資料3−6

「科学」と「技術」、「科学技術」について

1.科学:science

・語義 1  世界と現象の一部を対象領域とする、経験的に論証できる系統的な合理的認識。2  狭義では自然科学と同義。→自然科学:自然に属する諸対象を取り扱い、その法則性を明らかにする学問。(広辞苑)
・語源   英語等の"science”という語は、ラテン語の動詞"scio"(=知る。分子形が"sciens"。名詞は"scientia")に由来。19世紀中頃から、現在言われる"science"の意味に近い用いられ方をするようになってきたとされる。
・近代科学の成立
  ヨーロッパ近代科学の成立については、様々な見方があるが、一般的には、ニュートンやデカルトが活躍した17世紀頃に制度的枠組みが形成され、19世紀には、科学を担う「科学者」が専門職業として成立したとされる。

2.技術:technology

・語義 1  物事をたくみに行うわざ。技巧。技芸。2  科学を実地に応用して自然の事物を改変・加工し、人間生活に利用するわざ。(広辞苑)
・語源   英語の"technology"等の語は、古典ギリシャ語の、"τεχνη"(テクネー)(=「わざ」的なもの全般を指す語。ラテン語では"ars")に由来。今日的な意味での使用は、やはり19世紀半ば以降からであるとされる。
・近代的な技術の成立
  技術の近代化についても各種の見方があるが、一般的には、18世紀後半からの産業革命(紡績機、蒸気機関等)と、19世紀後半からの第二次産業革命(重化学工業の発達)が重要な画期として位置づけられている。

3.科学技術(科学と技術の一体化の進行)

  科学と技術は、近代に至るまで、長らく基本的には別個の活動として、互いに相交わることなく活動が営まれてきたとされている。
  しかし、19世紀後半の化学工業や電気工業を嚆矢として、20世紀に入ると、科学的原理を技術に「応用」して、軍事や産業上の目的に役立てようとする考えが有力となり、政府や企業が積極的に「研究開発」を推進するようになった結果、原子爆弾から遺伝子組換作物まで、様々なものが開発されてきた。   (実際は、多くの場合、科学の技術への「応用」という単純な一方向では括れないと言われる。)
  こうした一種の目的志向型の「研究開発」の増大は、また、そのこと自体が、辞書の定義に見るような、科学と技術を、純粋な「自然の法則性の解明」と、その現実への「応用」として区別することにそぐわないような状況を生みだしており、また、科学の活動も、高度な技術を用いた実験・観測手段への依存を益々高めてきているなど、総じて、現在では、かつてのように科学と技術を截然と区別することが困難になってきていると言われている。

(参考1)

日本における「科学」・「技術」の受容

  日本においても、明治維新後、新政府は、「富国強兵」を掲げて、近代的な「科学」・「技術」を積極的に取り入れる努力を開始した。これに関し、若干の基本的な事柄を挙げれば以下の通り。

(1)「科学」という語について

  "science"の訳語としての「科学」という語は、元来は、前近代の中国の「科挙之学」の略語に由来。この語は、幕末から明治初頭にかけては、専ら「分科の学」(=個別学問)の意で用いられていたが、明治10年前後に、改めて"science"の訳語として用いられるようになったとされる。
  「科学」という語の有する、「分科の学」という意味と、当時のヨーロッパの学問が、既に制度化され、専門分化が進んだものとなっていたことの関連性を指摘する意見もある。

(2)「技術」という語について

  "technology"に対応する語である「技術」も、やはり中国に起源を有し、古く「史記」にも見られる。我が国では、明治期以前は、「芸術」のような意味で用いられていたが、明治初頭に、芸術とは区別された今日的な「技術」の意味で用いられるようになったとされる。   (必ずしも、特に"technology"の訳語として用いられたわけではなかった可能性がある。)

(3)科学と技術(工学)の区別について

  日本にヨーロッパの「科学」・「技術」を取り入れるため、最も重要な機関として設置されたのが、1873年に設置された工部寮大学校であり、1877年に設置された東京大学(法、医、文、理の4学部で構成)であった。
  これら2つの機関は、1886年に統合され、「帝国大学」となったが、これにより、帝国大学は、「工学部」を有する世界で初めての「大学」となった。(当時のヨーロッパでは、ほぼ例外なく、工学教育は、大学とは別個の専門教育機関において行われていた。)
  総じて日本においては、科学と技術(工学)の区別については、比較的柔軟に受け止めてきたものと考えられる。(「美術」と「工芸」の関係との類似性)


(参考2)

「科学技術基本法における「科学」、「技術」及び「科学技術」について
(尾身幸次著「科学技術立国論−科学技術基本法解説」より抜粋)

  「科学技術」とは、「科学に裏打ちされた技術」のことではなく「科学及び技術」の総体を意味する。

  「科学」とは、一般に、事がらの間に客観的なきまりや原理を発見し、それらを体系化し、説明することをいい、「技術」とは、理論を実際に適用する手段をいう。

  「科学」は、広義にはおよそあらゆる学問の領域を含むものであるが、狭義の「科学」とは、とくに自然の事物、事象について観察、実験等の手法によって原理、法則を見いだすいわゆる自然科学及びそれに係る技術をいい、その振興によって国民生活の向上、社会の発展等が図られるものである。


主な参考文献

・村上陽一郎「科学・技術と社会」  光村教育図書 1999年
・村上陽一郎「新しい科学史の見方」  日本放送出版協会 1997年
・佐々木力「科学論入門」  岩波書店 1996年
・飯田賢一「一語の辞典」  三省堂 1995年
・広辞苑  岩波書店
・英語語源辞典  研究社


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