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第6回科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会議事録


1.日時    平成10年5月26日(火)14:00〜16:00

2.場所    科学技術庁第7会議室(通商産業省別館9階)

3.出席者

 (委 員)

岡田委員長 青木委員、勝木委員、菅野(晴)委員、高久委員、武田委員、豊島委員、永井委員、木勝(ぬで)島委員、町野委員、森島委員 
(事務局)
青江研究開発局長  他 

4.議題 「クローン技術に関する基本的考え方(中間報告)(案)」について

5.配付資料

資料6−1  クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)(案) 
資料6−2  クローン技術に関する国民からの意見募集を行う対象の例(案) 
資料6−3  第3回生命倫理委員会議事録 

6.議事

議題:「クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)(案)」について

 (岡田委員長)

それでは、時間になりましたので、第6回の小委員会を開かせて戴きます。まだ高久委員がおいでになっていませんが、後ほど来られると思いますので、始めさせて戴きます。本委員会は、本日で6回目になります。各委員には、多数の会議開催に御協力戴きありがとうございます。 
それでは、初めに事務局から配付資料の確認をお願いいたします。 
(事務局)
それでは、配付資料の確認をさせて戴きます。 
議事次第のほか、5つ資料をお配りしております。資料番号が打ってございますのが6−1から6−4まで、そのほかに、木勝島委員からの資料「人クローン禁止・立法への反対意見」という資料が5つ目でございます。資料6−1が「クローン技術に関する基本的考え方について(中間報告)(案)」、資料6−2が「クローン技術に関する国民からの意見募集を行う対象の例(案)」、資料6−3が「第3回生命倫理委員会議事録」、資料6−4が、前回の本小委員会の議事録(案)でございます。以上、お手元にございませんでしたらお配りさせて戴きます。 
以上です。 
(岡田委員長)
よろしゅうございますでしょうか。 
(青木委員)
資料ですけれども、木勝島委員から提出されたものは、資料に入れない方がよろしいのではないでしょうか。資料の一部として御紹介がありましたが、これはあくまで参考であって、会議の資料ではないと思います。事務局が資料の5番目と言いましたけど、私は別に扱った方がよろしいような気がいたしますが。 
(岡田委員長)
そうさせていただきます。 
それでは、議題の1に入らせて戴きます。前回の小委員会でも御了承戴きましたが、本小委員会の議論でもインターネット、世論調査等を通してクローンに関する国民一般の意識を適切に捉えた上で、最終的な判断をすべきとの意見が出されておりまして、このプロセスの実施を視野に入れますと、これまでの論点整理メモ及び小委員会での議論に基づく中間報告的なものをつくる必要がありましたので、私の方でそのたたき台を作ったものを本日配布してあります。本日はこの中間報告の案について御議論を戴きたいと思います。もちろん、この中間報告は今までの御議論をもとにしてつくったものでありますので、その点を御理解を戴き、議論をお願いしたいと思います。 
それでは、中間報告の案に関して、まず簡単に事務局の方から説明をお願いします。 
(事務局)
それでは、資料6−1に基づきましてごく簡単に御説明させて戴きます。この資料は前回までは論点整理メモという形で御議論戴いてきたものを基礎に、ただいま委員長がおっしゃられましたように、世の中に問うた場合に、全体の議論の背景、あるいは技術的動向等がわかるような部分も若干加えまして、全体として1つの報告書になるような形を意識して作成した案でございます。 
1ページめくって戴きますと、全体の構成、目次というのが出てまいります。「はじめに」につきまして、今回の検討の背景といたしまして、技術的動向、あるいは各国の動向、さらに我が国におけるこれまでの対応といったような形の文章が今回新たに書き足してございます。2と3につきましては、基本的には前回まで御議論戴きました議論をそのままここに入れてございます。3の部分につきまして、特に後半の部分については、前回かなり御議論戴いたこともございまして、前回までの論点整理メモと若干変わっている部分が多々ございます。後ほどまた議論の進展に応じまして必要があれば御説明させて戴きたいと思います。全体構成はそんな構成をこの中間報告ではとってございます。 
1ページめくって戴きますと、「はじめに」というのがございます。これは基本的に、なぜこの検討に至ったかというような非常に概括的経過を書いているわけなんですが、特にこれは中間報告としての位置づけでございまして、一番下から5行目あたりからでございますが、この中間報告書は、クローン技術の現状と展望を総覧し、かつ、これまでの我が国及び世界各国の本問題に関する議論や取組の内容を吟味しつつ、我が国として採るべき考え方と方策について、中間的に取りまとめた、したがって、最後の2行に書いてありますように、今後、さらにその内容に対する国民の意識を的確に捉え、最終報告書に反映させていく必要があるという位置づけでございます。 
ここにつきましては、もちろん初めての文章でございますので、後ほど御議論戴ければと思います。 
それから、「クローン技術をめぐる最近の動向」につきましては、これは基本的には学術審議会で御議論がなされました、その成果をかなり活用させて戴いておりまして、ここは事実関係がかなり多くなっておりますので、適宜読んで戴ければわかる形になっているかと思います。 
それから、5ページでございますが、「クローン技術の可能性に関する評価」。これは冒頭の1パラグラフ、すなわち「人以外の細胞を用いる場合」までを若干書き足しております。「人以外の細胞を用いる場合」以降は論点整理メモの文章をそのまま使ってございます。冒頭の部分を書き足した部分はクローン技術の可能性に関する評価についての概論を若干述べているというものでございまして、クローン研究がもともと両生類の研究から始まって、最近では畜産分野にまでその技術が発展してきている。具体的にマウス、羊、牛などで技術が発展してきているという経過と、最近のドリーの例に関する研究について記載がなされております。こうした技術が一方で学術面、応用面で非常にすぐれた技術であると評価される反面、クローン個体を哺乳類でつくるということが人への応用を容易に想起させるということで新たな問題を提起しているんだという、その辺の概論をここに書いてございます。 
「人以外の細胞を用いる場合」以降の個別事項につきましては、その技術の可能性に関する評価、今まで論点整理メモで議論して戴だいた文章をそのまま使ってございます。 
それから、8ページ目でございますが、「規制に関する検討」。この部分は、前回までの議論で、またさらに修正してございますが、委員長、ここは詳細に説明をした方がよろしいでしょうか。 
(岡田委員長)
いや、ここについては後で説明して戴くことにしましょう。 
(事務局)
わかりました。それでは、詳細内容はここでは、基本的には前回、クローン技術をなぜ扱うのか。ほかの種々の技術もある中で、クローン技術は特殊だということを明確に言わないと、クローン技術だけを取り上げるようにならないか、そのようなクローン技術の特殊性について若干書き足しているということと、人間の尊厳の議論のところで、人間の品種改良、育種という点をかなり御議論戴きましたので、そのような言葉を中に組み込むというようにしてあります。 
また、「クローン技術の規制の形態」、10ページ目あたり、また後ほど多分出てまいると思いますが、ここではクローン技術に関する規制の形態として、少なくともその核心部分である人個体の産生については法律に基づく禁止という考え方をここに記述してございます。これはまた後ほど議論があるだろうと思います。 
それから、一番最後、11ページ目の一番下に「クローン技術以外の生命関係技術」という項目が新たに書き足してございます。すなわち、クローン技術が非常に特殊な技術であるという一方で、ただし、そのほかの技術も今回の技術に非常に関係があるということが明らかであると。その辺をどう扱うかという部分も議論があったと理解いたしてございます。 
12ページ目、前回までの論点整理メモでは「国民の意識調査の方法論」、「情報公開の方法論」という形になっていた章でございますが、国民の意識の捉え方につきましては後ほど、本委員会が具体的にこれから実施する手続として、現実的どのように行うかという点に関する検討の一環として具体的に議論して戴くことになるかと思いますので、ここでは情報公開の方法をきちっと書くという形でこの文章を残してございます。 
一番最後には、用語の定義をつけてございます。この中間報告の中で出てきました若干の用語につきましてその定義を記載しております。定義の内容につきましては、学術審議会の方の審議で行われた定義を引用させて戴いております。 
以上、構成全体、簡単に申しますと大体以上のような構成になってございます。 
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。 
今、事務局の方から説明して戴きましたように、中間取りまとめということで論点整理メモの内容を膨らませて記載しております。その中で、まず、「はじめに」から「1.クローン小委員会における検討の背景」、「2.クローン技術の可能性に関する評価」についてですが、今までの論点整理メモの内容が大体そのまま入っております。それに学術審議会での検討内容を盛り込んでいます。ここについては、世の中の御了解を多分得られるであろうと思っておりますが、何か御意見がございましたらお願いします。できればここについては、了解を早めに頂いて、「3.規制に関する検討」を中心に御議論戴きたいと思います。 
