間、どうもありがとうございました。

−−  了  −−