先端計測分析技術・機器開発小委員会(第13回) 議事録

1.日時

平成18年8月4日(金曜日) 10時~12時20分

2.場所

文部科学省ビル 10階 研究振興局会議室

3.出席者

委員

 二瓶委員、北澤委員、近藤委員、志水委員、田中委員、中村委員、原委員、松尾委員、森川委員

文部科学省

 藤木大臣官房審議官、佐野研究環境・産業連携課長、堀内研究環境・産業連携課研究成果展開企画官、上田研究環境・産業連携課課長補佐

オブザーバー

 本河独立行政法人科学技術振興機構開発総括、相馬独立行政法人科学技術振興機構先端計測技術推進室長
(説明者)
 瀬田東京農工大学客員教授
 橋本新日本製鐵株式会社技術開発本部フェロー、先端技術研究所長
 清水株式会社島津製作所経営戦略室次世代医療事業推進グループ専門部長
 松田株式会社堀場製作所開発センター部長

4.議事録

(1)平成19年度開発領域設定に関するプレゼンテーションについて

 東京農工大学大学院 技術経営研究科 客員教授 瀬田 重敏氏

 先端計測分析機器開発に関する「死の谷を越える知恵」ということでお話をさせていただきたい。
 話の焦点として3つの点を挙げたい。1つは産業界、特に化学産業がどのような技術を求めていくのか。2つ目に、開発した先端計測分析技術がなかなか産業利用に結びつかないのはなぜか。3番目に、日本発でありながら国内ではなかなか受け入れられずアメリカで開花してきたのはなぜかである。
 産業界が求めている技術について、産業界に答えを求めるのは実は非常に難しい。理由は2つ。「欲しいが言えない。」と「欲しいものが分からない。」
 「欲しいが言えない。」というのは、何を求めているかが競合相手に分かってしまうということである。出した情報が採択されるとは限らず、また、出した情報が外国に流れて外国で資金がかけられて実現し、結果的にわが国は競合に敗れる。この理が日本ではなかなか理解されない。
 「欲しいものが分からない。」というのは、ニーズがないわけではなく、ものが出てきて初めて我々が欲しかったものだと分かるということである。実はこのことも案外理解され考慮されていない。
 あえて産業界が欲しいものを言えと言われれば、1つは、現実の実用条件のもとでリアルタイムに起きていることを観察できる技術である。2つ目は、高度装置で分かることを日常管理に使えるような新原理である。3番目は、ナノ超微細加工で、加工の過程と結果を非破壊でリアルタイムに見ることができる技術である。
 3番目の例として、燃料電池の場合を挙げると、劣化状態のin-situの状態観察がある。開発の過程で白金をどんどん減らしていくと劣化状態が問題となる。また白金から他の材料に切り替えると、常識を超える新しい測定技術が必要になる。燃料電池でも新しい計測装置が求められている。
 ただ、ニーズを求めるのは全てではない。マーケットインと簡単に言うが、実は先に出口を決めて、出口のニーズを満たす技術原理を新規に求めるのはなかなか実を結ばない、むしろ、産業側がニーズを明らかにして相談にきた場合に候補となる原理が用意でき、そこから、機器開発を進めるのが正道なのではないか。自動車メーカーはまさにそういう手を使っている。
 今後、今のシステムをもう少し続け、採択されたテーマの実用化を真剣になって展開してほしい。不採択のテーマのうち、出口が説明できなくても原理として興味深いような提案があれば、再検討していただきたい。
 2番目に、なかなか産業利用に結びつかない点で、ここにも先端計測分析機器開発の死の谷がある。いかなる先端性や有用性を備えたアイデアでも、産業化の前に必ず死の谷が存在する。この死の谷を越える努力が、先端計測分析機器開発に一番求められている。
 3番目に、日本発の技術が日本で受け入れられずアメリカで開花する原因については、死の谷の認識と克服、我が国分析機器メーカーのジレンマ、つまり開発費と得られる利益のバランスがよいかどうかである。それから、開発におけるリードタイムが必ず必要である。こういうことを今総力を挙げて考えるべきではないか。
 先端計測分析機器ニーズはさらに深刻化している。3年前よりも状況は深刻になっている。この機器開発は絶対に継続されなければならない。
 死の谷を越えるのは場と知恵と時間だと思うが、死の谷を越える工夫はマーケティングなしにあり得ない。潜在ユーザーの掘り起こし、あるいは潜在ユーザーの利用を助ける、そして時間と忍耐で進めていく。
 最初から黒字というのはほとんどなく、成功事例の多くも一時期は地面をはうような苦労をしている。したがって、先端計測分析機器開発では、理解と交流と実績づくりの場を考えていかなければいけないのではないか。また、コーディネーターの役割が非常に大きいのではないか。さらに、実績作りの時間と支援が要るのではないか。
 3年前のシンポジウムで、私はプロトタイプセンターを提案した。国家資金が投入され、産業利用の方へ行こうとするが落とされて研究の途中で終わる。企業における研究開発はみんなそうである。これを改善するため、死の谷を越える知恵として、「場」とコーディネーターと応用例の積み上げを作り、そこの情報をニーズとして戻すのである。
 機器のニーズあるいはウォンツもあり、原理が開発され、マシンが組み立てられるが、その後うまくいかない。そこで、プロトタイプを作り、使い勝手や応用例を積み上げ、それをバックアップしていくような「場」を作ればビジネスに入っていく道がより拓けていくのではないか。
 「場」は今やどの世界でもブレイクスルー発祥の場として活用され認識されている。自動車メーカーでもこういう場を一生懸命作ろうとしている。
 まとめとして、わが国自前先端計測分析機器技術開発の希求は3年前よりもさらに深刻化しており、世界に雄飛するものづくりへの支援としての先端計測分析機器の意義は非常に大きいものがある。そして、死の谷を越える知恵、「場」と知恵と忍耐。日本発の先端技術が日本で受け入れられずアメリカで開花することにどうやって対応していくのかを総力を挙げて考える時期にある。

