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第4回科学技術会議生命倫理委員会議事録


1.日時    平成10年12月16日(水)15:00〜17:00

2.場所    帝国ホテル「福の間」

3.出席者

竹山科学技術庁長官
(委  員)
井村委員長、石塚委員、岡田委員、島薗委員、曽野委員、田中委員、永井委員、中村委員、藤澤委員、森岡委員、六本委員
(講  師)
東京大学教授 勝木元也 氏
(事務局)
科学技術庁研究開発局長 ほか

4.議題

(1)第2回生命倫理国際サミット会合の報告について
(2)クローン小委員会の状況報告について
(3)「クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)」について
(4)有識者アンケート調査等について
(5)ヒトES細胞等について
(6)ヒト胚研究小委員会の設置について
(7)その他

5.配付資料

資料4−1  第2回生命倫理国際サミット会合概要
資料4−2  科学技術会議生命倫理委員会及び同クローン小委員会の審議経過
資料4−3  クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)
資料4−4  クローンに関する有識者アンケート調査(総理府)
資料4−5  クローン小委員会中間報告に対する意見 とりまとめ結果
資料4−6  ヒト胚研究小委員会の設置について(案)
参考資料1  新聞記事
参考資料2  第143回国会衆議院科学技術委員会議録 第4号

6.議事

 (委員長)

定刻を過ぎましたので、ただいまから第4回科学技術会議生命倫理委員会を開催させていただきます。
本日は、お忙しい中をお集まりいただきまして、大変ありがとうございました。私は、初めから生命倫理委員会の委員を務めさせていただいておりましたが、本年6月19日付で任期満了でご退任になりました森亘先生の後任として科学技術会議の議員に就任いたしましたので、生命倫理委員会の委員長を引き継ぐこととなりました。大変不慣れではございますが、先生方のご協力を得ましてこの責めを全うしたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
生命倫理委員会におきましては、クローンの問題につきまして本日もご議論いただく予定になっておりますが、たまたまけさの新聞に、韓国において体細胞を脱核した卵に移植して初期胚の培養に成功したという記事が出ました。これにつきまして、今後とも議論を重ねていく必要があると考えております。また、先だって、ヒトのES細胞(胚性幹細胞)の樹立に成功したという論文が雑誌に掲載されました。この問題につきましても、今日ご議論をいただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、竹山科学技術庁長官にご出席いただいておりますので、まず、大臣からごあいさつをいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
(科学技術庁長官)
ご指名をいただきました科学技術庁長官の竹山裕でございます。今日は、それぞれに特段のご多忙の皆様方にお集まりいただきまして、厚く御礼を申し上げます。
ただいま委員長からお話がありましたとおり、生命倫理の問題につきましては、イギリスでのクローン羊ドリーの誕生を契機として、国際的にも、また、日本としても、国民の皆様方の関心の高い事項として認識しているわけでございます。特に本委員会の当面の課題でありますクローン問題につきましては、クローン小委員会において専門的見地から議論が続けられてきておりまして、これまでに中間報告を公表すると同時に、国民の各般からの幅広い意見を募集しているところでございます。現在、集まった意見をもとにして、規制の在り方等についてさらに議論を続けているところと伺っております。本委員会の委員の先生方におかれましては、これらの議論をより大所高所から深めていっていただければと思うわけでございます。
科学技術の進展は非常に速いテンポでございまして、前回の生命倫理委員会が開催された今年の4月以降にも、アメリカにおいて、今お話しのES細胞、すなわち人体の全組織を作り得る細胞の分離に成功するなど、生命倫理に関して今後新たな議論を引き起こすことと予想される事態も生じております。本委員会での審議の重要性はますます高まることと思われます。今後とも幅広い見地から活発なご意見を賜れば幸いと考えております。
今日はありがとうございます。ご苦労さまでございます。
(委員長)
大臣、どうもありがとうございました。
それでは、議事に入ります前に、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
(事務局)
お手元にございます資料でございますが、議事次第という紙がございます。配付資料としましては、資料4−1としまして、第2回生命倫理国際サミット会合の概要。資料4−2としまして、生命倫理委員会及びクローン小委員会の審議経過という1枚ものの紙がございます。資料4−3としまして、クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)がございます。資料4−4としまして、クローンに関する有識者アンケート調査(総理府)という資料がございます。資料4−5でございますが、クローン小委員会中間報告に対する意見取りまとめ結果でございます。資料4−6としまして、ヒト胚研究小委員会の設置について(案)という1枚物の紙がございます。あと、参考資料1として新聞記事、参考資料2として衆議院科学技術委員会での議事録をつけております。
以上でございます。

議題:第2回生命倫理国際サミット会合の報告について

 (委員長)

もし不足がありましたら、事務局までお申し出いただきたいと思います。
議題の1でありますが、これは第2回生命倫理国際サミット会合の報告でございます。
去る11月4、5、6日の3日間、国際生命倫理学会が日本大学会館で行われましたが、その前日と第1日目にかけまして、11月3、4日でございますが、第2回生命倫理国際サミット会合が開催されました。生命倫理委員会の委員の皆様には事務局から案内を差し上げておりますので、ある程度ご存じいただいていると思います。この中では、私が共同議長として参加いたしましたし、永井委員に日本のデリゲートとして参加していただきました。さらに、数名の方がオブザーバーとして出席されました。この会合は、各国の生命倫理委員会の委員長が集まる会合でございまして、それ以外に、WHO、UNESCO等の国際機関の生命倫理関係者が出席いたしました。その結果につきましてごく簡単にご報告したいと思いますが、事務局から説明してください。
(事務局)
資料4−1でございます。第2回生命倫理国際サミット会合の概要ということでございまして……。
(委員長)
できるだけ簡単に。今日は議題が多くありますから。
(事務局)
わかりました。
行われました議題、セッションとしましては、ヒト研究倫理問題、各生命倫理国際組織からの提言、国際的に共通な研究倫理問題に関する各国生命倫理委員会からの問題提起、国際協調の可能性ということについて議論が行われました。その議事のポイントは、別添1のサマリーのところ、2枚物のところに記述してございます。
ヒト研究倫理問題等につきましては、例えば、臓器移植の研究、臨床治験の問題等が議論されました。各国際組織からは、国際組織間の協調でありますとか、国際生命倫理に関するプラットホームをつくってはどうか、などの提言もございました。それから、セッション3の部分では、臨床治験と途上国での人体実験等について議論が行われておりました。国際協調の可能性につきましては、こういう国際機関を交えましてガイドラインの作成の目安になるようなものを検討すべきではないかという議論もございまして、最終的には、資料4−1の一番後ろにございますが、別添4に英語の3枚物がございますが、東京コミュニケという形で議論が要約されまして、これが賛成者の署名ということで採択されました。
以上でございます。
(委員長)
ありがとうございました。今の報告のとおりでございますけれども、資料4−1の最初をごらんいただきますとわかりますように、28か国8団体、それから、オブサーバー8か国、合計33か国から参加いたしました。最終的にコミュニケという形でまとめ上げまして、将来的には国際生命倫理サミットを作る方向でワーキング・グループを設置するということが決まったわけでございます。ただ、この会合は途上国からも非常にたくさん参加しておりまして、先進国と途上国の間で若干関心が異なります。途上国の場合には、このごろ製薬企業等が極めて国際化いたしましたので、途上国で人権を侵すような実験をするのではないかという危惧を持っておりまして、そういった人体実験への倫理的な規制に主として関心が集中いたしました。これにつきましては、今後とも議論を重ねていく必要があるであろうと考えております。
何か、これにつきまして、ご意見、ご質問等ございますでしょうか。永井先生もご出席いただきましたが、先生、何かありましたら。
(委員)
付け加えることは特にございません。

議題:クローン小委員会の状況報告について
議題:「クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)」について

 (委員長)

議事等の内容はお手元の資料にもございますので、時間を節約するために省略させていただきます。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、議題2と3に進ませていただきます。クローン小委員会の状況報告についてというのが議題2でございまして、議題3はクローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)でございます。
クローン小委員会は、前回の第3回生命倫理委員会までに4回、それ以降3回、合計7回、大変積極的、精力的に議論していただきました。本年6月にはクローン技術に関する基本的考え方についての中間報告を公表し、広く専門家や国民一般から意見を募集いたしました。これまでの状況及び中間報告の内容につきまして、クローン小委員会委員長からご説明をいただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
(委員)
それでは、議題の2と3というあたりのところで、まず私からご報告を少し申し上げまして、その後、少し詳細に説明していただく方がよければ、事務局からお願いするということにいたしまして、進めていきたいと思います。審議経過というのが資料4−2にありますので、これを見ながら聞いていただけると有り難いと思います。
第4回の小委員会が終わった後で、この生命倫理委員会に一度、それまでの進捗状況をご報告いたしております。その後、ここにあります第6回のクローン小委員会、ここのところで大体、全体の意思統一という格好が一応でき上がってまいりましたので、ここで中間報告をまとめたということでありまして、今、委員長が申されたように、6月に中間報告をつくりましたので、これをインターネットに出すと一緒に、お手元にありますような形の幾種類かのアンケート調査というのを夏の間に精力的にやっていただきました。その集計が済んだ時点で第7回というのを11月24日に開きまして、そのアンケートの報告を聞いてディスカスしたということでありますが、夏のアンケートの処理をしている間は世の中は何事も起こってこなかったんですけれども、ちょうど11月24日近辺のところではいろんなことがあって、ちょっと慌てないといけないかなというようなこともいろいろ起こってまいりました。今日ああいう新聞報道が出ましたけれども、それより前には、アメリカのベンチャーキャピタルがお金を出して日本でペットのクローンを作る会社をつくって、翌年には北海道で人のクローンを作るという、新聞記者を集めての大変な報道もあったり、それから、さっきのES細胞の問題が出てきたというふうなことで、いろんな問題が山積してまいりました。でも、非常に順調に会議を重ねてまいりましたので、そういうふうなことに対応しての処理がもうすぐでき上がるであろうというような感じを持っています。
少し内容のことをご説明申し上げますと、規制の問題というのは人個体のクローンを作るということに限定しようということでありまして、動物の個体のクローン、ヒトの培養細胞のクローンというような形の問題点に関しては、制限条件というのは全く考慮しなくてもよさそうだということであります。人個体クローンの制限ということに関しては、クローンということになりますと、例えば、一卵性双生児とかということになるといわゆる人のクローン的な一つの問題が出てまいりますので、こういうふうな問題がひっかからないようにする必要がどうしてもあるということで、結局、精子が卵子に受精するという自然のステップを経ないで人個体を作成する方法というものの制限ということに限定させてもらうことにしました。この問題に関しては、倫理的にも、生物学的にも、人クローン個体というのは問題があるという委員会のいろんな立場からの説明というものを中間報告のところにしてきたわけであります。
今度は、それを制限するとして、どのステップを制限するかという問題が次に起こってまいりますが、これに関しては、核交換をした卵を子宮に着床させるステップというのを禁止するというあたりのことに中間報告ではなっております。したがって、個体を作るのではなくて、培養系の場合には、今、日本産科婦人科学会のガイドラインのところで走っております、ヒトの受精卵を試験管の中で培養するときには、卵割期が過ぎて、胞胚期が過ぎて、原腸陥入のところまではオーケーであるという形のことがありますので、試験管の中ではそれに整合性を持たせる。子宮に着床させるところを完全に禁止するという格好の報告になっています。規制の措置としては、国のガイドライン規制以上の措置が必要であろうと中間報告に書いています。ということは、国のガイドライン規制か、法規制か、という二つのことになります。
こういうふうな形のところでアンケート調査したということでありますけれども、第6回の小委員会の委員の方々の大方の意見というのは、6月の時点ですけれども、国のガイドライン規制という形の方がいいのではなかろうかというのが大勢を占めておりました。これをもとにしてアンケート調査したわけでありますけれども、このアンケート調査に関しては……。
次に進んでもいいですか。アンケート調査の説明を。

