第5期先端計測分析技術・機器開発小委員会(第9回) 議事録

1.日時

平成22年11月24日(火曜日)14時~17時30分

2.場所

文部科学省 3F2特別会議室

3.議題

  1. 総合科学技術会議アクション・プランへの貢献方策の検討
  2. 知的創造プラットフォームの構築について
  3. その他

4.出席者

委員

上野委員、長我部委員、近藤委員、志水委員、菅野委員、杉浦委員、
杉山委員、竹内委員、玉田委員、中村委員、二瓶委員、原委員、
松尾委員、森川委員、山科委員

文部科学省

池田研究環境・産業連携課長、能見新技術革新室長、寺崎研究環境・産業連携課課長補佐

オブザーバー

澤田独立行政法人科学技術振興機構開発総括  
本河独立行政法人科学技術振興機構開発総括
安藤独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進部長
佐藤独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター フェロー
丸山独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター フェロー

5.議事録

【主査】
 定刻になりましたので、本日の委員会を始めさせていただきたいと思います。議事に先立ちまして、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。

  <事務局より配布資料の確認>

【主査】
 ありがとうございました。それでは本日の議題に進めさせて頂きます。

 

(1)総合科学技術会議アクション・プランへの貢献方策の検討

【主査】
 前回の委員会で京都大学の小久見先生から、蓄電池の技術に関するお話を伺いました。本日は、さらに関連の分野で4名の先生方をお招きしてございます。それぞれご講演20分、質疑応答8分、それから全体終了後、全体を通して15分の意見交換というスケジュールで進めたいと考えております。
 それでは、まず初めに、東京工業大学大学院理工学研究科の小長井先生からご講演をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

[1] 太陽電池の研究開発における先端計測分析技術・機器開発の必要性

     東京工業大学 大学院理工学研究科 教授 小長井 誠  氏

【説明者】
 東京工大の小長井でございます。本日は委員会にお招きいただきまして、どうもありがとうございます。
 本日は先端計測分析技術・機器開発ということですので、なるべくこの分野に関連した話題を提供させていただきたいと思っております。本論に入る前に、太陽電池の研究開発の動向を数枚見ていただければというふうに思います。スライド1は世界の太陽電池生産量の年次推移を示したものでございます。このところずっと40%ぐらいの割合で世界の生産量が増えております。2004年あたりまでは我が国の生産量は半分ぐらいあったんですけれども、現在は中国、台湾、ここら辺が非常に伸びてきておりまして、我が国の貢献は少し下がっているということでございます。安いシリコン太陽電池はどうしても中国にかないませんので、これから我が国がほんとうにこの分野で生き残っていくには、非常に効率が高いもの、信頼性が高いもの、こういうものをつくっていかなければいけないわけで、そういう意味でも先端計測分析技術、これは非常に重要な分野であります。

 スライド2はこれから2015年に向けて製造設備がどんなふうに増えていくかというものでございます。2015年になりますと、70ギガワットくらいの生産設備になります。そのとき一番多いのは中国でありまして、台湾、これから韓国も出てまいります。将来的には日本の貢献を3分の1まで戻したいというのがNEDO等で議論している内容でございまして、そのとき、やはり技術力でそこまで伸ばしていくということが一番重要であろうと考えております。

 NEDOは太陽光発電技術開発ロードマップというものをつくっております。これは2030年まで、2050年まで、いろいろなフェーズのものを並べておりますが、この目標を達成するには、幾つかのブレークスルーを経て達成されるというわけであります。日本の場合には7円/キロワットアワーというのが1つの大きな目標になっているわけでございますが、これを達成するにはもちろん製造コストが安くなければいけないんですけれども、変換効率を高くするというのが非常に重要な要素になります。そういうことで、先端計測分析技術も効率を上げるところに大きく貢献するといいなというのが正直なところであります。

 本日は、結晶のシリコンとシリコンの薄膜、銅、インジウム、ガリウム、セレン、CISと呼んでおりますけれども、この辺のものについて、私のほうで話題を提供させていただきます。色素、有機につきましては、この後、韓さんがお話しされるかと思いますので、その辺を中心に提供したいと思っております。

 今は7割以上は結晶シリコンになっているわけですが、これからもこの材料はなくなることはないと思います。これからの動向としては、現在、この太陽電池の厚さが200ミクロンくらいなんですけれども、それを100ミクロン、50ミクロンというふうに薄くしていかなければいけない。これは性能を上げるためにも薄くしなくてはいけないんですけれども、そのためには、どうしても表面の評価が一番重要です。というか、逆に表面再結合をゼロにするようなパッシベーション膜とか、そういったものが大変重要でありまして、1分子層でどういうふうになっているかという、そういった解析技術が非常に重要になります。

 サンプルをお見せしますと、これは普通に売られているキャストのシリコン太陽電池でありまして、200ミクロンあるんですけれども、これはかなり欠陥がたくさんあって、多結晶の材料はこのバルク自体の評価も重要なんですけれども、これから性能で勝とうとしますと、どうしても単結晶で、しかも薄いもの、この表面がきっちり制御されたもの、そういうものが必要でありまして、それをどうやって評価していくかということになろうかと思います。

 まず、こういう結晶を評価するとき、一番重要なものはライフタイムの測定です。ライフタイムというのは、キャリアのライフタイムなんですけれども、光を当ててからどのくらいの時間生きていられるかというもので、これは結晶自体の評価としても必要でありますし、それから表面をパッシベーションするときの、そのパッシベーションの効果を見るのが重要なんですね。特にバルクの質が高い場合には表面再結合にセンシティブな技術であります。

 ライフタイムの測定には、普通はマイクロ波の光導電減衰法というのを使います。これはキャリアのディケイの時間をマイクロ波の反射で見るというもので、今広く使われております。ただ、この方法の問題は、深さ方法の情報があまり出ません。例えば波長を変えてこういうことができますと、バルクのライフタイムと表面再結合、あるいは縦方向の分布がわかるようになるので、こういう方法も1つ必要ではないかと考えております。

 もう一つは、QSSPCという方法がありまして、さきほどの方法ではレーザーの強さは一定なんですけれども、これは数けたにわたって入射光の強度を変えまして減衰をはかります。そうすると、実動作に近い状態でライフタイムを測定することができますので、例えば性能がどのくらいかというのをある程度予測できるようになるんですね。これについては、実はまだマッピングできるような技術になっておりませんので、こういうものをこれからウェーハの中でマッピングできるようになると、結晶の開発という点では重要な技術になろうかと思います。

 それから、これから一番重要になるのは、界面そのものの評価だと思います。太陽電池の表面というのはパッシベーション膜というのがついて、表面再結合を極力抑えているんですが、それだけではなく、酸化膜の中に固定電荷を入れております。プラスの固定電荷を入れる技術はある程度確立されているんですが、今、ネガティブのチャージ、マイナスの電荷を持ったものを取り入れるというのが非常に重要な課題になっております。その際、どういう原子配列からマイナスのチャージが出てきているか解析するのが非常に重要でありまして、例えば光第二次高調波、こういうものを使いますと、非線形効果である程度見ることができます。こういうものが装置化されて、すぐにマッピングできるというようなことになると、シリコン太陽電池の開発には非常に大きなインパクトがあると思います。

 次は薄膜太陽電池であります。今、薄膜太陽電池として売られているのはアモルファスシリコンと、アモルファスシリコン・微結晶シリコンのタンデムですが、将来的にはシリコンの薄膜太陽電池も大変効率を上げなければいけません。例えばモジュールで18%、セルで20%ぐらいですね。こういう技術ができますと、普通はガラスの基板を使うんですけれども、ガラスの基板じゃなくて、こういうフレキシブルもできるわけでありまして、こういうものをどうやってよくしていくか、いろいろな評価技術が必要だということです。特にこれからは性能を上げるために3接合の太陽電池を使わなければいけません。
 アモルファスはある程度評価技術は固まっているのですが、この中で使われております微結晶シリコンというのが非常に複雑な材料でありまして、ナノレベルでの評価が非常に重要です。
 微結晶シリコン太陽電池というのは禁制帯幅が1.1エレクトロンボルトくらいで、構造がナノクリスタルなんですね。数十ナノメートルの結晶の周りをアモルファスの層が囲んでおりまして、それに非常に質が高いものが得られております。構造制御、質の制御が非常に重要です。それからよく見るとグレインっぽいものが見えるんですけれども、そのグレインが太陽電池の特性にどんなにふうに影響を及ぼしているかという、ミクロ、あるいはナノのレベルの評価技術というのが非常に今重要なところであります。
 アモルファスと微結晶の結晶性自体をはかるのは、ラマン散乱分光というのがありまして、ポイントでは測ることができます。例えばアモルファスですと、かなりブロードなピークとしてラマンが観測されますけれども、微結晶になると、結晶のピークが出まして、こういうものを理論解析して結晶化率何パーセント等、実際には評価しているわけであります。これも、縦方向の深さ方向の情報が得られると大変参考になると思っております。

 それからもう一つ、あるいは透明導電膜の上につけたときに、その膜厚がどのくらいついているか、あるいは屈折率がどうなっているかという分布をはかることが非常に重要です。現状では、ポイント、ポイントで分光エリプソメトリーというのを使っております。これを使いますと、厚さ、それから屈折率等々が全部出てまいりますけれども、これをこれから拡張して大面積でやりたいというのがかなり、製造の面からも希望が出ているところであります。

 それからアモルファス等の欠陥は、現状CPMという方法、一定光電流法というのと、PDS、光熱偏向分光法測定というのがありまして、吸収係数も今10の0乗/センチ、あるいは10のマイナス1乗/センチという非常に小さいところまで測れます。CPMというものは、かなりいい材料について適用できます。それからPDSというのは、欠陥がありますと、そこで光が吸収されて、熱に変換されます。その熱を検出する方法なんですけれども、こちらのほうはまだかなり課題がありまして、こういうものがさらに磨きがかけられると、材料開発している人は大変助かるというような状況です。

 これは岐阜大の藤原教授のもので、分光エリプソメトリーの開発をやっているようです。今、ターンキーという装置がありまして、いわゆる装置のスイッチを入れたら自動的にできてしまうようなものですけれども、世の中では5平方メートルくらいの基板の上にアモルファス、あるいは微結晶をつける装置というのが出ているんですね。ところが、この上でどういうふうに分布しているかということについて全く情報が得られないわけです。これは1つの測定例でありまして、透明導電膜の厚さの分布を見たものなんですが、こういうものを高速でやる技術というのが重要になってくるということでございます。

 それから、微結晶シリコンについては、今のようなマクロな評価だけではなくて、もっとミクロな、今度は原子レベルでどういうふうになっているかというものを見るのが大変重要であります。特にグレインがたくさんありますので、そういうところの影響とかを見なくてはいけないわけであります。

 今まではこういうふうに、AFM等を使いまして、ローカルにどういうふうに電流が流れるかとかいうような技術をやっているグループがあります。これは岐阜大の野々村教授等々がやっているわけですけれども、こういった技術も、実は表面から形を見ただけではわからないんですね。実際にポイント、ポイントではかって大面積でどうなっているかとか、そういうこともやらなきゃいけないし、もっとミクロな面でどういうグレインはよくて、どういうグレインが悪いとか、そういうこともかなり細かく評価しなければいけません。彼が言っているのは、走査型原子間力顕微鏡を用いた光起電力特性評価装置ということで、非常にローカルに見て、グレインとか、どんなふうに影響を及ぼしているかというものを見る装置が必要であるということであります。

