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科学技術会議生命倫理委員会議事録
(第10回)
   
1.日時    平成12年6月14日(水)    14:01〜16:12 
   
2.場所    科学技術庁第1・2会議室 
   
3.出席者 
    (委  員) 井村委員長、石塚委員、位田委員、岡田委員、熊谷委員、島薗委員、高久委員、永井委員、
                 藤澤委員、前田委員、町野委員、森岡委員  
    (事務局)科学技術庁  池田研究開発局長、崎谷審議官、小田ライフサイエンス課長、
                 佐伯生命倫理安全対策室長他  
   
4.課題 
    (1)ヒトゲノム研究に関する基本原則について 
    (2)ヒト胚研究について 
    (3)その他 
   
5.配付資料 
    資料10−1  意見公募取りまとめ結果 
    資料10−2  意見公募に寄せられた主な意見と対応 
    資料10−3  ヒトゲノム研究に関する基本原則について(案) 
   
6.議事 
(井村委員長) 
  大変お待たせいたしました。お忙しい中をお集まりいただきまして、ありがとうございます。ただいまから第10回生命倫理委員会を開催いたします。 
  前回既にご議論いただきました、ヒトゲノム研究に関する基本原則(案)につきましては、その後、一般の意見公募をいたしまして、およそ100件近い、非常にたくさんの意見が寄せられました。それを受けまして、小委員会で非常に慎重な審議がなされまして、そういった意見も大幅に取り入れた改革案がまとまりました。  
  本日は、その基本原則につきましてこれからご報告をしていただいて、ご審議をいただく。そして、最終的に決定ということにさせていただきたいというふうに考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。  
  それでは、事務局から配付資料の確認をまずしてください。 
(事務局) 
  それでは、配布資料の確認をさせていただきます。 
  資料10−1が意見公募取りまとめ結果でございます。資料10−2が意見公募に寄せられました主な意見と対応について記載されたものでございます。 
  資料10−3でございますが、これが今回主に議論いただきますヒトゲノム研究に関する基本原則の案でございます。 
  以上でございます。 
(井村委員長) 
  それでは、議事に入りたいと思います。 
  本日は、ヒトゲノム研究小委員会の高久委員長が文部省の会合の都合で少しおくれるということでございますので、まず、ヒトゲノム研究に関する基本原則(案)に対する意見公募の結果と小委員会での意見に対する対応方針について説明をしていただきまして、その後でこの基本原則(案)のご審議をお願いする、そういう順序で進めさせていただきたいと思います。  
  それでは、事務局から説明をしてください。 
(事務局) 
  それでは、お手元の資料に基づきまして、ご説明申し上げます。 
  資料10−1でございますが、全体どのようなご意見を寄せられたかという数について記してございます。 
  募集期間はここにありますように、4月11日からほぼ1カ月。 
  対象といたしまして、学術団体に336団体、社会団体に70団体弱、さらに地方公共団体は都道府県及び政令指定都市すべて、こちらに基本原則案を送付し、意見を求めてございます。  
  また、一般の方々につきましては、科技庁のホームページを通じて公開するととともに、意見公募の趣旨をプレス等を通じて周知を図ってございます。その結果、電子メール、電話等にて問い合わせのあった42件ございまして、基本原則案を送付し、意見を求めておりまして、全体の結果といたしまして、合計で95件。学術団体11、社会団体10、地方から2、一般から72。一般のうち医・理系専門家と思われる方が34件と、こういう内訳になってございます。  
  後ろに状況等を若干分析した資料を添付してございます。 
  この公募の結果寄せられました主な意見とその対応につきまして、資料10−2に基づきまして簡単にご紹介したいと思っております。既にお手元にお送りしてある資料でございますので、逐一のご紹介は避けさせていただきますが、まず、1ページ目でございます。それぞれ全体と各章ごとのコメントがございまして、まず全体へのコメントでございます。  
  まず、全体はよくまとまっており、基本的考え方に賛同するという意見が見られてございます。2番目といたしましては、ゲノム研究に関する正しい知識を持ってもらうことが必要だというご意見がございました。また、ヒトゲノム研究を肯定的に認めるというスタンス、実施するという前提があるのは問題ではないかというような批判的なご意見もいただいております。  
  0−4でございますが、ゲノム研究の範囲がどこまでかというようなご指摘がございまして、これを受けまして、解説のはじめにヒトゲノム研究についての記載を加えてございます。  
  次の0−5でございますが、基本原則がどれだけ守られるか、徹底されるかということについての危惧の念が寄せられています。これにつきましては、特にこの基本原則に基づく指針の策定の際に実効性への配慮がなされていくということを考えてございます。また、さらに対応が必要な点につきましては、法律面での対応も考慮しながら検討がなされていくべきという考え方でございます。  
  次のページでございます。0−6でございますが、画一的な規制ではなく、倫理委員会を通じた規制といったことが妥当ではないかというようなご意見が寄せられてございます。  
  0−7でございますが、特に応用の段階において問題が発生しやすいのではないか。臨床に関する指針が必要だというご意見。これにつきましては、基本原則は専ら「研究」を対象としておりまして、「応用」については、別に原則や指針が検討されていくべきであるという整理でございます。  
  0−8でございますが、細部にわたる指針が必要だということ。これはこのとおり指針を今後定めていくこととされております。 
  0−9でございます。倫理委員会にゆだねられるところが大きいが、その実効性に疑問があるということでございまして、これらのコメントを踏まえまして、文中に機関外部の人を入れる、倫理委員会に外部の人を入れるということを明記してございます。さらに、委員会の組織、手続規則、審査結果について情報公開をすることにより、倫理委員会の機能は十分に発揮され、評価されるものということを考えてございます。  
  0−10でございますが、インフォームド・コンセントの理念等例外規定がございますが、それが前に出過ぎているのではないかということでございましたが、本基本原則をまとめるにあたって、小委員会といたしましては、例外的ではあるが、現実と照らして重要なことについてきちんと取り上げていく必要があるという整理でまとめてございます。また、わかりやすい表現等が必要というご指摘がございまして、用語解説をつけてございます。  
  受動文が多く主体が不明という点につきましては、基本的には文脈から主体が明らかと考えてございますが、わかり難い文については、理解しやすい文に修正を加えてございます。  
  次のページでございます。全体的に研究者が主体の文章にすべきではないかというコメントがございましたが、これにつきましては、この原則は、研究者のみならず、試料を提供する一般の方々、血縁者、それに社会全体が持っていてほしい認識の基礎となるべきものということで考えてございますので、そういう整理でございます。  
  次の0−14でございますが、基本原則案を作成する過程での議論を公開すべき。委員会の構成員への指摘といった点もございます。これにつきましては、小委員会の議事を一般に公開するなどの措置をとってございます。  
  0−15でございますが、厚生省において指針が作成されるなど研究者が複数の機関で作成された基準に沿って研究せざるを得ない状況にならないよう、よく調整をとってほしいということでございまして、これについて、基本原則案は憲法的位置づけの原則を示したものであって、また、これに基づきまして個々の指針がつくられていくわけでございますが、その際、そごが生じないように調整されていくべきという考え方でございます。また、意見募集についてのコメントもございました。  
  以下個別に入っていきます。 
  まず、「基本的考え方」の部分について幾つかコメントがございまして、「科学研究の自由」が「基本的な人権の中核」であるとは考えられないというご指摘がございまして、記載を改めてございます。0−18も同様にご指摘を踏まえて、「戦争等特殊な社会的状況」下のみではないということを表現するような修文を加えてございます。  
  次は第一章へのコメントでございます。ヒトゲノムの意義につきまして、「遺産」という表現は不適切じゃないかというのが1−1でございますが、これについては解説に説明を加えまして、誤解がないようにしてございます。1−2ございますが、ゲノム「崇拝的」な表現に対する批判というものが見られました。この点も指摘を踏まえて、記載を改めてございます。  
  第二のゲノムの多様性と個人の尊厳と人権に関するコメントといたしまして、「差別」あるいは「差別的条件」に対する歯止めとしては、書かれている表現が弱いのではないかということがございました。この点も踏まえまして、解説を修文いたしてございます。  
  2−2でございますが、「個人の独自性と唯一性を示すゲノム」というのを強調しますと、遺伝子治療が否定される印象を受けるというご指摘がございまして、解説において説明を追加してございます。  
  次に、「第二章  研究試料提供者の権利」の部分についてのコメントでございます。 
  まず、インフォームド・コンセントにつきまして、手続が本当になされるか懸念する声がございました。この点につきましては、指針において実効性の担保が図られていくべきだという考え方でございます。また、インフォームド・コンセントの際の同意だけでなく、説明も原則として文書で行うべきというコメントがございましたので、この点を踏まえて解説を修文してございます。  
  次、5ページでございます。5−3「同意は、原則として文書で表明する」という部分でございますが、この「原則として」を削除すべきとのご意見が見られまして、これを踏まえまして削除してございます。  
  第六でございますが、「同意能力を欠く者」に関する規定の部分でございます。これにつきまして代諾を認めるべきではないというご意見もございます。これについて、特にその研究に同意能力が認められない者を含めることに必然性があるといったような条件が必要であるということを本文の解説で言及するよう修文してございます。6−2、表現文についての指摘でありまして、これは「同意能力の認められない」という表現のとおり修正してございます。  
  第七、「研究の多様性の考慮」に関するコメントでございます。「多様性」に関する説明が必要である。あるいはインフォームド・コンセントの取得をないがしろにするような根拠として悪用されるおそれがあるというようなコメントがございまして、解説の部分を修文しました。  
  第八、「インフォームド・コンセントの手続の例外」に関するところでございます。これにつきましては、他の研究目的に用いる場合は、同意の取り直しが必要である。あるいは予想される研究目的と異なる場合は、同意の取り直しが必要があるといったような同意の取り直しが必要ではないかというようなコメント。あるいは試料が匿名化される予定であっても、インフォームド・コンセントの手続が簡略されるべきではないといったようなコメントがございます。これにつきましては、次のページでございますが、特に本原則が、先ほど申し上げたように、理想的な場合のみならず、例外的なものでも重要なものについては記載するという考え方で整理してございまして、特にインフォームド・コンセントに係る手続の妥当性は倫理委員会によって審査され、具体的にどの手続が調整されるか、個々の研究計画ごとに適正に判断されていくものとの考えでございます。また、特に同意そのものについては簡略化されない旨を解説に加えてございます。  
  8−6でございますが、どの手続が省略できないか明示すべきというのがありまして、ご意見を参考に修文を加えてございます。 
  続きまして、第九、「既提供試料」、この原則前の提供の試料についての扱いのものでございますが、必ず再同意を取得すべきということ、同意範囲外の試料の使用は必ず再同意を取得すべきということにつきましては、これはその手続の妥当性について、倫理委員会によって個々の研究計画ごとに適正に判断されていくものという考え方でございます。  