議題:有識者アンケート調査等について

 (委員長)

議論の前にアンケート調査の結果も報告していただいて、その上でまとめて議論しようと思います。
それでは、事務局、お願いします。
(事務局)
それでは、アンケート調査、学会等からのご意見につきまして、事務局からご説明いたします。資料4−4及び資料4−5でございます。
資料4−4でございますけれども、これは、総理府が実施しましたクローンに関する有識者アンケート調査でございます。
1ページをお開きくださいませ。全国の有識者2,700名を対象としまして実施しました。回収率は78.2%という高い率でございました。学識者、マスコミ関係者、お医者さん、自由業者等、各分野から非常に高い率で回収されております。質問の全体的な構成は、生命倫理問題一般に関すること、クローンに関する生命倫理問題、動物のクローン技術について、その他、ということになっております。
2ページをお開きください。生命倫理問題に関する関心というのは皆さん非常に高くて、96.1%と高くなっております。4ページに参りますと、特に関心のある分野としましては、遺伝子治療、臓器移植、脳死の問題、クローン、安楽死、こういうようなところが関心事項になっております。
そこで、次にクローンの問題に焦点を持ってまいりまして、クローンについての関心度合いを尋ねましたところ、6ページでございますが、92.3%と非常に関心があるということでございます。
それから、12ページのクローンの生命倫理問題でございますが、クローン技術を人に適用することについて好ましくないかどうかということで、93.5%の方がクローン技術を人に適用することは好ましくないという回答を出しております。次の14ページはその理由について聞いております。一番大きな理由としましては、人間の尊厳上問題があるという指摘になっております。それから、18ページでございますが、不妊症の夫婦がクローン技術で子どもを持つことについてどう考えるかということにつきましては、それでも人に適用すべきではないというのが67.3%でございますが、条件つき等を含めまして、適用してもよいというのが合わせて24%近くあるということでございます。20ページでございますが、人へのクローン技術の適用の規制の在り方については、厳しい規制をすべきであるという意見が大勢を占めております。22ページの問9でございますが、クローン技術の人への適用の規制の在り方につきまして、他の生殖技術の人への適用の規制とのバランスをどう考えるかということで、60%の方がバランスをとるべきであるという回答をしております。24ページに参りまして、具体的に日本においてどういう規制の形態があるでしょうかという質問をしまして、法律に基づく規制をすべきであるという方が71.2%、国のガイドラインが16.7%と続いております。26ページの問11でございますが、規制の時期については、できるだけ早急にという方が66.9%を占めております。28ページ、規制の適用期間ということでございますが、これについては、永久に禁止すべきであるという方が59.4%と一番多くなっております。以上が人へのクローン技術の適用に関する質問でございます。
3番は動物のクローン技術についてということでございまして、動物のクローン技術への適用につきましては、食糧の生産ですとか、医療の向上など、人類に役に立つ技術であるということで、情報公開を進めながらやって欲しいというのが70.3%を占めておりました。それから、32ページでございますが、人に使える移植用の臓器を多数作ること、これについてどう思いますかという質問につきましては、条件つきで認めてもいいという方が54.8%ございました。
あとは、生命倫理問題を考える主体はだれが中心になって考えるべきかというのは、一人一人、一般の人がすべて考える問題だという指摘をされております。
以上が有識者アンケート調査の結果概要でございます。
資料4−5でございますが、これは、クローン小委員会中間報告を学術団体等にこの夏に送付いたしました。それから、インターネットにも掲載いたしまして、それで返ってまいりました意見を取りまとめたものでございます。1ページ目にございますように、全体としましては127件の団体及び個人から回答がございました。その個別内容としましては、次のページからの3枚紙に整理してございます。ポイントとしましては、2のクローン技術に関する考え方というところで、人へのクローン技術の適用というものは、人間の尊厳の侵害という理由を切り口にして、適用すべきでないという意見が圧倒的な意見であったという意味では、アンケート結果と大きく変わりはございません。人以外への適用につきましても、慎重にやりながらも進めてよろしいという、こういう整理にされておりました。
以上でございます。
(委員長)
ありがとうございました。それでは、少し議論していただきたいと思います。主要なポイントは、規制の根拠をどう考えるのか。すなわち、人間の尊厳を侵すという考え方でいいのかどうなのかということ。それから、第2番目は、技術のどの部分で規制するのかということで、先ほど委員が小委員会の報告としてお話しになりましたように、子宮に戻すというところを規制すれば、現在のところ個体を作ることはできませんので、それでいいかどうかという問題。3番目に、規制の方法として、国のガイドラインにするのか、法規制にするのか。その辺が主要な点でございますね。
(委員)
そういうことになりますね。
(委員長)
その辺について少しご意見をこれからいただきたいと思っております。
(委員)
規制との関係を含めて、それのベースになる思想とか、メリット・デメリットとか、そういうふうな形のものが多分、これから小委員会で作業をせねばならないものになろうかと思いますが、ここで忌憚のないご意見をいただけると非常に有り難いと思います。
(委員長)
それから、もう一つご報告をしたいと思いますが、7月3日に文部省の学術審議会が開かれまして、そこで大学等におけるクローン研究についての報告がなされました。これは、とりあえずクローンを作るとすれば実際には大学等の研究者でありますので、研究者が自主的に規制をしようということでまとめたものであります。このまとめはかなり厳重でありまして、単に子宮に戻すだけでなくて、試験管の中で体細胞の核を脱核した卵に植えるというところも禁止しております。しかし、学術審議会といたしましては、この生命倫理委員会の決定を待って、将来、違うところがあれば、それについては再検討して修正するという条件つきでこの案をとりあえず認めておりますので、その点をご報告したいと思います。
それでは、どのような問題でも結構でございますから、少しご議論をいただければと思います。いかがでございましょうか。
(委員)
ちょっと発言させていただきます。私、先週、7日、8日、9日、10日と、パリの世界人権宣言50周年の集会に呼ばれまして出てきたんですけれども、フランスの場合には割合と人権の本家みたいなところでございますので非常にはっきりしている面もあるんですけれども、ただやっぱり、現在になると、例えば文化と人権という問題ですね。文化の相違によって人権をどう考えるのかというようなことも当然問題になっていた。その4日間、私は向こうの総理大臣から呼ばれたものですから、ずっと出なければならないので出ていたんですけど、出ていた感想としては、日本の場合は非常に難しい点がいろいろあると。さっきから既にお話が出ていますけれども、例えば、ガイドラインというのが一つの重要なポイントだと思うんですけども、ガイドラインをつくっても、ガイドラインを守る根拠みたいなものですね。それをどうしたらいいか。
実は、さっき私もここに入ってくるときに新聞記者につかまってしまいまして、そのことと関係なしに聞かれたんですけれども、新聞社の人の言い方でわかったのは、科学の進歩に役立つということを研究者は思っていると。それに対してどうかということを聞かれた。これは、私は前から言っているんですけど、科学の進歩というのは一種の人間の欲望ですね。知の欲望というので、これはほかの欲望とある意味じゃ並んでいるわけです。ですから、欲望は欲望として認めてもいいんですけど、ただし、科学の進歩の名においてということはそんなに絶対的なものではないのではないかということをさっき簡単に申しました。
いずれにせよ、パリの会議については、朝日新聞にもそのうち出ると思うんですけれども、日本の中で感じていることよりもはるかに、相当きちんと考えないと、この問題は日本からのメッセージが出せないのではないかということを感じましたので、ちょっと一言。
(委員長)
ありがとうございました。知への欲望というのもありますが、同時に、医療への応用というもう一つの、これも欲望かもしれませんけれども、それがあるわけです。実は、クローンをやったウィルムットが何月でしたか日本に参りまして、私、ちょっと会って話をしたんですが、日本はどうして人のクローンに反対かと聞くんですね。人の尊厳というふうなもので考えているんだと言ったら、彼は不妊症の治療に応用してどうして悪いのかということを言いました。ただ、自分はキリスト教徒ではないけれども、奥さんはキリスト教徒であって、家内は強硬に反対しているので意見が割れているということまで言っておりましたけれども、そういう不妊症治療への応用という、医療への応用という側面もありますので、その辺も視野に入れながら考える必要があると思います。
もう一つ、これはクローンではありませんけれども、ミトコンドリア異常症という病気がございます。これは、核ではなくて細胞質の方の遺伝子に異常がある病気なんですが、その場合に、受精卵の核をとりまして、脱核した正常な卵子に入れることによって治療ができるのではないかという問題があります。だから、クローンとは違いますけれども、クローン技術と極めて似た技術になりまして、この問題もまた、いずれ考えておかないといけない問題になるのではないだろうかという気がしております。
どうぞ、ご自由に忌憚のないご意見を伺いたいと思います。
(研究開発局長)
この有識者のアンケートでございますけど、これは、先ほど事務局からご報告申し上げたんですけど、前後のところをはしょってご報告申し上げていますが、これは、一般に聞きますときに、一般の方は必ずしも、クローンの問題について問いかけをされたときに、受けとめるだけの情報に接しているかどうかといったことで議論がございました。そうした意味で、これは2,700名の方にお願いしたわけですけれども、そのときにはクローンについてのパンフレットも用意いたしまして、大体、どういう技術が問題にされているか、どういう応用例があるかといったことも、パンフレットを読んでいただきながら、そうした上で答えていただく。それも、お医者さんですとか、マスコミの方ですとか、有識者を選ぼうと。そういう問題についてある程度受けとめて、こなされる素地のある方を選ぼうということでこういうアプローチをさせていただきました。そうした結果、かなり高い回答率があった状況を先ほどご報告したわけですけれども、その中に、今、委員長からございましたような、不妊症の夫婦がクローン技術で子どもを持つこと、それはどうかということにつきましても、18ページにはそれに対しての答えが、そういう結果として、使うべきではないという方は7割近くの方が、これは、お医者さんも、皆さん含めまして、そんな方が多々あったのも事実でございます。この辺はどういうふうに、こういう状況を踏まえてこれからご検討をいただくかということであろうかと思いますけれども、ご参考までに。