一か所事務局に修正をお願いしたいところがあります。「はじめに」2行目の文章ですが、「これら科学技術と社会と人間・社会と」というのは表現がおかしいので、途中の「社会と」という表現は削除して戴けますか。 
(事務局)
わかりました。 
(青木委員)
それから、「産出」という言葉を使っていますね。これは、「個体産生」というような用語に合わせた方がよろしいんじゃないかと思うのですが。また、文章によっては「個体作製」という言葉も使ってありますね。これは統一した方がよろしいのではないかと思います。 
(岡田委員長)
この点は検討させて戴きます。 
(青木委員)
一般に産生という言葉を使っていますので、産生に統一するということでよろしいんじゃないかと思います。 
(岡田委員長)
12.に関してはよろしゅうございますでしょうか。では、これは御承認戴けたものとして、「3.規制に関する検討」に入っていきたいと思います。ここに関しては木勝島委員の方から資料が提出されておりますので、これも含めて御討議戴いて、何とか本日の議論で、本小委員会の中間報告として、意見の一致に達したいと思っております。3.のところは相当大切な内容ですので、事務局の方で読んで戴きたいと思います。 
(事務局)
それでは、「規制に関する検討」以下、若干読み上げさせて戴きます。特に途中で前回から修文がありましたような点については、その部分、その部分、そうなっておりますということを申し上げながら読み上げさせて戴きたいと思います。 
1.クローン技術の人個体産生の適用 
(1)科学的意味と問題点 
ここは前半は変わっておりません。後半の1パラグラフがつけ加わった部分でございます。 
人個体の産生にクローン技術を適用することは、科学的視点からは次のような意味のものと考えられる。 
○男女両性の関与が無くても子孫を産み出せるという無性生殖の途を開くものであること
○この場合、通常の受精ではその配偶子形成過程で起こる染色体組換えが起こらず遺伝的形質が遺伝情報の提供者と同一となること
○その結果、成長過程での環境要因の作用による違いは生じるものの、産み出される人の表現形質が相当程度予見可能であること
○更に、予め表現形質が相当程度予見可能であることから、特定の表現形質を持つ人を一定程度意図的に産み出すことが可能であること

このように、人のクローン個体の産生は、従来の人の生殖が、先端医療技術を用いる場合を含め、全て、有性生殖の過程を経て行われてきたのに対して、遺伝的に同じ個体を、意図的に産み出せるものであるという点で、これまでと全く異なる人の生命誕生の在り方を開くものであり、その特徴を踏まえて、適切な対処が必要である。 
1)人間の尊厳の侵害 
クローン技術の人個体の産生への適用については、以下のように、人間の尊厳の確保の観点から問題がある。 
最初の○の部分、2つ目の○の部分あたりが若干変わってございます。 
○動植物の育種と同様、クローン技術の特色である予見可能性を用いて、特定の目的の達成のために、特定の性質を持った人を意図的に作り出そうとするものであり(人間の育種)、また、如何なる者が用いるにせよ、人間を特定の目的の達成のための手段、道具と見なすものでもある(人間の手段化・道具化)ため、そのようなことを容認する社会は、人間の個人としての自由な意志・生存が尊重される社会とは言えないこと(個人の尊重される権利の侵害)
○遺伝的形質が予め決定されている無性生殖であり、男女両性の関わり合いの中、子供の遺伝的形質が偶然的に定められるという、人間の命の創造に関して日本人が共有する基本認識から著しく逸脱するものであること(人間の尊厳の基礎をなす人間の生殖の在り方に関する社会的認識からの大きな逸脱)
○クローン技術を、不妊症治療等のための生殖医療に使用し得る技術と捉えた場合であっても、その人個体の産生への適用は、上記のような、人間の育種、手段化・道具化との側面を否定し得ない上、日本人が共有する人間の生殖の基本認識をも大きく侵すものであること
○クローン技術を医療以外の目的に便宜的に用いる場合(一般人が、自分の遺伝子を将来に残したいと願う場合等)には、上記にも増して、その人個体の産生への適用は、人間の育種、手段化・道具化であるとの側面を否定し得ない上、日本人の共有する人間の生殖の基本認識をも大きく侵すものであること。 

2)安全性の問題 
クローン技術を用いて人個体を産み出した場合、正常の受精に比較して、高頻度で障害児が生まれたり、成長過程で障害が発生する可能性を否定できない現状では、産まれてくる人個体の安全性の確保は保証できず、そのような状況下で、クローン技術を適用することには問題がある。 
(2)クローン技術の人個体の産生への適用についての規制 
クローン技術は、原子力や宇宙開発のような巨大技術と異なり、一定水準以上の能力を持つ医師や生命科学研究者が、それほど高度の施設設備や巨額の資金を要さずに実施し得る技術であること、また、現実に、米国で生じたようにクローン技術を用いた民間の不妊症治療計画が発表されるなど、現時点ではその実態は存在しないものの、近い将来、問題が現実化する可能性があることを勘案すると、我が国としても、この問題を放置しておくことは適切でない。 
クローン技術の人個体の産生への適用が、上記のように、人間の尊厳、安全性の両方の観点から問題があることを総合的に判断すると、将来人クローン個体が産生されることを禁止することが妥当である。 
(3)研究の自由との関係 
ここは前と変わっておりません。 
研究者がどのような研究を行うかは、無制限に自由であるものではなく、社会に対する責任との関係で議論されるべきである。上記のように、人個体を産み出すようなクローン技術の適用には必然性が乏しい場合、更にそれに加えて、人間の尊厳上の問題がある、安全上の問題がある等社会に対する負の影響があると考えられる場合、或いは、それに対して国民の間に幅広い反対意識がある場合等には、研究者自身が社会的責任を十分に自覚して対処しなければならないことは当然であるが、更に、適切な範囲で規制を設けても、研究の自由の不当な制限につながるとは言えない。 
(4)国際的な強調 
クローン技術の規制に関しては、世界各国において議論が進められているが、技術や研究者の国際交流・移転が国際的に進む中、我が国のみが、特別に緩い(国外の医師・研究者の我が国でのクローン技術適用)又は厳格な−−特別に厳格なといいますか、規制とならぬよう、国際的に協調したものであることが必要である。 
(5)規制の対象 
人のクローン個体の産生に対する規制は、現在の科学的知見では、人の胚は、母体への胚移植の過程を経なければ、出生、成長する可能性がないことから、人クローン個体を産み出さないため、人クローン胚の母体への胚移植を禁止の対象とすることが適切である。なお、人の細胞の核を人以外の動物の除核未受精卵に核移植して交雑胚を作製し、それを人又は動物の母体内に胚移植し、成長させること、についても、人のクローン個体を産み出すという点では、人の細胞の核を人の除核未受精卵に核移植する場合と変わらず、禁止のための規制を行うことが妥当である。 
また、上記に加え、人個体を産み出すことを目的としない場合、或いは、核の遺伝物質の改変により人個体を産み出すことができないとされる場合にあっても、母体への胚移植を伴う移植用クローン臓器の作製は、現時点では、人個体を産み出すことに同等の実態を含むことから人間の尊厳を侵害し得るものであり、禁止のための規制を行うことが妥当である。 
なお、人の胚については、一般的には、生殖医学発展のための基礎的研究並びに不妊症の診断治療の進歩に貢献する目的のための研究に限って、取り扱うことができるとされ、また、原始線条(中枢神経系の原器)が出現する段階を越えて体外で培養することは問題があるとされていることに留意する必要がある。 
(6)規制の形態 
1)クローン技術に関する規制の形態 
クローン技術に関する規制の形態としては、 
・法令に基づく規制
・国によるガイドライン等による規制
・国による研究資金配分の停止の規制
・学会等によるガイドライン等による医師、研究者の自主的規制
・個別の医療機関・研究機関等における倫理委員会審査等による自主的規制 
等が考えられる。 
クローン技術の規制については、技術的に単一の考え方に基づいて統一的な規制が行われるべきであること、官民問わず全ての医師、研究者等に対して共通的な規制が行われるべきであること、具体的な実効性を伴う規制が行われるべきであること、を考えると、少なくとも、規制の核心部分である、クローン技術を用いた人個体の産生の禁止(及びそれに関連して規制されるべき胚移植を伴う人臓器のクローン産生の禁止)については、法律に基づき禁止し、その違反に対して罰則を設定することが適切であると考えられる。 
なお、この法律による規制の考え方に関しては、体外受精の規制を産科婦人科学会の会告により行っている点、遺伝子治療の規制を国のガイドラインにより行っている点、等からみて、クローン技術の適用に関しては、胚移植を伴わない人クローン臓器の作製等実施が許容される場合にあっても、人個体の産生に技術的に近い一定の研究・応用に対しては、情報公開を行いつつ進めることが重要であるため、知的所有権に配慮しつつ、法律あるいは国のガイドラインに基づき、それらの研究・応用に関する公表義務の設定、公表された研究・応用例が一覧できる公表データベースの設定等を検討することが必要である。 
2)規制の時限 