  9−2でございますが、新たに同意を取得することを原則とすべきということを記載すべきというご意見がございまして、これにつきましては、基本原則の中に、原則として再同意すべき旨、これを新たに明記してございます。その上で手続の例外の可能性を示すものについてはそのまま残しているという修文を加えてございます。  
  9−3、連結可能な試料の場合の再同意の取得のコメントでございますが、これも個別の研究計画ごとに判断されていくものと考えています。 
  9−4でございますが、特にバンクについての指摘がございまして、公的バンクという制限をかけるべきではないかというコメントでございますが、ご意見を参考に、由来が明確で正当であるということを条件とする旨記載を加えてございますが、「公的なバンク」と一義的に限定するのは現状に合わないという判断もございまして、そこについては変更は加えてございません。  
  9−5でございますが、連結不可能であって匿名化された試料、これはバンク等の試料と同じか、それに近い試料として取り扱えるのではないかというコメントでございますが、こういったものにつきましても、第一から第四項に従って取り扱われるべきとの考え方でございます。  
  続きまして、第十の部分、「同意の撤回」に関する部分のコメントでございます。撤回できる期間は具体的に提供者に知らせるべきというご意見がございまして、解説を修文してございます。  
  10−2、表現について、かなり提供者の自由が限定的な表現になっているのではないかというご指摘でありまして、参考に修文してございます。 
  続きまして、第二節で提供者の遺伝子情報の保護等の問題につきましてのコメントがございます。 
  まず第十一、「遺伝子情報の保護管理と体制整備」、これにつきまして、これらの研究を監督、査察する第三者機関あるいは政府機関が必要であろうというようなコメントでございます。これにつきましては、実効性の担保について、指針の策定の際に検討対象に加えられる必要があるということと、各機関の措置が倫理委員会で審査されることにより担保されるという考え方でございます。他の研究機関に提供する場合の原則が記載されることが必要というコメントがございして、これは指針で定められるべきと考えられますが、それについて補足してございます。  
  11−3といたしまして、データの管理方法等の具体的管理方法について定めるべきということでございます。本基本原則では、考慮すべき要素は示してございますが、具体的な方法などは別途国で定められる指針により示されるとともに、各研究機関の措置が倫理委員会で審査されるという考え方でございます。  
  「情報の漏洩」に関しまして次にコメントがございます。罰則の規定、法律の制定が必要とのコメントでございますが、基本的には、現行法に基づいて適切な対応がなされることになりますが、必要に応じて現在検討が進められている個人情報保護に関する立法など、こういったものについての検討も必要だろうという整理でございます。  
  「知る権利」について、表現ぶりが不適切とのご指摘がございまして、解説の記載を改めてございます。また、「知る権利」についてインフォームド・コンセントに際して説明されるべきということにつきまして、解説の中で追加いたしました。  
  13−3でございますが、知らせるにあたって遺伝カウンセリングが重要としてございまして、遺伝カウンセリングについては、第十九のところで記述されており、解説に記述を追加してございます。  
  第十四の「知らないでいる権利」でございます。この点につきまして、14−1でございますが、第2項は、第1項の知らないでいる権利に反するので削除すべきと。この第2項は、本人の意思に反しても治療の可能性があるものなどにつきまして、知らせることがあり得るとの規定でございました。この点についてご指摘がございまして、小委員会でもかなり議論しました結果、ご指摘を踏まえまして、治療等が可能であっても知らないでいたいという提供者の意思が明確な場合には、あえて知らせるものではないことといたしまして、2項を削除し、それに伴って解説を変更してございます。最終的には提供者の知らないでいるという意思を尊重するという方向でございます。  
  14−2、インフォームド・コンセントに際して知らないでいる権利について説明されるべきというご指摘、これは解説に追加してございます。 
  14−3、主治医という言葉が唐突に出てくることについてのご指摘がございまして、研究者、主治医に限定されないために、その点は削除してございます。  
  14−4、知らせるにあたっての遺伝カウンセリング、これは先ほどの遺伝カウンセリングの同様のものでございます。 
  14−5の予防できるという定義のご指摘がございましたので、予防または治療が可能と認められるときにはという部分で解説の中身を変えてございます。また、もともとこの文があった2項については削除されております。解説の中でのみ書いてございます。  
  次は第十五でございます。これは「血縁者等への情報開示」の問題でございまして、血縁者の範囲を定めるべきとのご指摘がございましたが、これについては、まさに個別の研究の条件、疾患の種類により、さまざまなところで変わってくるかと思いますので、個別に倫理委員会で判断される必要があるということを考えてございます。その旨は解説に記載しました。  
  15−2、第2項、提供者の意思にかかわらず血縁者に情報を開示するケースでございますが、これについての考え方を削除すべきではないかというコメントでございます。これにつきましては、提供者の自己の遺伝子情報に関する権利をあくまで尊重する考え方と、血縁者等の人命を救うことを優先させるという考え方がございます。この基本原則は、今お手元の資料では「後者の立場に立っています」となっているかと思いますが、ここはご指摘も踏まえつつ、かなり議論をした結果、明確に後者の立場に立つということではなく、「後者をとる可能性もあけておくべき」との考え方を採用してございまして、基本原則の中でもその旨修文を加えて、そういった可能性があるとの書きぶりにしてございます。遺伝カウンセリングの問題も次の15−3でございますが、ご指摘がございました。これは以前と同じでございます。  
  15−4でございますが、提供者の意思に反してまで血縁者に伝達する、その理由を明示すべきということでございますが、解説に明記してございます。 
  15−5、代諾者への情報開示のご指摘がございまして、これについても解説に追記してございます。 
  次は第十六、「差別の禁止」でございます。刑事罰、法整備等の措置が必要とのご指摘がございました。これにつきましては、現行法においても適切な対応がなされることになりますが、特に成果が応用される段階ではさまざまな問題が起こると考えられ、今後検討されるべき重要な課題と考えられます。  
  また、生命保険加入に関しては差別とは言えないというご指摘がございましたが、特にこの原則は研究について定めたものでございますので、遺伝子診断に関する指針の策定等とともに、保険にかかわる問題なども議論されるべきだと考えられます。解説に一部変更を加えてございます。  
  16−3、差別の禁止の対象として、提供者のみでなく、血縁者、家族も明記すべきという点につきまして、具体的な例として解説に記載をしてございます。  
  「第三節  その他の権利等」として無償原則。17−1、知的所有権の範囲や権利者がどのようになるかこの原則では不明であるというようなことがございましたが、まず、提供者が当然には知的所有権を主張できないということを、インフォームド・コンセントの際に説明することについて解説に記載してございます。また、研究結果が知的所有権として認められるか否かは、一定の基準に基づいて特許庁で審査されるものであり、その旨に関して解説に加えてございます。  
  17−2でございますが、提供者の知的所有権を否定できるものではないのではないかというコメントをいただいてございますが、提供者は、知的所有権を当然主張できないということ、この点については、さっきの十七にありますように解説に加えてございますが、提供試料をもとに治療法等が開発された場合に、特別の有利な地位を与えることが考慮され得るというようなことを解説に加えてございます。  
  第十八、「損害の補償」でございます。実効性に疑問があるというようなコメントでございますが、賠償などについては、民法などの現行法に基づいて適切な対応がなされると考えてございますが、指針の策定の際について配慮がなされるとともに、必要に応じて現在進められている個人情報保護に関する立法の検討などにより、担保されることも考慮されるべきとの考えでございます。  
  第十九の社会的心理的支援、遺伝カウンセリングの体制整備が必要であるというのがまず1点目としてございます。これについては、今後検討されるべき重要な課題だと考えますが、十九の解説を修文いたしてございます。  
  19−1、遺伝カウンセリングを受ける権利があるとすべきというご意見がございましたが、権利自体として現行法に明示されていないため、「受けることができる」という表現をとってございます。  
  第三章  研究の実施の基本的要件でございますが、研究の自由が尊重されていることは評価というご指摘がございました。また、二十一で研究が有意義であるということについて、有意義は削除すべきというようなご意見がございましたが、この点につきましては、まさにゲノム研究が人の尊厳や人権を損なうおそれがあるということから、いたずらに行われることがないように定められたものでございます。ただし、真の研究を目指して科学の進歩にとって意義があるということも含まれる旨は解説に明記されてございます。  
  次のページでございます。倫理委員会につきまして外部の人間を入れるべきとのコメントがございまして、これについて解説文中に「機関外部の人間を登用すべき」旨を明記してございます。情報公開を徹底すべきというご指摘もございまして、その点については明示してございます。  
  23−3でございますが、倫理委員会自体の機能の審査が必要ということでございます。これにつきまして、解説に特に倫理委員会の審査や判断の実効性は、この透明性が保障され、社会がその審査と判断とを検証することによって確保されるという考え方を明記することといたしてございます。  
  「第四章  社会との関係」へのコメントでございます。二十四、理解・支援と説明責任でございますが、情報公開、理解増進を徹底すべきというようなご指摘がございました。また、有用性を前提とした記述を改めるべきとのご指摘がございましたが、負の側面は「基本的考え方」や「第三」に述べた上で、この項では社会に貢献する面について説明しているものでございます。  
  第二十五の成果の公開と社会への還元につきまして、人類共通の財産であって、知的所有権を全面的に認めるべきではないとのコメントをいただいてございます。これにつきまして、知的所有権の範囲や権利者については、この基本原則で定めるというよりも、別途検討されるものであり、また、知的所有権で認められるか否かは一定の基準に基づいて、特許庁における審査という考え方でございます。  
  次のページでございますが、成果の公開は積極的に行うべきとのご意見をいただいてございます。このご意見を踏まえまして、対応のところでございますが、第二十一の項に「研究の結果得られたヒトゲノム塩基配列情報は、公開されなければならない」との1文を追加することとしてございます。  
  25−3、提供者等のプライバシーの保護がされるべきということ、情報公開にあたって保護されるべきというご意見もいただいてございます。25−4では、情報公開の範囲を示すべきとのご指摘もいただいてございます。これらにつきましては、具体的な手続として、指針なり、実施規定等に盛り込まれていくべきと考えられます。  
  二十六の「適切な措置と対応」の部分についてのコメントでございますが、法律の整備を行うべきというご指摘がございます。ここは現行法に基づいて適切な対応がなされることになりますが、指針策定の際の配慮、あるいは今後の立法の際の検討などにより担保することも考慮されるべきという考え方でございます。  
  26−2、適切かつ迅速な判断と対応を行うべきの主体を明確化すべきということでございますが、この基本原則の主体、国、地方公共団体、各研究機関など研究機関すべての主体において行われるべきということから主の特定はなされておりません。  
  第二十七、「教育の普及と情報の提供」に関してのコメントもいただいておりまして、これらを積極的に進めてほしいということ。あるいは人材の養成を盛り込んでほしいということが指摘がございます。この点については、解説にその旨の記載も追加してございます。  