 それから今話題の銅、インジウム、ガリウム、セレンです。これも日本ではこれから1ギガの生産規模で大規模な生産が始まるところですけれども、この材料はまだまだよくなる可能性がありまして、特にミクロなレベルでの評価が非常に重要です。この構造はガラスの上にモリブデンがありまして、銅、インジウム、ガリウム、セレンがあって、透明導電膜がついた。こういう構造になっているんですけれども、ここの中の構造評価というのが非常に重要であります。

 次はCISの断面を走査電顕で見て、いわゆるEBIC像を見たものです。これは多結晶ですのでグレインがたくさん見えるんですけれども、光電流が出ているところと出ていないところがあるというのもわかりますし、現在の細かい技術を使いますと、実はこういうふうにグレインを見たときに、1個1個のグレインがどっちの方向を向いているかというのがわかるんですね。そういうグレインの方向に対して、質がどうなっているか、断面を見るのが非常に重要。ただし、まだミクロのレベルなんですね。もっと細かいレベルまで下げていく必要があると思っております。

 それから、今こういう分野で使われておりますのはSSRMという方法でありまして、断面を見たときに、プローブの先のところのキャリア濃度が幾らかというのが分布として出てくる技術なんです。これも大変重要で、例えば先ほどのEBICの像とSSRMという方法でキャリア濃度をはかりますが、そういうものを見ますと、グレインによってキャリア濃度が高いものと低いものとか、いろいろ出てきまして、やはりこの材料はまだまだポテンシャルが高い。つまり、すれてからうまく光電流が出てくるようなものをつくると、もっと性能が上がるということになりまして、こういうようにミクロのレベルの解析が非常に進んでいるところであります。

 これはあくまでもミクロなレベルの解析でありますけれども、これからはさらに細かくしていかなければいけないというところがありまして、最終的には透過電顕を使って、ナノレベルで構造と、例えばEBICならEBICでもいいんですが、そこから予期される電気的な特性の関係を見ていきたいと。特にCISの場合には、今ガリウムが30%くらいのところまで入れていきますと性能が悪くなりますので、特にそういったワイドギャップの材料に対して質をよくするのにこういう技術も非常に有効になるだろうと考えております。特にCISの関係は必要なものが非常に多いと思います。

 それから話が変わりますが、システムのサイドから見ると、何が重要かというと、100キロ、200キロと並べたときに、どうしても故障というのは起きる可能性があります。そのときにどこが故障しているかというのを一発で見る方法というのがほんとうは欲しいんですね。1枚1枚のモジュールについては、現状、例えば順方向に電流を流しますと、シリコンといえども光りますので、そういう光を見るとか、あるいは逆方向にバイアスかけるとホットスポットというのができますので、そういうところを見て、赤外で見てどこがおかしいかというのを見ることができるんですけれども、大面積で見たときにどのような故障がどこで起きているのかみなければならない。

 まとめとして、2020年、30年に広く実用化されている太陽光発電システムに望まれる先端計測分析・機器として、1つは、原子レベルでの評価。これは界面の組成、電荷の発生メカニズム、欠陥準位、キャリア寿命等々ですね。それから大面積で考える場合には製造ラインの適用ということで、面積が数平方メートルの基板上でいろいろな物性を評価するということが重要です。プラス、太陽光発電システムの評価・診断技術というのも実は応用には非常に重要な分野です。

 

【主査】
 ありがとうございました。 それでは、ご質問、ご意見をお願いしたいと思います。

【委員等】
 微結晶シリコンとアモルファスシリコンの太陽電池の場合、劣化の問題をどのように見るのかが残っていると思いますが、どのような状況でしょうか。

【説明者】
 アモルファスシリコンだけの場合には、この層は光劣化というのを起こします。現状では、屋外暴露を始めて1カ月か2カ月でその劣化はとまるんですけれども、10%ぐらい劣化するんですね。これがゼロになれば、一番重要な研究課題になります。手を尽くしてやっても、ゼロになるような技術はないというところが現状です。
 材料は同じでも光劣化を下げるために2層タンデムにしております。基本的には電圧が高くて電流が低いものをつくりますと、光劣化はおさまります。それから微結晶自体は光劣化しません。ということで、現状では、デバイスの構造を工夫して光劣化をかなりおさえています。

【委員等】
 そこに関しての計測課題はないのでしょうか。

【説明者】
 例えば、光劣化した結果、何が起きているかということは全部わかっているんです。どういうところにレベルができるかもわかっているんですけれども、それをいかにとめるかということが、いろいろな手段でやっているんですけれども、まだ根本的な解決には至っていません。

【委員等】
 太陽電池の計測というのは非常に大きな面積の中の小さなものをはかるということになると思います。それはデータ処理の問題が非常に大変になるのではと思うんですが、システムの評価として何か手段があるのでしょうか。

【説明者】
 それはそんなに膨大なデータになるわけではなくて、あるレベルの電源を持ってきて、順方向に電流を流して、光るか光らないかで故障を検出します。1枚1枚のモジュールのレベルについては、それは実際に行われています。

【委員等】
 標準化等の動きは、現在どのような状況でしょうか。

【説明者】
 標準化については、IECのほうで別途やっております。ただ、標準化へ行くには、あるレベルのものが必要となりますので、もちろん結晶シリコン等々は既に全部行われています。今、アモルファスも大体できていると思うんですけれども、CISを測定するときにどうするか、そういうところを議論している段階で、モジュール自体の標準化については、色素増感、有機は、まだそこまで行く段階になっておりません。

【委員等】
 例えば産業界の立場に立ちますと、日本がつくっているモジュールもあれば、中国や韓国がもっと安いものが出てくる。勝負はそれが何年もつかだと思います。日本の性能がすばらしいんだけれども、価格的には外国のものに押されている。そこの勝負をするときに、武器になるのは標準化だと思いますが、そこを日本がイニシアチブをとれるとまた違った展開に繋がるのではないかと思います。

【説明者】
 性能が高いのと、寿命が長いので勝負するしかないんです。ご指摘の通りです。ただ、寿命が長いというふうに例えば中国の企業が宣伝されても、直ちにそれを実証することはなかなか難しい。現在は、日本の企業は非常に慎重ですから、例えば15年保証ぐらいしかしていないかもしれません。ただし、そういうふうに宣言したら、5%出力が落ちたら、全部取りかえなきゃいけないわけですね。こういうことがあるので慎重になっていると。ただし、実際には20年、30年使えております。一方、中国の企業は、必ずしもそういうエビデンスがなくても、25年保証と言っているところが一部あります。今、中国でシリコンの太陽電池をつくる工場を建てるのでも、土地、電気代が無料。国家としてそういうことで取り組んでいます。ですから、コスト面では、日本ももう少し集団で取り組まないと勝負にならないです。

【主査】
 どのような部分の評価が最も性能向上にかかわるのでしょうか。

【説明者】
 性能を上げようとすると、単結晶でやる必要が出てくると思いますので、現状レベルではキャストの太陽電池のほうが多いんですけれども、これから少しずつ単結晶にシフトするかもしれません。そのとき一番重要なのは界面です。必ず表面にはパッシベーション膜というのがつくんですけれども、そこの界面がいかにきれいか。あるいは固定電荷を発生させるときには、1分子層のオーダーでどこから電荷が発生しているのか。その電荷の安定性はどうか。そういうことを非常にきっちり答えを出していかなければいけないと思います。それをやらないと、逆に1分子層ごとの制御というのは難しいと思います。そこが一番重要だと思っております。

【主査】
 ありがとうございました。続きまして、物質・材料研究機構次世代太陽電池センターの韓先生に「次世代太陽電池における計測機器」と題して、ご講演お願い申し上げたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

[2] 次世代太陽電池における計測機器

  物質・材料研究機構 次世代太陽電池センター長   韓 礼元  氏

【説明者】
 韓と申します。この場にお招きいただき、ありがとうございます。次世代太陽電池は、性能向上の観点から説明させていただきます。
 スライド1は太陽電池の分類ですけれども、基本的に材料で分類すると、シリコンと化合物と新材料。新材料については、まだ研究ベースで、これから例えば2020年、2030年に出てくるだろうと思います。これについてお話させていただきます。
 次世代太陽電池、有機系太陽電池については、色素増感、有機薄膜、量子ドット太陽電池等があります。この3つの太陽電池の共通点は、ナノ材料を使っていること。そのために発電層には大きな界面を有しています。この大きな界面が非常に邪魔しているんですが、物理的にどういうモデルを立てればよいかはまだ全然わかっていません。

 次に、特徴としては、色素増感と有機薄膜は低コスト、量子ドット太陽電池は40%以上の超高効率等があります。本分野は、化学系の研究者が多く、理論よりは試行錯誤的な物質探索やインプット、アウトプットの評価が主流で、メカニズムはあまりわかっていません。何となくできているということが非常に多いです。

 そこで、本日は、色素増感太陽電池を中心に説明させていただきます。色素増感太陽電池は、2枚の電極の間にナノサイズの酸化チタンで構成された多孔質膜があり、その膜の表面に色素が吸収されて、この間に電解質を入れています。構造は非常に簡単で、メリットとして安くつくられる。例えば真空プロセッス等は不要です。また、色素を変えれば、いろいろな色の太陽電池、例えば赤とかグリーンとかブルーとかの太陽電池ができます。発電メカニズムは、色素が光を吸収して、そこで発生した電子は酸化チタンに注入して、電極へ移動して、外の回路を通して対極に到達し、電解質に電子を渡して、さらに電解質は色素のところに拡散して電子を色素に戻ります。こういう過程を繰り返して発電しています。

 特徴1として、色素増感太陽電池は、人工光合成と似ていると言われています。この図は光合成を示します。光合成は、基本的にアンテナグループと反応中心のグループがあって、アンテナは光を吸収して、エネルギーを反応中心に転送して、ここで電子とホールが分離する。色素増感についても全く同じで、色素は光を吸収して、酸化チタンはほとんど紫外線以外の光は吸収しませんので、酸化チタンとの色素の界面で電子とホールを分離して、電子は酸化チタン、ホールは電界液へ移動します。TiO2に少数キャリアがないために非常に発電は効率的です。

 特徴2として、例えば20、30ナノぐらいの酸化チタンが用いられます。例えば単結晶を使う場合、量子効率は0.1ぐらいですけれども、ナノサイズ粒子を使った場合は量子効率が80%以上になります。つまり、このナノサイズ粒子を使うことによって、電流を1,000倍以上増やすことに成功しています。
 つまり多孔質を用いれば、大きな表面があるから、高い電流が形成できます。これは非常にいい面ですけれども、同時にこの広い表面積を有するので、メカニズムの研究には困難をもたらし、未解明な部分が多くのこされています。

 そこで、我々はインピーダンスを測定し、色素増感の等価回路を考案しました。シリコンにはPN接合太陽電池です。例えば、ここのPN接合はダイオード、流れる電流への抵抗はシリーズ抵抗で、PN接合の欠陥をシャント抵抗であらわす。このようにして、インピーダンス解析によって、色素増感太陽電池の等価回路を提案しました。この2つの等価回路を比べてみると、シリーズ抵抗のところには色素増感には3つの抵抗成分がありました。この3つの抵抗は電解液の中の電解質の輸送抵抗Releと、Rceはこの対極の表面の抵抗、Rtcoは透明導電膜の抵抗。ReleとRceのところには2つの大きな電気容量がついています。この電気容量は非常に大きいけれども、太陽電池は直流で動いていますので、この電気容量を無視できます。

 こうして、幾らメカニズムが違っても、太陽電池である限りは、等価回路は実は似ていることがわかりました。これは非常に重要なことなので、シリコン太陽電池の経験と知識は色素増感に使うことができるのです。シリコンと同じ方法で効率の向上できます。