【委員等】
 最後の日本で受け入れられずアメリカで開花するという点であるが、アメリカの開花させる場というのは一体どういう仕組みで、そこから学ぶことはないのかといったことについてお聞きしたい。

【委員等】
 まさにそのとおりであり、今この段階でもう1回考え直すことが必要である。

【委員等】
 ナノ微細加工についてであるが、電子ビームリソグラフィーの最先端の技術について、原理の最初のアイデアは東大で、日本メーカーが技術も作って、アメリカの企業で開花している。クラスタービームテクノロジーについては、原子構造クラスタービームテクノロジーという委員会を立ち上げ、日本の専門家を集め3年間で新しい方向を見出そうと今動いている。もう1つ、コーディネーターの活用が非常に大事だという話があったが、同感である。

【委員等】
 最近SPring-8を非常に活発に使うようになった会社がたくさんあるが、そこにコーディネーターがいたために、ようやくここまで使えるようになったという人が結構いる。どうしていいか分からないという悩みをうまく解決してくれているようである。非常に大事だと思う。

【主査】
 コーディネーターは大事であるが、場がなければ働きようがない。ポイントはプロトタイプセンターである。プロトタイプセンターは、このプログラムの初期にすでにかなりはっきりと認識していた。ただ、具体的にどう作るかというところまで詰めて議論はしていない。この時点でプロトタイプセンターの機能をどう実現するか議論することは非常に大事である。

【委員等】
 死の谷の話があったが、新しいことをやろうとするとどこでも起こっているような気がするが、経営者側とプロジェクトをやっている側、両方に課題があると思っている。
 1つは、経営者側がどこまでそれを理解し、その人を評価するシステムも含め長期的な展望を持たないといけない。経営者側には「長期的に会社を経営する」というポリシーが必要である。もう1つは、開発者側がそれをビジネスも含めてどう説得し経営者に理解させるかが重要である。プレゼンテーションの仕方も含め、いかに魅了させるようなプレゼンをするかである。
 残念ながら、確かに両方まだ欠けているところもある。例えば自動車計測などでも、初めは日本で作って認められず、アメリカで採用されて初めてそれが日本の会社に認められるという例はいくらでもある。また、会社でも、韓国とか台湾は彼らの責任でやってしまうが、「日本はアイデアを出せ」と言うばかりで、それを実行するというリスクテーキングがとれずどんどん遅れていってしまう。

【委員等】
 そういうことをぜひ議論したい。
 時間軸に対して、開発コストの軸をとると、プロトタイプを完成版に持ってくるときに随分お金がかかる。大体でき上がったところで場を作るのではなくて、もっと早い段階で場を作った方が早く進む。

【委員等】
 最初に考えた人の熱意やそれに共感できる志、あるいは開発者の自信がないと後に続かない。そういうときに、周りからのサポートがない、日本人は褒めるのが下手ということなどいろいろな問題点があり、そのうちどれが一番ボトルネックになるのか、そういうことを解決しなければいけないのではないか。

