1.我が国における産学官連携施策 産学の連携・協力の推進に関する調査研究協力者会議まとめ(概要)

平成10年3月30日

特許等に係る新しい技術移転推進システムの構築を目指して

 大学と産業界との在り方を見直し、その連携・協力を一層推進するため、平成8年2月から、「産学の連携・協力の在り方に関する調査研究協力者会議」を開催し、その具体的方策について検討が行われ、昨年3月にそのまとめが文部省へ報告された。
 文部省においては、同会議のまとめ等を踏まえ、各種制度改善を図ったところであるが、本年度は大学の研究成果の社会への還元方策等について検討するため、昨年6月以来「産学の連携・協力の推進に関する調査研究協力者会議」を開催し、検討を進めてきた。昨年12月には、中間まとめを公表したところであり、各界各層の意見等を踏まえ、今般これまでの審議内容を取りまとめることとした。概要以下の通り。

はじめに

○ 大学(大学共同利用機関、高等専門学校を含む)教員による発明は知的創造の成果の一つであり、広く学術文化の向上に資する。

○ 学術研究の成果が特許等に結実し、広く社会に活用され、産業発展や国民生活の充実に寄与することは有意義。

1 大学等の研究成果の活用に係る現状と課題について

(1)背景

○ 近年における産学連携・協力に係る施策の進展
 社会の各方面から大学に寄せられる期待と要請に応えるべく、「科学技術基本計画」を踏まえ、主として企業に対する大学教員による研究協力の拡充等を実施。

○ 大学の研究成果の活用に対する期待の高まり
 大学においては、人的交流を通じ産業界へ技術移転が行われてきたが、今日、特許等を媒介とした新しい技術移転のシステムを構築していくことが重要。

(2)現状

○ 大学における研究成果(特許等)の権利の帰属
 国立大学における特許等(特許権及び実用新案権並びにそれらを受ける権利)は、学術審議会答申等により、各大学の発明規程に基づいて取扱われ、1)原則として、発明者個人に帰属するが、2)国からの特別な研究経費を受け、または国の特殊な研究設備を使用して行った研究の結果生じた発明は国に承継。

○ 発明に係る手続等
 国立大学の場合、1)教官等が発明を行った場合、大学長にその旨を届出。2)権利の帰属について「発明委員会」の審議結果に基づき大学長が決定。
 国が承継した場合、日本学術振興会が出願等の事務を処理し、更に日本学術振興会から科学技術振興事業団に対し企業での実施等を依頼。

○ 研究成果の産業界による活用状況
 大学における高い研究水準にもかかわらず、その成果としての発明や特許等が、大学によるものとして産業界において目に見える形で十分に活用されていない現状。

(3)課題と改革の方向

○ 大学における研究成果の特許化の促進に向けて
 特許に対する関心が低いため、特許を受ける権利が企業に譲与され企業においても特許化されない傾向。
 ⇒ 大学の研究成果の特許化の促進に向けて、具体的な施策を推進。

○ 特許の流通・活用の促進に向けて
 企業において特許が防衛目的で保有され実施されない傾向等。
 ⇒ 特許の休眠化を防止し、その流通・活用の促進を図るため、必要な環境整備を進める必要。

○ 技術移転機関の整備の促進に向けて
 大学の研究成果の特許化を促進し、適切な企業に実施させ、その対価を大学や研究者に還元し、新たな研究成果を生む循環システムを構築する必要。
 ⇒ 特許等を中心とした新しい技術移転システムの中核として、このような大学と産業界を結びつけるリエゾン機能(技術シ?ズの発掘、特許のあっせん・維持管理等)を果たす技術移転機関を積極的に整備する必要。

2 技術移転促進に向けての具体的方策

(1)研究成果の特許化の促進

○ 特許に対する意識改革等
 ⇒  関係者の特許マインドを高めるような啓発活動の展開等。

○ 特許取得に向けてのインセンティブと支援体制
 ⇒ 「学術研究における評価の在り方について」(平成9.12、学術審議会建議)に「評価の視点」の基準として「特許等の知的財産の形成」を考慮。
 ⇒ 研究者個人に対する特許取得のための公的な支援サービスの充実が必要。