 そこで、我々も高効率をやりました。高効率はJsc、短絡電流(電圧ゼロのところの電流)開放電圧(電流セロのところの電圧)フィルファクターの3つファクターの積です。この3つファクターを向上させれば、効率を向上することができます。
 まず、我々はフィルファクターを向上するためには、ここの3つの抵抗を減らせばいいですということがわかりました。そのためには、例えば対極の表面積を増やして、電解質の層を減らしていくことによって抵抗を低減できまして、トータルの抵抗は2.7オームから1.7オームまで低減することができまして、フィルファクターを向上できました。
 フィルファクター向上の次は、電流の向上を行いました。セルに入った光は出ないように中に閉じ込めていく。つまり、酸化チタン電極にいろいろなサイズの酸化チタンを入れて、このサイズをコントロールすることによって、ここに光閉じ込め効果向上させることです。

 そこで、我々はヘーズという概念を色素増感太陽電池に導入しました。分光光度計を用いヘーズ率をはかりました。ヘーズを高くすれば量子効率も向上して、電流も向上します。現在、色素増感太陽電池で11.2%の世界最高の効率を得ることができました。
 現状ではセル変換効率は11%、モジュールだと10センチから15センチのモジュールで8%から9%です。長期信頼性はシリコン加速試験では10年相当で、、実際に外に出したら2年から5年の間と思います。シリコン太陽電池に比べて、効率でも耐久性はまだまだ足りていません。
 ただしモジュール効率8%は薄膜シリコンと同等レベルです。実用化するためには、高信頼性化をまずやらないといけません。例えば20年を超えるような高信頼性を得ることは急務です。

 そこで大事なのは劣化メカニズムの解明です。ただし、これの中に有機物とかいろいろ入っていますので、劣化メカニズムの解明については非常に難しいです。例えば理論的にNMRとかMSなどの解析でできるですけれども、複雑過ぎてよくわからない場合が多いです。
 15%ぐらいに高効率を達成しにくいため、メカニズムの解明、高性能材料の開発、デバイス構造の改善等の研究が必要です。

 そこで、我々はこれから15%をどうやって達成するか、アプローチの一つを示していきたいと思います。

 電流とフィルファクターはある程度できたけれども、いい色素を開発できれば、もっと効率は飛躍的に向上できます。もう一つ重要なファクターであるVocを向上させなければなりません。Vocを低減させる原因としてこの図に示しています。色素から酸化チタンに注入された電子は、このまま流れていくと発電する。しかし、一部電子は色素をカバーしていない表面から抜けて、電解質と直接に反応してしまうことにより、電圧が低下する原因となっています。そこで、例えばターシャリーブチルピリジンのような有機分子を、TiO2表面に吸着させて、電子はここから逃げられないようにする方法があります。実際に結果を見てみると、電解質の中にこのTBPを加えた濃度を高くすれば、電圧はどんどん増えていくんですが、シリコンのパッシベーションと違って、電流は減少します。
 もし電流をキープしたままでVocのみ向上できれば、効率15%は達成できます。メカニズムの詳細な解明がまだ出来ておらず、このトレードオフはいまだに解決はできていません。
 一個一個問題を解決しないと簡単にはできないだろうと思います。理論とシミュレーション、材料やセル構造、そして解析などの手法を持って、メカニズムの解明に基づき、性能を向上させることができると思っています。

 そこで、例えば原子レベルからナノレベル、原子ナノミクロンスケールでの解明、三次元の分析、その場での計測、タイムリゾーブドアナリシスといったものが全部必要になってきます。
 色素増感の構造の中に材料とデバイス構造を変えて計測することが重要です。例えば、我々はSPM等を使って、単結晶の表面に色素をどういうふうに吸着しているかの研究を行いました。さらに、今のままでは多孔質は測定しにくいので、シミュレーションの技術を使って、その結果を材料開発にフィードバックします。こういうことを繰り返しながら、15%を目指し研究を進めています。

 ただし、シミュレーションするだけでは十分ではないので、超高速分光で実際に電子がどういうふうに注入するかを測定します。例えば、TBPを加えながら、超高速分光できればと思います。つまり今までの三次元の分析から、四次元での高速分光を加えて、それでは研究をもっと加速できるのではないかと思っています。ここで、我々の提案する機器としては、太陽電池の高効率化研究を加速させる光照射場における表界面動的な計測です。つまり今まで三次元の測定システムに、さらに時間的分解かつナノミクロン顕微解析可能な新しいシステムを開発する必要があるのではないかと思っています。
 その効果としては、例えば色素増感のメカニズム、量子ドット太陽電池のメカニズムの解明に役立つのです。その結果を材料とデバイス開発の指針としてやられて、さらなる効率向上ができます。さらに、劣化メカニズムの解明にも貢献できるのではないかと思っています。

 もう一つの提案は実用化に非常に大事なことです。つまり、高速のソーラーシミュレータの開発です。今までシリコンソーラーセルの生産ラインに最後に性能を測る過程があります。ただし、色素増感太陽電池の等価回路で2つの大きな電気容量があるため、反応速度は非常に低下するため、長い測定時間を要します。そのため、実際の生産ラインにスループットのネックとなるではないかと思います。ここで、色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池の高速測定できるソーラーシミュレーション設備の開発も提案させていただきます。

 

【主査】
 ありがとうございました。ただいまのご講演にご質問、ご意見、お願いいたします。

【委員等】
 酸化還元電位が、普通の固体の場合のフェルミ準位のようにそんなにリジットのものなのか、それとも時間的なものなのか、いろいろな状態によって変わっているのではと思いますが、いかがでしょうか。

【説明者】
 基本的には、ヨウ素の濃度とかそういうものが変わらない限りは、安定なものですけれども、複雑な何か、例えばBP等いろいろ添加物を入れれば多少変わりますけれども、そんなには変わるものではありません。

【委員等】
 電極とレドックスとのフェルミ準位との関係は解明されているのでしょうか。そこはショットキーバリアか何かになっているのでしょうか。

【説明者】
 ショットキーバリアで、完全に説明は成り立っています。
微粒子を使っているので、例えばバンドベンディングはどうなっているのか、実際にはもう一つよくわかっていません。酸化チタンのモビリティ等も観察はできていません。

【委員等】
 そのほかに電解質が漏れるという問題。それから、有機物を使ったために火災の問題等いろいろあると思いますが、それに対して固体電解質が出ていますが、なかなか効率が上がっていないと思います。

【説明者】
 固体というところは非常に理想な形ですけれども、基本的に、色素増感は構造が変わらない限り、固体は物理的に非常に困難と思います。例えば、酸化チタンの膜厚で大体10から20ミクロンくらいあります。でも、有機物質を使い電子伝導はできないと思います。薄膜シリコン太陽電池さえ膜厚は300ナノメーター程度です。だから、発電層を1ミクロン以下に持っていかないと、多分固体材料で動作するのは相当難しいと思います。

【委員等】
 この光照射界面場において誘起されたキャリアの生成の計測。これは光を当てて、光として計測するのと電気的な計測、両方あると思うんですけれども。

【説明者】
 現在は、静的な観測しかなく、電子注入、高速分光等の電気測定と静的な測定を一緒に行う機器があれば非常にいいです。

【委員等】
 時間スケールはどのぐらいでしょうか。

【説明者】
 時間スケールとして、ピコオーダーで電子注入の観測。ただし、電子が戻ってくるのを見るのであればナノオーダーです。

【委員等】
 無機の場合はPとNが完全に分かれていますが、有機太陽電池で現在使われているものはPとNが混ざっている。どのような発電メカニズムなのでしょうか。

【説明者】
 私もこの問題を昔から考えています。有機材料の一つの根本的な問題として、電子輸送は非常に不得意です。つまり輸送できないのです。例えば、一番いい材料であるフラーレンでも、励起子の拡散長、つまり無機材料に相当する少数キャリアの拡散長は大体10ナノメーターくらいです。しかし、光を十分吸収するためにどうしても50ナノメーターの膜厚は必要となります。その矛盾を解決するためには、電子輸送の距離を減らしていくため、有機薄膜ではp型とn型材料を混ぜることが有効です。しかし、この大きな表面がもたらす弊害はどこにあるかまだわかっていません。

【委員等】
 要は拡散規模が短いから、もうその界面だけでいいので一緒くたにする。

【説明者】
 有機の中に励起した電子とホールはこのまま移動します。それをすぐ電子、ホールに分離するため、全部ミックスとなっています。

【委員等】
 そこから電極はどうやって繋がっているのでしょうか。

【説明者】
 片方はITO、片方はアルミをつかっているため、例えばP型材料とアルミはショットキー結合が出ます。そこは電子は流れません。片方はN型材料とITOはまだショットキー結合です。だから、電子はアルミ電極へ、ホールはITO電極へ流れることになります。これはある意味うまくできています。

【主査】
 ありがとうございました。続きまして、山梨大学燃料電池ナノ材料研究センターの渡辺先生にご講演頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

[3] 産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】平成23年度重点開発領域について 燃料電池分野からの要望

    山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター長 渡辺 政廣  氏

【説明者】
 本日はお招きいただきましてどうもありがとうございます。 今、燃料電池の中でも固体高分子形燃料電池というのが、宇宙、深海から自動車、家庭用あるいはロボット介護電源、その他レジャー、ポータブル電源等、いろいろな分野で実用化が非常に強く期待されているところであります。
 この中で例えば燃料電池自動車、これは最近特に電気自動車と対比されています。電気自動車は充電した電気で動くということで、走行距離が重量等の関係で制限され、将来的に短距離用というごく限られた部分に適用されるだろうと思います。他方、燃料電池自動車は積載燃料が続く限り発電しながら走行することが可能です。したがって、非常に短距離から長距離までの広い応用分野があり、将来的には非常に重要な分野になるだろうと、研究、開発が今進められているところであります。

 燃料電池自動車につきましては、2015年くらいから商用化するということを、特に日本の自動車メーカーを中心に表明され、準備が着々と進んでいるようです。コスト的にも2015年の見通しが大分立ってきているようであります。しかし、2020年代の本各的普及を考えると今の技術の延長線上ではあり得ないと判断され、基礎研究者である我々に対して、新材料の開発が強く求められています。

 評価技術についてもいろいろな要望がされております。その中の一つを特に取り上げて、きょうはご紹介し、開発のお願いをしたいと思っています。

 まず燃料電池の原理、構造について。ご存じのとおり水素と酸素を燃料極、空気極に供給すると、すぐに発電できるシステムでありますけれども、この部分について、特にその構造的に重要な点は、この電解質の膜厚が25ミクロン、あるいはそれ以下の非常に薄いものであるということ、それから触媒層はこれまた5ミクロン、あるいはそれ以下に将来的にはなっていく非常に薄い層からなっていると。
 それから、ガスを供給したりするセパレータも重要な部材となっております。これらの部材のまず新材料の開発と高性能化というのが非常に重要となってくるわけです。電池は実際には単セルを数百層もしくは数十層に積層して使われます。しかし、個々の単セルをさらに構造的、模式的に書きますと、この膜と接合する触媒層は非常に微細な細孔を形成し、その表面に微細なナノレベルの触媒が担持されています。ここへの物質移動、電子移動、それからその中のプロトン移動など、これら詳細なミクロ、ナノレベルの動きが実は性能、寿命、コストのすべてを支配しています。したがって、ナノレベルあるいはサブミクロンレベルの解析が極めて重要になってきます。
 そこに使われる材料についても、例えば触媒の10分の1化、膜のコストの低減等が必須ですが、これは性能を維持しながらということです。また、こういったものを組み合わせた膜電極接合体の高性能化と、システムとして耐久性、安定性を評価することが必要です。
 個々の評価法については電顕とかいろいろなものがあるわけですけれども、最終的にはこれを組み合わせて、少なくとも単セルとして運転状況下の挙動を解析しながらそれぞれの材料や運転の最適化、高性能化を図らなければならない、そういう問題があります。