(2)平成19年度開発領域設定に関するプレゼンテーションについて

 新日本製鐵株式会社技術開発本部フェロー、先端技術研究所長 橋本 操氏

 ものづくりについて鉄鋼を例に簡単にご説明した上で期待を述べさせていただきたい。
 鉄鋼はニーズに対応するため非常にいろいろな商品を作っている。常に新しい商品を生み出すため研究開発が必要となる。例えば自動車では高強鋼が求められており、その理由は、自動車を軽くして燃費をよくするためと、構造材としてお客様の安全を確保するためであり、高強度化自体が重要なニーズである。
 もう1つは、強度は高いが加工しやすい鋼材を作らなければいけない。例えば、強度は高いが伸びも高いという鋼材を開発する場合、加工によってオーステナイトがマルテンサイトに変態するという仕掛けを鉄鋼材料の中にどうやって入れ込めばよいのか、きちんと働いているのかを分析した上で、その仕組みを入れなくてはいけない。
 鉄鋼は世界で年間10億トン以上生産し、大きな製鉄所だと年間1,000万トン程度製造している。大型高炉だと1日1万トンの鋼材をつくる。また最近では、製鉄所は、廃棄物処理とそれからエネルギーを生み出す役割も担っている。分別回収されたプラスチックの行き先の1つが製鉄所である。もう1つは副生水素の活用で、コークス炉から水素が出るため、将来の水素社会に向け、製鉄所自体が水素の供給基地になるよう研究開発を進めている。
 研究開発の視点からの期待として、1つはナノレベルの分析技術がある。原理・原則からの材料開発として、三次元アトムプローブを含め、原子レベルに戻って初めてメタラジーの原理が分かるということで取り組んでいる。
 ただ最終的には、例えば自動車は安全で構造材としてお客様のニーズに応えるものができているかどうかである。原理は原子レベルにあるが、材料組織としての階層がいくつもあり、それぞれの階層をいかに全体として把握できるかが非常に重要である。
 また最近、資源インフラということで鉄鉱石、石炭を含め非常に高騰しており、悪い資源をどうやってうまく使っていくかというときに、分子レベルの解析が必要である。
 マクロの問題を解決するため、原子レベルの三次元での究極的な分析を含めさまざまな階層で解析すべき点があるが、ナノからマクロの間にはどうしても不連続性がある。これは1つの学術領域、マルチスケール解析としてブレイクスルーが必要である。
 また、製造において材料はどんどん形を変えていくが、その変化を予測して作り方を提案するためには、プロセスについて必ず時間変化の予測が必要になる。
 ナノ解析はスナップショットが多く、大きなスケールでようやく変化が見えてくる。三次元アトムプローブを含め、例えば原子レベルで材料を作り込むが、こうなったときにどうなるかという、ナノで動的な部分のフィールドがまだできておらず、この部分がフロンティアだと思う。
 ものづくりの現場についてであるが、時々刻々と変化する材料を作り込んでいく中で、原子レベルで解析しつつ、目で見えるスケールで作るというギャップがあり、それがものづくりの分析技術としての特徴となる。
 そういった意味で、研究開発の視点からは、まず動的観察がある。また、原子レベルで解析できるとモンテカルロシミュレーションや第一原理計算を使って原子の動きを予測できるなど、今は原子レベルの計算がそのまま分析で実証できる。動的観察はどうしても難しく、こういう計算科学などを連携させできるだけワイドレンジでも見ていく必要がある。
 製造現場の視点であるが、製鋼は1チャージ300トン程度作る。ここで成分を間違えると全部だめになる。そういった意味で、製造現場では1分1秒の分析時間が非常に生命になる。
 鉄鋼業界で作っているロードマップの分析関係には、いずれも迅速というキーワードが入っている。ものづくりの現場は放っておいても流れていくが、その中でトラブルをいかに迅速に発見して品質を安定させるかは、1分、1秒の世界である。そういう意味で、オンライン、リアルタイムでの分析が必要である。作っているもの全ての情報を我々が知っているわけではないが、できるだけものづくりの可視化を進展させることが期待される。もう1つはスキルフリー・モバイル分析で、ものづくりをする人自身が必要なところで分析し、その分析結果をできるだけ早く製造プロセスへフィードバックすることが必要である。最後に、環境規制がそのまま製造の最大値を決めているケースもあり、環境調和型の分析機器や、環境そのものの計測もやらなければいけない。

