第5期先端計測分析技術・機器開発小委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成21年9月18日(金曜日)15時~17時30分

2.場所

文部科学省 16F特別会議室

3.議題

  1. 先端計測分析技術・機器開発事業の平成21年度採択結果について
  2. 先端計測分析技術・機器開発事業の平成22年度重点開発領域について
  3. 先端計測分析技術・機器開発における知的財産の取扱いについて
  4. 知的基盤整備計画の進捗状況等について
  5. その他

4.出席者

委員

石田委員、上野委員、長我部委員、佐近委員、志水委員、菅野委員、
杉浦委員、竹内委員、田中委員、二瓶委員、原委員、広瀬委員、
松尾委員、森川委員、山科委員

文部科学省

柳研究環境・産業連携課長、能見新技術革新室長、北郷研究環境・産業連携課長補佐

オブザーバー

本河独立行政法人科学技術振興機構開発総括
澤田独立行政法人科学技術振興機構開発総括
野田独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進部長
安藤独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー
嶋林独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー

5.議事録

(1)先端計測分析技術・機器開発事業の平成21年度採択結果について

【説明者】
 資料1により今年度の先端計測分析技術・機器開発事業の要素技術プログラム、機器開発プログラム、ソフトウェア開発プログラムの採択結果についてご説明します。募集は、今年の2月26日に開始し4月9日に締め切っています。その後、評価委員会において審査を行い、283件の応募のうち62件を開発課題として選考しました。
 詳細については、要素技術プログラムは一般領域は90件の応募があり21件採択しました。また、応用領域は45件の応募があり2件採択しました。次に機器開発プログラムは、領域特定型は一般領域の「進化工学・分子デザイン手法による高機能制バイオセンサー・デバイスを備えた計測分析」は12件の応募があり3件採択しました。一般領域、応用領域の「物質・材料の3次元構造解析及び可視化計測」は15件の応募があり3件採択しました。応用領域の「経年使用材料の寿命推定」は7件の応募がありましたが採択はございませんでした。それから、ソフトウェア開発プログラムは32件の応募があり13件採択しました。

【委員等】
 応用領域の中で経年使用材料の寿命推定を可能にする計測分析については、結果的に採択件数が0ということになりましたが、まだこれから先の可能性がある領域ではないかと考えております。

【委員等】
 要素プログラムの中に応用領域は倍率が非常に高くなっていますが相当難しい審査があったのでしょうか。

【説明者】
 若干補足させていただきます。全般的に見ると、要素技術は増える傾向ですが、全て質が高いものばかりではありません。それから、不採択の場合でも、評価が分かれた課題は専門委員に資料を送り意見を聞いた上で、採択するかどうか最終判断を下しています。また、不採択理由はできるだけ丁寧に伝え、次回の応募につなげるようにしています。このため、次回再チャレンジするケースが非常にあります。その中には採択したものもあり、不採択課題が再チャレンジできるよう工夫しています。

【主査】
 競争的資金では不採択理由を申請者に伝えるという努力がされています。この点は進歩しているのではないかと思っています。今後とも一層のご努力をお願いしたいと思います。ほかに無ければ本議題は以上とさせていただきます。
 次に、次年度の重点開発領域についてですが、初めに従来の応募・採択状況全体像をもう一度振り返った上で、その後2つの発表を予定しています。これらを含め総合的に検討し、次年度の重点的な開発領域について具体的かつ明確に提示できるようにまとめていきたいと考えています。

(2)先端計測分析技術・機器開発事業の平成22年度重点開発領域について

1. これまでの開発領域の応募・採択状況等について

【説明者】
 機器開発プログラムについて、平成16年の事業開始からこれまでの状況をご説明します。
 まず、過去6年間の機器開発プログラムの開発領域の応募・採択の実績ですが、領域特定型は、平成16年から21年までトータル300件の応募があり38件を採択しています。領域数は19領域になります。また、領域非特定型には228件の応募があり23件を採択しています。それぞれ採択率は領域特定が12.5パーセント、領域非特定が10.5パーセントと大体同じくらいの採択率になっています。
  次に平成21年度の応募について技術分野を整理しました。領域非特定型については、分光分析が28パーセント、放射光分析が11パーセントとなっています。機器の応用先については、生体を対象とするものが13パーセント、タンパク質が11パーセント、界面・材料物性が11パーセントとなっています。また、JSTの文献関係データベース検索ツール(JDreamⅡ)を活用して、過去10年間の計測分析手法に関する論文数の傾向を調査した結果を紹介します。対象となる論文数は65万件で、そのうち電子顕微鏡に関する論文が24パーセント、次いで核磁気共鳴が22パーセント、質量分析が16パーセント、分光分析が15パーセントということになっており、特に電子顕微鏡の論文数が近年増加しています。

【委員等】
 応募だけでなく採択案件については分析していないのでしょうか。

【説明者】
 採択されたものについてはございません。

【委員等】
 最後に電子顕微鏡とありましたが、STMも含まれているのでしょうか。

【説明者】
  トンネル顕微鏡は入っていません。

【委員等】
 計測・分析手法の論文に関する調査結果は、分析・計測手法を新たに開発するというような観点で書かれている場合に的を絞られているわけですね。最近、質量分析がかなり汎用的に使われることになると、それが論文では通常の表に出てこない補足データとして扱われる傾向がありますが、そういうところは入っていなくても、これだけ増えているということでしょうか。

【説明者】
 はい。サプリメントデータに関しては、このデータベースには多分あまり登載されていないと思います。こちらの論文は、いわゆる査読のあるようなジャーナルということになっています。

【委員等】
 逆に言えば、サプリメントに載る部分も含めるとかなり広がりを持っている可能性があるということでしょうか。

【説明者】
 はい。

【委員等】
 電子顕微鏡の論文数が急速に伸びているというのは意外でした。これだけ伸びているというのはどのように考えたら良いのでしょうか。やはりアプリケーションでそういうのが広く使われるようになってきたということなのでしょうか。

【説明者】
 確かに計測関係の電子顕微鏡学会も減っており、一方で増えているのはアプリケーション関連の方で、かつ、質量分析や顕微鏡といった学会には所属されていないという傾向なのだと思います。
 また、著者の所属がアカデミアか産業界か、ユーザーか機器開発者か現状分析のために掘り下げる価値があると思います。

【主査】 
 分析・計測機器の産業における位置づけや、基礎研究、研究開発における役割など、そういうデータをもう少し表に出す努力をしないといけないのではないかという感じを持ちます。社会的にもっとこの分野の重要性をアピールするための何らかの努力をもう少ししないといけない。
  それでは、JSTの研究開発戦略センターの安藤上席フェローと嶋林フェローのお二方に「アンブレラ産業」を軸とした国際競争力強化のための研究開発戦略立案手法の開発と先端計測分析技術・機器開発事業への期待ということでご発表いただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

2. 「アンブレラ産業」を軸とした国際競争力強化のための研究開発戦略立案手法の開発と先端計測分析技術・機器開発事業への期待

独立行政法人科学技術振興機構  研究開発戦略センター 上席フェロー 安藤 健 

【説明者】
 主査からなるべく具体的にコントリビューションが明確になるような話をということだったのですけれども、さて、答えられるかなということで少し不安になっています。要請されている2つの内容のうち、最初の部分については私どものやりました研究開発戦略手法の開発というところを聞いて頂きたいと思います。プレッシャーは2番目の課題です。先端計測分析技術・機器開発事業への期待という部分です。
 JSTのCRDSでは戦略プロポーザルを発行しております。それらは、CREST、ERATO、さきがけなどのテーマ出しに活用されます。CRDSにはディシプリンとしてユニットと呼ばれる、インフォメーションテクノロジー(IT)、ナノ材料・材料、環境技術、ライフサイエンス、臨床医学のユニットがあり、それぞれのユニットで科学技術の俯瞰を行っております。2年程前から社会ニーズを出して、いわゆるソーシャルウィッシュを明確にした上で、このウイッシュとディシプリンの仕事をドッキングして戦略的プロポーザルを書くという、社会ウィシュ、ニーズを明確にして、重点研究開発領域をつくろうではないかということが生駒センター長のもとで出されました。
 そのときに掲げたビジョンというかウィシュは3つありまして、“地球規模課題の解決”“生活の質の向上”それに“国際的な産業競争力の強化”ということで、私が担当したのが国際的な産業競争力の強化でした。

 