クローン技術に対する規制に関しては、今後クローン技術に関する知見が蓄積するとともに安全性についての科学的判断も確実になっていくこと、クローン技術と人間の尊厳との関係について更なる議論が行われること、現在未だ可能性の段階にあるクローン技術の応用実例が今後畜産の分野等で具体的に提示されるようになること、等により、将来、同技術に対する国民の意識やその規制の在り方を巡る状況が変化する可能性があるため、現時点では、恒久的な規制でなく、知見が相当程度蓄積される期間と考えられる5年程度の限時的な規制とし、その間に規制の在り方について更に検討することが適切である。 
11ページにまいります。 
2.クローン技術の人個体を産生しない目的のための適用 
クローン技術を人個体を産み出さない目的のために適用すること(体細胞培養)(全能性を有する胚性幹細胞の系統が人において確立された場合において、同細胞の人個体を産み出さない体外での培養を含む。)については、上記1.で示すように、種々の科学的・医学的可能性が認められ、今後、医学的応用には安全性の確認に慎重な検討が必要であるものの、クローンの観点からは、特段の規制をする理由は見当たらない。 
3.クローン技術の人以外の動物の個体を産生する目的のための適用 
人以外の動物個体の保護、管理等については、一般的に、現在「動物の保護及び管理に関する法律」による規制が適用されており、クローン動物の保護、管理についても他の動物と異なる規制を適用しなければならない理由はないことから、当該規制が適用されると考えるべきである。 
なお、動物の保護・管理の在り方そのものに関して更なる検討が必要であれば、本小委員会とは別途の場を設けて検討すべきである。 
哺乳類のクローン個体の作製については、その推進に当たっては、知的所有権に配慮しつつも、公表された研究・応用例が一覧できる公表データベースの設定等による適切な情報公開を進めることにより、社会の理解を得ていく必要がある。 
4、これは全く新しく足されたものでございます。 
4.クローン技術以外の生命関係技術 
人のクローン個体の産生は、上述のように、従来の人の生殖が、先端医療技術を用いる場合を含め、全て、有性生殖の過程を経て行われてきたのに対して、遺伝的に同じ個体を、意図的に産み出せるものであるという点で、これまでと全く異なる人の生命誕生の在り方を開くものである。その意味で、他の生命誕生に関わる技術とは、質的に全く異なる影響を人間社会にもたらすものであり、現時点において、人の生命誕生に関わる他の技術とは異なる強い法律規制が必要であると考えられる。 
しかし、生命の誕生に関わる技術は、体外受精技術のように、既に一般化した技術もあるし、今後の技術的進歩により、予想を越えた技術が出現してくる可能性もある。上記、2.3)で記述した、キメラやハイブリッドと呼ばれる人と動物の交雑胚の問題、生殖細胞のゲノムの改変や診断の問題、他の生殖医療技術の取扱いの問題等については、今後の対処の方法についての更なる検討が不可欠であることは明らかである。これらの問題には、それぞれに固有の技術上、倫理上等の議論が存在することから、一概に、クローン技術に関する議論を適用できるものではなく、改めて、詳細に議論を行う必要があり、生命倫理委員会等における更なる検討が望まれる。 
12ページ、最後でございます。 
4.情報公開 
クローン研究に対する国民の関心は、近年、極めて高くなっているが、その一方で、その著しい高度化、専門化に伴い、その正確な実態が、一般の国民にとって容易に理解し難いものとなっており、研究開発の急速な進展に対して情報の不足から来る不安も生じている。したがって、クローン研究については、研究の実施が許容される場合においても、知的所有権の経済的価値を考慮しつつも、高度情報通信ネットワークの活用等により、情報公開を行いつつ進めることが重要である。また、クローン技術を用いる研究者等に対しても、自らの行為が、真に人間、社会、自然と調和しているかについて、不断に省察することが求められる。 
以上でございます。 
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。 
今、事務局に読んで戴いた3.の議論をお願いしたいと思いますが、全部一遍に議論するのも大変かと思いますので、(6)規制の形態の前のところまで、御討論をお願いできますでしょうか。 
(高久委員)
9ページ目の上の方の(2)のクローン技術の人個体の産生への適用についての最後の方に5年間と書いてあります。このパラグラフの下から2行目、「将来人クローン個体が産生されることを禁止することが妥当」について、将来という言葉は、要らないのではないかと思います。 
(事務局)
単に今現在存在しないから、これからそういうことがならないようにという趣旨で書きましたが、確かに、あるとかえって混乱すると思います。 
(岡田委員長)
なくてもいいような気がしますが、どうでしょうか。この「将来」という言葉があるために、いろいろな意味にとられる可能性があるかもしれませんね。これは削除した方がよいでしょう。 
(木勝島委員)
今、高久委員がおっしゃった9ページ(2)クローン技術の人個体産生への適用についての規制のところの2行目に、「それほど高度の施設設備や巨額の資金を要さずに実施し得る技術である」と書いてあります。前回もこの点で議論がありましたけれども、こう言ってしまうと国民にとっては、裏の町工場とか、アマチュアでも離れをつくって、そこでできるのかとか思ってしまうのではないでしょうか。巨額とか高度という点について感覚が違う人たちが大勢いると思うので、具体的にはどれぐらいの規模が必要だという実際の数字なりを挙げて戴けないでしょうか。例えば殺菌とか滅菌とかを施すようなラボが要らないのか要るのかとか、顕微鏡というのはどれぐらい1台かかるものかとか、テクニシャンを養成するのに大分時間がかかると思うので、そういう高度の熟練技術を要する技術職の人を雇い続ける資金とか、そういう具体的なイメージが欲しいのです。確かに原子力や宇宙開発とはけたが違うかもしれませんが、そういうところとは離れた一般国民にとって、私どものような実験研究者でない者にとっては想像しにくいところがあります。こう言ってしまうとかえって野放しで、余りにも危ないような誤った印象を持たれるかもしれませんので、少し目安があった方がいいと思うのです。本当にそんなに簡単にできるものなのでしょうか。ロスリンのような施設が相当の年月と人件費等をかけてできたものなので、こう言い切るのはかえってクローン技術の位置づけという意味ではふさわしいのかという疑問があるのです。その点、いかがでございましょうか。 
(岡田委員長)
これに関しては、巨大技術とか、その次の高度の施設という表現の部分で少し表現を工夫するといいかもしれませんね。2行目に「高度の」とありますが、これは削除しても構わないのではないでしょうか。高度というのはいろいろな意味があるでしょうから。 
雑談になりますが、ある先生と対談したときに老化の話をしていたのですが、そのときにクローン問題についても話をしました。クローンについては、規制をするにしても、原子力と違って、お金も要らないし、簡単にできるから、規制がきちんとできるのだろうかということを言われていました。例えば原子力といいますか、原子爆弾と言った方がいいわけですが、こういうものは相当大変なのです。インドの人が3,700万円ぐらいで可能だと発言したことが新聞に載っていましたが、人がたくさん要ることも確かです。しかし、クローンについては、慣れれば非常に楽なものなのです。だから、クローン技術については、一つの特殊性があるということを非常にはっきりと言っておくべきだと私は思っていますが、いかがでしょうか。 
(高久委員)
後の方の法律的な規制をする云々ということに関係があると思うのですが、クローン技術が、現在の生殖医療と同じように、医療法人でもできる程度のものになるのかどうかということは非常に大きな問題だと思います。大学病院のようにかなりの数の研究者、あるいはチームががっちりしてないとできない技術ならば、いろんな問題が起こらないと思うのです。そこのところは規制とも関連して問題になると思いますので、岡田委員長が言われたように、このコメントはやっぱり必要なのではないかと思います。私にもクローン技術が普通の病院の産婦人科のドクターが簡単にできるようになるものかどうかわかりません。どうでしょうか。 
(武田委員)
岡田委員長、高久委員もおっしゃったとおりで、今の体外受精の技術というのは非常にコンパクトな、無菌の場所さえあれば簡単にできる技術なんですね。顕微鏡といいましても、せいぜい100万円単位のものなんですね。ですから、多分、技術者1、2名の協力でこういう技術は十分実行し得ると思います。そういうことから考えますと、一般の方が受ける感覚としては、その状態でもできるよというふうなニュアンスがむしろあるんですね。だからこそ、こうした言葉は残して戴きたいというふうに思います。 
(岡田委員長)
木勝島委員、この言葉は残しておきたいと思いますが、了解して戴けますか。 
(木勝島委員)
それでしたら、例えば書き方は難しいですけれども、マイクロマニュピレーターのような装置というのは、私どもにとってはどれぐらいお金と維持費がかかるものかわかりませんし、研究技術職二人を持っておくというのもどれぐらいの費用かわからないので、もう少し具体的に説明して戴くことはできないのでしょうか。 
(岡田委員長)
わかりました。それに関しては、後ほど私の方から御説明いたします。 
(木勝島委員)
私にというのではなく、国民に伝える意味で、中間報告の中にきちんと書けないでしょうか。クローン技術がそんなに簡単にできるものだというイメージを流布させてしまっていいのでしょうか、他の先生方、いかがですが。 
(岡田委員長)