【主査】
 マクロではある程度ダイナミック計測ができるが、ナノ領域のダイナミック計測の例を何か挙げていただけるとありがたい。

【委員等】
 自動車のタイヤに使われているスチールコードは、非常に高級素材が求められる。セメンタイトという硬いものと軟らかい鉄の複合材料である。これをいかに極限まで細かくできるかである。例えば細かくすると強度が変わり、作っている間に壊れていく。壊れていく様子を見たいということと、壊れていく様子を見ながら壊れないようにするためにはどうしたらいいのかについて取り組んでいる。リアルタイムかどうかは別として、どのように変化していくのかを捉えられれば、いろいろと対策も練れるし、開発の次の方向性を決めることができる。

【委員等】
 新日鐵は先端計測機器のトップランナーだった。アトムプローブは、学会で全然取り上げられていない20何年前にもう既にやっていた。SIMSや超高圧電顕、EPMAも最初で、学会の人間が見学に行って、先端機器を見せてもらい勉強した。標準試料を作り鉄鋼部会で公表してくれてもいた。この企業の果たした役割はすごかった。
 今の分析を支えているのは半導体ではなく、鉄鋼である。

【主査】
 複数の業界がある程度の基金を作って、先ほどの瀬田先生のご提案のプロトタイプセンターを支えるような組織ができないかと思っている。国のお金に全部頼るわけにはいかない。何が出るか分からないものに、業界としてご協力いただくという仕組みができないかという感想を持った。

【委員等】
 新しい分析機器ができたら、私ども機器ユーザーはできるだけ早い段階で使ってみたい。我々も我々のユーザーと共同でお互いに入り込んで取り組んでいる。分析機器メーカーの開発においても、国家プロジェクトも含めできるだけ我々機器ユーザーも入れていただきたい。

【委員等】
 環境への配慮についてであるが、生産現場における環境への配慮ということか、それとも一般の広い場所の環境か。

【委員等】
 一義的には製造現場にかかわる環境である。

【委員等】
 実際作業されている方への健康への影響ということか。

【委員等】
 もちろんそれもあるが、環境規制をクリアするために、今の状態をきっちり把握する、という意味での環境である。

(3)平成19年度開発領域設定に関するプレゼンテーションについて

 株式会社島津製作所経営戦略室 次世代医療事業推進グループ専門部長 清水公治氏

 少子高齢化、これに伴うがんの死亡率の上昇や認知症患者の増加などを背景に、医療のニーズとして疾患の超早期診断がある。これは治療から予防、予知へのシフトであり、万が一病気になった場合でも、診断と治療を一体化してより効率的な医療を行うという大きな目標が立てられている。こうした超早期診断では、バイオと医療が融合して大きな変革が起ころうとしている。
 バイオ領域では、DNAからたんぱく質、さらに細胞へと対象がより高次化、複雑化している。一方で、医療機器の進歩で、臓器レベルから組織、さらに細胞レベルへと診断目標が移っており、この融合領域、特に分子イメージングの分野が注目されている。特に米国は分子イメージングに非常に力を入れている。まさに国民、社会ニーズのみならず、研究者ニーズとしても高いものがある。
 分子イメージングでは、例えば小動物の遺伝子の発現を光やPETでイメージングできる。こうした遺伝子発現などの分子、細胞レベルの情報をin vivoで画像化する技術が分子イメージングでポストゲノムの中で現在もっとも注目されている。これを応用することで、がんやアルツハイマー病の超早期診断が現実のものとなってきている。
 こうした分野では、部位・疾患特異的なマーカーを見つけることが非常に大事である。それが見つかれば、それを標識化して画像化するための分子プローブの開発が必要となる。それで初めて分子、細胞レベルの情報を画像化することができる。
 分子や細胞レベルをイメージングする機器は、空間分解能、感度、定量性、使い勝手の良さなどが必要になってくる。例えばMRIは形態情報に非常に優れているが、分子情報を得るところは少し弱いなど、それぞれの機器によって特徴がある。
 分子イメージングの有力なモダリティであるPETの高度化ではTime-of-flightの手法の導入などが挙げられる。これには僅かな時間差を取り込むための非常に高速なデバイス技術が重要になってくる。ガンマ線を光に変え、その光を受けるセンサー、さらにそれを超高速でタイミングの検出を行う回路がある。数万個のセンサーが備えられているため高集積で取り込む必要もある。極めて高速な電子回路を組み込んだPET検出器は、位置情報の絞込みや、偶発同時計数の低減が可能で、大幅なS/Nの向上が十分に期待できる。
 光計測も分子イメージングで注目されている。光は深いところの計測がなかなか難しいのが問題である。近赤外光を使うと比較的深いところが見える。このため、光の特性をうまく利用したいろいろな計測機器が作られている。しかし、生体イメージングに適切な光源や光検出器が十分に用意されていないことが大きなネックとなっている。
 MRIは少し視点を変えたものである。NMRは高分解能スペクトロスコピー、さらに3次元的な生体高分子の構造解析のためのスペクトロスコピーに進んでいったが、NMRからMRIへの発想の転換が非常に大きなトピックとしてある。本来、水という不要なピークを使ってそれを画像化する、この発想の転換が画期的な計測機器を生んだ。こうした発想の転換も融合領域では大きなポイントになる。
 分子イメージングでは、単に計測機器だけでなく、見たいものを映し出すための分子プローブの開発が不可欠である。また、対象を標識する場合、ナノ技術が非常に大事になってくる。高感度、高分解能のイメージング技術がこれらと一体となって初めて技術が大きく進むという点で、非常に魅力的な融合分野である。
 今回ご提案するのは、予知・予防を含めた超早期診断を実現するため、分子・細胞レベルの機能変化を画像化する計測装置の開発であるが、複数の先端計測機器を融合させることでも新しい装置が生まれる。このときに、特定分野に特化した素子開発を行えば、世界でも突出した性能を持った計測・分析の可能性が開けるのではないか。