研究開発戦略センター フェロー 嶋林ゆうこ 

【説明者】
 では、まず初めに日本の産業、産業の国際競争力ということですので、日本の産業が世界でどういうふうな状況にあるかといった大きな話からご説明いたします。こちらはよくご存じかとは思いますが、各国のGDPの年推移をあらわしたものです。日本はアメリカに引き続き2位を2008年はキープしておりますが、その後、中国に抜かれるという予想がIMFより出されております。その後、日本、ヨーロッパ諸国などのGDPの伸びは非常に少なくゆっくりと伸びていく。他方、米国と中国に関しましては勢いよくGDPを伸ばしていくであろうという予測が立っております。
 今、申し上げましたGDPの総額といいますのは、国規模で、国全体として経済活動がどれほど活発かということを示す指標であります。次にお示しするのは2007年、1人当たりGDP上位30カ国、1人当たりのGDPというのは各国の国民がどれほど豊かに生活しているか。あるいは1人当たりどれほど生産しているかといった競争力を示すものと考えられます。こうして見ますと、先ほど2位でした日本が22位になります。
 では、次に貿易において日本が世界でどういった位置づけかといったことをお示しいたします。GDPの中で輸出がどれほど占めているかといったことを示す輸出依存度です。これを見ますと米国は左上の青のGDPのうち輸出額が占めるのは8.5パーセント、日本はアメリカに次いで低く16.6パーセント。アメリカに次いで先進国の中で低くなります。そのほかのヨーロッパ諸国というは、日本よりも高い輸出依存度を持っています。ドイツに至っては47パーセント、また、日本と資源などで置かれている環境が似ていると言われる韓国でも28.6パーセント。この数字から何が言えるかといいますと、日本が貿易立国と言われている、一般的には言われていますが、実は先進諸国の中で日本は輸出額、GDPに占める輸出額の割合というのは低いほうであるという事実です。
 では、そういったGDPと輸出額の中の日本の産業構造はどうなっているのかといったことを示すのがこちらの資料です。左上が2007年粗付加価値、これはつまり、GDPをあらわしますが、508兆円、そのうちの7割がサービス業、製造業が占めるのは2割になります。一方、輸出額は総額92兆円で粗付加価値額の18パーセント程度ですが、うち8割近くが製造業になり、サービス業が2割になります。粗付加価値額と輸出額を構成している産業というのが、ここで一転するのがおわかりになると思います。また、こういったことを10年前の下の段の97年と比較しますと、ほぼ同じ構造になっています。このことから日本の全粗付加価値を生み出しているのはサービス業が7割を占めているが、国際競争力という観点で非常に重要な輸出額というほうを見ると7割、8割が製造業である。製造業の強さ、国際的な強さというものが数値的にあらわれています。
 では、先ほどお話にもありましたが、計測・分析機器産業というのは、こういった観点から見ると日本の中でどういった位置づけにあるのかといったことを若干ご説明いたします。統計データでは2つの産業に計測・分析機器が含まれています。1つが左側、電子、応用装置・電気計測器、これは下の字のところに書いてありますが、X線装置ですとか、医療用のMRIなど、そういったものが含まれる産業分類です。もう一つが精密機械、こちらには計測機械以外のものも含まれています。これ以上細かく分類できることは統計上難しいので、あわせてお示しすることになります。こちらには分析機器として、こちらに書いてありますようなものが入っていますが、そのほか単純な医療用機器、輸血装置など手術台、そういったものも入っていますし、時計、デジカメを除くカメラ、こういったものも入っておりますので、その点は統計に注意する必要がございます。
 この2つを見ますと、国内生産額、すべての場が国際生産額、上の部分がそのうち粗付加価値額というふうになります。赤色の線が粗付加価値率になります。ともに右肩上がりで伸びてきている様子がわかります。2つを比べますと、精密機械の粗付加価値率が非常に高いということがよくわかります。これは粗付加価値率が35パーセントから45パーセントの間を占めておりますが、全製造業の中でも圧倒的に粗付加価値率の高い産業が精密機械であると言えます。何を意味しているかといいますと、GDPに大きく貢献している。人件費を占める割合が高い。設備投資が大きい。これはどれが効いているかというのはわかりませんが、こういった性質を持っている産業であるということが言えます。
 では、国際競争力という観点で貿易というものを見るとどうなるかといったのがこちらのグラフです。こちらは輸出額の多い順に産業を並べています。上のピンク色が輸出額、下の水色が輸入額、緑の線が貿易収支、輸出と輸入を差し引いたものになります。一番トップは乗用車、これは圧倒的な輸出額の多さ、貿易収支の大きさというので、これは1位を占めています。電子応用装置・電気計測器及び精密機械を見ますと、右のほうにございます。電子応用装置・電気計測機器の輸出額が1兆7,300億円、輸入額が9,800億円、貿易収支が7,510億円、これが2007年の状況です。精密機械のほうは、輸出額は電子応用装置などと近いですが、輸入額が異なっております。輸入額が1兆7,200億円で、輸出額を輸入額がやや上回っており、貿易収支はマイナスとなっております。
 これが何を意味するかというのがまた難しいところなのですが、中の製品の区分の仕方ということで少しひも解くのが難しいのですが、できる限りやってみたというのが次のスライドになります。こちらは同じような2つの産業の年推移をあらわしていますが、その下にどういった製品が主にやりとりされているのかといったことを文字で示しております。精密機械のほうを見ますと、輸出の5割を占めているのが光学機械と分析機器、試験計量器などといった高付加価値な製品です。輸入は輸出を上回っていますが、輸入は何かといいますと内容が異なりまして、医療用の機械器具、これは単純な輸血装置ですとか、手術台とか、比較的単純な製品になります。そういったものをアメリカから入れている。あとは時計といった、これもやや単純と言われるもの。
 これを見ますと、貿易収支がマイナスというふうに統計上は見えますが、中身を開いてみると精密機械、高度な精密機械に関しては輸出が圧倒的に強く、国際的に市場を占有している日本の強さというものを垣間見ることができます。
 では、次に国で産業をとらえるとき、国として産業に何を期待するかというのが、1つが雇用の創出というのがあります。国民をいかに養っているかということを産業に期待するのが大きな役割です。これは各企業の考え方と少し異なる点です。それを横軸にとっています。マンアワーというのは労働者数に年間の総実働労働時間を掛けたものです。どれほどの労働をその産業に投入してきたのかという意味になります。縦軸は労働生産性です。これは産業ごとの強さを示します。こうして年推移をとってみますと、この4つの産業区分ですべての産業において労働生産性は1996年から2006年の間、上向きになっていることから、伸びてきていることがわかります。
 マンアワー、労働投入量、雇用をどれだけ創出したかというところを見てみますと、製造業、サービス業以外の3つの産業というのは、いずれも減ってきています。これは日本全体の労働者数が減っているということも効いています。サービス業のみ途中から雇用創出を拡大しているということが見えます。さて、これをより細かい産業で見てまいります。製造業を計測に関係する、先ほど申し上げた緑と青の産業について、そして日本の代表的な国際競争力の強い産業である自動車関連の産業についてお示ししております。非常に単純に申し上げますと、雇用を創出しつつ、生産性を伸ばしている産業というのが一番望ましいということになります。そういった点で見ますと、このピンク色の自動車というのは非常に好ましいというか、理想的な伸びをしているというふうに、やや乱暴な点はありますが、言うことができます。
 生産性を上に伸ばしながら、大体、労働投入量も伸ばしつつ、つまり、右肩上がりになっています。自動車部品、同付属品というのも非常に大きな雇用を伸ばし続けているということがわかります。右下の従業者数の数値を見ますと、いかに自動車、自動車部品といったものが雇用創出をしているか、数という点ですが、そういったことがわかります。計測・分析機器に関連する産業を見ますと、精密機器に関しましては労働投入量を減らしつつ、生産性を確実に上げてきています。電子応用装置・電気計測機器に関しましては、雇用という点ではあまり大きな動きはなく、生産性も複雑に動いているという様子がうかがえます。
 話はすべての産業に戻しまして、こちらは日本主要先端製品、部材の売上高と世界シェアを示したものです。縦軸に世界市場規模、横軸に日本企業の世界シェアをとったものです。左に行けば行くほどシェアが小さくなります。これを見ますと、自動車というものが非常に大きく、大きいというのは日本企業の売上高が大きいということです。それが世界シェアで34パーセントを占める。一方で、右下のほうにありますのが、これは非常に小さい星くずのようなものがございますが、これは100パーセント近くを占めているシェア、ほとんどが部品・材料といったものです。日本の高い技術力を誇って、高いシェアを占めているということがわかりますが、一方で小さな製品の性質というのはございますが、売上高、また、GDPに貢献する粗付加価値額が小さいものがこの高いシェアのところに占めているということがわかります。
 日本の最終組み立て製品、システム産業の弱さと部品・材料産業の強さを示す製品例として、こちらの資料を挙げさせていただいております。例えば右上の携帯電話を見ますと、携帯電話全体を見ますと、日本製品というのは世界シェアにあらわれてきません。しかし、中を開きますと右の2つの円グラフ、青色が日本です。こういった液晶ディスプレーやリチウムイオン電池を見ますと、ほとんどが日本企業のシェアである。また、下の水産業を見ますと、右側のパイチャート、赤いところが日本の膜の世界シェアです。こちらは60から70パーセント、日本が世界を占めています。
 しかし、左のこの逆三角形を見ますと、こちらが得られるものというのは下のとんがったところの1兆円のみです。どこが大きな収益を上げるかといいますと、上の全体的なシステムとして産業を管理しているヨーロッパ、アメリカの企業になります。このように日本は非常に高い技術力を持ち、部品・材料で世界シェアを圧倒しているにもかかわらず、大きなシステム産業というものを苦手にして付加価値をみすみす見逃しているところがあるのではないかというのが我々が到達した最終的な問題意識となります。
 ほかにもいろいろな輸出額、世界シェア、生産性といったものを比較いたしまして、日本の産業の国際競争力というものの特徴を上の青色の四角に書いてございます。自動車や機械関連などの一部の最終組み立て製品が世界シェアを優位に占め、国際競争力が強い。日本の部品・材料及び特殊素材は国際競争力が極めて強く、日本のみならず世界の最終組み立て製品の中に組み込まれ、それらの国の製品の付加価値向上に大きく寄与している。こういった日本の特徴、国際競争力といった点からの特徴を踏まえまして、新たな戦略を立てるためにどういった産業のとらえ方がふさわしいかといったことを議論しました結果、このような2つの産業の概念を打ち立ててみようという結論になりました。