(委員長)
どのような問題からでも結構です。恐らく皆さん、人においてクローンを作るということには反対であろうと思うんですが、いかがでしょうか。実は、文部省の学術審議会が急いだ理由の一つは、動物のクローンをやっている人たちがいまして、動物のクローンまで禁止されると困る。だから、文部省は早く公的な見解を出してほしいという意向があちこちから出たようであります。そのことも受けまして、ともかく動物のクローンは結構です、人間のクローンは禁止します、という意味の学術審議会報告をまとめたわけですね。その後、クローン牛が日本でも何匹か誕生いたしました。
(委員)
今の人以外の動物に関するクローンの問題ですけれども、ちょうど5日前のアメリカの雑誌の『サイエンス』に、日本が牛のクローンを作ることに関してはトップに達したという報告がありまして、相当大がかりな形で論じております。日本の場合、10個の胚を胎内に戻して8個成功した。ドリーのときには13個戻して1個しか成功しなかった。その後、経済的に採算がどうかといった理由その他もあってか、ほかの国では、ウシのクローン化に関して、しばらく取り組む姿勢が弱まっている間隙を縫って、日本の場合は輸入の障壁とか、政府の支持もあったかと思うが、トップに立つに至った、とあります。近畿大学、それからほかでも、高率に成功している。そういう研究は、日本では非常に進んでいるということが注目されている訳です。
(委員長)
畜産の技術が日本は非常に進んでいましたから、それが基礎にあったので恐らく成功率が高かったんでしょうね。ただ、それでもわりと死亡があって、その理由がまだ完全に分かっていないというところですね。
(委員)
8頭生まれて、4頭死んでいるそうです。
(委員長)
はい。だから、その辺は技術的にまだ解決しなければならない問題があるということだろうと思うんですね。
いかがでしょうか。規制の問題でも結構です。法的規制か、ガイドラインでいくか、という問題ですね。
(委員)
先ほど説明がありましたが、それによると、試験管内での人クローン実験ではあるステップまでならいいという、そこの問題ですね。どのステップまで禁止をするのか。そこに非常に大きな問題があると思うんですね。
(委員)
いろんな問題がそれぞれどこのステージで禁止するかによってあると思うんですね。ただ、日本産科婦人科学会の方が今定めているガイドラインというのは、試験管ベビーという一つの具体的な形を含めて、培養系であるところまでの観察というのは相当大切なんだということに基づくものだと思います。だから、そういう意味の試験管の中での観察というのはあるところまでは許したいというあたりのことがあって、それを私たちは原腸陥入という言葉を使っているのでややこしいんですが、一つの個体としての形づくりができる前のところまではビトロで観察をしてもいいと。個体形成側のところに動き始めてからは試験管の中でも駄目というふうな形の一つの理解だと思います。これは多分、産婦人科の臨床の方にとっては相当大切なところでして、ここのところを、現行動かしているものをストップさせることがいいか悪いかというのは日本産科婦人科学会で決めなければならないことだろうけど、それ自体は、生命倫理という側の日本社会での一つの一般的な感じ方からすれば、それほど奇異なものではないだろうと思っております。
それと対応して、今、委員長がおっしゃいましたように、文部省の学術審議会の方では核移植自体のところから駄目という話になっておりますが、ヨーロッパあたりでは、受精卵のハンドリングはまかりならぬというふうな形のこととの対応の中で、この一部分の問題というのもそこに包含してしまうみたいな意識の中にあるんだろうと思います。
ところが、いろんなことがこの近くで起こってきたわけですけど、最初に委員長の方から話があったES細胞(Embroyonic Stem Cell)、胚幹細胞というんですかね。
(委員長)
胚性幹細胞ですね。
(委員)
ここら辺あたりの問題になってくると、培養系でのいろいろな細胞への分化の希望というのがたくさんありまして、いわゆる人クローンという名前が出たときに必ず一般論として話が出るのは、臓器が作られて移植に使えたらどうだろうという話なんですけど、子宮に着床させて動かしていかない限り、本当はそんなことはほとんどあり得ないことなんです。それよりもむしろ、胚幹細胞という細胞から培養系を通して、培養系の中でいろんな機能分化をさせた細胞をつくって、それで、臓器移植全部はカバーできないにしても、今、先端医療と言われている臓器移植、これはいろんな意味でそれをもとにした問題がいっぱい出てきたと思うんですけど、それを外して、できるだけ外して、もっと温和な培養系で機能分化をした細胞をつくって、それを移植する格好で代用していきたいという流れがきっと起こってくると思うんですね。その場合の、胚幹細胞をとろうというところになると、今の日本産科婦人科学会のガイドラインというのがあった方がその途中でとれますので、可能性があるということになります。それをしないと、多分、ジョンズ・ホプキンスだったかな? ルールを逃れるために牛の卵を脱核してヒトの体細胞を放り込んで、そこから試験管の中で培養して胞胚期までもってきてヒトのESをとるという、非常に込み入った、ややこしい、ルールをすり抜けるような方法論という形のものが出てくるでしょうね。いろんなややこしいことが余計に起こってくる条件もあると思いますので、そんなことから言えば、これから、ここの委員会でも考えていただきたいし、小委員会でも考えねばなりませんけれども、学術審議会での、どこでとめるかという問題と、それから、今、小委員会で一応ここら辺ではどうかと言っている問題との整合性をどこかで一つ求めておかないといけないというところにあると思っています。
(委員長)
この問題はES細胞も念頭に置きながら考えていかないといけない問題ですね。
それから、もう一つ難しい問題は、母体の子宮に戻してはいけないというところですね。例えば、チンパンジーなんかでできないかという問題がまた出てくるわけですね。
(委員)
初期のときから、それは小委員会でディスカスの対象になりました。それは、禁止条項を読めば、ちゃんと書いてあることになっているはずなんですが。
(委員長)
そうですか。ちょっとよく記憶していなかったので。
(委員)
だから、何かルールを決めると、それをすり抜ける工夫というのがいっぱい出てきて、非常に気分の重たいものになるという条件もあるということがありましてね。
(委員長)
アメリカのES細胞も、NIHはヒト胚の研究にお金を出さないということなので、ベンチャーからお金をもらって大学の前の研究室を借りてそこでやったと、そういうことがありますからね。
(委員)
両方とも難しいですね。法規制をするにしても難しい。
(委員)
今の議論を聞いていますと、要するに子宮の中に戻さなければいいという議論になってしまうのですか。ヒトの体細胞の核を入れますね。分裂をさせて、あるステップまでは良いという規制の根拠はまた別なんでしょうけど。ともかくそれを子宮の中に入れて個体を作るという操作をしなきゃ、試験管の中でやっている分にはいいということになるわけですか。
(委員)
試験管の中では、臓器移植に使う臓器だけを作るなんていうことは多分、永遠に無理です。そんなことは、今考えることはないと思っています。
それから、非常にいろんなイリュージョンがここの中でいっぱい入ってきているんですよ。例えば、人クローンにしても、結局、人クローンの個体はつくらないけど、子宮の中へ返して臓器だけをちゃんと作られたら良いではないかという話になるわけですね。そんなことはあり得ません、実は。だから、今は、ちゃんと我々が判断をしていて、専門家が判断をしていて、将来も多分、その域を出るまいと思っているものはどんなことかといいますと、ES細胞の場合には、個体を作るか、培養系でいろいろ分化した細胞を作るか、ということであって、その途中のある臓器だけを試験管の中で作るとか、そんなのは全部ないんですよ。それをあるがごとくの話になってくるとややこしいことになって、何かわけがわからなくなるから、私は、そういう実際上の研究者が感じ取っている可能性はどこら辺までかということを非常にはっきりと判断をして、そこのベースの上でどんな規制をするかというのをはっきりしないと、何とも現実離れした問題点がいっぱい横に並んで、それを全部処理するというのは非常に難しい。私はそう思っています。
(委員)
体細胞の核を入れますね。で、分裂をさせていく。あるステップまではいいという論議は何を根拠にしているかということをお聞きしたいわけです。
(委員)
現実的なことです。
(委員)
1984年のウォーノック委員会報告の議論では、神経原基ができれば人間だと。だから、胚の発育はそこのステップまではいいというような意見もあるんですね。試験管の中でやるとしてどこまで分裂させてもいいかという論理が問題になってくるわけですね。
(委員)
絶対論の話になってくると、委員会のまとめはとても不可能です。投げ出さねばなりません。非常に幅を狭めて、ここの問題に関してだけはちゃんとしておかねばならないなというあたりのところに制限してきて、初めてこの中間報告も成り立ったんです。中間報告にするまでは、生殖の問題に関係するところから、非常にいろんな話が出て、それを全部クリアしないとここの問題に到達してはいけないという見解がいっぱいありました。だけど、それは幾らやっても、結論というか、絶対的な結論というのが出るものとは思わない方ですから、私、委員長でしたから、ですから、私がやったことというのは、とにかく現在動いているものに関して影響を与えないという形のところに絞ってきてもらったということです。それは何かというと、人クローンに関しては、受精という自然のステップを経ない人間個体の、これは、作製という言葉を使う委員の方がいますが、そうだと思いますね。生まれるのではなくて、作製という格好のことを禁止しようと。とにかくそこに土俵を集約しようという話にして、そこからどこのステップをどうとめるかという話になってきたということです。
(委員)
一つ、質問を兼ねて。あるところでとめるというのは、細胞分化がどれくらいまでは許せるという一つの考え方があるんでしょうけれども、それがたまたま試験管の中であれば、それ以上には分化しないという、その線とたまたま一致するわけでございますか。
(委員)
多分、それから先はとても培養系では生かしていくことはできなくて、どんどん落ちていくという条件下の中にはあります。おっしゃるとおりです。
(委員)
たまたまその辺で細胞の分裂を……。
(委員)
そこら辺が培養系でできるぎりぎりのところと、多分そうだろうと思います。
(委員)
とすれば、卵細胞の核の移植などは認めるけれども、試験管の中へ移すだけであれば個体ができないので、そこまではというのは、物理的にも規制しやすい考え方だとは思います。
(委員)
一応、中間報告ではそういう形で報告をしたということでして、これをもっと変えなねばならんということであれば、変えるということになると思います。
(委員長)
そこでストップしておけば、ES細胞にもそれを適用して、ES細胞を子宮に戻すところは禁止するんだということで、比較的簡単ですね。しかし、ES細胞を試験管の中で使って研究するということは認めるというふうなことで、禁止のステージに整合性ができてくるわけですね。