そうした評価をするために本小委員会で議論をしているわけです。 
(武田委員)
現在の体外受精で最も今の議論に近いと思われるのは、精子の円形細胞なんですね。精子になってない円形細胞を用いて受精が可能なんですね。それをやっていますのは、実は一般臨床医がおやりになったんです。大学病院でやっているんではないんですね。大学病院でももちろんできますけれども、むしろ大学病院サイドは倫理面のことを最近は非常にきつく考えていまして、そういう方法をやらない。ところが、新聞に円形細胞と出てしまったわけですね。学会としては、円形細胞で授精させることは認めておりませんので、その方をお呼びして実際おやりになったかと詳細を聞かないといけないということになったわけですね。そうしますと、今度は円形細胞を培養して精子細胞でやったという言葉に変わっちゃったんですね。本当はどっちでやったのかというのはよくわかりませんけれども、最初あったようなこともそれほど難しい技術ではなくできるんだと。そこをどう規制するかということだろうと思いますんで、値段が幾らかということはともかくとして、そういうものを野放図にしておくということが少し問題じゃなかろうかと思います。 
(岡田委員長)
3行目のところ、「要さずに実施し得る技術である」の部分では、はっきりと言い過ぎていますので、「技術になり得る可能性がある」というようなことでしょうね。現実的には。そういう表現に直しておいた方が良いでしょう。 
8ページの「人間の尊厳の侵害」の最初の○のところ、ここには勝木委員のお話が入っているかと思いますが、これでよろしいでしょうか。 
(勝木委員)
私は問題ないと思います。 
(岡田委員長)
人間の尊厳の侵害というあたりのところを読んでいると、何となくぎこちないという感じも多少するのですが、どうでしょうか。 
(5)までのところは、今、木勝島委員からお話がありましたが、そういう可能性があるという表現にすることを考えたいと思います。 
(町野委員)
先ほどの議論を蒸し返して申し訳ないんですが、木勝島委員の御意見というのは、この資料に表れていますように、規制の必要性に懐疑的なわけですから、ここでは規制は必要だということを言わなければいけないだろうと思います。先ほどお話がありましたように、技術的に簡単にできるということを例にあげて説明すると、規制の必要性が伝わるのではないかと思うのですが。 
よく報告書などにあるのは、例えば次のような文章です。そもそもクローンというのは一般に予想されているよりもはるかに容易にできるものである。例えば原子爆弾を作るのにはこれこれが必要であるが、クローンはこの程度でできる、というようなものです。これをやり出すと大変だというなら仕方がないですが、結局、一番問題なのは、もうSFの世界の出来事ではなくなっているということを理解して戴くということですから、具体例があるといいかなと思うわけです。 
このように申し上げますのは、少なくとも法学者の間では、クローンの規制にポジティブな議論は、日本においては全くないという、ということがあるからなのですが、その点を意識して戴いて、少し具体的に書いて戴くと説得力があるかなと思うのですが。 
(岡田委員長)
今のまとめの中で核交換からクローン動物を作るというあたりの操作そのものに関しての説明というのは一つもないようですね。 
(永井委員)
むしろ用語の定義のところで書いておいてはいかがですか。 
(事務局)
ただ今御議論いただいた件については、多くの人がイメージがわき上がるように、岡田委員長がおっしゃったような状態になり得るんだということがイメージとしてわくような表現を少し工夫をいたしたいと思います。ただ、木勝島委員が言われたような具体的な数値を出すというのは若干難しいかと思いますが、一般の方にかなりイメージをもってわかってもらえるような表現を工夫したいと思います。 
(岡田委員長)
そうして戴きましょう。 
(永井委員)
8ページのことですが、(1)の科学的意味と問題点のところの最後の○のところを、「更に、予め表現形質が相当程度予見可能であることから、特定の表現形質を持つ人を一定程度意図的に、かつ複数産み出す」としては如何でしょうか。世間一般では、普通、似たような人が多数自分の周りにいたら、どういうことになるんだろうといった印象をクローンに対して持っているでしょうから。 
(岡田委員長)
それでは、少し工夫させて戴きたいと思います。 
あと1時間強時間がありますので、引き続き、(6)の規制の形態に議論を進めて戴きたいと思います。ここに関連して、木勝島委員の方の御意見も含めて記載してあるかと思いますが、あわせて御議論戴きたいと思います。 
まず、木勝島委員の御意見の中の2に当たる規制の射程が狭過ぎるという、問題の検討を先に議論するのが議論しやすいかと思います。ここに関しては、いろいろな問題がバイオのテクノロジーの分野に存在していて、特に生殖技術のもとではいろいろな問題点が今後ともあると思います。三点セットという言葉が書いてありますが、そういうふうな問題点は確かに問題になるところだと思います。しかし、この委員会自体としての立場からは、ここまで検討の幅を広げていくのではなく、クローンに関して検討する役割を持っていると思います。それから、あとは幅を広げますと、相当いろいろな課題が入ってまいりますので、結局は検討を先送りせざるを得ない可能性を持っていると思います。今までの委員会での合意としてもはっきりしていますが、人のクローン個体を産み出すことは好ましくないということは、コンセンサスが非常にはっきりと得られており、中間報告でも11ページの終わりのところで木勝島委員の提起された問題点については、取り上げてあり、生命倫理委員会等の場でさらに討論するということで、一応私はおさめさせておいて戴きたいと思いますがよろしいでしょうか。 
(高久委員)
今、岡田委員長が言われたように、ここの場はクローン技術だけに限るのが良いと思います。しかし、クローン技術は生殖医療に関係しますので、ほかの生殖医療技術も同じように立法で禁止すべきである、取り締まるべきであるという意見が出るという波及効果が出てくることを私は非常に気にしています。ここで決めると、現在の日本産科婦人科学会の会告が守られていないという状況があるので、それでは、生殖医療を全部法律で規制しようということになると非常に大きな問題になるものですから、私は規制は必要だと思うのですが、本当に立法までしてするのか、国のガイドラインで十分でないかということを考えて戴きたい。国のガイドラインの場合に、それが守られることをどういうふうにして保証するのかという事が一番大きな問題だと思います。ですから、クローンだけの問題にとどまらない可能性があることを御理解戴きたい。 
(武田委員)
高久委員も言われましたとおり、私もこれが生殖医療全体に影響するという方向にいったんでは困ると思います。確かに、木勝島委員のお話を最初に読ませて戴いたときに、これは系統的なドイツ式の考え方の規制かなというふうに最初思ったんですね。それと、イギリス的な、問題点に対応した現実的対応と、どちらをとるかというと、私はむしろイギリス的なとり方をとった方がいいんじゃなかろうかと思いますね。系統的にやりますと、今のドイツのようになってしまいまして、これは生殖医療の研究そのものを阻害するということが出ておりますので、そういう意味では私は規制というのは、今、クローンならクローンを規制する、次にキメラ、あるいはハイブリッド、ここは通じてやったっていいことなんですね。そういうふうな議論の過程で出てきた問題点を、次にやはり同じような形で対応していくというものの方が現実的ではなかろうかと思います。 
(木勝島委員)
いえ、私の意見はドイツに限るものではありません。国際比較は私の専門分野ですので言わせて戴きますが、イギリスでもいろいろな技術をその当時並べてみて、系統的に検討した結果、生殖技術一般については、武田委員がおっしゃったような研究まで含めてケース・バイ・ケースに国の機関が審査すればよかろう、体外受精と胚を使う研究については1件ずつのケースで考えればいいだろうという結論に達したのです。そういうふうに包括的なリストを作って全部検討した上で、イギリスにおいても、これだけは法律で禁止しておいた方がいいだろうというのが幾つか出ました。それが例えば商業的な代理出産契約であるとか、胚の遺伝的改変及びクローン、キメラ、ハイブリッドでした。日本でも、そういう包括的・系統的検討をどこかでしないといけないというのが私の意見です。 
(武田委員)
結局、その範囲なんですね。私が申し上げたのは、一つの課題に対しての解決ということと、系統的に胚をいじったときにはどうなるんだという、だから、胚はいじっちゃいけないとかいう。ドイツの場合は特別な今までの歴史がありますから、ああいう形になったのかと思いますけど、私が申し上げるのは、今、問題になっている、キメラまでいけるならいっていいんですよ。だけど、この委員会では少なくともクローンでいきましょうということを最初に委員長がそうおっしゃって決めたように思うんですね。だから、その範囲内で検討すべきだと思います。木勝島委員のおっしゃっていることと僕の言っていることはあんまり大きな差がないように思うんですけどね。その次の段階で、同等の審議の対象になるんだということでキメラを取り上げていくことは私は一向に構わないと思いますし、むしろ最後に整理された形の系統性が出てくれば、それに越したことはないというふうに思います。だけど、なかなかそこまでうまくいけるかどうなのか。時間がかかり過ぎるというようなこともありましょうし、現在問題になっている点はどうなのかと。それはどうすべきかということで一応の切りをつけた方が私は議論としては進みやすいと思います。 
(岡田委員長)