 1つがアンブレラ産業、そしてそれを構成するエレメント産業というものです。アンブレラ産業といいますのは、部品や材料を組み合わせ、システムとして構築したもの、あるいはそれらハード技術と全体システムとして最適な機能を発揮するためのソフトウェア技術とを組み合わせ、付加価値の大きなシステムを構築し、産業連関的にも社会的・経済的にも大きな価値を生み出すシステムを生産する産業です。それを構成するものがエレメント産業です。部品・材料、あるいは独立性の強いソフトウェア技術などがこれらに含まれます。このような新しい概念を打ち立てた上で、これを目標に掲げた研究開発戦略というものが産業の国際競争力強化というものにふさわしかろうと考えております。
 我々がその目標に掲げるにふさわしい具体的な産業というものを挙げる必要があろうということで、CRDSですので科学技術イノベーションを踏まえた、こういった4つの条件でCRDSアンブレラ産業というものを創出してきました。その4つの条件の1つが地球規模課題の解決を指向したものであること。これはこれを無視して産業をこれから推し進めるということは不可能であると考えるからです。その次にはCRDSならではの、その産業を創造するには科学技術イノベーションを必要とすること。そして、社会的・経済的価値が大きく、日本のGDP向上に大きな貢献ができるものであること。そして、最後に日本が創造することが世界的にも優位で、日本はそのポテンシャルを有し、世界からも期待されていること。こういった条件にふさわしい新しい産業、将来の産業とは何でしょうかといったことを議論してワークショップで有識者に集まっていただき、議論していただき、つくり上げたものがこちら「CRDSアンブレラ産業」となります。
 これは黄色のところにアンブレラ産業の目的というのを書きまして、その横に具体的な個別のアンブレラ産業を記載しております。アンブレラ産業の目的を急に実現するのは難しかろう、そういう場合もあるだろうということで、時間の進展具合がわかるようにしております。つまり、一番右にMGUPと書いてありますが、オレンジ色のものは一番遠い将来に実現するべきであるもの、それに到達するまでの前段階として長期的に実現するものが水色、その前が中期的に実現する緑色となっています。経済効果というものは、これを創造することによってGDPにどういった影響を与えるかといったこともわかるように書いております。
 このアンブレラ産業というものを議論しましたのは、企業の技術がわかるトップの方、そして日本だけではなく世界を見渡してその中で日本の位置づけがわかる方、あとは大学の方、役所の方にも来ていただいておりますが、そういった方のワークショップ及びインタビューを重ねてつくり出したものです。こちらが2枚目になります。全部で37のアンブレラ産業を創出しております。このアンブレラ産業を目標にどういった研究開発戦略を立てていけばいいのかといったことを導く産業技術俯瞰図というものをつくってまいりました。そちらの概念図がこちらになります。
 横軸にシステム産業としてのアンブレラ産業をとっております。横軸はずっと将来存在するシステム産業すべてが並ぶわけですが、我々はCRDSアンブレラ産業として4つの条件で限定したものに限りまして、このオレンジ色のところに書いているという考え方になります。縦軸にそのアンブレラ産業を構成するエレメント産業、これは現在の関連産業連関表の分類に基づき、現在の産業分類になります。縦が現在、横が将来という流れになります。アンブレラ産業の下には、そのアンブレラ産業を実現するために解かなくてはならないエレメント課題、科学技術課題をこの黄色の枡目に書いています。
 この位置は横のエレメント産業、どの産業が担当するのかがわかるように位置づけられています。各課題に関して、それの根底にある、根源になる新科学技術というものも明らかにする必要があり、それを緑色のところに書いております。この産業技術俯瞰図を使いまして、どういったイノベーションを誘発していけるのであろうか、そういったものをどういうふうに描くことができるかといったことをこちらにお示しいたします。
 イノベーション誘発のシナリオというものは、大きく2つございます。1つはアンブレラ産業牽引型、目的である将来のアンブレラ産業を掲げて、それが引っ張り上げるような形で研究開発を進めていく。もう一つはエレメント新科学技術駆動によるアンブレラ産業創造型、こちらは新科学技術で行われている研究がエレメント産業につながり、それをアンブレラ産業、より大きな付加価値を生み出すアンブレラ産業に引き出して、大きなイノベーションに結びつけるといったものです。こうして生み出されたエレメント産業というのは、新しい日本国内のアンブレラ産業をつくり出すといったこともありますし、海外のアンブレラ産業に部品・材料として供給するといったことも考えられます。
 こちらのアンブレラ産業牽引型というのは、この中でさらに2つに分かれます。1つが技術パッケージの解決によるといったものです。1つのアンブレラ産業を実現するために必要なエレメント課題、これをパッケージとして次々に解決していくことによって、これをつくり出し、大きな付加価値を生み出す。もう一つは横断技術課題の解決による。複数のアンブレラ産業の共通機能を獲得するためにクリティカルなエレメント課題というものを解決し、一斉に幾つかのアンブレラ産業への実現に近づいていくといったアプローチです。
 では、産業技術俯瞰図から具体的に研究開発をどう推進していくのかといったことを視覚的に表現して、すべての人で共有できるようにしなくては戦略が立案できないということで、こういったものを産業ごとに作成しております。一番上にアンブレラ産業の目的を掲げ、その下に段階的に実現するアンブレラ産業というのを書いています。ここにはそのアンブレラ産業をシステムとして完成するために必要なシステム課題、段階的に実現すべきアンブレラ産業の下には、それを実現するためには必ず解かなくてはならない科学技術課題というものが書いてあります。まずは中期、長期、超長期、これによって段階的に何を優先的に解決していかなくてはならないのかということを共有することができます。
 さらに、この課題の根源にある、先ほどの縦軸の緑色のところに書いておりました関連する新科学技術、これは科学技術のファンデイングをするに当たりましてどこが根源なのか、どこに投資するのかといったことの1つの目安になりますので、それがここに書かれております。例えば電気自動車を実現する。電気自動車、全く新しい電池による電気自動車を実現するためには、ハイパワーかつ長寿命な新型電池の開発、そして充放電時の電極での元素の存在状態の解明及び電解質でのイオンの移動機構の解明とそれらの計測技術の確立、これが必要であろうというふうにこれを見るとわかります。
 お手元の資料と順番がやや異なっておりますが、こういったように輸送産業、ほかに資源開発産業、情報通信産業、食料産業に関しては我々で推進指針をこのように描きました。ほかにも掲げましたCRDSアンブレラ産業を使いまして、こういった指針を描くことというのが可能です。さらに、こういった描かれましたこの黄色の部分のエレメント課題、これが出てきましたが、じゃあ、これをだれが担当して解決していけばいいのかといったことがわかる必要があります。だれが担当するのか、その人たちはどういった位置づけでその課題を解決するのか。その解決するためには、だれと連携すればその上の課題を解決し、実現することができるのか。そういったことが階層的に視覚的にわかる方法としてこちらをお示ししております。
 エレメント課題、黄色の部分から計測・分析技術が担う研究開発課題を明確化する手法です。例えばアンブレラ産業でこういったものを掲げて、その下に軽量かつ高剛性材料の開発といったエレメント課題が上がりますと、その下、どういったものがあるか。幾つも幾つも並ぶと思います。その事例として2つこちらに書いております。例えばポーラス合金の開発、その下、では、そのために何をすればいいのか。そのためにはこういった新しい現象などを計測できる技術が必要である。こういったことが次第、次第にブレークダウンされていくといった手法です。
 先ほどの産業技術俯瞰図を用いましてCRDS内で今年度検討しております研究開発領域を切り出した事例というものをこちらに示しております。我々は、その検討すべき研究開発領域ということをこの時点で戦略スコープというのを我々の用語で使っております。青色というのが比較的複数の産業にまたがって横断的に解決すべき課題です。赤色といいますのは特定のアンブレラ産業に実現するための課題です。例えばこちら、環境負荷を低減し、国際競争力を強化するための軽量化技術、輸送産業であったり、建物であったり、IT製品であったり、あらゆることに軽量化というものが効きます。そういったものを産業横断で提案し、それから各ディシプリンのユニット、これですと、ナノ、物質・材料ユニットからこういったテーマが提案されました。
 また、文部科学省のほうからもこのときこういったテーマが提案されました。この2つを合わせて、現在、こういったテーマ、空間制御・利用技術といったテーマで検討が進められております。こういった各ディシプリンの下側から出てくるこの課題をこちらの産業技術俯瞰図によって方向づけをして、産業競争力の強化といった目的に引っ張り上げる。その研究開発領域を示すものになります。
 これが最後のスライドになります。我々が考えておりますのは、研究開発戦略で重要なのは、目標を掲げ、その目標達成のために重点的に取り組むべき研究開発領域を抽出することである。そのとき、目標達成における緊急性と課題解決の担い手の階層構造を明確にする必要があります。本日紹介しましたのは、産業の国際競争力を強化するイノベーションを起こすことを目標とし、そのための戦略を立案するに当たり、研究開発領域を抽出する方法です。この方法によって各研究ディシプリンの俯瞰図に基づき切り出されている研究開発領域を目標達成の方向に牽引することができる。このようにしてCRDSでは戦略プロポーザルをまとめております。
 抽出された研究開発領域には、先端計測・分析関連の研究課題が含まれている場合が多くあると考えられます。また、CRDSの計測担当や文部科学省が研究課題を指摘し、共同で研究開発領域を抽出することもあり得ます。そして、現に昨年、文部科学省の方にも参加していただいて課題を出しております。今後、CRDSではこのようにして先端計測・分析関連で取り組むべき研究課題を抽出し、戦略プロポーザルを作成していきます。先端計測分析技術・機器開発事業には、このような方法で戦略的に抽出、選定された開発領域・研究課題に取り組むことを期待させていただきまして、研究開発戦略の立案方法というものを今回提案させていただきました。