(委員)
そこら辺に求めないとしようがないかなという感じはあるんですね。
講師、どうですか。
(講師)
私は技術的なことを説明するために呼ばれましたが、意見を申し上げてもよろしいですか。
(委員長)
どうぞ言ってください。講師は今日、オブザーバーとして来ていただいております。それは、やはりES細胞のことを説明していただかないといけないと思って来ていただいたんですけれども、ずっと今まで関係しておられますので、先生の個人のご意見をどうぞ。
(講師)
委員長からご紹介いただきましたが、文部省学術審議会のクローン小委員会に科学官として出席しておりましたことと、科学技術会議のクローン小委員会委員でもありますので議論に関与いたしました。
先ほど委員がおっしゃいましたが、科学技術会議と学術審議会の規制とで最も違っているところは、学術審議会の方は核移植そのものを禁止しておりますが、科学技術会議の方は母体への移植を禁止するという点です。日本産科婦人科学会の規制では、正常の胚に対する観察なり研究というものを14日間認めているという立場で、それを視野に入れての科学技術会議の方の考えだと思います。学術審議会の方はそれとはちょっと違う観点を持っておりまして、クローン羊が出たときに最初に影響を受けるのは大学の先生であろうということで、畜産に使われた技術をそのまま人に応用していいのかと、そういう議論をいたしました。そのときに、未受精卵への核移植を研究のために使うというよりは、むしろそれ自身を規制することが、後で申し上げますが、核を初期化するということと、初期化できるのは未受精卵の細胞質であること。この二つのことが合わさって初めて個体が発生をし始めるということでありますので、コンセプトとしてはそこが一番重要であろうということで、そこで禁止をする。そうしますと、完全に人の個体は、少なくとも現状では生まれてこない。そういうきっぱりした考えで結論を出したように思います。
ですから、その後、いろいろ話をしている中で科学技術会議との違いが焦点になりまして、科学技術会議の委員会での議論を取り入れて、場合によってはもう一度、学術審議会で検討するという条件で報告書を出したという経緯がございます。ですから、二つの会議での結論の出し方は、クローン個体禁止は同じでも規制の段階が少し違っているわけでございます。
(委員)
学術審議会の指示というのは非常にクリアカットで、私は、あの時点ではそっちの方が相当はっきりしていて気持ちがいいなと思っていたんです。だけど、近ごろになってESが出てきてしまったものですから、少しややこしい判断をせねばならないかなあということで、だったら、一応、小委員会の中間報告ではああいう形をとっていたから、ES側の方への対応もそれで許されるなら何とか持っていけるかというような感じをそれから持ったということでして、実際上は、非常にクリアカットで、その方がはっきりしていていいと思ったんですよ。
(委員長)
いかがでしょうか。
(委員)
今話題になっています具体的な問題から離れて、小委員会のご議論には余り役に立たない話になると思いますけれども、配布された「クローン小委員会中間報告に対する意見の取りまとめ結果」という冊子を拝見しますと、科学技術の在り方自体に言及している意見は少ないということから始まっています(4ページ)。しかし、私がふだん研究している哲学の観点から言いますと、科学技術そのものに対する考え方をきちんと決めないと、そこから先に出てくるいろんな具体的な問題が、態度が、明確な形では決定できないのではないかという気がどうしてもして仕方がないんです。せっかくこの委員会の末席に連なっておりますので、こういう考え方もあるということで発言させていだたきます。
科学あるいは科学技術についての一般の考え方はこうでしょう。つまり、科学というものは純粋の好奇心で進めるものであって、それが善いか悪いかといった価値については中立的、バリュー・ニュートラルである。それを応用する技術の段階になって初めて善し悪しが出てくる。あるいは、この「取りまとめ」を見ていましても、科学技術の進歩は非常にすばらしいけれども、応用の段階は慎重にしなければいけない。悪用されるおそれがある。これが大体、いまだに一般の方々のご意見、お考えではないかと思いますけれども、私は全然、そういうことはないということで、皆様方に従っていただこうとは思いませんけれども、ただ、こういう見方もあるんだということだけで申し上げます。
自然科学は絶対にバリュー・ニュートラルではあり得ない。およそ人間のやることは、価値的にニュートラルということはあり得ないわけです。今、自然科学と言われている営みというのは、自然の中から物質のアスペクトだけを取り出す。生命なら生命についても、細胞とかいろんな仕組みを<物>としてとらえて、その局面だけで、どういう構造の解明が可能であるか、どういう操作が可能であるかということを、<物>のアスペクトだけで推進していくのが自然科学の営みであろうと思っておりますけれども、もちろん、実際の自然とか実際の人間には、<物>の局面、物質の局面、あるいは、物質とみなしても差し支えないような局面以外のいっぱいいろんな価値がある。トータルな人間としての価値があるわけですね。だから、<物>の局面だけを抜き書きした抽象に基づいて研究を進めていったら、いつかは必ずほかの人間としてのトータルな価値と抵触するということは初めから予想されていることなんで、それが今、人間の尊厳とか、そういう言い方で言われていることの実際だと思います。科学と技術を分けてしまうというのは恐らく常識的な考え方かもしれませんけど、それは実際には分けられない。その側面だけで可能なことは必ず開発されていきますから、絶えず厳重にチェックしていかなければいけないのではないかと思います。
ですから、この問題に関しては、私は最初から、人クローンに関しては絶対にやめていただきたいという考えを持っております。動物に関してもできたら、研究の自由というのが錦の御旗として通っていますけれども、今、この段階に来たら、人間はそういう考え方だけにとらわれていていいのかという懸念を持っております。
以上でございます。
(委員長)
もう少しご意見を伺いたいと思います。基本的な問題でも結構です。
(委員)
ちょっとお伺いしたいんですが、先ほどの委員のお話と違って非常に現実的な質問です。一つは、規制の仕方について、法的規制か、ガイドラインかという問題はなかなか難しい問題だと思うんですけれども、小委員会では、大体ガイドラインという方向で意見がまとまっているということを先ほど委員はおっしゃったんですが、その場合、法的規制をしないというのは、法的規制の根拠が十分でないからなのか、法的規制が技術的に困難であるからなのか、どちらに主としてウエートを置かれているのかという、法的規制よりもガイドラインを選ばれた理由をお伺いしたいということです。もう一つは、国のガイドラインということをおっしゃる場合に、具体的にどういうものを考えていらっしゃるのか、もう一つイメージがはっきりしないんですが、例えば、国会でガイドラインを作って規制するといった場合、法とガイドラインを区別されるときに、大体どういうものを念頭に置いてガイドラインということを議論していらっしゃるのか、そのあたり、小委員会の議論の様子を教えていただき、考えるときの参考にさせていただきたいと思います。
(委員)
優等生の答えはなかなかできないんですね。ガイドラインにしろ、法規制にしろ、気分的に重いことは何かといいますと、規制をどうしてもやりたい、何らかの規制をせざる得ないと思っていますけれども、非常に困ることは何かというと、クローン人間を作る方法は、今度の韓国の話でもあるように、相当簡単な操作であるところまで持ってこられます。これは、小委員会の最初のときからその話題が出て、ずっとまだ続いているわけなんですけれども、例えば、物理の方での一番困ったことといえば原子爆弾だったわけですけど、原子爆弾をつくろうとすると、お金も要る、人も要る、ものすごい設備が要る。だから、規制という格好のことをやったら、これは事前に抑え込めることが確実にできる。しかし、人クローンの場合は、事前に抑え込めるかということになってくると、非常に難しいであろうという判断というのが初期からずっとあるんです。それにもかかわらず、とにかく判断として駄目だということは堂々と世間に言わねばなるまいと思っていますけれども、実効性という形の問題に関してうまくいくかどうかというのが一つと、それから、それがうまく事前で抑えられないとすると、多分、子どもさんが生まれてくる。生まれてきた子どもさんとの対応の中で、そういう対社会的な一つの規制措置ということとの対応の中で、その子どもさんがえらい惨めなことに多分なる。そういうふうな形の問題が出てきたときに、ちゃんと日本社会がその子どもさんをサポートしてくれるかという問題が一緒に出てくるわけですね。ここら辺あたりの問題というのは非常に難しいことであって、これはどこで規制をするか。ガイドラインか、法規制か、ということとは関係なしに、どっちにしろ規制せざるを得ないんだけれども、この場合には、すり抜けて子どもさんができる条件があり得るということを思っておかなければいけないわけですね。そのときにどうするかということが非常に問題なんですね。
ところが、ヨーロッパ連合の人クローンに関係する委員会での話合いで、二十何か国みんな、やったらいけないという話になっているわけですけれども、そこの中にただし書きがあるようでして、もしもクローンの子どもができたときには人権を尊重するというものがただし書きの中にちゃんと書いてくれてあって、非常にうれしかった記憶があるんですよ。だから、この問題に関して、どう規制するかを考えている人たちが一番困っている問題点というのはそういうことなんです。
(委員長)
法規制をすれば、罰則を作ることだと。
(委員)
多分、一般的にはそういう発想で議論されているのではないかと思うんです。
(委員長)
国のガイドラインですとそれは難しい。国のガイドラインというのはどういうものか、ちょっと……。
(委員)
具体的なイメージがわかないところがあるんです。
(委員長)
閣議決定をするとか、何か他の方法をとるということでしょうかね。
(委員)
先ほど委員が指摘された、生まれてきた子どもはどうするのかという問題は、今の法制度のもとでもそれに似た問題がありますから、違法な関係から生まれてきた子どもの法的な扱いの問題として、何らかの対応策が要ることは事実だと思います。
(委員)
こういう問題は、現実にない問題を討論し、法規制をしようかとかということで、今までに前例のないようなものであるということが一つあるんですけど、もう一つ気になっているのは、現実的にそれで生まれてきた子どもさんじゃない普通の子どもさんをクローンで生まれた子どもだというような形で非常に変なことに利用していく道というのが世界中のどこかで存在し得ることになるだろうとも思うんですね。そうしてくると、現実的なもの、具体的なものではなくて、フィクション的な格好で、現に違うものをクローンという格好で話をしながら何かの事業をやっていくとか、いろんな格好のことが起こるかもしれんというようなことを思い出しますと、これは、よほどしっかりした判断基準があって、それで駄目だということを少なくとも言わざるを得ないと思っています。何か、現実にないものに随分利用され、漫画とか何とかに利用される条件だけが残る可能性もある、非常に厄介なものだと思っています。