【委員等】
 日本の分析機器がなかなか進展しないという声があるが、その観点から見た場合、何が足りないと考えられるか。

【委員等】
 先進技術をいかにレベルアップしていくかがポイントだと思う。

【委員等】
 例えば、レベルの高いユーザーが日本にはいないとか、日本で産学連携をやろうとしてもうまくいかないとか、企業そのものの予算が足りないとか、何がネックなのかをさらに言っていただくとありがたい。

【委員等】
 医療機器の分野では、有力な研究機関が海外の装置を競って購入し、国産を使っていただけないことが、非常に大きなネックであった。ただここ数年、文部科学省や経済産業省はこういったプログラムを含め国産による研究を推進していただいている。また、この分子イメージングについては、現在非常にいい関係が作られつつある。文部科学省では分子イメージングの拠点が作られ、経済産業省、厚生労働省でもマッチングファンドを立ち上げておられ、この分野の企業と大学との連携も比較的うまくいきつつある。これをさらに強化することが重要と考えている。

【委員等】
 もう1点お聞きしたいが、国際調達がネックになったりしてはいないか。かつては外国製品を買えと言われ日本製品が買えなかったことがずいぶんあったが。

【委員等】
 以前はそうだったと思うが、今はその感じは大分減ってきている。

【委員等】
 しかし、国際調達しなければならない。

【委員等】
 もちろんそれはフェアな競争としてあるべきだと思う。

【委員等】
 そのときに、スペックが合えば一番安いのを買わざるを得ないが、日本はコスト高で、そういったことで日本製品が徐々に締め出されているというふうにお思いにならないか。

【委員等】
 医療機器については、価格面よりはむしろ性能差で締め出され追いつくのが難しい状況がある。分析機器の場合は、価格が別の問題としてあるのかも知れない。

【委員等】
 日本の会社は、スペックの記述がある意味では良心的でコンサバティブだと思う。海外の会社のスペックは保証値というよりはチャンピオンデータの値を載せているところが多く見受けられので、カタログスペックだけで購入を決めると、本当の実力を間違ってしまい、日本の装置はコストパフォーマンスとして不利に判断される場合がある。

【委員等】
 製造の現場ではスキルフリーが必要だということであるが、医療用の場合、ユーザーに対してどの程度使い勝手を良くする必要があるか、使い勝手による波及の違いが存在しているのかをお伺いしたい。

【委員等】
 今までは研究用の医療機器はかなり経験を積んで習得しなければ使えなかったが、今や一般の臨床機器と同じように使い勝手の良さが求められるようになってきている。研究用の医療機器関係についても、使い勝手の良さについては大きなポイントになってくる。

【委員等】
 日本では、お金の問題やボランティアが集まらないなど、治験がうまくいかないという話がある。それと似たようなことがバイオマーカー検査にも言えると思う。こういうものが最終的に健康、長寿などに役立つということを国民に十分理解していただけるようにしないと、バイオマーカー検査を実際に医療に役立てる際にボトルネックになるのではないかと思う。やはり協力者があらわれないと非常に難しい点があり、日本でもできることだと思うが、そういう協力についてどう思われるかお聞きしたい。

【委員等】
 プローブは診断薬の領域で、現在の国内の規制の状態では非常に難しい。製薬メーカーや診断薬メーカーが二の足を踏んでいるというのは実態だと思う。こういったところをいかに規制緩和するかが非常に重要である。ただ幸いにして、例えばPETの場合、ガンマ線を検出できれば対象は何でもよく、現在使われているFDGというプローブがそのままでも使える。プローブの開発は将来を見すえた高度化にはなるが、並行して画期的な高感度な装置を作り上げることも可能だ。