 以上です。

 

【委員等】
 経済産業省で技術戦略マップを数年前から毎年作成しています。その中には計測分析評価のロードマップや、今発表のあった各テーマのロードマップなどが毎年更新されていてとても参考になるので、それもうまく利用されたらいいと思いますがいかがでしょうか。

【説明者】
 ありがとうございます。経済産業省の技術ロードマップの担当者とも意見交換しています。お互いに役割がやや異なり、性質が少し違う点がありまして、向こうは網羅的にどういった開発を、どういった技術課題があるかといったことを各産業の方から聞き出して並べて1つの辞書のようになっているものです。こちらはもう少し戦略的にとがったもの、これを特に重点的に示したものです。また、順番、ステップを示した点が違いだと思っています。

【説明者】
 これに関して経済産業省とも話し合いました。我々のほうで重要なのは、軸を2つ設定したということです。経済産業省は、網羅的に多くの産業、技術について時間軸とマイルストーンを明らかにしています。我々の仕事は軸を設定し、4つの条件のもとで実現すべきイノベーションを描き出している。この俯瞰図からは日本の強さと、弱さが出てくる。特にシステム的なもの、システム構築の弱さが、2軸を置いたことにより見えるようになっています。

【委員等】
 日本のアンブレラ産業の弱さとエレメント産業の強さを示す製品例について、iPodと携帯と水が出ていますが、少し気になったのは、その前の日本企業の世界シェアというところで、このエレメント産業の部品は世界シェアがほとんど100パーセントみたいなものがたくさんありますが、それは実はすごく安くて、Appleは自分の利益にしていて、シェア100パーセントのはずの日本企業は何十ドルぐらいで済ませている。普通、独占企業なら自由に価格設定ができると思いますが、このシェアというのは、そうすると、安価に売るというところに日本の産業の強さがあるのであって、イノベーティブではないということでしょうか。

【説明者】
 シェアが100パーセントに近いなら、幾らでも価格をあげることができるということですが、例えばパソコン1台を10万円ぐらいというパソコンの値頃感というのは当然あるわけで、その中の1個のMPUを5万円で売るというのはとてもできないことです。最近、ある会社が独占的に新しいLED材料を出す。そういうときにシステム全体を眺めた上で価格がどう決まるかです。
 エレメント製品販売でもうかっているのはインテルのMPUで、大きな利益が出ていると聞いています。全体のシステムをアンブレラシステムの構造がわかった上で自分のエレメントをどういうふうに市場に持っていけば利益が取れるかという構造がわかっているのだと思います。我々が今考えているのは、エレメント産業がリードできるようなビジネスモデルにもう少し日本も変わっていけば大きな利益がとれるのではないか。そういう意味合いも含めてアンブレラ軸を創りました。システムというのを知っておけば、ビジネスのモデルが書けるし、方法論ができると考えます。

【委員等】
 例えばAppleがどのディスプレーを使うかを選択するという意味でしょうか。
今のご説明は、今1万円で売っているものを5万円で売ろうとしても売れない理由は、5万円にしたらAppleが使わないから売れないということでしょうか。

【説明者】
 1万円を5万円にするというよりも、1万円にして多くのシステムの中で使ってもらえるようにする。

【委員等】
 逆に言うと5万円だとシステムの中で使ってもらえないということでしょうか。

【説明者】
 1万円のままで、利益率はある程度確保しておいて、ありとあらゆる世界中のパソコンの中でだれでもが使うようにする。

【委員等】
 質問は、その液晶ディスプレーの部品を5万円で売ればすごく利益がでますが、5万円にしたら使ってくれないということでしょうか。

【説明者】
 製品が仮に2万円ぐらいだとして、この中のある部品を100パーセントシェアを取っているから、5万円で売るということは不可能ですよね。製品全体が2万円だったら、その中にある、ある部品で世界シェアを100パーセントとっていても5,000円かもしれません。

【委員等】
 もともとない部品であれば、その部品を使わなければいけなくなるのではないでしょうか。

【説明者】
 そうですね。車なんかにはそういう部品・材料が多いですね。

【委員等】
 そうすると5万円で使うか使わないか、そのメーカーに判断させるしかないわけで、それができていないから5万円で売れないのではないですか。

【説明者】
 インテルのMPU1個を、幾らで売っているか分かりませんが、でも、利益率は大きいと思います。

【委員等】
 代替品がないものであれば、そのように幾らでも使うことがあり得ると思います。代替品があるから安くしている。質問の内容は、日本がつくっているものというのは代替品があるものを結局つくっているから、そういうまずいことになっているのではないか。そういう点はどうでしょうか。

【説明者】
 ビジネスはわりと仲良くやらないといけない。1人だけではやっていけない。

【委員等】
 しかしインテルはそれでできているのではないでしょうか。

【説明者】
 MPUでインテルが圧倒的なシェアを持っていますけれども、例えばいわゆる車の排気ガス処理のハニカム、これは日本ガイシが巨大なシェアを持っていますが、ハニカム1個は幾らで売っているか。それは日本ガイシが一番よくわかっていて、その利益率は大きいと思います。
 そういうような形で、やっぱり車に搭載しているハニカム1個が幾らかは知りませんが、シェアは日本ガイシさんが90パーセントぐらい持っているのでしょう。でも、車1台を100万円から200万円とすると、その中のマフラ部分においてハニカムが幾らの価格になるかというところはビジネスモデルの中の話になると思います。

【主査】
 少し整理していただけるとありがたいのですが、ビジネスモデルの話までなると、まさに経済産業省的議論になるため、科学技術的議論で本質的に何が問題なのかというところにやはり議論の中心を置いていただければと思います。

【委員等】
 戦略的な方針を立てていろいろなものをつくってアンブレラ産業を創出するというのはよくわかるのですが、今の議論と同じように、幾らエレメントを開発してもアンブレラ産業に結びつかない。それは大学としての研究者の問題なのか、企業としてそういうものを結びつけていくような発想を持っていないから問題なのか、次のステップアップするところはどこがやるのか。どこで基盤を担う人たちが育てられているのかという問題はどのようにお考えですか。

【説明者】
 我々は戦略の基礎に近い部分をつくるというところで、特に第1種基礎研究、その途中のいわゆる深い谷があるところ、どうやってそこを渡り切っていくかという戦略をやっていく。議論のような内容に関しては、吉川先生のフルリサーチ、本格研究というところでその問題を解いていかないといけないと思います。
 現在私どもがやる戦略というのは、ある種の方向性が見えているものをこういうふうにやれば技術革新を通して新しいアンブレラシステムにつなげていく役割を果たせる。これが我々の役目と思っています。

【委員等】
 文部科学省でそこまでやれるのでしょうか。例えば自動車産業は総合研究で、全部いろいろな企業がつくって集めている。また、医療機械もパーツはみんな日本製ですが、出てくるメーカーは全部イギリスだったり、オランダだったり、日本の製品は1つもなく、日本の企業で引いてしまったところもありますが、これはここの問題ではなくて、そういう産業、経済産業省などが産業界をどうやって育成するかという問題であり、ここの科学技術の要素技術をいかに十分に提供していくかという問題とは若干違う。我々はせいぜいその次のシステムをつくるところの提案ぐらいまでしかやれないのではないかと思います。そこまでを文部科学省でやるのかちょっと疑問です。

【説明者】
 今のディスカッションは確かに場が違うと思います。我々も最後のところにまとめましたように、我々が研究開発課題をこういうような研究開発課題を挙げたときに分析という観点から我々はコントリビューションできる可能性がありますよ、というのが先ほどの二瓶主査に対する答えになっていると思います。

【主査】
 産業連関表を途中でブレークダウンしてもう少し詳しくするということですが、どの程度までできるのでしょうか。分析とか計測により特化したエレメント産業や、産業連関表の全体像をできれば知りたいと思いますが可能でしょうか。

【説明者】
 産業連関表は、毎年総務省から出されているもので、一番細かい分類で約500分類になっているのですが、精密機械が一番細かい分類となり、電気計測器では、電子応用装置と電気計測器の2つには分かれますが、これ以上細かくは分かれません。

【委員等】
 精密機械は3兆円ぐらいですが、日本分析機器工業会が毎年まとめている日本の分析機器の生産量と輸出量などのデータ、分析機器に関して本委員会で関係するところは、分析機器工業会のデータを利用すると良いのではないでしょうか。精密機器となると、分析機器は3兆円の中の1割程度になるため、大きな傾向を見るときかなと感じました。