  また、基本原則は全国の大学、各省の研究所などに通知されるべきというご意見をいただいてございますが、この基本原則は、制定された後に研究機関等に広く周知するとともに、インターネット、冊子の配布等を通じて一般社会にも広く周知することを考えてございます。  
  附則について、見直し規定を置くことが妥当というご意見、あるいは適切な時期が不明確であるとのご意見がございまして、解説において3年から5年で再検討していただく旨の指摘を明記いたしてございます。  
  以上、簡単ではございますが、意見公募に寄せられた主な意見と対応について、整理してご説明申し上げました。 
(井村委員長) 
  ありがとうございました。 
  ただいまの説明のように、非常に多くの意見が寄せられまして、それについてかなり慎重に三度にわたってやったんですね、小委員会。議論をしていただきまして、多くの意見を取り入れて、基本原則案、修正案ができました。そこで、この基本原則案の起草者であります位田委員からヒトゲノム研究に関する基本原則(案)について、ご説明をいただきたいと思います。その後で、序文については事務局から説明をしていただきます。その後、当委員会として審議をいたしまして、ご同意いただければ、序文をつけた上で、最終的にこれを最終案として公表する、そういうことにさせていただきます。  
  それでは、位田先生、よろしくお願いします。 
(位田委員) 
  それでは、ご説明申し上げます。資料10−3でございますが、前回の生命倫理委員会で前の案につきましては、一応ある程度詳しくご説明したと思いますので、今回は特に、その後ヒトゲノム研究小委員会のほうでパブリックコメントの意見も踏まえながら、議論の中心になった点を取り上げてご説明を申し上げたいと思います。  
  資料10−3の2枚目からがヒトゲノム研究に関する基本原則で、その前に序がありますが、これは後で事務局のほうからご説明いただくということでございます。  
  3枚目から基本原則の本文が始まっておりますが、この基本原則のまず最初に「基本的考え方」というのがございます。前回の生命倫理委員会では、特にこのヒトゲノム研究に関する基本的な考え方という点において少しご議論がございました。とりわけ、生命科学、もしくはヒトゲノムを研究して、一体どういう役に立つのかということを、やはりある程度明記しておかなければ一般の人にはわかりにくいということがございました。それから文部省の学術審議会でありますとか、その他のご意見もございまして、特に基本的考え方では2の「生命科学は」という段落のところで、ちょうど2行目から3行目、4行目あたりになりますが、「生命科学の研究成果が医療や農業などに応用され、人類の健康や福祉の発展に大きくこれまで貢献してきた。とくにヒトゲノム研究に関しては、従来の医学では困難であった疾病の予防や治療に明るい希望を与えている」と、そういうプラスの面を改めて強調する形にいたしました。基本的考え方に関しては、それ以外は、大体前回の生命倫理委員会でもご理解をいただいたと思いますので、大きく変更した点はございません。  
  それから原則そのものに入りますが、資料の2ページと番号を振ってあるところから第一章が始まりますが、ご説明をするにあたっては、むしろ資料の9ページ目をあけていただきたいと思います。9ページ目から基本原則の解説という部分が始まります。その次のページ10ページから基本原則そのものの本文を挙げながら、それぞれについて解説をつけるという形にしておりますので、むしろこちらのほうを使いましてご説明を申し上げたいと思います。  
  先ほど事務局のほうからご説明がありましたパブリックコメントの意見とそれに対する対応を小委員会のほうで3回にわたって議論をいたしまして、その結果がそれぞれ組み込まれてございます。前回も申し上げましたが、この解説の部分につきましては、それぞれの原則の理解をよりよく進めるために、それから実際の研究において適切に適用されるということを目的としてつくりました。そういうことを前提にして、解説の1の3段落目で「この『基本原則』は、ヒトゲノム研究における『憲法的文書』として位置づけられる」という位置づけでございます。この基本原則が一番頭に来まして、具体的に研究を行うにつきましては、より詳細な指針が今後つくられることになります。  
  それから、基本原則の対象範囲というのが「はじめに」の2のところにございますが、ここの最初の行のところで、「ヒトゲノムに関する知識を発展させ、またそれへの寄与を目的とする研究」、これを「ヒトゲノム研究」というふうに位置づけました。かなり抽象的な一般的な言い方でございますが、ヒトゲノムに関連する研究は、すべてこの基本原則の一応の対象になるということでございます。もっともヒトゲノムの研究とその応用というのは、必ずしもきちっと線が引けるわけではありませんので、研究の部分につきましては、この基本原則を置きながら、他方、応用については、この基本原則が直接に対象にするわけではないけれども、この基本原則に盛られた諸原則の精神といいますか、その内容は、応用の部分においても、それからより一般的に、生命科学研究一般についても参照され、利用されることが望まれると、そういう位置づけをいたしました。  
  原則の本文に入りますが、第一章は、「ヒトゲノムとその研究のあり方」というところでございます。先ほど少しご説明がございましたが、原則第一の1のところに「ヒトゲノムは、人類の遺産である」という項目を挙げました。これについて、パブリックコメントでありますとか、小委員会で少し議論がございましたので、これをよりわかりやすくするために、第1項、第2項はヒトゲノムの持つ意味を示しているという段落を詳しく書き込みまして、ヒトゲノムというのは人類のheritageであるということを説明をしてございます。同時に、財産という考え方が必ずしもヒトゲノムの場合には妥当ではないという説明もつけ加えてございます。  
  さらに原則の第二におきましては、ゲノムの多様性、それぞれのゲノム、もしくは遺伝的特徴は個人の多様性をあらわすと。前回ご説明したときには、多様性があるから平等であって差別の対象にならないという説明をいたしましたが、それでは少しわかりにくいというご指摘もございましたので、ゲノムはそれぞれに異なっていて、その遺伝的特徴には価値の優劣はない。だから平等であって、したがって、いかなる差別の対象ともされてはならないというふうにわかりやすく書き込みました。  
  それから、遺伝性の疾患を持つ場合に、それを治療することを否定するような印象を与えるという意見がございました。これは前回の委員会でご説明申し上げましたけれども、医療というのは、人間が通常生活していく上で、何らかの身体的、精神的な不利益、負担等があれば、それを軽減するということが目標の一つである。従ってゲノムを研究して、その成果を治療に役立てること、具体的には遺伝子治療に利用するということは妥当だ、という段落をこの第二の最後のところにつけ加えてございます。  
  第三、第四に関しましては、ほとんど議論がございませんでしたし、これはこのままでご了解をいただいたものと思っております。 
  それから「第二章  研究試料提供者の権利」ということに関しましては、第一節で、まずインフォームド・コンセントという大原則を掲げております。原則の五の1がインフォームド・コンセントの一般原則でございます。13ページの解説の一番頭のところに「インフォームド・コンセントの基本は、研究試料を提供しようとする者一人一人に対して、その研究について十分に理解が得られるよう説明を行い、その者の自由意思に基づいて、書面で同意を得ることである」。これがインフォームド・コンセントの基本的な形態であるということを示しております。  
  その後で、こういう基本的な形態はありながら、さまざま状況、研究の目的であるとか、内容であるとか、提供者の状況であるとか、そういったさまざまな状況に応じて、この基本的なインフォームド・コンセントの形態が少しずつ部分的に変更されるということもあり得る。場合によって簡略化が可能であるということを書き込んでございます。  
  それから原則の第六でございますが、第六は、「同意能力を欠く者」という表現を前にとっておりましたが、それを「同意能力の認められない者」というより妥当な表現に変えてございます。それから先ほどの説明にもございましたが、同意能力の認められない者から試料の提供を受ける場合には、そういう必要性が明らかにされていなければならない。同意能力の認められない者から試料の提供を受けていいかどうかというのは、倫理委員会のもとで研究計画を審査するときに判断が行われるということになります。そして、同意能力の認められない者から試料をいただく場合には、代諾者が同意をするという形でございます。  
  原則の第七に移りますが、第七では「研究の多様性」ということをうたっております。先ほど原則の第五にインフォームド・コンセントの基本原則を掲げましたが、第七、八、九のあたりは、いわば例外的な規定です。さまざまな状況があるので、インフォームド・コンセントの基本的な形態が変更される場合があり得るということを書き込んでございます。第七では特に、資料の14ページの第七の解説の最後の行近くですが、「ヒトゲノムの研究は、目的、対象、方法がさまざまであって、個別の研究を単一の研究方法に統一することは不可能だから、最も合理的で効果的な研究手法をとることができるよう適切な研究の実施手続を定めることが必要である」というふうにまず前提を置いております。適切な研究実施手続を定めるということにつきましては、また後ほど第三章のあたりで出てまいります。  
  それから次に、その後具体的にどういうふうな例が例外にあたるか、多様性という例にあたるかということを幾つか書いてございます。15ページの第2段落目、例えばというところから始まるところで、いわゆる包括的合意でありますとか、連結不可能匿名化の試料等の例外、さらに、いわゆるコホート研究、集団を対象とする大規模な疫学的研究で追跡調査を必要とするものといった形で例外的なものを挙げております。  
  その場合に、特にインフォームド・コンセントの説明の手続については簡略化が認められる可能性があるというふうに書いております。ただし、同意を簡略化してはいけない。同意は必ず個別的に文書で行われるというのが16ページの第1段落目の最後に書いてございます。他方で、より慎重にインフォームド・コンセントを行う場合もあり得ると。必ずしも緩和するばかりだけではなくて、こういう場合には単に説明して理解していただいて同意をとるということだけではなくて、それを慎重に行うという場合も、その他方でというところに書いてございます。  
  それから原則の第八は、包括的同意と非連結匿名化試料のケースを書いてございます。これはある一つの研究計画の中で、ゲノム解析研究を目的として提供される試料なんだけれども、そのインフォームド・コンセントをとるときに、別のゲノム研究に用いてもいいですか、もしくは関連する医学研究、ゲノム解析そのものではないかもしれないけれども、関連する医学研究に用いてもいいですかということで同意をいただければ、それらの目的に使うことができる。これはゲノム研究に限らず、試料の提供者からいただく試料というのは、研究の試料としては非常に貴重なものでございますので、できるだけ厳格な状況のもとで他の研究にも利用することが認められるという書き方にしております。  
  それから他方で提供者の遺伝情報と連結しない形で、つまり匿名化されるような状況で研究が行われる場合には、特に説明は適切な形で簡略化されるということができるというのが第八の2でございます。これについてもインフォームド・コンセントといういわゆる自己決定権と、それから個人情報の保護という2つの重要な柱が倫理原則ではございますが、非連結匿名化という条件であれば、特に遺伝情報の保護ということをきっちりとやっておけば、説明の手続は簡略化されてもよいのではないかという立場でございます。そういう例外については、必ず倫理委員会の審査を経なければならないというのが第八の3になります。  
  それから第九、既提供試料につきましては、少し原則そのものも一項目をつけ加えてございます。前回ご説明したところでは、第九の2から実は文章が始まっておりましたが、その上に第九の1をつけ加えまして、「同意が与えられなかったものは、新たに同意を得た場合に限って使用することができる」という一番根本的なものを書きました。しかし、その3項では、そういう同意が与えられていなかったもの、もしくは同意の範囲を超えて研究に使用したい場合、その必要性があるという場合には、厳格な条件をつけて、倫理委員会の審査の許可を得れば使用することができるということにしております。これも試料は非常に貴重なものであるからという考え方に基づいてございます。  
