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第3回科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会議事要旨


1.日時    平成10年3月30日(月)14:00〜16:20

2.場所    銀座ラフィナート(銀座・京橋会館)「汐風の間」

3.出席者

(委 員)
岡田委員長、位田委員、勝木委員、菅野(覚)委員、菅野(晴)委員、 高久委員、武田委員、永井委員、木勝(ぬで)島委員、町野委員、三上委員
(事務局)
科学技術庁 研究開発局長
ライフサイエンス課長他

4.議題

(1)クローン問題の論点について
(2)その他

5.配付資料

資料3−1  クローン技術の可能性と規制の在り方に関する論点整理メモ
資料3−2  第2回クローン小委員会議事要旨(案)

6.議事

議題:クローン問題の論点について

 (岡田委員長)

それでは、時間が参りましたので、始めさせていただきます。お忙しいところどうもありがとうございます。頻回に開かせていただきまして、非常に恐縮しておりますが、よろしくどうぞお願いいたします。
それでは、まず事務局のほうから配布資料の確認をお願いします。
(事務局)
本日は議事次第を除きまして、配布資料は2つでございます。資料3−1がクローン技術の可能性と規制のあり方に関する論点整理メモでございます。資料3−2が前回議事要旨(案)でございます。以上2つでございますが、もしお手元にございませんでしたら、早速お配りさせていただきます。
以上でございます。
(岡田委員長)
よろしゅうございますでしょうか。本日は、今まで2回にわたりましてご議論いただきました内容を、私のほうで論点整理ということをさせていただいたメモがお配りしてあることになります。このメモをもとにして、きょうは討議していただきたいということであります。このメモは小委員会における議論の促進を図ろうというもので、私のほうでこれまでの委員会での議論の大筋を踏まえまして、論点を大胆に集約いたしました。したがって、本メモの内容といいますのは、この会議としての共通認識を示しているものではないわけでありまして、まだこの委員会におきましては、多くの論点に関して多様な見解が出されておりまして、委員の方々の中で見解が分かれている場合もあろうかと実は思っております。
しかし、本メモでは議論の焦点を明確化するということのために、あえていずれか一方の見解というもののみを記述した場合もあるということでございまして、その点、ご了承をお願いいたします。以上の前提をご理解いただきました上で議論をきょうは進めていただきたいと思うわけであります。
なお、このメモは、1がクローン技術の可能性、2が規制に関する検討、3が社会の合意形成という格好で3つに分かれておりますけれども、その中の1のクローン技術の可能性に関する評価ということにつきましては、既に前回ご議論をいただいておりまして、その内容についてもおおむね各委員のご了解が得られていると思っております。ということで、本日は特に2番目の項目であります規制に関する討論にウェイトが置けたら非常にありがたいと思っているところであります。
まず、配布資料の1から始めまして、クローン技術の可能性と規制のあり方に関する整理メモの第1項、クローン技術の可能性に関する評価というものの内容のまとめに関しまして、事務局のほうから簡単にご説明をまずお願いしたいと思います。
(事務局)
それでは、前回、クローン技術の有用性、可能性に関しまして、三上先生、武田先生、勝木先生からそれぞれお話をいただきまして、議論をいただきましたところでございますが、委員長からの大筋の指示に基づきまして、事務局にてまとめた資料がこの1、クローン技術の可能性に関する評価の部分でございます。要点だけ申し上げます。
大きく人の細胞を用いる場合と、人以外の細胞を用いる場合とに分けてございます。まず、人以外の細胞を用いる場合でございますが、その最初の●のところに書いてありますように、体細胞核移植による高等動物のクローン個体作製といったことの成功に基づきまして、今後、すぐれた品質の畜産動物、特殊なタンパク性医薬品を大量に産生する動物、あるいは均一な遺伝形質を有する医学実験用の動物等々、1度このすぐれた形質を持つ動物が産生されれば、あとはクローン個体によりそれをたくさん増殖することができるといったような趣旨で、産業や研究の両面において、非常に高い有用性を持つというふうに基本的には評価されているものと思います。
そういった応用の面のほかに、生殖細胞と同様な状態にリセットされるという現象自体の解明を進めると、細胞周期でありますとか、分裂同調でありますとか、染色体構築の分子機構でありますとか、さまざまな基礎科学的生物学の推進にとっても非常に寄与するところが大であろうということで、基本的には人以外の細胞を用いる場合におきましては、非常に大きな有用性を持つのではないかというように評価されるというのが第1点目のポイントでございます。
このうち、前回も臓器の話について若干出ておりました。人型の表面抗原を有する臓器を持つ動物、これをクローン技術によって多数産み出して、その産み出したクローン動物から人型の臓器を得て、人に移植するという手法が考えられますが、このクローン動物の産生の段階自体につきましては、おそらく近い将来、技術的に可能になるであろう、しかしながら、その臓器を取って人へ移植するという段階につきましては、まだまだ安全性の確保の観点から、現実的な有用性を考慮するという状況にはないのではないかという評価であるかと思います。ただ、この技術につきましては、将来の可能性について、引き続き十分にフォローしていくということが必要だというようなところだったかと思います。
もう1つのカテゴリー、人の細胞を用いる場合でございますが、このクローン技術、これは核移植にしろ、胚分割にしろ、これを人の体細胞などに適用して人の個体を産み出す、それが最初の●になっております。この人個体の中には、そこに括弧の中に書いてありますように、非常に発生初期段階の胚といったものも含めてここでは考えております。こういったことにつきましては、全く理論的に考えますと、いろいろな人の発生過程におけるゲノムの修飾やその生物学的影響、寿命や形態の決定要因等、種々の科学的研究に役に立つということだったかと思います。
あるいはこのミトコンドリア異常症の母親の子供への疾患遺伝の予防や、不妊治療の応用といった医学的応用に役立つという、理論的にはそういうことが考えられるということなんですが、科学的研究につきましては、人間の尊厳といった後で出てくる問題があることに加えまして、人以外の動物細胞を使えば、基本的には必要な研究は十分に実行可能であるということで、人の細胞を用いてこういった科学的研究を行う必然性に乏しいということで、あえて実施するだけの有用性はないのではないか。これが1点でございます。
また、医学的応用につきましても、人の個体を産み出すといったようなことにつきましては、当然この人間の尊厳との関係、またこれは後で規制のところの議論で出てくると思いますが、そういった問題があることに加えまして、現時点ではまだ実用から遠い可能性の段階のもの、かつ安全な成長が保証されるだけの科学的知見がないという状況であるということから、これまたあえて実施するだけの有用性はないのではないか。トータルいたしますと、人の個体を産み出すというような形態でクローン技術を使うということについては、有用性はないというふうに評価できるのではないかということであります。
一方、胚移植や核移植を行わない、すなわち人個体を産み出さないような形でのクローン技術の適用、すなわち細胞の増殖等がこれに当たると思いますが、このようなことにつきましては、人の個体を産み出さないということで、人間の尊厳等の問題に触れることがないということと、逆にこの均質な研究材料の確保などの科学的研究の有用性が認められるし、そのほか、安全性の確保といったことは当然慎重な検討が必要ではあるものの、細胞治療、あるいはクローン細胞からの移植用組織、そういったものに関しまして、医学的可能性が認められるのではないか。したがって、個体を産み出さないようなクローン技術ということにつきましては、有用性があるというふうに評価できるのではないかということ、これが2番目のポイントでございます。
しかしながら、3番目のポイント、人の個体を産み出さないといっても、人の個体を産み出すことが不可能なように、あるいは逆に言いますと、人の特定の臓器だけを発生するように細胞の核の遺伝物質を改変したりして、そこで核移植によってそのような改変された遺伝物質を持つ胚を産み出して、それを母体へ胚移植をして、特定な移植用クローン臓器を作製するといったようなことも、学術審議会のほうでも議論されておりましたとおり、理論的には考えられます。
しかしながら、現時点での評価としては、このような技術は人の成体を、あるいはそれに極めて近い形を産み出さずに、特定の個別臓器のみを産み出すということは、これは非常に技術的に困難であるということで、したがって、このような技術を考えると、当然に人の成体、あるいはそれに極めて近い形を産み出してしまうということで、人間の尊厳の問題と深い関連を生じざるを得ない技術的状況にあるであろう。したがって、そのようなことを考えると、現実的な有用性を考慮し得るような状況にはないのではないかというような評価ではないかということでございます。
以上でございます。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。
ここの項目に関しましては、この間、3名の委員からお話を戴き、その後に討論を行っておりますので、おおまかなところでは、まずはご了承いただけるものだろうと思うのですが、特別に何かご発言がありましたら、どうぞ。15分ぐらい時間をとってみようかと思いますが。
この間の討論のときに、木勝島委員のほうからES細胞のところのエッグのドネーションの問題の話がちょっと出たんでしたね。ちょうど1ページの最後のところの項になるあたりのところで、これは積極的に推進すべきと書いてあるわけですが、実際上は、武田先生、今のところは研究というようなのは可能ではないわけですね。
(武田委員)
ございません。現在、日本では禁止をいたしてございますから、日本でエッグドネーションからいろいろなことが進展するということはございません。ただ、この間もちょっと申しましたのは、エッグドネーションを認めた国がございますので、そういう国との国際的な渡り合いの中でいろいろなことが起こってくるということを、どういうふうにして防ぐかということは検討する必要があろうかと思います。
(岡田委員長)
多分、ここの項目のところは、頭の中ではES細胞というのを描いているんでしょうね。しかし、現在、ES細胞という格好で実用化されているのはマウスだけだと僕は理解していますけれども。
(勝木委員)
そうだと思います。いろいろな種で検討はされておりますけれども、成功しているのはマウスだけです。
(岡田委員長)
これは畜産関係でも非常に難しいということですか。
(三上委員)
そうですね。ESライクと呼ばれるものは大分できているようですけれども、いわゆるマウスみたいな完全なES細胞というのは成功しておりません。
(岡田委員長)