【説明者】
 その部分を見るだけならば、そういったデータのほうが正しいのかもしれません。
今回お示ししたのは、ほかの産業と比較してどうかということもお示ししたかったので、すべての産業を網羅している分類でお示ししたということはあります。

【説明者】
 それは、我々今回できる範囲内でのブレークダウンを短時間で、今ここまでやりました。

【委員等】
 アンブレラとエレメントという仕分けを2つの軸で戦略を立てる視点は非常にすばらしい。どういうふうに考えたらいいか。例えば、パナソニックが共通プラットフォームソフトをつくったことで家電は抜本的な設計がなくてもプラットフォームに対応するように既存技術を変えてシステムをつくることで、5倍から6倍ぐらいのスピードで対応している。説明にあったシステムとは、多分、それになると思います。
 エレメントというのは、共通ソフトに乗るようなものではないでしょうか。今、日本の産業に欠けているというのは、そういう共通プラットフォーム、あるいはそういうソフトで押さえるという点で、インテルのようにシステムが見えていて、そこに何を入れたらその全体がサッと動くかということが必要で、いかに緻密につくったり、ナノレベルのものをたくさんつくったり、安くしたりということでは難しいのでは。
 確かに、有機的にエレメントをうまく動かすシステムとしてアンブレラという概念があって、もう一つは、それを構成するエレメントがあるという座標軸をとって、それで産業のあり方を見直そうというストラテジーを立てられたことは大変すばらしい。今までそういうところが日本に欠けて、計測なら計測に限られていたことが出るだけで、どうすべきかという点が見えなかった。ただし、この2つの軸だけでは完全ではなく、もう一つ共通プラットフォーム的なものが必要ではないでしょうか。日本の自動車産業では、大手同士のシステムが全部異なると競争に負けてしまうということから、共通のシステムソフトの上に乗せようとして必死になって再編成をやっています。一方EUはそれができています。そういう意味で、今回のとらえ方は非常に大事な視点を突きつけていることがわかります。軸をもう一つ打ち出してもらえると良いかと思います。
 計測機器も同じです。ディテクターもほかも全部違ったソフトを使用し、自社の製品は自社のソフトでなければだめで、ほかのものはつけられない。そういうシステムとしての共通的なプラットフォームに乗せて計測機器を考えるということが欠落しているため、この発表は非常に厳しい指摘がたくさんあると理解しました。注文は、もう一つ軸があるのではないかと考え聞いていました。

【説明者】
 そういう軸というのは、さっきの俯瞰図の中のシステム課題及び社会的課題の中で書き込もうと思っています。さらに今のお話は、先ほどの先生方が言われるとおり、議論はものすごく大きな経済産業省側の課題に入っていきますから、我々はエレメントとしての分析という問題を考えると、技術としてのエレメント技術をどう提供するかというのがここの技術であって、どうやって将来像とつなげるかというのは、また違う議論になるだろうと思っています。

【委員等】
 産業連関表は、重要な社会経済的課題を解析するための長年の努力でまとまってきたものだと思うのですが、私どもが必要なのは、産業連関表ではなくて科学技術連関表です。CRDSでぜひ科学技術連関表を目指したシステム開発をお願いしたい。これまで計測分析技術というのは、ありとあらゆる産業と、ありとあらゆる技術にかかわる点を強く主張してきました。世の中の理解は相当進みましたが、まだ不十分と考えています。
 それを今日の発表にあるようなきれいな形に整理できたら、これは圧倒的な説得力のあるものになると思います。ぜひ今後ご検討いただければと思います。

【説明者】
 わかりました。産業技術俯瞰図の縦軸の緑の部分を中心にその展開を考えていくことになると思います。ただ、10月1日から新組織になるため、そこで引き続き検討していきます。