【委員等】
 イメージングが大事なのは分かるが、肝心のディテクターについて果たして日本に開発力があるか疑問である。既にアメリカはX線などで日本よりも2桁程度大きな大口径のものを開発している。日本では予算をつけてもできないのではないか。
 もう1つは、画像処理について、ディテクターの中に処理機能を持ったような次世代のものについて、日本は全然手をつけていない。アメリカはNIHが動いている。
 最後に、高速信号伝送を行うためのソフトがない。非常に大事だという話はいろいろと聞くが、この委員会でどのようにしてそのニーズに応えればいいのか非常に悩む。日本は作るメーカーはなくソフトについては全く遅れている。これで、アメリカにディテクターを押さえられ学習機能も持たせられたら、X線の医療は全部アメリカに押さえられ大変なことになる。

【委員等】
 そういった傾向はあるが全てそうではない。国産技術の使えるところで、ある分野で、ある機能ということであれば十分にやっていける。PETのディテクターも全て海外でやっているわけではなく、放射線医学総合研究所の新しい検出方法が使えるし、まだまだ国産は捨てたものではない。

【委員等】
 大きなストラテジーが抜けていないかを心配している。

【委員等】
 それはまた別の次元の話として必要になってくる。

【主査】
 医療分野は少々高くてもいいものができれば売れるというメリットを生かすべき。もう少し日本のポリシーとして大きくものを考えていただきたい。千円単位で商売しているところと、億の単位で商売しているところでは大きな違いがある。担当に近い方はぜひ戦略的にお考えいただきたい。

【委員等】
 医療とは全然違う例えば加速器関係の分野で、いかに大容量のデータを高速で対応させるかということを一生懸命研究している人がいる。そのため、全然違う分野の技術を機器開発がうまく取り込んでいけるようにする必要がある。

【委員等】
 確かに日本では多数センサーのタイミングをとったりしている頭のいい人たちが非常にたくさんいる。企業がその人たちの協力を得る手はあるのか。例えば、PETなどの業界はどうなのか。

【委員等】
 実際に、高エネ関係の先生方がこうした技術を医療に普及したいと志向されている。まだまだ製品にはなっていないが、今後非常に期待されるのではないか。特に、こうした先端的な分野は有望領域であり、例えば化学の研究者と一緒になって作っていくところもあるので、そうした可能性は十分にある。