今の議論にもありましたが、受精というステップを通らないという特殊性を有する一つのカテゴリーとして人のクローン個体の産生に関する規制の問題を検討するということで、本委員会では理解して戴きたいと思います。 
(木勝島委員)
この委員会の与えられた課題はよく了解しているつもりです。ただ、本日提出させて戴きました私の「意見」の最大の論点は、当小委員会が、人クローン個体の産出を法律で禁止することだけを内容とする単独の法律をつくれという結論を上げることに反対であるということです。人クローン禁止について何らかの措置をとるという点では、この小委員会では合意があると思います。私もそれにあえて反対するものではありません。ただ、わが国でほかにこの種の法律が何もない中にクローン禁止の単独法だけを突然つくるというのは大変異様だし、周りとの整合性が余りにもとれなさ過ぎると思います。しかも高久委員がおっしゃったように、法律を作らなけばだめだということは、今までの学会の自主規制や国の指針というのは、なきに等しいものであるという判断にもつながるわけで、そうした波及効果についてまで報告書の中では触れるべきでしょう。法律で禁止するべきだというだけの結論をつくることに私は反対です。 
その上で、一番下に書きましたように、この委員会が合意に達した、今日出されたペーパーにまとめられたような、生命操作についてどう考えるかという4つばかりの原則を、クローンだけではなく、人の生命・発生操作全般の許される範囲を示す国の指針案として提示する、その中で当然、クローン個体の作製も禁止されるという対案を提案したいと思います。本委員会の答申の選択肢として御検討戴きたいと思います。 
(岡田委員長)
ということは、木勝島委員の2の規制の射程が狭過ぎるということは、先ほど発言のあった本委員会の趣旨を踏まえて、今の討論の中で了解していただけますね。 
(木勝島委員)
何を了解すればよろしいのですか。 
(岡田委員長)
射程が狭過ぎるというコメントに対して、本委員会がクローンを検討する委員会であるということです。 
先に進ませてもらいます。10ページ(6)1の規制の立法化か、それとも、ガイドラインかという問題について議論して戴きたいと思います。ここに関して、先ほど、高久委員からお話がありましたけど、ほかの先生方で御意見はございますでしょうか。 
(勝木委員)
実際には、クローン禁止に関して規制手段の有効性の問題があると思います。私は、先ほどから申されております生殖医療に関しては問いかけ方が幾つかあって、人の病気の治療ならば許されるのかという問いかけ方があると思います。それがもし許されるなら、あらゆる技術は許されるということになるわけですね。一方、その辺に関しましてはクローン技術だけを抜き出してやるには余りに大きな議論ですので、ここでは分けようというのがこの委員会でのコンセンサスだと思います。ですから、クローン技術だけを取り出したときに、それが本当に有効に規制できる方法は何かを具体的に考えた方がいいように思います。その際に、先ほど幾つかお話が出ていますけれども、私は、ガイドラインのようなもので、実際にやる人がケース・バイ・ケース、あるいはステップ・バイ・ステップに、具体的に研究をやっているのかやってないのかをチェックできる方が有効ではないかと思います。法律ということになりますと、なかなかチェックする機構が難しかったり、あるいは法ができてしまいますと、網を抜けようという、そういう悪知恵の働く人が出てくるという感じもしますので、むしろある程度ガイドライン式にやった方が実効があるんじゃないかという意味でガイドラインの方がいいんじゃないかという意見を持っております。 
(武田委員)
つい先日、日本産科婦人科学会で常務理事会がございまして、そこで、実はアメリカの大学と我々との間の関係は非常に密接でございまして、向こうからも来ておりますし、こちらからも行っているんですが、そこで今年、二人、代表が参りました。規制の話があったそうでございまして、ゼネラルローでやっているのかどうかよくわかりませんでしたけれども、生殖医療でバイオレーションがあった場合に、どういう罰則があるかという点ですが、その基本は、産婦人科医のスペシャリティーをサスペンディングするのだと。だから、産婦人科医ができないということだそうです。これは多分、連邦レベルじゃないんだろうと思うんですけどね。各州レベルの話だろうと思うんですが、それはともかく、サスペンジョンがあるんだそうです。その決定の前に学会で査問委員会があって、査問委員会で検討したものを公表して、それから後、もう一度同じようなことがあれば、二段構えではありますけれども、いずれにしても、そういう罰則を持っているんですね。 
そうしますと、これは法律でなくても、ガイドラインでその辺のところができないだろうかということを、この間、私、町野委員に医道審議会のことをお伺いしたのはそういう意味なんでして、その辺を一つの基準にいたしますと、上から2番目に書いてありますガイドラインの規制というのが妥当ではなかろうかと思います。 
(青木委員)
私は先ほど高久委員が述べた意見に大体近いんですけど、現在、日本の母体保護法等を考慮してみますと、クローンを取り上げて法規制ということは、波及効果が余りに大きくなり過ぎて収拾がつかなくなる可能性が出てくるのではないかと思います。今まで私たち生命科学の方では、これまでにガイドラインとかいうようなもので経験を積んできているわけでございます。ですから、それにのっとって、まずはガイドラインの方から検討していって、本当にこれではできないんだということであれば、私は法規制に入っていいかと思います。またもう一方、全体を世界的に見ても、日本でもしこれだけを法規制したとしても、日本の持っている母体保護法や現在の中絶、そういう問題を考えると、特に人口問題なんかでも、日本政府のスタンスは、世界的にかなり批判を持たれていますので問題です。そういうところで私は法的な規制をつくるということ自体はちょっと無理があるのではないか。むしろ私は高久委員の意見に近いところで、まずはガイドラインの方からいくということ。これも今までの経験があるわけですから、それにのっとった検討ということをやってよろしいんじゃないかと思っております。 
(町野委員)
問題は二つありまして、一つは、規制の有効性の問題です。本当にガイドラインで大丈夫か。まず、アウトサイダーが日本にやってきたときに、一体これで規制が及ぶのだろうかということ、それから、ガイドラインに違反したとして、そのときのサンクションが緩過ぎるんではないか、ということです。ガイドラインに違反したとしても、要するに国の側の方針に違反したというだけのことですから、やみ米の販売と同じだという発想を普通の人は持つだろうと思いますね。ですから、それがサンクションとして機能するか、ということです。 
もう一つは、仮にこれで有効であったとしても、それだけで国際的に日本の責務を果たしたと評価されるかということです。国の評判は考慮しないというのも一つの考え方ですが、もしそうでないというなら、この点は相当に慎重に考慮しなければならないと思います。このような点を考慮された上で、ガイドラインで足りるというのか、これは今の情勢では相当度胸がいるだろうと私は思いますけれども、慎重に御検討なさった方がいいだろうと思います。 
(木勝島委員)
国際協調という点について一言、私の専門ですので述べさせて戴きます。今日出しました「意見」の1の最後にも書きましたけれども、国際的にみて、人クローン禁止の法律を持つ国は大変少数です。イギリス、ドイツ、デンマークぐらいしかありません。特に人クローンを禁止する単独の法律を持つ国というのはいまだ一つもありません。欧州評議会の加盟国40か国の中で人クローン禁止の議定書に署名したのは22か国だけです。日本では国の指針を作って対応しているということでも十分かと思います。国際協調イコール立法ではありません。法律を持っている国の方がごく少ないという事実は御認識戴きたいと思います。 
(武田委員)
町野委員のガイドラインに対することなんですが、先ほど高久委員が産婦人科学会の会告は余り守れていないんじゃないかとおっしゃいました。そういうことではございません。一般の人ではちゃんと守られているんですね。ただ、バイオレーションがあった場合にどうなるのかということが非常に大きな問題で、少なくとも学会の会告よりもガイドラインはもう少し広い全体の視野の中で決まる、あるいは判断されることでございましょうから、後からの罰則がどうあろうと、それは次の問題でございまして、その次に考えるべきことで、実際は法律的な、本当に強制力のある規制なのか、あるいは行政指導の範囲なのか、あるいは学会の自主規制なのか、こういう3つの段階で僕は考えるべきだと思うんですね。そういう段階で見回すと、現状ではガイドラインというのが最も妥当な線ではないかというふうに申し上げておきます。 
(高久委員)
私の意見は先ほど青木委員がおっしゃったとおりでして、このクローン技術がほかに波及しないなら、ここだけなら立法でもいいと思うのですが、波及効果があって、生殖医療全体になりますと、これを法律で規制となると大問題になります。ですから、慎重にお考え戴きたい。 
遺伝子治療はガイドラインだけでコントロールしています。遺伝子治療はベクターを作るなどクローンよりもっとややこしいですよね。ですから、あの程度のものだとガイドラインで規制できるけれど、クローンがガイドラインで規制できるかどうかということについては私も自信はありません。繰り返しますけれども、波及効果を考えると、現在の段階ではガイドラインの方が望ましいと思っています。 
それから、武田委員のおっしゃるとおりなんですが、例えば体外受精をある医療法人がやるときには、手を挙げれば良いのですね。その施設に生命倫理委員会をつくる必要がある。 
(武田委員)
ちょっと違います。 
(永井委員)