3. 高度計測情報処理のためのセンサ信号データベース技術の開発

名古屋大学 情報科学研究科  教授 武田 一哉

【説明者】
 名古屋大学の武田と申します。非常にスケールの大きい話の後で個別の話になっていくわけですけれども、多分、今の話を踏まえますと、この26ページに先ほどありましたCRDSのアンブレラ産業としては通信のある長期的なゴールであるところの人が発する情報、そのあたりに非常に関連があるというふうに先生方、まず第一印象としては思われると思います。ただ、私が申し上げたいのは、その根幹をなす計測技術というのは非常に複雑な系があったときに、その系のすべてをはかることはできないけれども、その系に隠された状態をはかるということは比較的できるような技術ができてきているので、それを使った計測技術というものの開発が今の時期に合っているのではないか、そういったことを主張したいと思います。具体的な例として、通信ではなくて車の運転という例がたくさん出てまいりますので、その点についてご理解をいただきたいと思います。
 まず、パターン認識技術なのですけれども、これはいろいろな領域がありまして、一概にくくるのは難しいと思いますけれども、現状、産業応用という観点から製品の検査であるとか、あるいは監視技術であるとか認証技術、そういったところで主に画像を中心にかなり幅広く使われているということは先生方よくご存じのとおりだと思います。こういったところで使われている技術というのは、非常に定型的なパターンの特異な例であるとか、あるいはだれもいないところに人が入ってくるとか、どこを見ていればいいか大体わかっているというようなケースでありまして、これは非常に役に立つ技術だと思います。
 それに対しまして本丸といいますか、知能メディア、言語であるとか、音声であるとか、ジェスチャーであるとか、そういったところを計算機の中に取り込みたいというのがパターン認識の研究者の野望でありまして、そこはやはりなかなか研究レベルでは進んでいますが、産業技術まで消化しているものは甚だ少ないということが現実です。ごくごく一部の例ですと、例えば手書きの文字認識を応用した郵便番号の自動仕分けとか、そういったものは広く社会に普及しておりますけれども、まだまだいま一つである。特にインターフェース、人間が機械を言葉で操るとか、そういった部分についてはまだまだこれからしなくてはいけないことはたくさんあるということです。
 そういうようなパターン認識技術全般の流れの中で、今非常に注目を集めている分野が、センサが小型化されてきた、小型センサがつくれるようになってきた、あるいは無線でつながるようになってきた、そういうような周辺状況の中から、人間にセンサをつける。つまり、複雑なものの中にちょっとした簡単なセンサをつけてやって、その情報を統合することによって人間の行動とか、意図とか、そういう少し難しいこともある程度把握できるのではないか。そういう期待を今非常に多くの情報関連の研究者が持っておりまして、それに関する研究が非常に進展をしております。今日はその話をさせていただきます。
 まず1つの行動を理解することの難しさなのですけれども、これはお手元の資料にはありませんが、ある国の実際の交通状況なのですけれども、私のテーマは、こういう運転者の行動をモデル化するというのが私のテーマなのですけれども、これはT字路になっていて、こういうトラフィックがある中で、こう曲がるわけです。信号もないところで、恐ろしいことにだれもぶつからずにこんなことができている。人間というのは自立的であるし、環境に適応するし、人それぞれやり方があるのですけれども、総体としては何か動きであるとか、何か意思が反映されたものが観測できる。そういうような非常に複雑な系を物理的にモデル化いたしまして、それを産業につなげていくというのが非常に大きなチャレンジであると考えられます。
 もちろんこういった研究は今非常に盛んに行われておりまして、枚挙にいとまがないと言っても過言ではないかと思います。例えば、これは装着センサを使ってメタボリック症候群の対策を、つまり、何を何分間ぐらい食べていたとか、何分間ぐらい動いていたとか、そういったことから健康情報を提供するということでつなげていこうという技術であります。これなどは装着型のセンサを使った一番よい例だと思います。それに対してもう一つのやり方が、家の中にたくさんセンサを仕込みまして、遠隔でその人を監視する。そういう技術の研究も盛んに行われていまして、これはなぜか日本よりはアメリカ、ヨーロッパのほうが一生懸命やっている感じがします。
 Aware HomeというのはアメリカのGeorgia Techでずっとやっているプロジェクトですけれども、いわゆる見守り技術をセンサを使って実現する。あるいはSpeechomeというMITがやっていますけれども、それは自分の家にたくさんセンサをつけて、子供の発達過程を完全に記録するとか、そういうふうなプロジェクトもあります。この2つは非常に対照的でありまして、非常に複雑な系の中にセンサを置いて、そのセンサが系に与える影響というのはあまり考えずに、とにかく上がってくる情報を使うというやり方。2番目のやり方は、センサを外に置いておきまして、系は系で自然に動かしておいて、それを非侵襲的にはかると、そういう考え方だと思います。
 いずれにしても、こういった研究はまだまだ萌芽期にありまして、特に多くの研究は、ちょっと辛口の言い方をすると個別システムのアドホックなアルゴリズム開発が主体になっておりまして、なかなか統合的な視点といいますか、特に複雑な人間の行動を数理的にモデル化するという視点がなかなか出てきていないというのが現状だと考えています。私どもの研究の例を少し話させていただきますと、これは、ある種の行動モデルというものをどういうふうな指針でつくっていかなくてはいけないかということを示す例です。これは車の運転なのですけれども、先行車との間の車間距離と速度というものを縦横に、これはいわゆるスタティックな量とダイナミックな量ですので、いわゆる相平面という平面に対応すると思うのですが、これを単純に観測した結果です。
 これが計測結果だとしたときに、ある種、物理的な理解の仕方をしようとすると、これは微分方程式なので、つまり、相平面の軌跡なので、微分方程式だからこうあるべきだと。この人はこれぐらい車間距離が離れたら、このぐらい加速する。そういう人であるべきだというようなものを1本の線に気持ちを込めるといいますか、そういうふうな形で理解しようとする。これが物理的な理解だと思うのですけれども、それに対して情報はちょっとセンスが違っていて、これはデータだと。たくさんデータがある。データがどんなふうに分布しているのかというのを分布関数をつくって見てみる。そうすると何かポンポンポンと幾つか島がある。ああ、この人は幾つかの状態を持っているねということがわかるわけです。状態があるということがすごく重要なことで、状態がたくさんあるということによって初めて複雑なものが説明できるということだと私は考えております。
 そういう意味で、情報と物理を結びつけるような、そういう発想、センスでこの領域は研究をしていかないとなかなか難しいのではないかというのが直感的に考えること。ここで情報論的な計測というような言葉で呼んでおりますけれども、ここは1つだけご注意いただきたいのは、たくさんのデータをとることによって計測精度は上がる、下がるという話があります。これはいわゆる計測誤差とか、そういった誤差はたくさんデータをとれば標準偏差というのはサンプル数のルートに比例して小さくなっていく。つまり、1回、1回の誤差というのはそれぞれ独立な誤差であって、そういうふうな計測誤差を仮定すれば、たくさん計測してここがだんだん小さくなっていく。でも、情報的計測というのはそうではない。どういうことかというと、もともと分布としてしかあらわれない。つまり、はかっているものは物ではなく現象です。その現象は確率現象であります。確率現象というものをはかったときに、それは一義に定めることはできない。むしろ、その分布の形をしていること自身が大事である。そういうのがいわゆる情報論的な計測だと私は考えておりまして、それをまとめると、ここに書いてあるとおりでありますが、計量に伴う不確定性というものは誤差や熱雑音、あるいは量子論的非決定性だけではなくて、そもそも確率事象として理解すべきこと、することが妥当な計量対象もあり得る。それは例えば人間の行動ではないかと考えているわけです。
 次の2つのOHPは、具体的にそれをやる方法が、例えばEMアルゴリズムとか、ベイジアンネットワークとか、そういったものがありますよという話でありまして、少し飛ばしていただきまして、その1つの非常にシンプルな具体例として私どもが取り組んでいる大規模な行動信号データベースを使って人間の気持ちを理解しようという研究を簡単に紹介させていただきたいと思います。これは私どもの大学でずっと取り組んでいるテーマですが、車にいろいろなセンサを取り付けまして実際の運転をはかる。このセンサの種類というのは、単に環境をはかるようなカメラだけではなくて、運転者の生理信号、これはいわゆる発汗とか、皮膚電位、それから、行動そのものです。どういうふうにペダルを踏んだとか、どういうふうにハンドルを回したとか、あるいは車の様子、そういったものもたくさんはかってやる。
 たくさんはかっているのですけれども、これはビデオになって、どういう状況になるかというラベルもついていまして、こういうふうなものがあるから状態に分けて研究ができるのですが、こういうような大規模なデータがあったときに、先ほどの確率の考え方を使って何ができるかというのが、ここに書いてあるものです。つまり、ドライバの状態というものをシステムとしてとらえることができるということです。ここでは具体的に運転者がイライラしているかどうかということがデータからはかれるかというお題を地元の企業からいただきまして、それに取り組んだ結果です。普通の観測だと、例えば生理状態、発汗を見て、あるいは脈拍を見てイライラしているかどうかを決めるというのが普通の計測のセンスだと思うのですけれども、この事例ではそうではありません。
 この人はこういうふうな環境の中で自分のある種の価値判断で状態を遷移させて、状態遷移の結果、行動も変われば、そういう生理状態も変わる。そういう全体のトータルなシステムとして、この人、あるいはその周りの状況を計測して、それをモデル化するべきであるというのが我々の主張でありまして、入力と出力と内部状態というふうな一般化の言葉もできると思うのですけれども、そういう形で人間を計測するということをしましたところ、これがその人がイライラした時系列です。それに対して先ほどの方法を使って未知のデータを当てはめて計算した時系列がこうなります。これを一列で、あるいは適合率は80パーセントぐらいの時間で大体適合している。ただし、9パーセントぐらいの誤報率があるという結果になりました。
 その値自身が何か実用的なものに使える値であるかどうかということについては、疑問はたくさんありますけれども、非常に大事なことは、これは単にこういった生理量だけを使ってこのシステムの同定をしたところ、その精度は50パーセント強であったと。つまり、システム化することによって30パーセントぐらいの性能改善が達成できている。これがやっぱりこれから人間とか、複雑な系について何かしていくときにたくさんデータを使って、そのデータの関係をラフでもいいから何か当てはめて、そしてほんとうに目で見えない、本当にはかることができないようなものでも相互関係から中身を理解できるのではないか。そういう新しい計測の考え方や、あるいは応用につながっていく1つのヒントになっているのではないかなと期待をしているわけです。
 最後に、ここから先は私の非常に個人的な思い入れなのですけれども、こういったたぐいのデータセントリックな研究をするためには、良質のデータベースがないとどうにもならない。我々の研究の強みもひとえに地道にデータを集め続けて、はや10年ぐらいなのですけれども、そこにある。こういう計測分野においても、ある程度標準的なデータベースのようなものは整備されて、それにのっとってセンサの精度なり、機器なり、あるいはシステムの性能なりというものを評価するということも大事ではないかなと私は個人的に強く考えています。
 よくご存じかもしれませんけれども、例えば米国のDARPAのような戦略研究基金ですと、まず研究領域を設定すると、その領域ごとにデータベースをつくる。つまり、これができたら成功だよと、そういう正解をデータの形で与える。そのデータを研究者に与えるとみんなグリーディーにやってどんどん性能が上がるわけですね。ここまで行ったらもういいよ、次はこのデータでやってごらんというのを延々、音声認識の場合にはこの20年繰り返して要素技術が発達してきたと、そういう歴史がありますので、いろいろ光も陰もあるやり方ですけれども、こういった考え方というのは計測技術を伸ばしていく上にもある程度ヒントになる部分があるのではないかなと考えます。
 最後に、我が国としてイニシアチブをとるべき分野。これは先ほどのご講演のほうに結論は譲りたいと思うのですけれども、ここでは単純に人間のような複雑なものを理解するのに当たって、どういうプラットフォーム上でそれが実現できれば、どういうふうな出口が考えられるかということを3点にまとめました。まず1つ、自動車とか、あるいは生産ロボットのような人間と機械が協調して労働する、何かをする、そういう協調系にアプライする。人間が何をしたいか、どうやってしたいかということがわかる。そういうふうな行動のモデル化の応用。自動車、これは目を見て眠いかどうかを判断する、そういうふうな技術なのですけれども、例えばこんなものです。
 2番目にあるのは、これはオムロンさんが、今、実は顔認識ではオムロンというのは世界的にトップシェアで、デジカメで顔を撮ると顔の名前が出てくるという技術が当たり前なのですけれども、そういうような比較的安いプラットフォームの上で実現する、組み込み技術として実現するようなパターン認識。あとは任天堂さんがやっていらっしゃるようなWiiのようなヘルスケアとか、エンターテインメントが合体したような、そういう世界。このあたりがやっぱり今の強みですので、伸ばしていくべき分野ではないかなと考えて、最終的に一応、これは皆さんともいろいろ相談をした結果なのですけれども、ここにあるような名前の領域を考えてはどうかなということでありまして、領域名を申し上げますと、大規模観測データの蓄積に立脚して複雑なシステムの内部状態を計測するシステムの開発。
 ですから、この対象は人間に限らず、今まではかることができなかったけれども、モデルとたくさんのデータがあれば推定はかなり精度よくできるようになる。そういうような計測技術の領域であります。概要としては大規模に蓄積された観測データを利用した統計的推論に立脚し、人間が経験に根差して下す評価・判断を機械的に模擬するパターン認識技術を応用することで、直接観測が不可能な複雑な対象の内部状態を計測するシステムを開発する。こういったところがご検討いただく最初の出発点の考え方ではないでしょうか。これがきょうの私のご提案であります。どうもありがとうございました。

【委員等】
 こういうデータベースをつくるとすると、英語ベースでしょうか。日本語ベースでしょうか。

【説明者】
 私どものデータベースは日本語です。ただ、言語の違いというのはありますが、人間の振る舞いという意味ではそんな大きな違いはないと考えています。

【委員等】
 オープンソースにしてだれでも自由に使えるようにするのかどうかという点はいかがでしょうか。

【説明者】
 国費で開発するのであれば、少なくとも5年間は国外には持ち出さないというぐらいの気持ちがあってもいいのかなと思いますが、いずれはだれでも使えるようにするということですね。国外、国内ではなくて、単にオープンソースかどうかということについては、段階があっていいのではないかなと思います。

【委員等】
 ものすごく使うためにはオープンにしたほうが使ってもらえますが、そうすると、せっかく開発したものが全部外国で活用されてしまうということになり得るわけです。ゲノムのデータベースではやっていて、日本はおくれているのでメリットがありますが、どうお考えかなと。