【主査】
 ぜひ、その方向でご検討いただきたい。非常に大事なお役目だと思う。

【事務局の発言】
 PETに使うフォトマルにタイムレスポンスの非常に早いものを、東大の高エネルギーの先生がこのプログラムでやっている。

【委員等】
 今後そういう新しいところが伸びていくことを期待している。

(4)平成19年度開発領域設定に関するプレゼンテーションについて

 株式会社堀場製作所開発センター部長 松田耕一郎氏

 今日は、2つのポイントでお話しさせていただきたい。1つは、日本分析機器工業会の市場調査について、もう1つは、ナノテクの動きについてお話しする。
 昨年日本分析機器工業会で次世代の分析システムに必要となるシステム化技術に関して、全国の800種の研究所、大学等に対しアンケートを実施した。その結果、全国の研究所や大学はナノテクに非常に興味を持っておられることが分かった。次いで環境関係、食品関係という順序である。
 工業材料は、ナノテク、半導体、セラミック等ナノテク関連が70パーセント近くを占めている。ナノテクは恐らく21世紀のキーテクノロジーとしてますます大きくなってくるだろう。一方で、米国等で安全性を訴えており、開発にブレーキをかける可能性があり、非常にハンドリングが難しい状況である。
 半導体は70ナノメートルを切っている状況であり、問題が起こってくると思われる。
 その際、単一電子トランジスタを使い全く異質のトランジスタを作ることは非常に大事なことだと思う。ディスプレイもブラウン管のように電子銃をカーボンナノチューブで1個1個作っていく。ただ違いはブラウン管のように大きくはなく低電圧で動作する。
 一方でナノテクの国際標準化が動いているが、今までのISOとかTCとは違い、個々の分野ではなく本格的な横串を入れるというISOである。このISOが本当に機能しないと、世の中は良くなっていかないだろう。用語の命名、計測・計量、安全・健康の分科会がある。第2回が今年6月に東京で開催され、今回はナノ物質の中で日本が得意なカーボンナノチューブにターゲットを当てようということになった。多層のカーボンナノチューブを日本が取りまとめ、単層のカーボンナノチューブをアメリカが取りまとめることになっている。
 これを受け日本でカーボンナノチューブの標準化委員会がスタートしたが、ISOの会議もアメリカと日本の熾烈な戦いが始まることが予測される。
 特にカーボンのグラフェンシートの切り方によって、金属になったり半導体になる。3つの構造があるが、3分の1だけ作ることはできないのが課題である。
 分析計は現在多くあるが、カーボンナノチューブの計測の問題点は、カーボンナノチューブ1本の物理特性を評価したいが、1本の物理的な物性は測定が困難である。これが今後我々の分析機器メーカーにとって一番問題となる大きなテーマではないか。この1本が一番大事である。実際、絶対に導体でないと困る場合もありコントロールする必要がある。また分子1本でどれだけ強度があるかという測定が求められている。
 製造現場で立派な装置を使うのは非常に難しい。簡単な装置で性質を知りたいという要望も非常に強い。そこで、立派な装置でデータを構築するとともに、非常に簡単な吸収ベクトルを測り、出来たデータベースを用いて、例えばカーボンナノチューブの直径が1.2ナノメートルだと1,000以下というように、データの蓄積に基づき現場でスペクトル解析を行うようなシステム構築が必要である。これが産業界への1つの方向性である。もう1つの方向性は、バルクの特性と1本の特性は必ずしも一致しないので、1本の分子の特性を測ることが大事である。その特性を知ることなくして、新しい物質開発は無理である。実際に1本のカーボンナノチューブの抵抗を測った事例がある。
 まとめとして、1つは、単一分子の性質をはかる装置が必要であり、もう1つは、現場で使える装置が必要である。メーカーと、アカデミアとユーザーと中立者が連携し、日本がリーダーシップを発揮し、国際標準、将来は、グローバルスタンダードの構築へ向かう必要がある。

(5)平成19年度開発領域の選定について

【委員等】
 前回、今回とお話を伺って一番印象に残ったのは、異分野のテクノロジーと融合してブレイクスルーを目指すという観点であり、そういう視点が必要ではないか。

【委員等】
 総合科学技術会議で分析計測をものづくりとつなげるという話があり、ものづくりという今までと違った観点で考えれば何か新規性が出るということを重視するならば、「マクロレベルのダイナミック計測」や「リアルタイム測定」という考え方もあると思う。実際にものづくりに役立っているのは他にも大なり小なりあると思う。

【委員等】
 「分子レベルのダイナミック計測」の具体的イメージが湧かない。他と比べて具体的にどのようにやるかという形が見えない。

【主査】
 ミクロな領域のダイナミック計測というのは極めて難しく、次世代の研究ターゲットとして非常に重要だというご発表があったが、確かに具体的な研究テーマが見えてこないと実際に応募が集まりにくい。しかし、例えば界面の状態や燃料電池の電極表面などスタティックには今までもやられているが、ダイナミックに責める方法をもっと精力的に検討してほしいというお話だったと思う。

【委員等】
 ダイナミックでなおかつナノ計測というのは、例えば電極反応を行いながらSTMで計測するという実例がある。超微細のデバイスを作り、その中に電流を流して実際に作動させたときに、そこでの磁場分布が干渉型電子顕微鏡で測るとどうなるのか、どこにどれだけの電流が流れているのか測定しており、例がないわけではない。
 それと、プロトタイプセンターという言葉が印象に残ったが、アメリカには戦略調達という考え方があり、実用化まではいかないがこのぐらいの性能が出れば買うという調達の形がある。日本ではなかなかできないが、プロトタイプセンターというのは、もしかするとそれに近い論理づけをもった概念ではないかと思う。

【主査】
 アメリカでできてなぜ日本でできないのか。何か、法規制的な点があるのか、あるいは工夫が足りないのか、そろそろ踏み込むべきタイミングだと思う。

【委員等】
 このプログラムでもある種のファンディングを行い、例えば業界からのファンディングで消費センターを作るということもあり得るのではないか。

【主査】
 JSTの研究開発戦略センターでもう少ししっかりとした調査を行いレポートにまとめていただけると、相当インパクトがあるのではないか。

【委員等】
 アメリカのNASA(ナサ)や国防省の調達の際には、必ずメーカーに2つ出す。そして1台が研究所に入ったら一切外部との情報交換を遮断する。しかし装置の改良やスペックの向上は全部メーカーに残されている装置で行う。1つは、ARAのSIMSで、アポロ計画の際に1台はNASA(ナサ)に入ったがもう1台はARAに置き商品化した。もう1つは国防省が発注したTOF-SIMSで、1台は国防省に入ったがもう1台あり商品化した。どちらもベストセラーである。政府調達のおかげでそういうビジネスが立ち上がっていく。日本でも戦略的にメーカーも非常にリスクが少なく、自分たちが納めたものをさらに改良できるようなことをお願いしたい。