議題:ヒトES細胞等について

 (委員長)

もうちょっとご意見を伺いたいのですけれども、この問題は後のES細胞とも若干絡んでまいりますので、ES細胞のことにつきまして少しご議論いただき、その中でまたクローンの問題も含めてご議論いただくことにしたいと思います。
ES細胞につきましては、まず勉強する必要がありますので、本日は東京大学の勝木教授に講師としておいでいだたきまして、これから講義をしていただく。久しぶりに学生に戻った気分で勉強をしていただければ有り難いと思います。
それではお願いいたします。
(講師)
絵のついた、最後にお配りしたものが皆様のお手元にあると思いますが、この資料をもとにお話をしたいと思います。委員長が今おっしゃいましたけど、これまでの議論を聞きますと、皆さんもよくご存じのようでございますが、しかし、話の都合上、初めから話した方がよろしいかと思いますので、少し復習も兼ねましてのお話も入るかと思います。
最初の絵にありますのは、この委員会が最初に取り上げた問題だと思いますけれども、クローン個体がどういうふうに作成されたか。これは、皆さんよくご存じのことだと思いますが、実は、生物学の研究という意味で申しますと、発生学の研究として今から30年ほど前にクローン個体の作製はカエルで成功しております。イギリスのガードンという人が成功いたしまして、紫外線で染色体を壊したカエルの未受精卵に、体細胞の核を移植して1匹の個体のカエルが生まれたということを発表いたしました。これは、科学的には体細胞にまで発生分化した細胞の核が、もう一度個体を作るほどの初期状態に戻ったことを意味します。つまり、この場合は、リプログラミング(初期化)と言いますけれども、分化した細胞の核も初期化され得るということを示した例であります。これが、哺乳動物のような、もう少し高等といいますか、複雑になった生物でも可能かどうかというのは非常に重要な問題であったわけです。発生学上も問題でありましたし、畜産関係では、特に有用性という観点から、カエルの後研究されてまいりました。
その結果、去年2月に英国のロスリン研究所のウィルムット博士たちによって、羊の乳腺細胞からドリーが生まれました。乳腺細胞は、受精卵から大体50回ぐらい分裂した細胞です。このようになりますと、その細胞を幾らいろいろ処理をいたしましても、乳腺細胞以外には普通はならない。乳腺細胞からほかのものになることはあり得ないと思われていた細胞ですが、その細胞から核を取り出しまして、未受精卵の細胞質と合わせる。本来の核を抜いた未受精卵の細胞質と一緒にして培養する。そうしますと、本来、乳腺細胞の情報しか持たないようになっていたはずの核がもう一度、受精卵、つまり出発点に戻り得る。そして、ついにドリーが生まれたということになったわけであります。
2枚目にそれが書いてございます。これは、先ほど委員がお話しになりましたように、その後、特に日本ですぐれた技術がありますが、左下の写真にございますけれども、ガラスピペットを使いまして核移植が簡単にできるということになってまいりました。ドリーのときには、実は277個の核移植の実験を行いまして、そのうち約40個の卵を羊に移植しました。その結果、生まれたのはドリー1頭でありました。ところが、先ほど委員がご紹介になりましたように、日本では、近畿大学の角田先生が牛に10個の核移植をいたしまして、そのうち8匹が生まれた。そのうち4匹は生存した。すなわち簡単にできるという事実が報告されました。
ここで申し上げたいことは、ES細胞と関係ないようでございますけれども、体細胞の何遍も分裂して分化した、つまり、時計としては随分時を刻んだ時計がもう一度ゼロに戻るということが、未受精卵の細胞質と、どのような核であれ、それを合わせれば、また時刻がリセットされる。そういうことがわかったことが最大の焦点であります。
これとは別に、ES細胞について次にお話しします。ネズミの絵の資料をごらんください。左側と右側に2列書いてございますが、普通の受精卵をとりまして、胚盤胞という時期、これはマウスですと受精から大体4日目から5日目に当たるところですけれども、胚盤胞の中で少し厚みのあるところがあるんですが、そこの細胞が実は胎児に発生します。そのほかのところから、胎盤とか、胎児そのものではないところに発生しますが、その内部細胞塊と呼ばれるところを培養していきます。これをうまく培養しますと、不死化した細胞になり、どんどん分裂する。つまり、普通は60回ぐらい分裂すると全部、年齢がありまして死んでしまうんですが、これをどんどん分裂できるような不死化した細胞にすることができるわけであります。これは、胚に由来した細胞、エンブリオ(胚)に由来した細胞ですので、Embryo Derived Cellなわけであります。
右側の行に行きますけれども、この細胞を正常に発生している、例えば白い毛のマウスの中に、絵では赤い色をした、先ほど言いました不死化した細胞をピペットで導入しますと、本来ならば白い毛のマウスが1匹生まれるはずだったものが、白と赤の両方が混じったマウスが生まれてまいります。これをキメラマウスと申します。体の毛の色だけが赤と白ではなくて、実は、ほかの内臓すべてで、生殖細胞も含めて赤と白の細胞になっておりまして、赤の細胞は、左側の不死化した細胞から出発しておりますから、遺伝子の組成としては左側の下の不死化した細胞に由来するわけであります。このようにあらゆる細胞に分化できる能力を持つ不死化した細胞のことをES細胞(Embryonic Stem Cell)と申します。Embryonic Stemですから、左側に胚幹細胞と訳してございますが、又は胚性幹細胞と申します。そのように生殖細胞まで分化いたしますと、後は、生殖細胞ですから、普通のマウスと交配いたしまして子どもをとりますと、1個の細胞からその遺伝子の組成を持つ1匹のマウスが生まれてまいります。すなわち、1個の細胞を遺伝子的には1匹のマウスにすることができるわけであります。個体にすることができるわけであります。これが哺乳類のマウスでできる。これは、1984年にイギリスのグループによって開発された技術であります。
次の図をごらんください。今年、ウィスコンシン大学のトムソン博士と、ギアハート博士、ジョンズ・ポプキンス大学の博士ですが、二つのグループでヒトのEmbryonic Stem Cellの開発に成功いたしました。これはマウスでお話ししたことと全く同じでありまして、胚盤胞まで発生させまして、それが普通ですと胎児を経て人に発生するわけですが、胚盤胞の時期に内部細胞塊だけを取り出しまして、これを培養しました。これは先ほどのマウスのES細胞作りと同じことです。マウスと同じ方法を使っております。しかも、技術的なことを少し申しますと、フィーダー細胞(栄養細胞)というのをシャーレに敷くわけですが、それはマウスの栄養細胞を敷いております。それから、いろんな薬剤もほとんど、マウスで成功したものを使っております。それで、この不死化した細胞でまさかキメラヒトを作るということはできませんので、これがEmbryonic Stem Cellかどうかということを試すために様々な化学的なマーカーを使いました。その結果が示す限り、ヒトES細胞であることは確からしい。それから、マウスの皮下に植えますと、この細胞が神経細胞になったり、軟骨細胞になったり、消化管上皮細胞になったりというような、ヒトのそういう細胞に分化するということを彼らは報告しておりますので、この内部細胞塊は不死化したEmbryonic Stem Cellに変化しているということになりました。
ですから、先ほど、ES細胞1個から1匹のマウス個体が生まれると申しましたけれども、この場合に、もし受精卵1個からこういうES細胞を作ることができますと、こういうことを申し上げるとまたフィクションとおっしゃるかもしれませんが、可能性だけ申しますと、キメラヒトを通せば確実に細胞の数だけ個体ができるということなのであります。さらに、そういう核を持っておりますので、先ほど何遍かお話がございましたけれども、うまく処理をいたしますと、下に書いてありますように、心筋細胞や、肝臓細胞や、血液細胞や、皮膚の細胞や、膵臓の細胞になり、それぞれ病気に対応して、正常な細胞を得たいということになれば、今、再生医学という最前線の、最先端の医療が盛んに日本でも行われておりますけれども、それに対応したものがより簡単にできるようになるだろうと予測されます。しかも、細胞の範囲は非常に広くなるであろうということが潜在的には予想されているわけであります。こういう夢のような細胞が実際にでき上がったということなのであります。
次のページをめくっていただきます。今度は、これを核移植を通して自分のES細胞を作ることが実際に可能になるということが示してあります。核移植とES細胞を作る技術について書いてあります。我々の体細胞の核を、除核した未受精卵に細胞融合によって注入いたします。そうしますと、胚盤胞という時期まで発生するわけです。これは普通にいきますといわゆるクローン人間になるわけですけれども、それを途中からES細胞化いたしますと、この核を使われた人自身の性質を持つ様々な臓器になり得る細胞を手に入れることができます。しかも、これは不死化しておりますので幾らでも分裂することができまして、通常、我々は、だれが数えたか知りませんが、60兆とかいう細胞でできていると言われておりますが、60兆はおろか、100兆であろうと、1,000兆であろうと、不死化細胞を作ることができますし、これを凍結して保存しておけば、時間をずらしながら様々に使えるということになります。これも潜在的には、自らのスペアーの細胞をあらかじめ準備することができると、そういうことがいわれているわけであります。
さらに、次をめくっていただきますと、遺伝子操作との組合せが示されております。ES細胞と申しますのは先ほど申しましたように数が非常に多いわけですから、今でもそうですが、遺伝子操作というのは一つの細胞に何か遺伝子を入れて操作をするように皆さんはお感じになっているかと思いますが、実はそうではございませんで、何百万という細胞の中から、操作し終わってから目的のものを選ぶということをやっております。ですから、受精卵のように数個しかとれないようなものでは遺伝子操作は不可能なのでありますけれども、不死化した何千万という細胞がございますと、それに遺伝子を導入いたしまして、その中から目的のものだけを取ってくることができます。そのようなものをまた個体にすることがマウスでは可能になっております。これが私の専門でございますので、そういうことができるわけであります。これを人に置きかえても、もちろん可能であろうというふうに思います。そうしますと、これらの技術を全部、組合せはいかようにもできるわけでございますので、しかも、これはもしかすると、先ほど少し委員がご紹介になりましたが、ほかの動物、考えたくないことですが、例えば牛の未受精卵への人の体細胞の核移植、そういうふうなことも現実には可能ではないかということを研究するグループも既に存在しているわけであります。
次をめくっていただきますと、今度は縦書きになりますが、今のを要点としてまとめてあります。まず、種々の臓器の細胞のことですが、体細胞の核は除核未受精卵への移植によって、全能性、すべての種類の細胞に分化できる能力、すなわち受精卵と同じような能力(皆さんの体の細胞はたった1個の受精卵から出発して、このような複雑で、多種類で、見事な細胞分化を遂げるわけですけれども、細胞分化を遂げてしまったものの核は本来、全能性を失っているわけです。)これは受精卵にはならないはずなんですが、それを未受精卵の細胞質と合わせますと、再び全能性を獲得できるということがわかりました。これは非常に重要なことで、我々の体細胞はもう既に潜在的には全能性を持っているんだというふうに考えなくてはいけないという事態になりました。
2番目は、これは同じようなことですけれども、未受精卵の細胞質に核を初期化、全能性を付与する能力があるということがわかってまいりました。科学の進歩によって恐らくこの中からいろんなファクターを分離することができるようになるでしょうから、未受精卵の細胞質などと言わない時代、すなわち、このファクターとこのファクターとこのファクターを入れれば核が初期化できるよという事態に恐らく研究は進むだろうというふうに考えられますので、あえて2番目に上げておきました。