今のところはできていないという現状ということでのことなんですが、積極的に推進すべきであるというので、卵のドネーションが非常に気になる言葉なんですね、僕としては。今の状況下ということを勘案して、積極的にという形の言葉で言えるかどうかということは、検討の余地があろうかと思っていますがね。そこら辺が少し私としては気になるところですが、ほかに何かございませんか。よろしゅうございますか。
(木勝島委員)
ES細胞作成研究の扱いという論点では先回も勝木先生にお伺いしましたが、ES細胞(胚由来細胞)を用いた核移植研究については、学術審の中間報告では行わないとすべきカテゴリーに入っていたと思います。その線引きが、学術審の中間報告とこの論点ペーパーとの相違点の1つになっています。国が規制をするかしないという議論は、どこまで認めていいかという線を引く議論を伴わなければいけないと思います。ここは今、線引きが2つ案が出ているわけで、それを最終的に国としてどうしていくか決めるために、こちらの科学技術会議と学術審議会の間の調整が不可欠になると考えます。それがどのように行われるのか、たいへん気になります。もし必要ならば、その調整のための共同作業班を、科学技術庁と文部省などとの間のジョイント・プログラムとして討論できる場をつくらなければいけないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。そういう理解のもとで、とにかく先へ進んでみたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。
それでは、先へ進ませていただきます。次が一番問題だと思っておりますが。
(位田委員)
この文書そのものの性格なんですが、これも公開されるという趣旨でございますか。この論点整理メモというのも公開の対象になりますか。というのは、そういう意味で、「積極的に」というのは私もちょっと気になっているんですが。
(事務局)
議論のプロセスの一部として、資料も含めて、すべてそのような取り扱いになるというふうに考えています。
(位田委員)
それですと、ここで「積極的」というところまで、この委員会で合意ができているかというのは、私はちょっと気になるので、もう少しソフトな、例えば「積極的に」というのを削ってはいかがでしょうか。私は文科系ですから、どの程度まで医学的もしくは科学的に積極性を強調するべきかというのはちょっと判断ができないんですが。
(勝木委員)
ES細胞の問題を先生はおっしゃったんですが、ここでの論点は、幹細胞を念頭に置いているのではないかと思います。種々の臓器や組織の幹細胞を念頭において、それらを分化させることを想定して書かれていると思うんですね。おっしゃるように、ES細胞も含まれるのですが、ES細胞については、全能性を持つ細胞として分けたほうがよろしいかと思います。むしろ論点をはっきりさせるために。
ですから、例えば肝臓の幹細胞をつくって、それに対して積極的に核移植を行っていくというような意味では、積極的に推進すべきことだと思います。しかし、混同されるといけないので、ES細胞については、先ほど木勝島先生がおっしゃったように、取り上げるべきことでもありますので、別に分けたほうがいいと思います。
(岡田委員長)
ということは、エッグのドネーションという形の問題を含むような形のものは、この項目の中には入っていないという意味で、ES側のほうも含めて、これはこの項目からちょっと外してあるというのがわかるような形というのをちょっと考えてもらわないといけないかも知れませんね。
(武田委員)
まさに勝木先生が今おっしゃられましたように、ここではいわゆる培養的なことを念頭に置いておりまして、その培養的なことを念頭に置く限りは、学術審議会の報告とミスマッチじゃないと思うんですが、確かにES細胞もこの中に含まれているということになりますと、ちょっと性格が確かに異なるのかもしれないというふうに思いますので、これまでの議論に基づきまして、次回までにちょっとその辺を整理してみたいと思います。
(岡田委員長)
そうしましょう。誤解をわざわざ生むような形をとらないほうがいい。
(木勝島委員)
1つ気になる点があるのでお伺い致します。委員長がおっしゃられている卵提供について人個体に通じるようなものは、論点の1ページの最初の項目で認めないというカテゴリーに入っています。ですが、産科婦人科学会では、研究利用のための卵提供を認めていらっしゃいますよね。その点を確認させていただきたいのですが。
(武田委員)
現状ではその前に条件がついてございまして、不妊研究のための利用は認めるということになってございます。これはこの間少し触れたんですけれども、出生前診断につきまして、受精卵の使用を認める方向にございますので、まだ会告は出てございませんが、その辺、少しニュアンスが変わる可能性はございます。
(岡田委員長)
ありがとうございました。
(武田委員)
先ほどの「積極的に」というのは、私も実はこれに引っかかっていたんですが、1つは細胞の作製ということと、同じパラグラフの中の次に「組織」という言葉とが一緒に入っているんですね。それから次に行きますと、臓器ということになってくるんでしょうけれども、その定義をもう少し明確にしておかないといけないかなという感じがするんですが、いかがでしょうか。あるいは、逆に「積極的に」という言葉を外していただければ、ニュアンスとしてはやわらかくなると思うんです。
(岡田委員長)
「積極的に」を外しておくということでどうでしょうか。ここのところはとにかく少し修正しておくということで、これから少し今までのご議論も踏まえて、ここの項目のところを誤解のないような形をとっていくということにいたしましょう。まずは「積極的に」を取ることにしましょう。
(高久委員)
細胞や組織なら「積極的に」でもいいんじゃないかと思いますが。
(岡田委員長)
ほかのものとこんがらがってしまうので、この項目では。今、これが生きている間は、「積極的」というのを取っておくことで、とにかく有用であるということでどうでしょうか。
(永井委員)
私は疎いんですけれども、産婦人科学会の現状で、エッグドネーションのときは、届け出をさせているんでしょうか、していないのでしょうか。
(武田委員)
エッグドネーションは全く認めてございません、我が国では。したがって、届け出もないわけでして、私が、先ほど申しましたのは。
(永井委員)
不妊研究ではどうでしょうか。
(武田委員)
不妊研究でもエッグドネーションは認めておりません。
(岡田委員長)
ありがとうございました。
そういうことで、大体のご了解を得たと一応理解いたしまして、次に進ませていただきます。2番の項目の規制に関する検討でありまして、この中を2つぐらいに分けておきたいと思いますが、まず、クローン技術の人個体の産生への適用というあたりのところで区切ってくださいますか。
(事務局)
それでは、規制に関する検討の中の、クローン技術の人個体の産生への適用という四角の部分につきまして、簡単にご説明させていただきます。
まず、上で申しましたように、クローン技術を人個体を産み出すことに使うということについては、有用性がないというふうに評価されるわけでありますけれども、有用性がないからといって、それを規制すべきかどうかというのはまた別の議論だと思います。ここでは論点の整理といたしまして、ここのメモにおける1つの割り切りといたしまして、以下の理由から禁止のための規制を行うべきだというふうに書いてございます。もちろんこれは論点でございますので、いろいろなご意見が既に多様にあるということが前提でございます。
その後、理由の例と書いてございます。この理由の中に例として掲げてあります理由といたしましては、今まで、本小委員会、あるいは昨年のライフサイエンス研究開発基本計画をつくる際の議論等の場面で、これがクローン技術の人を産み出すのに使ってはいけない理由だといういろいろな議論がございました。そういったいろいろな議論の中から取り出してきて、ここで整理してみたものというものでございます。したがって、非常に妥当性があるもの、ないもの、いろいろな見方があると思います。
その1番目として、人間の尊厳をこれは侵害している技術である、したがって規制すべきなのだという議論がございます。この議論をもう少し分析してみますと、この分析自体ももちろんいろいろなご意見があると思います。1つは、フランス的な考え方だと思いますが、人間の尊厳の基礎というのは、人間が授精されて以降、あらゆる段階において、この世に1つしか存在しないという、そういう絶対的なこの世における唯一性が確保されること、これがこの人間の尊厳の基礎であるという考え方であると思います。現にフランスの大統領諮問委員会の大きな理由の1つとして、これが挙げられていると思います。
しかしながら、この世の中に唯一性がなくなっている状況というのは既に存在いたします。すなわち双生児の方は、これは全く同じ遺伝的形質を持っておられるわけですが、このようなことが仮に生じるとしても、その状況が生じる過程で人為性、人がわざわざそれをやったということが人間の尊厳を侵すというような考え方があわせてこのセットの1つの考え方になっていると思います。
したがって、このクローン技術を用いて複数の同じ遺伝的形質を持つ人個体、これは先ほど申しましたように、絶対的な唯一性ですから、受精の瞬間から以降、あらゆる段階における複数の同じ遺伝的形質を持つ個体を人為的に産み出す、これはいけないのだと、こういう考え方が1つあると思います。
このような考え方によりますと、例えば不妊治療におきまして、母体から排卵が少ない方がたまたま1つ排卵された、そういったものを体外授精いたしまして、それを胚分割によって複数の発生可能な胚に殖やす。これはある意味で胚分割によるクローン技術でございますが、これをまたその母体に戻すというようなものにつきましては、特定の人個体と同じ遺伝的形質を持つ人個体を胚段階ではあるけれども産み出している。したがって、そこで人為的に唯一性を侵しているということで、この考え方に基づきますと、こういうものは人間の尊厳を侵害しているのだということになると思います。
また、当然のことながら、既に死亡した人であっても、その方の残っている細胞から人個体を、この核移植等の技術を用いて産み出すといったことも、過去に存在した人と同一の遺伝的形質を持つ人を産み出すということで、これも人間の尊厳を侵害するということになるのではないか。
一方で、ミトコンドリア異常症の場合の女性側に起因する不妊症だと思いますが、受精直後の受精卵の核が、ミトコンドリア異常症の母親の卵の中にある場合に、それを正常なミトコンドリアを持つ除核未受精卵に移植する。これは1細胞期であれば、1細胞期というのは、特段この複数の同じ遺伝的形質が存在するわけではありませんから、片方から片方へ核を移すだけであるというふうに考えますと、その意味では、この唯一性というのは侵されていない。すなわちクローン技術という視点からだけ見ますと、この人間の尊厳というのは侵されていないのではないかと考えられます。
もちろん当然安全性の問題等々その他の問題があると思いますが、単純に先ほどのような理論で人間の尊厳といったものを考えると、これは移すだけで、複製していない。したがって、人間の尊厳を侵害していないのではないかというふうに考えるというのが、1つの考え方だと思います。
3ページに、もう1つ、別の視点の考え方が挙げてございます。これは既存個体との違いの重視ということが書いてございます。すなわち人間の尊厳というのは、外見的に同じ遺伝的形質を持つものが2つあるということが必ずしも根っこになっているのではなくて、個人が社会の中で個人として尊重される、そういったことをベースとする思想でございます。