  それから先ほど少しご説明のあったバンク試料につきましては、第九の5とその解説のところで、由来が明確かつ正当であるものであれば、通常の科学研究試料と同様に扱うことができるということにしております。もちろん、これもすべて研究計画の中にこういう試料を使うということを書き込むわけですから、直接には言及しておりませんが、倫理委員会の審査を通るのは当然でございます。  
  それから第十では「同意の撤回」、これは誤解がある可能性があるということで、第十の1の原則の本文を少し修文いたしました。 
  それから第二節の十一、それから十二につきましては、個人情報をきちんと保護し管理する。そして漏洩を防ぐ。そういうことを厳重に留意して研究を行いなさい、そういう体制をとりなさいということを述べております。  
  それから第十三は「提供者は、研究の結果明らかになった自己の遺伝情報を知る権利を有する」ということで、本人の遺伝情報はあくまで個人のものでありますので、各個人は研究の場合であっても、自己の遺伝情報を知る権利が基本的にはあると。ただし、その研究の成果というのは、必ずしも診断的な意味を持たない場合のほうが多いと考えられますので、遺伝情報そのものを知ってもあまり意味がないケースが一般的だと考えられます。そういうことも全部インフォームド・コンセントにあたって、あなたは知る権利があります。研究の結果、こういう形で出てくるかもしれません。そうしたことを纓纓説明をして、それで知りたければ教えますし、それじゃ要らないということであれば、それで研究が行えるということでございます。  
  それから実際に大規模な研究の場合には、連結可能であっても匿名化されているので、特定の個人の情報を取り出して開示する作業というのは、きわめて大きな負担になり得るということがございます。それに対して、その情報が診断としての精度は必ずしも確実ではございませんので、提供者に知らせるには十分な意義がない場合があり得る。そういう場合には、知る権利の行使について、今後定められる指針で明確にしていこうという立場をとっております。  
  第十四は、提供者本人が自己の遺伝情報を知らないでいたいという意思を表明する場合の話でございます。前回の案では、まず第1に提供者が知らないでいる権利を持っている。提供者の意思に反して研究結果を提供者に知らせることは許されない。ただし、非常に重要な遺伝的要因であるとか、その可能性があって、かつ疾患の予防とか治療が可能と認められる場合には、提供者が知りたくないと言っていても知らせることもできる、そういう道を開いておりました。しかし、さまざまなコメントや議論の結果、提供者がどうしても知りたくないと言えば、それは知らせない、知らせてはいけないということに一本化いたしました。知る知らないということについては、インフォームド・コンセントのときに十分その研究の意義、目的等々を説明をしておくというのが、まず第一だという立場に立ってございます。  
  これに対して、第十五でございますが、これは血縁者に対する情報の開示でございます。十五の1は、提供者と血縁関係にある者、特に血縁者についてですが、提供者本人が承諾していれば、血縁者及び家族には知らせてもいい。しかし、提供者本人が知らせたくない、知らせてほしくないと言った場合には知らせないというのが原則である。ただし、血縁者につきましては、提供者本人と同じ遺伝情報を持っている可能性が高いので、それが疾病に関する遺伝的要因であるか、またはその可能性がある場合であって、かつ疾患の予防、または治療が可能であると認めるときには、倫理委員会の審査を経て、その判断が血縁者に伝えられることができる。これは非常に厳格な条件をつけて血縁者に伝える可能性を開いております。  
  24ページから25ページにかけてのところ、24ページの一番最後の行からですが、提供者と血縁者には遺伝情報の共有という状況があります。その場合に提供者は知らせたくないという権利がありますが、他方で血縁者も健康への権利を持っているということで、この2つの権利が衝突する。その場合には、血縁者の健康への権利を優先させる可能性を開いておくべきであるという立場に立ってこの原則を書いてございます。もちろん、インフォームド・コンセントをとるときには提供者に対して、血縁者にもあなたと同じ遺伝情報がありますよということをきちんと説明をしておく。そして、できれば提供者から血縁者には遺伝情報を伝えても構わないという同意を得られればいいわけですが、それでもなお、提供者本人が血縁者にも知らせてほしくないというときに、やはり血縁者の健康への権利というものの重要性を勘案して、提供者本人が嫌だと言っていても、血縁者に知らせる可能性があり得るということを述べております。ただ、具体的にどういうふうにするかというのは、やはり指針の段階で決めていくべき問題でございます。  
  第十六は「差別の禁止」ですが、これは特に提供者の保護の規定でございます。 
  それから「第三節  その他の権利等」というところで、十七の無償原則につきましては、前回一応ご了解いただいたと思いますが、特に知的所有権、ヒトゲノム研究の成果が知的所有権の対象になるかならないかというのが、少し一般の方及び研究者ともに誤解があるように思いましたので、若干の説明をつけ加えてございます。  
  十八についてはあまり中身は変えてございません。十九については、特に遺伝カウンセリングの位置づけということをより明確に書き込みました。とりわけ十九の解説の第2段落目にその記載がございます。  
  それから「第三章  ヒトゲノム研究の基本的実施要件」、こちらはここまでの第二章が提供者の側を保護するということでございましたけれども、こちらは研究者及び研究機関が守るべき原則、もしくはもっている権利を掲げております。  
  二十、二十一、二十は科学研究の自由というのをもう一度確認をし、それから二十一の1、2、3、4は前回ご議論いただきました。二十一の5という形で「研究の結果得られたヒトゲノム塩基配列情報は、公開されなければならない」という1文をつけ加えました。これは特に本年の春にクリントン・ブレア声明でありますとか、シラク演説、それから中曽根長官の声明、ユネスコの事務局長の声明等でこういうヒトゲノム塩基配列情報は特許にしないで公開されるべきだという趣旨が国際的にも明らかにされましたので、これを書き込みました。  
  それから二十二につきましては、先ほど少しご説明をいたしましたが、ヒトゲノム研究は目的や対象によってさまざま多様なので、きちっと研究の実施手続を設定して、それにのっとって研究をしなさいということを書いてございます。  
  それから二十三は倫理委員会についての規定ですが、この基本原則では倫理委員会の役割がかなり重要になってございます。そこで少し前回よりは説明を増やしまして、倫理委員会は重要なんだぞということを書き込んでおります。  
  それから倫理委員会の実効性ということに疑問があるというのがパブリックコメントでも幾つか出ておりましたので、これにつきましては、透明性の維持ということを解説の最後のほうにもう一度確認をする。そして、倫理委員会の審査の公正さ、中立さをまず確保する。それから透明性を確保するということが、倫理委員会の審査や判断の実効性を保障することにつながるんだという考え方でございます。国のレベルでもう一段上の倫理委員会をつくるべきだという意見がございましたが、それは手続としては非常に困難な問題が生じますし、それから実際に研究を国で管理するということにもつながりますので、その辺は透明性の確保ということで、ある意味では倫理委員会を信頼するという立場をここではとってございます。  
  それから「第四章  社会との関係」につきましては、第二十四でいわゆるヒトゲノム研究に関するアカウンタビリティー、説明責任を明記いたしました。それから二十五、二十六、二十七については、前回とあまり変化がございません。  
  附則につきましては、解説のところで、附則そのものは「ヒトゲノム研究の実際の進展および社会の理解と動向に照らして、適切な時期に見直しをする」ということを書いておきましたが、具体的に年限をある程度区切ったほうがいいという意見がございましたので、特段の状況の変化がなくても、3年ないし5年ごとに再検討の機会が設けられるべきであるというふうにいたしました。  
  それから最後に、33ページ以下に用語解説をつけてございます。その後は委員会の構成員でございます。 
  少し長くなりましたが、以上でございます。 
(井村委員長) 
  ありがとうございました。 
  それでは、引き続いて、序文ですね、これは生命倫理委員会としてつける序文ですが、その案について、事務局から説明をしていただきます。 
(事務局) 
  それでは、ご説明申し上げます。表紙の裏の部分でございますが、まず、最初の段落で生命科学の発展と生命倫理の問題について認識を示してございます。「生命科学の目覚ましい発展、技術の進歩、これによりまして科学的理解を深めるとともに、疾患の原因解明、予防、治療法の開発などを通じて生活に大きく貢献してきている。他方で、その進展に伴って、われわれに人の尊厳の再認識を迫る、さまざまな倫理的法的社会的問題が生じてきている。近年になって生命倫理が人間社会の重要な規範として認識されるにいたる理由がここにある」という段落でございます。  
  次の段落でヒトゲノムの研究に関する認識を示してございます。「ヒトゲノムの研究も全塩基配列の解読完了を目前にして、特に今後、個人のゲノムの違いを研究することによって、体質や疾病の原因となる遺伝的要因を明らかにし、生物医学のさらなる発展、中でも個人個人にあった新しい医療の実現を目指している」という現状を認識してございます。  
  「他方で、これらの研究を行われるにあたっては、きわめて多数の提供者から試料を提供される必要があり、またその研究成果が個人の遺伝情報をも明らかにすることにつながることから、これまで以上に多くのさまざまな問題が生じることが懸念される。このため、生命倫理の観点から、ヒトゲノム研究における基本的倫理規範の早急な策定が求められる」、こういう認識でございます。  
  3段落目で今までの活動並びにこのゲノム研究に関する対応を示してございまして、「生命倫理委員会では、その発足以来、これまでにクローン技術のヒトへの適用やヒト胚性幹細胞研究について、基本的考え方を取りまとめてきたが、上のような状況に鑑み、平成11年12月にヒトゲノム研究小委員会を設置し、ヒトゲノム研究のあり方について審議を重ねて、今般『ヒトゲノム研究に関する基本原則』をとりまとめた」というものでございます。  
  4段落目でこの基本原則についての考え方を、先ほど位田先生からご説明いただいた部分と重なるところがございますが、「本基本原則は、ヒトゲノム研究にあたって、それにたずさわる研究者や医師などの関係者が遵守すべき倫理規範であるが、同時に、必要な試料を提供する立場の人や、広く一般社会が念頭におく基本的考え方となるべきものである。本基本原則をヒトゲノム研究における憲法的文書と位置づけつつ、研究を行うにあたり遵守すべきより詳細な事項については、本基本原則を踏まえて指針が定められる必要がある。また、ヒトゲノム研究の成果を用いた診断や予防、治療などの応用面にもさまざまな課題があり、それらについても別途規範が定められなければならないが、その際には、ここに示された諸原則の理念が参考にされることを期待する」ということでございます。  
  最後の段落でございますが、「本基本原則を契機に、我が国において生命倫理に関する認識が一層高まり、生命科学に関与するすべての研究者や医師が人の尊厳や人権を守りつつその研究を進める強固な基盤が形成され、調和のとれた社会の進歩と幸福が醸成されていくことを強く望むものである」。  
  以上でございます。 
(井村委員長) 
  それでは、まず、今位田委員から説明をいただいた点につきまして、ご意見を伺いたいというふうに思います。その後で序文についてもご意見を伺いますが、いかがでしょうか。  
  基本的には前回ご審議いただいた内容。はい、どうぞ。 
(島薗委員) 
  まず、委員長は十分審議なされたというふうにおっしゃいました。それから位田委員も前回ご理解をいただいたというふうにおっしゃったと思いますが、前回のこの委員会での議論の時間は大変短かったと承知しております。もう一つの議題もございました。そういうことで、生命倫理委員会として、憲法的文書と呼ばれるような大変重要な文書について十分な議論が行われたと言えるかどうか、大変疑問に思っております。  
