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第1回科学技術会議生命倫理委員会議事要旨


1.日時    平成9年10月30日(木)9:00〜10:40

2.場所    帝国ホテル「蘭の間」

3.出席者

 (委 員)

森委員長、石川委員、石塚委員、岡田委員、加賀美委員、佐野委員、島薗委員、関本委員、田中委員、永井委員、中村委員、藤澤委員、森岡委員、六本委員
(事務局)
科学技術庁 青江研究開発局長 他

4.議題

(1)委員会の運営について
(2)生命倫理の論点について
(3)今後の審議の方向性について
(4)今後の予定

5.配付資料

資料1−1  生命倫理委員会の設置について(科学技術会議議長決定)
資料1−2  科学技術会議生命倫理委員会構成員
資料1−3  ライフサイエンスに関する研究開発基本計画(内閣総理大臣決定)
資料1−4  生命倫理の論点として考えられる主な事項
資料1−5  生命倫理の問題として考えられている主な課題
資料1−6  クローン研究の現状について
資料1−7  クローンヒツジの作製に関連した各国の動き
資料1−8  科学技術会議の概要

6.議事

○委員長による開会の挨拶があった。
○委員長より、次のような発言があった。

マルチメディアの発展など、近年の科学技術の進歩の一方で、人間の倫理の面で用心しなければならない問題が生じてきている。中でも生命科学、生命倫理といった問題は、場合によっては生命の本質、生命の根元に関わるものであり、社会的関心も高く、きちっとした姿勢をとることが求められている。我が国においても、国として検討を行うレベルの高い審議の場を設けることが以前から求められていたが、最近になりこのような場を設置するための機が熟し、また、橋本総理のご関心が高いこともあり、本委員会が設置された。本委員会は、現在起こっている問題に如何に対処するかを検討する場である一面を有すると共に、他面でこのような領域において、近い将来に思いがけないことが起こったときに検討を行うための受け皿的役割も持つと考えている。各委員の協力を是非お願いしたい。
また、本日橋本総理も御出席を頂ける予定であったが、国会の日程により御出席頂けなくなった。次回以降、もし可能であれば御出席をお願いしたいと考えている。
○事務局より各委員の紹介が行われた。

議題:委員会の運営について

○委員長より、政府関連の会議については、一般的に公開の方向であるが、公開にも、会議の傍聴が可能な公開、会議自体は公開しないものの議事要旨または要点を事後発表することによる公開、その中間として発言者名を明らかにする又は明らかにしない形で議事録の全文を発表することによる公開等、いくつかのレベルがある。議事の要点の公開は最低行わなければならないと思うが、どのような形で公開を行うべきかについてご意見を伺いたい旨の発言があった。

○各委員から次のような意見があった。

 (委員)

本委員会のような性格の会議は公開してもいいのではないか。いくつかの小委員会を作り、そこにおいて意見が対立するような議論が行われるような場合には、議論の幅が狭くなったり、結論が出る以前に、議論の一部だけが引用されたりして困るだろうが、議論がまとまってくる本委員会のような場においては、特別な場合を除き、公開でよいと思う。
(委員長)
この委員会に議題として上がって来る前にある程度の議論を経ているならば公開でよいということか。
(委員)
小委員会のようなものを設置した場合は、そこである程度の議論を経て本委員会の議題となるため、本委員会は公開でよいと考える。
(委員)
私も様々な委員会で公開に関する議論を行ってきたが、その経験から考えると、セレモニー的な会議であれば公開で良いと思うが、本委員会において、下の小委員会からの検討結果を基に、承認するというのではなく、ある程度の実質的な議論を行うのであれば、公開の仕方については、十分考える必要がある。また、生命倫理という問題は、その性格から、個人の微妙な価値観に触れるところがあり、公開により、発言の内容の幅が非常に狭くなってしまう恐れもある。誰がどのような発言をしたかということが明らかになった場合、国民の多くは、まともに受け止めてくれるだろうが、一方で、一部の人達から誤解を受けかねない。社会的関心も高く、公開は原則的に行うべきと考えるが、個人名が出ない程度の公開がいいのではないか。
(委員)
本委員会の運営が、総会的な場として、実質的に承認事項のみで会議を終わらせるものであるとは思っていない。審議会等では、部会で検討した結果について、多くは、総会で更に議論され、議題によっては、総会から部会に対して、再検討を要求することもある。総会と部会との間で何回か議論が往復することも珍しくない。しかし、ある程度の議論を経た内容について検討する本委員会のような総会的な場は公開してもいいと思う。
(委員長)
将来的に、小委員会を設置して、その検討結果を本委員会で議論することもあるし、一方、極端な場合、生命とは何かといった問題について、いきなり本委員会で各委員のご意見を伺うこともあり得ると思われる。論議のあり方というものはテーマによって異なるのかも知れず、それに応じて公開のあり方についても、流動的に考えた方がよいのかも知れない。
(委員)
本委員会においてどこまで踏み込んで検討が行われるかによるが、踏み込んだ議論が行われる場合、ちょっとした発言が、誤解される可能性もあり、原則は公開でいいと思うが、議題によっては柔軟に対応した方がよい。
(委員長)
場合によっては、年何回か開催する委員会のうち、公開する場合とそうでない場合があってよいのかも知れない。