 そういうことで、まずセパレータ中の電流分布や、二次元、三次元の反応物、水蒸気、温度の分布、こういったものを定常状態、あるいは過渡状態としてミクロンレベル、あるいはそれ以下のレベルで解析するということがまず大事。ここに示した図は、燃料電池セパレータ溝中の酸素分布を可視化したものです。この解析は二次元の面に相当する部分を可能にした訳ですが、これができるようになると、電池を本当に高性能化するためには、今度は断面方向、貫通方向の電解質内の厚み方向の水輸送や、液・固水、あるいは抵抗分布等の解析が是非ほしいと言うこととなる。また、ここは触媒層、先ほど5ミクロンと言いましたけれども、この中での液水、反応物、温度、電位、電気抵抗、この分布の解析が必要となります。

 それから、外側に多孔質の支持層があるわけですけれども、そこのところの定常状態及び過渡状態の評価がどうしても必要。それが高性能燃料電池、高耐久性の燃料電池を決定づけるものであるということで、業界からも強く、研究者からも強くこういった評価システムが求められているところであります。

 これまでの燃料電池研究における従来の可視化例について、最初に私どもが数年来やってきましたセパレータ内の二次元的な反応物、温度、湿度とかいったものの高時間・空間分解技術の開発について、ご紹介したいと思います。
 これはゼロから出発した研究であります。発光色素膜を使って山梨大学と早稲田大学と島津製作所等が連携してやったものです。例えば酸素を検出するのに、白金ポルフィリンを使いまして、これをマトリックスとシート状にしますと、白金ポルフィリンは実は紫外光を吸収して、可視光をこのように発光させる。その可視光発光が周りに酸素があると消光するという現象を使って、それを実際にセパレータ面に塗って、CCDカメラでキャプチャーすることによって発光を観測できる。実際に測定セル、25平方センチのセルの中でのガスの流れている状態での電流を取り出したとき、取り出さないときの酸素濃度の分布がこのようにきれいに測定できるまでになってきました。
 今示した結果はマイクロメータ平方センチレベルの空間分解能でしたけれども、時間分解能的にも今、ここにちょっとお示ししますように、電流密度を変えた時、セパレータ内の酸素濃度がこのようにミリセカンドオーダーで測定できるまでになりました。

 こういう手法を適用することによって、面内の反応物の挙動、それに伴う水の生成とかが予測できるようになってきて、セパレータ、材料の設計とかいろいろな面で貢献できるということになりました。いざこれができると、メーカー側は実はそれも非常にありがたいけれども、今度は深さ方向の解析がもっともっと知りたいという話になってきました。今、そういう要望に対して検討の方向です。もう一つ、自動車の寿命中には数万回オン、オフする。家庭用の燃料電池でも、今、一日に1回最低はオン、オフするという状態になってきて、そのときに燃料極側は燃料と空気を絶えず入れかわる状態になる。そのときに空気極側がものすごく腐食するという環境になります。

 そのときに腐食生成物の炭酸ガスが出て来る。何とかその腐食挙動を解析できないかという自動車メーカー等の要望があります。これも色素を使いました。今ここにあるような色素にこの塩を付加させて、それをフィルム状につけます。この色素が紫外光を吸収して、可視光を発光するわけですけれども、周りに炭酸ガスがありますと、これがこういうふうな反応で減少すると、それに伴って発光も減衰します。この現象を使って、その炭酸ガスの腐食による生成をミリセカンドオーダーの時間空間分解で測定もできるようになりました。こんなふうに時間が変化するに従って、スタートアップを模擬したとき、シャットダウンを模擬したときの腐食による炭酸ガスの生成状態を、こんなふうに測定できるようになりました。
 先ほど申し上げましたように二次元ができると、今度は三次元が欲しいという話になります。世界的に関連する研究もあります。例えば、反応水の生成挙動あるいは膜、電解質内を水が移動することが非常に重要な因子でありますけれども、Paul Scherrer Institute では、中性子が水に吸収される現象を使って、それを二次元、三次元で観察するということを進めております。
 国内の企業も大分そこに投資して、協力を求めているようであります。これは平面状態の結果で、セパレータの溝が青いところにありまして、そこに水がこんなふうに分布していますというのが見えますけれども、ごらんいただきますように、これはミリオーダーのサイズ。

 それから、こちらの図は今度は断面方向でして、100ミクロン膜の中に水がどう分布しているかがかすかに見えるわけです。こちら側はセパレータの溝のところです。溝のところの水がはっきり見えまして、膜の中にも水がありますが、今在の電池技術で、膜の厚さが20ミクロンと薄くなりつつあるときに、分解能は十分ではないという状態です。
 そのほかNMRを使って、膜内の水の分布観察の試みも東工大のグループが活発にやっております。電流密度を変えますと膜内の水の分布が変わって、左から右に向かって濃くなっていて、まさに高性能運転するにかかわる水の挙動が見えるわけです。今ここには300ミクロンぐらいの厚い膜の結果が示されていますが、大分薄いところまで計測できるようになりました。けれども、今の中性子を使う場合もNMRを使う場合にも時間分解能を上げようとすると空間分解能が下がってしまうということで、いずれにしても十分な計測になっていないというふうに私は思っております。

 そのほか、これはペンシルバニア州立大のグループの研究ですけれども、X線を使って燃料電池の断面方向の水の分布を解析しています。このX線の場合、特に物質を特定することができませんので、完全に乾いた状態の吸収と水があったときの吸収の差をとってやるということでやっています。これは、断面方向の結果で非常に興味深い像ではありますけれども、下示されているように、10ミクロン掛ける10ミクロン掛ける13ミクロンのピックスエルということで、多孔質層という200ミクロンくらい厚みがある層中の水の分布はともかくとして、先ほどの触媒層の5ミクロンだとかそういう膜の中の解析にはやっぱり時間分解、空間分解的に不十分であります。そこで新たに燃料電池の研究、開発の加速とその他の研究開発に有用な三次元ナノ構造・成分・組成・構造等の分布、あるいは挙動を可視化できる新しい材料、手法、装置の開発を提案したいと思います。

 今の三次元的にキャラクタレイズするということが、まさに燃料電池の最終的な高性能化、長寿命化の達成につながるということです。現象を扱うプローブとして、例えばレーザー、赤外その他の電磁波、あるいは電気化学的な電位等を用いた測定。併せて機械物性、熱温度物性と位置情報をプローブを使って計測。その測定により、それぞれの場所の反応種、生成種の特定と状態、局所における電流・電位、構造変化、温度等その他を解析することによって新規な材料設計、セル制御技術、変換効率の向上、新規材料開発に結びつけることができるだろうと考えます。

 具体的な装置を模式的に書きます。ここに示しましたように、それぞれの因子を測定できるプローブを使う。直接、電磁波そのもの、例えばレーザーの焦点を変えながら計測、もし吸収があるような場合には導波管を使って計測します。そして、ここにあるような深さ方向、強度あるいはエネルギーに関する被計測情報を記録するということを考えております。
 そういった三次元ナノキャラクタリゼーションによる解析を行うことで、今までにない非常に有用な情報がそれだけでも十分得られます。今までのシミュレーションはそういう三次元データもないままに仮定や推定値をベースにしてやっていましたけれども、今回の提案のように、三次元実測データをベースにしてシミュレーションすることによって、任意視点の燃料電池内の材料・状態・現象を解析するということができる。その情報を活用した材料開発やシステム開発の結果として、ここにあるような応用分野に展開できるということであります。

 これらを実現するためにということで、提案の一例をここに掲げました。三次元計測分析プラスシミュレーション可視化装置・システムです。この提案では、新規の三次元構造・成分・組成の分布・挙動の可視化を可能とする材料、手法、装置、システムの開発に関するもので、燃料電池自動車等の研究・開発を飛躍的に加速するものであり、その他の研究にも活用できる。
 その特徴はマイクロサイズの検出プローブ、導波管、各種測定素子、官能色素の活用等で高時間・高分解の測定をするとともに、そのデータを活用したシミュレーションで電池内現象をつまびらかにでき、それによって高性能、高耐久、低コスト燃料電池材料、構造、システム開発が大きく加速できるということであります。その計測で期待される効果の例は、ミリ秒時間分解能、サブミクロン空間分解能で、膜内、触媒層内、あるいはガス拡散層内等の今申し上げたような解析ができるということであります。

 

【主査】
 どうもありがとうございました。それでは、ただいまのご講演に関してご質問、ご意見お願いいたします。
 一つ質問ですが、高時間・空間分解二次元可視化の例について、発光色素膜を組み込んだセルをつくり、実際にガスを流しながら検出したということでしょうか。

【説明者】
 アクリルでつくったセパレータ面を、5ミクロンくらいの薄いフィルム状にコーティングしまして、直接、材料の表面の濃度を検出することもできます。

【主査】
 実際に燃料電池として使えるセルの材料そのものを置いて、同じように測定ができるということでしょうか。

【説明者】
 はい。

【主査】
 この測定でさらに必要な部分、新しい機能はそれぞれの分解能を上げるということでしょうか。

【説明者】
 これ自体は、ある意味では、今は使える段階まで持ってきつつあります。二次元の測定はできるようになったんですけれども、実際に燃料電池の特性を支配するのは、三次元方向、つまり非常に薄い燃料極から空気極に至るミクロンオーダーのプロトンの移動であるとか、反応物の移動である、酸素、水素の膜内、触媒層内の移動とかそういったもの、あるいは電位分布、温度分布といったものです。これらをどうしても知りたいという訳です。特にメーカーで実際にシステムに組み上げていくとき、あるいは運転をするときにものすごく重要になり、その挙動解明を強く求められています。
 もう一つは個々の材料を開発した場合にもそういった環境下で評価しないと、きちんとした評価ができないことがありまして、今までの面じゃなくて今度は貫通方向のある情報を測定するところが非常に重要となります。今のところ世界中で大きな高エネ研とか特定な場所に行って、やっと測定を何とかしようとしていますけれども、その分解能は先ほどご紹介したとおり十分じゃない。私どもは研究室レベルでも、もっと精密な測定ができるような新しいシステムがあったらいいと考えています。

【主査】
 そのときにもちろん動作状態下においてという前提が必要なわけですね。

【説明者】
 動作状態でない情報ももちろん必要ですけれども、最終的には今の中の挙動というのは動作状態下でして、例えば、ぱっと電流を取り出すことで負荷をかけたときに、その水の膜内の移動というのがものすごく重要ですけれども、それがどんなふうに移動して、抵抗がどんなふうに増えるかとか、そういったものが定常状態と同時に過渡状態はぜひ測定したいという状況です。

【委員等】
 発光色素膜そのものが燃料電池で必要というよりは、酸素の分布を見たい、濃度を見たいという観点でしょうか。

【説明者】
 これは検出材料として色素を使いました。何とか酸素を見たいということで使いました。酸素だけではなくて、実は私たちのアイデアはさっきの炭酸ガスを観測するとか、あるいはまだ十分完成していないですけれども、温度を測定すると。端子を入れたのではもう限りがありますけれども、色素利用では、もうミクロンオーダーでそれが観測できるということです。これを今度は三次元方向だと、今のプローブの先端にちょっとつけて中の様子を見るとか、そういうことも可能かなと思っています。今からそれに適した、もっと高感度のものを合成する等、グループの早稲田大学と連携しながらやっております。

【委員等】
 酸素の証拠を見るのも強度で見ると、光強度等の問題があって、これもライフタイムで見ると、証拠がライフタイムにすごくきいてきますよね。そうするともっと本質的に、あまり装置の影響を受けない、光強度等に影響されないで見れるかと思いますが。

【説明者】
 今、そういう問題はすべて解決して、きちんと酸素分圧が実際のものとぴったり合うような計測ができるまでに完成しています。今、二次元的にはこういうことができるようになったけど、三次元でもというのが現況でございます。