今の問題は、10ページの「規制の時限」というところで問題を処理できるのではないでしょうか。ガイドラインを無期限にやるわけではなく、実施して問題が生ずれば、それに対して適切かつ柔軟に対応していくわけでしょう。何か具体的にそういう可能性が出てきた場合、それに対して、適切な対応をとるという意味で10ページの規制の時限を考えてあるものとすれば、それで対応できる。規制の時限の根底にはそういう考えがあるものと思います。 
(町野委員)
私も必ずしもガイドラインではだめだという意見ではありませんが、これだけ、人間の尊厳に反するとかなんとかいって規制の必要性を訴えておきながら、ガイドラインで足りるというのは何か奇妙な感じがします。つまり、ガイドラインというのは、やってもいいけれどもこのような手続でやりなさい。ここから先には行ってはいけないよという、基本的には許容するけれども、その行為のパイを規制するものですよね。それがガイドラインのそもそもの考え方ですから、人のクローンを作ってはいけないということがはっきりしている今のような場合に、ガイドラインというのは少し奇妙な感じがする。それほど人の尊厳を害するけしからん行為だけれども、ガイドラインに従ってやればいいというのはおかしいわけで、恐らく禁止はするわけですね。 
第二の問題として、先ほどの問題と関係しますが、波及効果というのが重要な論点だと思います。そのために、人クローンを作るということが、他の生命医療技術、或いは胚操作の一つ、技術的な問題とすると、例えば胚の保護という観点でドイツのように一本になってしまうということなんです。そうではなくて、コピー人間をたくさん作ることが問題なんだということですと、まずその観点ではこれで規制できる。しかし、この議論というのは、他の所に直ちに及ぶものではないと。もちろんそちらも議論しなければいけないが、そちらは別の問題だということになって、波及効果についてはまたさらに先延ばしということになるということだろうと思います。 
したがって、規制の根拠の問題と、どのような規制がいいかという問題、つまり、人間の尊厳を害するけしからん行為だけれども、ガイドラインに従えばいいと言えるかどうか、という問題に関係しているだろうと思います。 
(武田委員)
ガイドラインと申し上げたのは、人クローニングだけではないんですね。クローニングに対するガイドラインであって、その中の人クローンは禁止しようというものなんです。だから、今、人クローンだけでガイドラインが成り立たないということではなくて、全体のクローニングの中での一つの範疇として人クローニングは禁止しようというふうに私は理解しているんですけれども。 
(岡田委員長)
いろいろな御意見が出ましたが、まだ時間がありますので、議論を続けて戴きたいと思います。私自身の考え方としては、町野委員の言われたような感じと実は思っています。というのは、医療技術という形の範疇のものとしては考えていないと私は思っています。そうではなくて、研究とかという土俵とは違う、もっと基本的な問題点との関係の中で対応せねばならぬものであって、医療というのは、その中の一つであるというふうなことで思っています。そういう意味では、ここへずっと書き連ねてきたものというのが受精というステップを踏まないという一つの非常にはっきりしたカテゴリーを入れてあるということでしてね。ですから、そういう意味での問題では、今、町野委員のおっしゃったような非常にはっきりした境界線というのが浮き彫りにはされているのだと思っています。 
(木勝島委員)
波及効果はないとか、先送りになるという議論ですが、先の町野委員のお話の中では合理的な説得性がなかったように思います。高久委員や青木委員がおっしゃることの方が、聞いていて、そうだなと思います。岡田委員長のおっしゃることは、前回も伺って、何でもありの日本ではないのだ、やってはいけないということをきちんと日本として示したいというお考えは非常によくわかりますし、大変共感いたします。この委員会が、その最初のステップになることを私も願っております。しかし、それではどういう行為として人クローニングを考えるかということで、研究でも医療でもないというのでしたら、では何なのでしょうか。私はこれだけを単独の法律として禁止するというのは、どう見ても、無理だと思います。「意見」に幾つか書きました論拠からいって、そこまで踏み切れるのだろうかとやはり疑問に思います。この委員会が国全体としての政策課題を視野に入れずに、クローンしか聞かれていないからそれしか答えない、と問題を投げ出してしまうのは私は無責任であると思います。 
(高久委員)
私が関係している厚生省の委員会では、生殖医療を法律で規制すべきだという議論と、法律にして国会を通すとなると非常に大変だ、なるべく法律でやりたくないという議論と両方に意見が分かれています。法律家の方々は立法にすべきだとおっしゃる方が多いのですが。そのほかの委員の方は、法律でやるとあまりうまくいかないのではないかという御意見です。確かに岡田委員長がおっしゃるように、非常に特殊であるし、人の尊厳に関係することですが、クローンを立法化すると波及効果があることも事実であると思います。 
(岡田委員長)
ガイドラインと法律とがどう違うのかということを、町野委員、質問形式でお願いします。例えば外国のグループが日本へ来てやるぞといってやったときには、ガイドラインでも抑えられるのでしょうか。 
(町野委員)
ガイドラインの意味は今ひとつ分からないところがあるのですが、もし遺伝子治療に関するもののようなものだとするならば、文部省に申し立てるとかいうこともあるわけです。おそらくそれは外国の人は守らないでしょうね。日本の医療施設が違反した、何も許可を受けずにやったというときは、それ相応のサンクションというのが一応あり得るわけですが、国外の機関が日本に来てやったときはそれはないでしょう。その限りでは及ばないということだろうと思います。 
(高久委員)
国外の人でも、結局は、日本国内の医療機関を利用しないとできません。直接にはできない。ですから、国外の資本がやって来たとしても、実際にやるのは日本の病院で日本のドクターがやることになります。それから、遺伝子治療のガイドラインの中に例えば生殖細胞への遺伝子の導入は行わない。それは禁止と決まっていて、必ずしも全部やっていいよということではありません。 
(岡田委員長)
そうすると、高久委員、医療機関と完全に無関係に日本に来たグループが、子供をつくってしまったというときに、これはどういう形態の処罰対象が日本にはあり得ますか。つくってしまったと、現実的に。病院と関係なしに。それは可能性があるわけです。 
(高久委員)
医療法人の人が、先日報道があったアメリカのDr.シードみたいなことをやる。日本で、自分で勝手に行った場合ですね。今の日本の制度ですと、医道審議会にかかるかもしれないですね。 
(岡田委員長)
どうしますか、厚生省としては。 
(武田委員)
ある国で今、人口抑制政策で非常に出生数を制限している国がありますね。そこでは実は未熟児出生なんていうのはほとんどゼロなんですね。未熟児が産まれない。もう一つ、先天異常児、奇形児が産まれないんですね。例えば国際会議、そこで開かれますと、先天異常の講演が案外多いんですね。外国人が来まして、胎児をスクリーニングして、サンプルを持ち帰るということが現実にあるわけなんですね。これは昔の笑い話ですが、日本は人工妊娠中絶が認められておりましたが、アメリカではその当時、認められておりませんで、第2級殺人罪の適用ということを言われたことがあるんですね。そうすると、ニューヨークの沖にヨットを借りて出まして、アメリカの領海外に行って、あのときは15海里ですから、すぐに出られるわけですね。そこで人工妊娠中絶をしまして、3,000ドルでやりとりして大もうけする。そんな話があったぐらいなんですね。これは笑い話としまして、ともかく、ある者がお金になる、もうけになるということが残っておりますと、いうふうなことでの法の目をくぐるということがあり得ると思います。私は法規制まで日本はどうかというのは別問題として、何か公的な規制がないと非常に難しいんじゃなかろうかというふうには思います。 
(木勝島委員)
話が非常に仮想的な話になっていますが、一応ディベートの対象として受け入れますけれども、先ほど申し上げましたように、公的規制の空白地域というのはこの世界に山のようにあり、むしろそちらの方が地球全体から見れば多いのです。その中で日本が国の指針でもって日本の中では人のクローンの作製は許さないという国家意思を表明すれば、だれがわざわざそんな国に来てやるでしょうか。そういう国家意思すら表明してない国がたくさんあるのですから、だれが日本に来てわざわざやるでしょうか。そういう議論を持ち出すこと自体がちょっとためにする議論のような気がいたします。 
(岡田委員長)
大体、意見は出尽くしたみたいですね。 
(勝木委員)
先ほど少し実効性の問題を申し上げましたけれども、ちょっとオーバーな言い方しますと、私はこの実験が自分でできると思うんです。そういう人間から見ますと、ガイドラインの方がはるかに身近に感ずるものでして、法律ですと抜け駆けができそうな気がするような、ちょっと感覚的な表現で申し訳ございませんが。そういう研究なり、あるいはそういうことを実行するというのは、具体的な目的があるんですね。いかなる場合も。それが自分たちのコミュニティーの中で認められるかどうかというのが第一の関心事ですから、ガイドラインですと意識的にチェックされるという具体的な感じがいたします。例えば組み換えDNAの場合もそうですし、遺伝子治療の場合もそうなんですが、ある具体的な機関の中で一応チェックするということが働くものですから、私はガイドラインの方がはるかに身近に規制できるんじゃないかという感じがいたします。これは外国から来た場合とか、そういうことに全く答えることにはなりませんけれども、どうやってチェックしていくかということに、実効性のことを考えれば、むしろ具体的に日本国内でどういうふうにこれを根底として禁止する方向だということが実行されるかという意味では、ガイドラインが適していると思います。 