そうすると、その基礎の上に立つと、この世の中に新たに産まれてくる個人が、既に社会の中に存在している、あるいは存在していた、いかなる他の社会的存在とも異なる新しい存在であることというのが非常に重要だ。すなわち既に存在している人、あるいは過去の人と違うのだということが不可欠である。すなわちその新しく産まれてくる人にとって、過去の、あるいは既に存在する個人の歴史を模倣するものでない、そういうことが大事である。
もし既に存在する方の歴史を模倣するということになると、それはまさに片方がオリジナル、片方がコピーとしての扱いしか受けないのではないか。そういういわゆる社会的存在として尊重されるか、尊重されないかというところに根っこを置く考え方が1つ別途あると思います。
このようなことを考えますと、クローン技術を用いて、社会的に既に存在したり、あるいは既に過去に存在した人と同じ遺伝的形質を持つ人を人為的に産み出すこと、これが人間の尊厳を侵害するのであるということになります。
ここで、社会の中で既に存在する、あるいは存在した人個体とは一体何であろうかということですが、非常に狭く考えますと、今申しましたように、社会的存在として尊重されるということが大事だということになると、現在、社会的存在として生活し、あるいは過去において生活していた個人と考えることが普通であると思いますが、よく考えてみますと、自然受精であれ、人工授精であれ、既に母体内に着床した胚というのは、当然将来そういった社会的存在となることがまず期待されています。
したがって、母体内に着床した以降の段階というのは、ある意味で将来的可能性も含めて、社会的存在であることが当然であるということになると、ここではそういった既に母体内に着床した以降の段階の胚や胎児や成体、これが既に存在した人個体であるというふうに考えるやり方が1つあると思います。
このような考え方に立ちますと、例えば先ほどの胚分割によって複数の発生可能な胚を得て、不妊症の女性の方の妊娠の率を高めよう、例えばそういう例をとりますと、胚分割のもととなった細胞は、この受精直後の初期胚、この初期胚というのは、まだこの世の中にまだ一度も社会的という意味で存在したことがない存在でありますから、これは過去の歴史を分けたからといって、過去の歴史を模倣することにならない。したがって、人間の尊厳を侵害することにはならないのではないかという考え方になりますし、また、先ほどのミトコンドリアの例につきましても、同様にこれを扱うのは、まだ社会的存在としての歴史が存在しない受精直後の卵であるということを考えますと、これもこの特段歴史を模倣するといったものではないので、人間の尊厳を侵害するものではないのではないかという考え方になると思います。
おそらくこれ以外にも人間の尊厳についてはいろいろな考え方があると思いますが、非常に大きく分けてみると、この2つぐらいがいろいろ言われているのではないかというふうに考えて、ここにそう整理してございます。
人間の尊厳の問題は、非常にある意味で論点として大変難しい論点だと思いますが、それ以外に、規制ということを考えますと、その理由になり得るものとしては、そこから後に出ておりますような、まだ安全性が確立していないもの。そういった技術を使って、将来不安な状態なのに新しい子を産むというのは、非常に社会的に無責任であるということで、産まれてくる人の安全性の確保のためには、現状では規制をしたほうがいいというのがあると思います。安全性の問題でございます。
また、社会的差別。これは先ほどの既存個体との相違の重視と非常に似ていますけれども、クローン技術によって人個体が産まれたということになると、常にクローン個体であるということをもって非常な差別を受ける可能性があるのではないか。あるいは過去のオリジナルの人に対する模倣としての位置づけしか受けられないのではないか。そうだとすと、これを未然に防ぐために規制をすべきではないか。これが3点目でございます。
それから、家族観の崩壊。家族というのは、今の社会概念のかなり基本の中にあると思いますが、このクローン技術というのが出てくると、だれが親でだれが子供かというのがよくわからなくなるという可能性があるということで、それを防ぐために規制を行うべきだという考え方もあると思います。
また、クローン技術が容認されれば、類似の外見を有する個体が、50も100もというのは極端かもしれませんが、多数産まれる。そうすると、例えば犯罪捜査一つをとっても大変困難をきわめることになる可能性があるということで、それを防ぐために規制を行うべきではないかというのが次のポイントでございます。
またほかの観点として、もしクローン技術が容認されて、同一の遺伝的性質ばかりがかなり優先的に取り扱われるということになると、結果として遺伝的多様性が減っていって、人としての種、あるいは民族としての生物的生存が長期的には脅かされる可能性があるのではないかという視点があると思います。
一番下に国民的意識を反映した規制。これは、これらいずれの理由が仮に不明確な場合であっても、国民的大多数がやはりこれはだめだというようなことが明確に意識して、そう意思表示をする場合、こういった場合には、国民的意識がそうであるということ自体を根拠に規制を行うべきではないかという議論もあると思います。
ここまでが理由のところでございまして、これはあくまで今まで議論され、あるいは世の中で指摘されているような議論を大体すべてとってきたということで、その中には妥当性が高いもの、低いもの、いろいろあると思いますが、とにかくここで例として挙げたというものでございます。
最後に研究の自由との関係、ここで挙げるのが適当かどうかわかりませんが、研究の自由につきましては、前回議論されておりましたし、学術審議会のほうの中間報告書でも議論されておりますので、ここに若干書いてございますが、研究者がどのような研究を行うかということに対しては、当然に無制限に自由だということはないのではないか。やはり社会に対する責任との関係で議論すべきものではないか。したがって、このクローン技術を人個体を産み出すために使うといったような、人間の尊厳の確保上問題があったり、あるいは安全上の問題があったり、あるいは国民の間に幅広い反対意識があったり、そういったものについては、研究者自身の社会自覚というのは当然のことであるとして、適切な範囲で規制を設けるということで、研究の自由の不当な侵害にはつながっていないのではないかという論点が1つあると思います。
以上でございます。
(岡田委員長)
ここで一応切りますか。以上のようなことですが、ご意見を聞かせていただけますでしょうか。
(武田委員)
考え方を2つ挙げていらっしゃって、最初、絶対的な唯一性の重視、人間の尊厳ですけれども、その中段にございます、卵の分割により複数の発生可能な胚を得、それを母体に戻すことにより妊娠率を高め云々、しかしながらこれは人間の尊厳を侵害するというふうにお書きになっていらっしゃいます。それに対応してと申しますか、2番目のその次のページのやはり中段のところで、初期発生段階の胚の分割により、複数の発生可能な胚を得、それを母体に戻すことにより妊娠率を高め、不妊症における母体の負担を軽減しようという例については、クローンのもととなる細胞は受精直後の初期胚であり、上記のような社会の中で既に存在する、あるいは存在した人個体に由来するものではないということで、これは構わないというふうに見えるんですけれども、これは結局同じことを言っているんじゃないでしょうか。
しかも2番目の既存個体との相違ということで見ますと、こういう2番目のような結論が導き出されているのではなかろうかと思いますけれども、これは将来から見ますと、そういう分割卵をつくりまして、そこで初めて受精する。これは確かにたくさんつくることによって受精能を高めることは可能ですが、その卵が残っていますと、次の子供に使ってくださいということがないとは言えないわけでございまして、そういう意味では、既存の個体の相違性の重視というところでは、やはりだめではないかというふうに思いますけれども。
(事務局)
武田先生がおっしゃるのは全くそのとおりだと思います。実は後ほどまた出てくる5ページのところに、規制のその対象というのが出てきます。本来前のほうに書いておくべきだったかと思いますが、まさに今の議論が出てまいります。当然複数の胚を最初につくって、それをある一部戻して、残りは保存しておくということは考えられると思います。その場合、もし最初の例で着床なりに至って、将来必ず社会的存在として期待されるようになった場合には、保存されているものをさらに胚移植するという、これはやはりだめな行為に当たるのではないかというふうなことかというふうに書いておりまして、後ほどまたそれは出てまいります。
(岡田委員長)
では、そういうことでよろしゅうございますか。
(三上委員)
ミトコンドリアの治療の例が2つ出て、考え方が1にも2にもあって、これはオーケーだというふうに書かれているわけですけれども、最近の我々のところの研究では、クローンの個体のミトコンドリアDNAのタイプは除核したほうの未受精卵のミトコンドリアのタイプであるということがわかってきているんですね。そうしますと、人のほうのミトコンドリアの変異がどういう状況にあるかということはわかりませんけれども、もし変異があるとすると、例えば母と娘の親子関係をミトコンドリアDNAで判定すると、母性遺伝ですから。そういうような場合に、当然社会的な混乱が起きてくるというふうに考えられるので、早急にどちらが来るかということがきちんとしていない現状では、こういう言い方はちょっと難しいんじゃないかなという気がしますけれども。
(高久委員)
武田先生、お伺いしてよろしいでしょうか。この2ページ目の2段目のこれは、今、体外受精の場合に結構多数の受精卵を母体に戻していますね。その結果、多胎妊娠が起きていますが、これはそれとどう違うんですか。
(武田委員)
それは未受精卵をたくさん採取しているということでございます。分割した卵をさらに発生可能な状態にしたということではなくて。戻すときには全然別の受精卵です。ですから、一度に多発排卵をさせまして、4つ5つとか排卵をさせまして、それぞれを授精させて残すというやり方でございます。
(高久委員)
分割卵じゃないんですね。
(武田委員)
分割卵じゃございません。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。三上委員のほうから問題点提起のあったことに関して、何かご意見ございませんでしょうか。
(永井委員)
三上委員のおっしゃることが人間にも適用されるとすれば、ミトコンドリア病のそれは認めるという発言はおかしくなりますね。これは専門の研究者達にもう少し詳しく聞いてみないとわからないですね。
(高久委員)
一応母性遺伝となっているけれども、疑問がないわけでもないのですね。完全にそうと決めるのは問題があると思います。
(岡田委員長)
今、尊厳性の問題ということにおいての話でいっているわけですが、このあたりについてはどうでしょうか。
(永井委員)
今、具体的なことを議論している中で、こういうことを言うのはなんですがこの尊厳というときに、英語では何に当たるのですか。dignity に当たるのですか、identity に当たるのですか。それによって随分違う話になってくる。菅野委員が前に言われましたが、要するに人個体を作製するということで既に一大変転というか大転回がが起きているので、この点を今一度しっかりと踏まえておく必要があるかと思います。例えば、人個体を人の目的に使ってはいけないというような、つまり人を道具視することがあってはいけないのだといった思想が、人の尊厳の中に含まれているのかどうなのかといったことです。