○以上の議論の後、本日は欠席の委員もあることから、本日出された意見も踏まえ、次回再度議論すること、また、本日の議事結果については、事務局にて議事要旨を作成し、各委員のチェックを得た上で、議事要旨を公開することが了承された。

議題:生命倫理の論点について

○事務局から、配付資料について説明が行われた後、以下の議論があった。

 (委員長)

資料1−7をみると、米国には「国家生命倫理諮問委員会」、仏国には、「生命科学と医療のための国家倫理諮問委員会」があり、先進諸国では国家レベルで生命倫理に関して検討を行う委員会を設けているようである。我が国は検討体制の整備について、やや遅い部類に属している。現在、文部省、厚生省等の各省庁で生命倫理を取り扱う委員会を設けているという話を聞いている。そのような関係省庁の委員会等は、現場に即した議論を行うものであり、本委員会は、我が国全体を見渡し、法律を作るべきかどうか、また、根元に遡り、生命倫理に関する問題をどのような観点で進めていくかといった国全体としての方針を審議する場であると理解している。
(委員)
小委員会のようなものを設置する考えはあるのか、また、ライフサイエンス部会との交流、意見交換等を行う予定はあるのか。
(委員長)
小委員会の設置については、取り上げるテーマによって変わりうるかと思う。例えば、クローン研究などは、私を含め、本委員会の委員は必ずしも全員が専門的知識をお持ちではないと思われるので、専門の小委員会を設置して、細かい議論を行う必要がある。そこでの議論を踏まえた上で、本委員会では、法律作成の必要性等について検討することとなるであろうが、専門的な議論は専門の小委員会で行うべきであろう。
また、ライフサイエンス部会との関係については、直接本委員会で当該部会との連絡を行うことは考えていないが、小委員会レベルでは密接に連絡を取る必要もあると思う。
(委員)
この委員会は常設の委員会か、それとも何らかの結論を出して解散するのか。
(委員長)
本委員会として検討を行う必要がある課題は、現時点でも、幾つかが有り、それぞれ議論を進めていく必要があるが、一方で、今後どのような生命倫理に関する問題が生じてくるかわからず、本委員会は、それを直ちに受け止めて対応するという意味がある。したがって、本委員会は恒常的に設けておき、定例的に開催すべきものと理解している。特定の事項に関する報告を出して、終了ということはないと考えている。
(委員)
配付資料や説明内容からクローンの問題に重点が置かれているように思われるが、本委員会として、クローン問題に何らかの方向性を出すことが期待されているのか。
(委員長)
配布資料には、クローンに関するものが多いが、私個人としては生命倫理問題全体の中でクローン問題が占める比率は、それほど高くないと考えている。ただ、クローンは内外において大きな問題となっており、また、総理がサミットに出席されたときも話題となっている。クローン問題について、どのように対処するかが、総理のレベルでの宿題となっているようであり、総理に何らかのお知恵をお貸しできるとすれば、本委員会をおいて他にないため、近いうちに我々が何らかの結論を出すべき問題として、クローン問題があることは否定できないと思う。
(委員)
重点課題とまではいかなくても、優先課題ということか。
(事務局)
今年のサミット宣言において、仏国のシラク大統領のイニシアティブにより、クローン問題が取り上げられ、各国は、適切な国内的措置をとることとなった。しかし、今後、具体的にどのように対処していくかという問題は、宿題として残っており、来年のサミットまで議論がどのように進展していくかは現時点ではわからないが、委員長が言われたように、本委員会として何らかの方向性をお出し頂ければ幸いである。
(委員)
7月に科学技術会議が答申したライフサイエンス基本計画に、がん、脳、発生・生殖科学、生態系・生物圏の研究など我々の生活や社会に密接な関連のあるライフサイエンスを進めるに際して、生命倫理上の深刻な問題が生じる可能性があることが記述されており、今後起こるべき問題を幅広く予測し、ある程度の準備を行っていく必要があると思う。
また、各省庁間の連携がうまく行われていないと、本委員会としても検討が難しくなる場合があるかと思う。各省庁で動き出している関連審議会等と本委員会との関係はどのようになっているのか。
(事務局)
科学技術会議は、国として、科学技術に関して審議を行う最上位の審議機関である。本委員会の審議にあたっては、各省庁が共同して、内容に応じた補佐機能を果たしていくべきものと理解している。事務局レベルにおいても本委員会に各省庁の方にご参加頂いている。
(委員)
本委員会における決定事項が各省庁の既存施策に影響を及ぼす場合、本委員会の意見で各省庁の施策の再検討をお願いすることは可能か。
(事務局)
そのような場合は、各省庁で検討して頂くことも必要になると思う。
(委員長)
DNAの組換えについて各省庁で作成しているガイドラインも不変なものではなく、適宜改訂が行われている。それと同様に、各省庁が生命倫理に関するガイドライン等を作成したとしても、本委員会の審議を踏まえて、適宜改訂していくことも可能かと思う。
(事務局)
各省庁の施策についても、本委員会の意見を伝えることは可能であり、本委員会における議論は可能な限り、制約なく行って頂きたいと思う。
(委員)
生命倫理について、新たに検討を行っていくにあたっては、人間とは何か等の問題まで遡って議論することが必要かとは思うが、そこまで議論するには、時間が必要である。
(事務局)
生命倫理に関する問題については、確かに問題の根元まで遡って検討しないと結論が見えてこないとは思う。どのように問題を整理し、行政施策に反映させていくかという基本的な事項について、御示唆を頂ければと思う。
(委員長)
生命とは何か、人間の尊厳とは何かという問題の議論は尽きないと思う。様々な領域で種々の仕事をしてきた各委員がどのようなお考えを持っているかを述べて頂き、本委員会で最大限の共通項を見出していくことを目指している。そのような本委員会での共通認識が、将来的には、日本人全体の共通認識にまでなっていく可能性を持っていると思う。