さらに、ヒト胚の培養によって、現在、不死化した胚幹細胞(胚性幹細胞:Embryonic Stem Cell)を作ることができます。そのことは、このまま培養しても個体になることはありませんけれども、正常に発生している途上にある胚と混ぜ合わせますと、いわゆるキメラというものができまして、キメラの生殖細胞を通しましてその遺伝子は伝達されることになります。以上がほぼすべてでありまして、これらのことの組合せが次のA3判の「想定され得るクローン技術等とその適用例」というところに書いてございます。これは実は、文部省の学術審議会が昨年スタートしたときに、文部省の事務官と私とで、どのようなことが想定できるかということを2年近く前に想定したものでございますが、次々に現実化しているということであります。学術審議会としましては、こういうことを頭に入れまして、核の操作という観点から見ますと、これはむしろ正常な人の細胞の観察だとか研究というものとはかなり視点が違うのではないかということから、先ほど申しましたように、未受精卵の細胞質と体細胞の核というものを合わせて初期化する、この二つの条件が最もエッセンシャルであろうということで、そこを禁止するというふうにいたしました。
以上がお配りした資料でございますが、ES細胞に関しましては、『サイエンス』が出しておりますし、論文そのものはおつけしませんでしたが、その解説をおつけいたしました。それから、現在、アメリカでは、これをつくった科学者、あるいはNIHのハロルド・バーマスというノーベル賞学者ですが、この人たちが本当にヒトのEmbryonic Stem Cellを国家予算でも使えるように希望しております。あるいは、サイエンス、むしろ有用性という観点かもしれませんが、その観点から見て、現在、生命倫理委員会にそれを諮問されたという段階でございます。
その次のものは、今日私のところに来たものですけれども、角田先生がクローン牛をつくったということ、日本がいかにこの点で進んでいるかということをつけ加えておきました。
まとめてみますと、以上の技術はすべて家畜でできたものです。畜産の研究で非常にはっきりした目的、有用牛を作る、有用羊を作るというような観点から、これは一種の育種でございますけれども、育種という観点から開発された技術です。一方、基礎生物学としては、本当に核が全能性を回復できるのか。あるいは、逆に言いますと、発生の不可逆性がどこでできるのか。実は、2細胞までは戻るだろう、4細胞までは戻るだろう、8細胞まで戻るだろうというふうに考えていたんですが、そんなものではなくて、最後に分化したものまで戻るんだというのが発生学の非常な驚異であったわけであります。そういうわけで、動物で、特に哺乳動物でできることはすべて人で可能であるというふうな前提で考えなくてはいけない状況になったのが、特にES細胞も含めての現状だろうと思います。
以上でございます。
(委員長)
どうもありがとうございました。それでは、せっかくの機会ですから、ご質問がありましたら、講師からお答えいただきたいと思います。いかがでしょうか。
(委員)
今、いろいろ伺って大筋はわかったんですけれども、マウスでキメラマウスをつくって、それから個体が出てくる。それと同じように人間の場合もキメラ人間ができる。そこのところがよくわからないんです。キメラ人間というのはどういうことを考えていらっしゃるんですか。
(講師)
すみません。これは規制を全く念頭に置かない話でございますが、つまり、正常に発生しているヒトの胚にES細胞を注入しますと、そこにはドナーとレシピエントの間で両方の要素を持つ人ができるわけです、キメラマウスと同じように。
(委員)
今の場合のキメラというのはそういう意味ですね。
(講師)
そういう意味です。
(委員)
分かりました。
(委員)
頭がくらくらしてくるような感じです。ただ、実際にどういうことが可能なのかというのを、かなり細かいところまで知った上でないと、政策的な点もなかなか判断がしにくいだろうという感じがしますので、できるだけわかろうとしたいのですけど、素人なものですから、単純なことも含めて伺います。資料にまとめられているクローン技術の要点、1、2、3、4とございますが、1、2というのは同じようなものだということでした。それから、3、4がES細胞のお話だと。この二つの関係がまだもう一つ得心がいってないんですけど、3と4は、人とそうでないもの関係なんですが、1、2は人にも当てはまるというふうに考えてよろしいんでしょうか。
(講師)
そういうふうな前提で考えてよろしいかと思います。
(委員)
実際にやってないかもしれないけれども、当てはまるはずだということですか。
(講師)
ええ、可能性は高いというふうには考えられます。
(委員)
それから、3以下は、ヒト胚と書いてあるんですが、ES細胞というのはヒト胚に限った話なんでしょうか。
(講師)
いえ、マウスで特に開発されておりまして、今回問題になりましたのは、ヒトの胚でもそれができたということでございます。つまり、1、2に関しましては、そのまま培養すれば個体にまでなる話です。3、4に関しましては、ある特殊な条件を持ってきますと個体の一部になるという細胞なのです。ほかの、例えば肝臓の細胞をとりまして、それをどんなに培養いたしましても、あるいはどんなものと結びつけましても、決して個体の一部にはならないわけですね。個体の中に植えることはできますけれども、胚のように発生過程を経て、例えば肝臓の細胞が個体になることはありません。ところが、ES細胞のようなものに限って申しますと、部分的ではあれ個体になるわけです。しかも、それが生殖細胞にも分化できる。そういう非常に特殊な性質を持っている。
(委員)
そうしますと、1、2の系列でもクローン人間ができるけれども、3、4の系列でもクローン人間ができる。
(講師)
真の意味では、できることは、クローンという言葉の定義にもよりますが、3、4に関してはクローン人間ができることはございません。
(委員)
クローン人間の定義によると思いますが、胚幹細胞の樹立とその性質という図がございますね。これはES細胞のお話だと思いますが、右の系列でキメラマウスができまして、その後、交配をしていくと個体として赤だけのものができていく。これは遺伝子改変マウスと書いてありますけれども、これはもともとの左側の系列との比較で言えば、左側のクローンが右側の1匹にできたというふうには……。
(講師)
それは確かに誤解を招いて恐縮なんですが、遺伝子組成としましては、父親と母親、その両方から必ず、交配をしますと必ずまざり合いますので、この場合、赤にしましたのは、左側の不死化したES細胞のある遺伝子に関して伝達される。そういう意味でございます。
(委員)
わかりました。そうすると、これはクローンとは呼ばない。
(講師)
クローンとは呼びません。ただ、クローン技術を使いまして自らのES細胞を作るということが今から非常に問題になるだろうと思いまして、クローンとミックスしてお話をいたしました。
(委員)
そういたしますと、もう一つの核移植という絵ですね。これの下の方で、核移植というのを介在させますと、胎児の次にクローンとありますね。この場合は、今のケースとは違って、核移植というのが介在されているからここからもクローンができると、こういうふうに……。
(講師)
これは、このまま育てればまさにクローンの手法なんですけれども、途中からES細胞にもすることができる。一番下にございます絵ですね。ですから、ちょっと複雑で申し訳ございませんが、核移植の技術を使って自らの細胞、あるいは種々の臓器の自らの遺伝子と全く同じ組成を持つ細胞をつくり出すことができるというわけです。例えば、一番簡単に申しますと、私の核移植によって皮膚の細胞をあらかじめつくっておくことができたとしますね。そして、私があるとき大やけどをする。そのときには、自分の皮膚の細胞をそこに移植することによって、明らかにそれは自分のものですから拒絶されない。そういう意味で純正のスペアーになる細胞を準備できる。宿主と全く同じものを準備できる。それは皮膚で申しますとよろしいですが、これをどこまでという問題がまた出てまいります。例えば、私がパーキンソン病になったときに本当に神経の細胞を移植していいかという話になりますし、そこは議論があるところだと思いますが、潜在的にはそういうことです。
(委員)
ES細胞というのはいろんな臓器を作るのに便利で臓器移植にいいから、これを認めるとすると、何かの拍子で胎児から矢印にそってクローンになっている、その道も防げないかもしれないと、そういう問題になるんでしょうか。
(講師)
ええ。そこのところは恐らく、ES細胞にしますと試験管の中で培養できるということがございますので、そこが大きな違いだろうと思います。
(委員)
なるほど。試験管の中では胎児にはならない。
(講師)
そういうことです。
(委員)
それは、恐らくそうならないだろうという言葉遣いを先ほど委員はされたように思うんですが、そうならないと言えるのでしょうか。
(講師)
現在のところは、人工胎盤と人工子宮というものが極めて難しい。不可能と言うのは、私はちょっと自信はございません。
(委員)
栄養をどうやってやるかということだけでも大変な装置が要って、とてもペイしないと思います。
(講師)
そのとおりです。要するに、胎盤で一番大変なのは酸素を入れかえているんです。マウスで申しますと、私は9.5日ぐらいまで培養したことがございますが、そうしますと、ほとんど砂糖漬のような条件にしませんとエネルギーが足りません。ですから、ヒトにはとても人工胎盤などということを考えるのは現在では無理です。
(委員)
どうもありがとうございました。もう一つ、今の関連のことでよろしいでしょうか。
そこで、こういう観点から、結局、学術審議会の方では核移植そのものを禁止する結論になったというお話が最初にありましたけれども、そのつながりがちょっと……。
(講師)
この場合には、ES細胞のことについては、もちろんチャートとしては考えておりました。しかし、学術審議会のクローン問題ワーキンググループではクローンに限って議論をしようという枠組みを初めにつくりましたので、つまり、核移植だけのことで、ES細胞のことについては全く視野に入れませんでした。そのときに産科の先生ももちろん入っておられまして、議論を尽くしたつもりなんですが、あくまで産科の先生方のガイドラインと申しますのは、正常の胚をどういうふうに研究するかということで、14日胚についてももちろん、原腸陥入ができるというような生命の……。
(委員)
すみません。14日胚というのは?
(講師)
すみません。ヒトの場合ですけれども、受精しまして14日ぐらいたちますと、三胚葉と申すんですが、皮膚になるところと、神経になるようなところと、内臓になるようなところと、筋肉になるような部分が初めてでき始めるときがあるんです。その時期を一つの生命の出発としよう。
(委員)
それは正常の胚の話ですか。
(講師)
正常の胚の話です。背景は、私はよく存じませんが、例えば、人工的な流産とか、そういうときに生命をどこで規定するかというようなことも当然、議論の対象になっておりますので、やや背景は複雑だと思いますが、普通に考えますと、そこを生命の出発と申しますか、そこを越えれば人と認めようという考えではないかと思います。その上で、核移植で発生する人をどこから出発点にするかと考えるか、核移植を人の出発点と考えるか、その二つがあります。学術審議会では後者の方をとったわけです。つまり、これは正常のものについての議論ではない。したがって、核移植の未受精卵の細胞質と、それから、移植される方の核の全能化というものが起こる瞬間というのは移植をした瞬間ですから、そこで抑えるのが最も適当であろうと。学術的に見れば、我々の体細胞もまた全能性を持ち得るんだということであります。
長くなって恐縮ですが、その前に、DNA組換えに関する安全規定というのがございます。組換えDNAというのは、基本的に生殖細胞に施してはならないということがあります。これが非常に我々の中で、文部省が決めているルールの中では、禁止事項としては最初にできたものですので歴史的には非常に重い意味があるんですが、そういうことを考えますと、生殖細胞に遺伝子を導入してはならないということが決められております。したがって、体細胞は幾ら操作してもいいということになるわけですね、生殖に関係ないんですから。ところが、ここに来まして、体細胞の核自身も潜在的には生殖細胞になり得るという事態を迎えたわけです。ですから、そういう核を移植してはいけないというところでとめようというのが、学術審議会の基本的な議論の終着ではないかと思います。
(委員)
どうもありがとうございました。