○ 技術ニーズへの大学の機敏な対応
 ⇒ 「技術移転調査研究」契約の導入や学内に「技術移転協力委員会」の設置等産業界に大学の研究成果を利用しやすい形で提示する必要。

○ 発明委員会の運営改善
 ⇒ 発明委員会の運営をより迅速に効率的・効果的に行うため、部局単位化等発明委員会に関する取扱い等の見直しが必要。

(2)特許の流通・活用の促進

○ 技術評価の重要性
 ⇒ 企業や市場が必要とする技術シーズの発掘と、その応用可能性や市場価値について評価が必要。

○ 技術移転コーディネータの育成
 ⇒ 市場の眼で大学から革新的技術を発掘し、評価できる「技術の目利き」といわれる技術移転の専門家の育成が重要。

○ 中小企業等への積極的な技術移転
 ⇒ 新規事業の創造に意欲の高い中小・中堅企業やベンチャー企業等への技術移転を促進。

○ 実施料収入等の大学・研究者への還元
 ⇒ 実施許諾に伴う企業からの実施料等、特許の活用により生じた利益を大学や研究者に還元していくことを担保する必要。
 ⇒ 国有特許については、国立学校特別会計への実施料収入の貢献度に応じた共同研究等に係る校費の配分や、研究者への補償金の改善を図る必要。

(3)技術移転機関の整備の促進

○ 技術移転機関の機能と在り方
 1)研究成果の発掘・評価、2)特許取得・維持、3)企業への実施許諾、4)実施料収入の管理、5)事業化サービス等の機能
 ⇒ 大学の研究成果を市場メカニズムを通じた適正な対価で産業界に移転し、かつ研究資金として大学や研究者に還元され、更なる研究を促す好循環を生み出すことが期待。
 ⇒ 大学の教育・研究組織からは、独立した組織とし、その組織形態は、公益法人や株式会社、学校法人等が考えられるが、技術移転に実績を有する科学技術振興事業団との連携を図ることが重要。

○ 技術移転機関の運営
 ⇒ 取扱う特許権が実施料収入等の収益をもたらすまでには相当の運転資金と期間を要することが予想されるため、運営上の工夫が必要。

○ 地域社会との連携・協力
 ⇒ 大学の研究成果を地域社会において有効に活用する上で、地方公共団体等との積極的な連携・協力が重要。

○ 公的支援の必要性
 ⇒ 全国各地に普及させていくために政策的な支援措置を講ずることについて、法的な整備を含め検討する必要。
 ⇒ 科学技術振興事業団による技術移転関連事業を活用するとともに、キャンパス・インキュベーションなどリエゾン機能を有する新しいタイプの共同研究センターの整備を図る必要。

3 技術移転に関連する今後の検討課題

(1)産学の連携・協力に係る諸制度の活用・改善に向けて

 ⇒ 産学間の人的交流の推進を中心とした研究協力に係る諸制度の一層の活用と運用の改善。

(2)技術移転促進のための環境整備に向けて

○ 知的所有権の取扱いの見直し等
 ⇒ 権利の帰属の在り方については、発明委員会の存廃についての検討も含め、中長期的に見直していく必要。
 ⇒ 半導体集積回路の回路配置、意匠、商標、植物品種等の他の知的所有権についても大学における取扱いの在り方について検討する必要。

○ 私立大学の知的所有権に対する保護・尊重等
 ⇒ 私立大学と企業が共同研究等の個々の契約等を規定する際の参考となるような諸規程についての参考例の作成を検討する必要。
 ⇒ 私立大学と企業等との共同研究等を促進するため、外部からの寄附金の受入れ等、税制面での取組も重要。