【説明者】
 やはり我が国の競争力という観点を第一に考えるべきだと思います。

【委員等】
 そういうデータベースは、センサスペシフィックになるのか。あるいは、データベースをつくることでセンサをつくるという格好になるのか。具体的なイメージがわかないので、ある環境でしか使えないデータベースになってしまうのか、もっと広く適用はできるデータベースになるのかという点はどうでしょうか。

【説明者】
 センサスペシフィックというのは、いろいろな信号処理で問題になる点でありまして、センサスペシフィックかどうかということをわかるためにも共通の計測対象がないとだめだと考えます。つまり、人間の行動みたいに非常にあやふやなものでも、はかる条件として概念的なものを提示し、それをいろいろなセンサでいろいろなはかり方をする。そうすると、最終的にどれがいいかということが議論の俎上にのるわけです。そこはきちんと整理して、何をとるかということを決めた上で、そのセンサのバラエティーを許す。しかし、同じものをはかっているはずなのに、これとこれが違うのはどういうことだということで技術が進んでいく。そういう整理ができると思います。

【主査】
 こういう課題で公募をかけた場合、どんな領域というか、どんな分野で応募が期待できるのでしょうか。

【説明者】
 ヒューマンセンサ信号処理とでも言うべき分野は、非常にたくさんの研究があります。例えば、お風呂場で倒れたときに倒れたことを検知するようなセンサをつくることも1つの出口として広げれば、センサ開発などたくさんの応募があると思います。もう少し学術的に抽象度を上げてモデル化などになると、たくさんの応募があるかどうかというのはわかりません。

【主査】
 本事業のプログラムでは要素技術開発、機器システム開発、ソフトウェア開発の3通りがありますが、まずは要素技術開発などを念頭に置くとどういうセンサを作り、データをとり統計的に処理して、それをソフトウェアに落とし込むというようなものが想定されるのでしょうか。

【説明者】
 どのようなものが要素技術として取り上げられてきたかわかりませんが、ソフトウェアの部分もありますし、要素技術でセンサと信号処理に分けてやるということもできると思いますが、一つのものとして何か具体的なことができる機能を持ったものとして定義したほうが開発効率はいいと思います。

【委員等】
 非常に重要な考え方や分野だと思いますが、通信がブロードバンド化され、双方向になってあがってきたデータからナレッジを抽出するというのは情報の中の1つの大きな課題になっていると思います。こういった形のテーマを計測分野でとらえるのか、情報分野でとらえるのか、悩ましいなという感じがします。
 例えば先程自動車のお話が出ましたが、建設用の機械なども自動車以上に通信にいろいろな情報を載せます。ログからいろいろな計測ができて、知識抽出ができて、フィードバックができる可能性がある。それはそれで、情報の分野でやっていて、その辺の切り分けというか、計測というところに軸足を置きつつ、こういうテーマを掲げるとしたら、どういう考えでやればいいでしょうか。

【説明者】
 情報の人たちが、記号化されたものをいろいろ組み合わせて知識や結果とするやり方については非常に疑問を持っています。本小委員会では、その仕組みととらえて物をはかるということが大前提だと思いますので、仕組みという観点が入っていない情報処理は、非常に弱いと思います。
 複雑なシステムとか、状態とかという言葉をあえて使ったのは、きちんと中のことがわかって、はかれているということが計測技術として定義できるようなフィールドがあれば一番好ましいと思います。ですから、テキストだけのWebの情報処理と人間の行動とは本質的に違って、そこには物理がちゃんと入っていないと、できることは非常に限られているはずだという、そこがみんな研究者たちの目に触れれば、応募はたくさんあるのかなという気はします。

【委員等】
 全般のお話は揺らぎというとらえ方ではないかと思います。これは恐らく複雑系の基本になるものです。これだけでも大変難しい分野ではないかと思います。質問は、名古屋大学というのは伊藤清先生を生んで確率過程論の世界のメッカになったところで、そういうマスマティックスの先生方とのコンタクトをとりながら研究を進めていらしたのでしょうか。

【説明者】
 私自身は残念ながらなくて、CRESTの領域などでも数学を使ってというのはあるのは存じ上げています。信号処理というのは、ある意味で数学を少し、微分というのを差分に置きかえるという操作をするだけで、その分野のオペレーションとか論理が簡単に実現できてしまうというところがあります。それがゆえに大規模なデータで検証したりとか、実装できたりする部分もあり、もちろんもとになる考え方とかクオリティーは非常に重要なものがたくさんあると理解していますが、あまり連続系の数学にこだわることで出てくるものの多さというものは難しいかと考えています。むしろ、物理をしっかりとらえた計測、情報計測するということが大事だと考えます。

【委員等】
 例えばものづくりの際に様々なトラブルが発生しますが、余りにも条件が多岐にわたるので原因がわからないというケースがほとんどです。そういうときに、いろいろなセンサからの情報が来て、しかしどれが正でどれがニセかは全くわからない。ですが、結果が正か正ではないということははっきりしている。そういう中で一体何がキーだったのか、何が支配因子だったのかというのを逆にさかのぼって見出すという。
 先ほどの自動車の運転の例で言えば、事故を起こしてはいけないという目的があって、そのために運転者のイライラを例えば判定しようとする。フィジカル・ミーニングはよくわかりませんが、センサAが感じて、Bが何か感ずると、その間を結びつけるフィジカル・ミーニングは全く無視しても統計学的に何か連関がある。そういうことがきちんとできる統計学的な、あるいは学問的な考え方がきちっとした方法論というのができてくるとすごくいいなと思いましたね。

【説明者】
 多分、今まさにデータマイニングとか、そういうふうな考え方で研究が本当に進んでいる領域なのかなと思いました。やはりモデルを仮定することすら難しいというような、そういう複雑なものもたくさんあるため、そういったものには、直近ではやはり有効だろうと思います。

【委員等】
 もし公募ということで考えていくのであれば、そういう方法論を構築するということで、具体的な形としてはソフトウェアというものを最終的な成果物として具体化していくという公募の仕方があるかなと思います。

【委員等】
 この領域の機器開発なのか、要素技術なのかという議論があって、先ほどのご講演とも少し関連すると思いますが、何か領域を設定したときにブレークダウンして、要素もソフトウェアもその領域に関連する提案を受けつけるような、何かそこをエンカレッジするようなやり方もあるのではないかと思いました。
 本小委員会はボトムアップ的な発想で、こういういいものが出てきたからこれをどう育てていこうというものと、ストラテジーがあって、この縦糸とどうするかということで、そこのところが多分うまく結びつきにくいのだろうと思います。先ほどのお話に非常に同感しているのですが、その辺をうまく整合していくのに、せっかくいろいろな可能性のあり得る領域、ご提案は、そういうソフトにも、要素にも何か使えるような公募をかけられるようなことができたらいいかなと少し思いました。

【主査】
 ご指摘のとおり、もう少し目的志向で総合的なテーマを掲げて、それに貢献できる要素技術やソフトウェアをあわせて公募する方法もあるのではないかというご提案ですね。確かにそういう段階になりつつあるという感じを受けます。

【委員等】
 1点加えると、それらがその次のプロトタイプにバージョンアップしていくときに、統合されていくようなことができれば非常に意義があるのではないでしょうか。