(菅野(覚)委員)
英語で何と言うかという問題は、この尊厳は日本国憲法を英訳したときどうなるかということで決めたほうがよろしいんではないかと思うんですね。一応お国の諮問機関みたいなところで、勝手に思いつきで道徳の基礎が何であるかというようなことは、我々がゼミでそれを議論する分には構わないですけれども、ふさわしくないのではないでしょうか。
そのときに、道徳というのは基本的にはその社会の総意で成り立って、それが表現されているものだというふうになりますと、今のところ、国民の意識というのは、この場で取り上げられるものは日本国憲法しかないのではないでしょうか。あそこで言われている個人を尊重するとか、人間は尊いとかいうことの根拠を読み取れる限り読めばそれで十分なことであって、それの解釈として言う分には構わないと思うんですが。
もう1つ申しますと、考え方1、2も、憲法の話は別として、私個人が思うには、多分不十分だろうと。不十分というか、むしろ危険じゃないかと思います。これはフランス人ならこういう議論をするというのはよくわかるんですが、日本人の議論とちょっと違う。普遍性とか同一性、絶対性は神様だけが持っていて、それがいいかげんにつくったものだけれども、いいかげんが何で尊いか、個人個人が全部違う特殊だというのは、絶対唯一性から見るといいかげんということですよね。いいかげんさが尊いのは神様がいいかげんにつくったからだというのは、フランスの人の考え方だろうと思うんです。日本人は、違うから尊いとかと思っているかどうかは、ちょっと疑問だというふうに思います。
違う違うということを言い出すと、考え方1では、既に一卵性双生児の差別になっちゃっておりますね。その次もそういう可能性がある。じゃ、同一なら尊くないのかという問題がありまして、むしろ違うのに同一だからこそ人間は社会があって道徳ができるのでという、その部分が落ちちゃうだろうということなんです。
もう1つ申し上げますと、作る、作らないということにこだわっているのは、この尊厳性の基礎は、やっぱりだれの支配も受けていない。産まれたときから、だれかが何かをして、だれかに負っているものがないということでありまして、その深みがどこまでいっても見えない。その怖さを私は尊厳だというふうに思います。それが違いという形であらわれるかもしれません。あるいは違うのに同じだというところに怖さ、尊厳性があらわれるのかもしれません。それは作る、作らないという議論は、そういうつもりで申し上げたつもりでございます。ですから、日本国憲法の人権の根拠を少し深読みすれば必ず出てくるだろうと思うのですけれども。
(岡田委員長)
ありがとうございました。位田委員、何かありますか。
(位田委員)
強いて英語を使うとすれば、尊厳のほうは dignity だと思いますし、唯一性のほうがidentityなんだろうと思いますね。先ほどの事務局の説明のところで、フランス的な考え方というふうにおっしゃったのですが、フランスのほうは要件が少なくとも3つ重なっていると思うんですね。つまり生殖に男女の両性が関与するという条件と、偶然性が介在するという条件と、その上にプラス唯一性。そこで唯一性だけて引っ張り出すと、ちょっと問題があるのではないか。人間の尊厳というときに、それは単に唯一性だけの話ではないんだろうと思うんですね。先ほどの菅野先生のおっしゃったのも、やっぱりそれに関連するかと思いますが。
憲法に基づくかどうかという問題については、確かに日本人であればその憲法を考えればいいということでもあると同時に、この問題はやはり国際的というんでしょうか。人類そのものということですので、単に日本国憲法だけに基づいていいのかということはやはり残るかと思うんですね。必ずしもすべての国に共通の道徳とか、倫理とか、尊厳の考え方とかいうのがあるとは限りませんけれども、どこかで共通のところを探しながら、日本の規制を考えていくということになっていくのではないかと思っています。
ほかにちょっと気になる点があります。唯一性の問題のところで、先ほど一卵性双生児の話も出ましたけれども、クローンをやった場合に、確かに産まれた時点では完全に遺伝的形質は一緒だと思うんですけれども、成長していく段階で、例えば途中で突然変異が出てくるというのはあり得ると思いますし、その場合の唯一性というのは、どこで唯一性を判断するかという問題がどうしても残ってしまうんじゃないでしょうか。
完全に遺伝的形質だけで、遺伝子を調べればそれでいいというのか、例えばクローンを作って、10歳のクローンと、もとになった人間とを比べて、どこかで変わってくると思いますから、それをほんとうに唯一性が保たれているというのか、途中で、例えば環境因子によって性質とか形態とかが変わってきますから、そこでは唯一性というのは失われる部分が残ってきますと思うので、どこで唯一性を判断するかというのが1つあると思います。
もう1点、これは唯一性の話ではないんですが、家族観の崩壊というのは、これは社会の変化によって随分変わってくると思いますし、例えば夫婦別姓というのは、まさに家族観をどうするかという問題と随分かかわってきたと思いますので、この家族観の崩壊の促進というのは、絶対的な理由にはなかなかならないんじゃないかと思います。
以上です。
(勝木委員)
今、尊厳性と唯一性の点を考え方で議論されておりますけれども、私は、本来クローン技術が出たときには、そのプロセスにおいて人為が関与するということが非常に重要なポイントではないかと思います。人為が関与した結果、その個体ができて、尊厳がどうかというような話が今行われていますけれども、操作そのものに対する疑問がやはり本質ではないかと思います。
操作そのものは、畜産に見られますように、明らかに選択をしています。例えば2,000年、3,000年かけてある有用な家畜が育種されますが、我々は3,000年生きるわけじゃないので、その過程はゆっくりにしか知らないわけですけれども、核移植によって1年以内にできるものですから、それが1年でできると非常に驚異的なことになります。しかし、選択という本質は変わりません。畜産に関しましては、核移植による選択が非常に技術的にすぐれた進歩であると認識すべきだと思います。
一方、人では育種を決して行ってこなかったという歴史がありまして、育種という観点から見ますと、結果として尊厳性ということになるかもしれませんが、なぜやらなかったかということはちょっとさて置きまして、操作そのものが、選択を行う技術であることが、人に適用されることに対する拒否反応ではないか。そのことを何とか法的に、あるいはある規制を設けるべきではないかという論点になるのではないかと思います。
ただ、その場合、もう1つの論点は、病気を治療するというのは一種の選択でありますが、そこをどう線引きするか。どこまで治療とみなすかという問題がいろいろその線引きであるんだろうと思います。
不妊症を病気とみなすかどうかという議論が、これはちょっと厄介な議論なので持ち出したくはなかったんですが、議論としては、なされるべきかも知れません。また、ある種の明らかな遺伝子の欠損がわかっている遺伝病を救うことは選択に当たるのかということも、そこが議論すべき本質のような気がいたしております。尊厳性か唯一性かということは、もちろんこれを大きな観点から理屈づけるときには必要かもしれませんが、問題は別のところにもあるのではないかと私は思います。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。どうぞ。
(木勝島委員)
今、勝木先生がご指摘になられた、どこまでが許されるかという線引きをする場合の判断基準をどう立てるかが重要だと思います。この論点整理で挙げられている、社会的差別の助長、家族観の崩壊の促進、社会の混乱の惹起、多様性への悪影響等々という理由は、すべて仮想上のもので、確証されたものではないと思います。
特に例えば多様性への影響ということであれば、何個体同一クローンがあれば、遺伝子プールの多様性が損なわれるかという分子進化学上の計算がなくては言えないことだと思います。また、社会の混乱の惹起といえば、非常に細かい問題として、例えばDNA鑑定の確度がおかしくなってしまうことがあり得ますので、それは裁判で、一件一件判断すれば事足りることです。最後に家族観の崩壊ということですが、これは何もクローンに限らず、第三者の精子による人工授精も家族観を混乱させるとか、崩壊させるという議論が現によその国でもあり、日本ではあまり問題になってきませんでしたけれども、潜在的に法的問題があるということは、法学者がずっと前から指摘してきたことです。ですから、クローンだけ家族観を崩壊させるから禁止だということは言えないと思います。
論点整理の4ページ目では研究の自由との関係ということで、クローンについては規制をするのは研究の自由の不当な侵害にはならないとしていますが、なぜクローン技術は規制して、研究の自由を妨げていいのか、もっと議論を詰める必要があると思います。ほかの技術は日本ではどうかというと、例えば、生殖技術関連については学会の会告しかなく、公的規制がないわけです。
遺伝子治療については、文部省と厚生省が指針によって、行政指導による事前の研究計画管理をやっています。また、すべてのDNA組み換えについても、国が指針を設けてコントロールしています。そういう中で、なぜクローンだけ禁止というふうに国が強い規制に踏み出すのかは、慎重に論議すべきだと思います。
ここでの根本的問題は、勝木先生がおっしゃったとおり、ほかの生殖技術や遺伝子関連技術に比べて、クローンだけ禁止する圧倒的な正当性があり得るかどうかということでしょう。国の政策全体の整合性と正当性ということから考えても、内容の面、例えば家族観の崩壊といった面についても、遺伝子組み換えや遺伝子治療、生殖技術などの規制の日本での現状と将来という枠の中にこの問題も入れておかないと、クローンだけ取り上げて禁止するということは、やはり非常に難しいのではないかと、今日の議論を聞いていて思いました。例えば遺伝子治療の中では、生殖細胞の遺伝子治療は禁止すると国の指針に定めてあるわけですけれども、それでは、そのとき何が禁止の根拠になったのでしょうか。あまり大きな社会的論議にはならなかったのではないかと思います。
ですから、そういう先例との比較、ほかの生殖遺伝技術との兼ね合いの中で、クローン技術はどこまで特殊で、規制が必要なものなのかどうかという議論をきっちり詰めておかないと、あまり説得力がないのではないかというふうに考えます。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。
具体的に本当に進むか進まないかというあたりのところというのは、技術的な問題、技術的な問題のバックグラウンドには、どれくらい面倒くさいもので、どれくらいお金がかかるかとか、いろいろなことがあって、結局のところ、こういう技術というのは、長い時間がたったときにセレクションされて、非常に温和な格好の流れていくものだけが多分残ってくるので、ある意味では、時間というのが1つのテクノロジーのセレクションの非常に大きなファクターということだと僕らなんか思っているわけなんですが、そこの中で、今問題になっているクローン技術というのが、やはり勝木委員がおっしゃったような形の、今まで我々がやってきたものと全然違う分野のものというふうな格好での理解というのが僕には一番やりやすい理解の方法のように思いますね。
