4.大学等発の新産業創出を加速するために早急に取り組むべき施策
国際的に見た我が国の産学官連携の遅れや、我が国の国際競争力低下等の状況にかんがみて、大学等発の新産業創出を加速するために早急に取り組むべき産学官連携の推進施策を検討した。以下のような施策が考えられる。
1)ニーズに対応した研究開発の推進等
1 産学官関係者による対話の場の形成
我が国の経済・社会の抱える課題、問題点について、情報を交換し意識を共有するために、地域レベルも含め「産学官対話会議(仮称)」の開催の検討。こうした産学官の交流を進める上で学協会の役割も極めて重要。
2 経済・社会ニーズを汲み上げる仕組みの確立と共同・受託研究の推進等
- 戦略的基礎研究事業等の領域設定・課題採択、研究評価への企業関係者の参加機会の増大。
- 経済・社会ニーズや課題に対応して実施される産学・産官共同研究を促進するため、産業界やその相手方となる大学等に対し、誘因を高めるための「マッチングファンド」を提供。
- 民間からの教育研究資金の流入を活発化するため、特に私立大学が受ける寄附金・大学が行なう受託研究の充実のための環境整備について検討。
- 国立大学の共同研究や受託研究の契約において、研究成果の公開と特許化のタイミングの調整、研究成果の取扱い(相手方企業の独占的使用)を事前に明確にするなど契約上のルールの明確化や現場レベルでの自由度の拡大。
- 大学等の判断により受託研究・共同研究契約の柔軟な運用ができるよう実例研究の実施。
- 産学共同教育プログラムの開発やインターンシップの推進。
- 大学、TLO等が有する技術情報のデータベース化・公開の促進(例えば、JST(科学技術振興事業団)の技術シーズ用データベース化事業(J-Store)の活用)。
2)研究成果の効果的な社会還元の推進
1 大学等における特許等知的所有権政策・方針の確立
- 法人化後の国立大学の場合、大学で生じた特許の大学組織有原則、組織管理体制へ転換することを検討。また、法人化後の特許政策・方針の整備の在り方について国立大学の法人化の検討状況を踏まえつつ検討。
- 大学等における特許取得意識の浸透。関係省庁・団体等との連携による特許等に関する教育・人材育成の充実。理工学系学部において学生対象の特許関連演習を実施。
- 学生、ポストドクトラル研究者の特許取得支援の推進(TLO事業やJSTの特許化支援事業の活用等)。
- 我が国の技術移転機関の整備充実・強化。産学官連携の大きな潜在的能力と意欲を有する大学等におけるTLOの整備、国有特許を管理する認定TLO制度の活用及び独自のTLOを持たない大学等に対する、特許化支援の強化。
- バイオ・医薬分野など知的所有権を巡る国際的競争が特に激しい分野に対応し、時期を失することなく有用な特許取得をするため、大学等の研究者を対象とした全国的な特許化アドバイス・ネットワーク(「緊急特許化アドバイス・システム」(仮称))の構築の検討。
2 研究者・大学等の産学官連携への誘因強化
- 国家公務員の発明補償金制度の上限撤廃等による、研究者の産学官連携に対する誘因の付与。
- 大学等の機関評価を行なう際に、共同研究や受託研究の成果を評価者の判断により研究評価に反映。また、研究者が共同研究や受託研究等を通じて産学官連携に貢献した実績も評価者の判断により各機関における研究の評価に反映。
3 大学等の研究者の兼業・休職等の一層円滑な活用と更なる規制緩和
- 国立大学において、一週間に一日程度、兼業(人文社会科学系分野におけるものを含む。)を可能とするルールと運用の明確化等について検討。(ベンチャー企業の研究成果活用型役員兼業又は研究開発・技術指導若しくは経営指導型兼業等について可能とする。なお、国立大学の法人化の検討においては、業績等に応じた給与体系、裁量勤務制、非公務員型も視野に入れた検討など研究者や教員の能力や業績に応じた柔軟な対応ができる新しい人事制度の検討の中で、職員身分、兼業等の在り方を取り上げている。)
- 兼業に伴う多様な報酬の在り方の検討(コンサルティング兼業(非役員兼業)における報酬としてのエクイティ(株式等)の取得等)。