(森島委員)
遅れて参りましたので、必ずしも議論をフォローアップして申し上げるわけではありませんが、私は従来、いろいろなところで法規制をするかどうかという議論をしてまいりました。特に専門家、医学関係の方が入っておられる中で議論したことがあります。 
その議論から、法というものに対する恐怖感、あるいは嫌悪感というものが自然科学者に非常に多いと感じられます。法が入ってくると研究の自由が侵されるという固定観念が専門家の方にあると思います。 
今の勝木委員の御議論は、法規制なのかガイドラインなのかという問題の立て方自身がおかしいわけであります。ガイドラインで自制といいましょうか、自分たち専門家集団で決めたガイドラインでやろうということ自身は、法があろうとなかろうと少しも構わないわけです。しかし、ガイドラインの中の一部のものについて国家による制裁を含めた法規制が必要かどうかというのは問題でありまして、あれかこれかの議論ではなくて、そのうちのどこを法規制でやるかということです。 
クローンにつきましては、一つは、専門家集団がどう考えているかではなくて、国民の側が専門家集団に対してどれだけ信頼を置いているかということにもかかわってくるわけです。今、カルテの開示という議論が厚生省でありまして、お医者さんはガイドラインでいいのだということをおっしゃるわけです。しかし、国民の側が、ガイドラインでやれば間違いがないと考えているのでしょうか。そうではなくて、何らかの担保が欲しいと考えているわけで、その判断だと思います。法規制で何から何までできません。法規制というのはある意味で、一たん決めて、これを変えていくことは幾らでもできるわけですが、ガイドラインと比べますと硬直化しているわけですから、現実の行動の規範としてはガイドラインの方が身近であり、かつ有効であろうと思います。しかし、問題は、専門家集団を国家がどこまで最終的なところでコントロールするかということで、私は今の御議論を伺っていないので何とも申し上げられませんが、例えばここに書いてあります人個体の生産の禁止というのは、そこはどうしても守らなければならないものなのかどうかと。そして、それに対して社会は専門家集団に任せておけば人個体の生産などということはしないだろうということで、専門家に任せておけばいいと考えているのか、それとも、やるとは考えないまでも、やらないとも言えない。やるかもしれないと思うのだと。そこで行政、あるいは国家というものがどこまで出ていくかという問題ですので、今、私が入ってきてからの御議論は、どうも議論の立て方が少しおかしいかなと思うのです。 
外国から来るかどうかという問題は、それは実際に処罰できるかどうかという問題ですが、それは外国でなくても、日本でもガイドラインなら処罰はできないわけです。ガイドラインでどれだけ縛られるかというのは、これは個人の問題です。したがって、私は御議論戴くとすれば、法をもってしてでもこの問題を規制しなければいけないのか、ガイドラインがあれば十分にそれは社会の期待にこたえられるだけの規範と、あるいは基準となり得るのかどうかという、そこを御議論戴く方がいいのではないかと思います。 
(勝木委員)
私は別に法律が縛るものだというふうには思いません。むしろ法律というのは自然の法則ではなく、人為的なものですから、実際に行う集団にはあんまり影響を及ぼさないもののような気がいたします。研究に実効性があるというのはそういう意味です。むしろガイドラインで、先ほど青木委員、あるいは高久委員やほかの方もおっしゃっていますが、法律をきちんと決めると、改正するにしても何にしても、面倒な手続が要りますので、ガイドラインから出発して、どうしてもそれが必要だと。バイオレーションするのに抜け道を探すような事態が発生したときに作っても遅くないと思います。実効があるのは、法律ではなくて、ガイドラインであろうと申し上げたいのです。 
(木勝島委員)
森島委員は遅れて来られたので、多分誤解されているところがあるのかなと思ったんですが、ガイドラインというのは学会による自主ガイドラインではありません。国が制定する指針という意味です。 
(森島委員)
同じです。 
(木勝島委員)
国による指針を設けることで国家の意思を示す程度で済ませた方がいいのではないか、立法するほどの根拠はないのではないかという議論を森島委員がいらっしゃる前にやっていたのです。 
(森島委員)
国家がやるときに、ガイドラインで示してきた、例えば行政指導がいけないのだというのは今まで言われてきたわけです。今までは国家が権威を持ってガイドライン、これは先程申し上げましたように専門家集団がおつくりなったものを採用するにしても、私は、ガイドラインで国家意志が示せると思ったら大間違いでして、せいぜい、例えばアメリカでは、ガイドラインに外れたら金をやらないよという、そういう意志は表明できるかもしれません。しかし、国家がある政策を選択するのに、それをガイドラインでやるのは、そもそも私は日本は間違っていたとは言いませんが、必ずしも適切でなかったということを申し上げたわけです。 
(木勝島委員)
それでは、森島委員の御意見は、日本は生殖細胞の遺伝子治療をやっていい国であるということですね。これは国の指針で禁止されておりますが。 
(森島委員)
いや、やってもいい、そういう議論をしているのでなくて、やろうと思えばできるということを申し上げているのです。そして、国民が指針があれば自分たちは完全に安全と考えているかどうかということをまず議論をすべきではないか。先程おっしゃいましたが、法律がカバーしてないということは幾らもあるわけですから、そのことはカバーしてないものは何やってもいいのだということを意味しているわけではありません。先程から申し上げているように、じゃあ、日本ではやっていいんですねという議論の立て方はおかしいのです。やろうと思ったら、やっても制裁は受けないということを申し上げているわけです。 
(町野委員)
要するに、たたき台である中間報告の案は、ある場合には刑罰を含む法令によって、それ以外はガイドラインという、2段構えになっているわけですが、この考え方を是認するかどうかの問題だろうと思います。伺っていますと、武田委員は基本的にこの考え方で、他の方については一律にガイドラインといわれるのかどうか私はちょっとわからないですが、木勝島委員はそのようですね。そこを御確認戴くということを一つお願いしたいと思います。 
それからもう一つは、有効性の問題と、これだけで足りるか、という問題です。森島委員がおっしゃったことと、私はその点は同じなんですが、ガイドラインというのは行政庁による指導なんですね。行政が指導するということが民意を反映していると見るのはおそらく日本人だけで、多くの国は違うだろうと思います。法律というのは国会で決めるから、民意を反映したものだと、そういう建前ですから、国際的な世論というのは、法令でなくてはだめだということだと思うのです。ですから、行政がやっているから国の意思だとは少なくとも正面からは言えないと、そういう考えもあるといえるだけで、その点が大きな違いだと思います。 
(岡田委員長)
ありがとうございました。 
規制に関して、ガイドライン的な規制と法規制についていろいろな御意見が出ていますが、それに対してのお立場といいましょうか、各委員のお考えをはっきりとさせて戴けないでしょうか。武田委員はいかがですか。 
(武田委員)
先ほど町野委員、それから委員長がおっしゃいましたように、私の考え方は、全体としてのガイドライン、これは森島委員がおっしゃったように実効的な罰則を伴うとは限らないと思いますけれども、その一部に対しては、行政罰であれ何であれ、法的規制が必要ではなかろうかと。その範囲は、例えば懲役とかいうレベルの話ではないんで、例えば医師法の適用を準用できるのかできないのかとか、あとは技術的な問題になると思いますけど、ともかくある一定の範囲は禁止すべきであるというふうな考え方でございます。 
(高久委員)
私は何回も言いますように、他の生殖医療に対する波及効果を非常に心配していまして、罰則を伴う立法ということは基本的には賛成できません。国のガイドラインによる規制で、本当に有効に規制できるかどうかということを検討して戴けると非常にありがたいと思っております。 
(菅野(晴)委員)
私はガイドラインがいいと思っておりましたというか、今でも思っていますけれども、ただ、遺伝子等のこれまでのガイドラインは、無制限にやってはいけませんよ、こういう条件ならば、やってもいいという許可をするための、あるハードルを設けたわけですね。今回のは、やってはいけないというものであるので、それがガイドラインという形でうまくなじむのかどうか疑問であります。といっても、法律で、おまわりさんなんかがやってきて、「おまえやったろう」なんて言って取り締まってくるというのは、これまた非常に具合いが悪いと思いますので、法律にはしたくない。 
(勝木委員)
基本的には菅野委員と同じ気持ちでありますけれども、実際に先ほどから何遍も申しますように、疑義もあるようですが、ガイドラインの方がはるかに実効力があるように私は思います。 
問題は、もし禁止ということになりますと、何人かの方から出ていますが、生殖医療そのものに対して反対意見を持っている人、私もそうなんですが、その観点から見ますと、体外受精とか顕微受精とかいうことまで含めて禁止したらどうかという議論があると思います。それをここで持ち出すのは大変混乱を招きますので、あえて申しませんけれども、これが取っかかりになって、一挙にそこの議論、それも必要であればやった方がいいという人もいらっしゃるかもしれませんが、私はちょっと躊躇するものです。それが大いに出てくるような状況がありますので、ここでは法規制というのは、あえて否定する必要はないですが、ガイドラインで行ってというぐらいでよろしいんじゃないかと思います。 