(町野委員)
人間の尊厳というのはよくわからないんですけれども、2つぐらいどうやら意味があるという感じが、今のご議論を聞いて感じました。
1つ、菅野委員が先ほど言われましたとおり、産まれてくる子供、できた人間、それの尊厳を侵害しているんじゃないかという問題があるわけですね。つまりコピーとして作られたということですね。もう1つは、これは必ずしもクローンだけに限りませんけれども、親がいないということですね。
前からもちろんこういう問題はありまして、韓国で行われた例では、妊娠中絶した女の子の体から卵を取ってきて、それを培養して、そこで子供をつくった。出生まで至ったという例がある。これなどはその産まれた子供の親というのは一体世の中に歴史的に存在しなかった、出生しなかった胎児なんですね。それを聞くと、やっぱり気持ち悪いという感じがしますとともに、産まれてきた子供についても非常に大きな問題だろう。その面が1つあって、おそらく日本人の頭の中で人間の尊厳というときは、大体こっちのほうがあるんじゃないかなという感じは僕はするんですね。
もう1つは、コピーをたくさん作りまくるという事態が生ずるというのは、人間が個として尊重されていない社会を認めるということではないだろうかという面での個人の尊厳という問題があるだろう。その両面がおそらくあって、後のほうのコピーをつくるというのが、先ほど出てまいりました生命技術における操作性の問題だろうと思うんですね。どこまでこの操作が許されるか。
人間の尊厳の問題にこだわるべきかどうかというのも1つの問題なんですけれども、木勝島委員が言われましたとおり、学問の自由と研究の自由というのは憲法上の価値であるとするならば、それを制限し得る価値というのも憲法上の価値でなければならないはずだろう。そうすると、憲法の中で個人の尊厳というのをうたわれている以上、その個人の尊厳を、これは非常に法解釈的な言い方であまりよろしくないのかもしれませんけれども、やはり議論せざるを得ないんじゃないかなという感じがいたしました。
(岡田委員長)
只今、非常にたくさんの考え方が出てまいりましたけれども、これをそのまま受けとめさせていただいて、きょうの1つの作業として、次のステップのところへとにかく動いてみたいと思いますが、よろしいですか。(各委員了承)
(岡田委員長)
その次のところ、第2項の最後までですね。
(事務局)
それでは、先ほどの部分から続けまして、クローン技術の人個体を産生しない目的のための適用というところから、簡単にご説明させていただきたいと思います。
ここは先ほど申しましたように、ES細胞等の問題が先ほどここで議論されましたが、ここでは細胞培養ということを念頭に置いてこの項目を書いてございますのであらかじめお断りしておきます。クローン技術を人個体を産み出さないために適用するため、これは先ほどちょっと出ていましたように、種々の科学的・医学的可能性が認められるということで、今後の安全性の確認に慎重な検討が必要であるものの、クローンという観点からは特段の規制をする理由はないのではないか。
ただし、この人個体を産み出すことを目的としない場合、あるいは人個体を産み出すことが核の遺伝物質の改変により不可能である場合であっても、母体への胚移植を伴うような移植用クローンの臓器をつくろうとする試み、これは人個体を産み出すことに極めて類似の実態を含み得るということで、これは人個体を産み出すのとほぼ同様な問題が生じるのではないかということで、ここにおいては規制を行うべきであるというふうに論点としてございます。
人以外の動物の個体を産生する目的のための適用でございますが、人以外の動物のクローン作製、これは別にクローンということに限らないと思いますが、動物の保護管理法が存在いたします。したがいまして、基本的にはこの法律によって考えていけばいいということだと思います。
ただ、ここで島委員が先週もお話がありましたように、動物の保護・管理のあり方といった問題もいろいろ議論すべきではないかということがございました。クローンの問題からとらえてみると、動物の問題は、クローンの問題を越えたいろいろな多様な次元の問題を含んでいるのではないかということで、その問題についてさらなる検討が必要であるということであれば、別途の場をさらに設けるべきではないかというのが論点でございます。
ただ、哺乳類のクローン個体の作製につきましては、技術的に見ると、人のクローン個体をつくるということと非常に類似の技術であるということで、社会的な懸念というものもあるだろうと思いますので、その推進については、情報公開を行いつつ行うべきだというのが第2の論点になってございます。
3つ目の点でございますが、これはかなり仮想的な話かもしれませんが、人の核を持ってきて動物の除核の未受精卵へ移植する。すなわち異種受精卵を産み出すといった試みが、人以外の動物を使ってやろうとされている例がございますけれども、人の細胞がかかわる場合には、これはいずれも有用な科学的知見をもたらすというよりも、むしろ好奇的関心に基づくものではないかということ、かつ通常は人間の尊厳を侵害する行為とみんなが思うのではないかということで、規制を行うべきではないかという論点に掲げてございます。これももちろん論点でございますので、これが一般的なステートメントとして正しい、正しくないというのはご議論の対象だと思います。
その後、規制の対象ということでございます。これは、ここでは先ほどから人の個体を産み出す、あるいはその人の個体を産み出すのに極めて類似な行為、そういったものは規制すべきであるというようなことがずっと前の方から出てまいりましたが、それでは、具体的な対象としてはどのようなものが対象なのかということを議論するために用意した論点でございます。
5ページ目の上から、この受精卵が発生してまいります段階を順に追っているわけですが、直後、1細胞期から2細胞期になって、原始線条が出現して、母体へ胚移植されて、出産して、成長・成熟していく、そういうプロセスになるわけですが、これを先ほどの考え方の1と2、これは先ほどもいろいろなご意見がありましたが、仮にその1と2に基づいて考えてまいりますと、先ほどの考え方の1、絶対的な唯一性がこの世の中で確保されるべきであるという考え方で考えますと、2細胞期以降は、いかなる胚分割にしろ核移植にしろ、クローンをつくるということになりますと、片方がオリジナルで、つくられたほうがコピーというような関係になる。すなわち同一の2つ以上の遺伝的形質を持つ胚が出現するということになります。
したがって、そのような同一の遺伝的形質を持つ胚というのは、2つ以上存在してはいけないのだという考え方に立ちますと、2細胞期以降の胚から細胞を取って、核移植をしてクローンをつくるということについては規制をすべきではないかという考え方になりまして、かつ1細胞期においては、仮に核移植を行うということになっても、片方から片方へ移すだけということになりますので、これは純粋にクローンという観点だけから考えますと、仮に核移植を使っても、いわゆるコピーがない、唯一の存在であるという条件はそのまま存在しておりますので、これはその時点でそういった核移植を行うということについては問題ないのではないかという考え方になると思います。
考え方の2、これは先ほどのように、社会的存在として既に存在したかどうか、あるいは必ずこれから存在するかどうかということをまず念頭に置いて、人の個人の尊厳なり尊重なりはそういった過去に存在している人、あるいは現在存在している人、そういったことと同じ遺伝的形質を持つ、すなわち産まれたときからコピーであるということを運命づけられている、そういったことが非常にこのクローンの本質的な問題であるという考え方に立ちますと、先ほど申しました社会的存在に必ずなる時点はどこか、なり得る存在というのはどこかということ、これはこれ自体も1つの議論の対象だと思いますが、ここでは必ず将来出生することが予定される母体への着床という時点以降は、必ず将来社会的存在になるということとして考えていいのではないかということで、そこから以降の段階の胚、胎児、あるいは成体から細胞を取ってきて、その核を使ってクローンのさらに胚をつくるということは、これはいけないのではないかということでございます。
そこで、先ほど武田先生からお話がありましたような、最初に受精直後の発生初期段階の胚を分割して、複数の胚をつくりまして、それを最初幾つか戻して、母体の中に着床した、例えばそういう段階になりましたときには、母体に戻さなかった胚については、これをさらに母体を戻すということになりますと、過去に存在した胚と同じ胚をもう1度母体の中で着床させるということになりますので、そこは過去に存在した人をもう1度人為的に産み出すという行為と同じことになるということで、そこはだめなのではないかという考え方になると思います。
もちろんこういった人間の尊厳のほかに、さらに安全性の問題についても知見が不十分であるということについては、いずれのケースにしても同じであるということについては、留意しておく必要があると思います。
そういった規制をする、仮にそういったことになった場合には、一体どのような手法が考えられるかということですが、5ページの一番下のほうに掲げてありますように、通常考えられるものとしては、法令に基づく規制、国のガイドラインによる規制、学会等が定めたガイドラインによる自主規制、あるいは個別の医療機関なり研究機関なりの倫理委員会に任せるような規制等々がいろいろ考えられると思います。
基本的にはこのクローン技術という技術を対象にしておりますので、その考え方については単一の考え方に基づいて規制をするとしてもするべきではないか。かつ規制をするのであれば、官民問わずすべての研究者や医者の方が対象になるべきではないか等々考えますと、少なくともコアの部分、すなわち禁止をすべきと考えられる部分については、法令または国のガイドラインによる規制を行うべきではないかというふうな論点にしてございます。
もう1つ、先ほど、人以外の動物のクローン個体についても、非常に人のクローン個体と同様な技術が使われるということでしたが、それについて社会的懸念が存在するということだと思いますので、その情報公開についてもきちっとやるべきということが出てまいりましたが、これは動物のクローン個体の作製自体が何か問題を引き起こすということでなくて、それが問題を起こすことと類似の過程を想起させるということが問題ですので、その部分については、どちらかというと、強制力、罰則というようなことではなくて、国のガイドラインによる規制ということではなかろうかという論点になってございます。ただ、これもまた後で規制の内容のところでいろいろな別の視点があり得るということで出てくると思います。
すぐ下の規制の内容というのがあります。これは全く今の時点でまだ議論が収れんもしていない段階ですので、全く仮想的な内容ではございますが、外国の例等々を参考に考えると、法令による規制を行うということがある場合には、このクローン技術を用いた人個体を産み出すこと、あるいはそれに非常に類似した胚移植を伴う人クローン臓器の作製に関しては、それを禁止して、適切を場合にはその違反に対して罰則を設定するというのが考えられます。