  それから、この委員会の議論はもちろん、一般社会の理解と歩調を合わせて進められるべきだと思いますけれども、そのような一般社会の理解が深まるための時間というものも非常に足りないというふうに思います。  
  先ほど事務当局のほうからいろいろご説明くださって、意見が寄せられたものに対して対応されたということですけれども、討議の時間というのはどうしても時間がかかりますし、みんなが集まらないとできないことが多いので、そういう点でいろいろな意見を継ぎはぎしてまとまったものができるというようなことになっていないかどうか、もう一度お考えくださったらいいなと思いました。その点が一つと。  
  具体的な内容につきましてですが、一般からのコメントにもありましたけれども、全体として研究の促進のトーンがやや強過ぎるのではないかなという印象を持っております。この委員会では、親委員会のほうは、細部の問題も重要ですけれども、大きな方向性を議論する必要があると思いますので、その点について申したいと思いますが、具体的に申しますと、まず、基本的考え方のところですけれども、先ほど戦争等の特殊状況のもとでというところを直されたとおっしゃったんですけれども、にもかかわらず第二次大戦以降云々となっておりまして、戦時中の問題が基本的な問題だという理解になっていると思います。そういう理解でいいのかどうか。そもそもヒトゲノム研究ということが、人の尊厳や人権にマイナスの作用を与える可能性があるものだという、そういう認識をもう少し明確にしていただきたいという印象を持ちました。  
  それから、そういう点で最も重要だと私が、この間も申しましたが、第一章の第二の部分なんですが、人間の尊厳と人権とのかかわりというところの文が大変わかりにくいという印象がございます。この間も申しましたけれども、タイトルのほうは個人の尊厳となっておりまして、中には集団というのが出ているというようなことがあったり、あるいは解説文の中で「尊厳には、各個人を主体とする場合と、人間全体を」というようなことがあるんですが、こういう文を読んでも、尊厳というのは何だろうか。心に響くような文章でなければいけないのではないかなと、こういうふうに思いました。  
  それから、今回つけ加えられた部分ですが、これはゲノム研究は疾患の治療に役立つということを基本にしていると思うんですけれども、今回のつけ加えの部分で、研究促進を求めるコメントに対して応じられたということがあると思いますが、何らかの身体的不利益や負担、精神的苦痛があれば、それを軽減することというふうに医療の目的を比較的広く規定しておられて、ややそこのところに不統一が生じているのではないかなと思います。  
  もう一つだけよろしいでしょうか。 
(井村委員長) 
  はい、どうぞ。 
(島薗委員) 
  第三章のところなんですけれども、ヒトゲノム研究の基本的実施要件のところですが、これは研究者及び研究機関の側が守るべき原則ということなんですが、人の尊厳ということが最も根本だと思うんですが、研究の自由が独立して最初に来て、その後に尊厳が来るというような順番でいいのだろうか。むしろ、こちらのほうをまず先立てて考えるべきではないかな。とりあえずそんなことを疑問に思っております。  
(井村委員長) 
  それでは、大分いろいろありましたけれども、位田委員からお答えいただきましょうか。ここでの議論を私、抑制しようという気持ちは全くありませんので、いろいろご意見があれば、ぜひ出していただきたいと思っております。  
(位田委員) 
  今の島薗委員のご質問は8点にわたるかと思います。 
  まず第1に、討議の時間が不十分ではないかというのは、私のお答えする範囲ではないと思いますので、これは省かせていただきます。 
  第2に、継ぎはぎ的な形になっていないかというご懸念でございますが、この基本原則全体の構成といいますか、全体の柱は従来から変わっていないと私は考えております。先ほど島薗委員もおっしゃったように、人の尊厳と人権に対する配慮、これを中心的な柱にして、この基本原則を書き込むと。これは倫理原則でございますので、そういう立場をとっております。ただし、倫理というのは、これはすべて規制をするという方向だけではなくて、プラスの面があれば、そのプラスの面をより生かし、マイナスの面があれば、それをより抑制するという形で、ある意味では、序文のところでも出てきましたが、調和のとれた形で必要な研究は行う、やってはいけない研究はやってはいけないということをこの中で書き込んでいるつもりでございます。  
  さまざまな意見が寄せられましたので、もちろん起草している段階でできるだけわかりやすいように、かつコンセンサスがとれるような方向で、しかし、原則的な立場をできる限り守りながら文章を考えました。そういう意味では、確かにパブリックコメントが出てきてから文章をいじっている部分もありますので、継ぎはぎ的な形になっているのではないかというご懸念があるかもしれません。しかし、その点は小委員会のほうでもきっちりと議論をしていただき、それから足りないところはファクスやメール等でご意見をいただきながら、できるだけ全体として整合性がとれ、かつさまざまな意見のコンセンサスがとれるような形で書き込みましたので、私としては継ぎはぎではないというふうに考えております。  
  それから第3のご質問で、研究推進の方向に傾いているのではないかというご指摘がございました。基本的考え方のところでも、また、解説の中でもあちこちで述べておりますように、やはりヒトゲノムを研究して、従来は不可能であった医療が可能になる。そのことによって、数カ所に書いてございますが、人命を救うという非常に重要な役割を果たす研究である以上は、さまざまな倫理的法的社会的な問題を適切な形で解決しながら研究を進めていくということを考えました。単に研究を推進したいという方向だけで考えているわけではありません。研究者の側からも、この基本原則ではかなり厳しいので、なかなか研究がしにくい部分があるのではないかというお話もいただいておりますし、それからもちろん、生命倫理を強く主張される方からは、これでは緩いというご批判もございます。  
  ただ、どちらかの方向に偏ってしまいますと、一方では科学研究を阻害し、したがって、社会の進歩というか、大きく言えば人類の幸福をおくらせるという方向にも行きますし、他方で研究ばかりをあまり重視いたしますと、やはり人間の尊厳が阻害されますので、そこのある意味では中間でさまざまな意見を取り入れることによって、できるだけバランスをとっているつもりでございます。  
  それから、基本的な考え方の第2段落、人の尊厳と人権への配慮を著しく欠いた行為があったというところでございますが、確かに最初に修文をいたしましたときには、戦時中のことが特に念頭にございました。現実に考えましても、生命倫理の考え方は、とりわけそこに基本的な考え方のところにも出ていますが、ニュールンベルク綱領、これはいわゆるナチスの戦犯裁判の中で出てきた医学的な倫理原則、たしか11か条だったと思いますが、これが出てきて、これがある意味では嚆矢として倫理の問題が非常に議論になってきたということがございます。第二次大戦以降という書き方は、戦中も含めてそういう歴史の教訓を踏まえながら、これまで倫理的な議論が行われているという認識です。と同時に、戦後のすさまじい生命科学の進歩に対応して、医者及び研究者もそれぞれの立場で、もしくはさまざまな国及び国際機関もそれぞれの立場でこれまで議論をしてきているということを書いております。そういう認識でございますので、必ずしも戦争中、もしくは戦争のことだけを考えてこれをつくったわけではございません。  
  そういう意味で、5つ目の質問になりますが、マイナスの側面の認識が薄いのではないかということなのですが、これはそういうふうにとられれば仕方がないのですけれども、今ご説明した箇所はマイナスがあり得るということを、人類はそれを認識し、あちこちで倫理的法的社会的問題を引き起こす可能性があるということに言及することによって、マイナスの面もあるんだぞということを示しているつもりでございます。  
  それから6つ目のご質問になりますが、原則の第二の解説のところで、前回やはり島薗委員からご指摘があったと思いますが、ゲノムの多様性と個人の尊厳、人権の関係ということでございます。これは同じことを前回にもご説明申し上げましたが、遺伝的特徴というのはそれぞれの人が持っているのであって、その個人としては、それぞれの人としては、いかなる特徴があっても人間としての価値には差異はない。したがって、平等である。平等だから差別の対象とされてはならないというのが基本的な人権の考え方であると思いますので、それを少し説明をつけ加えました。わかりにくいと言われますと、これは私の文章のかたいせいかなと思わないわけではございません。  
  7つ目の質問でございますが、原則第二の解説のところで、遺伝子治療の問題に関連して、医療の目的というのが少し広いのではないかというご指摘でございますが、その「不統一になっている」というご発言の趣旨がちょっとよくわかりませんけれども、これはヒトゲノム研究そのものとリンクさせて医療はこうだと言っているわけではなくて、医療というのは、本来が人間が生活していく上でさまざまな不利益、負担等があれば、それを軽減することが大きな目標の一つであると。ゲノム研究をして、それを医療に役立てていくということは、そういう負担を軽減するという目的を達成するいわば一つの道であるという考え方でございます。その辺について、少し舌足らずかなと思わないでもございません。  
  それから最後の点で、第三章の原則の第二十の「科学研究の自由」と二十一の2の「人の尊厳に反する研究を行ってはならない」という置き方の問題ですが、全体の構成といたしましては、第一章でヒトゲノムとその研究のあり方を置き、そして第二章で提供者の保護ということをうたって、第三章に研究者及び研究機関の側の立場を書いてございます。こういうふうな構成にしましたのは、構成の仕方もいろいろコメントにも出てきましたし、議論にもなりましたが、これが倫理原則である以上は、特に提供者をまず保護するということを最初にうたっておいて、その保護をはっきりした上で、その保護ができるという前提の上で第三章で研究者が守るべき原則を掲げるという形をしておりますので、確かに原則の第二十では科学研究の自由は尊重されるという非常に単純な文章にはなっておりますけれども、これは何でもかんでも科学研究であればいいということではない。全体の構成としては、そういう位置づけでございます。  
  それから二十一の2に人の尊厳に反する研究を行ってはならないと書いてあるのは、科学研究の自由という中で、その中で人の尊厳に反する研究を行ってはならないという位置づけといいますか、そういう判断でございますので、論理的なつながりとしては、科学研究は一般的には許されるけれども、しかし、人の尊厳に反する研究という部分は、これは許されないということでございます。もちろん、その科学研究の自由全体に人の尊厳及び人権は守られなければならないという枠がかかっているのは、この構成からいって当然のことでございます。  
  大体以上で主な質問にはお答えしたと思います。 
(井村委員長) 
  ありがとうございました。 
  生命倫理委員会では、前回に引き続いてきょう議論をお願いしているわけですが、小委員会ではかなり時間をかけて議論をしていただきました。今、小委員会の高久委員長がお見えになりましたので、そのことも含めて、何か先生からありましたらお願いをしたいと思います。  
(高久委員) 
  ちょうど同じ時間に文部省のほうで私が座長代行をしている会があったものですから、遅れまして失礼いたしました。 
  この小委員会は、昨年の12月につくられました。途中の中間報告をここでしたと思います。6回にわたって開催しましたが、6回という数が多いか少ないかは別として、全員が出席できるように、そのうちの2回は夕方の6時や6時半から、あまりおいしくない弁当を食べて夜遅くまでかなりインテンシブに議論をしました。  
  この案を公開しました所、非常にたくさんの方からご意見をいただきました。パブリック・オピニオンを読むだけでも大変な作業でして、その中の御意見を取捨選択して、この基本原則案の中に入れました。事務方と、位田委員、あるいはその他の委員の方の非常なご尽力がありまして、その結果がきょうの案になっています。  