【委員等】
 コンフォーカル顕微鏡のような形のものに持っていかれたら、これは波長領域からしても、非常にきれいなサブミクロンで計測できる。さらににニューメリカルアパーチャを大きくとり、それに比例して分解能が上がる。今後の展開についてはいかがでしょうか。

【説明者】
 先ほどちょっと導波管を使ってなんて申し上げたのも、光を例えば入れても、出てくるミクロンオーダーのプローブでも、十分にこの観測ができるかもしれない。ただ、それは複雑な電池の構造の中にそれをどう導入していくか、そういうことも含めて検討が必要だと思います。ご指摘のとおり、非常に強い関心を持っております。

【主査】
 ありがとうございました。続きまして、横浜国立大学大学院工学研究院の太田先生からご講演頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

[4] 産学イノベーション加速事業【先端計測分析技術・機器開発】に開発を期待する技術・機器又は開発領域案 燃料電池

    横浜国立大学 大学院工学研究院 教授  太田 健一郎 氏

【説明者】
 横浜国大の太田でございます。ただいま、渡辺先生のほうから燃料電池についてお話があったので、本日私からは、燃料電池の開発現状において、私がとらえている部分。それから、先端計測で、どちらかというと私が求めているものについて、ご提案させていただこうと思っております。
 お話しする内容は、原理と開発状況、それから3番目が要求される計測技術ということでございます。基本的には燃料電池では、電解質があって電極が2つあります。この境目のところで一番キーポイントになる界面反応、電極反応が起こります。燃料極では主に水素が酸化する反応。酸化剤のほうでは酸素が還元する反応が起こります。ここのところが燃料電池の特徴で、理論的に非常に高い効率が出るんですが、一つのセルではおよそ1ボルトぐらいの電圧しか出ません。
 出力をとるために何をやるかというと、その界面を使ってここで酸化反応とか還元反応を非常に大量にうまくやるところが大きなポイントになります。つまり電極と電解質の界面で何が起こっているか、出力をいっぱいとるために何をやったらいいかというところが大きなポイントになると思っていますので、計測についても、その辺に的を絞ったようなことを考えております。

 あとは低温で高い理論効率。これは発熱反応ですからそうなるんですけど、小型で効率低下が少ない。ですから、従来は燃料電池は非常に大きな、100万キロワットの燃料電池構想というのがありましたけれども、それはほとんど今つぶれていまして、どちらかというと、ご存じのように家庭用に1キロワットをいっぱい分散しましょうという動きになっていると思います。

 それから、環境にやさしいとありますが、もう一つ、5番目に書きました二次元反応装置です。基本的にこの反応は電解質と電極の界面で律せられます。ですから、二次元反応装置というのはどちらかというと、欠点として存在しております。この界面でどうやるかです。一番下に書いてございますのが高出力をとる。特に自動車用なんかに向かっては電池と同じ出力を体積から出さなきゃいけない。どうやるかということで電流密度を大きくします。そうしますと電極反応が大きくなるので、界面反応がとても追いついていない、物質移動を含めてそこをきちんとやらなければならないというのが現状だろうと思っております。

 原理ですけれども、一番大きなことは25度の水素、酸素の反応の結果で、デルタGに相当する、ギブスエネルギーに相当するところが電気エネルギーになります。これだけでいいますと、83%の効率で燃料電池が発電できるはずが、まだそこまではいっていないわけですけれども、非常に室温で高いです。現状では残念ながら50%以下です。これは反応速度の問題が非常に大きくきいていると思いますが、改善にものすごく余地があるというふうに私は判断をしております。
 水素だけかというとそうじゃありませんで、上からメタン、一酸化炭素、炭素、メタノール、エタノール、ヒドラジン、こういったようなものも酸化反応がとられていますけれども、電池の燃料にはなります。これはただし原理の問題で、現状では、使えているのが水素がほとんどです。圧倒的に水素は反応しやすいんですが、次はメタノールかなというようなところですが、できればエタノールがいいかなというのは最近の動きであります。しかし残念ながら、実用的な反応速度が得られるものは水素であり、次が大きな差がありますけれども、メタノールかなと。ただ、いずれの場合もうまくいけばかなり高い効率が期待できますし、すばらしいものができるということは言えると思います。  次は現状です。一言で言うのはなかなか難しいんですけれども、昔からいろいろなのがありますということで挙げておりますが、多分、リン酸形というのは渡辺先生をはじめとして注力してなさった歴史があるわけなんですけれども、民生用としては一番長い開発の歴史があります。

 現在では、一番長い寿命が運転されている燃料電池も7万時間、8万時間ということでリン酸形になっております。残念ながら、高いということがありまして、あまり台数は普及していない。溶融炭酸塩形というのもあります。これは日本ではほとんど生産を今はしておりませんが、世界中で眺めた場合に、多分設置容量としては一番大きい燃料電池になります。特にアメリカ、ヨーロッパが大きいところでやっております。

 それから、固体酸化物形というのがありますが、これはもっと高い温度で動かします。高出力が期待されていて、現在、固体高分子形の次と言われています。常温で作動して、高出力で、移動用にも使えますということで、定置用の分散型電源、小型固体、自動車用ということで注目されております。
 あとは、宇宙用で使われていますアルカリ型です。それから、ちょっと特殊かもしれませんが、メタノールで直接やもの、軍事用をはじめとしたヒドラジンというのもございます。

 これが、昨年、東芝が市販したダイレクトメタノールの小型の携帯電話充電用です。結構使えるところまでは来ているということなんですが、残念ながら、これぐらいの大きさのわりには出力が2ワット程度しかないので、もう少し出力を上げなきゃいけないということはあります。ただし、これが3万円弱で販売されたという実績は非常に大きい。ないしは、何か使っても問題なく安全性も加味して使えますということで、これは非常に画期的だと理解しております。

 それから、エネファーム、特に住宅用ということで、これは昨年度から販売開始をされておりまして、昨年度だけで5,000台以上の実績があろうかと思います。技術的なことはともかく、かなり使えるものができている。できたものが、CO2削減、エネルギー効率の向上ということにかなり大きく寄与することが、数千台の実績でもって実証されております。耐久性も見通せる。ただし、コスト高が大きな課題になっております。

 自動車用ですが、基本的に航続距離を含めて、耐久性、航続距離というものでは、実用の乗用車としてのものはできていると思います。ただし、これもコストが高い。特にエンジン車と比べてかなり高いというところが問題になろうかと思いますが、2015年に実用化が始まるということで、これを何とか克服することが大きな課題になっております。

 大ざっぱに、こういうところの性能を上げなきゃいけないよというのが次の図になりますが、燃料電池の中の抵抗ですね。抵抗が少なければ少ないほどいいわけなんですけれども、大きく分けて、一番大きな問題は、酸素極の、酸素の還元反応の反応抵抗が大きい。現在、白金ですが、白金でも大きい。それから、膜が抵抗を持っています。それから、アノードですね。アノードは水素の酸化反応ですが、これもある程度の抵抗がある。特にアルコール、メタノールを使うと、この抵抗も大きいです。
 それから、電流をたくさんとる、つまり出力をいっぱいとろうと思いますと、物質移動の抵抗が出てくる。水の問題とか、こういったようなことが出てきます。これを一覧で示しておりますが、大きく分けて、まずは酸素のところが問題かなというのがあろうかと思いますけれども、使い方によっては、このすべての項目がいろいろ問題になるということになります。

 我々は、コストの問題を考えたときに、特に室温型の燃料電池はすべて白金を使っているということで、脱白金ということをねらうべきだということでやっております。ちょっと変わった材料、オキシナイトライドとか酸化物とか、こういう系列をいじっているわけなんですが、溶解度で比較をすると、白金より安定だと。あとは、性能の上がりぐあいを書いておりますが、最終的に出ていますタンタルの化合物、ジルコニウムの化合物、こういったものがおおよそ白金に近づいて、これは、ある評価の指針でして、活性点のものがそこまで近づいていると。あとは、出力の問題が出てくるんですけれども、いい性能のものが出てきつつあるというのが我々の成果であります。
 開発への展望として、燃料電池は、これからの低炭素化とかクリーンエネルギー社会を支える基盤技術、特に室温付近での効率が高いということは基盤技術になり得る。現在でも、技術的に見ますと、特に固体高分子型に関しましては世界のトップをいっていると言っていいと思います。実用化を日本が初めて行っているということも大事なことです。当面は、高コストの克服が問題です。

 それから、理論的に、さらに機能的にも上がるはずで、この辺をうまくやっていくということは、材料にかかってくるかもしれませんけれども、日本の今後の課題だろうと思います。特に日本が強い基盤の材料技術というのが生かせる物質ないしは製品かなと思っております。現在、我々としては、日本の将来技術、そういうものを支える、産業を支える大きな分野になるのではないかなと期待しております。そのためには、材料の高度利用とか新規材料の開発、評価といったものをきちんとやらなければならないので、計測技術が必要だと思っております。
 今後の燃料電池開発に要求される計測技術ということで、まずは、固体高分子膜があるわけなんですけれども、これの酸-塩基ですね。ペーハーメーターと言ったら一番簡単なんでしょうか。こういったいいものがないかなということがあります。というのは、我々がやっています、膜の性質の一番基盤になるときに、厚さとか導電率とかそういうのはそこそこあるんですけれども、反応とかそういうことになりますと、pHというのが、特に運転状況等に関して連続的に変わる、それから、薄い膜の中でどうなっているんだというようなことがわかります。ですから、その辺のところを踏まえて、イオン交換膜、25ミクロンなんでしょうか、もう少し薄くなるかもしれませんけれども、その中での作動状態での酸性度、pH、こういったようなものをきちんと測れる装置があればと思っています。

 2番目は、電極触媒の話になります。電極触媒に関しましても、今の理論では、表面の電子状態が触媒反応に直接効きますという話にはなっております。実際には界面の問題にもなるんですけれども、触媒のあまり深いところでは意味がなくて、表面でどういう電子状態になっているかということが知りたいことです。我々もその辺トライをしているんですけれども、10ナノ、20ナノという深さであれば、平均値というようなことである程度はかれることになりましたけれども、それだけでは電子状態は、表面がもう少し変わっているかもしれないというようなことになります。我々の反応がうまく説明できないということもありますが、その辺のところを含めまして、ここに書いてありますのは、水分子の吸着、酸素、水素などの反応分子の吸着に伴う電子移動の変化を、電位制御可能、つまりin situでの測定をできるだけ表面の性質としてとらえたいということです。

 3つ目は反応表面積の評価です。先ほど言いましたように、界面で反応が起こるわけなんですが、界面が必ずしもフラットな状態ではない。そうしますと、その凹凸のところをどう評価するか。特に液相と固相、電極と電解質との境目のところをどう評価するんだ。我々は一応、電気二重層、白金ですと、水素の吸着量で見るといって、定量的な方法が既にあります。これは、特に我々のような新しい材料、非白金系の材料、それからカーボン系の材料といったものについては、なかなか定量的な評価ができないというのが現状だと思っております。おおよそ電気二重層容量をできるのかもしれませんけれども、多少不純物の影響があると、途端に影響が出て変わってしまうと。コンデンサを考えていただければいいと思うんですけれども、いろんなことで変わってきます。そういうようなことも踏まえた上で、二重層になるのか、水分子の状態変化をとらえるのか、この辺は私もよくわかりませんけれども、少なくとも規格化するための、性能を評価するための表面積の評価法が要ると思っております。