議題:今後の審議の方向性について

 (委員長)

続いて、今後の審議の方向性について自由に御議論頂きたい。本委員会が発足した背景にあったのは、委員会を設置するための機が熟し、また、総理も生命倫理に関する問題に強い関心をお持ちであるということであった。本来であれば、総理に是非御出席頂き、各委員から率直に総理にご意見をお話しいただきたかったが、先ほどお話ししたとおり、総理の日程の都合で本日は御出席頂けなかった。本日は、こうした背景を踏まえて各委員から自由にご意見を頂きたい。
(委員)
最初に本委員会設置の話をうかがったときに、合意形成や法律の制定といった話がかなりのウエイトを占めるとの話があった。クローンの問題等生命倫理に関しては、これまであまり直接関わってきていないが、見解が対立している中で、合意形成や法律の制定という問題を前面に出して議論をしていくことは非常に難しいと思う。情報収集や論点整理といったプロセスにウェイトをおいて審議を進めていくことが重要ではないかというのが、率直な考えである。
(委員)
私は基礎法学が専門であり、法と社会の関連、法形成のプロセス自体が社会的プロセスであるというような視点から研究を行ってきている。社会、またその中にある道徳規範と法との関係といった問題について、多少お話が出来るかと思い、本委員会に参加させていただいた。倫理的に何が正しいのかといった問題は、国民の誰にでも関わる問題である一方、見解が分かれ、また、利益も絡む問題でもある。道徳といっても「嘘をついてはいけない」、「人を傷つけてはいけない」といった、どのような社会にも共通な問題については、自ずから法に反映されることが多い。しかし、社会が分化してきて、高度の倫理的考え方が出来てくると、利益も分化してくる。このような領域で、例えば米国の禁酒法などが典型的な例ではあると思うが、倫理の内容について強権的に法で定めるということが難しくなってくる。科学技術が発達し、あらゆる人の生活に影響を及ぼすようになってくると、何らかのルールを作っていく必要が生じ、それが人の倫理観に関係してしてしまうということは避けられない。その際にも合意形成のプロセスが重要であり、科学技術が分化、高度化するに伴い、ある問題について専門家の間でも、ましてや一般国民の間でも、意見が分かれることが多く起こるが、このような場合には、科学技術の専門的内容をどのように理解し、一般の人々にわかるようにしていくかが重要になってくると思う。
(委員)
本委員会は、世界的な流れの中で設置されたものであり、時宜を得ているものと思う。生命倫理はその対象が大変広く、脳死問題、中絶問題等いろいろな問題が含まれる可能性があり、宗教観なども関連してくる。検討対象をあまり広げるのではなく、まず、本委員会設置の契機となったクローン問題に関し、専門部会的なものを設置し、技術的専門家のみならず、宗教家の方、ライフサイエンス部会のメンバーの方、役所関係の方等にも入っていただいて、考え方を整理してはどうか。その後、一つ一つの個別課題について、順次検討を行ってはどうか。
(委員)
私は、社会科学の立場から、労働問題、人的資源に関する問題を扱っている。配付資料1−5に生命倫理のクリティカルな問題が提示されているが、ここに記載してある諸問題をみると、日本ではどの分野も遅れをとっており、欧米の考え方に依存しているような気がしてならない。一方、ライフサイエンス自体も欧米各国に対して大きく遅れており、その水準を引き上げていくことも重要な課題である。生命倫理に関して議論することも大事であるが、その結果がライフサイエンスの発展を妨げることがあってはならないと思う。日本の倫理観というか風土は、例えば死体に関する見方が欧米諸国と異なっているように特殊で、マスコミがその特殊性を強調して取り上げることもあり、国民に対する情報にバイアスがかかることを懸念する。正確な情報の提供ということは、非常に重要であるが、それに関しては、マスコミが大きな役割を担っている。
(委員)