○ 共同研究等の拡充について
 ⇒ 高速ネットワークを活用した情報通信技術に係る共同試験研究促進税制を拡充。
 ⇒ 国立大学等に受け入れた研究費について、その経理及び執行手続の簡素化・迅速化を推進。
 ⇒ 大学キャンパス内に民間等による共同研究施設の整備を推進。

(3)大学からのベンチャー企業群の創出促進に向けて

 ⇒ 大学の教員が自らベンチャー企業を起こしたり、役員や顧問としてベンチャー活動等への経営活動に参加することや、国立大学の教員のベンチャー企業等への再就職制限の在り方について検討する必要。
 ⇒ 大学教育の面においても、起業家精神を培い、ベンチャー・ビジネスを担い得る人材の育成を図る。

技術移転システムの参考例(説明図は省略してあります)

○ 参考例1:投資事業組合・VC(ベンチャー・キャピタル)方式
 (市場ニーズに基づく技術シーズの発掘)

○ 参考例2:研究者主導方式
 (研究者が技術移転機関に出資、技術評価・格付)

○ 参考例3:共同研究等併用方式
 (技術指導、共同研究、貸ラボ等事業化に向けた総合的技術コンサルティング)

(参考)本協力者会議の提言に基づく主な制度改善等の状況

1 研究成果の特許化の促進

○ 機動的な運営に向けた発明委員会に関する取扱いの見直し
 ⇒ 発明委員会の運営改善についての通知発出予定

2 特許の流通・活用の促進

○ 技術移転コーディネータの育成・活用とネットワーク化の推進
 ⇒ 科学技術振興事業団や財団法人日本テクノマートから、技術移転の専門家を大学に派遣、全国大学産学連携センター協議会との連携・協力

3 技術移転機関の整備の促進

○ 大学と産業界を結びつけるリエゾン機能を果たす技術移転機関を積極的に整備するための政策的な支援措置
 ⇒ 第142回通常国会に通商産業省等と共同で「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律案」を提出4月24日成立、5月6日公布

○ 大学自らリエゾン機能を有するとともに、共同研究等により事業化に向けて試作品の開発までを目指す新しいタイプの共同研究センターの整備
 ⇒ 平成10年度政府予算案において、キャンパス・インキュベーションを2大学(東北大学、東京工業大学)に設置

4 共同研究等の拡充

○ 私立大学において、産業界等との共同研究を推進する「学術フロンティア推進事業」を拡充
 ⇒ 平成10年度政府予算案において、環境、生命科学、情報通信等の学際的な分野の共同研究を支援するため、「学際領域共同研究推進プログラム」を創設

○ 私立大学と企業が共同研究等の個々の契約等を交わす際の参考となる諸規程についての参考例作成
 ⇒ 産学の連携・協力の推進に関する調査研究協力者会議WG2において検討、本協力者会議のまとめに併せ公表

○ 大学キャンパス内に民間等による共同研究施設の整備の推進
 ⇒ 施設の設置者に廉価で国有地を使用させることができるよう、第142回通常国会に科学技術庁等と共同で「研究交流促進法の一部を改正する法律案」を提出(3月13日)

○ 民間等外部から国立大学に受け入れた研究費について、その経理及び執行手続きの簡素化・迅速化を推進
 ⇒ 平成10年度政府予算案において、従来の受託研究関係経費等の予算科目を統合し、研究費執行時の自由度を飛躍的に拡大

5 産学の連携・協力推進のための税制措置(平成10年度税制改正)

○ 共同研究推進のため、企業に対する共同試験研究促進税制の拡充
 ⇒ 高速ネットワークを活用した情報通信技術分野における、大学との共同研究に係る法人税の一部を税額控除

○ 学校法人への民間資金導入の促進
 ⇒ 寄附講座等教育研究支援のための取崩し型の基金に充てる寄附金を全額損金算入

お問合せ先

研究振興局研究環境・産業連携課

(研究振興局研究環境・産業連携課)

-- 登録:平成21年以前 --