 次は、活性点です。特に新規の触媒で、活性点がどこにあるかということについて、その場でうまく見れればいいんですけれども、現在のところ、かなり強度のX線を使って、おおよそ結晶構造解析ということをやっております。しかし、もう少しうまく、直接見る方法がないかということを書いておりますけれども、特に反応中間体がうまくとらえられれば、そこでうまくいくのかなと思っております。この辺も新しい触媒と関連して何かできればなと思っているところです。

 次は、電子伝導パスです。これも我々の材料に関連するのかもしれませんが、普通、電子伝導は非常に速いので無視される例が多いわけですけれども、反応物質の移動、プロトンの移動、イオンの移動、それとともに、我々の扱っている材料、どちらかというと電気抵抗が大きい。電子伝導性があまりないという材料です。そうしたときに、触媒をつくってみて、その中で電子伝導がどう起こっているかということは、シミュレーションである程度はやっているわけなんですけれども、正確なところは、我々、はかってみないとわからないということになっておりまして、細かい触媒層の中で、プロトンのパスと電子伝導のパスと酸素の移動パス、この辺がどういうネットワークをとっているかということは、最適な触媒設計には必ず必要なことだと思っております。その中で、ほかのところはある程度押さえられるにしても、電子伝導はもう一つとらえにくいと思っております。
 最後は、実際の反応機構をやる上で中間体をきちんと押さえなければいけない。ここは、電極反応のリアルタイム解析ということですが、例えば酸素の還元を考えたときに、中間体の寿命等を考えますと、ひょっとしたらピコセカンド、フェムトセカンドのオーダー、こういうようなオーダーの可能性があるわけです。そこまで時間分解能に乗った分析ができるかどうかですね。私の知っている限りでは、ぎりぎりナノかピコかの境目ぐらいだろうと理解しております。それをもう一段進めていくことができるかできないか、どうやればよいか、要望だけ出させていただいて、具体的なところは専門家の皆さんにご検討いただくかと思っております。

【主査】
 ありがとうございました。それでは、ご質問、ご意見お願いします。

【委員等】
 触媒反応そのものについて、電池という構造にいく前に、何が起きているかを別途、水のない状態で調べていくというようなことも必要ではないかと思いますが。

【説明者】
 それについては幾つか例があると聞いております。特に気相反応ですね。気固相反応の中では少しやられているというところはあります。水が絡んできますと、これはもう一段難しくなってきます。

【委員等】
 水の層が、例えば20ナノメートル以下ぐらいだったら高電子も出てくると思うんですけれども、その辺のところで、インストゥルメンテーションが大変難しいと思います。

【説明者】
 ご指摘の通りで、実際はもっと深いですから、その辺のところをなかなかはかりにくいというのが現状じゃないかと思っております。我々、いろんな手段の中では、今ご指摘のように、一般の触媒の、気固相の触媒の分析手段というのは非常に参考にしながらやっておりますけれども、ここで書かせていただいたのは、どちらかというと、そこから一段進めるための、電池の開発でもかなり共通部分です。

【委員等】
 JSTの先端計測事業において、京都大学の垣内教授と堀場製作所が開発した新しい機能を持ったペーハーメーターというのがあり、お役に立てるかもしれない。

【説明者】
 我々のところでは、水素電極反応を使って、ある程度ペーハーを決めるというところまではやっておるんですが、これはやるために何ステップもありまして、そのまま測るということはできなかったんですが、早速勉強させていただきます。

【委員等】
 燃料電池のように、必ずやらなければいけないというような分野で、リアルタイムの触媒反応、3次元の解析、こいった非常に難しい計測技術を進めるときに、どこか1カ所の拠点で計測技術を作っていったほうがいいのか、それとも、現在のように、アイデアを持って分散型でやったほうがいいのか。もしくは、装置は分散型で情報だけ共有化するような、何か新しいネットワークをつくったほうがいいのか、進め方についてどんなやり方が一番いいか、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。

【説明者】
 全くの私見ですけれども、現在、国の開発がやろうとしているのは、例えば、大型のSPring-8、J-PARC、そういうようなことはあるんですが、地道な物性をはかるためのチームというのはなかなかつくれない。それは、1つは、今、経産省がやっていて、燃料電池の開発目標を、次はこれぐらい出しなさいとか、どっちかというと技術的な目標が主体になって出てきて、こういう計測法の目標がないから。もしもこういう場で、文部科学省等で、その範囲でこういう計測ということを言っていただいたら、その中で、実際に研究に携わっている人間、計測方法の方、一緒の場があれば、また新しい展開ができるかと思います。私がこうやって幾つか提案申し上げたのも、そういう意図がございます。ですから、想定していますのは、ある程度計測技術に詳しい方と一緒にやるというようなことも想定しております。ある程度チームじゃないと、燃料電池、非常に新しい技術ですから、なかなか計測の方にもわかっていただけない面もあろうかと思います。その辺のマッチングが重要で、特にそれは日本としてやらなきゃいけないことじゃないかなと思っていますから、私としては、やっぱりある程度のチームが要るんだろうと思っております。

【委員等】
 それと、そういったときに、大型の放射光なんかですと1カ所でいいと思うんですけれども、今先生がおっしゃったように、小さな、あるいは地道に続けていくときには、装置や開発部隊が分散化していて、情報だけ非常にネットワークを持ってやるとかというような形でもよろしいんでしょうか。

【説明者】
 先ほどのペーハーメーターの話になりますと、ペーハーメーターの専業メーカーがあるかと思います。だから、そういうので出てきやすいんだと思います。こういう方面で、何かそういう計測の専門メーカーがあれば、そこが核になるのか、それと大学と一緒になるというスタイルが一番いいような気もいたします。ただ、フェムトセカンドぐらいになってきたときには、先端過ぎるかなと思っています。

【委員等】
 フェムトセカンドというのは、もはや最近では、光の計測ではそれほど難しい領域じゃなくなりつつありますよね。そういう意味では、もう少し物理でそういった基礎技術をやっておられる方を巻き込んでいくということは必要ではないか。ただ、どこか1カ所でという問題ではないような感じもしますし、もともとが総合科学技術会議のアクション・プランでも、経産省ではやれないようなところを文科省のほうでやりなさいということにもなっているわけですから、そういう点で想定しているのは、やっぱり大学などがネットワークでやるということなんじゃないかなと思います。そういうときに、それぞれの技術を、かなり物理的に突き詰めている人たちを巻き込んでいくというのは非常に重要ではないかと思います。

【委員等】
 フェムト秒という話がありましたが、レーザー光を入れたり、あるいはX線ビームを動作中に入れて、何かそういう情報を得ること、実験的にはできるのでしょうか。

【説明者】
 ある程度、我々もトライしております。例えば、SPring-8でin situではかろうということで、表面の分析もトライをしている。ある程度はできそうなんですが、ただ、それでも、ごく表面の分析にとどまっています。そうしますと、その物性で、大体5ナノぐらいの情報は出てくるんですけれども、材料によっては、深さがぐっと深くなって100ナノぐらいになってしまうので、表面の情報が出てこないというのがあります。X線を入れることによって多少乱れることも気にはしております。

【委員等】
 固液界面の二重層について、どのくらいの領域のところを見たいのでしょうか。固体と液体のナノメートルぐらいの領域を見たいのか、もうちょっと広くていいのか、それで随分測定方法が変わってくるように思います。

【説明者】
 我々の材料ですと、表面の酸素ベーカンシーが問題だと。その下に元素として何があるかというところに注目しております。そうしますと、数ナノ以上深くなりますと、全体の平均になってしまって、情報としてぼやけてくるということになっていて、できれば原子層にして、せいぜい4つとか5つとかぐらいのところを見たいのですが、それはかなり難しいという認識はしております。ただ、多少平均値でもいいので、もう少し表面の情報が欲しい。今ですと、極端な場合、100ナノぐらいになってしまいます。それよりはもう少し浅い情報が欲しいかなと思っております。

【主査】
 ありがとうございました。ここからは、本日の4名の先生方からのご講演内容について、ご質問、ご意見等、ディスカッションをお願いしたいと思います。

【委員等】
 提案されている測定方法・機器というものは、それ自身で完成されたものなのか、それとも重要な方法・機器ということで述べられているのでしょうか。例えば、非常にベーシックなところは、いろんなものを組み合わせ、目的に応じて組み合わせる、測定器全体のシステムとしては、極端な話、バラックのようなものでよいのか。このあたりについて、具体的なイメージをお教え頂けますでしょうか。

【主査】
 ただいまのご質問、渡辺先生、かなり具体的なご提案、ご経験もお持ちでございますが、いかがでございますか。

【委員等】
 実際の測定、例えば、電極をつくるとか、いろんなところも含めてやらないと、今のような計測ができないので、さっきのご質問もありましたように、それぞれの得意な人がかかわって、そして、実際に動いている状態で測定しないと、正しい評価はできません。例えば、単体の上に触媒がついている状態等、高分解の電子顕微鏡で見るということは大事なことですが、それがわかった上で、今日お話ししたような内容は、実際の、持ってきてじゃなくて、電池の運転方法とかつくり方とか、起こっている現象をかなり組み合わせてやらないとだめなので、おっしゃるような、ただAとBとCという装置を持ってきてつなぎ合わせたらいいという測定にはなりません。各企業が新しい燃料電池を開発する場合にも、個々のそういう測定装置が必要だと。
 それから、研究者にとっても、開発した材料1個1個を、そういう環境下で評価するということが非常に重要になり、装置だけ持ってくればいいという状況ではありません。そういう意味で、経験のあった、それぞれ得意の分野の人間が集まってやるというような形で、装置開発が必要かなと思います。

【主査】
 おそらく研究現場で個々にお使いになるケースは、もちろん完成度が高いにこしたことはないし、1つの装置だけで用が足りるという話題でもございません。このアクション・プラン対応の競争的資金の枠組みの中で公募して、課題を選定すると。今までのこの事業のやり方と同じように進めると、現時点では考えておりますけれども、およそご存じのような仕組みで事業が進むということになります。
 ただ、これは、この委員会での今後の議論、次回あたりにもう少し議論しなければいけませんが、どういう枠組みでどういう形で開発研究をやればいいかという、特に公募の仕方まで含めて、相当議論が必要だと考えております。本日は、実際の研究サイドの皆様方から、こういうものが必要だということをご提示いただきまして、それにどう対応するのかということを我々の委員会で検討する、そんな考え方でございます。

【委員等】
 我々が持っている先端計測機器というのは、どうもニーズオリエンテッドではなく、シーズオリエンテッドで、それと組み合わせてニーズにこたえられるかというと、それは難しい。
 先生方のニーズにこたえられるよう、当該分野の方と英知を出し合ってやっていく必要があると考えます。これはある意味では非常に大事なテストケース。これを乗り越えるようなことができないと、ほんとうに役に立つ計測機器というのはなかなか出てこなくなるのかもしれない。

【説明者】
 実は、私どもも、XPSとかを使っているんですけれども、やっぱり電気化学反応装置と結びつけてやらなきゃいけないということで、XPS装置を買ったのが、今は、形が全然変わるみたいに改造しているんですけれども、やっぱりそのような形で、必要な形に改造して。ただ、そういうことができるようになれば、単に燃料電池だけじゃなくて、ほかの分野にも広く使える装置になっていると自負していまして、性能的にも、何を求めて、その装置にそれを付加するかということが非常に結びつくので、今の装置開発についても、例えば、さっきの色素については、物理をやっているメーカーの方と、合成をやっている大学の方、それから、我々、燃料電池そのものをさわっている者と、その三者が結びついてやったからうまくいったということで、あと、形にした場合にも、そういうときにそういう連携で、メーカー側が使いたいというときに、あるいは研究者が使いたいときに、必要なアドバイスや何かは、それぞれの専門の人たちがチームを組んでいた、その結果をそこにすれば、みんなに広く使ってもらえるんじゃないかなと思っております。