科学の発展は急激であるが、究明が進むほど、人間の価値観、死生観といった問題に影響が及んでくることは避けられない。その際に、どこまで科学が進んでいいのかという問題が生じるが、それを決める基準は、国民の意識だと思う。国民の意見の一致が既にあると思われる人工授精などの分野では問題はないが、一方、クローンなどの分野では、国民の間で意識の一致がまだないと思う。自然科学者は目標を追求するために先に進もうとするが、社会の側でがそれを受け入れる意識が育っていなかったら、社会はそれを受け付けないし、更に翻って、研究の推進自体にも影響を及ぼすこともありうる。また、本委員会のように、著名な人が集まって死生観や生命現象に関して議論をしても、果たしてその議論が国民の意識を代表しているかどうかというと必ずしもそうでないと思う。国民の意識を本当に測るうまい方法論についても検討をしていただきたい。そこで、事務局に対して、これまで、脳死の問題などで行われてきた生命倫理問題の議論の歴史がわかる資料を整えて頂くことをお願いしたい。
(委員)
放送局の中で仕事をしていると様々なテーマに遭遇するが、私自身は、今、我々にとって大切なことは何か、人間にとって大事なことは何かのようなことを基本にして番組を制作している。その中でもしばしば物事が見えなくなることがあり、そのような時は、古典を読むことにしている。このような席で何故古典なのかと思われるかも知れないが、古典を手当たり次第読んでいると、人間とは何か、人間にとって大事なことは何かといった新鮮なメッセージが見えてくることがある。例えば論語を読んでいると、紀元前500年、すでに温故知新という言葉に出会う。人間というのは、本当に変わらないな、科学技術や生活が進んでも、人間の感性や考え方は変わっていなかったということを思い知らされる。これまでは、どんなに暮らしが変わっても人間の生活そのものは変わってこなかったが、もしかすると、これからは、科学技術の進歩によって、人間とは何かといった考え方も大きく変わっていくことがあるのかもしれないと感じてしまう。人間は危機感を感じても、どんな問題をはらんでいても、新しいものに突き進んでいかなくては気がすまないという性質を持っており、その結果、予想しえない状態が訪れたとしても、それを含めて人間は人間であるのかも知れない。一方、人間が人間であるためには絶対に留まらなければいけないことがあるという意見もある。このようなことを考えているのが私たち市民である。想像の範囲を超えた状況を突きつけられ、私たちは右往左往している。もし、マスコミの役割があるとすれば、本当に大切な情報を分かりやすく伝えていくことである。
(委員)
バイオテクノロジーの進展が契機になって生命倫理に関する問題が浮かび上がってきており、臓器移植がクローンと連動するのではないかという危惧の念もあるかと思う。我々が現役であった頃は、生物学者と医学者には、明確な境界があった。生物学者は、生物を研究対象とし、医学者は人間を研究対象としてきた。しかし、バイオテクノロジーの進歩は、両者を接近させ、医学に貢献したが、一方で、これまでご意見のあったような問題も生じてきた。全ての方が心配されている問題というのは、理論物理が原子爆弾の作成という領域に入ってしまったように、バイオテクノロジーが、人間の精神や社会に多大な影響を及ぼすのではないかという点だと思う。こうした問題は大変重要であり、現時点で慎重に検討する必要がある。
(委員)
医療の現場では、日々、決断を求められるが、これは、ある意味で危機管理に通じる問題である。危機管理においては、即座の判断が要求され、常日頃から、組織を作ったり、議論を行い、対処の考え方を持っておくことが重要である。従って、生命倫理の問題について、本委員会で日頃から議論を行っておくことには重要な意味がある。生命倫理に関する問題は、1960年代頃から、ほとんど自己決定の倫理で律せられてきており、今度の臓器移植の問題でも脳死と心臓死という二つの死を想定して、その選択を各個人の判断に任せている。しかし、生殖医学やクローンの問題などについては、自己決定の倫理のみで律することが出来る問題でなく、社会的に役に立つのか、自然にとって良いことなのか、人類に貢献するのかといった視点なども関係してくる。日頃からこうした点についてよく議論をしておくことにより、現場では何らかの妥協点として適切な決断を行っていくことも可能となる。したがって、議論の進め方としては、一つの問題を提起し、それについて個別に議論していくという手法がよいと思う。