  私の個人的な意見でありますが、これからのヒトに関する、あるいは医学的な研究は、ほとんどの研究が何らかの形で遺伝子に関係する研究になることは間違いないと思います。必ずしも治療だけとは限りませんで、予防、あるいは診断ということも関係します。それからもっと広い意味では、人類の進化、そういう問題まですべてゲノム研究の範囲に入ってきます。基本的な原理を、あるいは憲法的なものをはっきり決めておいて、それから具体的な方策については、指針という形でこれからつくられることになると思います。医学研究の将来の方向、あるいは広い意味では生物学の研究の方向を考えますと、このヒトのゲノム研究に関する基本原則を決めておかないと混乱が起きるといいますか、この序文にありますようなマイナスの面が出てくるのではないかということで、小委員会としては非常にインテンシブに議論をしましたし、また、非常に多くの方々の意見を取り入れるように努力をしたつもりです。  
(井村委員長) 
  どうも失礼しました。 
  それでは、引き続いて、ご意見があれば伺いたいと思います。 
  どうぞ。 
(永井委員) 
  インフォームド・コンセントの第六に代諾者ということが出てきますが、これに関してはこれまでどの程度のことが議論されたのでしょうか。と申しますのは、私が東京都の研究所所長をしておりましたときに、小児への輸血の問題で、宗教的な問題もかかわって代諾者の内容が激しく議論されました。有名な著作家の方がたとえ幼児であっても、本人がそれを拒むならば、たとえその輸血によって生命が助かる場合であっても為すべきではない、というような意見を強硬に述べられました。代諾者の内容というものはきわめて重要で、これについて何時間にもわたって議論が続けられたことを記憶しております。本人の人権が尊重されることが第一に重要であって、そうとすれば代諾者とは何なのかと。医療による人命の救助ということに先立って個人の尊厳というものがある、ということです。個人の尊厳は、その代諾者の内容によっては非常に大きな問題になってくる。たとえその方の人命が救われないようなことになっても、それでよろしい、というような議論があったと思います。  
  この代諾者が意味するのは具体的には何なのかに関して、今後のガイドラインの中で処理していくのか。それともどういう対応をするのか。 
(高久委員) 
  具体的には、指針の中で述べられると思います。厚生省のヒトゲノムのミレニアム研究の指針の中でも代諾者のことがかなり詳しく述べられています。ゲノム研究の場合に、乳幼児とか、その他いろいろな理由で自己決定できない場合が当然あり得ると思います。今回は代諾者の内容については、それほど突っ込んだ議論は、あまりなかったと記憶しています。  
(井村委員長) 
  輸血の場合とはちょっと違うところがございますね。輸血の場合には、かなり強い宗教的な理由がございまして非常に難しくなりますが、この場合には、やはり代諾者がないとちょっと困る場合がいろいろあるんじゃないかというふうに思いますけれども。  
  どうぞ、ほかにご意見がありましたら。 
(永井委員) 
  倫理委員会を個別的に設置するというように文面から受け取られます。現在の状況をみますと、これまで動物関係の倫理委員会を始めとして、いろいろな内容を盛った様々な倫理委員会が出来ているし、また、出来ようとしている。個別の活動によって混乱が生じてくる可能性がある。その間の調整はどのようにして行われるのか。それに関してはいかがでしょうか。  
(高久委員) 
  いろいろな委員会ができてという問題は議論されました。しかし、最初にこのヒトゲノムの小委員会で申し合わせたことは、この委員会は憲法的なものをつくるのであって、具体的なことについては指針のところで対応しよう。そう言いましても、説明をしないわけにいきませんので、位田委員に詳しく説明をしていただいたわけですが、その説明と従来の指針とがくい違いダブルスタンダードが作られる様な事にはならないように注意をいたしました。これからおそらくもっと広い範囲の研究を対象にした国全体の指針がつくられるようになると思いますが、その指針も当然、この基本原則の説明に書いていることと合致したものになると考えています。  
  それから、もう一つ倫理委員会で問題になりました事は、当然各施設でIRBをつくらなければならない。その場合に重要なことは、外部の人が加わるということと、倫理委員会の透明性ということであると強調されました。第三者が存在するということと透明性ということで、一般の方から施設内の倫理委員会に対する理解と信頼を得る必要がある。しかし、第三者の方のパーセンテージ、そういうことはあまり議論はされませんでした。厚生省のミレニアムヒトゲノム計画の指針で半数以上の委員が外部の人ということになっていますが、それはミレニアム計画に参加するような大きな施設では可能かもしれませんが、全部の施設でそれだけのパーセンテージ外部委員を委任できるかどうかということは、これからの議論だと考えています。外部の人を入れるということと透明性ということが強調されたと思います。  
(井村委員長) 
  位田先生、何かありますか。 
(位田委員) 
  調整ということを最後におっしゃったと思うんですが、透明性を確保していけば、どの倫理委員会でどういう議論があって、結論はこうであったということがわかりますので、ほかの倫理委員会はこういうふうな考え方をした。うちの例えば倫理委員会ではそれと同じような考え方をするか、もしくは別の考え方をするか。それも全部わかりますので、最終的には一つの方向に全体としては統一、統一というのは言い方が悪いと思いますが、調整であれば調整できるのではないか。そういう細かい話はありながら、これは憲法的文書なのでということで一般的な書き方しかしておりませんが、そういうことは議論の中でも少しご説明をし、ご理解いただいたと思います。私は一応そういうことは念頭に置きながら考えていたつもりでございます。  
(井村委員長) 
  これはまた、後で申し上げようと思っていたんですけれども、これがもし承認されますと、続いて、やっぱりガイドラインの作成ということがぜひとも必要になるわけです。そのときには、関係省庁が4つぐらいあるでしょうか。それぞれの省庁が連絡をとり合って、そしてお互いにそごのないようなガイドラインをつくり上げていくということが必要だろうと思います。だからその中で、さっき高久委員がおっしゃったように、IRBと、それからそれぞれの省の委員会のようなものができるんじゃないだろうかというふうに考えておりますけれども、その辺はまだこれからの議論ではないかと思いますが。  
  ほかに。はい、どうぞ。 
(森岡委員) 
  やっぱりこの一番大きな問題は、こういう情報が漏れるということが非常に大きな問題ですね。解説のところに、犯罪などの法の定める場合に限り、個人情報が開示されることがあるということが述べられています。職業上知り得た秘密というのをどこまで守るべきなのかというのが問題になるんですね。現在の法律でも、こういう場合には開示しなきゃならないのかというようなことがあるのか。あるいはこの記述は、将来こういう法律が出てきたらしなきゃならないというのか、どちらなんでしょうか。  
(井村委員長) 
  位田先生から。 
(位田委員) 
  本来なら町野委員が一番ご存じのはずなんですが、ご退席されましたのでお答えしますけれども。現在のところ、どういうふうな条件でということを、これを書いたときにはあまり具体的に考えているわけではないのですが、法律があって、それで犯罪捜査のために個人の遺伝情報、例えば被疑者の確定とか、もしくは犯罪の捜査という点で、もし法律が条件を定めて、これは開示しなければならないと。例えば医師の守秘義務との関係で、医師の守秘義務をよりも上回って法律が開示しろという規定があれば、その法律に従うということでございまして、もちろん、こう書いてあるからいつでも開示しろというわけではございません。法律がなければ、当然開示はできないということでございます。  
(森岡委員) 
  現在の状況じゃなくて、もし将来こういう法律ができれば、開示しなきゃならない、そういうこともあり得るということですね。そうすると、法律がない限りは、開示しないということになってくるわけですか。  
(位田委員) 
  個人情報の漏洩というか、情報の保護、もしくは個人情報の保護という観点では、法律の定めがなければ、情報はそれぞれ個人のものですから基本的には開示はない。  
  原則はそうでございます。したがって、法の定める場合に限りという書き方をしてございます。 
(森岡委員) 
  基本的には、ゲノムの研究は研究のためにやっているわけですね。そういうものを犯罪捜査とか、そういうことのために開示するというのは筋が合わない、そういう議論はあるんですか。  
(位田委員) 
  筋が合わないかどうかは難しいですが、ただ、研究のためにという前提でそれぞれの個人から試料を提供していただくと、非連結匿名化されてしまえばわからないわけですが、個人とつながっている限りは、研究であっても、もしくは医療上の診断なり検査であっても、個人の情報としては残りますので、それを法律が定めていれば、使う可能性は否定はできないと、そういう趣旨でございます。それは目的が何であれ、それが個人を特定できるようなものであれば、犯罪捜査上必要であって、かつ法律がそれを許している場合には、それを使う可能性はあると。それがあるから必ず使えという趣旨ではありませんけれども。  
(森岡委員) 
  その可能性は容認しようということですか。 
(位田委員) 
  それは法律のほうが上回ると思いますので。 
(森岡委員) 
  法律といったって2つ矛盾した法律ができるということにはなりませんか。一方守秘義務で、一方は情報開示。 
(位田委員) 
  それは矛盾するという考え方ではありません。法律では、例えばAという法律とBという法律が衝突する場合には、どちらが優先するかというのも法律でつくりますので。  
(森岡委員) 
  わかりました。 
(井村委員長) 
  そのほかに何かございますか。 
  どうぞ。 
(藤澤委員) 
  ごくごく基本的なことで初歩的なと言ってもいいんですけども、恐縮ですけれども、委員長のご見解をちょっと確認させていただきたいと思うんですけど。大体普通に考えて生命倫理委員会とかいうのは、平たく言ってしまうと、科学の独走をチェックするということでだんだんできてきたわけですね。いろいろな新しい形態の科学、あるいは科学技術というのが、ほうっておけば、どこまで行っちゃうかわからないので、やっぱり片方で人間の尊厳とか、そういったことでチェックするという機能でできている。  
  この文書も生命倫理委員会という名前で出す文書としていいますと、どうしてもやっぱりパブリックの意見にもありましたように、推進ということが大前提になってて、それであと言いわけのように、人間の尊厳を守らなきゃいけないという感じをどうしても受けちゃうんですね。さっきも話題になりましたけれども、科学研究は自由であるというのが大前提で、それでその次に人間の尊厳云々というふうに来る。これはしようがないことなんですか。  
  それで小委員会が非常にご苦労なさって積み上げて、大変な労力をかけてまとめていただいたのが基本になっていますから、小委員会のメンバーは多少バラエティーがございますけれども、大体科学の専門家の方が大多数のメンバーとして構成されているように思いますので、どうしてもそうなるのかなという。それはやむを得ないんだったら、僕もあきらめますけれども、何かこれまで、時々言ってきたんですけれども、科学と技術と並べてけんかさせたら、どうしたって倫理が負けて科学が先行っちゃうんですよね。そういう状況の中で、科学研究は自由じゃないんですよ、本当は。人間の尊厳というか、人間の価値というものは何よりも大前提で、今科学はそういう枠組みの中になければいけないものだから、ある意味では不自由なんですよね。不自由な面が出てくるわけです。何も自由であるということを大前提に掲げる必要はないと思うんですけれども、そういう点はどうなんでしょうか。この委員会の文書として出すのかが。  
(高久委員) 
  よろしいでしょうか。 
(井村委員長) 
  どうぞ、先に先生、お答えください。 
(高久委員) 
  藤澤委員のおっしゃることはよくわかります。今ヒトゲノムということで議論をしていますが、医学研究一般に言えることではないかと思います。研究者は、自分の研究に対する興味を原動力として研究をしている。ただ、医学の場合には、それに加えて病気の診断をして治すという患者さんの希望が入ってくるわけです。そうすると、そっちのほうにだけ目が行ってしまって、その結果の波及効果をつい忘れてしまう。生殖医療でもそういう点があると思います。家族の方が非常に希望されるから、それに応じて産婦人科学会で禁止している方法で体外受精をする。患者さんのほうからの希望があり医療者側はそれにこたえようとする、その結果突っ走ってしまう場合がある。その点は非常に注意をしなければならないと思います。そういう意味で医学の研究は、ほかの学問の研究と違っているのではないか。  