議題:ヒト胚研究小委員会の設置について

 (委員長)

学術審議会の報告が出たときに、ヒトのES細胞というのはまだ確立されていなかったわけですね。恐らく講師はいろいろ考えておられたかもしれないけど、一般的には委員はみんなそこまで考えていなかったわけです。その後、ES細胞が出てきて、今のご説明のように、非常にポテンシャルには応用の可能性を持ったものだけれども、同時にキメラもつくり得るという極めて微妙な細胞が出てきたわけですので、結局、その両方を一緒にしていろいろ議論していかないといけないようになってきたんじゃないかという気がしております。
時間が大分迫ってまいりましたので、ES細胞につきましては、11月24日に開催されました第7回クローン小委員会において検討していただきました。そして、クローンのみを対象とした規制措置を考えるのではなくて、ヒトES細胞の取扱い等を含めて検討すべきであると、議論がなされました。ただし、小委員会ではこれまでクローンに限定して議論が進められたということもありますので、この小委員会自身が対象を拡大してES細胞まで取り組むというのは難しいのではないかという意見が大勢であったと聞いております。しかしながら、ES細胞はこれから急速に研究に用いられる可能性があるわけですし、例えば、日本の研究者がアメリカからこの細胞をもらって研究するという事態も起こる可能性もある。そういう意味で、ES細胞についても早く倫理的な検討が必要であろうというふうに思いますので、委員会ばかりつくって申し訳ありませんけれども、新たにヒト胚研究小委員会というものを設置したいということを考えております。資料4−6に事務局案がございますが、事務局から簡単に説明してください。
(事務局)
資料4−6を読み上げさせていただきます。
ヒト胚研究小委員会の設置について(案)
1.ヒト胚研究小委員会の設置
科学技術会議生命倫理委員会の審議に資するため、科学技術会議議事規則第20条に基づき、生命倫理委員会にヒト胚研究小委員会(以下、「小委員会」という)を設置する。
2.審議事項
小委員会においては、ヒト胚性幹細胞の研究を初めとするヒト胚を対象とする研究に関し、生命倫理の側面から審議を行う。
3.構成
1)小委員会には、委員長を置き、生命倫理委員会委員長の指名する者がこれに当たる。
2)小委員会の委員は10名程度とする。
3)小委員会は、必要な場合にはワーキング・グループを設置できるものとする。
4.生命倫理委員会への報告
小委員会は、審議状況について、生命倫理委員会の求めに応じ、又は適宜、生命倫理委員会に報告する。
5.意見聴取
小委員会は、必要に応じ、関係省庁、関係機関及び学識経験者の意見を求めることができる。
以上でございます。
(委員長)
ただいまのような内容でございますが、いかがでしょうか。こういう小委員会を設置して早急に検討するということでご了承いただけますでしょうか。何かご意見があれば、お聞きしたいと思います。
(委員)
意見ではないんですが、この生命倫理委員会で、いつごろまでに何について結論を出すというふうな目的がはっきりしていますと、いろんな考えがまとめやすいと思うんですけれども、その小委員会をいつ作るかという点も関係してくると思いますので、その見通しといいますか、そういう点についてちょっと。
(委員長)
これは、委員のご意見も伺いたいと思いますが、できるだけ早く出すべきであろうと私は考えております。しかし、いろいろ難しい問題がたくさん含まれておりますので、余り拙速も困りますから、やはり議論を尽くしていただく必要があるだろう。だから、いつごろまでということをなかなか言い切ることは難しいわけですが、先生、いかがお考えですか。
(委員)
随分、討論は尽くしてあると思うんです。今からやらなければならないことというのは何かというと、規制の問題でして、これを法律で規制するか、ガイドライン規制をするか、法律で規制したときにはどういうメリットがあり、どういうデメリットがあるか、ガイドラインのときはどうか、というあたりの問題と、それから、法律の専門家の方々のご意見を聞かねばならないので、今まで余り事例のないような、日本の法律というのはどうも後追いのものだという話をちょっと聞いているんですが、現在ないものに関しての法規制という形のことに対してどんな問題があるか、そういう相当具体的な作業自体の問題のところの処理になろうかと思います。これも何回やっても同じようなことになる可能性がありますので、私の希望としては、本年度中に何らかの、こういうことになりましたというご報告をここに申し上げる。ある場合には両論併記みたいな格好で出してきて、それをここで、法規制にするか、それともガイドライン規制にするかということを決めていただきたいという提案になる可能性もあるかと思っています。
(委員長)
実は、今の問題をもうちょっと議論したかったんですが、大分、時間が迫ってきましたので、とりあえず、ES細胞を中心としたヒト胚の研究の小委員会を発足させることでいいかどうかということをまずお諮りしたいというふうに思います。
(委員)
結構だと思いますけれども、ちょっと細かい表記のことで、クローン小委員会では、「ヒト」という片仮名の表記をあえて避けて、倫理的な観点から社会的存在としての人間という意味を込めて、漢字の「人」を使っておられるんですね。学術審議会(特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会)の「大学等におけるクローン研究について(報告)」(平成10年7月3日)というあれでも、特に注をつけてその点に注意を喚起していますけれども(4ページ)、それとの整合性はどうなんですか。この案では全部片仮名になっていますけれども。
(委員長)
これは、一般に生物種としての人を言う場合には片仮名で「ヒト」ということにしておりまして、個人というものが出てくるときには人間の「人」を書くということで原則的に統一してきたわけです。ただ、この場合には、胚細胞というのはどんどん無制限に増殖できますので、個人というものが必ずしもそこにはないわけですので、むしろ、「ヒト」と片仮名で書いた方がはっきりするんじゃないだろうかということで、「ヒト」と書いてもらったんです。
(委員)
倫理的な観点からの「人間」という意味は含まないわけですね。イクスクルードするわけですね。
(委員長)
胚細胞だけだったら、人間というものは含んでいないというふうに私は考えたんですね。ただ、これを個体に戻すとなると、それは人間ということになりますから、また全く別の話になりますが。
(委員)
クローン小委員会が大変ご苦労なさったということははっきりわかったんですけど、素人考えからしますと、もう一つ、今のヒト胚研究小委員会というのをおつくりになるとすると、メンバーが非常にダブるんじゃないだろうかということで、非常にご負担になるかもしれないけれども、今までのクローン小委員会の方で守備範囲を少し広げるというようなことでやった方がいいんじゃないかという感じがするんですけど、いかがでしょうか。
(委員長)
その問題もいろいろ考えましたけれども、むしろ委員のお考えを入れまして別の委員会にする。ただし、これからお諮りしようと思いますが、もしも小委員会の設置をお認めいただけるのなら、この新しい小委員会の小委員長も岡田先生にお願いして、大変ご苦労をかけますけれども、それでできるだけ早く結論を出していただく。そういうことにしようと実は考えていました。先生がおっしゃったような可能性も当然考えまして、その辺はちょっとオプションだったわけですけれども、今回はこういう形で別途の小委員会をつくりたい。それから、できるだけ委員の数は少なくして、機動性をよくして早く結論を出したいというのがあります。既にクローンの問題については議論を重ねていただきました。7回もやっていただいているわけですので、こちらの方はできるだけ早く結論を出していく必要がありますし、いつまでも宙ぶらりんでありますと韓国のような事態も起こってまいりますから、できるだけ早くやる必要があるだろうと思いました。