- 研究成果活用型(兼業)休職制度について周知を図る等により、いわゆるベンチャー休職を促進。
- 商法改正の議論を見つつ、社外取締役兼業の検討。
- 既存の兼業等の措置において、マニュアルの作成、説明会の開催などにより、「できる範囲」を明確化し、大学現場での円滑な運用促進。
3)大学等発ベンチャーの促進等
1 大学等内ベンチャー育成システムの整備
- 大学にインキュベーション機能を付加するため、国立大学の研究成果や人的資源に基づくベンチャー企業を計画する者や設立後間もない株式公開前のベンチャー企業、あるいは大学発ベンチャーを受け入れる民間のインキュベーション機関を国立大学共同研究センター等に直接受け入れることを検討。さらに、大学等発ベンチャー企業に対する親元の施設・設備の使用料軽減等や当該インキュベーション機関役員・コンサルタント業務への兼業等の可能性を検討。
- 大学の共同研究センターやリエゾンオフィス等へ、法務・会計実務者、ベンチャーの経営全般の支援を行なうインキュベーター・マネージャー等の専門家やベンチャー企業経験者等を派遣。
- ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(VBL)の整備を促進するとともに、共同研究センターとの連携を一層強化。
2 大学等発ベンチャーのスタートアップファンドの充実
- 大学等発ベンチャー対象のファンド(投資基金)と公的資金原資のファンドの連携促進。民間のベンチャー・キャピタリストによる投資先審査の促進。
- 若手研究者、ポストドクトラル研究者、大学院生などが大学で生じた研究成果を活用してベンチャーを立ち上げた場合の設立段階や初期段階の研究開発資金提供と国内外の優れた人材による法務・契約実務、研究補助、経営への支援事業の創設(「大学発ヤングベンチャー・スタートアップ事業」(仮称))。
- 一気通貫のベンチャー育成事業の整備(各種技術移転施策の統合と戦略的実施)。
- 独立行政法人が自らの研究成果を事業化する企業等に対して出資する制度や知的所有権について価格を評価した上で現物出資する制度の可能性の検討。
- 大学等発ベンチャーを効率的に育てる観点からこれまでの国・地方公共団体のベンチャー支援策(税制、融資などを含む。)の総点検と運用改善を行うとともに、技術シーズの発掘・育成、特許化支援から技術の育成・開発支援のためのファンド提供・経営指導によるスタートアップ支援まで、大学等発ベンチャーを総合的に支援する施策を推進。
- 数多くのベンチャー関連施策の中で大学発ベンチャーの支援という観点や利用者の立場に立って、施策を分かりやすく整理・解説したマニュアルの作成、大学への情報提供や大学での説明会の開催。
3 起業家人材育成等による大学発ベンチャーが出やすい環境の整備
- 産業界からの講師の派遣等の協力も得ながら、学部レベルでの、例えば理工学系学部を中心として、知的所有権や企業経営、技術経営等起業家育成に関する授業科目の開設の促進。
- 大学院レベルのビジネスコース、技術経営コースなどの整備やビジネスプラン作成など実践的な学習機会の提供の促進。また、これらを通じて、大学内で、技術者と経営分野の専門家や起業家志望者が出会える場の整備。
4 知的クラスター等の整備
- 従来の公的研究機関集積地域や産業立地施策の問題点を十分分析しつつ、第2期科学技術基本計画にも示されているように、大学等を核とした産学官連携と新産業の創出により、国際的にも競争力が高い産業・文化的集積を目指す「知的クラスター」の整備を検討。
- ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料等分野別の研究開発プロジェクトを実施し、又は重点的、戦略的産学官連携拠点を整備する際に、研究と経営両面で世界的水準の人材の登用を推進。最先端研究において独創的シーズを実用化に結びつける仕組みの内在化。最先端研究プロジェクトにおける連携大学院の活用等により大学院生等若手人材の参加促進。