  臓器移植などの例を見ましても、ゲノム研究が患者の希望ということで、研究者が突っ走ってしまう可能性があるので、こういう基本的な原則をつくり、さらに詳しい指針をつくって、それから外れないように、突っ走らないように注意をする必要がある。そう思います。  
(井村委員長) 
  私もちょっと考え方を聞かれたように思いますので、私の考え方を申し上げたいと思います。生命倫理というのは、やはり現在非常に進んだ生命科学のさまざまな技術を実際応用するにあたって、その技術の生み出すベネフィットと、それからハームをできるだけ評価して、そして最も適切であるというふうに考える判断をする委員会であろうというふうに思っております。だから、一方的にチェックするというのとはちょっと違っていて、私はその両方をはかりにかけて十分判断をすべきものではないだろうかというふうに思っているわけです。だから、多くの新しい技術にはざまざまなハームを伴いがちであります。しかし、そのベネフィットが非常に大きい場合には、そのハームをできるだけ最小化する方法を考えるべきであろうというふうに思っておりまして、そのためにさまざまなこういうガイドラインをつくったり、いろいろの規制をかけているわけです。  
  この遺伝子に関しましては、この研究は実はかなり以前からなされておりまして、今、位田委員が委員長をなさっておられるユネスコの委員会におきましても、既に普通の遺伝子の取り扱いについては国際的なガイドラインができているわけでありまして、これもそれとは相反するところは何もないというふうに私も思っております。そういう状況で、世の中どんどん進んでいって、しかし、今高久委員が言われたように、研究者は時々勇み足をやりますから、そういうことがあってはいけないので、それはきちっと抑える必要があるであろうというふうに考えて、実は少し急いでいるんじゃないかというおしかりを受けましたけれども、早く決めたほうが私はよりいいのではないだろうかという立場に立っておりますのは、実際に既にこういうものはない時期からいろいろなところでいろいろなことが行われてしまっているという問題がありますので、そういう意味で基本原則をきちんと明確化して、それにのっとった枠組みをはめるべきであろうというふうに思うんです。  
  ただ、私も医者でありますから、ベネフィットばっかり考えるというおしかりを受けるかもしれませんが、ゲノムの研究というのは非常に大きなベネフィットをうまく使えばもたらすのではないだろうかと思います。それは、今までの医療というのは、個人の特徴を必ずしも重視しているわけではないわけで、グループとしての治療をしているわけですが、これが明らかになりますと、かなり個人の特徴に応じた予防法、治療法というようなものを開発できるだろう。薬の副作用もうんと軽減できるであろう。そういうかなり大きなベネフィットがありますので、そういう意味で基本的には私は推進派であると言われればそうだろうと思いますけれども、私自身の立場は、そういうベネフィットとハームを十分評価するというのがこの委員会の役割ではないだろうかと思います。  
(藤澤委員) 
  お考えはよく理解できますけれども、私自身も確かに議論する時間が短いなということは痛感しておりますけれども、ただ、これが何にもない状態を考えて、野放しのことを考えるとやっぱり怖いですから、多少不満であっても出さないとしようがないかなという、その気持ちは持っているんです。ただ、それを出す出し方なんですけれども、この生命倫理委員会の名前で出すのに、先ほど申しましたように、確かにチェックだけじゃなくて、バランスをとりながらというのが、それはそうなんですけれども、それを言っていると、必ずどんどん推進的になっていくという懸念が非常に強うございますので、それでもう少しちょっとその辺のあまり推進一本やりのような印象を与えない、どこがどうだと言われるとあるんですけれども、いうことを感じましたのでちょっと申し上げました。  
(井村委員長) 
  序文のあたりで少しそういうことがうまく書き込まれればいいと思いますが、何かご意見があれば、具体的に。 
(島薗委員) 
  今の高久委員と井村委員長のお話を伺っていて、やはりちょっと何というんでしょうかね、非自然科学者と自然科学者、医療に携わっている先生方の感覚に違いがあるのかなという印象を非常に持ったんですね。非常に善意で人のためにということで研究をされるのが勇み足でいろいろと弊害を生じると。これが問題なんだというお考えと伺ったんですけれども、今こういう問題まで発展してきますと、研究する側は人の運命を握ることができる。非常に強い力を持つ、その人の生殺与奪を握るというか、そういうようなこともあり得る。ところが、それが小さな実験室の中で起こってしまう。そういう根本的な研究をすること自体の中に常に人が生きていることに脅威を与えるんじゃないかという、そういう感覚を私は持ってしまうんですね。これは戦争中どうだったからとか、あるいは注意の行き届かない軽はずみな行為があったからということではなくて、今の科学がそこまで人の命の奥深くに踏み込んでいると。そういうことの認識が前提にならないと、こういう議論はできないんじゃないかなと。その辺の認識がちょっと足りないんじゃないかなと、そういうふうに感じております。  
(井村委員長) 
  大変難しい問題でありまして、これはおそらく生命科学だけでなくて、あらゆる科学技術の問題にもなってきていると思うんですね。だからそれをどういうふうに判断するかというのは非常に難しい問題であろうと思います。ゲノムに関して言えば、これは先ほど申し上げましたように、既にかなりの研究室で遺伝子そのものは相当扱われていると。その中には、こういうガイドラインがないために自分で勝手に考えてやってしまうというのがあって、それが実は問題を、ちょっと新聞に載ったような問題を起こしたわけですね。そういう意味で私どもはやっぱり早くきちんとした原則とガイドラインをつくらないといけないということは感じているんです。既にもう10年も前から実際は走っているわけですから、そのあたりが、今度ゲノムという形で遺伝子全体にかかるようになってきたので、大きなインパクトをもたらすんじゃないかというふうに思いますが。  
  何かほかにございますでしょうか。 
(永井委員) 
  今、島薗委員、藤澤委員から問題として提起されたことと、実際に携わっている研究者との間には、食い違いがやっぱりあると思うんですね。わりあい研究者サイドの立場を擁護するのに終始しているといった印象を与えるというのは否定できないように私は思います。序のところで、現在生命科学が抱えている根本的な問題を具体的な形で提示されて論を進めていますが、これをむしろ次のように書き改めてはどうでしょうか。例えば、先ず生命科学に現在人間の存在そのものにかかわりかねない地殻変動が生起しているとの根本認識を提出した上で、実際の、例えば遺伝子の問題へと展開してゆく。今の案文では第二次大戦といったことで入ってきて、医療の問題に展開しています。それはそれでいいのですが、もう少し別のスタンスから、人間の存在そのものにかかわる本質的な問題が現在起きているということを先ず取り上げなければならない。現在の我々に課せられた極めて重要な課題として生命倫理を取り上げているのだ、という主張なり姿勢を明白に先ず打ち出しておく必要があると思っているわけです。ある意味では理念的思想的にその姿勢を示しておくということであり、フィロソフィカルな問題かも知れませんが、今回の「基本原則」も原則という以上そういう内容を持っている。このことを、せっかく生命倫理委員会で出されるのですから、序のところを、手直して盛り込むのが良いかと思います。いかがなものでしょうか。  
(井村委員長) 
  非常に深い問題で簡単に書けるかどうか、ちょっと自信はありませんけれども。 
(永井委員) 
  ただ、生命倫理委員会として、その存在意義に直接あるいは間接に公にかかわってくる提言とみますので、非常に難しいかもしれませんけれども、少なくともある程度序の部分で明示しておくべきかと考えます。  
(井村委員長) 
  どうぞ、藤澤委員。 
(藤澤委員) 
  私は自説として、科学技術庁も、科学そのものも、そもそもの最初から人間に関する価値の問題を引きずっていて、今それが非常にあらわになった状態だというふうに思っていますけれども、そこまでさかのぼらなくても、とにかく人間の生命の操作、生命そのものに踏み込んで、神のかわりの役割を果たすようになってきているというような、生命を科学者が握っているような状態であるという、そういうことを一言書いただけでも大分違うと思いますね。そういう意識のもとにこれを出すんだということ。今のままのだと、ただ非常に有用性があると、ただ社会的規範の中でやらなきゃいけないという非常に通り一遍なお役所的な文章に、口が悪くて怒られるかもしれませんけれども、なっているような感じもしますので、ちょっと一言、そういう意識のもとに書いているんだという。  
(井村委員長) 
  これはタイムリミットは今のところ特にないわけですね、これからの問題。だから今のように序文だけを少し書き改めて、そこに今おっしゃったようなことを書き入れていくということですね。  
(池田局長) 
  この序のところの、例えば第1パラグラフ等はそういう問題意識のもとに書いているわけですけど、今ご指摘のあった点を改めて見たときに、これで十分でどうかというのは疑問じゃないかなと思いますけど。この辺は修正させていただける余地があるんじゃないかなと思います。  
  タイムリミットにつきましては、これは私どもこういう公開の場でいろいろ議論させていただいていますし、ヒトゲノム小委員会でいろいろ議論して、これまでまとめていただいた経緯もございますから、これが終わりではなくて、これを今あったように指針のレベルまで落として、各省いろいろ相談してやるということが、これからの仕事なわけですね。ですから、それを考えましたときに、あまり時間はとりたくないなとは思っておりますけれども、ただ、科学技術会議で政策委員会その他、またこれから必要なセットもございますから、その過程で今言われたような点は十分議論していただいて、最終的な意思決定の過程までに今言われたような点、先生方のご議論についてこたえられるようなことがさせていただければと思っておりますけど。  
(井村委員長) 
  確かにご指摘のように、生命の誕生から死まで、非常に人間が手を加え始めているという状況がありまして、そういうことは重く受けとめないといけない。生命科学にかかわる者も非常に重く受けとめないといけないことであるというのは私も感じております。だからそういう意味で少し序文を変えさせていただくということで、本文のほうはこれでお認めいただけますでしょうか。  
(島薗委員) 
  今、ご考慮いただいて、少し本当にほっとして発言してよかったという気がしておりますが、そういうことでしたらば、例えば基本的考え方の1の出だしのあり方とか、先ほどの第三章の研究の自由と尊厳のかかわり、尊厳のほうは第二十一の5つの中で述べられているということですが、独立して、まず第1に出てくるべきことじゃないかなと思いますので、その辺もご考慮いただけたらどうかなと思います。  
(井村委員長) 
  その辺もあわせて検討させていただきましょう。 
  どうぞ。 
(石塚委員) 
  序文、今のような方向で修文していただくのは大変結構かと思いますが、修文の際に一つ加えていただけたらと思いますのは、見直し規定なんですね、附則。先ほどから審議が非常に時間が足りなかったのではないかというご意見もあるわけですが、そういったご意見に一つのエクスキューズというような形にもなるんでしょうか。適当な時期に見直すというふうなことを序文にきちっと入れていただいたほうが、この基本原則の性格をあらわすのにはいいんじゃないかと思います。  
(井村委員長) 
  附則には適切な時期というふうに書いてあるのを、もうちょっと3年とか5年とか入れたほうが入れたほうがいいという。 
(石塚委員) 
  そこまでは特に要らないかもしれませんが、本文を読めばわかるんですけどもね。序文として完結させておいたほうがよろしいんじゃないかと。 
(井村委員長) 
  それでは、いろいろご意見をいただきましたので、序文については修文をいたしまして、あとファクスででもご意見を伺うということにしたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。  
  それでは、本文のほうは基本的にご了承いただいたと。若干順序等は少し変えるとか、そういうところがあり得ると思いますが、基本的にご了承いただいたということにしたいと思います。  