(委員)
私は、この中で一番、自分が一番知識がないだろうという自信を持って座っているわけですが、ここで論じられることはそれではいけないというか、私ぐらいの程度の人間にわかってもらわないといけないんだろうと思います。みんな、ドリーちゃんというのは知っているわけです。私は、やけどの治療というのは大変だということを見に参りまして、小説も書きました。火傷の場合、自分の皮膚が登録してあったらどんなにいいだろうと思います。そうすると、死ぬってどういうこと? 人間は永遠に生きるんですか。どこをもって科学者か医学者は死と決定なさるんですか。人間は死ぬ方がいいんですか。死なない方がいいんですか。それから、どういう人間なら生きていいんですか。どういう人間は死んだ方がいいんですか。こういうことにまでなりますでしょう。私はこれが多分、大方の、普通の市民の、ちょっとひがみ根性や何かにもまみれた市民の反応だろう思います。ですから、そういうこともお考えの上で御議論ください。
(委員長)
大変難しい問題で、これを議論し出したら、永遠に続くんだろうと思います。
(委員)
先ほどの委員がおっしゃったことに私もかなり近い考えを持っておりまして、小委員会は大変ご苦労くださって、早く結論を出さなければならないことがある、ということはよくわかるんですけれども、なぜ早く結論を出さなければならなくなっているのか。これは、小委員会の課題ではなくて、むしろ親委員会の課題だろうと思うんですね。少しでも根本的な問題に帰って考えられるような時間を親委員会としては何とかつくっていただきたいと思います。
(委員長)
早く出さねばならない理由は、今、とりあえず文部省の学術審議会が禁止しておりますが、これは文部省の管轄だけですから、大学等を対象としたものです。それ以外のところでなされるところまでは文部省の禁止が行き届かないだろうと思うんですね。この科学技術会議は日本の各省を超えた全体のものですから、ここで一定の結論を出しておかないといけないと考えております。
それで、今の委員のご意向ですと、来年の3月ぐらいにこの委員会で最終的な結論を出したいということでありますので、それまでの間、今日の議論を各委員がお持ち帰りいただきまして、それぞれの考えをある程度おまとめいただきたい。理念は議論をし出すと非常に問題になりますが、まず、どのステージで禁止をするのかということと、法規制をするのか、ガイドラインでいくのかという、この二つぐらいは結論を出してしまいたいというふうに思います。法規制の場合につきましては、小委員会でそのメリット・デメリット等をさらに検討していただくことになると思いますが、そういうふうな手順でよろしゅうございますでしょうか。
(委員)
法規制の場合は現実性があるものでございますか。外国から入ってきたり、日本人が外国へ行ってやったり、それから、私が無人島を買ってやったり、よくわかりませんけど、そういう場合、実際問題として規制がきかないと困ってしまう。
(委員長)
それは法律の先生に伺わないとわからないです。
(委員)
素人代表でございます。
(委員)
11月2日でしたか、千葉でペットのクローンの会社をつくって、次の年には北海道でというのを記者会見していったんですね、アメリカの人が。すぐに北海道新聞から電話がかかってきましたが、そこの人たちにとっては相当な問題なんですね。この小委員会も倫理面も含めていろんなディスカスを随分たくさんやりましたので、大体そこで集約してきたのを今日ちょっとお話ししましたけど、これは社会情勢との関係で、ある意味でアメリカになめられたと、ちょっと嫌なところもあるわけですが、法規制にしろ、何にしろ、日本としては、これはやりませんよ、やってはいけません、という表現をとらないことにはどうも、社会的にちょっと動きがとれないところを外国の方から問題提起が上がっているということもありますので、そういう意味でうまくクロスしてきた時期になったなあと、実は思っています。今、一番気になっていることは、総理府の調査では法規制の方が圧倒的に高いわけで、委員会の方ではガイドライン規制の方が実質ではないかという意見が圧倒的に高くて、そこら辺あたりの問題点をどこでどう処理するかというのを含めてここへ持ってくる可能性があります。
(委員長)
法律の専門家の方がおいでになりますが、何かご意見ございますか。無人島でやったらどうなるかという……。
(委員)
国によって規制が大きく異なるというのは、こういう時代ですから余り適切でなく、ある種のグローバルスタンダードに沿った具体的な規制をどうして日本的にやるかという問題だと思います。
(委員長)
日本でやると言った人は、初めはアメリカで会社を作ると言って大分たたかれたんですね。それで今度は日本に来て、日本でやるということを言った、大分札つきの医者ですけれどね。
(委員)
今の、国際間のアンバランスが生じたときにどうするか。やはり日本は日本としての独自の、どこまでやっていいかというのを決めて、きちっとそれを世界に発信していくべきだと思いますけれども、結果として、国によってやれる国とやれない国というのが出てくる可能性がありますね。そうしますと、研究者は自分がやりたければその国へ行ってやるということになりかねないわけで、ただ、その段階の各国の調整といいますか、そういうのはまたその次の段階で、今はまだその段階ではない。日本は、とりあえずは日本としての考え方をはっきりと決めるという段階だろう。そういうふうに思います。しかし、いずれは、国際協調といいますか、そういうことが必要な段階が来るんだろうと思います。
(講師)
国際的なことで一つだけ事実として申し上げますと、クローンだけを取り上げて議論をしておりますのは我が国とアメリカだけでございます。ヨーロッパは基本的に、ヒトの卵や胚の取扱いに対する法律が既にございまして、その中でクローンをどう位置づけるかという議論をしております。ですから、基本的にそこのスタンスがかなり違う、歴史も違う、ということだろうと思います。つけ加えさせていただきました。
(委員)
仮に今年度中にこの問題について結論を出すとして、そのうちの一部は、法規制でいくか、ガイドライン規制でいくか、ということですと、どの局面についてもそうだと思うんですけれども、かなり具体的に知った上でないとなかなか足りないところがあると思うんです。法規制でいったときにどういうテクニックがあるのか。先ほど話題になりましたような実際の効果はどうかというようなことですね。こういうマターについて専門的な見解を伺った上でないと、抽象的に、ガイドラインがいいか、法案がいいか、というだけではなかなか考えにくいことじゃないかという気がするんですけど、どうでしょうか。
(委員長)
小委員会の中に法律の専門の方は何人ぐらいおいでになるんでしたか。
(委員)
3人か4人いらっしゃいます。
(委員長)
3、4人おいでになるんですから、そういう方を含めて議論をしていただいています。
(委員)
この委員会として結論を出して、ガイドラインがいいか、法案がいいかということを言う場合には、法と言ったときに何を念頭においているのかということを我々がわかってないと意味がないんじゃないかと思うんです。
(委員長)
だれかそういうことに詳しい方がもしおいでになれば、次回、ここにオブザーバーとして出ていただいて、ご意見を伺うということも可能だと思います。今から委員を増やすというのはちょっと難しいですから。
司会がまずくてなかなか思うように結論が出ませんけれども、もともとそう簡単に結論が出る問題ではないと思いますが、しかし、いつまでもぐずぐずしているということも決していいことではございませんので、何とか次回ぐらいまでに結論が出せるようにしたい。
それから、先ほどのES細胞も含めたヒト胚研究小委員会の委員につきましては、一応、岡田先生に委員長をお願いしたいと思いますが、それでよろしゅうございますでしょうか。委員につきましては、岡田先生と私とで相談をして選ばせていただきますが、その点ももしよろしければご承認いだたきたいと思います。
それでは、長時間、大変ありがとうございました。