- 地域の潜在的な研究能力を結集し、関係研究機関の有機的連携によるネットワーク型共同研究事業等の充実。
5 ベンチャー起業や新産業創出を促進する経済・社会環境の整備等
- 小規模株式会社の設立に対応した制度整備、日本版LLC制度(Limited LiabilityCompany: 有限責任制)導入の検討等により、起業しやすい環境の整備。
- 会社更生手続における企業再生への制度充実など起業に再挑戦のしやすい仕組みの整備、ベンチャーキャピタルによるベンチャー起業における直接金融を円滑に運用するための制度整備(「間接金融」から「直接金融」へ)など「セーフティネット」の整備。
- 技術力のあるベンチャー企業等の入札参加機会が拡大するよう大学等の入札制度の改善や、ベンチャー企業が創出する最先端技術分野の製品を他の研究者が活用できる環境の整備等によるベンチャー起業を支える仕組みの整備。
- ベンチャー起業や支援に関する相談窓口の充実。現在整備されている中小企業支援センターの充実と、大学等発ベンチャー起業の相談体制として十分機能しているかどうかの点検。
- 先端技術分野、特にバイオ系分野を中心とした弁理士の養成促進。
- 論文から出願までのギャップを埋める簡便な特許出願制度、補正制限の適正化、ライフサイエンス等最先端の研究分野における特許範囲の明確化、大学等による外国出願における優遇措置等の検討など大学等における研究成果の特許化推進や大学等発ベンチャーも念頭に置いた特許制度の改善・整備や必要な検討。
4)産学官連携を支える組織の強化と人材の育成
1 組織的産学連携活動を推進する総合窓口の整備
- 産学連携に取り組むすべての大学において、一本化された対外窓口(ワンストップ・ウィンドウ)の整備と関連部署(TLO、契約部門、各学部等)への連携体制の確立(窓口担当者を明確化)。教育・研究の情報提供・学内相談組織の紹介や学内研究者、学生からの産学連携活動、制度等に関する相談にも一元的に対応できるような体制整備の検討。
2 大学のリエゾン機能、TLO機能、インキュベーション機能等の強化
- 共同研究センターのリエゾン機能向上実現のため、センターの産学連携関連事務を研究協力部課室が担う体制を構築。
- 共同研究センター等大学の産学連携組織の専任教員には公募制度の活用等により、民間企業経験者等を積極的に登用。
- 大学のリエゾン・契約機能や教員等へのエージェント機能を充実するため、大学の共同研究センターやリエゾンオフィス等へ、企業経験者等を産学連携コーディネーターとして派遣。
- 共同研究センター等において、優れた技術の目利き、技術管理者、弁理士、経営指導者等の常駐を促進。常駐が困難な場合には、随時電子媒体を通じ相談が可能なコンサルティング・ネットワークを形成。
- TLOの特許出願、管理の一部支援、技術情報発信・検索事業等におけるJSTの協力により、TLOの機能を強化。
- TLOにおいて、技術コンサルタント、産学の共同研究・受託研究の斡旋、大学等発ベンチャー起業への支援等多様な機能の充実、強化。
- 商法改正の動向を踏まえつつ、TLOによる大学等発ベンチャーのエクイティ(株式等)の管理体制を整備。
- 共同研究や受託研究における契約に要する時間の短縮(相談開始から研究開始まで「現状1か月半から2か月」を「1か月以内」へ)。
3 産学官連携を支える人材の育成
- 米国のAUTM(Association of University Technology Managers:大学技術管理者協会)の人材育成プログラム等を参考にしつつ、目利き人材の育成プログラムを開発し、研究成果活用プラザ、共同研究センターとTLO協議会との協力により計画的に人材養成を行なう(5年間で目利き700人)。経済団体等とも連携しつつ指導者として企業の知的所有権部門経験の専門家等を活用。また、指導者の養成のため、海外のスペシャリストによる特別講義やプログラムへの参画を実現。
- 共同研究センター等を有する大学契約担当職員等の技能向上(実践的研修の実施、海外派遣等)。