その他、胚移植を伴わない人のクローン臓器の作製、あるいは哺乳類動物のクローン個体作製、そういったものについては届け出や公表義務を設定するということも考えられますが、もちろんこれは今後の議論次第であると思います。一方、国のガイドラインによる規制を行う場合というのも考えられますし、これはほぼ同じでございますが、当然ガイドラインでございますので、強制力を伴わないということで、罰則等を設定するということはなくなるということになると思います。
最後に、規制に時限を設ける必要があるのかどうかということですが、これは将来的にはこのクローン技術に関するまず安全性のデータが蓄積していって、安全性についてはだんだん科学的判断が可能なっていくであろうということがありますし、クローン技術の応用についても、人を産み出すということはともかくとして、さまざまな分野でさまざまな応用が多分されていくであろうということで、体細胞核移植に基づくクローン技術というのができてまだ1年強でございますので、この具体的応用としては極めて初期段階にあって、この技術に関する社会的認識というのはだんだん変わっていくこともあり得る可能性がある等々で、クローン技術をめぐる状況が変化することもあり得るので、現時点では恒久規制というよりは、むしろ時限的な規制としておくことがいいのではないかというような論点でございます。
以上でございます。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。
こういうふうな格好でまとめてきたわけですが、僕自身が少し引っかかっていることを申し上げますと、クローン小委員会という言葉に引っかかり過ぎているかもしれんというような感じがちょっとしますが、どうでしょうか。今の考え方1とか2とかというあたりのところでの話になってくると、どうも考えてみると、産婦人科領域、そのテリトリーにこの委員会の問題点が踏み込まないほうがいいんじゃなかろうかということを今、ずっと考えていました。
この小委員会ができた理由というのでいきますと、核移植をやって人個体をつくるという、今さっき勝木委員のおっしゃったような形のそこの問題という形のところに幅を狭めたほうが、やはりクローンという名前になってくると、こういう書き方にならざるを得ないと思うんですね。これは多分産婦人科領域の方々にとっては、少し問題点を残すことになりませんかね。どうでしょうね。何か僕は踏み込まんほうがいいんじゃないかと、ここのところは産婦人科領域のところで処理していただく。今現在、産婦人科領域で問題になっておられるものは、そういうほうがいいんじゃないかなというのをちょっと思ったんですけれども。
(武田委員)
私も委員長のお考えに賛成でございます。細かく生殖医療に踏み込みますと、先ほど勝木先生がいみじくもおっしゃった選択の問題等が出てまいるわけですね。そういう非常に具体的な話が、ここでの包括的なところで議論されるということ自体に、まだしかもこの技術が医療には応用されていないわけなんですね。大半のところはその前の段階で禁止されている状態でございますので、今のようなところをもう少し狭めて先生がするとおっしゃった方向のほうが、私はいいのではなかろうかと思ったんですね。木勝島先生、首を振っていらっしゃるけれども。
(木勝島委員)
水を向けていただいてどうもありがとうございます。私は只今のご意見には全く反対です。勝木先生がおっしゃられたようにクローン技術の特殊性のひとつは、それが人の選択的な育種につながる技術であるということにあります。これは、人間にはやってはいけないことであるから、そこを規制の根拠にできるのではないかということでした。
しかし、選択的育種につながる技術ということで規制するのであれば、生殖細胞の遺伝子治療はもちろん、生殖技術の一部も当然規制の対象に入ってきます。例えば第三者の精子の提供による人工授精などの場合、アメリカなどでは歴然と選択的育種につながるような、ノーベル賞受賞者の精子を売っている精子バンクがあるわけです。日本でもそういうことがあっていいのでしょうか。また、顕微授精のような精子を選別して戻すことも可能な技術かどうか、武田先生がおっしゃっていた着床前診断では、受精卵の中で、診断できる遺伝的疾患のないものを戻しますから、選択的育種につながりかねない技術であるので、どの国でも非常に慎重あるいは厳しく規制しています。
今、武田先生がよその国でも生殖技術として行われる前の段階で規制しているとおっしゃいましたけれども、少なくともヨーロッパ主要国におけるクローンの規制は、最初の回に資料を提出させていただきましたように、すべて生殖技術全般を規制する法律の枠内でクローンの禁止を定めたものです。どの技術が選択的育種につながる技術かということは、この委員会で限定するべきではないし、社会の信頼を得て広範なコンセンサスをとれる合理的な政策決定を行うためには、当然生殖技術の一部も視野に入れておくべきだと私は考えます。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。
えらい話になりましたね。やはりここの問題は少し討論したほうがいいかなと思うけれども、どうですかね。
(武田委員)
つい先だって、先ほどの出生前診断の問題を公開討論したんですね。そのときに論点が2つございまして、1つは、今、いみじくも勝木先生がおっしゃったセレクションなんですね。そのセレクションは一体どういう立場でセレクションをするのかということなんですね。大部分が健常者の立場なんですね。健常者の立場から異常者は産まれないということのセレクションでありまして、異常者の立場からの論点がないと言われるんですね。これが実際に障害者側の非常に大きな意見でした。その点を一体どういうふうに理解するかというのが、先ほどの木勝島先生の話にもろにぶつかる問題であるわけなんですね。
そういう意味で、じゃ、私自身が、例えばミトコンドリア異常症のような問題をどういうふうな方向で解決したいかと申しますと、身障者の親の会が主張していますのは、そういう技術があればそれを使ってくださいという、先ほど私が申し上げたのとは全く逆のことをおっしゃっていらっしゃるんですよ。その辺に大変この問題を難しくしている理由がございます。
私が先ほど岡田先生のご意見に、むしろそういうふうに限ってやったほうがいいんじゃないかと申し上げたのは、そういうところから逃げるということではなくて、時限立法のような形でどうせなるんだろうと思うんですね。一遍で全部が解決するような方向で方向性が出るのでしたら、それは今すべてをやらないといけないですけれども、今やらないといけないのはどういうところなのかということを詰めるべきだと思うんですね。その範囲で今回の結論を出すべきだと思います。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。そのほかに御意見はありますでしょうか。
(勝木委員)
私が先ほど申しました選択のことが取り上げられているようなので、少し話をいたしますと、基本的にはそこまで掘り下げて議論する必要があるかどうかは、規制の根拠にするかどうか次第だと思います。私が具体的な問題と思いますのは、学術審議会の方である先生がご指摘になっていたことなんですが、治療という名目で、本当に理屈としてこのクローン技術を実施することを断ることができるかという問題が最大のポイントになるというご指摘をされました。
ヒトのクローン個体をつくるべきではないというのは、皆さんご納得なさる、どんな理由であれ納得なさっているんだと思ういますが、しかし、医療に使える場合があるんじゃないかとなると、規制の範囲を限定しなくてはならなくなります。畜産では何かは別に動物牧場としての意味がありますけれども、人の場合に臓器牧場のようなものをつくることすら考える人たちが出てくるということを考えますと、そこがどこまで医療行為として許されるかという問題になると思います。技術的にはそれが可能になったということを示しているわけですから。
ですから、先ほど、最後に少し申しましたけれども、医療行為そのものが選択を行うことですから、一方、人個体をつくるという意味の選択ではありませんけれども、部分的に臓器を変えるという意味で、本来死すべきものを生かすわけですから、それをどこまでやるのか。しかも生殖細胞に、ほんとうに明らかな遺伝病を救うことがほんとうにできるなら、それを限定してどうするのかという具体的な問題になると思います。
ですから、包括的に選択を根拠にして生殖医療まで全部を議論するは、私はやぶさかではありませんが、この小委員会でやるのは甚だ準備不足という気もしますし、また、ライフサイエンス部会からおりてきた趣旨とも少し違うような気がします。人為操作や生殖医療については、これ以上、この小委員会では難しいかも知れません。中途半端な意見で済みません。
(高久委員)
理論的には確かに木勝島さんがおっしゃったとおりなのですが、タイムリミットがあるならば、人のクローンの個体という問題に絞らないと、何回会議をやってもきりがないような気がします。
今、勝木先生が言われた問題は重要な問題で、だれでも個体をつくるのは禁止すべきだと言うと思うのですが、非常に成功の確率が高くなったときに、医療として永久に使ってはいけないのか、法律的に禁止されているからできませんで済むのかという問題があるのですね。
例えば先ほどの出生前診断の問題でも、障害者の方々は出生前診断そのものに反対をしていますね。ですけれども、現実にはそういう疑いを持った母親は、ぜひ診断をしてくれと言ってくるわけです。確率の問題とかインフォームド・コンセントの問題とかいろいろありますけれども、現実はそうです。治療法のない先天性障害に対する出生前診断をしてはいけないという議論まで出てくるのですから、私はウィルムートが行った技術に絞ったほうが、期限内に結論を出すためには、いいのではないかと思います。
(岡田委員長)
ありがとうございました。
そこら辺の問題点というのは、結局どういう説明をしていくかという格好のことと、制限条件をどこら辺まで持ってくるかということはタイアップしてくるので、細かくやっていくと相当大変なことになり、ある意味で虚学みたいなところがあるかと思います。現実という格好から外れていく形の考え方とか何とかという1つの思想というのが出てくるのは、これも当然そういう分野があっていいと思うけれども、現にある具体的な問題という形のもののウェイトのほうがもっと高くしてほしい。
それにウエートを置いて、それの妥当性の説明のところでうまい工夫をしてもらえないかというのが、僕の個人的な感じなわけですね、実のところを言いますと。そのほうがいいんじゃないかなというふうにも思うのですが、今まとまったものの中から、確かにほとんどの問題が産婦人科領域で今、現にこれから問題になるであろうというあたりのところの方向性をずっと決めていくことに多分なるんですね。具体的には。これはないほうがいいことないかという、非常に率直な感じなんです、僕は。
(武田委員)
1つ別のことで、これにも少し関係するんですけれども、先ほど、木勝島先生がおっしゃったんでしょうかね。人工授精の場合の夫婦間人工授精と、夫婦間じゃないドナーによる人工授精がございまして、ドナーによる人工授精が今まで不妊症を救うためにという名目でもう長年やられてきているんですね。その子供が既に成人に達しているという状態になってきておりまして、産婦人科学会では大変問題にしてございます。
というのは、そういう技術が随分前に確立されておりますけれども、やはり大部分の施設では、それぞれの独自の倫理的な考え方で実施していないんですね。ある特定のところしかやっていないんですね。それが今、全体の大きな問題として、法律的なことも含めまして、今、倫理委員会の中で問題になろうとしている状態なんですね。
