「知」の創造と活用を図ることに大きな価値が置かれる「知識社会」の到来により、産・学・官のそれぞれのセクターにおいて産学官連携への動機が高まりつつある。「知識社会」においては、大学等の活性化と国家・社会の発展のために産学官連携の一層の強化が必要である。
「産」においては、IT(情報技術)の進展を背景としたグローバリゼーションの浸透(世界的規模での競争市場の出現)により、「選択と集中」を基本とし、変化に迅速に対応できる企業経営が有効とされるようになった。これに伴い、産業界では、事業ごとの提携戦略の採択と研究開発戦略における「基礎研究」から「開発」までを自社あるいは関連企業内で完結させる方式から「開発」重視への転換の傾向が見られる。また、分野によっては、独創的な基礎研究から製品化のための技術開発に至るプロセスが短縮されつつある。こうした状況の下で、企業は、大学を単なる人材供給源としてだけではなく、政府系試験研究機関も併せて、独創的技術シーズ創出のためのパートナーとして、そして、研究開発・人材育成の外部委託先としても意識するようになってきている。
「学」においては、大学教育の大衆化・多様化が一層進み、産業界のニーズにも配慮しつつ個性的で実践的な人材を輩出することが強く求められるようになった。また、企業経営の変化、産業技術の高度化などに伴い、社会人再教育などの生涯学習ニーズも増大し、これにこたえる必要がある。研究面では、従来型の学術研究に加えて、「俯瞰型科学」など社会的問題の解決や社会での応用を主眼とする研究様式の広がりなどが認識され始めるとともに、ITの急速な進歩により、様々な組織・機関の研究者による共同研究の実施もより簡便になってきた。
「知識社会」における国際競争力確保の必要性から、世界各国で、科学技術への効率的投資、研究成果の活用やこれに基づく起業支援、教育・人材養成の強化等を通じて国家レベルでのイノベーションシステムの構築を試みる動きが広まっている。その中で大学等は、社会全体の「知」の源泉として重要な役割を担っており、大学等の研究成果等を活かすための産学官連携への国家的な期待・要請の高まりが見られる。また、地域レベルでも、地方公共団体による同様の期待の下で、活力ある自立した地域づくりの有力な政策として、大学等の独創的コンセプトから生じた技術シーズに基づく起業支援や新産業創出を目指した様々な取組が行われている。
特に、我が国では、平成13年3月に閣議決定された新しい科学技術基本計画にも述べられているように、経済・社会のいわゆる「空白の10年」といわれる厳しい時期を経た後、その反省に立ち、新たな世紀において真の「科学技術創造立国」としての発展を目指すとともに、経済・社会の構造改革を実行することが緊急の課題となっている。こうした流れの中で、我が国における大学等の発展と経済・社会・地域の活性化のために、産学官連携の一層の強化が求められている。
産学官連携には多様な形態がある。一つの考え方として、その形態を、
の五つに類型化できる。ただし、実際の産学官連携においては、こうした活動が相互に密接に関連しており、例えば「技術相談」活動が、「技術移転」と「コンサルタント」の両方の要素を含むように、産学官連携が同時に複数の側面を構成することもあり得よう。このほか、教育研究情報の発信、産学官関係者の交流など、本格的な産学官連携の前段階ともいえる諸活動や企業からの大学等への寄附講座・建物の整備、企業の産学交流施設の大学敷地内への建設等の支援措置等も、広い意味での産学官連携に含めることができる。こうした産学官連携関連活動の多様性を踏まえて、産学官連携の在り方や施策を検討する必要がある。
また、新しい「知」の時代における学術研究の総合的推進、技術革新の創出、社会的問題の解決等の観点からは、これまで取り上げられることが多かった自然科学分野のみならず、人文・社会科学分野における産学官連携の推進にも留意する必要がある。さらに、産学官の担い手となる企業、大学等の規模、形態、研究分野等によって、様々な産学官連携の進展があることにも配慮すべきである。
「知」の時代における産学官連携は、社会の中核的な知的集団、あるいは「知」の源泉としての大学等がその教育・研究を活性化させ、社会の信頼を得つつ発展するための有益な手段であるといえる。したがって、「今後は、大学等がその社会的使命を果たす上で不可欠な大学等自身の問題として、また、学術研究の進展の重要なプロセスとして」(平成11年6月学術審議会答申)、より主体的、組織的に産学官連携に取り組む姿勢が求められる。
大学等における研究活性化の例として、大学等の研究者が企業との共同研究等産学官連携に参加する場合には、
などの利点が考えられる。
また、大学における教育への影響の例として、最先端の産学官連携プロジェクトに、大学院課程の教育に差し障りのない範囲で大学院生(特に後期博士課程の学生)を参加させることには、
などの利点が考えられる。この際に、大学院生には広い視野の教育の機会を提供し、独自性と学問の探求を深めるための教育上の配慮が必要である。
さらに、産学官連携は、大学等の責務としての教育、研究の成果を「社会貢献」に活かすための一形態であり、公的な教育・研究機関として産学官連携を通じて研究成果等の社会還元を進めることは、大学等がその存在理由を明らかにし、大学等に対する国民の理解と支援を得るという観点からも重要である。
研究振興局研究環境・産業連携課
-- 登録:平成21年以前 --