【主査】
 太田先生のご指摘にもありましたけれども、やはり相当しっかりしたチームを組んで、ターゲットを明確にした上で取りかからないと、この開発研究は大変難しいと思います。
 ただ、まさに先端計測の事業そのものが、そういう具体的なターゲットを提示された場合に、どう対応して、役に立つものが、しかも、ちゃんと広く普及するものがつくり上げられるかという1つの課題を提示されたと私どもは理解しておりますので、当然そういう方向に向かうべきであろうと思っております。
 少し話題転じますが、先ほど、太陽電池のほうで、研究開発の材料探索、あるいは非常に基礎的な研究の課題と、もう一つは、非常に具体的な、一般的な評価技術の開発。例えば、大面積の太陽電池を能率よく評価するような装置が役に立つだろうというようなお話がありましたが、そのあたりはどうでしょうか。当然、既にメーカーが市場に出していらっしゃいますから、現場ではそういうものがあるんではないかなという気がしておりましたが、どういう装置なら、この事業主体の中で開発すると役に立つとお考えか、ご意見いかがでしょうか。

【説明者】
 今のご質問に対して、私の考え方として、太陽電池には大きな表面があって、その界面によって、いわゆるキャパシタンスの効果によって、そこでのスピードが非常に遅くなります。例えば、フラッシュで測定とか、ほとんど不可能という今の現状で、実用化の段階で、これは課題になってきます。多分、この課題はだれも意識してないと思いますので、私、自分でやっていて、そんなに簡単に解決できないと思っています。
 それと、企業の立場から見ると、直接性能に結びつく測定機器は非常に好ましいという。液晶でも有機ELでも、解明してないものはいっぱいあります。でも、実際、デバイスになっています。それで、ほんとにこういう測定が解明したら、効率は上がる、耐久性上がる、そういう機器は、私から見て非常に大事。これから事業としても非常に重要な機器ではないかと思っています。ただし、今、日本のメーカーはここまで体力あるかどうかという、それはまた別の問題と思いますので、そういうところで、事業を先にとって、研究をやっていったほうがいいのではないかと思っています。

【委員等】
 バラックでいいのか、ちゃんとしたのとかいう話と今の話を含んで、やっぱり何に用いますか、どういうことのために測らなきゃいけないんですかというので全然違います。例えば、太陽電池で、何メートル、何メートルの品質管理のためにそれをきっちりはかるということだったら、もう既にラマンでもエリクソでも出ている。自動的にやるようなものはあることはあるが、韓国とかそういうところに自動化の、あまり本質的でないところで、コストで負けています。だから、事業としてなかなか難しい点があります。要するに、すごく先端のメカニズムのところをやりたければ、そんなにきっちりした装置でなくていいかもしれない。何をはかるかによって随分違うと思う。

【委員等】
 できれば安く、たくさんの現場で使っていただける装置をつくりたいのか、それとも、メカニズムの解明の最高精度のものを求めたいのかというのか。どちらもおそらく必要なことで、その辺をうまく、燃料電池に対して、何かテーマ立てをしていけるといいのかなと思いました。
 もう一つ、統合的なデザインというのは、やっぱりニーズを持っている人にデザインをしていただくことが必要なのかなと感じました。

【委員等】
 太陽電池に関しては、昔からサンシャイン計画、ニューサンシャイン計画があり、計測の問題、大きな面積をどうはかるかという問題も含めて、ずっと経済産業省及びNEDOで研究してきた経緯があります。ですから、そういうものを踏まえてやらないといけないし、そこではできないことをこっちでやりなさいというのが総合科学技術会議の趣旨でもあります。どちらかといえば、今、未解決の問題である、触媒のメカニズムがもっと明らかになるようなことで、パラダイムシフトが起きる場合もあるわけですね。それから、今、問題のリチウムの代替、あるいは白金の代替によって、資源小国の日本が生きるというのに本質的な貢献ができるというような意味から言えば、やっぱり我々が目指すべきものは、どちらかといえば前者のほう、つまりメカニズムの解明的なところの装置。

【委員等】
 開発を進めるに当たって、メカニズムを解明するというアプローチは多分2つあると思います。1つは、ミクロな物性パラメータをダイレクトにin situではかるというアプローチ。もう一つは、マクロな計測なりデータから、統計的に推計する。適切な例か分かりませんが、寿命試験のときには加速試験というのをやって、温度や電圧などのパラメータを変えて、そのデータからメカニズムを推測して、モデルを立てています。今日のお話は、大体がミクロなメカニズムをダイレクトに計測するような手法がないかというお話だったと思いますが、リチウムイオン電池でも燃料電池でも太陽電池でも、大量にデータをとり、マクロなデータから推測するのが有効ではないかと思います。そのようなアプローチは行われつつあるのか、そういうものも不足しているのかというのをお伺いしたいのですが。
 半導体の世界は、大量な加速試験のデータが出て、それで、デバイスの中の電子の移動を推定し、モデルはつくれるんですけれども、電池関係はなかなか複雑系なのでちょっと難しいんじゃないかという印象がありますが、いかがでしょうか。

【説明者】
 我々がやっている白金代替触媒ですが、全く世界で例がないのですが、ご指摘の通り、マクロなことはかなりやっております。
 具体的なことを言いますと、シミュレーションで第1原理計算をやって、幾つかの可能性が出てきたと。じゃあ、どれがほんとうなのかというのを、今、見なきゃいけない。そうなってくると、やっぱりミクロな観測をしないとほんとうのところはわからない。マクロにある程度は言えていてもというのが現状です。先達がいればいいんですけれども、先達がない材料に対してどう取り組むかというところは、うちの研究室としては結構苦しんでいるところです。

【説明者】
 ミクロな現象に関連したのでシミュレーションをやっているんですけれども、仮定した数値とかそういうものを全部ベースにして計算していますので、実際が違ったら話は違います。でも、シミュレーションでフィッティングすれば何かのものに近づくということで、今、相当にやられているんですけれども、シミュレーションを使うにも、きちっとしたいろんなミクロの具体的なデータがあって、それを相当ベースにしてやれば、ほんとうの意味で実データにストレートに近づく。今求められているのは、大きいシステムとしてもシミュレーションだけじゃなくて、ミクロな視点に立った計測をベースにしたもの。それから、もっと基礎研究の個々の触媒反応とかいろんなことに関連しても、ミクロの計測がきちっと、ミクロ、ナノレベルの計測、あるいは短時間の計測が必要だという状況です。

【委員等】
 太陽電池は応用物理学、燃料電池は材料化学関係を中心に研究されていると思いますが、課題としては共通するところがかなりあると思っています。

【主査】
 ありがとうございます。まさにターゲットオリエンテッドな装置開発といいますか、そういうところに、あえてチャレンジをするというステージに入ってきたということだと思います。

【委員等】
 固液界面の表面をナノレベルで見るというのに、先端計測事業で安藤先生がやっている液体内の高速観察の成果があります。今回のような電池関連への転用の可能性はいかがでしょうか。

【委員等】
 生体内に閉じ込められた液体と燃料電池で、非常に極端なイオン性の液体と全く同一視することはできない。要するに、溶液化学の基礎から違いますから。だから、これは大変な課題で、その分野の基礎がどこまでわかっているかにあると思います。

【説明者】
 その辺が化学のある面ではごまかしているところになるかもしれません。物理的な現象みたいに、明確に理論に沿って説明できなく、ケミカルなものというのはなかなかとらえにくいかなと。ただ、例えば、pH1つ違えば物が全く変わってきますので、そういうところも含めると、結構難しい話になる可能性もあります。ただ、我々も、今、1つの壁に当たっておりますので、使えるか使えないか試してみることであれば、ぜひやらせていただければと思います。

【主査】
 ありがとうございます。現状でこういうことなら可能だということも、一度トライアルしていただくと非常に価値があると思います。やはり大体ができそうなことをやるというのが今までのスタイルで、実験する側もそうですし、装置づくりの方もそうなんですけれども、本当のターゲットオリエンテッドはそれを乗り越えなければいけませんから、そのステージで本事業、何ができるのかというのが課題でございます。そのあたりがはっきりしてきたということで、今日、大変ご多忙な先生方の話題提供をいただきまして、有益なディスカッションができたと思います。

 それでは、次の議題について、事務局からご説明をお願いいたします。

 

(2)知的創造プラットフォームの構築について

  <事務局から資料5について説明>

【主査】
 ありがとうございました。今回、あらかじめ、このまとめをごらんいただいているかと思いますが、その段階で載せていなかったご意見について、概要をご発言いただけますか。

【委員等】
 企業の立場なんですけれども、やはり始めるときの議論は、この先端計測、非常に大事で、たくさん記述がありますが、やっている途中で、中間でいろんな方面から議論することによって、方向性を変えたり、あるいは目的をより現実的なものにしたり、そういう動きを持ったらどうかというのが1つの視点です。つまり、計測分析技術あるいは機器という形に見えるものができますので、答えが必ず、概念ではなくて物になるわけですね。ですので、非常に安全な方向にいきやすいときもあるんですけれども、かといって、ターゲットは難しいと。ですので、やはりチャレンジングしていくためには、途中で出口を変更可能な、つまり、こういう方向ならできるんではないかという議論の場を持ったほうが、より難しいターゲットにもチャレンジできるのではないかと。この視点をぜひ、こういった知的創造プラットフォームで議論できたらいいのではないかというのが一番補足したかった点です。

【主査】
 ありがとうございます。少しご説明を申し上げたいと思っている点がございます。配付した資料で「プラットフォームの運用方法について」というところで、「JST先端計測担当」という表記でございますが、幾つかの質問をいただいており、若干説明させていただきます。
 確かに、プラットフォーム機能の中に、「研究推進・マネジメント機能」というような表現で、一番初めにご説明しましたパワーポイントの資料で書かせていただきましたが、あのあたりについて、実はほとんど議論もなく、担当をマネジメント機能が小委員会で、研究推進機能はJSTのご担当の部署というような表現をしたものをお配りしましたけれども、これはよく考えてみますと、大変誤解を招きやすい書き方であったと反省しております。要するに、プラットフォームというのは何か、それから、現在進んでいる、この委員会、それから、JSTにおける実施のご担当のグループ、あるいは、もちろん事業実施の推進形態が既にあるわけですけれども、そういうものの関係を、こういう簡略化した表現では全く不適切だなと思います。プラットフォームを構成し、それを運用するということは、実はこの小委員会とは別の仕組みであるし別の機能、もっともっと幅の広い、大きなねらいを持ったものでございますから、リアルなものと単に結びつけるのは、まずはリセットしておいたほうが適切だと思います。
 もう一つ、先生方のご意見をずっと読ませていただいて感じたことは、ほとんど必要なご指摘が、多面的なご指摘が含まれているなということを感じました。これを上手にまとめていきますと、ほとんど8割方でき上がるんではないかという印象を持ちました。
 例えば、府省庁横断型というようなこと、あるいは文科省の中で、局を横断するような合意形成、そういうご指摘がありましたけれども、プラットフォームとしては、当然、そのレベルの広がりを念頭に置かなければいけないということは、ほかの委員の先生方のご指摘もありますので、ねらいはそこにある。ただ、現実に、当面どこから構築するかという当面の方法論と、それから目標とするものと、それをある程度今の段階では区別して議論をする必要があるだろうと。
 もとの議論に戻りますが、プラットフォームの中に研究推進機能、それは現実に、今やっているものをイメージしている。これは当然であります。それから、全体をマネージメントする。この委員会の役割は何かといえば、現実の研究推進等、全般にわたるポリシーにかかる部分の議論、それをやっているわけでして、事実上は、事業として推進しているのはJSTの中のご担当の皆さんです。評価委員会、開発推進のための皆さん方、その協力部隊、それがある。これは事実ですから、それをもとに物を考えるというのは当然であり、その役割分担を適切に全体の中で位置づける必要があるということは一番大事なことだと思っておりますので、その点だけご指摘させていただきます。
 実は、あらかじめ委員の先生方のご意見をなるべく共有して、ここのまとめで、例えば、言い足りない部分、あるいは表現が適切でない部分等があれば、本日、お聞かせいただきまして、よりいいものにまとめ上げるための個々のご意見というように扱わせていただきたいと思っております。 