【委員等】
 キーワードはダイナミック計測とリアルタイム測定であり、分子レベルかマクロレベルかは別にして「分子レベルのダイナミック計測」、「マクロレベルのダイナミック計測」、「リアルタイム測定」の3つが非常に重要だと思う。「生体イメージング」、「単一分子の性質測定」は今回は外してもいいのではないか。
 ただ、1つ気になるのは「次世代工場における座標計測センサ」で、大きな工場のシステムの中での総体的な小ささということで、そこを何かテーマとしてもう少し練り上げたらいいと思う。

【委員等】
 印象に残ったのは、「出口が説明できないという理由で落とされたものがあるのではないか」という話で、プロトタイプセンターの話と繋がっていると思うが、出口がうまく説明できないが、いい技術を拾い上げるようなところが欲しいと感じた。

【主査】
 要素技術はそのような観点を既に含んでいる。今のご指摘は機器開発でも、ということか。

【委員等】
 機器開発でも、今はうまく説明できないかもしれないが技術力にベースをおいた提案を拾い上げたい。

【委員等】
 「次世代工場における座標計測センサ」であるが、工程を分析、計測、診断し、予知して要望につなげるという1つの流れがあるため、座標計測センサを含めもう少し大きなとらえ方をすれば、重要になってくるテーマである。
 また、その基礎となるのがリアルタイムで、高速化し、大量のデータを分析し、価値ある診断につなげるのがソフトウェアである。「次世代工場における座標計測センサ」とうまく組み合わせられないかと感じている。

【委員等】
 製造業の研究開発の現場でものづくりの観点から申し上げると、ワイドレンジの観察とリアルタイムの重要性を常々に感じている。特に、ワイドレンジの観察は重要である。現在、原子レベルにて観察する技術は飛躍的に進歩したが、それらは一般に観察領域が狭いため、不均一状態を扱うことが多いものづくりの現場では原子レベルの観察を広範囲に渡って網羅的に行う必要が出ている。このため、ワイドレンジ観察についての研究開発を促進できるようご検討いただきたい。
 もう1つ、ダイナミック計測の中に、ナノ・マクロ同時観察が入っているが、ダイナミック計測とは分けた方が良いのではないか。

【事務局の発言】
 現在もう既に45のテーマが走っているが、来年あたりから徐々に終了に近づきプロトタイプが出来てくる。そのあとそのプロトタイプをどうするかというのも考えていただきたい。プロトタイプを作っておしまいではなく、それから先が大事である。
 プロトタイプセンターや戦略調達という概念で、次に産業として育てていくところをお考えいただきたい。
 お金が伴うか伴わないか分からないが、何かそういう枠組みを作る必要がある。5年で完全なものが決してできるわけではなく、プロトタイプが1つできて終わってしまっては元も子もない。

【主査】
 その仕組みづくりを今のタイミングですべきだというご指摘である。

【委員等】
 このプロジェクトは、いいものはもっと伸ばし、そうでないものはターミネイトするということでスタートしている。評価のやり方によっていろいろな方法がある。ただ伸ばす課題と切る課題があり、途中で立ちどまった課題があるのでは、ということが気になっている。プロトタイプセンターという構想はなるほどと思う。

【主査】
 大事なのは、そういう枠組みを準備するというメッセージが大事で、現場の研究者はメッセージがあれば、また次の局面を考えられる。

【委員等】
 JSTの委託開発では5年で開発する。その後、成功認定をするのだが、成功認定したものが売れるとは限らない、売れるのはそのうちの2割である。あとの8割は成功したが企業としては売り出さないというのがある。技術的には成功したというのは、もしかするとプロトタイプに近いのかなと思う。それを今度どのように評価し、例えば企業が売り出せないのならどうするか、開発した企業が技術を持っているため他社が乗り出せず、むしろ妨害してしまう。しかも国が絡んでいる。今回の場合もそういうことが随分あるのかもしれない。

【委員等】
 開発開始の段階で、最初からビジネスを含んだ形で成功とするのか、技術的に非常におもしろいから取組んでみるのかによって違ってくる。特に予算として産業化しましょうという大前提のときは、ビジネスとして成功する範疇で提案する必要がある。

【主査】
 いよいよいろいろな大事な検討課題が制度的な意味で出てきた。

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