それを逆に演繹しますと、非常に個別のことでやるということになりますと、生殖医療のそれぞれを規制するということになりかねませんし、それがなかなか難しい。先ほどのミトコンドリア異常症なんかの治療は、セレクションでもやっていいじゃないかと、この気持ちはやっぱり私どもにもございます。まだそういう技術は現実のものではございませんので、まだいろいろ問題がたくさんございますから、もっと現実になったときに個別の問題はもう1度考え直してもいいんじゃないかというふうな感じがいたします。
(位田委員)
産婦人科のほうの問題というのは、私も詳しくわかっているわけではありませんが、現実に人クローン技術が利用できるという前提のもとで産科の領域に入るんじゃないかという気がするんですが、ここで我々が問題にしようとしているのは、まず人クローン、個体にしろ、臓器にしろ、それをつくり出す技術を確実にするための研究をここで規制するのかどうかという、まだそこの段階になっているんじゃないかと思うんですね。それが確実になれば、今度はセレクションで使うのか使わないのかという問題になるかと思うんですけれども、そこにまだ我々の場合に踏み込まないほうがいいのではないか。
先ほど、木勝島委員がおっしゃったように、実際にその技術を使う際にどうするかということも、本来なら全体的に議論をしないといけないでしょうけれども、多分これは日本的特殊性かもしれませんが、一般論から入るのではなくて、問題が起きたときにそこで対処するというやり方になっているわけです。このクローンの問題でも、本来ならもう少し遺伝学に関する一般法みたいなのがあって、それに基づいて、それを適用する際の、クローンであれば、これこれこういう理由で禁止される、もしくは制限されるというふうにいくのが論理的には本来の道筋だと思いますけれども、今回は逆の方向だと思います。ですから、クローンを禁止するということを前提にして、どのクローンを禁止するか。それから、そのクローンを禁止する場合に、どういう理由を当てはめるか。そうした点を議論すべきだと思います。
クローンの特殊性ということからいえば、セレクション関係で幾つかの禁止理由があって、クローンについてはこれとこれとこれが当てはまる。そのクローン研究についてはこれこれこういう理由で禁止されるのだということであれば、それは社会的にも一応合意が得られるのではないかというふうに思っています。
(木勝島委員)
今の位田先生の整理で、論点をたいへん明確にしていただけたと思います。私自身も同じ考えで、要するに研究を規制するという際、例えば人個体につながるクローン研究を国が禁止する正当性をはっきりさせておかなければいけないと思います。人クローン研究を国が規制する理由の1つとして、ほかの技術の規制状況との整合性、そこで説得力のある議論が出てこなければ研究者サイドはそういう規制を受け入れてはいけないのではないかと私は考えます。研究の自由という基本的人権を守るためにも、整合性のとれない突出した個別技術の規制をあまり簡単に受け入れてはいけないと私は考えます。
医療現場にあらわれる技術は、すべてその前提として、営々と研究してこられた結果として実現するわけです。例えば受精卵の遺伝子診断では、人の受精卵を割って、そこから細胞を取り出すという実験を繰り返した末に、出てきた技術です。しかし日本では、その研究は全く規制されてきませんでした。
もうひとつ、例えば、顕微授精という技術は、人工的に卵の中に穴をあけて精子をいれる。その精子も、最近では精子になる前の細胞まで入れる。そういう技術を研究しているわけです。しかし日本では、人間を対象に人間の生殖・発生を操作する研究をしている。そういう研究は規制されていないのに、どうして人クローン個体の研究は規制されるのか、説得力ある議論、根拠がここで示される必要があると思います。
つまり、何度も申し上げておりますように、遺伝子組み換えや生殖細胞の遺伝子治療、体細胞の遺伝子治療、顕微授精や着床前診断などの生殖技術といったほかの生殖遺伝関連技術の研究とクローン技術はこういう点で異なるので、だからこういう研究規制をできるのである、という説得力ある議論がこの委員会から生まれてくるのであれば、それは結果としてあり得ると思います。そういう方向で今後の議論がなされることを期待します。
(岡田委員長)
そうあっていただけると委員長としては非常にありがたいわけで、何かうまい説得力を考えて戴きたいと思います。
(武田委員)
今の木勝島先生のお話で、今までの人に対する生殖医療が、人からイニシエートしたということはございません。これはすべて畜産とか、そういう技術が相当進んだ後で、安全性が相当確認された状態で初めて人に対するアプリケーションがあったというのが今までの流れでございます。
だから、例えば今回のクローニングでも、一等最初に出ました動物に対するクローニングの研究は、むしろこれは規制しないほうがいいんだという皆さんのご意見だったと思うんですね。それが人に対して応用できるような状態になった時点で、もう少し細かな議論はしても十分対応できるのではないかと。先ほど、位田先生がおっしゃったところも、そんなところに集約してくる点があるんじゃなかろうかと思うんですね。
(三上委員)
畜産ということなので、この委員会においては、メジャーな問題じゃないかもしれませんけれども、情報公開というのは、現在の社会情勢から考えて当然だろうと思うんです。ただその理由が人に応用される可能性があるから畜産分野における研究も公開すべきであると言われると、今後の畜産における技術開発というのは、すべてそういうような立場に追い込まれるのかというふうに考えられるわけですね。
なおかつ既に胚細胞由来のクローンはもう数年来作っていまして、突然公開だと言われても困る面もあるので、実際問題としては、体細胞クローンというのは、全能性を失った細胞を初期化して再度作るのだというところで、そこが安全なのか、できた個体が正常なのかという情報が足りないので、情報公開をすべきであると考えております。あくまで人への応用という分野ではなくて、我々の研究分野での問題点から情報公開をしていきたいというふうに考えているわけですけれども、その辺、この委員会でもそういうふうに考えていただければと思います。
(岡田委員長)
ほんとうにそうだと思います。
(高久委員)
生殖技術のときに動物で十分にやってから人に応用したとおっしゃいましたけれども、人の研究をしなければならなかったわけですね。だから、私はやはり人のクローンの場合でも、動物で100%安全になったからといって、すぐに人に応用できるかといったら、それはできないわけで、やはり人のクローンの研究をほんとうに禁止できるのかという問題を、木勝島委員がおっしゃったように、広く議論をしておかなければならないと思います。
さっきから何回も議論に出てきた生殖細胞の遺伝子治療でも、日本では何となく簡単に子孫に影響を残さないようにという最も単純な理由で生殖細胞を遺伝子治療の対象にしないで来たのですが、アメリカでは、生殖細胞の遺伝子治療をしないと治らない病気が幾つもある、それをいつまでも禁止していいのかということを討論しているわけですから、この場合でも、やはり人のクローンの研究をほんとうに永久にやめてしまっていいのか問題だと思います。
先ほどのミトコンドリア病については議論がありましたけれども、ミトコンドリア病が核移植でよくなるということが明らかになった場合に、そういう病気を治してもらいたいという人が出てくるかもしれない。それから以前からよく議論になっていますように、無精子症の人の子供を妻が生みたいといった議論もあります。そういうことを考えながら、やはりこの場では人のクローンの研究をほんとうに禁止して良いのか、永久に禁止するのか、あるいはしばらく禁止するのか、そこに議論に絞っていくべきじゃないかと思うのですが。
(岡田委員長)
高久委員のほうのお考えでは、今のクローン人間の制限というのはあってもいいけれども、時限という形という格好なら、成り立つであろうということになりますか。
(高久委員)
そう思います。永久に研究を禁止するのは、やはり問題だと思います。どこまでを研究と呼ぶのか、これまた難しい問題がいろいろとあると思うのですが。
(勝木委員)
今の高久先生の御意見に私も賛成です。新聞報道によりますと、学術審議会の中間報告では、クローン研究は全面永久禁止みたいな書き方がされているようなこともございまして、世間にすごく誤解を招いているような気がしております。ヒトクローン個体に限定して、しかもそれが当面禁止するというふうに、高久先生が言われたような趣旨を背景にして学術審議会の中間報告書は書いてございますので、もし誤解であったら、そうではないとこの場で特に強く申し上げておきたいと思います。
先ほどのこの小委員会でどこまでの範囲の議論をするかという議論でありますが、私は常々考えておりますのは、婦人科、産科の先生方にこれほど重い問題を、しかも現実にそれが実行できる方に任せるのがほんとうに適当かどうかという気がすごくいたします。それは、産科、婦人科の先生たちを信用するとか、信用しないとかいう以前の問題として、むしろ医療行為になって、これはちょっと勇み足のことを言うかもしれませんが、医療行為自体が経済行為に変化したときに、当然その先生方は利害関係者ということになりますので、議論に限界がすぐに出てくるように思います。
そういう面からいいますと、やはり産科、婦人科の先生方が技術的な意味でそこに参加されるのはもちろん当然だと思いますが、それを越えた議論というのをする場所は絶対に必要で、それがここかどうかという判断は、私は、先ほど保留したんでございます。生殖医療に対する考え方が、もし前提となっての議論ということになると、相当時間もかかるし、大変だと思います。これを少し上位の機関に預けてしまうかどうかは、この議論を踏まえた上で委員長にお任せするしかないような気がいたします。
(武田委員)
今まさに勝木先生がおっしゃったとおりなんですね。産婦人科、つまり職能団体として、ほんとうに全部規制できるのか。非常に私自身も危ぶんでおりますし、もう少し広いレベルで討議され、コンセンサスが得られないと、ほんとうはやってはいけないんじゃないか。先ほどの出生前診断についても、産婦人科の場を外れて、例えば厚生科学審議会等での、むしろ1つ上の立場からの議論が逆に産婦人科のほうにフィードバックされる。そういう道のほうが大事ではないかということが、だんだんそういうコンセンサスになってきてございます。
一等最初は、どちらかといえば、政府機関のほうは、むしろ専門家の中で規制なさいという傾向が強うございましたけれども、だんだんそれは少し変わってきているように思うんですね。遺伝子治療が今、小児科領域で行われてございますけれども、あれも厚生科学審議会で1つの結論を出して、それが逆にフィードバックされるという形、そういう政府のガイドラインですよね。ガイドラインがいいのか、あるいは法制規制がいいのかというのは、これは別の問題でしょうけれども、そういうルートがないといけないのではないかと思います。
(岡田委員長)
これはどこら辺で判断しますかね。5ページの一番上のところ、発生段階の時系列に沿ってというところで、順番が間違えていますので、直してください。武田先生のほうから、ちょっとここの訂正をお願いします。
(武田委員)