【委員等】
 国が産学連携みたいなところで何をするかというときに、経済産業省と文部科学省では役割が違うとは思うんですけれども、プラットフォーム的なものをつくって、だれに利用してもらうのかといったときに、どのようにすれば産の方にたくさん参画してもらえるのか、どういうふうにして利用してもらうのかということについて、かなり明確なイメージとストラテジーを持ってやらないと形骸化してしまうのではないか、心配があります。
 さらに、大学を巻き込んだ場合でも、公募で何十人か募集してやるといっても、全国に広がった形、プラットフォームというイメージにはならないと思うので、そういった場合に、どういう形で全国に拠点化して、有効活用できるシステムを立ち上げるのか、具体的なイメージが必要と思います。

【主査】
 この半年の間に、タスクフォースの議論が母体になって、このプラットフォーム構想というのは出てきたんですが、その議論のプロセスが、この委員会全体に結果だけが伝わって、途中経過が伝わってないというのが1つの課題であるものですから、私はそれが、結論ありきではなくて、委員の皆様方の意見をもう少し丁寧に伺った上で再度構築をするというのが多分妥当なプロセスだろうと思って、こういう議論をさせていただいております。
 1つだけ申し上げたいのは、これは大学の人間として、あるいは装置開発をやった人間としての反省点は、とにかく一般的な研究開発の現場は、一言で言えば視野が狭い。要するに、自分の興味中心に研究をする。オリジナリティーを尊重するという風土の中から、必ずある程度シャープに絞り込んで物事を考え、実際に研究開発をするわけですけれども、それの最大の欠点は、同様な関心を持っている人たちがよそに大勢いることがわかっているんですけれども、当面は無視して自分の研究を進める。これが多いんですね。その結果、何が起こるかというと、インストゥルメンテーションの分野では、せっかくシーズ志向でいいものができても、ニーズと結びつかない。あるいは、絶対にこの人たち、使えば効果があるのにとつくった側は思っているんですけれども、相手は必ずしも乗ってこない。国の予算を使って論文も書いてあるし、装置もできているんですが、国の予算が終わるとお蔵入りになると。これは絶対に打開しなければいけない。どうすればいいか。要するに、仲間にもっと広く伝える、あるいは興味のある人に参加してもらう。もっと有効な連携が必要である。不可欠であるというのがスタートであります。ですから、そういう機能を持たせるためにはどのような仕組みが必要かという議論を、まずは具体化できたらいいなと考えております。
 ご意見として、仲介の機能として、特に、学会の、NPO、シンクタンク、コンサルタント等のバックアップ体制の確保というご指摘がありますけれども、このあたり、補足していただけますか。

【委員等】
 研究者、特に現場で活躍している若い研究者の場合は、今、評価も厳しく、あまり外に目を向ける暇もなく、自分のことだけで、ものすごく視野が狭くなって、隣のことはあまり気がつかないといったそういうのが現状だと思うんです。勢い、一般的な情報にうとくなる。こうした傾向の改善に向けて、1つには、この小委員会などの活動やJSTでの成果としてでき上がった装置について、実証・実用化プログラム等もありますけれども、例えば、学会の学術講演会なんかでも、冠ワークショップなどの形で、どんどん公開していくことが重要だと考えます。逆に、学術講演会のほうではそうした提案を求めているケースがかなり多くなってきているはずです。そうした場の活用はその分野の専門家が大勢いるので、非常にいい宣伝になる。いろいろな装置の宣伝を見ておりますと、どうもほんとうの専門家に向けた広報がいま一つ足りないんじゃないかなと。そうすると、そういう中で、プラットフォームというものがあれば、お互いの情報の連絡がうまくいくことが期待される。そういうことで、もっと学術講演会、専門家が集まってくる場をうまく活用するというのは1つの手だろうなと思います。
 それから、共同利用に関しては、いろんな装置の共同利用、あるいは研究所そのものの丸ごとの共同利用、共同利用機関なんていうのもありますけれども、本当の意味で共同利用ということがあまりうまくいっていない。その原因のひとつに、装置を貸す側が、共同利用によって得たデータを自分のほうに還元できるかできないかと視点で考えてしまうところに問題があるのではないだろうか。
 そのようなわけで、共同利用を円滑にかつ有効に進めるためには、縦の関係じゃなくて、横の関係でモデュレートする仲介人みたいな、そんなようなものがどうも必要だろうと思ってます。例えば、超高圧電顕の共同利用なんかはかなりうまく進んでいるようですが、リエゾン役みたいなことを熱心に進めている方がいて、こうした方の努力に負っている部分がかなり多いようです。そういうリエゾン役というのがどうしても必要だろうとおもいます。リエゾンあるいは仲介役には装置やその応用領域にある程度関連した情報を持っているならば、シンクタンクあるいはNPOだとか、そういうところできちっとやってくれるならば、そういうところにお願いするのも、1つの方法だろうなと常日ごろ思っております。

【主査】
 プロアクティブな機能についてご説明頂けますか。

【委員等】
 本日、電池の開発課題が何かという議論を始めたように、今後起こるであろうライフやグリーンのイノベーションのプロジェクト、その中で、本当にどういう計測技術が必要になるか、それが問題解決にどのように役に立つか。そこをやっぱりその段階から一緒に議論することをやらないといけないと思いますし、いろいろこれまでも議論できたような、例えば、半導体の世界ですと、ITRSというところで、製品のロードマップと同時にメトロロジーのロードマップもつくって、それで、みんな準備するというような話がありますから、問題が起こってから準備するとともに、事前に起こるであろうことを予測するという動きもやって、その段階からやってないと、いろいろな予算であるとかプロジェクトの中にそういう計測のアクティビティーを予算化して持ち込むとか、そういうことができないので、常に一歩先をいったような手を打つ必要があると思っています。

【主査】
 ご意見の中に、あらかじめ評価指標を考えておくべきだというご指摘がありましたが、ご説明頂けますか。

【委員等】
 結果が伴わないと、長期的にこのプラットフォームを維持・拡大していくことが難しいのではないかと思いましたので、それを後から評価されるんじゃなくて、自分たちで自己評価できるような仕組みを、指標を自分から、ここまでいったらこれだけ効果があるんじゃないかというような、そういうところを打ち出すという、そういう考え方です。
 達成目標を自分たちで高く掲げて、これは失敗だというのは、そういう評価項目になってしまっていたところがあると思うんですけれども、もっと加点主義のもの。この知的創造プラットフォームは、非常に革新的な意欲的な試みだと思うんですけれども、それはゼロからやるわけですから、マイナス指標をつくらないで、みずからプラスの評価指標を生み出していくという、そういうことも、この制度をつくるときに、自分たちであらかじめ用意するという、そういう意味です。

【委員等】
 一番イメージがわくのは、プロトタイプ活用拠点支援だが、これはどのフェーズなのか。多分、プロトタイプができたということは、プロジェクトの後半に差しかかって、格好が見えて機能し始めたという段階かなと思うんですけれども、実際にあの分野の計測を見ていると、測定器ができたとしても、それをほんとうに売れるものにするとか、あるいは、ほかのユーザーが使いたいというふうに持っていくためには、非常に大きな努力が必要で、それを使って、いろんな研究面での実績、論文が出る。それがあるところで加速的にユーザーが増えていくと、世界が認めて、これを使わないと一流の研究ができないとか、そういうところに来ると思うんですけれども。だから、もしやるとしたら、そこら辺の加速するところを強化するということが必要かなと思います。
 開発した本人が、もちろんいろんなアプリケーションをやって、論文を書いてやればいいんですけれども、全部、開発当人がやることは非常に難しいと思います。ですから、他のユーザー、多分この場合には、一般的なユーザーというよりも、その分野にものすごく興味があって、しかも一流の成果を上げているような人だと思うんですけれども、それは大勢募る必要はなくて、トップクラスの人を選べばいい。それを選ぶのは、開発した本人が選べばいいと思うんですけれども。そういう非常に責任を持てるようなユーザーを見つけて、その人と共同研究で非常に大きな成果を上げていくというのが、僕は具体的によく見える道です。
 それから、今までの開発プログラムで論文がたくさん出たとおっしゃったんですけれども、ほんとうにそうなのか。さっきの評価のところに、論文というのは実際1つも出てなかったんですけれども、ほんとうにそれを使ったアプリケーションとして論文が山ほど出ているのかというのは、1つ疑問に思います。それが出ているのであれば、測定器が離陸を始めて、本来売れていいはずだと思うんですね。
 もう一つ言うと、開発した本人とかその近傍の人が、論文という格好で実績を上げてないような測定器を第三者が買うということはあり得ないと思うんです。だから、そこら辺が、測定器をつくって離陸させるときの重要なポイントかなと思うんです。これまで、プロトタイプ支援のプログラム、あったかもしれないんですけれども、それはこういうストラクチャーにはなってなくて、これはアイデアとしてはすごくいいかなと思うんですけれども、運用の仕方をもうちょっと洗練したほうがいいかなという気はします。

【委員等】
 先端計測事業での小池先生のスピンSEM、これはおそらく日本が世界に誇る表面磁性の計測機器。ただ、ポスドクがいない、維持管理費も出ないということで、そういうものを例に挙げれば、ここに書いてあるのは1,000万ぐらいの予算をつけて、優秀なポスドクがついて、そして、日本の中の大学、企業でほんとうにこれを使って最先端の研究をしたいという人を共同研究者に選んで、そこにポスドクを派遣して一緒に最先端の仕事をしてはどうか、例としてそういうのを考えています。ただ、そのとき1つだけ問題になったのは、共同研究での守秘義務の部分です。
 それから、プラットフォームを通して、大学とか、企業の人材でもそうですけれども、人材育成に資するという点が、文科省のプロジェクトとして必要と思います。ものづくりを通して、大学とか企業の中の若い優秀な人材も含めて、やっぱり人材育成に資するという1点だけは守っていただきたいというのが、このプロジェクトに対する一番の願いです。大学の人材育成、最先端の研究機器を使って、そして、ものづくりを担う人材育成のために、こういう世界一の装置があって、そこに参画して、そして、トップデータをとるような環境整備を何とか先端計測の中でもやれないかというのが、このあり方検討委員会の提案の骨子です。我々の視野にはまだこの程度しかなくて、これをさらに広げて、横の広がりだとか、そういう大きなスケールのものにどういうふうにステップアップしていったらいいのか、これからの議題だと思います。

【主査】
 要するに、一番積極的なご意見は、来年度の前半ぐらいで活動が開始できるように、まず第1段階を固めて、それを実働に移すということを先にやりませんと、世の中に広がっていくコアができないと始まりませんから、それをやりましょうというご意見が幾つかあります。そういうのは、まとめることはもちろんできるわけですけれども、それをもとに、その次に、どんなイメージで展開していくのかという、それはかなり漠然として、いろんなご意見を取り込んだものを、こうあればいいなというレベルのご意見を含んだ全体像を提示するという、その2つを含んだまとめができればよろしいのではと思います。再度、実効性、実施可能性、将来にわたっての継続性、そういう観点からのご指摘をさらにいただいて、それはすぐにできるかどうかは別にして、方向性としてそういうことを念頭に置いたプランをつくっておくというような進め方ではいかがかと思っております。

 本日はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。

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