(委員)
ライフサイエンス基本計画の策定に関する議論においても、ライフサイエンスを常に人間をみすえたバイオサイエンスと定義した経緯があり、生命倫理の問題は重要である。クローンの技術の急速な進歩等生命科学の研究が急速に進んでおり、それが倫理に触れてきている。これらを議論する際に大事なことは、国民が正しい知識と理解を持つことであるが、科学者の言っていることは、何を言っているのか一般の人々になかなか理解できない場合も多い。国民と科学の間をつなぐものが大事である。
(委員)
倫理や人間ということを一般論で議論していくと大変難しいことになる。医療等に関連して考えられるのは、倫理というものの基本は、責任ある行動をとるということである。倫理を一般化すると訳がわからなくなるが、最低限自分の行動に責任を持つことにより、かなりの部分をカバーできると思う。
また、生命科学の分野に限らず、日本に対しては、圧倒的に米国の影響が強い。これは米国の科学技術が進歩しているという否定できない事実があるからだが、一方でヨーロッパには別の原理がある。例えばクローンや移植問題にしても、仏国においては、人権宣言がある。日本は、米国の原理とヨーロッパの原理を適当にとり入れ対処してきたが、これからは、日本流のとまで言えるかどうかはわからないが、我が国独自の方向性を出さないといけない。それが本委員会の役割だと思う。
(委員)
ギリシャ哲学のソクラテスとほぼ同時代に、世界的に見れば孔子も釈迦も出ているが、ギリシャ哲学の伝統を受け継いだ西洋文明においてのみ、今日のような科学と科学技術が生まれ、その結果として生命倫理に関する問題が生じてきている。これは、ギリシア哲学に淵源をもつ科学においては、物質のみを対象としてシステマティックに扱うための理論を固めてきたことが背景にある。この方法は有効なため、研究当事者の意欲が駆り立てられ、研究がどこまでも進む。物質というのは、魂などの価値を排除したものであるから、どうしてもある程度まで進むと、排除されていた価値との衝突が生じることがある。これが、我々が現在直面している状況である。このようなスタンスを念頭に置いて生命倫理に関する問題に取り組んでいきたい。
(委員)
生命倫理に関する問題は、宗教的視点と深い係わりがある。諸外国は反応が早いが、日本においては、宗教界も含めて反応が遅い。その理由を考えてみると、宗教界に限って言えば、日本の宗教界が持っている伝統的な体質が影響しているように思える。宗教は人間の基礎的生活感情、深いところから起こってくる反応をまとまった形で表現するものだと思うので、日本的宗教観からしても時間をかけて議論していく必要があると思う。宗教界の意見もその間に汲みあげられると思う。
(委員)
生命倫理問題は人間が判断することなので、様々な立場によって、意見が分かれる問題である。したがって、結論を出す場合にも、対象に応じてきめ細かい対応をしていくことが必要となる場合もある。また、国民の各レベルに存在する多様な意見をどのように把握し、評価するかという、方法論の検討も必要である。また、審議に当たっては、対象を広げすぎることなく、クローン等の緊急で、かつ、典型例となる個別の問題から順次検討を行っていくことが実際的であると思う。

○委員長より、次回も再度自由な意見交換を継続することとし、直近の話題として取り組む問題についても検討を行いたい旨、また、可能であれば、橋本総理にも御出席をお願いし、各委員から率直なご意見をお話頂きたい旨の発言があった。

○次回の委員会の日程を1月の初旬から中旬にかけて調整することとし、閉会した。