一等上にございます母体への胚移植を実施する段階というのが、原始線条が出現する段階よりも前でございますので、これは上下が逆になって、多分印刷ミスかもしれませんが、逆になってございますので、時系列的には母体への胚移植が先でございます。
(岡田委員長)
一応クローン人間ということでの規制の問題の中での、試験管の中での培養というのをどこら辺で押さえるかというような話のときに、今までも出たと思いますけれども、この原始線条が出現する時期と、分割開始後2週間後というふうな形で、産婦人科領域で決めておられるようでして、アメリカもそうだということでしたか。
(事務局)
イギリスでございます。
(岡田委員長)
着床という形じゃないところでも、そこまでというあたりで許可したらというような形の話がここでは出ておったわけです。そういう意味では、核移植をした分もここら辺どまりというところまでの実験系ということでどうだろうかという話だったと思うんですが。
いろいろな御議論がありましたけれども、とにかく御意見をいただいて、もう1度考えてみるということでいいでしょうか。まとめるのは非常に難しいとは思いますが。
(永井委員)
要するにイギリスの場合は非常に具体的なんですね。フランス、ドイツというのは、法令を見てもわかるように、非常に組織だっていますが、イギリスは慣習法というように、その場その場で現実的かつ弾力的に対応していくことがここでも如実にあらわれているわけですね。
先ほど、高久委員の発言にも関係しますが、個体クローンをつくるという表現を、これをそのまま出しますと、ほんとうに人間のコピーをつくるのかというふうな形にすぐ短絡しがちである。そういう意味では、イギリス型のほうはかなり研究上の具体的な問題も踏まえて、かなり現実的な提出案を出してきているというような感じがします。こうした現実に立ちつつ、本日の議論を踏まえて、何かたたき台を出していただければと思いますけれども。
(岡田委員長)
これからの作業として、今、永井委員のほうからご提案がありましたけれども、この点で御意見はありますか。
(木勝島委員)
これはこの小委員会が設置される以前から考えていたことなのですが、今、再三ご指摘があった厚生科学審議会の先端医療技術評価部会というところで、すでに生殖医療全般についての検討を続けておられて、その論点の中にもクローンが入っています。ですから、今後の作業の進め方としては、上の生命倫理委員会のほうではなくて、この小委員会レベルで、先端医療評価部会の生殖技術の検討作業との共同のワーキンググループを作ったほうがいいのではないかと私は考えます。
(事務局)
何点かよろしゅうございましょうか。まず、ただいまの点ですが、学術審議会ないし厚生科学審議会のほうの審議、当然このクローン小委員会の審議に関係している部分があると思いますので、もしこの議論に必要だということであれば、それぞれの事務局に依頼をして、ここで関連する部分についてお話をしていただくなり何なり、そういったアレンジを我々が試みることは可能でございますし、そういったジョイントは当然考えられることだと思います。それが第1点でございます。
先ほどのこのペーパーのそもそもの趣旨でございますが、委員長と相談の上、事務局にて、論点整理メモという形でまとめましたのは、あくまでクローン技術が極めて特殊である、今までのものと、体外授精なりとは違う側面があるという、そこを念頭に置いてすべての論点がここに書き上げてあるはずでございます。したがって、これがこのクローン技術の特色ではない、これはあくまで非常に瑣末な議論であって、ほかの技術と大差がないのだという議論は一方であり得ると思いますが、あくまで他の技術、今まで使われている技術なりとは違う点、すなわち同じ遺伝的形質を持つほかの個体を産み出すものであるという点、そこに焦点を当てていろいろ議論をしております。
もしその特色がなければ、これはほかの医療技術と全く変わらないわけでありまして、まさにほかと同じ遺伝的形質を持つものが2つ存在するのかいいのかどうか、そこがこのクローン技術の特色だというふうに認識をして、その考え得る理由とか、考え得る規制の手段とか、考え得る評価とか、そういうものをやったということでございます。このクローンというものは、ほかと同じであるということから議論していただかないで、クローンというのはこの点に特殊性があるというところからぜひさらに議論をお願いしたいと思います。それが2点目でございます。
3点目でございますが、クローン技術の適用の側面で、医療的応用と研究への応用というのが、理念上分かれると思います。医療上の応用は、すぐそばの時点ではなくて、かなり先の議論になるというのは当然のことだと思います。ただ、この実態として、もしクローン技術を人に対して適用するという実態的側面を考えると、どちらも技術的には変わらないという部分があるのではないかと思います。
したがって、現実を見ると、同じ対応であるのに、片方は研究だからいい、片方は医療だからだめというようなことには多分ならなくて、現実が同じなら、それに対する考え方は1つだということになるのではないかということです。研究と医療というのが、このクローンの場合には、実態として見ると不可分ではないかという想定のもとにこのメモを書いているところがございます。むしろここではどこからが問題とすべきクローンなのか、判断すべきクローンの対象といったところをむしろ念頭に置いて、いろいろ記述をしてみているところでございます。そのクローンの特色というのは、冒頭申しましたように、同じ遺伝的形質を持つ人が2つ存在することになるという、クローン技術によってもたらされた新しい展開、まさにそこに着目をして議論をするということに基づいております。したがって、そこの同じ遺伝的形質を持つ人が2つ出てくる、人為的に出てくるということに重みを置いてあると思います。研究、臨床といったような分け方ではなくて、むしろ物理的対象として何が問題なのかという議論をしているというのがこのメモでの試みでございました。
したがって、そこのところ、研究と応用といった形で分けるとすると、どういう線で分けるのかといったような具体的にその分け方を考えるといったところからまた議論しないといけないと思いますし、実際に規制をするとなると、明確に何を規制するのかというのがわからないといけないということもあると思いますので、その辺、ぜひご議論の中で詰めていただければと思っております。
済みません、大変僣越でございました。
(岡田委員長)
最初のところで位田委員のほうから、3つの中の1つだけ取り上げているじゃないのという話があったわけで、ここのところのバランスも、言葉の上では少し考えてみたほうがいいんじゃないかなというのを最初に思いましたが、あとは唯一無二とかという問題点をあまりウエートを高く論点の主張の中に入れていってしまうと、こういう格好の産婦人科の領域の問題のところにどうしても入らざるを得ないなというのが僕の率直な印象です。この点については、更に議論が必要かと思います。
産婦人科領域のやつは非常に具体的な社会に密着した個々のケースで違う問題点が入り込んでくるわけですね、経済の問題も含めて。だから、そこのところを入り込んでいるところへどこでとめるか、ここの技術的なところを非常にはっきりとしておかないと、とめるところを間違いないようにどうするかという問題がありそうですね、技術的には。
論点としては、ある一貫性というのは必要だと、これは多分そうだと思います。その一貫性をとるとしたら、今、ここでまとめてあるような形の一貫性というのは、1つの方向としてはうまい工夫であって、これは相当大変だったと思いますけれども、それにしても、この一貫性の中の領域の中の法規規制するとしたら、ここだけということに多分なろうかと思うんですがね。そのときの説明の仕方というのが、どういう仕方があるかなというのが、この小委員会を集結させていくときの1つの工夫なんだろうなと思っているんですがね。
(菅野(覚)委員)
今、委員長がおっしゃいましたけれども、唯一とか、個性とかということを言い出すと、全然別の理由になってしまうような気がしまして、むしろ2つあるとかいうことはあまり問題じゃなくて、つくっちゃうのはいけない。つまり自然に反するみたいなことですね。例えば治療や補助ならばいい、つくるならいけないという大原則だけでそこのところはクリアしておいて、あとどこから治療か補助かとかというのは、またこれは別の話になるのではなかろうかと思うんですけれども。つくることにつながるようではいかんぐらいのところで話を、かえってそのほうが混乱するのかどうかちょっとわからないんですけれども、私は思います。
治療とは何かとかいうのは、またその後の問題で、治療すること自体が悪いということは多分ないだろうと思うんですね。ただ、どこが治療かどうかというのはまた別の問題ですけれども、ただ、今それはこの委員会の段階では多分議論されないことで、人クローンの問題をそこだけでやっておけば、これがほかのときに、あそこではこういう理由でやっているということで前例になるというか、それで十分じゃないかというような気はいたします。
(岡田委員長)
ありがとうございました。
本来であれば、もう時間を過ぎておりますので、皆さんの中にはご予定のある方もあると思いますけれども、どうぞ、ご予定のある方は外れていただいていいことにして、どうぞ。
(木勝島委員)
今おっしゃられた「つくる」という理由で規制するとしますと、やはり産婦人科領域のいろいろな技術が同じように問題になると思います。例えば、顕微授精などは、人為的につくっているという感覚でとらえる人がいるのではいでしょうか。そのために、よその国でも法規制の議論ではなく、科学的な安全性の議論が主ですけれども、盛んに議論されています。ですから、「つくる」ということ、あとは勝木先生の言われた選択育種であるという問題、それから、位田先生がおっしゃられたように、同一性だけではなくて、非決定性であるとか、有性生殖でないからとか、そういう幾つもの根拠となりそうな論点をこの小委員会で挙げていって、それを議論して、その中で説得力があることが確かめられて、残ったものを複数選んで取り出して、最終的な報告書を作成するという作業になると思います。
(岡田委員長)
どうもありがとうございました。
いろいろといい知恵を出していただいて非常にありがたいわけですが、できるだけ幅の狭いところのものとして規制措置の問題を処理できたほうが、この場合いいじゃなかろうかと思います。それも時限という格好のことをつけ加えてやるのがいいんじゃなかろうかということが、僕の率直な感じです。そのための論拠として、どこら辺を使ったらいいかというのを、皆様方のご意見を何とか事務局のほうへ出していただいて、私と事務局の方で整理したいと思いますのでよろしくお願いします。
(事務局)
次の回は4月13日に予定させていただいております。会場は、科学技術庁の第8会議室、これは通産省の別館の9階のほうになりますが、またご案内を申し上げさせていただきたいと思います。
若干の今後の関係会議の予定を申し上げてもよろしいでしょうか。親委員会である生命倫理委員会のほうが4月21日に予定されております。したがいまして、4月13日までの議論を踏まえまして、21日に何らかこの議論の経過をご報告するという形になると思います。その後、その生命倫理委員会に続きまして、科学技術会議の本会議もおそらく予定されると思いますので、そちらのほうでも、またこちらの議論を踏まえまして議論をしていただくということになると思います。
以上でございます。
(岡田委員長)
どうも長いことありがとうございました。