  それでは、次の議題、予定の時間がほぼ過ぎてしまいましたけれども、これは先ほどから議論が出ているように憲法的な位置づけでございますので、さらに具体的な実際研究現場で利用できるような指針をつくる必要があります。これは先ほどちょっと申し上げたように、各省庁の連携のもとに検討が行われるということになると思いますが、事務局からちょっと簡単に説明をしていただきます。  
(小田ライフサイエンス課長) 
  今までご説明がありましたように、これは憲法的文書という位置付けですから、いわゆるアンブレラ的な基本原則ということで、特に第二章のところでございますような研究機関、研究する側が具体的な記述、具体的な倫理委員会の設置等いろいろな手続を行う上でやはり具体的な指針が必要だろうということで、国はこの傘のもとに具体的な指針を定めるべきであると、こうしてございます。これを直接適用する機関は、先ほどございましたように4省庁ございますが、これはダブルスタンダードになってはいけないんじゃないかという合意がございますので、4省庁が共通の同一の具体的な手続など定める指針を定めたいということで、ヒトゲノム研究については、既に研究も始まってございますので、年内を目途に共通指針を行政指針という形でつくらせていただきたいと、こう考えてございます。その際、当然のことながら、生命倫理委員会にその内容についてご審議、ご検討いただくというふうに考えてございます。  
(井村委員長) 
  それでは、そういうことでご了承いただけますでしょうか。あとはもうちょっと具体的に、研究者はこれでは何もわかりませんので、ガイドラインをつくるということにしたいと思います。  
  それでは、次の議題はヒト胚研究についてでございます。 
  前回日本産婦人科学会の藤本会長からヒト胚研究の現状、あるいは医療の現状についてご説明をしていただきました。ES細胞研究について検討したときには宿題になっていたわけでありますが、ヒト胚研究全般について具体的な検討をしていくということの必要性が出てまいりました。また、3月の報告をもとにして、ES細胞に関する指針やヒトクローン胚等についての指針もまとめていく必要がございます。そういったことからヒト胚研究小委員会を改組して、再発足させるということが必要になっております。現在の小委員長であります岡田委員からは、長く大変ご苦労いただきましたので、今回はやめさせてほしいという辞意の申し出がございます。ちょっと余人をもってかえがたいところもあるんですけれども、先生には大変ご苦労いただきましたので、新しい委員長を選びたいと考えております。  
  私といたしましては、豊島久真男住友病院長を候補として考えているわけでございますが、もし皆様方がご了承いただけますのなら、豊島先生は、現在、病院の院長をなさっておられますし、他方では基礎の研究者として非常に優れた方でもありますので、幅が広い視野をお持ちであるということでどうかなということを考えておりますが、ご了承いただければ、豊島先生にお願いして、小委員のメンバーはある程度入れかえていく。連続性も必要ですので、半分ぐらいの方にかわっていただくというのがどうかなということを今考えておりますけれども、ご意見があればお伺いしたいと思います。  
(島薗委員) 
  実はこの親委員会のほうもちょっと心細いという気がいつもしておりますが、医療の専門家、法律の専門家の方にいつも大変大きな貢献をしていただているんですけれども、少し文化的とか、あるいは何というんでしょうかね、むしろ生活感覚に近いところで考えておられる方を小委員会のほうにもぜひ、たくさんということではありませんけれども、何人か入れていただけたらいいんじゃないかと思います。  
(井村委員長) 
  その点はまた、豊島小委員長をお認めいただければ、豊島小委員長と相談をして、そういうご要望があるということを申し上げて、私との間で決めたいというふうに考えております。  
  それからこの親委員会のほうにつきましても少し欠員がございますので、それもまた考えていく必要があるだろうと思いますが、とりあえず小委員会を発足させるとともに、ヒト胚研究のあり方について、今後ヒアリング等も続いていく必要があるのではないだろうかというふうに思っております。  
  それでは、少し予定の時間を過ぎてしまいました。何かご発言がございましたらお願いをしたいと思います。 
(島薗委員) 
  いろいろ申して恐縮なんですが、今回の件も一般の理解がなかなか追いつかないという、お急ぎにならなければならないということは重々理解しておりますが、少しでも時間がかけられるようにしていただきたいなということを感じております。ヒト胚のクローンの問題も法案が出てきまして、そこから議論が始まって、生命倫理委員会の意見はどうであったかということをそこで問われたりしておりまして、法案と生命倫理委員会の見解は一致するのかどうかというようなことが議論になっております。これは、その間の生命倫理委員会の審議が一般社会に受け取られる時間をもう少し考慮していただければ、そういう問題も、私は若干そこのところに生命倫理委員会の審議と法案との間にギャップがあるんじゃないかなと感じておりますが、そういった問題もできるだけ生じないようにしていただけたらと思います。  
(井村委員長) 
  事実関係は明確にしておきたいと思うんですが、私はこの生命倫理委員会と法案の間にはギャップはないと思っております。ただ、小委員会と生命倫理委員会の間では、この委員会で若干追加して議論をしたことがございますので、少しギャップを生じたかもしれない。その辺を一部の小委員の方から指摘されたのではないだろうと思っておりますが、事実はそう理解していいんですね。  
(池田局長) 
  法案について、今ご指摘がございましたけれども、確かに小委員会レベルの議論、それから生命倫理委員会でそれを整理させていただいて、そういう経過を踏まえて法案を用意させていただいたわけですけれども、法案自身、残念ながらこの場で法案の字面を追ってご説明するという機会はございませんでしたけれども、資料としてはお配りさせていただきましたけれども、見ていただきますと、確かに法律要件として何が必要かという点ですとか、あるいは規制する場合に客体、内容をどういうふうにとられて整理をするか。論理的に矛盾、穴があかないようにとかいろいろな議論した結果、やはり用語自身もいろいろな整理させていただいていますし、規制の対象をはっきりさせるために、かなり具体的な規定もしたり、法律技術的な作業がかなり加わっていますから、ごらんになった結果は、ちょっと違うなとか、そういう印象を持たれるかもしれません。私どもこの辺は、実は案文の段階から議論する過程で法整備その他法務省、各省とは、この議論の過程をずっと踏まえて相談させていただいた上でこういう中身を忠実に反映しているかどうかと。それは今の現行の法体系の中になじむかどうかという議論した上で用意させていただいたということでございまして、また、これはお時間もいただいて改めてご説明させていただくような機会も必要かと思いますけれども、そういう意味では、私どもは行政サイドでえいやと決めたとか、そういう部分はほとんどないと申し上げてよろしいかと思っています。  
  ただ、法案について、今ご指摘がありましたので、ついでながらちょっとご報告申し上げますと、これは4月に閣議で決めていただきまして、国会に提出させていただいたわけでございますけれども、国会があのように解散ということになりましたので、衆議院の段階でこれは審議に付されることなく、残念ながら廃案というふうになりました。国会が続いておりますと、これは継続とか、いろいろな方法があったわけでございますけれども、今回はそういう意味で廃案ということになりました。ただ、私ども与野党にこの法案内容についての説明には努力はさせてはいただいたつもりでおりますが、残念ながら国会の終盤にあたって、こういう生命倫理にかかわるような、あるいは技術の先端の部分にかかわるような議論については十分先を見きわめないと審議に付せないと。あらかじめそういう整理をされるのが通常のならわしでございまして、なかなかこういう問題で採決をするということもなじまないというようなこともあったからでございますけれども、残念ながら審議に付されるということなく、そういう経過をたどったわけでございますけれども。  
  ただ、衆議院の側では、科学技術委員会がこの法案が提出されたことを踏まえて、参考人質疑というのを5月の半ばにしていただきました。その段階では、岡田先生、位田先生にもご出席をいただいたわけでございますし、野党側からも、そのほかにも有識者を呼ばれて、実際上法案は提出審議に付されていないんですけれども、法案のほとんど主要事項を全部カバーするような質疑をしていただきました。こういうことについて、私らも政府としては、体細胞によるクローンの人に関する規制は法律的に規制すべきであるということが今までの議論でございましたから、法規制を急ぎたいと思って提出したわけでございますけれども、こういう公開の場で参考人の質疑ということで主要な事項についてはカバーされていることは、廃案は残念でございますけれども、まず、セカンドチョイスとしてはやっていただいたなと思っております。  
  その結果を踏まえて、衆議院のこの委員会では、クローン技術によって個体が産生するということについては防止をしようと、そのために早期の法制化が必要ということではコンセンサスがございました。これは委員長自身がそういうおまとめをされたわけでございまけれども、政府の提出法案をもとに各党が今後議論を深めよう、そうした上で新たな国会、これは国会が変わりますから、選挙を経て、新たな国会で速やかに審議、成立を図りたいという委員長のそういうコメントが公の場でされたところでございます。  
  以上、簡単でございますけれども、させていただきました。 
(井村委員長) 
  どうぞ。 
(位田委員) 
  時間をとって恐縮でございます。ユネスコの国際生命倫理委員会で作業をしている立場から今の島薗委員のお考え、もしくは藤澤委員のお考えに私自身は非常に共感を覚えます。ただ、問題は、日本では今まで生命倫理の議論がほとんどなされていないというのが一番問題でございまして、ここで何時間かけて議論をするかというよりも、むしろ一般社会の中で人の生命とは何なのか。生命倫理とは何なのかということが議論をされて、その上でこの生命倫理委員会で最後の結論といいますか、一般の日本の社会の中のコンセンサスを探り出すというのが本来の形だと思いますが、多分、現在は逆になっております。しかし現実に解決しなければならない生命倫理の問題が目の前にあります。  
  そういう意味で、原則の二十七に教育の普及というのを、これはある意味では私が非常に強調して書き込ませていただきましたけれども、生命科学そのものの意味、もしくは人の生命の意味、それから生命倫理の意味、そういうことを小さいときからというのはあれですが、やはり初等、中等教育のあたりからきちっと教育をして、そして生命科学の発達に対して調和のとれた形で倫理を議論していくと。そういう体制をつくらなければ、実はここで何時間議論しても、多分、あまり意味のないことだと思いますので、そういう意味では、私の考え方では、実は二十七というのが非常に重要な柱だというふうに思っております。  
(井村委員長) 
  ありがとうございました。 
  確かに国際的に見てもバイオエシックスというのは次から次から問題が出てまいりまして、どの国もかなりそれに追われているわけですね。その中で一番難しい問題は、デシジョン・メーキングをどうするのかという問題なんです。だから基本的には倫理というのはやはりパブリックが決めることですから、パブリック・アクセプタンスというのは非常に必要なんですけれども、ただ、それをなかなか得る方法がないということで、結局はどの国も生命倫理委員会をトップにつくって、そのコミッションがいろいろ努力をしているわけですが、なかなか科学技術の進歩が激しいものですから、その全容を理解していただいて、それを受け入れていただくまでに時間がかかってしまう。そこがどの国の悩みでもあるというふうに思います。だからこの点については、またいろいろなご意見があればお伺いをして、できるだけいい方法を選んでいきたい。  
  それからこのゲノムに関しても、やはりパブリックに議論をしていただく場をつくっていく必要があるだろうと思いますが、その辺はまた事務局のほうでもいろいろ考えてくれるだろうと思っておりますので、そういった地道な努力を続けていくしか今のところ仕方ないかなというふうに私は思っております。  
  それでは、少し予定の時間を過ぎてしまいましたが、どうも本日は大変ありがとうございました。 
   
──  了  ──