【主査】
 それでは、 (3)知財に関する件についてお願いいたします。

【事務局】
 本事業は、プロトタイプの開発、実証・実用化の開発まで視野に入れたプログラムである以上は、その研究成果をいかに経済、社会に還元するかという観点で、製品化しやすい枠組みとして、運営する必要があると考えています。
 総合科学技術会議から21年度概算要求時に「テーマ数も多くなってきており、本施策の方向性を再整理することを期待する」「海外や強い分野、日本がイニシアチブをとるべき分野の選択と集中が重要」という指摘と、「産業界との一層の協力、協働体制が必要である」と指摘を受けたところで、これら両方の指摘につきまして、この開発成果の知財管理が円滑な製品化につながる仕組みになることが、両方にこたえる運営体制の改善となるのではということで事務局のほうで整理いたしました。
 まず、2ページをごらんいただきまして、今、一般的に指摘されている話といたしまして、技術の高度専門化、複雑化に伴って、自前主義による研究開発には限界が出てきている。そしてまた、日本はアメリカのバイ・ドール法を参考に、これは産業技術力強化法に入っている規定ですけれども、政府資金を供与して行うすべての委託研究開発に係る知的財産については、契約により100パーセント受託者に帰属することができるとされており、実務上ほぼすべてのものが受託者の帰属財産となっているわけであります。
 この状況につきまして、その問題点、課題について最近はいくつか指摘されているところでございます。1点目は、複数の要素技術により構成される機器の開発などにおいては、知財の囲い込みや散在などにより、知財を集めてくることによる取引費用、交渉費用がかかり、標準化や円滑な製品化が阻害され得るのではないかという問題点。また、相互に所有する技術を提供し合って新たな先端計測分析機器の開発を進めることを可能にするような枠組みも必要ではないか。これはオープン・イノベーションの議論だと思います。
 また、一般的に弊課は産学官連携も担当しておりますもので、大学等が所有する特許の利用率を向上させるような仕組みといったことも必要ではないかと考えています。 そうしますと、今後の研究開発の姿として、オープン・イノベーションに対応した研究開発支援スキームをご検討いただくべきではないかと整理したわけです。具体的に本事業については、知的財産の取り扱いといたしまして、クローズド・モデルの知的財産戦略とオープン・モデルの知的財産戦略を組み合わせて、パテントプールの形成などによって知財の活用、標準化を促進するような枠組みが、これは製品開発を目指す研究プログラムとしては必要なのではないかというのが問題提起でございます。
 本件につついては、この研究成果を活用する産業界があるため、その意向を踏まえて調整する必要があるとは存じます。本日、ある程度調整を終えたものをご提案できたらよかったのですが、まだ未調整でございます。ただ、現時点で伺っているところでは、「計測機器については家電と違って原理、方式、データフォーマットが製品競争力の最大の源泉であるため、標準化、パテントプールなどが難しい」というご指摘がある一方で、他方で「分析装置では装置の性能評価、トレーサビリティーなどの標準化などを考えればパテントプールはあり得る」といった議論と両方あるようで、分析機器工業会のような業界団体さんとももう少し議論をしてみようと思っています。
 3ページ目は本事業の特許の出願状況でございます。JSTとも相談しているところですが、出願された特許が他の特許と組み合わせないと難しいものであるかどうかといった他の技術との関連性について分析がまだできていません。こちらは今後宿題にさせていただけたらと思います。
 今申し上げたような問題意識については、既に政府としてもかなり推進するような方向性が出ています。例えば4ページのところで第3期科学技術基本計画におきましても、標準化への積極的な対応の必要性や、それが研究開発計画の中の知財戦略のみならず、標準化戦略も位置づけ取り組むべきだとか、知的財産戦略本部の第3期の知的財産戦略の基本方針の中にも、社会的ニーズの高い標準技術に関する特許発明を円滑に実施可能とする方策について、パテントプール化した場合の知財権の運用ルールの整備などというところの必要性が指定されています。
 それから、知的財産戦略本部が策定した国際標準化総合戦略の中でも、これまで標準化によるビジネスへの影響が薄いと考えられた分野においても国際標準化への積極的取り組みが必要になっている。研究開発の最前線で標準化が行われる時代となり、標準化戦略と研究開発戦略、知的財産戦略と切り離して考えることができなくなったなどといった問題認識が示されております。こういった状況を踏まえまして提案させていただいたのが、ただいまの資料でございます。
 以上でございます。

【委員等】
 極めてプラクティカルなことですが、今実施している実証・実用化というのは製品化に直結していて、この分野はお2人の開発総括、いずれも半導体トップと、それから、鉄鋼トップをやられた方が開発総括で、ここに来て急速に特許に対する指導が大きく変わってきた。非常に大事だと思うのは、Patent Cooperation Treaty 、PCTという英語で特許申請を出すことをできるだけ積極的に現場はお願いしています。
 ところが、大学のほうは依然として日本語で出す。そして、特許出願を出して審査請求のところまで行かないうちに何が起こったかというと、中国が翻訳をして中国で特許申請を出す。2通りの翻訳をやっているのですが、1つは正確に中国語に訳したもの。もう1つは肝心なところを変えたもの。それで、どちらを使ったかというと、特許申請には変えたほうがあがったのだけれども、実際に特許に記録されているのは日本語そのままにきれいに訳したものになっている。事業化顧問や開発総括の方々の指導で、PCTで対応するようにということをJSTは現場ではそういう指導をしています。一度こういう関係もここでご検討いただけたらありがたいと思っています。

【事務局】
 特許の申請に当たってのサポートはJST事業でもございます。活用方策が必要であればまたこれから検討してまいりたいと思います。他方、今、テクニカルな翻訳の点でございますけれども、実は難しい部分もありまして、特許制度の趣旨からしますと、特許は当該発明の技術情報を完全に公開することを条件として、その技術の実施についての独占権を付与するものでありますので、一方で日本の特許広報をコピーして翻訳して技術が流出しているとかいう話はいろいろ聞きますが難しい問題であります。

【委員等】
 ただ違うのは、英語で出していれば、これはある程度防げるもので、それは非常に大事だなと。

【事務局】
 いろいろな議論があるのですが、特許を取るという時点で、例えば日本の特許だけを取得すれば、特許独立の原則で国内しか有効ではないため、その翻訳に熱心な国が翻訳をして技術情報を取得することは可能で、その国で特許が取られていなければ、その技術についての権利は主張できないということになります。そういう観点からすると、やはり国際的な特許取得自体は必要で、その取得に当たっては、できるだけ権利をしっかり確保するように取るということになるのだと思います。ただ、いろいろな戦略があると思うので、またJSTとも相談をして、国際的な視野からの問題点がどういったところにあるかというのは勉強させていただきたいと思っています。

【委員等】
 JSTもバイ・ドールの状況の中で、どういうふうにこれから大学の知財を支援していくか戦略的に取り組んでいくということが重要であると考えました。それで、21年度に知的財産戦略センターをJSTの中につくり、例えば大学や産業界の特許等、国内外、関連する分野について特許マップをつくる等のことを取り組み始めております。また、パテントプール、この科学技術コモンズ、そういうものにこれからどう取り組んでいくのかという検討もしつつあるところでございます。
 一方、話に出ましたように海外特許支援という現業的なことも実施していますので、そういう戦略と実際の現業的な業務をうまく結びつけながら取り組んでいこうとしているところでございます。あと、もしご要望があれば、私ども今取り組んでいる内容等、ご説明をさせていただければと思います。

【主査】
 本件は継続して検討する課題ということにさせていただきます。 

(4)知的基盤整備計画の進捗状況等について

【事務局】
 本小委員会の親会に当たる知的基盤整備委員会の第2回を9月15日に開催したところですが、現在、知的基盤整備委員会でどのような議論が行われているか申し上げますと、参考資料2の議題のところにございますとおり、1つが知的基盤整備計画。これは平成13年に策定された計画があり、2010年時点での知的基盤整備の水準を欧米並みに引き上げるという目標でつくられた計画でありまして、それに対する現状のフォローアップ調査が1つあります。それから、その現状を踏まえ、今後、2010年以降の知的基盤整備のあり方、今後の方向性について現在ご議論をいただいている状況でございます。
 この委員会との関係では、資料1の4ページ目のところに計測方法・計測機器というのがありまして、もともと知的基盤整備計画の中の知的基盤の1つの柱として、この計測方法・計測機器が入っています。資料1の中に知的基盤整備計画を踏まえたフォローアップの状況ということで、今年の7月に関係各府省庁等を通してフォローアップ調査を行った結果をとりまとめたものになります。
 それから資料4の中の9ページ目に知的基盤の効率的な整備・利用を促進するための体制構築という話があります。この中にも計測方法、それから、機器等に関する話を入れてあります。これまでの状況等について記載と、今後とるべき方向性というのをたたき台という形で事務局のほうで示して、今、知的基盤整備委員会のほうで議論しているところであります。
 基本的には、親会で計測機器、方法だけでなく、全体的に今後どうしていくべきかということをご議論いただいておりますが、親委員会として検討を進めていくべき内容があれば、適宜この小委員会の中でもお願いすることもあると思います。また、本小委員会としても特に上の委員会で議論していただきたいというような点があれば、今後反映させていきたいと思っています。
 あともう一つ大事な点が、現在進めている知的基盤計画のフォローアップと議論のスケジュールですが、11月までに、今後、具体的に整備計画、あるいは整備のあり方について検討するに当たって、その必要となる項目、あるいは課題、その洗い出しを行っています。11月までにその取りまとめを行い、さらにその上の技術研究基盤部会のほうにご報告をするという予定になっています。実際にそれを踏まえて現在の知的基盤整備計画の次の計画、あるいは次の検討を行うのはもう少し時期としては後になりまして、第4期の科学技術基本計画ができる再来年の3月、そのあたりをターゲットとして、例えば来年の今ぐらいの時期から具体的にどうすべきか、新しい計画をつくっていくべきなのか、あるいは具体的にどういう計画をつくっていくかという検討を始めるという方向で、現在としてはスケジュールを組んでいます。当面11月までを目途として、これまでの現状を踏まえた今後の検討すべき事項の洗い出しというのをやっている状況でございます。
 簡単ではございますが、以上です。

【主査】
 実はこの件につきましては、今年度中にある程度のまとめをして、第4期の科学技術基本計画の言うならば方向性の中に位置づけることになります。5年ごとにまとめております整備計画については、本小委員会にあまり正確にご報告していませんが、この機会に、この参考資料2、これを一度ごらんいただき、本小委員会からの意見をお出しいただければ大変ありがたいと思います。
 実は親委員会の場で議論していますが、本小委員会は計測機器に関する点については一番関係の深い委員会になるため皆様にご意見を承りたいと思います。事務局からメールで照会してもらいご意見を提出していただきたいと思います。

【事務局】
 事務的にご連絡を差し上げて、ある程度意見が上がりましたら、主査のほうにご相談を申し上げて、上の委員会のほうにどういう形で上げるかというご相談をさせていただきたいと思います。

【主査】
 5年計画の文言は、本小委員会の事業を推進するために今までも重要な役割を果たしてきました。これからもそのような役割を担うものと期待しています。

お問合せ先

研究振興局基盤研究課