(青木委員)
私は先ほど述べましたけれども、高久委員に近い意見でありまして、波及効果があまりに大き過ぎるんではないかという心配です。これが先行して法規制をするということは、さらに議論を泥沼に持ち込む可能性が高いと思います。そういうことも考えまして、また、現在の現状では、菅野委員が申しましたけれども、質的に今までのガイドラインとは違いますけれども、研究者の立場、あるいはこれまでの生命科学の研究者の立場を見ていくと、やはりガイドラインでいくところまでいけるんではないか、そういうふうに考えております。もし法規制をこれだけにするということ、武田委員の意見はちょっと私は理解しがたいところがあるんですけれども、これだけを罰則というようなことでやっていくと、むしろ世界的に見ても、日本のスタンスというのは矛盾を生むようになるんじゃないかと私は思うんですね。法規制をこれだけにつくるということは。そういう気がしております。 
(永井委員)
私は結論から言いますと、当面ガイドラインでどうかということです。ただし、一定の期間経過した時点で再検討を行うということを含めて。具体的な形としては、人個体の作出を禁止するということについてはだれも異議はないものと思います。先ほど菅野委員も言われましたが、この場合のガイドラインというのは、今までの遺伝子治療とか、そういった従来のガイドラインとちょっと違う性質のものでしょうから、その点をきちんとわかりやすく明示するということを前提にしてのガイドラインということです。ただ、先ほど森島委員、町野委員の発言にもありますが、国民のそれに対するレスポンスをくみ上げて、それに適格かつオープンに対応した上で規制の内容をフィックスしていくということがガイドラインをつくる上で必要です。 
(木勝島委員)
私は先ほどから申し上げておりますように、小委員会の結論として人クローンだけを禁止する特別の法律をつくることにはあくまで反対いたします。私は、今日の「中間報告(案)」の11ページの4にありますように、人クローンだけではなく、キメラ、ハイブリッド、及びその他の生殖医療技術の取扱い全般の検討のセットの中で最終結論を出すべきだと思います。そういう提言を生命倫理委員会に上げるべきであると考えます。ですから、11の4の下の方をそのままこの委員会の結論としてもいいのではないかというのが私の意見です。 
それから、勝木委員が法律よりも国のガイドラインの方が実効的であるとおっしゃいました。私は実験研究者ではありません。実験に関して何の利害もない社会科学者として、政策研究者として、法律よりガイドラインの方が実効的であるという現場の感覚を第三者からみても正当なものとして支持いたします。 
(町野委員)
議論はほぼ出尽くしたという感じがしますけれど、最後にいわれた木勝島委員の意見については私はそうは思わなのです。つまり、実効性というのは幻想かもしれないわけですよね。それは事件が起こってみなければ分からない。医療現場の不祥事というのは頻繁にあるわけですから、おそらく国民が納得するかどうかだと思うのです。大丈夫だと思っているのはおそらく医療の人たちだけではないかという感じがします。もう少しシビアに考えた方がいいだろうと思います。 
それから、法律による規制をするかどうかというのは一つの決断ですが、規制するということになると、何度もここで申し上げておりますように、日本としては今までと相当異なる方向をとったということになるわけです。医療現場には任せない、国が介入する、と。しかも、今までは処罰しなかったようなものも処罰することにするというんですから、非常に大きな賭けだと思います。それをするかどうか、今国際的な関係や、医療を取り巻く様々な状況で、そういうふうになっているということだろうと思うのです。 
ですから、そこに踏み切ると決断するか、私はそろそろそういう時期かなという感じもしますが、今踏み切らないで、これまでの日本のようなやり方でやる、医療にお任せして、危ないと思ったら行政指導でやる、というやり方をとるかということです。私はどちらがいいかということについて、実はあまり明確な考えを持っているわけではないのですが、日本のいろいろな立法、国外からの圧力の下での立法が幾つか積み重ねている状況を見ますと、どうもたたき台で出ている辺りかなという感じがしています。 
(森島委員)
私は法律家ですが、何でもかんでも法律をつくれということを申し上げているわけではありません。それから、ガイドラインということについても、私は実効性、エトセトラ、それも今までの御議論は認めますが、問題は、ガイドラインにせよ、法律にせよ、国の意志、あるいは専門集団の規範を示すやり方として、国民がどう思うかということだと思います。そして、今、医療だけではなくて、これは環境問題などもそうなのですが、問われているのは、まさにおれに任せておけと言ってやっていたことがうまくいかなかった、あるいはマイナスを生み出したという、それはある意味では国民が過剰に反応しているというところがありますが、そして、今、行政に求められているのは、通達行政とか、あるいは行政指導というのではいけないんだと。国会もどれぐらい機能しているかわかりませんが、国会の議論を経て、透明性の高いことを国民なり、あるいは専門家なりに要求すべきだと思います。 
そういう流れの中で、じゃあ、従来日本でやってきたことでいいかどうかということを考えるわけであります。私は高久委員を非常に尊敬申し上げておりますので、高久委員がこれでうまくいくとお考えでしたら、私はそれでもいいと思うのです。必ずしも素人の人がそう受け取っているかどうかという、その辺の判断ですので、私は法規制に必ずすべきだということを最初から主張しているのではありません。世の中の流れの中でこの問題をどう考えるかということです。ですから、ある意味では日本のように行政が金でコントロールするというのは別としまして、日本のように役所が言ったら、それで一つの国の行政の在り方が示されたというやり方は、むしろヨーロッパやアメリカではほとんど異質なのではないかというふうに思っております。 
繰り返して申しますが、私は何でもかんでも法規制をしろということを申し上げているわけではありません。 
(事務局)
今、各先生方の御意見を聞かせて戴きまして、とりあえずこの時点をもちましての一つの整理の仕方ということでございますけれども、どうも各先生方の御意見といたしまして、法律による規制、国によるガイドライン、それから、いわゆる一種学会等、それから、一つの機関とか、そういった自主規制等の各段階が書いてあるわけでございますが、少なくとも国によるガイドラインの規制以上のことは、どうも皆さん要りそうだねというところはコンセンサスがありそうですね。それ以上のところで具体的にどういう規制といいましょうか、そういうことが起こらないように手当を打っていくのかということにつきましては、後から御紹介申し上げようかと思っておったんでございますが、各専門家のこれから先、さらに一つのものをまとめていただいた後、それをもってして多くの方の意見をさらに聞いてみたいというふうに思っておるわけでございまして、いわゆる各専門家ないし一般の方々はそういったフィードバックの中で、その辺をさらに議論を深めていくといいましょうか、そういう余地を残していくといいましょうか、その幅でですね。そういうふうなことでおまとめ戴くというのはいかがでございましょうか。 
(岡田委員長)
今の事務局のお話のような形でまとめていくのはどうかと思っています。本日の御意見を踏まえて、案の中に入っている規制の形態に関する記述については、国のガイドライン以上の規制が適切というような表現にして、一応問題点が整理されたという形で了解していただければ、あと、お手元にあります資料6−2の機関等に対して、意見募集を行っていく作業に移っていきたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。では、そういうことでよろしくお願いいたします。ありがとうございました。 
(木勝島委員)
最初に資料の御説明をいただいたときに言うのを忘れまして大変失礼いたしました。今日資料6−4として手元にお配りいただきました前回の議事録ですが、これはまだチェックをして直したものをお戻ししていませんので、今日どうしてお配りになられたのでしょうか。これは今週の金曜日までに発言内容を修文して戻すことになっておりますので、その直しの入ったものでお配り戴きたかったのですけれども。 
(事務局)
申し訳ございません。手違いでございますので、6−4については回収させて戴きます。 
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。本日はこれで終わらせて戴きたいと思いますが、事務局から次回の予定について連絡してくださいませんか。 
(事務局)
資料6−2のあたりの議論は、時間も迫っておりますが、どうでしょうか。 
(岡田委員長)
核移植の説明も含めてこちらで考えさせて戴くことにしましょうか。 
(事務局)
わかりました。そういたしますと、今後、意見募集を行うというプロセスを実際に行うことになり、数カ月程度かかると思いますので、次回は、9月あたりに、その結果がある程度出てまいりました時点で日程調整させて戴きまして、引き続き次回の議論をお願いしたいと思います。 
(岡田委員長)
そういうことにいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。